おじさん、異世界冒険を配信するってよ   作:影薄燕

37 / 44
閑話 スイーツバイキング

 

 

――たかふみです。

――これは配信を始めた年の12月に入ってすぐ。

――SE〇Aから頼まれた仕事ももう少しで終わるというところまできて、終わりが見えてきたからこそ報酬のお金がどれだけ手元に来るのか現実的に考えてニヤニヤしたり、最後までキチンとクオリティを維持して終わらそうと自分を追い込んでいた時期。

――遊びに来ていた藤宮に心配そうな顔をされながら、作業の手を止めなかった日のこと。

 

 

「良し。SE〇A本社との連絡も済ませたし、ラストスパートだ。がんばれ俺! これが終わればスパチャとは別の収入が入ってウハウハだぞ!」

 

「俗物だなー。気持ちは分かるけど。……それはそうと、ちょっと自分を追い込みすぎてねぇか? 顔に疲れが出てるぞ?」

 

「そう? いや、だって……俺は全体の監督と編集をする立場だから、責任があるし。俺の指示でおじさん動かして、SE〇Aの担当者とも連携取ったり……疲れるのは仕方ないって言うか」

 

「それでもだよ。そもそもYouT〇beに動画上げて、配信始めて大人気になって、それと並行してSE〇Aからの依頼だろ。普通の奴だってパンクしちまうって。生活豊かになって今まさに我が世の春状態だから感覚麻痺ってるだけで、1度リフレッシュしないと」

 

「…………そんなに疲れてるように見える?」

 

「幼なじみ舐めんな」

 

「そっかー(シュン)」

 

「マジメな話、だ。ラストスパートだからこそ体を壊したら……だろ? 1日でもいいからおじさんと一緒に羽目を外してこいよ。日帰り温泉とか、レジャー施設とか、金持ちの今なら懐も問題ないし」

 

「……うん。分かった。藤宮がそこまで言うなら俺、明日にでもおじさんと仕事忘れてどっか行ってみるよ」

 

「よろしい」

 

「藤宮もどう? お金掛かっちゃうようならいくらか出すし。俺とおじさんだけっていうのも花がないからさ?」

 

「ええぇ!?(マジ? おじさんも一緒とはいえ、それ実質デートみたいなもんじゃ!? いや、これはチャンス! 私にとって絶好の機会!)」

 

「藤宮に予定があるようなr――」

 

無いぞ。全然予定無い。明日だってOKだ」

 

「そ、そう」

 

「(――ガチャ)ただいまー」

 

「おかえりおじさん」

 

「お邪魔してまーす」

 

「藤宮さんこんにちは。――なぁなぁ聞いてくれよたかふみ! さっき買い物帰りに商店街の福引きしてみたら2等が当たったんだ♪ 2等だぞ2等。1等の次に豪華な景品ってことだぞ? テッシュ以外が当たったの初めてだからもう嬉しくってさー♪」

 

「え!? 本当? どれどれ!」

 

「わー! おめでとうございます、おじさん!」

 

「いやーそれほどでもー♪ ……まぁ、俺たちに需要あるかは別問題なんだけどな」

 

「「?」」

 

「当たったのがさ、コレなんだよ」

 

「これは――」

 

「……スイーツバイキングの無料券?」

 

「あ、私これ知ってる。どっかのホテルで開催されているってテレビで紹介してた。宿泊客じゃなくても利用できて、女性に大人気だとか」

 

「へー」

 

「うん。藤宮さんの言うとおりでな、福引きの人からも説明受けたんだけど……そうなると俺は行きにくいというか……」

 

「え!? 何でですか、おじさんが当てたのに……」

 

「だって、ほら、お客って女性ばかりなんだろ? 若くもない俺が行っても場違い感があるというか、居心地悪そうな気がして……」

 

「「あー」」

 

「だから、せっかくなら日頃のお礼も兼ねて藤宮さんに貰ってもらおうかなーって。たかふみと一緒に行っていいし、何なら千秋くんも誘ってさ。3人まで利用できるみたいだから」

 

「わ、悪いですよおじさん抜きでそんな!?」

 

「でもせっかく当てた2等を使わないのも勿体ないし」

 

「……ねぇ、おじさん。大事なこと忘れてない?」

 

「何をだ?」

 

「おじさん、ツンデレさんに変身できるでしょ」

 

「そうですよ! エルフさんに変身すれば私たち3人で行けますって!」

 

「考えなかったわけじゃないんだ。恐竜映画を見に行った時*1みたいにエルフに変身すれば、内面も引っぱられてスイーツを楽しみながら食べれるんじゃないかって」

 

「だったら」

 

「知名度の問題なんだよ藤宮さん。あの時と違って、エルフの姿でスイーツバイキングに行ったら間違いなく注目される。……藤宮さんと変身状態のたかふみも」

 

「それは……マズいよな?」

 

「写真や動画は認識阻害で何とかなるけど、ネットで話題になること間違いなしだよな……。俺の外行き用の顔も使えなくなるかもだし、藤宮が注目されるのはダメだ。それだけは絶対に」

 

「……」

 

「そういうわけで俺のことは気にしなくていいから」

 

「行きましょう。3人でスイーツバイキング……!!」

 

「「えっ!?」」

 

「ホテル周辺のことも今すぐ調べて、その日1日をおじさんとたかふみ、ついでに私のリフレッシュに当てるんです!」

 

「でも、それじゃ藤宮さんが」

 

「覚悟出来てるんで」

 

「え~」

 

「がんばれば3人で楽しめるのに、1人だけ省くとか私は嫌です」

 

「藤宮……」

 

「それに、全く策がないわけじゃない」

 

「そうなのか?」

 

「策ってどんな……」

 

『赤信号みんなで渡れば怖くない』って言葉……知ってます?」

 

 

――その後、藤宮から聞いた策はまさかのものだった。

――正直心配ではある。ある、が……

――俺もおじさんだけ置いて自分たちだけでスイーツを食べるのは……なんか嫌だった。ある意味、藤宮の提案は渡りに船だった。

――おじさんが福引きで当てたのに、当の本人がそこにいないんじゃ……美味しいスイーツを美味しく食べられない。俺も覚悟決めよ。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

――ザワザワ……

 

 

「え? あれって……」

 

「マジ? 本気と書いてのマジ!?」

 

「わっ♪ わっ♪ すっごい。リアルで初めて見た!」

 

「キタコレーーー! シャッターチャンス!」

 

「ぎゃーーー!!? 心霊現象!?」

 

「なぁ、声掛けようぜ声! サインとかさ!」

 

「自分、有名人が眼鏡掛けてお忍びする展開が好き侍。義によって助太刀いたす!」

 

「突撃したい勢と見守るべき勢の攻防とかクソワロw」

 

 

――某日某所。

――リフレッシュ休日を満喫するため俺、おじさん、藤宮の3人は目的地のホテルへ向かうため都会の街中を歩いていた。予約が取れてラッキーだった。

――もちろん変装してだが、今日はいつもの外行き用フェイスじゃない。そのため、周りの注目を集めまくってる。

――パーカー姿の金髪超絶美人エルフなツンデレさん(おじさん)。

――Yシャツズボン姿で質量兵器を胸に隠したアリシアさん(俺)。

 

――そして、

 

 

「ていうか、エルフさんはたぶん異世界おじさんなんだよな?」

 

「言葉にすると意味不明な件」

 

「じゃああの2人(・・・・)は何?」

 

「う~ん……格好的にアリシアさんが同居人じゃね? 勘だけど」

 

「脳がバグりそう」

 

「だったら――あのメイベルちゃんは誰なの???」

 

「【速報】謎の3人目【どなた?】――投稿っと」

 

 

 

「ううぅ……覚悟してたはずだけど、注目されすぎて恥ずかしい」

 

 

 

――オシャレな冬用ニットワンピースを着たメイベルさん(藤宮)。

――以上、3人の眼鏡外国美女が街を歩けばそりゃ注目されるよな……。特にメイベルさんの髪色って大分目立つから。

 

 

「大丈夫か藤宮さん? さすがに今、元に戻すのは難しいんだけど。“代わり”もいないし」

 

「問題ありません。これも3人でスイーツを食べるためです」

 

「無理そうなら言ってね」

 

「本当に大丈夫なんだよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「メイベルさんに変身したせいかなー? さっきから他人の目線が想定より恥ずかしいし、“家に帰ってゴロゴロしたい”って気持ちが湧き上がってくるんだよぉ」

 

「変身先の問題だったかー」

 

「今、語尾がちょっとメイベルさん本人っぽかったね」

 

「マジで!? うわー、気をしっかり持たなきゃだなー」

 

「これが禁忌の理由なんだ」

 

「早く目的のホテルに行こうか」

 

「だな。注目されること自体は想定内だから、変身解いた後の別の着替えとかおじさんの『収納魔法』に入れてあるし、凡ミスしなければ問題ないだろ」

 

「藤宮さんの口調でメイベルが喋ると違和感すごいなー」

 

「ちゃんと予定表は作ってあるよ。スイーツバイキングを楽しんだらトイレかどっかで着替えて俺たちは外行き用のフェイスに、藤宮は元の顔に戻して日帰り温泉を楽しむ。バスや電車の情報もバッチリ」

 

「遠足の前日とか思い出したなー」

 

「分かる~懐かしい~」

 

「……私も意識するよう心掛けるけど、2人も人格に影響出ないよう気を付けるんだぞ」

 

「「分かってるよ~♪(ウインク)」」

 

「思いっきり影響受けてるじゃねぇか」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「――はい、確認が取れましたので指定時間までは無料で飲食可能です。当ホテルのスイーツバイキングをお楽しみください。お困りのことがございましたら近くのスタッフへお気軽にどうぞ」

 

「はいー。ありがとうございまーっす」

 

「あの、私事ではあるのですが……」

 

「?」

 

「『異世界おじさん』のチャンネル登録しているファンです。これからもがんばってください」

 

「――!? ありがとうございます!!」

 

「嬉しそうだねおじさん」

 

「スイさんって呼べよアリシア。もしくは私らにだけ聞こえるぐらいの小声」

 

「さぁ、さぁ! 2人とも、待ちに待ったスイーツバイキングだぞ!」

 

「「イエーイ!」」

 

「――で、どういう風にすればいいんだっけ? き、昨日こういうところでのバイキングのルール覚えたのに緊張でど忘れしちゃったぞ……!」

 

「そこの壁に簡単な説明してあるから読んでおこうね」

 

「私が先にスイーツ取るんでおじさんもそれに倣ってください」

 

 

 

「わ、わぁ~~。オシャレなケーキやお菓子がいっぱい……」

 

「こういうところにあるのって、名前言われても分からないもんばっかだよね」

 

「お♪ このフルーツタルト美味そう~。も~らい」

 

「ふじ――メイベル、もうバイキングの雰囲気に慣れて数々のスイーツを! よ、よ~し。俺――じゃなくて私もこのカップのを……」

 

「お――スイさんはそのスイーツ禁止ね」

 

「何でだよ!?」

 

「それってシロップと一緒にラム酒も少し入ってるから」

 

「ラムシュ? え? ゲームのキャラか何か???」

 

「お酒のことだよ」

 

「マジで!? お菓子にお酒が入ってるの……!!?」

 

 

 

「「「美味しい~~~♡」」」

 

「ミルフィーユがサクサクしてる~♪」

 

「普通のお店で売ってるのはフォークで食べようとしても上手くいかないけど、これは“サクッ”といくから綺麗に食べれるね」

 

「この、くそ、美味しいのに……2人みたいに綺麗に食べれない……!」

 

「不器用」

 

「逆に“らしい”と思うよ」

 

「……そうだ、フォークの切れ味が悪いから上手くいかないんだ。確か龍も殺せる良い切れ味の短剣が(収納魔法の)中に――」

 

「ストーップ!! スイさん、ダメだから! ミルフィーユは素人が綺麗に食べられなくても恥ずかしいものじゃないから!」

 

「つーか絶対ソレって、下にあるお皿ごと両断できるのとかだろ」

 

 

 

「キャアアアアアアアアアアアっ!?」

 

「ここ来てしばらく経つけど、たまに聞こえる悲鳴はなんだろうな?」

 

「マナーの悪い人がたまに混じってるんですよ。もしくは出来心で私たちのことを写真や動画で隠し撮りしようとしたのが」

 

「今日は認識阻害してる精霊が大忙しだろうね」

 

「また何か要求されませんか?」

 

「事前に今日のことは言っておいたし問題ないだろ」

 

「それでも帰ったらお礼しておいてね。ちゃんと確認するから」

 

「そこは本気でしっかりしてください。私、嫌ですよ? 人類滅亡の理由が精霊へのお礼のし忘れが原因とか」

 

「お客様、少々よろしいでしょうか」

 

「あ、受付の人」

 

「どうかしました?」

 

「実は……(耳元ゴニョゴニョ)」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「受付の人、何だって?(ヒソヒソ)」

 

「SNSとかで俺たちがこのホテルに入ったって情報がたくさん投稿されてるみたいでさ。ホテルの入り口とかに人が集まってるんだって。写真や動画は誤魔化せるけど、それ以外はどうしようもないから」

 

「本当だ。Twit〇erでも超話題になってる。うわ、何気に私が目立ってるな」

 

「さすがに関係ない人の出入りは制限してるみたい。だから、もしも帰りにくいと思ったらスタッフ用の裏口使ってもいいって。有名人が来たとき用のマニュアルがあるんだってさ」

 

「本来の予定なら帰る時にトイレに入ってそれぞれ着替えて、一時的に透明化の魔法を掛けてからコッソリ出て行く予定だったけど、人が集まって密集してたらマズいかもなー」

 

「俺、もう一回さっきの人に話聞いてくるよ」

 

「じゃあ私、ちょっとホテルの入り口がどうなってるか覗いていきます」

 

「俺は――」

 

「まだ食べかけのがあるでしょ。それでも食べてて」

 

「私らは十分食べましたから」

 

「そっかー(シュン)」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「うっわ。マジで人いっぱいいるじゃん。警備の人お疲れ様です。こりゃー裏口使わせてもらわないとダメかもなー」

 

 ギリギリホテルの入り口が見える場所から顔を出して確認した藤宮(メイベル)は呆れたように息を吐く。

 今いるホテルはそこそこ高級な所なので、事前に予約したホテルの利用者かスイーツバイキングを楽しみに来た客しか入れないのだが、『異世界おじさん』のドラマに出演()しているスイ、メイベル、アリシアの3人が揃ってお出かけしている事実はそれほど衝撃だったらしい。警備員が注意しているのにカメラを構えている人までいる。心霊現象で無駄になるのに。

 

 実は前々から「〇〇でエルフさん役の女性を見た!」といったウソ情報がネットに流れることはたびたびあったのだが、大半が“釣り”だと相手にしなかった。しかし、今回は複数の目撃情報が同時に上がったことで信憑性が増し、マナーの悪い野次馬たちを呼び寄せることとなったのだが、それをおじさんたちが知るのは翌日のことである。

 

「とりあえずおじさんたちに報告しとくか」

 

 

――ドン

 

 

「キャっ」

 

「ん? あぁゴメン。君、大丈夫?」

 

 と、ここで急いで戻ろうとした藤宮は振り向きざまに男とぶつかる。

 実は珍しい髪色に引かれた男の方が藤宮に近づきすぎたため起こった衝突であるが、少し赤くなった鼻をおさえる藤宮は気付かない。

 

「うぇっ!? は、はい(ホストっぽい感じのイケメンだなー。ちょっとチャラそう。ホテルに泊まっている人か?)」

 

「…………」

 

「あのー?」

 

 ここで普通にお互いに謝って終わり……となれば問題なかった、が。

 男の方は藤宮の顔を――正確には変身先のメイベルの顔を食い入るように見続けた。見とれるにしても失礼で、何より視線に嫌な光があった。

 

「んんっ、染めてるようだけどとても君に似合った髪色だよ。美しい」

 

「ありがとうございます……?」

 

「それに君自身も綺麗だ。正直、見とれてしまった」

 

「はぁ……(キ、キザって~。ホストかよ)」

 

 厄介なのに捕まってしまったと、心の中で頭を抱える藤宮。

 すでにこの時点で目の前の男が『異世界おじさん』のことをほぼ知らないことが確定した。

 今や世界中で有名になった『異世界おじさんチャンネル』であるが、だからといって日本人全員が知っているわけでもない。本当に興味のない人は興味がないままであるし、目の前の男の場合、テレビなどでメイベルの姿を見る機会がたまたまなかったのだ。

 

 そうなると、今の藤宮はただの髪を大胆に染めた外国美女ということになり――

 

「実は俺、こういう者なんだけど。どうだい? この後お茶でも。俺が奢るよ」

 

「遠慮します(本当にホストかよ! つーか、ナンパされてるのか私!?)」

 

 男が無駄に格好付けて見せてきた名刺には、ホストクラブの店名と男の名前と顔写真が記載されていた。

 

「夜には俺が働く店に来なよ。最高の一時を過ごさせてみせるからさ」

 

「遠・慮・し・ま・す!」

 

「そう言わずにさー」

 

 どんどん強引になっていく男に身を強ばらせる藤宮。

 メイベルになっている影響か他人にグイグイ来られると恐怖感が増してしまう。

 

 実はこの男、働いている店からもたびたび注意されている問題児だったりする

 近年は風営法も厳しくなり様々なことが昔のようにいかなくなったが、男は昔ながらのホストに憧れた口であり、接客でもグレーな行いがあるので同僚からも良く思われてなかった。それでも顔は良いので貢ぐ女性はそれなりの数おり、今回は店からも明確に禁止とされている営業時間外での接待(・・・・・・・・・)として昨日の夜から女性とホテルの一室を借りて楽しんでいたのだ。

 

 なまじ顔に自信があり、是非ともモノ(・・)にしたいと思うほどの美女が目の前にいる。しかも、押せば勢いがどんどん弱くなるときた。モラルをどこかで落とした男にとって狙わない理由がなく、その頭の中には自分に都合がいい未来しか浮かんでいない。

 

(助けておじさん。助けてたかふみ……!)

 

 男がもう少しだと勝手に思い、“壁ドン”をしようとして――

 

 

「あ、いたいた! こんな所にいたのか心配したよー♪」

 

 

 笑顔で手を上げる……しかし、全く目が笑っていないたかふみ(アリシア)が声を掛けてきた。

 

「ちょ――おまっ……!?」

 

「お♪ 君、この子の知り合いなの?」

 

「えぇ、そうなんです♪ 一緒にお出かけしてたんですよねー♪」

 

 男は新たな美女の登場に気を良くする。

 ……一般人であればその目を見た瞬間に逃走を選ぶほどの“圧”に気付かず。

 

「実はお茶に誘っててさー? 良かったら君もご一緒にどうだい?」

 

「お兄さんがエスコートしてくれるんですかー?」

 

「そうそう。俺、ホストだからその辺得意なんだよねぇ」

 

「実はもう1人お友達と来ていて~、すっごい美人なんですけど奥手で~、その子も一緒に楽しめる方法があるんですよ~♪」

 

「マ、マジ? どんな?」

 

「お耳を拝借~」

 

「うんうん」

 

 男は3人目の美女の存在を匂わされ、たかふみの方へと警戒することなく頭を近づけ――

 

 

――ガッ!!

 

 

 頭をガッシリ掴まれた。

 

「え?」

 

「身長差があるからどうやって頭掴もうか考えたんだ。……単細胞で助かったよ」

 

「あの、お嬢さん……?」

 

 

『イキュラス・キュオラ』

 

 

「がっっっ!!?」

 

 憐れ。調子に乗ったホスト男は記憶を消されて倒れた。

 ちなみに、加減などは考えなかったので十数時間分の記憶が一変に消えてしまっているが、怒り心頭のたかふみは気付いていない。

 

「ふぅ~……大丈夫?」

 

「ふ、ふぇ~~~ん! たかふみ~~~!!」

 

「ほらほら藤宮、メイベルさんの性格がまた出ているよ?」

 

 危機が去ったことに安堵した途端、メイベルの人格部分が出てしまったのか泣きながらアリシアボディの胸部装甲に抱きつく藤宮。

 

「ぐすっ。どうしてここに?」

 

「入り口を見に行っただけにしては帰りが遅い気がしたから。嫌な予感もしたんで見に行ったら、チャラい男に絡まれてたから、ね」

 

「無茶しやがって」

 

「藤宮のためならいくらだって無茶できるよ」

 

「…………バカ」

 

 藤宮は自分の顔が赤くなるのを感じてアリシアボディの胸元に顔を埋める。

 

「あの、そろそろ離れて……」

 

「うっせー、バ~~~ッカ」

 

 離れるなどできるはずがない。

 嬉しさでニヤけた口元など見せられないのだから。

 

 結局、藤宮が離れることができたのは1分もしてからだった。

 

「それで? 何であんなに顔見せなかったのさ? アリシアさんの胸に顔埋めるのそんなに良かった?」

 

「女に理由を聞くのは格好悪いぞ」

 

「ゴメン」

 

「だけど……」

 

「?」

 

「助けてくれた時のたかふみは……最高に格好良かったよ」

 

「……ふふ、この姿だと格好いいより可愛いの方が先にきそうだけどね」

 

「それな」

 

「じゃ、戻ろうか」

 

「手!」

 

「うん?」

 

「また何かあるといけないし、一緒に行くならしっかり握るぐらいしろ」

 

「……よろこんで」

 

 2人は手を繋いでバイキング会場へ戻る。

 体こそ違うが、たかふみの体温を感じながら藤宮は手を握り返す。

 胸の鼓動が心地よく、ずっとこの時間が続けばいいのにと考えてしまう。

 

覚悟しとけよな

 

「何か言った?」

 

「ううん。何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たかふみも藤宮さんも遅いなー?(モグモグ)」

 

 尚、一向に来る気配のない2人を待ち続けたおじさんは、追加のケーキを食べ始めていた。

*1
原作34話




 ケーキ屋で売っていた「サバラン」っていう洋酒を使う菓子が中学時代から好きでしたが、そのケーキ屋も不況の波か潰れて何年も食べてないんですよねー。

 というわけで、閑話でした。
 原作では“まだ”ですが、たぶんどっかで藤宮さん(もしくは大穴で沢江さん?)が変身魔法でメイベルになる展開はありえそうと考えたときに思いついた話です。実はT教頭出した時にはすでに頭の中にあった。

【余談】
・休日を満喫した藤宮は翌日からやけにぐーだら過ごしたいと思うようになった。実際、数日ほどダラダラ過ごしていたら家族から心配された。
・記憶消去を喰らった男は中途半端に記憶を無くした結果、証拠隠滅などがおざなりになり、ホテルでの密会など様々な事がバレてお店をクビになった。
・実はアシシア(たかふみ)の胸に顔を埋めるメイベル(藤宮)の姿を目撃したホテルの宿泊客が限界化。様子をSNSに投稿したことでアリ×メイの百合界隈が活発になる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。