ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第14話 罰則、禁じられた森にて

 それから数日経ち、罰則の日がやってきた。

 私達は揃ってフィルチに連れられて、玄関ホールへ。

 

 直談判しにいったロンも居る。彼は無事罰則を受けさせてもらえたのだ。

 無事……? まぁいいか。

 点をあげたいくらいだ、とマクゴナガル先生が言っていたとかなんとか。どうやら先生は友情に弱いらしい。

 

 ぶつくさ言いながら現れたマルフォイは、私を見ると目を逸らした。

 詳しい事情は一切伝えられていなくとも、何故自分が減点されなかったのかくらいは聞かされているのだろう。

 私が全員纏めて庇ったという事に納得がいっていないようだ。

 彼からすれば目論見が崩されたのに庇われたという、訳の分からない状況だからな……

 

 

 ホールを出て歩いて行く中、スネイプ以上に嫌味ったらしくご機嫌なフィルチが色々と言っていたけれど全て聞き流した。

 そしてハグリッドが引き継ぎ、説明を始め――

 

「僕は森なんて行かないぞ」

 

 いつも馬鹿にしているネビル並に恐怖に慄いて、マルフォイはそう言った。

 声も体も震えているのに、セリフだけは強気だ。

 

「ホグワーツに残りたいなら行くしかない。悪い事をしたなら、その償いをせにゃならん」

 

「どの口がっ――痛った、うぅ……」

 

 それには賛同したい所だけど、ハグリッドが言っていい言葉じゃない。元凶はアンタだ。

 思わずそのデカい体に拳をお見舞いしたけれど、私の小っちゃい手じゃなんのダメージにもならなかった。

 むしろ私が痛かった。どんだけ頑丈なんだコイツは。

 

「何しとる……」

 

 痛めた右手をプラプラとさせている間、ハグリッドは困惑していた。

 全く、私が……というか皆がなんでここに居ると思ってるんだ。

 

「う……いや、まぁ、俺が言えた事じゃねぇのは確かだけども……すまん、分かっとる。俺も散々叱られた……」

 

 そんな感情を込めてしっかりと睨んでやると、いつかの様に縮こまった。そうだ、反省しろ。

 私だけじゃなくてハリー達も冷めた目を向けてるぞ。

 

「ともかく、罰則が嫌なら退学するしかねぇ。どうする、え?」

 

 気を取り直したハグリッドは、改めてマルフォイに厳しく伝える。

 黙って地面を見つめた彼は渋々受け入れた。

 

 

 

 そして揃って歩き出し、森の外れまでやってきた。

 いや、待って。え、怖い。深夜の真っ暗な深い森……何が居るかも分からない危険な森。

 マルフォイを馬鹿にしてる場合じゃなかった。怖い。

 

「あそこを見ろ。地面の、銀色に光る物が見えるか? ユニコーンの血だ……何者かに酷く傷つけられたユニコーンが居る」

 

 ハグリッドはランプを掲げ、地面を指差した。

 確かにそこには、銀色の液体が見えた。あれが血か……なんだかゾッとする。

 

「今週に入って2回目だ。早く可哀想な奴を見つけるんだ……助からないなら、苦しまない様にしてやらねばならん」

 

 そういう判断は出来るのか……なんだかんだ生き物が好きなんだよな、彼は。

 普段が行き過ぎてるだけで、必要なら非情な判断さえ下せる。少し見直した。

 私だったらきっと、苦しませない為だろうと出来ない。

 

「ユニコーンを襲った奴が、先に僕らを見つけたらどうするんだ」

 

「俺やファングと一緒に居れば、この森に住む者は誰もお前達を傷付けはせん」

 

 未だに震えの止まらないマルフォイが、なんとも不安そうに言った。

 それに対するハグリッドの答えはなんかズレていた。襲った奴が森に住む者じゃなかったら意味無いじゃん……

 

 

「よーし……じゃあ2組に分かれて行こう」

 

 森を少し進んで分かれ道に来ると、ハグリッドはそう言って皆を見回した。

 

「僕はファングと一緒が良い」

 

「良かろう。言っとくがソイツは臆病だぞ」

 

 マルフォイが急いで犬に寄った。ハグリッドと犬を比べて犬を選ぶとは……

 残念ながら、ファングはデカくて厳ついだけで臆病だった。

 ハグリッドが軽く答えると、マルフォイは絶望した様に固まった。

 

「そんじゃ、ハリーとハーマイオニーとアリスは俺と来い。ドラコとネビルとロンはファングと一緒に別の道だ」

 

「嘘でしょ、その人選絶対間違ってるよ……」

 

 そして彼はとんでもない人選で2組に分けてくれた。

 どう考えてもマズイ。特にあっちのチームが。

 

「あんなに縮こまって震えてる奴に何が出来る。大丈夫だ」

 

 私が呆れて溢した声に、ハグリッドは小声で答えた。

 大丈夫じゃないから言ってるんだけど……

 

「いいか、もしユニコーンを見つけたら緑の光……困った事があったら赤の光を打ち上げるんだ。さぁ、出発だ」

 

 既に睨み合うロンとマルフォイと、心底困った様にこっちを見るネビルを無視して私達は歩き出した。

 頑張れネビル。多分何かされると思うけど。

 

 

 

 そうして点々と散った銀色の血を追って、私達はゆっくりと進む。

 今にも何かが飛び出して来そうで、私はついハーマイオニーの服の裾を掴んでいた。

 振り向いたらバカでかい蜘蛛とか居ないよね……?

 

「こんなに酷い怪我じゃ、そんなに遠くまでは行けない筈だ。もうすぐ――っ木の陰に隠れろ!」

 

 ハグリッドが急に叫んだ。大声に驚いて硬直していると、私達は纏めて大きな木の裏に放り込まれた。

 ちょ、3人纏めて投げるってマジ……!?

 

「むぎゃっ」

 

 一番小さな私が一番飛ばされ、後ろからハーマイオニーとハリーが降ってきた。

 つまり下敷きになって潰された。

 

「あ、ごめんっ」

 

 真ん中のハーマイオニーはスルリと抜け、今度はハリーが私の上に乗った。

 

「ちょ、ハリー、手が危ない」

 

「うわっ、ごめん!」

 

 私を潰さない様に地面に伸ばした彼の手は、危うく私の胸を掠めた。

 危ないな……私に胸があったら揉まれてたぞ。いや、なんか悲しくなるから止めよう。

 

 ていうか本当に危ないから投げられたんだ。

 呑気に騒いでる場合じゃない。なんだ、何が出た?

 

 ハグリッドは石弓に矢を番え、いつでも放てる様にして辺りを警戒している。

 耳を澄ませると、何かが地面を滑っていく音がした。心臓がどんどんうるさくなっていく。

 

 しかしその怪しい音は次第に小さくなり……消えた。どうやら遠くに行ったようだ。

 私は安堵の息を大きく吐き、3人揃って立ち上がりハグリッドの元へ戻った。

 

 

「思った通りだ……この森に居るべきでは無い何者かが居る。俺に付いて来い。気を付けろ……」

 

 多分クィレルだったんだろうけど、出るなら正面から出て来てほしいよ。

 こんなホラー染みた展開は要らない。怖い。

 

 気を取り直して、私達は歩き出した。

 さっきよりもゆっくり、警戒しながら進んでいく。

 

「そこに居るのは誰だ!? 姿を現せ!」

 

 そしてまたしてもハグリッドが叫んだ。今度は何だ。

 石弓を再度構えて警戒する彼の陰で、私も杖を抜いた。

 

「ああ、君か。ロナン」

 

「こんばんは、ハグリッド。私を撃とうとしたんですか?」

 

「用心するに越した事は無ぇ。悪いもんがこの森をうろついてるんでな」

 

 しかし現れたのはケンタウルスだった。そうか、そういえば彼らとはここで会うんだったな。

 

 ハグリッドは安心した様に石弓を降ろし、親し気に挨拶した。

 赤い髪と赤い髭をしたケンタウルス――ロナンという彼もまた、親し気に返した。

 

 

「今夜は火星がとても明るい」

 

 私達が軽く自己紹介した後、ロナンはそう言った。

 揃って空を見上げてみるけど……火星ってどれだ。

 私は天文学の授業は眠気に耐えるだけで精一杯なんだよ。

 

「……なあ、ロナンよ。怪我をしたユニコーンが居るんだ。なんか見かけんかったか?」

 

 何か情報を得られないかとハグリッドが訊ねた。

 しかし彼はすぐには返事をせず、空を見つめるだけだ。

 

「今夜は火星が明るい」

 

「ああ、だがロナン、何か見なかったか?」

 

 ようやく答えたけれど、さっきと同じセリフだ。何も分からん。

 イライラしてるっぽいハグリッドは、なんとか平静にもう一度訪ねた。

 

「いつもと違う明るさだ」

 

「ああ、だが俺が聞きたいのは火星よりもうちょい自分に近い事なんだが」

 

 ダメだこりゃ。ハグリッドはもうイライラを隠しもしていない。

 それでも全く気にしていない辺り、ケンタウルスってのは中々に癖が強い。

 

 

 私がこっそり呆れていると……突如、後ろの木立がガサガサと揺れた。

 

 私達は驚き、ハグリッドはまた石弓を素早く構えて振り返った。なんなんだもう、驚かすな。

 

「――っ、やぁベイン。元気かね?」

 

 そこにはまたしてもケンタウルス。黒い髪と体で、荒々しい感じだ。

 ホッとした様にハグリッドは声を掛けた。 

 

「こんばんは、ハグリッド。あなたも元気ですか?」

 

「ああ元気だ。ロナンにも今聞いたんだが、最近森でおかしな物を見んかったか?」

 

 挨拶ついでに、彼にも情報を求めて訊ねてみるけれど……だんまりだ。

 

「今夜は火星が明るい」

 

 ベインはロナンの隣へ歩いて行き、空を見上げてそう言った。

 ……会話してくれ。

 

「もうそれは聞いた……よし、何か気付いたら知らせてくれ。俺達は行こうか」

 

 ウンザリしたハグリッドは、もう用は無いとばかりにさっさと歩き出した。

 私達もそれに続いていく。

 

「ただの1度も、ケンタウルスからハッキリした答えを貰った試しが無い。忌々しい夢想家よ……星ばかり眺めて、近くの物には何の興味も持っとらん」

 

 彼らが見えなくなるまで歩くと、ハグリッドはイライラしながらそう呟いた。

 人の良い彼がここまで言う程とは……ケンタウルスってのは本当に癖が強いらしい。

 

 初対面だった私達にはなんとも言えず、苦笑いを返すしか無かった。

 

 

 

「見て! 赤い光よ! 向こうで何かあったんだわ!」

 

 またしばらく歩いていると、ハーマイオニーが空を指差して叫んだ。

 よく気付いたな……確かに赤い光が打ち上がっている。

 

「お前さん達はここで待ってろ。すぐ戻って来るからな」

 

 それを見てハグリッドは早足で向かって行った。

 え、ちょ……私達だけで待つの? 怖いんだけど。

 頼むから早く帰ってきてね。本当に。

 

「怪我とかしてないわよね……」

 

「十中八九、マルフォイが何かしてネビルが打ち上げたんだと思うけど。今頃喧嘩してるんじゃない?」

 

 素直なハーマイオニーは心配そうに呟いた。

 大丈夫、マルフォイの奴がやらかしただけだよ。怪我はまぁ……ロンが居るから喧嘩してるかもね。

 

「それならそれで良いよ。本当に何かあったんじゃ無ければ」

 

 ハリーも心配そうだ。そりゃそうか……私だけ心配してないのがおかしいだけだ。

 本当に何かあった可能性も無くは無いんだから。

 

 

 下手に動く事も出来ず、私達は寄り添う様にして待ち続ける。

 近くで音がする度、私はビクリと身を震わせた。

 

 こっちはこっちで、なんで私だけ怖がってる訳? 

 なんでこの2人は平気でいられるんだ。

 

「ねぇアリス、さっきからずっと私にくっついてくるけど……もしかして」

 

「何が?」

 

「そういえば、いつもゴーストに凄い驚くよね……もしかして」

 

「だから何が!?」

 

 そんな私を、2人が面白い物を見たかの様に揶揄ってきた。

 誤魔化しにもならない様な反応を返したけど、多分無意味だろう。

 

 中身は大人とか言っておいて、これだけは本当に恥ずかしい。

 昔からホラーも虫も駄目なんだよ。気持ち悪い物も駄目だ。

 

「……アリスにも苦手な物ってあるのね」

 

「くっ……うぅ……」

 

 もう何も言えず、顔を赤くして俯くしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「お前達がバカ騒ぎしてくれたお陰で、見つかる物も見つからんかもしれん」

 

 しばらく経つと、向こうのチームを引き連れたハグリッドが戻ってきた。カンカンに怒っている。

 

 どうやら原作通り、マルフォイに脅かされたネビルが光を打ち上げてしまったらしい。

 そしてその後は3人でボコスカ喧嘩をしている所を、彼が纏めて抑え込んで――という事だった。

 

 可哀想に、マルフォイは2人に殴られて酷い顔になっている。自業自得だけど。

 しかしやっぱりネビルも変わったな……まぁいいか。

 

「ほら。だから言ったじゃん……」

 

 事情を説明され、私はハグリッドに呆れた目を向けた。

 あんな人選で何事も無く済む訳が無いんだから。

 

 彼は低く唸って目を逸らした。

 そうして今度こそちゃんと分けようと私達を見回した。

 

「よーし、組を変えよう。ハリー、ドラコ、アリス、ファング。行ってくれ」

 

 おっと、私がこっちか……え、マジで?

 いや、大丈夫、来ると分かっていればクィレルなんて……大丈夫かな。

 

「すまんな、お前さん達ならどうにかなるだろう。とにかく終わらせよう」

 

 彼は私とハリーに近づいて、小声で謝った。

 あぁ、うん。なんとかしよう。どうせマルフォイはすぐに逃げる。

 私が腰を抜かさなければ問題無いさ。

 

 

 

 という訳で、私達はソロリソロリと森を進んでいく。

 30分くらい歩いただろうか……だいぶ森の奥まで来ていると思う。

 私にはもう来た道がさっぱり分からない。別の意味で怖い。

 

 そしてもっと怖いのが、地面に落ちる銀の血が多くなっている事だ。

 今横を通った血だまりなんて酷かった。明らかにあそこでのたうち回っていたと分かる。

 

 血を追って更に進むと、大きな古木の先に開けた平地があった。

 そこへハリーが指を差す。

 

「見て……」

 

 白い物が横たわっていた。とても悲しい物で……とても美しい物だった。

 

「ユニコーン……」

 

 初めて見るユニコーンが死体とは。なんとも残念だ。

 死して尚美しい彼らを、生きて見たかった。

 

「――っ、アレ!」

 

 とにかく見つけたなら緑の光を、と杖を抜こうとしてハリーの声に止まった。

 彼が指差す方向を見やると、ズルズルと何かが這いずって来た。

 

 一目見た瞬間、私達は揃って金縛りにあった様に動きを止めた。

 マントを着てフードを被っているから顔は見えない。しかし私は知っている。 

 来たか……クィレル。いや、ヴォルデモート。怖い……

 

「ひっ……」

 

 ソイツがユニコーンに近づいて血を啜り出したの見て、私は思わず悲鳴が零れた。

 なんて悍ましい。気付けば無意識に1歩後退っていた。

 

「ギャァァアアアッ!!??」

 

 マルフォイが絶叫して逃げ出した。後を追う様にファングまでもが走り去った。

 

 ソイツはようやくこちらを向き、ゆっくりと近づいて来る。見えない顔から銀の血が滴り落ちていて、尚更恐怖を煽る。

 ハリーは額が痛むのか動けず、私も腰が抜けそうで動けない。

 

 何をやってるんだ、奮い立て、私!

 

「――っステューピファイ!」

 

 どうにか杖を抜いて、失神呪文を放った。

 しかし放たれた赤い閃光はスルリと避けられる。あんなノロノロした動きだった癖に、予想外に素早い。

 いや、慌ててる上に怖がってる私の狙いが悪いのか……

 

 攻撃されたからか、ヤツは遂に駆け出した――なんとこちらへ。

 反撃してくるにしても呪文だと思ってた!

 

「デパルソ! チッ……ヴェンタス!」

 

 向かってくるヤツを吹き飛ばそうとしたけれど、それさえも避けられる。

 それならば、と続けて放ったのは突風。

 目に見えない面での攻撃なら避けるも何も無いだろう。

 

 予想通り、ヤツは今度こそ吹き飛ばされた。しかし大した距離じゃない。

 次は何の呪文で追撃するべきか……一瞬だけ悩んだけれどその必要は無かった。

 

 蹄の音が聞こえたと思ったら、私達の上を物凄い勢いで何かが飛び越えて行った。ケンタウルスだ。

 するとヤツは素早く退き、すぐに見えなくなった。そもそも戦うつもりも無かったのかもしれない。

 

 

「怪我は無いかい?」

 

 膝を突いているハリーを引っ張り上げていると、ケンタウルスが私達へ近付いてきた。

 金髪にプラチナブロンドの体で、ロナンとベインよりも若く見える。

 

「ありがとう」

 

「アレは何だったの……?」

 

 相変わらずケンタウルスは答えてくれない。

 深い青い目をハリーに向けて、ジッと観察しているだけだ。

 

「早くハグリッドの所に戻った方が良い。私の名はフィレンツェだ……私の背に乗れるかな? その方が速いだろう」

 

 答えてはくれないけれど、親切ではあるようだ。

 言いながら、私達が乗りやすい様に脚を曲げて体を低くしてくれた。

 

 流石に2人は重いんじゃないかと思ったけれど、乗ってみれば軽々と素早く駆けていく。

 

「ハリー・ポッター、ユニコーンの血が何に使われるか知っていますか?」

 

「え……いや、ううん」

 

 急な質問に、ハリーはなんとか返事だけを返した。

 私達は落ちない様にしがみ付くのに精一杯なのだ。

 

「彼らの血は、たとえ死の淵に居る時だって命を長らえさせてくれる。しかし恐ろしい代償を払わなければならない……呪われた命を生きる、生きながらの死なのです」

 

 何故ハリーの名前を知っているのか、なんて事を聞く暇も無く語り始めた。

 

「永遠に呪われるんなら、死んだ方がマシだと思うけど……」

 

「その通り。しかし、他の何かを飲むまでの間だけ生き長らえれば良いとしたら? 今、学校に何が隠されているか知っていますか?」

 

 そんなの誰が欲しがるんだ、とハリーは訝し気に呟いた。

 フィレンツェは一体何処まで知ってるんだろう。どうやって知ったんだろう。謎だ。

 

「賢者の石……そうか、命の水だ!」

 

「力を取り戻す為に長い間待っていたのが誰か、思い浮かばないですか? 命にしがみついて、チャンスを窺って来たのは誰か……」

 

 彼の言葉でハリーは気付き、ハッとした。

 そこへ更なるヒントが投げられた。本当に彼はどうやって……占いか?

 

「それじゃ……僕が今見たのは、ヴォル――」

 

 それ以上ハリーが言う事は無かった。皆と合流出来たからだ。

 急に現れたケンタウルスと、その背に乗る私達に皆は驚き安堵した。

 ワッと集まって口々に心配の言葉を掛けてくれる。

 

 そうか、マルフォイとファングが先に逃げてたから……意外にもちゃんと説明してたんだな。

 いくらフィレンツェに乗ってたからって合流が早過ぎると思ってたけど、彼らも急いでこっちに向かってたんだ。

 

「ハグリッド、ユニコーンはあっちの……開けた所に居たよ」

 

 ぴょんと降りながら、後ろを指差して伝える。

 フィレンツェが真っ直ぐ走ってくれたなら方向は多分合ってる。間違ってたらごめん。

 

「もう安全でしょう。幸運を祈りますよ、ハリー・ポッター、アリス・ダンブルドア。ケンタウルスでさえも、惑星の読みを間違えた事がある。今回もそうなりますように……」

 

 彼はそう言ってアッサリと離れて行った。そうだ、ケンタウルスは人間に肩入れしないとかなんとか……確か原作だと人間を背に乗せるなんて、と仲間に怒られてたような。仲間何処行った。 

 ともかく、その仲間に見られない内に離れたんだろう。

 

 しかし私の名前まで知ってるのか。本当に謎な人だ。

 ここまで言っていた事は真実……惑星の読みとやらはとんでもないな。そりゃ星ばかり見るわ。

 

 

 

 さて、ユニコーンが見つかったなら罰則は終わり。

 ハグリッドが1人で向かい、私達はこのまま帰る事になった。

 私にはもうここが森のどの辺りなのか全く分からない。頼むぞ皆。

 

 と、ファングを先頭に……迷ってる気がするのを誤魔化しながら進んだ。

 どれだけ歩いたか、ようやく森を抜けると一気に脱力してしまった。

 

 あー……気が抜けたら今度は一気に眠気が……

 頑張れ、耐えるんだ私。流石に今日はシャワー浴びて寝ないと気持ち悪いぞ。

 

 

 

 

 

 

 翌日。まだ朝というか、全然寝れてなかったのにハーマイオニーに起こされた。眠いよ……

 どうやらハリーが私達を集めて考えを語りたかったらしい。

 

 朝食の場では話せないから、と談話室で話す為にとりあえず集まった。

 隅にあるソファに皆で腰かけ、ハリーは出来るだけ小声で話し始めた。

 

「石を狙ってるのは、ヴォルデモートだ。間違い無いよ」

 

 その名前を聞いた瞬間、ロンはビクリと顔を顰めた。

 魔法界で生まれ育ったなら、絶対に聞きたくも無い名前なのだ。

 

「クィレルはなんで石を狙うんだろうって思ってた。なんで僕を狙ったんだろうって。でも、彼の後ろにヴォルデモートが居たからなんだ」

 

「その名前を言うのは止めてくれ!」

 

 あー……まさしく文字通り彼の後ろに居るよ。具体的には後頭部に。ペッタリくっ付いてる。

 なんて冗談を言いたくなってしまったけれど、それは流石に言えない情報だ。

 

 ロンは堪らず叫んだ。過去の戦いを知らない子供ですらこの反応。

 どれだけ大人が『名前を呼んではいけないあの人』の事を言い聞かせてきたか分かる。

 

「でも大丈夫よ。ダンブルドアが居るわ……『あの人』が唯一恐れる人が。きっと、そうしてスネイプ先生もハリーを守ってたのね」

 

「石を守って、僕を守って、どうにかクィレルとヴォルデモートを捕まえるか倒すかする。その為に先生達は動いてるんだ」

 

 ハーマイオニーは冷静に考え、ハリーは今までの事を振り返って事態の全体像を掴もうとした。

 

「頼むからその名前――もがっ、んーっ!」

 

 私はソファの後ろに回り、再三名前に反応したロンの口を両手で塞いだ。

 頼むから騒がないでくれ。怖がるのは分かるけども。ちょ、そんなに暴れるな。

 

「で、ハリーはどうしたいの?」

 

「ヴォルデモートが石を手に入れたら、今度こそ僕を殺しに来る。だから傷がずっと痛むんだ……警告されてるんだよ」

 

 とりあえず、現状の彼が考えてる事を私も整理したい。

 そう思って改めて訊ねてみると、彼は額の傷を抑えながら顔を歪めて話し始めた。

 

 お爺様はどうにかして彼に石を守りに行かせる筈。

 だけどそれは、ハリーにその気が無ければまず無理な話だ。

 

「でも僕が何をしたところで、何の意味があるんだ。碌に呪文も覚えてないし、戦うなんて出来やしない。昨日だって、僕は蹲るしか出来なかったんだ」

 

「……ハリー」

 

 そしてまさかの、その気が無い展開かもしれない。

 お爺様が大丈夫と伝えてしまい、スネイプが守ってる事を知ってしまい、ある程度性格が変わったからか自分を客観視出来ている。

 原作の様に突っ走る程の無鉄砲さが無い。自分がまだまだ幼く無力な子供だと自覚しているのだ。

 

 私は思わずしみじみとしてしまった。

 どうしよう、これ。

 

「なんとかしなきゃ、って……傷の痛みに急かされる様な感じがするんだ。居ても立っても居られない。だけど……」

 

「まぁ、石を守るにしろハリーを守るにしろ……万が一の時は戦おうか。無力な子供だろうと、立ち向かう事は出来るよ。何もしなくたってどうせやられるなら、立ち向かった方がマシだもの」

 

 何かしら動きたいけど、何が出来るのか分からないから二の足を踏んでいる。そんな感じだ。

 それなら、事が起きた時に動けるだけの意思があれば良い。その背中を押すくらいはさせてもらおうかな。

 

「……そうだね」

 

 私が笑顔でそう言うと、彼も笑顔を返してくれた。若干上手く笑えてなかったけど。

 

「あー……アリス。私も色々と言いたいけど……まずロンが死んだわ」

 

「え? あ……」

 

 急に何を言い出すんだとハーマイオニーを見たけれど、ようやく気付いた。

 口を塞いでいたロンがやたら大人しいと思ってたんだよ。鼻まで塞がってたようだ。

 

「やば……死んじゃった」

 

「死んでないよっ! ていうか僕を殺す気か!?」

 

「ごめんごめん……」

 

 パッと手を離すと、物凄い勢いで呼吸を始めた。

 そして振り返ってなんとも正当な文句を叫ぶ。

 私は苦笑いしか出来なかった。

 

 

「まぁ……いいか。とりあえず朝食に行こうよ。僕、もう寝る前からお腹が空いててさ」

 

 私達のやり取りで気が抜けたのか、ハリーはそう言って立ち上がった。

 続いてロンも立ち上がり、彼らは歩いて行く。

 

 その後ろに私も続こうとすると、ハーマイオニーに腕を掴まれた。

 

「待って。ちょっと聞いておきたいの」

 

「え、何?」

 

 どうしたどうした、改まって。凄い真剣な表情だ。

 

「おかしいじゃない。『あの人』の宿敵であろうハリーが入学すると同時に、賢者の石が学校に隠されるなんて。まるで呼んでるみたいだわ」

 

 おっと……これは不味いかもしれない。

 

「だったら今までは何処に石があったのよ。何百年と存在していたのに、グリンゴッツにあると知れる前はなんで狙われてなかったのよ。わざととしか思えないじゃない。ダンブルドアは何を考えているの……?」

 

 これは……どうしよう。鋭過ぎないか、君。

 

「それを私が知ってるって、なんで……」

 

「明らかにあなたが浮いてるからよ。同じ新入生とは思えない程に実力も知識もあって……それが先生方に教えて貰ってたなんて。ハリーを身近で守る為なんじゃないの?」

 

 彼女には悪いけど、真実は私にも分からない。

 だけど、お爺様が態々私を引き取って英才教育をしたのは……確かにそういう目的なのかもしれない。

 

「ごめん……本当に私は何も聞かされてないよ。皆との友情を賭けてもいい」

 

 事件の全容を知ってるけど聞かされてはいない、それは事実だ。ズルイけどこれで誤魔化していくしかない。

 私だってお爺様に聞きたい事だらけだもの。

 

「ただ……まぁ、私の考えもハーマイオニーと同じかな。だから、私は私に出来る事を全力でやるだけだよ。毎日を皆と楽しく生きる為に、ね」

 

「そう……分かったわ」

 

 結局はそういう事なのだ。お爺様がどんな思惑で私を育てたとしても、私は私の夢の為に生きる。

 笑顔で言い切った私を見て、ハーマイオニーは溜息を吐いて納得してくれた。

 

 

「さぁ、行こう。今日も楽しく平和に暮らそうじゃないか」

 

「ええ。試験も間近だし、余計な事に気を取られてても仕方ないものね。勉強しなきゃ」

 

「ぐへぇ……」

 

 今度は私が彼女の腕を引いて歩き始めた。

 深夜に森を歩き回った所為で、私もお腹が空いてるんだ。さっさと朝食を食べたい。

 

 しかし隣からやる気の削がれるセリフが聞こえて項垂れた。せっかくの食欲まで削がれるから止めてくれ……





【ステューピファイ「Stupefy」】
失神呪文。相手を無駄に傷付けず戦闘を終わらせられるので重宝される。
ただし演出の為なのか、受けると吹き飛んで失神したりする。

基本的には失神するだけで済むが、複数人から纏めて受けると命に関わる。
移動している物体を止める効果もあるとか。



【デパルソ「Depulso」】
対象を吹き飛ばす。やたら吹き飛ばす呪文が多い気がするが、これは中々強烈に遠くまで吹き飛ばす呪文という印象。
実はアクシオの反対呪文らしい。


【ヴェンタス「Ventus」】
風を起こす呪文。ファンタスティック・ビーストで登場。
映画では杖先からつむじ風の様な物を放ち、人が吹き飛びかねない程の風を起こした。

何故か対象を絞る事が出来、広範囲で使っても特定の人以外にはそよ風さえ感じさせない事も可能。

どれ程の威力まで出せるかは不明だが、ここでは中々強めに設定した。
吹き飛ばすだけなら上記のデパルソ等で良いが、こちらは風を操るので範囲や方向も自在……という妄想。
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