ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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大人のつもりでいる筈なのに、段々と子供らしくなっていく主人公。


第12話 ドラゴンの卵

 クリスマス休暇が終わり、慌ただしくもいつもの日常が戻ってきた。

 とは言え、本当にただ日常を過ごすだけだ。

 

 やっぱり、フラメルと賢者の石の事、スネイプの立場と真犯人のクィレル……と軒並み分かってしまっているだけあって、この件に関してはやる事が無い。

 皆も決して忘れた訳じゃなく、ちゃんと気にしてはいる。してはいても何も出来ないのだから仕方ない。

 

 原作とは乖離して、物分かりの良い彼らを見るのも慣れた。

 楽しく過ごせるならそれで良いのだ。

 

 

「今度の試合、スネイプが審判だって」

 

 そんな日常が過ぎていくとある日。クィディッチの練習から帰ってきたハリーがゲンナリした顔でそう報告した。

 

「あからさまに守りに来たのね。まぁ、あなたにとっては良いのか悪いのか分かんないけど」

 

 ハーマイオニーはハリーに苦笑いを向け、ロンは集中して返事を返さない。

 今はチェスの真っ最中。何度やっても勝てない彼女は最早気楽な挑戦という気分……片やロンは、絶対に負けてやるもんかと全力で迎え撃っている。

 ちなみに私は、彼に鼻で笑われる程度の実力なので観戦ばかりだ。

 

「目的はともかく、それとは別で嫌がらせしてくるだろうから……最初から全力でスニッチを探しなよ。理不尽をさせる前に終わらせちゃえ」

 

「ウッドと同じ事言ってるよ、アリス」

 

 私が真面目に答えるとハリーは笑った。

 確か試合開始数分で終了という、相手が可哀想な結果になるんだったか……まぁ勝負は時に非情な物。

 相手には悪いかもしれないけど、スネイプに目に物見せてやれ。

 

 

 そのまま観戦を続け、当たり前の様にロンが勝つのを見届けた。

 するとタイミング良く、ネビルが談話室に飛び込んで来た。

 

 そう、飛び込んで来た。駆け込んでない。

 彼の両足はピッタリくっついていて跳ねる事しか出来ない状態だった。

 談話室に居た人達は揃って彼を見て、一体何をしてるんだと一部の人は笑った。

 

「あーあ……フィニート」 

 

「ネビル、どうしたの?」

 

 私とハーマイオニ―はすぐに立ち上がり、駆け寄った。

 呪文を唱えながら様子を見てみると、彼は息も絶え絶え、汗ビッショリで酷い様だ。答えようとしても、あまりの疲労で声が出ないらしい。

 

 とりあえず椅子に座らせて水を飲ませ、落ち着くのを待った。

 

「マルフォイが……図書館の外で会ったんだ……誰かに呪文を試してみたかったって……」

 

 まだ苦しそうに息をしながら、ネビルはそう説明した。

 

 あの……下の図書館からここまでってどれだけ距離あるの……? グリフィンドール寮って8階なんですけど……?

 ここまでウサギ跳びで来た事を考えると、彼の疲労も当然……いやとんでもない体力してるね君。凄いよ。

 ていうかその間誰も助けてくれなかったのか。酷い。

 

 ともかく、それを聞いて皆は怒りを滾らせ、やり返せだの先生に言えだのと口々に言い始めた。

 

「これ以上面倒は嫌だよ……」

 

 しかしネビルは首を振り、皆の言葉を否定した。

 優しいのか甘いのか、それともただただ内気で弱気なだけなのか……全く、それじゃいつまでも面倒は終わらないのに。

 

「立ち向かわなきゃ駄目だよ! アイツは平気で皆を馬鹿にしてる。屈服して奴を付け上がらせちゃ駄目なんだ!」

 

 ロンが叫んだ。その通り、大人しくやられてるだけじゃ余計にやられるばかりだ。

 

「僕がグリフィンドールに相応しく無い、勇気の無い奴だなんて言わなくても分かってるよ。マルフォイにも言われたし」

 

 それでもネビルは俯いて卑屈に呟いた。泣きそうなくらいに声が震えている。

 皆はもう、掛ける言葉が分からなくて戸惑っていた。

 

 

「そこまで苦しんでいて、それでもそのままで居たいって? そんな訳無い。嫌だから苦しんでるでしょ? じゃあ立ち上がらなきゃ」

 

 見ていられなかった私は、出来る限り優しい声でそう伝えた。

 ポケットに入れっ放しにして忘れていた蛙チョコレートを取り出して、彼の口に突っ込む。

 何も言わなくていい、ただ聞いて欲しい。 

 

「勝てなくたっていい、それでも立ち上がろう。組分け帽子は、君の心にある勇気を見抜いてグリフィンドールに決めたんだよ。その勇気が見つからないなら探そう。人はいくらだって変われるんだよ」

 

 昔、孤児院に居た時の様に。泣きじゃくる年下の子にした様に、私は彼の背中を擦って優しく伝える。

 

「人を嗤うばかりのマルフォイなんて、10人束になったって君には及ばない。やり返さず耐え忍ぶ君の方がずっと立派だよ」

 

 私の言葉に、ハーマイオニーがうんうん頷いた。

 しかし更に続けた言葉には頷かずに硬直した。

 

「でもね、やり返す事が正しいとは思わないけど……正しい事だけをしなきゃいけない訳じゃない。呪文なら教えるし、殴り方だって教えちゃう。やっちゃえ、ネビル。立ち上がれ!」

 

 あんまり長々と言ったって仕方ない。私は笑って彼の背中を叩いて切り上げる。

 ビチビチ跳ね続ける蛙を咥えたままネビルは呻いた。はよ噛め。

 

 

「――ありがとう、アリス。ははっ……僕のママもアリスって言うんだ。ちゃんと話した事は無いけど……でも君ってママみたいだ」

 

 そうしてゆっくりとチョコレートを食べ、ようやく彼は笑った。

 今度はロンがうんうん頷いている。

 まーたママか……私の何処を見て言ってるんだ。バブみを感じられても困るよ。

 

 しかしそうか、そういえば確かに私の名前と彼の母親の名前は同じだ。

 闇の帝王に立ち向かい続けた偉大な闇祓い……同じ名前だなんてむしろ光栄だね。

 

 廃人になってしまった両親を幼い頃からずっと見てきた彼の心中は……私なんかには決して想像出来やしない。

 彼の言葉に皆も揃って首を傾げたけれど、踏み込んで良い話題ではないと口は開かなかった。

 

 そして重過ぎる事情を知っているからこそ、私も返事に困った。

 

「失礼な。まだ赤ちゃん作れる体ですら無いのに――イテッ」

 

 だから誤魔化す様に冗談を返すと、横からハーマイオニーに頭をペチッと叩かれた。

 男子連中は揃って目を逸らした。意外とちゃんと学んでるんだね……

 

「あー……もうちょっと考えてみるよ。でも……今は疲れたから寝たいな。ありがとうね」

 

 ネビルもまた誤魔化す様に咳払いを1つして、部屋へとゆっくり上がって行った。

 

 自分でもしっかり纏めて話せたとは思えないけど……伝わってくれたかな?

 あんなお説教なんて必要無かったかもしれない。だけどそれでも、やっぱり見ていられなかったんだ。

 

 

「……これでネビルまで喧嘩する様になったらどうするのよ」

 

「その時はその時だよ」

 

 私のお説教に若干の不満がありそうなハーマイオニーが、溜息混じりに呟いた。

 マルフォイの事となると熱くなり過ぎる誰かさん達を諫めるのは、いつも彼女だ。色々と思う所はあるだろう。

 

 でも大丈夫、人はいくらだって変われるんだ。悪い方向に変わったとしても、それならそれでまた手助けをしてあげよう。

 それが友達ってもんなんじゃないかな。きっと。

 

 

 

 

 

 

 次の日。グリフィンドールとハッフルパフの試合当日。

 私達はハリーを見送り、揃って観客席に並んでいた。

 

 そして気付いた頃には、隣でロンとネビルとマルフォイがいつもの如く言い合いをしていた。

 なんでこっちの席に来たんだ、コイツは?

 

 私を挟んだハーマイオニーは試合に夢中で全く気付いていない。

 どうしようかな……とりあえず試合を見ながら、こっちも気にしておこう。

 

 

 度々スネイプの理不尽がチームを襲い、彼らは血気盛んに戦っていた。

 作戦通り、ハリーは最初から全力でスニッチを探しているようだ。鷹の様にグルグルと、高い所で旋回を続けている。

 

 そして突然、物凄い急降下を始めた。

 本当に鷹の様だ。獲物――スニッチを見つけたんだろう。

 

 その素晴らしい動きに、観客は歓声を上げた。早々にスニッチを追い始めたのだと誰もが気付いたのだ。

 

「運が良いぞ! ポッターはきっと地面にお金が落ちているのを見つけたに違いない!」

 

 しかし気付いていないお馬鹿は嗤った。

 そしてロンが遂にキレた。散々言い合って、それでも試合を見ようとしていたのに。

 

 あっという間にマルフォイを押し倒し、馬乗りになって組み伏せていた。

 それを見てネビルは一瞬考え、椅子を飛び越えて喧嘩に参加した。

 

「行けっ! ハリー!」

 

「そうだ行けっ! ロン、ネビル、やっちゃえ!」

 

 ハーマイオニーが椅子の上に跳び上がり、声を張り上げた。

 片や私は椅子を降り、後ろで繰り広げられる殴り合いの観戦に移っていた。

 だってハリーなら大丈夫だもの。すぐにスニッチを捕るだろう。

 

 ロンとマルフォイが転がり回り殴り合い、助けに入ろうとするネビルをクラッブとゴイルが抑え取っ組み合って殴り合う。

 周りの喧騒に負けないくらい、彼らも雄叫びと悲鳴を上げていた。

 

 流石のマルフォイ一派も、私みたいなか弱い小さな女の子を巻き込む程の事まではしないらしい。

 せめて1発くらいは入れてやろうかな、とウズウズしたけれど止めておいた。もしも私に手を出したらやり返そう、そうしよう。

 

 

 そんな喧嘩を眺めていると、観客が一斉に沸いた。どうやらハリーがスニッチを捕ったらしい。 

 

「アリス! ロン! 何処行ったのよ、試合終了よ! ハリーが勝った! グリフィンドールが首位に立ったわ!」

 

 ハーマイオニーが狂気して椅子の上で飛び跳ね踊り、前に居たパーバティに抱き着いている。君も君で元気だな。

 

 

 

 その後、競技場を後にするチームを寮生皆で迎えた。もう大騒ぎだ。

 

「やったね、ハリー!」

 

「凄かったわ! あんなに早くスニッチを捕まえるなんて、前代未聞よ!」

 

 その中で、私達はなんとかハリーに近づいて労った。

 ごめん、実は途中から見てなかったんだ……なんてとてもじゃないけど言えない。

 

「君が勝った! 僕らの勝ちだ! それに、僕はマルフォイの顔をボッコボコにしてやったし、ネビルなんかクラッブとゴイルに1人で立ち向かったんだ!」

 

「僕、僕やったよ! やってやったんだ! いっぱい殴られたけど、でも僕だって何回か殴ってやった!」

 

 そしてボロボロに汚れ、止まらない鼻血を垂らし、顔を赤やら青やら紫やら色んな色に腫れ上がらせた2人も駆け寄った。

 見るも無残だけど彼らは満足そうだ。治してあげようともしたけど、何故か拒否された。名誉の負傷的なアレか?

 

 応えるハリーも本当に嬉しそうで、晴々とした最高の笑顔を見せていた。

 そのまま皆で寮へと戻り、談話室でパーティとなり……その日は夜遅くまで、寮生皆で大騒ぎが続いた。

 

 

 

 

 

 

 そうして日常が過ぎ、イースター休暇もなんて事無く通り過ぎて……は、くれなかった。

 

「ハーマイオニー、試験はずーっと先だよ」

 

「10週間先よ、ずっとじゃないわ。ニコラス・フラメルの時間にしたらほんの1秒でしょ」

 

「僕達、600歳じゃないんだぜ。知ってたかい?」

 

 何故か自分と同じ様に勉強するんだ、と私達にアレコレ勧めてきたのだ。

 お陰で最近は図書館に籠っている。今もまさに勉強中だ。

 

 勘弁してほしい。私が優等生なのは入学前から学んでいたからであって、根本的に勉強は嫌いなのだ。

 

 それでも、ダンブルドアの名前を背負って悪い成績なんて取れない。

 そうしてやる気を奮い起こして試験に備える気はある。

 

 でもこんな早くからのつもりは無いんだ。彼女や先生達がそう言う度に、せっかくのやる気が削れていくのが分かる。

 

「こんなのとっても覚えきれないよ」

 

 同じくやる気がゴリゴリと削られていったロンは、とうとう音を上げて羽ペンを投げ出した。

 

「でもこうして一緒に居るんだから、まぁそういう事だよね。私もそうだけどさ」

 

「うるさいな、余計な事言うなよな」

 

 茶化す様に言った私に、ロンは若干顔を赤くして口を尖らせた。

 そう、本当に嫌ならわざわざ一緒に勉強しなくて良いんだ。他の友達と過ごせば良い。

 なのにここに居るって事はそういう事なのだ。

 

 口では何を言っていても、皆の心の底は同じだ。一緒に居たい、ただそれだけ。

 

 

「ハグリッド! 図書館で何してるんだい?」

 

 頬杖を付いて、つまらなさそうに周りを見回していたロンが声を上げた。

 それに釣られてハリーもハーマイオニーも顔を上げた。

 

「いや、ちーっと見てるだけだ」

 

 誤魔化す声が上擦っていて、明らかに何かあると分かる……というか何かを背中に隠した。

 

「お前さん達は何をしてるんだ? まさかこんな時期から試験勉強か?」

 

「こんな時期だからよ」

 

 ハグリッドは話題を変える為に、そして本当に驚いた様にそう言った。うん、そう思うよね。

 こんな返しが出来るのは、彼女かレイブンクロー生くらいだろう。多分。

 

「そうだ、ハグリッドに聞きたい事があるんだ。あれからクィレルと賢者の――」

 

「シーッ! こんな所で何を言っとる、後で小屋に……なんで賢者の石の事まで知っとるんだ?」

 

 ハリーが思い出した様に訊ねようとして、ハグリッドは慌てて注意した。

 しかし賢者の石まで知られていると分かって、思わずポロリと溢してしまった。おい。

 

「シーッ! あれだけヒント出しといて分からない訳無いでしょ。ハグリッドこそこんな所で何言ってんの!」

 

「しまった! 全くなんで俺はっ……とにかく話がしたいなら小屋に来い」

 

 なので今度は私が注意する。別に図書館で賢者の石の名前を出した所で、いくらでも誤魔化しは効くだろうけどね。

 ハグリッドは額をベチンと叩いて反省をし、背中に何かを隠したままモゾモゾと帰っていった。

 

 

「ハグリッドったら、何を隠してたのかしら」

 

「僕、ハグリッドが見てた書棚に行ってくる」

 

 当然、皆は彼の挙動に気付いている。ハーマイオニーは不思議そうに呟いた。

 そもそも図書館があまりに似つかわしく無い。

 

 そして勉強に飽きたロンは、気分転換を兼ねてか歩いて行った。

 

「ハグリッドはドラゴンの本を探してたんだ。ほら見て」

 

 しかし意外にもすぐに戻って来て、いくつかの本をドサリと置いた。

 ドラゴンの飼い方……そうだ、もうそんな時期なんだ。これはどうしようかな。

 

「初めて会った時、昔からドラゴンを飼いたいと思ってるって言ってたよ」

 

「でもドラゴンの飼育は違法だよ。1709年のワーロック法で……まぁそもそも、どっちみち手懐けるのは無理なんだ。狂暴だからね」

 

 ハリーの言葉に、ロンはキッパリと返した。兄の1人がドラゴンに携わっているからか、その辺りの知識はしっかりあるらしい。

 

「じゃあ、ハグリッドは何を考えてるのかしら」

 

 本当にね。何を考えてやらかしてるのやら……

 これの解決にハリー達が動いた結果、とんでもない減点を食らう事になる訳で……更にその所為で最後の理不尽な寮杯獲得に繋がる訳で。

 ここでどうにか上手く収める事が出来ればいいんだけど……

 

 

 

 

 

 

 その後、ハグリッドの小屋を訪ねてみた。

 もう暑くなってきたと言うのに、カーテンを閉め切り暖炉が燃え盛り、そこにはしっかりと卵があった。

 ていうかもう、暑いんじゃなく熱い。帰りたい。

 

「で、何が聞きたいんだ?」

 

 私達を迎え入れると、彼はすぐにドアをキッチリ閉めた。サウナか。

 

「フラッフィー以外に、何か守る為にあるのかなって」

 

「そりゃあるさ。けど俺も詳しい事は知らん。数人の先生が其々何かをしてるってだけだ」

 

 そういえばその辺りの事は知らないんだったな。

 もう色々と飛ばし過ぎていて、ハリー達が逆に何を知らないのかが分からない。

 

 それくらいなら言っても大丈夫か、とハグリッドは普通に答えてくれた。

 と言っても中身は殆ど無いけれど。

 

「なーに、大丈夫だ。先生方の守りもそうだが、フラッフィーを出し抜くなんて出来やせん。大人しくさせる方法を知ってるのは俺とダンブルドアだけだ。音楽を聞かせちまえば――」

 

「音楽?」

 

「グワーッ、しまったっ!!??」

 

 この人本当にもうダメかもしれない。まさかこの段階でバラすとか……

 きょとんとした様な声をハリーが挟むと、ハグリッドは悲鳴を上げた。

 

「まぁ、うん。聞かなかった事にしておこうかな……」

 

「とにかくっ! ダンブルドアも大丈夫だと言っていただろう? いいから試験勉強でもしとれ」

 

 ハリーは優しかった。片やハグリッドは、もうこの話題はいいだろうと終わらせた。さっきは勉強してる事に驚いてた癖に。

 

 

「とりあえずハグリッド、窓を開けても良い? アリスが茹ってる」

 

 気を取り直して、ハーマイオニーがそう話題を変えた。

 

 小屋に入ってから、あまりの熱さに私はテーブルに突っ伏していたのだ。

 熱い、汗が止まらない。なんで来ちゃったんだろう。

 

「悪いな、それは出来ん」

 

 そしてハグリッドはキッパリ断った。こんにゃろう。

 

「――あれは何?」

 

「えーと、あれは……その……」

 

 そして遂に卵を見つけたのか、ハリーの訝し気な声がした。

 途端、ハグリッドはしどろもどろになる。

 

「ハグリッド、何処で手に入れたの? 凄く高かったろう」

 

 やはり卵の知識もあるのか、ロンが驚いた様に言った。

 飼育が違法なのだから、卵なんてそこらに流れている物じゃない。裏社会でもないとまず手に入らないだろう。

 つまり、相当な金が掛かる筈だ。

 

「賭けに勝ったんだ。昨日の晩、ホグズミードに行ってちょいと酒を飲んで……知らん奴とトランプをしてな」

 

 そんな卵を持ち運んでる奴が居る訳無いだろうに。

 ましてや賭けに使う訳も無い。違法な物を押し付ける賭けなんて、まず乗る人が居ないんだから。

 

 だって普通の人はそんな物、手に入れたってどうしようもないんだ。

 彼の様に欲しがってる場合でも無ければ……

 

「……あー、私にそれを聞かせて大丈夫だと思った?」

 

 そういった事情と、この先どうなるかを分かっていて黙っているなんて出来なかった。

 私は汗の止まらない顔を上げ、ハグリッドを見た。

 

「――っしまった、アリス、止めてくれ! 誰にも言わんでくれ、ダンブルドアにも決して!」

 

 目の前に居るのが、どんな立場の生徒なのか今更になって気付いたらしい。

 私は校長と副校長に顔が利くどころじゃないのだ。

 

 彼は酷く慌てて卵を隠す様に大きな体を広げた。物凄く必死だ。

 そりゃ、違法だろうと長年の夢なのは事実だものな……

 

 ふと思ってしまった。本来の流れを捻じ曲げ、自分の夢の為に生きると決めた私が……他人の夢の邪魔を出来るのだろうか、と。

 いや、学校と言う場で大人が違法行為に手を染めるのは流石に邪魔して良いと思うけども。

 

 それでも一旦考えてしまうと、有無を言わさずお爺様に報告なんて二の足を踏んでしまう。

 

「頼む! 俺の夢だったんだ! どうにか上手くやるから、言わんでくれ……頼む」

 

 彼の半分も無い様な小さな子供相手に、縮こまって暖炉の前で卵を守る様にしている。そんなにか。

 

「アリス、その……可哀想だから、一旦内緒にしてあげても……」

 

 見かねたハリーが助け船を出した。

 一旦っていつまでよ……これは見逃すかどうかの2択しかない。

 

「卵が孵った後はどうするのさ。この小屋、木造だよ? そもそも、学校の敷地内にドラゴンが居るなんて危険過ぎる」

 

「そ、そりゃ……俺もずっと飼っておけんぐらいの事は分かっとる。けどほっぽり出すなんて事は出来ん、どうしても出来ん」

 

 分かってるならどうするかも考えてよ。生徒の危険どころか、お爺様の責任にまで及ぶ話だ。

 

 それに本来の物語はどんどん変わっていっている。

 もしマルフォイが見つけるだけじゃなく、ドラゴンに怪我をさせられたら?

 確実に彼の父親が出て来て、ヒッポグリフの処刑どころじゃない大事件になる。

 

 例え彼じゃなかったとしても、何かが起きればお爺様がどうなるか……

 いくら長年の夢だからって、彼1人で収まる話じゃないんだ。 

 

 

「だから卵のうちにほっぽり出そうって話だよ! 残酷かもしれないけど、卵なら処分出来る!」

 

「そんなっ!? 頼むお願いだ!」

 

 自然と語気が荒くなってしまった。

 中の雛……雛で良いのか? それを殺す事になるけど、それでも今なら処分出来る範囲だ。

 

 私がどういう意味で言ったのか、彼にも分かったようだ。

 最早涙を滲ませて懇願した。

 

 ハリーもロンもハーマイオニーも何も言わなかった。言わなかったけど、困った様に私を見た。

 なんだこれ。なんで私が悪者みたいになってるんだ。そりゃ責めて追い詰めてるのは事実だけど……

 

 大男が子供に責められ、縮こまって涙を滲ませる。なんとも居た堪れない場になってしまった。

 どうしたものか、と嫌な空気が充満している。

 

 

「逆に言えば、卵のうちはまだ考えていられるって事だろ」

 

「そうよ。今すぐ報告はしなくても良いと思うわ。どっちにしろ犯罪なら、バレたらどうなってしまうか……」

 

 場の空気に耐えられなかったのか、ロンとハーマイオニーまで助け船を出してしまった。彼らの優しさが裏目に……

 

 でも確かに、それは分からない。原作でも先生は誰1人知らずに終わるから、ここで突き出したらどんな対処をされるか予想が出来ない。

 お爺様ならそんなに悪い事にはしないだろう、と楽観視出来る気がするけど……そもそも全部お見通しな気がするけど……でも……

 

 

「分かった……ハグリッドを犯罪者として突き出す事はしない。ただし! 私は何も見てないし聞いてない。この先何があったとしても、私は手を貸さない。いいね!」

 

 悩んで悩んで……結局、そう言ってこの場から逃げる事しか出来なかった。

 私は1人、熱過ぎる小屋から飛び出した。後ろから皆の声がしたけれど、止まる事はしなかった。

 

 原作通りなら。逆に流れが変わるなら。最善を目指すにはどうすれば。人の夢を壊せる立場なのか。

 色々と考えてしまって、もう自分でもどうしたいのか混乱してる。

 

 見つからない様に対処するなら、最後に透明マントを忘れなければ良い。

 だけどそれじゃネビルが可哀想な事になるし、そもそも塔の上に行くだけで大変だった筈。

 諸々上手く事を運ぶなんて果たして出来るのか。不安しかない。

 

 そして何より、もし私まで50点減点されたら……私の立場上彼ら以上に厳しい事になる。

 周囲の人に、マクゴナガル先生にどれほど失望されるか。恐ろしい。

 

 結局我が身可愛さじゃないか、と今度は自分を責めながら……この先起こり得るだろう事に備えて考えを巡らせていった。

 

 

 

 

 

 

 あれからしばらく経ち、私は3人とは少し距離を置いていた。

 喧嘩した訳でも無いのにやたらと気まずいのだ。自然と距離が空いてしまった。

 多分、私を巻き込まない様にしているのかもしれない。

 

 実際私は、万が一発覚した時に関わっていたら……と不安になって近づけない。

 こんなにも自分本位だったなんて。こんな簡単に切り捨てようとして、何が友達だ。情けない。自分の事ばかりじゃないか……

 

 同室のハーマイオニーとは流石に会話もあるけれど、お互いあからさまにドラゴンの話題を避けていた。

 

 

 そんなある日、授業が終わった瞬間にドタバタと3人が急いで身支度を整えて走り出そうとしていた。

 

「あ、アリス……今からハグリッドの……あー、その」

 

「そろそろ孵るって……えっと」

 

 そんな彼らをチラリと見ると、目が合ってしまった。

 謎に気まずいままのハリーとロンが、モニョモニョと何かを言い出す。

 ほれ見ろ、やっぱり孵るまでに手放せなかったじゃないか。

 

「知らない。何も見てないし聞いてないって言ったでしょ。いってらっしゃい」

 

 わざとらしく、ツーンとした態度で返した。

 喧嘩じゃないのだから普通に返せばいいのに……私は何をしたいのやら。

 何で私まで意地張ってるみたいになってるんだ。自分が分からなくなってきた。

 

 結局彼らは、それ以上何も言わずにイソイソと走って行った。

 悪い事と分かってはいても、ドラゴンが産まれる瞬間は見たいらしい。正直私も見たい。いいなぁ……

 

 

 それから更に2週間程経ったある日。

 ロンの手が2倍に膨れ上がって、気持ち悪い緑色に変色していた。あーあ……噛まれちゃった。

 流石にヤバイと見たのか、彼らは医務室に駆け込んでいった。何故ハグリッドは無事なのか。怖い。

 

 しかしそうなるともうすぐか。具体的な日時を知りたいから、こっそり聞き耳を立てておこう。

 さぁ……そろそろ私も動かなければ。私は私に出来る事をしよう。

 

 幸いにもここまでは原作通りだ。そのまま最後までいってくれ。

 なんとかしてみせるから……





【ロコモーター・モルティス「Locomotor Mortis」】
足縛りの呪文。マルフォイがネビルを虐める為に使用。
原作ではクィディッチの審判になったスネイプを警戒し、ハーマイオニーとロンがこの呪文を練習して妨害の準備をしていた。

移動や操作に関わるロコモーター系の呪文でありながら、これは硬直させるという反対の効果。
語源としては「locomotor」が運動の事、「mortis」が死という意味になる。
なので運動を殺す、といった意味になるそうだ。

とは言えそれがどうして脚に限定されるのかまでは分からない。
全身金縛り呪文の方がよっぽどそれらしい意味だが……
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