ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第15話 試練 1

 試験は滞りなく進み、そして終わった。

 私は何の問題も無く満点かそれに近い成績を出せただろう。

 ハーマイオニーの様に満点を超える成績が出せるかと言うと、そんな気はしないけども。

 

 そこはもう実技で稼ぐしかない。流石に試験でまで厳しく見られているという事は無い筈だ。

 共通の基準が無ければ試験にならないもの。

 

 試験が終わった途端、生徒達は一斉に校庭に飛び出した。

 もうすっかり暑くなり、サンサンと陽射しが降り注ぐ中で解放感に浸っている。

 

 私達も例に漏れず、揃って湖の畔まで降りて草の上に寝転がった。

 なんという気持ち良さ。このまま寝てしまいたい。

 度々傷を押さえて不安そうにしていたハリーも、流石に今ばかりは多少気も晴れているようだ。

 

 

「ん……? ぶぁっ、何?」

 

 揃って大の字になり、目を瞑っていた私の顔の上に何かが降ってきた。手紙だ。

 驚いて目を開けると梟が飛んで行く所だった。随分と雑な配達だなコラ。

 

 皆も何事かと体を起こして私を見ている。

 手紙……誰だろう。

 

「あ……お爺様からだ。何かな」

 

 態々手紙を寄越すなんて、どんな用件で……と訝し気に開く。

 

「ダンブルドアから? 一体どんな手紙なんだ?」

 

「試験お疲れ様、とか?」

 

 気にはなっても人の手紙を覗き込む事はしないらしい。皆は傍で見守り、訊ねるだけだ。

 彼らの声を聞き流し、私はどうすればいいのか内心で頭を抱えた。

 

 手紙の内容は……今夜は少し出かけるという物だった。

 家族なのだからそういった連絡をしてもおかしくは無い。普段しないけど。

 しかしこれはもう、あからさまにそういう思惑だな。

 

 こんなどうしようもない手段で動かそうとするとは……他にやり様は無かったのか。

 さて、なら皆に伝えなければ。

 

「大変! 今夜はお爺様が学校から離れてしまう!」

 

「なんだって!?」

 

 手紙を突き出して、慌てた様に言った。

 下手な演技だったかもしれないけれど、内容が内容故に驚いて気にされなかった。

 

「ダンブルドアが居れば大丈夫って言ってたけど、居ないんじゃどうしようもないよ!」

 

「いくつも守りがあるから問題無いって事なのかしら」

 

 多分ちょくちょく出かけてると思うけどね。忙しい人だし。

 

 ロンとハーマイオニーは反応したけれど、ハリーは黙ったままだ。

 おかしいな、一番反応しそうなのに。

 どうしたんだろうと見てみると、彼は驚いた様に手紙を見ていた。

 

「……これ、この字! 透明マントを贈ってくれた人と同じだ! こないだ忘れたマントを届けてくれたのもそうだ! ダンブルドアだったんだ!」

 

 あ。やらかしたかもしれない。

 もー……なんで特徴的な字を書いてるんだよお爺様ったら。

 

「上手に使え……必要な時の為に……そうか。ダンブルドアは僕に行かせたいんだ。石を守る為に……違う、ヴォルデモートと対決させる為に!」

 

 良くない方へ察しが良いな! その通りだよ!

 

「そんな、どうして! 態々そんな危険な事をさせる訳が……」

 

「いや、今ならきっと危険じゃないんだ。アイツは力を失って、復活する為に石を狙ってるんだから」

 

「だったら尚更、君が行くまでも無くダンブルドアがぶっ倒しちゃえばいいじゃないか」

 

「それは……」

 

 それっぽい理由を思いついて、ハリーは熱く語る。

 しかしロンのまともな意見を聞いて押し黙った。

 

 もうこの際ハリーの考えに乗った方が良さそうだな。うん、そうしよう。

 

「きっと倒せないんだよ。死に損なってるって事は、倒せない理由があるんだ」

 

「それこそハリーが行く意味無いじゃない」

 

「宿敵だからだよ。どうしてか倒せないのなら、この先またハリーを狙ってくる。だから出来るだけ安全な今から対決させたいんだ。お爺様の試練なんだよ、これは」

 

 私もまた、それっぽい事を言っておいた。まぁこれはほぼほぼ真実なんだけど。

 

「試練……」

 

「ハリーの入学に合わせて賢者の石を置いて、ヤツを呼び寄せて……いつかの未来に備えてハリーに試練を課してるんだ。狙われてる事を教えて、それに立ち向かえる様に」

 

 確か明確な描写は無くとも、本当にそういう思惑で用意していた筈。

 敵を利用して、ハリーとその仲間になるだろう生徒への試練に変えてしまった。それが今回の事件だ。

 

 だって、石を鏡に隠すだけでもう手は出せないのだから。

 1年生にも突破出来る様な……むしろ突破法が用意されているなんて、守りに使える訳が無い。

 

「だから私が居る……隣で支えられる様に、私を引き取って育てて学ばせた。きっとそういう事なんだよ。なんで私なのかは分かんないけど」

 

 先日ハーマイオニーに語った様に、今度はハリーに伝えた。立ち向かうなら私も居るんだ、と。

 どうであれ彼は戦う運命にある。なら背中を押して一緒に戦おう。きっとそれが私の夢の為になる。

 

 

「どうせいつか狙われる……そうだよね。強くならなきゃ、立ち向かわなきゃ何にもならないんだ。僕、行くよ」

 

 お爺様の思惑を察して、それでもハリーは納得して立ち上がった。

 

「はぁ……そうよね、そうなるわよね。分かった、私も行くわ」

 

 先日私と話してから、ハーマイオニーはこうなる事を予想していたのかもしれない。

 当たり前の様にそう言った。

 

「全く、平穏な日常ってのはどんなんだろうね。いいさ、僕も行くよ。何が出来るか分かんないけど、ここでいってらっしゃいなんて言える訳無いだろ」

 

 続いてロンも、やれやれと頭を掻いて笑った。

 やっぱり当たり前の様に一緒に行くつもりなのだ。

 

 これが私の大切な親友達だ。

 当然の様に友の為に立ち上がって、一緒に進んでくれる。

 だったら私は、全力で戦おう。皆の為に。

 

「……ありがとう」

 

 そんな私達を見て、ハリーは驚きながら礼を言った。

 

「今夜だ。今夜、4人でフラッフィーの先……仕掛け扉の奥に行こう」

 

 彼の決意を聞いて、私達は頷きを返した。

 

 

「あれ、でも待って。透明マントって4人も入る?」

 

 しかし水を差す訳じゃないけど、私はそこが不安だった。

 いずれにせよ見つかったら罰則だ。今度こそ大量に減点されるだろう

 

「それは……多分大丈夫かな。アリスは小さいし――イテッ」

 

 ハリーの足を踏んでやった。笑うな! 全く、失礼な……

 

「誰が学年ダントツで小さいって?」

 

「そこまで言ってないよ……でも実際――痛い痛いっ」

 

 そりゃ私は小柄だし、この1年も全然成長してくれなかったけどさ。

 人の身体的特徴を笑うな、しっかりコンプレックスなんだぞ。

 

 おまけで踏んだ足をグリグリしてやった。

 来年は一気に成長してやる……ちくしょう。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。私達は人の消えた談話室に集まった。

 皆ちゃんと制服に着替えている。いつかの様にパジャマで突撃する事は無さそうだ。

 

 マントに全員が隠れられる事も確認した。

 何故入るんだ……私はそんなに小さいのか。良かったけど屈辱だ。

 

「よし……行こう」

 

 改めて覚悟を決めた様にハリーが呟き、歩き出した。

 私達もそれに続き――

 

「何処に行くんだい?」

 

 驚いて飛び跳ねた。

 

「――っ、ネビルっ!?」

 

 一斉に声のした後ろへ向き直ると、そこにはネビルが居た。

 いつものおっとりした顔じゃなく、真剣な表情だ。

 

「また夜に出かけるなんて……今度こそ見つかったら大変な事になるよ。せっかくアリスに庇って貰ったのに……なんで今度はアリスまで居るのさ」

 

「その……君には分からない事だけど、これはとても重要な事なんだ」

 

 ハーマイオニー並みに正しい事を忠告され、ハリーはなんとかならないかと口を開いた。

 

「分かるよ。あのでっかい犬が居る所に行くんだろう。なんか……賢者の石とかいうのを守りに」

 

 なんと分かってしまっていた。わーお。

 そういえばいつだかロンが説明しちゃってたんだったか。

 

「なんで私達が今夜行くって……」

 

「あの湖の畔に、誰も居なかったと思う?」

 

「居たんだ……」

 

 あちゃー、うっかりしてたなぁ……

 確かに離れた所にウィーズリーの双子とか居たけど、もっと近くにネビルが居たなんて。

 

「石とか『例のあの人』とか、よく分からないし怖いけどさ。僕は……僕も戦う!」

 

「は?」

 

 まさかの言葉に、私達は硬直した。

 だからパジャマじゃなくて制服だったのか。ハリーとロンが部屋を出るのを見て付いてきたんだな。

 

「ちょ、何言って……」

 

「アリスが言ったんじゃないか! 立ち向かえって! 僕だって、君達に並びたいんだ!」

 

 言ったけど……まさかこうなるとは。

 でもそうか、彼の境遇を考えたら……友達が闇の魔法使いに立ち向かおうとしていたら気にならない訳が無い。だって彼の両親は……

 最悪の減点が無く、原作よりも精神的に成長している今の彼には、私達に付いて行くという判断が出来てしまったんだ。

 

 私達は揃って口を噤み、どうしようかと見つめ合った。

 しかし答えが出るのは思いの外早かった。

 

「分かった。行こう、ネビル。一緒に立ち向かおう」

 

 私達は笑顔で、彼を迎え入れた。

 ハリーの言葉で彼もまた、笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 と、言う訳でまさかの5人で進んでいくのだけれど……

 

「せまい……」

 

「我慢して、アリス」

 

 流石にネビルまで加わるともなればマントに収まらなかった。

 どれだけギュウギュウに詰めても、どうしても皆の膝から下が隠れなかったのだ。

 

 しかしそこは私の腕の見せ所。全員に目くらまし術を掛けてやった。

 マントと違って透明にはなれないけど、この程度なら暗い廊下での誤魔化しは効く……と信じたい。

 

 ただ、それでも身を屈めてグリグリと押し合う様なすし詰め状態。歩きにくいったらない。

 

「アイタッ、誰だよ足踏んだの!」

 

「何処よ足って!」

 

「ひゃっ!? ちょ、誰お腹触ってるの!」

 

「ごめんっ、違うんだ!」

 

 そして目くらまし術を併用した弊害が1つ。

 それは、狭いマントの中でお互いが酷く見えづらくなるという事だった。

 

 それで押し合う程に密着してるのだからもう事故だらけだ。

 小声で叫びながらノロノロと進む私達は、ただ見つからない事を祈るしか無かった。

 

 

 

 そうして祈りながら、ミセス・ノリスをやり過ごしピーブズをやり過ごし、なんとか奇跡的に無事4階の廊下の扉へと辿り着いた。

 

 既に開いていた扉へ恐る恐る忍び込む。

 フラッフィーは起きていて、こちらの方を向いて鼻をヒクヒクさせ嗅ぎ回った。マズイ、匂いでバレてる。

 

「一応、笛を持ってきたんだ。クリスマスにハグリッドがくれたんだよ」

 

 ハリーがそう言って、恐らく笛とやらを取り出したらしい。

 少しの間を置いて、メロディーとも言えない音が響き出した。

 

 するとフラッフィーは一瞬でトロンと瞼を落とした。なんて単純な……こんなんで良いのか。

 

 しばらくすればゴロンと横たわってグッスリと眠り始める。

 それを見て私は目くらまし術を解いて、皆は一斉にマントから飛び出した。

 

「吹き続けてくれ」

 

 ロンはそう言って、ソーッと仕掛け扉の方へ近づいて手招きした。

 続いて私達も、出来るだけ音を立てない様に歩く。

 

「くさい」

 

 フラッフィーの頭に近づいた時に熱い鼻息が吹き付けられた。

 怖いのもあるけどただ臭かった。

 

「開いたよ……でも真っ暗だ。階段も無い。落ちるしかないみたいだ」

 

 ロンがサクサクと進んで扉まで開けてそう伝えた。

 そこへ笛を吹き続けて息苦しそうなハリーも近づいてくる。

 

 どうにか合図をして、自分が最初に飛び込むんだと言いたいらしい。

 

「ん? あ、私? オッケー。ふふっ……間接キスだね」

 

 そして目配せで私に笛を渡そうとしてくる。

 どうしよう、吹けるかな……まぁいいか。適当に音を鳴らすだけで寝てくれるみたいだし。

 

 そう思って快諾し、ついつい冗談を飛ばしてしまった。

 途端ハリーは噴き出して、プピーッ! と大きな音が鳴った。

 

「ちょ、なんて音出してんの! 起きちゃうじゃん!」

 

「変な事言うからだろ! いいから吹いててよ!」

 

 笛の音が消えた瞬間、フラッフィーが唸ってピクピクと動き出した。

 嘘でしょ、こんなすぐに目を覚ますの? 寝るのも早ければ起きるのも早いのか。

 

「ヤバ、不味い早く!」

 

「分かってるって! ん? あれ……」

 

 私とハリーは小声で叫び合い笛が渡った。

 その中で私はある物を見つけた。そうか、クィレルが先に来てるなら無きゃおかしいか。

 

「ちょっと、早く!」

 

「大丈夫、待ってて」

 

「これ以上何を待てって!?」

 

「良いのがあった。レパロ!」

 

 遂にハーマイオニーとロンまで叫び出したけれど、私は冷静にそれに近づく。

 そして修復してすぐに魔法を掛けると、綺麗な音楽を奏で始めた。

 

 いや、別にそこまでして間接キスが嫌だったとかじゃないぞ。

 もっと良い方法があるから使っただけだ。

 

「ハープ?」

 

「多分クィレルが使ったんだね。追われた時の事を考えて、壊してから飛び込んだんじゃないかな」

 

 まぁそういう事なんだろう。フラッフィーの陰に隠れて見えてなかったんだ。

 ちゃんとした綺麗な音楽だと眠りも深いのだろうか……さっきよりもグッスリな気がする。

 

 

「どうする、皆一緒に飛ぶ? 前のネビルの時みたいに、呪文でゆっくり降りようか?」

 

 ともかく、これでちゃんと皆で話し合うくらいの事は出来る様になった。

 皆で飛んで、私がクッション呪文で速度を緩めてやるのが一番良いだろう……と提案してみる。

 

「そうだね、それが良い。どうなってるか分からないし、お願いアリス」

 

 むしろ話し合うまでも無く、顔を見合わせ頷き合いすぐに決まった。

 とりあえず笛は返しとこう。おい、複雑そうな顔するな。嫌だった訳じゃないんだって。

 

「……よし、行くよ。せーのっ!」

 

 私の合図で、皆は一斉に扉の先へと飛び込んだ。ひえー、怖い。

 私は絶叫系も苦手なんだ。ダメダメだな私って。

 

 

 

 しっかりと全員にクッション呪文を掛け、ゆっくりと降下……無事に着地した。

 

 部屋は薄暗くて目が慣れるまではあまり見えない。

 悪魔の罠だと知ってる私はともかく、皆には植物の上だという事しか判断出来ていないだろう。

 

 私は少し悩んで、ルーモスを唱える事はしなかった。

 ここでは私は出しゃばりたく無い。

 

 恐らくだけど、これは原作からしてネビルの試練だと思う。

 結局彼は金縛りで放置されてしまうけれど、本来なら今の様に参加していたんじゃないだろうか。

 なにせ彼は将来教授として勤めるくらいに薬草学が得意なのだ。

 

 

「なんだ? 思ったより軟着陸だな」

 

「とりあえず皆近づいて――うぎゃっ」

 

 呑気なロンの声の方へと私は歩き、すぐに転んだ。

 もう既に巻き付かれていたのか。

 

「アリス、大丈夫?」

 

「大丈……夫じゃない!? ヤバイヤバイッ! 触手プレイは嫌だー!」

 

 そして転んでしまったのは最悪だった。

 心配するハリーに答えようとした瞬間、一気に全身へと巻き付いて来たのだ。

 

「え、何、何が起きてるの?」

 

「っ、皆自分の体を見て!」

 

 不安そうなネビルの脚も既に巻き付かれている。

 そこでようやくハーマイオニーが事態に気付き叫んだ。

 

 途端にハリーとロンは混乱し、振り解こうと暴れ出す。

 

「悪魔の罠だ! 動いちゃ駄目だよ、余計に巻き付いちゃう!」

 

 逸早くネビルが植物の正体を見抜き、慌てながら対策を教えてくれた。

 そうか、動けば動く程……よし、落ち着け、冷静になれ私。

 

「そう、悪魔の罠よ! えーと……どうやってやっつけるんだったっけ……」

 

 一拍遅れてハーマイオニーも対処法を思い出そうと頭を捻る。

 

「大変だ! アリスが根っこに食われてく!」

 

「たすけてー」

 

 私を見てロンが慌てて叫んだ。そう、私は転んで全身に巻き付かれてしまい、引き摺り込まれていっているのだ。

 下は根っこが折り重なっていて、そこへ頭からズブズブと沈んでいく。

 

 ネビルの助言通り、努めて冷静に、そして暴れずに……沈む。あれ、駄目じゃない?

 

「意外と呑気……じゃなくて! ネビル、ハーマイオニー、どうすればいい!?」

 

「これは暗闇と湿気を好むんだ! だから火か光を当てれば……」

 

「でも薪が無いわ!」

 

 ハリーも慌てて2人の知識を求めた。

 しっかりと答えたのはネビル。そしてあの名セリフをハーマイオニーが言った。

 

「遂に馬鹿になっちゃったのか!? 君はそれでも魔女か!」

 

「そうだった! あ……でも杖が抜けないわ……」

 

「なんだよもう!」

 

 残念、どうやら腕まで巻き付かれて杖を抜く事が出来ないようだ。

 

「誰か杖を抜ける人は……居なさそうね」

 

 嘘でしょ、どうしろってのさ。私は沈んでるから無理だぞ。ていうかもう苦しい。

 

 

「アリス……は……うわっ」

 

「こっちもこっちでヤバイ。ごめん見るつもりは無かったよ」

 

 私の状態を確認したロンとハリーがなにやら別の意味で慌てた。

 そうして気付いた。自分が思った以上に酷い状態だと言う事に。

 

 頭から飲み込まれて沈んでいってる以上、逆さまになっていくのだ。スカートを穿いているのに。

 つまり、尻を突き出してパンツ丸出しの状態でモゾモゾしている。最悪だ。

 

「ちょっ……なんて恰好してるのよ! はしたないわ!」

 

「言ってる場合か! 早く助けてよ! これ以上醜態を晒させないで、お願いだから! ていうか見ないで!」

 

 そんな説教要らないよ! どれだけ恥ずかしいと思ってるんだ!

 今なら顔から火が出て悪魔の罠を引っ込める事が出来そうだ。むしろなんで出来ないんだ。

 

「でも杖が……」

 

 そうだったなちくしょう。本当にどうにかしないと冗談抜きでマズイんだけど!?

 

「ハリー! もうちょっとだけこっちに寄れる!? 僕ならハリーの杖に届きそう!」

 

 ネビルがそう言っているのが聞こえた。頑張れ、頼む!

 

「届いた! よし、ルーモス!」

 

 どうにか杖を抜けた様で、ネビルが呪文を唱えた。

 

「やった! よくやったネビル!」

 

「おまけよ、ルーモス・ソレム!」

 

 途端締め付ける力が緩んでいった。そこへハーマイオニーが更に強烈な太陽の光で照らした。

 根っこの隙間からでも明るい光が見えた。どんどんと引っ込んでいく。

 

 

「助かったー……いや待って、照らすなー! 丸見えどころじゃないじゃん! 見るなー!」

 

 私はホッと一息吐いたけれど、自分の恰好を思い出した。明るくされたら余計に恥ずかしい。

 なんで緩んだ筈なのに抜けないんだ! 助かってないよ、助けて! あーもう、こんな恰好でジタバタしたくないのに!

 

「アリス、いつまで埋まってるのよ!」

 

「だってコイツら引っ込んじゃってもう抜けない……」

 

 そう、引っ込むという事は根っこの方へ戻って行くのだ。

 そして私が引きずり込まれているのは根っこ……つまりギッチリと詰まっている。本当に最悪だ。

 

「もう! どうにかして皆で引っ張るわよ!」

 

「え、嘘でしょ。今の恰好見てよ。いや見ないで。頼むからせめてハーマイオニーだけで……」

 

 とんでもない事を言い出した。

 この状態で男子達に引っ張ってもらう……? 殺してくれ……

 

「無理よ。ほら、皆も手伝って!」

 

「最悪……人生最大の恥辱だ……」

 

 こんな辱めを受ける事があるのだろうか。

 皆が寄って来るのが分かる。泣きたい。泣いた。

 

「あー……出来るだけ見ない様にするから」

 

「目瞑った方が良い?」

 

「僕もう目瞑っちゃった、何処?」

 

 男子連中の声は今だけは聞きたくない。

 気を利かせるなら何も言わず一瞬で引き抜いてくれ。

 

「もう好きにして……」

 

 めそめそと泣きながら、私は諦めて呟いた。





【目くらまし術】
呪文名は不明。透明になるのではなく、保護色の様に周囲に溶け込むとされる。
ただし、実力があれば本当に透明になれてしまうらしい。

原作でみぞの鏡を見るハリーの元に現れたダンブルドアが言っていた「マントが無くても透明になれる」とはこの事だと思われる。

一部の魔法生物を飼う場合はこの呪文を掛ける事が義務付けられている。
そう考えると、透明になる程の実力でなくとも中々にしっかり隠れる事が出来るのだろう。

ゲームでは半透明、かつ視界に入れば気付かれる。あくまでゲームとしての演出やバランスを考えての物と思われる。



【ペトリフィカス・トタルス「Petrificus Totalus」】
全身金縛り呪文。原作では止めに来たネビルをこの呪文で石の様に黙らせ置いていく。
両手両足がバチーンと閉じられ硬直する。口も含め全身が動かせなくなるが、視界と思考はある。

ただし両手両足が閉じられずそのままの姿勢で固まるシーンも複数あり、詳細は不明。

石の様に硬直するだけで、石化呪文では無い。
が、語源から考えると「全体を石に」の様な意味になるらしい。



【ルーモス「Lumos」】
杖先に光を灯す、1年生が最初に習う呪文。
ノックス、と反対呪文を唱えると消える。

杖無しで使用したら手や指が光る……という事もなく、離れた杖が光るらしい。杖が遠過ぎたら発動しない。
あくまで杖先限定っぽい。映画では派生のマキシマで照明弾の様に放って辺りを照らすシーンがあるが、まぁ気にしない方が良いだろう。

光にはかなりの熱があり、発火に気を付けなければならないとか。本当かよ。

ちなみに現実のスマホには、ルーモスと言うとライトが付く物があったりする。



【ルーモス・ソレム「Lumos Solem」】
太陽光を放つ呪文。
原作には登場せず、映画で悪魔の罠に対して使われた。
その際、日本語訳ではルー「マ」ス・ソレムとなっている。
発音的にそうなるのか正確な所は分からないが、ここでは派生と分かりやすくする為ルー「モ」ス・ソレムに。

実は中々に高難易度な呪文とされるが、それは映画の後に設定が作られたらしい。
手首の特定の動きで光量の調整が可能。
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