ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第16話 試練 2

「はは……いきなりこんな目に遭うなんて……もう帰っていい? 忘れたい……」

 

 精神的には特大ダメージを負ったけれど、身体的には無事引き抜いてもらう事が出来た。

 今は揃って安全な壁の方へ移り、私はぐったりと壁にもたれかかって天井を見つめていた。

 

 勿論、なんでスカートを直してから引っ張ってくれなかったんだと文句を言った。

 しかしスカート含め服は植物に巻き込まれてしまっていて、先に直すのは無理だったらしい。

 

「現実逃避してないで、さっさと行きましょう」

 

 ハーマイオニーが冷たい。同じ女の子なら恥ずかしさを理解してよ……いや理解してるから触れない様にしてるのかも。

 

「そ、そうだね……行こうか。その、何も見てないよ……」

 

「うん……まぁ、見てたとしても忘れるからさ……」

 

「えっと、元気出して」

 

 うるせぇ。年頃の男子が見てない忘れる訳無いだろ。しかも生足までガッツリ触っておいて。

 私を誰だと思ってる。お前達より倍以上長く男で生きてたんだぞ。男の事くらいずっと分かってるわ。

 

 魂が抜けた様にボケーっとしている私を置いて、皆は歩き出した。

 おい、本当に行くのか。もっと心配しろ。クソ、仕方ないな……分かったよ進んでやる。

 

「待ってー」

 

 パタパタと扉の先の廊下を駆けていくと、すぐに皆の背中に追い付いた。

 どうやら次の扉を開けてどうしたものかと眺めていたらしい。

 

「で、次は何?」

 

 背中越しに部屋を覗き見た。勿論知ってるけど、確かにこれは中々に悩む光景だな。

 

 さっきとは打って変わってかなりの広さと明るさの部屋だ。

 そして宝石の様に輝く小鳥がその部屋一杯に飛び回っている。

 

「部屋に踏み込んだら、アレが一斉に襲い掛かって来るとか……?」

 

「ありそうだけど……何にせよ行くしかない」

 

 ロンが不安そうに言い、ハリーはそれでも一歩を踏み出して走った。

 しかし何も起こらず、彼はそのまま奥の扉まで到達。皆は一安心してそれに続いた。

 

「駄目ね、呪文じゃ開かない……」

 

 その分厚い扉を皆で押したり引いたり、ハーマイオニーが呪文を唱えたりしてもビクともしなかった。

 

「鳥をよく見て。あれ鍵なんだよ」

 

「本当……だ? 分かんないけど……よく見えたね」

 

 私のヒントに皆は目を細めて鳥の群れを眺めた。

 ハリーは既に部屋の観察に移っている。

 

「箒だ! これで取れって事だよ。本物の鍵を見つけるんだ」

 

「でも何百って居るよ! こりゃ大変だな……」

 

 ご丁寧に5本の箒が用意されていた。なんともまぁ……

 ロンは果てしない試練に項垂れた。

 

「えー……今度は飛ぶの? またパンツ見えるじゃん……」

 

 そして私は不満を漏らした。別にやる気を削ぐつもりは無いし、言うつもりも無かった。

 どうやらさっきの精神的ダメージが大き過ぎて、私の頭は駄目になってるようだ。

 

「ちょ、止めてよ。私まで気になっちゃうじゃない」

 

 同じ恰好のハーマイオニーも顔を赤くしてスカートを押さえた。

 飛行訓練の時はどうしてたんだよ君。

 

「君らさぁ……」

 

 真面目さに欠ける私達を見てロンが呆れた。

 ごめん、そんなつもりじゃないんだ。本当に。

 

「僕は飛ぶよ……ロンもお願い。ネビル、飛べる?」

 

「いいともさ」

 

「僕……やってみるよ!」

 

 男子連中は真面目だ。

 うーん……申し訳無いし手を貸そう。

 

「なら……イモビラス!」

 

 彼らが飛び立つ瞬間、私は呪文を部屋中に向けて唱えた。

 これで動きが止まってくれれば――

 

「あら、残念。駄目か……」

 

 そんな簡単に行く筈も無く、ほんの一瞬止まっただけですぐに動き出した。

 

「あっさり終わるかと思って期待しちゃったじゃないか」

 

「ごめん……」

 

 しかもロンに怒られた。なんで。

 

「でも一瞬だけでも止まるなら使えるよ。目当ての鍵を見つけたらお願い」

 

 フォローありがとう。

 

「よし……仕方ない、私も飛ぼう」

 

「そうね。気を付ければ大丈夫よね」

 

 呪文が殆ど効かないなら、低空でも飛んでた方が役に立つだろう。

 そう判断して私達も箒に跨り飛び出した。

 

 

 

「予想通り、大変なんてもんじゃないな」

 

 物凄い数の鍵の群れの中をしばらく飛び回っていると、ロンの呟きが聞こえた。

 鍵はとにかく素早く、とてもじゃないけど簡単に捕まる物じゃなかった。

 

 スカートがどうとか言っていた私も、気付けば普通に飛んでいた。もう気にしてる場合じゃない。

 むしろあれだけガッツリ見られたならもう別に良いやと諦めた。

 

 ネビルもあの飛行訓練が嘘の様にちゃんと飛んでいる。

 決して速くは無いけれど、恐怖を乗り越えたのだ。

 

 そしてハリーは流石、最年少のシーカーだった。

 

「あれだ! あの銀色の大きい鍵! 青い羽の奴だ! 羽が片方だけ曲がってる!」

 

 闇雲に捕まえようとする私達とは違い、目当ての鍵を探し当てた。

 

「皆で追い込もう! それから呪文で一瞬でも止めてくれれば、僕が捕る!」

 

 彼の作戦通り、私達は目標を絞って動き出した。

 流石に5人で囲もうとすれば決着は早い。

 

「今だ!」

 

 其々が上下左右とあっという間に追い込み、呪文を唱え、ハリーがまさに一瞬で掴み取った。

 

「急ごう、コイツ凄い暴れる!」

 

 そのままの流れで全員着地し、ハリーがなんとか鍵をねじ込んで扉を開ける。

 開いた瞬間に鍵は手を抜け出し、飛び去って行った。2度も捕まった所為か、羽を酷く痛めた様な飛び方だ。なんか可哀想……まぁいいか。

 

 

 

 

 

 

 次の部屋は更に驚くべき物だった。少なくとも知っていた私以外にとっては。

 

「これは見れば分かる。進むにはチェスをしなくちゃならないんだ」

 

 ロンの言う通り、部屋には巨大なチェス盤があった。

 こちら側には黒い駒、向こうは白い駒だ。

 

 彼は1人で観察し、駒に触れて命を吹き込み、どういう試練なのかを調べて行った。

 

「マズイな……これ、僕らが1人1つの駒になって参加しなきゃならないんだ」

 

「よく分かんないけど、チェスをするなら任せるよ」

 

 顔を青くしたロンの言葉にハリーは気軽に答えた。

 私も完全にお任せしよう。勝手に動いたら終わる。

 

「つまり……僕らはそれぞれが駒の役割をして進むんだ。だから、もし取られたら……」

 

 ロンのその先の言葉は続かなかった。

 皆がゴクリと息を呑み込み、どうなってしまうかを想像した。魔法界のチェスは駒が駒を壊したりするのだ。

 

 しかしそうか、ロンが青い顔でマズイと言った意味が分かった。

 原作と違って今は5人。本来の3人でもロンは自分を犠牲にする。

 チェスの駒は16個。その中で特定の5人を取られずに勝つなんてのは、きっと難しいなんてもんじゃないだろう。

 

「なんにせよ、もうやるしかないんだ。ロン、お願い。君の言う通りに動くよ」

 

 覚悟を決めたハリーの声に、皆は賛同した。

 そうするしかないのだ。とんでもないプレッシャーを掛けられたロンには悪いけど、頑張ってくれ……

 

「よし……じゃあ僕はナイトと代わる。ハリーはビショップ、ハーマイオニーはルーク、ネビルもビショップで……アリスはクイーンだ」

 

 配役が決まったようだ。うん、分からん。どれがどれだっけ?

 

「なるほどね。まぁ私ならクイーンも当然……」

 

「別に意味は無いよ。出来るだけ被らない様にしただけさ」

 

「あ、はい」

 

 分からないけどクイーンというのは悪くない……気がした。

 和ませようと冗談を言ったら普通にバッサリ斬り捨てられた。

 

「本当はハリーをキングにしたいけど、どうやらキングは代われないみたいだ」

 

 そうなのか。ポーン以外の5種の駒にそれぞれ代われたらピッタリだったのに。

 しかし代わる駒が被ってしまうのは本当に難しそうだ。私には応援しか出来ない。頑張れ。

 

「始めよう……」

 

 言われた通りに私達は駒と代わり、盤上に立った。

 そして酷く緊張したロンの声で戦いが始まった。

 

 

 

 駒は何の容赦も無かった。想像以上の激しさだった。

 石像である駒が動き、叩きつけ破壊し、盤外へ引き摺り出す。やられた駒はピクリとも動かず横たわり、それを見る度に全員が身を震わせた。

 

 どれだけ戦いが続いたか……私には戦況が全く分からない。

 ロンが常に必死に考え、走り回り、私達を救ってくれているという事だけは分かった。

 

「詰めが近い……」

 

 疲労困憊なロンはそう言って、更に深く考え始めた。

 疲れただけじゃなく、酷く苦しそうに顔を歪めている。

 

「駄目だ……もうこれしか手は無い。ネビル……ごめん」

 

 そして絞り出す様に伝えた。本当に悔しそうに、苦しそうに、申し訳無さそうにしている。

 

「……そういう事なんだね? 分かった……やれよ! 僕だって何の覚悟も無しに来てないぞ!」

 

 それを聞いてネビルは、臆病な彼らしくも無く叫んだ。

 彼も本当に変わった……自棄になってる節はあるけど、それでも理解して受け入れた。

 

「そんな!」

 

「聞いて! まず、ネビルが斜め右に2つ進んで取られる。その後僕が進んで、あのクイーンに取られる。そうしたらハリー、君が動ける様になるからキングにチェックメイトを掛けるんだ!」

 

 堪らずハーマイオニーが叫び、ロンはそれを遮って作戦を皆に伝えた。

 

「2人を犠牲に……でも……」

 

「行かなきゃならないんだろう!? ここまで来て逃げるのか!? 行くんだハリー!」

 

 渋るハリーにロンが大声で活を入れた。

 

「……大丈夫、きっと死にはしないよ。私も防御呪文を唱えるから!」

 

 死ぬ筈は無いけど流石に怖い。

 だから取られる時は、私がプロテゴを掛けよう。

 

 ただし盤が広くて遠いから難しい。守り切れないかもしれないけど……やらないよりはマシだ。

 それに試練なら盾の呪文くらいは許容してくれるだろう。

 

「頼むよアリス。じゃあ……進もう」

 

「うん……行くよ」

 

 そうして、犠牲となる2人は覚悟の決まった表情で頷き合った。

 

 まずはネビル。言われた通りに動き、敵の駒に殴られる……瞬間、私は盾の呪文を唱える。

 

「プロテゴ!」

 

「――っ、うわぁああっ!」

 

 やっぱり距離があると難しい! 現れた障壁はまるでガラスの様に砕け、ネビルは盤外へと吹き飛ばされた。

 ほんの少しだけ攻撃が止まり、威力は抑えられた筈。だけど彼は地面に転がり動かなくなった。

 

「ネビルッ!! あぁ、そんな!」

 

「動いちゃ駄目だ、ハーマイオニー! 次は僕が行く!」

 

 思わず駆け出そうとした彼女を止め、ロンは進んだ。

 そして敵のクイーンが近づく。

 

「お願いアリス! 後は頼んだ!」

 

 再度プロテゴを唱えたけれど、やはり多少威力を抑える程度で砕け散る。

 彼もまた盤外へ殴り飛ばされ動かなくなった。

 

 私達はもう声が出なかった。今やるべき事を思い出すので精一杯だ。

 

「……行って、ハリー。2人が心配なら、まずこの戦いを終わらせなきゃ」

 

「分かってる」

 

 今すぐ駆け寄りたいと誰もが思ってる。だけど勝手に動いては、せっかくの彼らの犠牲を無駄にしてしまう。

 だから私はハリーの背を押した。

 

「チェックメイトだ!」

 

 ロンの作戦通りに、ハリーはキングを追い詰めた。

 もう逃げる事は出来ない。戦いは終わりだ。

 

 キングは王冠を脱ぎ、ハリーの方へと投げ出す。

 すると駒は一斉に整列し、扉への道を作ってお辞儀をした。

 

「ネビル! ロン!」

 

 戦いが終わるや否や、私達は2人の元へ駆け出した。

 揺らさない様に魔法で丁寧に運び、彼らを扉の近くへ寝かせる。

 

「大丈夫、気を失ってるだけだよ。怪我も擦り傷くらい……魔法のチェスだからかな」

 

「多分、そうね。先生方の試練なら、大怪我はしない様にしてるかもしれないし……」

 

 大きな石像に殴り飛ばされたと言うのに、転がった擦り傷程度しか怪我が無かった。

 容体を確認して、ハーマイオニーはこれが試練として用意された物だと思い出したようだ。

 

「良かった……本当に」

 

「どうする? 蘇生呪文で起こしても良いけど……」

 

 安心したハリーへ、私は一応の確認をした。

 気を失ってるだけなら目覚めさせる事は出来る。

 

「いや……寝かせておこう。あんな覚悟を見せてくれた2人にこれ以上甘えられない。ロン、ネビル、休んでてくれ」

 

 それに対するハリーの答えは、なんとも彼らしい優しい物だった。

 

「分かった、行こう」

 

「うん」

 

「ええ」

 

 彼らを置いて行く事に申し訳無さを感じつつも、私達は頷き合って先へと進んだ。

 次はなんだっけ……スネイプの論理パズル?

 

 

 

 

 

 

「くさっ!」

 

「う……なんだコレ」

 

「酷い臭いね……」

 

 扉を開けると悪臭が漂った。そうだ、次はトロールだった。

 でも確か……クィレルが倒してくれてるお陰でスルーだったような……

 

「――っ、走って!!」

 

 鼻を抑えながら薄暗い部屋へと入った瞬間、私は叫んだ。

 嘘でしょ、なんで起きてるんだ!?

 

「プロテゴッ!」

 

 飛んできた瓦礫を間一髪で防ぎ、2人を急かしながら走る。

 

 軽く5メートルはありそうなトロールが居た。まさかの鎧を纏っている。調教されたトロールだ。

 いやいやっ、こんなんじゃなかったでしょ!?

 

 これまた巨大なこん棒を持っているけど、もう片方の手には瓦礫が握られている。

 マズイッ、また投げてくる!

 

「早くっ! 次の扉に!」

 

 混乱した2人の脚は遅い。とにかく急かし、私は再度盾を張って防ぐ。

 投石の次は雄叫びを上げながらこちらへ走ってきた。

 

 駄目だ……これじゃ扉の先へ進んでも、扉を壊して追ってきそうだ。通れるかは分からんけど。

 でもどうせ次のスネイプの試練を通るのはハリー1人になるだろう。薬が増えてる可能性もあるけど……引き返す可能性を考えたら放置は出来ない。

 

「私がここで抑えるから! 2人は先に進んで!」

 

「そんな! 何考えてるんだ!? あんなの相手に1人でなんて!!」

 

「そうよ、私達も一緒に……!」

 

 扉を目前にして私は横へ逸れて叫び、適当に呪文を放ってトロールの注意を引いた。

 当然彼らが認める訳も無いけれど、ここはそうするしかない。

 

「駄目だよ! 碌に戦った事も無いのにいきなりこんなヤツとなんて!」

 

「それはっ……」

 

「でも……」

 

 彼らはハロウィンでトロールと相対していない。しかもどう見てもそこらの野生とは違う。

 初めての戦いでこんな敵を相手にするのは無理がある。

 

 戦いに使える様な呪文なんて1年生じゃ殆ど習わないんだ。

 ハーマイオニーは使えるかもしれないけど……それでもやっぱり、今はまだ1年生なのに頭が良い女の子でしかない。

 

「どれだけ呪文を知ってたって、実戦で上手く戦える訳じゃない! コイツは手加減なんてしてくれない! 今度こそ死んじゃうよ!」

 

 動き回って、避けて、防いで……実戦は厳しい。私だってこんなのは初めてだけど、戦い自体は教え込まれてる。

 戦いを知らない2人を守りながらじゃ、とてもじゃないけど勝ち目が無い。ハッキリ言ってしまえば足手纏いだ。

 

 試練だから安全? これに限ってはそんな訳が無い。

 だってこれを用意したのは……クィレルだ。追手を考えての物なのかもしれない。こんな所が変わるなんて予想外だ。

 

「――っ、でも……」

 

「いいから行けぇっ!」

 

 扉を開けて私を待ち、戦うか逃げるか悩み続ける2人を私は突風で扉へ押し込んだ。

 しっかりとトロールにも呪文を放って引き付けている。これで大丈夫だ。後は私がコイツを倒せばいい。

 

 正直自信は無い。でもやるしかない。やってやるさ。

 トロール1匹とやり合えないで、この先どうやって戦うっていうんだ。

 

 

 

「さぁ、ここからが本番だよ」

 

 ヤツは私を敵と認識して構えた。

 どうするか考えてたって仕方ない。とにかく攻撃だ。

 

 トロールは頑丈な皮膚のお陰で魔法が通じにくい。

 ドラゴンとかよりはよっぽどマシだけど、それでも厄介なのは変わらない。

 おまけにあの鎧だ。生半可な呪文じゃ効果は無いだろう。

 

「コンフリンゴ!」

 

 まずは火の玉を飛ばし爆発をお見舞い。

 胴体に直撃したけれど大して気にされていない。怯むくらいはすると思ったんだけどな……やっぱりあの鎧か。

 

 しかし火というのは通じる気がする。どれだけの防御だろうと熱は通るだろう。

 連発してみるか……?

 

「もいっちょコンフリンゴ! そらっ! インセンディオ!」

 

 何発も放った事でヤツは爆炎に呑まれた。おまけに直接炎をぶっ放す。

 どうだ……多少のダメージにはなったか?

 

 そんな風に甘く考えて、油断していた事を私は全力で後悔した。

 

「なっ……嘘っ!?」

 

 思いの外素早く炎から飛び出してきた。

 そうだ、どれだけウスノロだろうと体がデカければ1歩もデカい。

 こんなの簡単に詰められてしまう距離だったんだ。

 

 既にこん棒を振り被っている……間に合わない!

 

「プロテゴッ――ぐぁっ!?」

 

 避けられないと思って咄嗟に盾を張ったけれど、殆ど意味は無かった。

 またしてもガラスの様に砕け、私は物凄い力で殴り飛ばされた。

 

「あ……ぐ、ゲホッ……」

 

 床を転がり、壁に叩きつけられて止まる。

 多少和らげた筈だけど、たった1発で意識が飛び掛けた。視界が歪んでる。

 口に血が滲む……内臓までやられたんだろうか。全身が痛い……多分肋骨とかイッてると思う。

 

 あんな大口叩いていきなりこの様か……なんて情けない。

 けど、やらなきゃ。

 

 ヨロヨロと立ち上がり、覚束ない足取りで歩き出す。ただの呼吸さえ痛くて苦しい。

 だからって動けないなんて言ってられない……止まるな、死ぬぞ。

 

「エクスペリアームス!」

 

 あの厄介なこん棒をどうにか出来ればと、武装解除を放った。

 ただ、これは予想通りの結果だ。適当に放ったって通じてない。せめて直接こん棒に……止まってくれれば狙えるのに。

 

 それにしても、最初は瓦礫を投げてきたのに今は拾いもしない。

 防がれると学んだのか……調教されるだけの知能があるんだな。

 

 だけど逆に、殴ればいいと学んでる訳だ。だったら願ってもない。

 鬱陶しがって近づいてこん棒を振り上げろ……来い。

 

「来たっ! インペディメンタ!」

 

 思惑通りヤツはこちらへ走り寄り、振り上げた所へ妨害呪文を放つ。

 少しでもいい、効いてくれ!

 

 呪文は直撃し、ヤツの動きが遅くなった。ここだ!

 

「エクスペリアームス!」

 

 今度は直接こん棒を狙い、遂に手から離れた。

 それを浮遊呪文で操ってヤツの上へ――

 

「ディセンド!」

 

 ただ落とすだけじゃなく、呪文で思いっきり叩き落す。

 あれだけ大きなこん棒が相当な速度で脳天に落ちれば、兜を付けていてもダメージになるだろう。

 

「よしっ!」

 

 これはやはり効いた様で、ヤツはフラフラしている。

 それなら今がチャンスだ。何でもいいからぶっ放せ!

 

「ステューピファイ、ディフィンド、コンフリンゴ、インセンディオ!」

 

 思いついた呪文を手当たり次第に放つ。1発ずつじゃなく、無言呪文も織り交ぜてひたすらに。

 効いてる……多分効いてる、ちょっとは。

 

 とにかく撃ち続けていくと、ヤツはズリズリと後退っていった。

 

「やっぱりあの鎧を……試してみるか」

 

 なんにせよあの鎧をどうにかしないとまともにダメージが入らない。

 隙間を狙ってたってジリ貧だ。

 

「アグアメンティ! 濡れろ濡れろ!」

 

 今度は嫌がらせの様に大量の水をぶちまけていく。

 お次はコレだ。

 

「グレイシアス! 凍っちゃえ!」

 

 猛烈な冷気を放ち、びしょ濡れのトロールはどんどん凍り付いて行く。

 呪文を止める事はせず、ひたすら凍らせていけば――

 

「はぁっ、はぁっ……ふぅ……よし」

 

 巨大な氷像の完成だ。私は一気に押し寄せる疲労と激痛を堪え、更に次の手の準備に入る。

 

 原作じゃ描写されてなかったと思うけど、呪文を使うにはやはり『何かしら』を消耗する。MP的な物を。

 大した呪文じゃなくともこれだけ連発すれば疲労はかなりの物だ。何より最初の1発で体がボロボロなのだ。

 正直これで終わってほしいけど、無理だろう。既に氷に罅が入ってきてる。

 

 だけどこれを直撃させれば……これはまだ難しいから、集中する時間が欲しくて凍らせたんだ。

 

「エクスパルソ!!」

 

 コンフリンゴより更に強力な爆発だ。

 これだけの大爆発を受ければ、結構効いたんじゃないだろうか。

 

「あれ……やった?」

 

 むしろヤツの鎧は砕け、仰向けに倒れ込んだ。

 所々の肉が抉れ、裂けて焼けて、血が流れている。あまり見たくないけど予想以上の結果だ。

 動いてないけど……死んだ?

 

 ゆっくり近付いて様子を伺い、そしてまた油断した。

 倒れたまま大きな手が振り抜かれ、私はまたしても殴り飛ばされた。

 

「がっ!? あぁぁああっ!」

 

 きっと骨や内臓がやられてただろうに、追加で強烈に殴られ堪らず絶叫した。

 今度こそ数秒意識が飛んだ。血を吐いて転がり、立ち上がる事も出来ない。

 

 その間にヤツは起き上がり、こん棒を拾おうと歩きだした。

 マズイ……拾われたらもう……いや、むしろチャンスだ。

 

 あえてヤツが拾う為に身を屈ませるまで待ち、私は唱えた。

 

「ヴォラーテ・アセンデリ……ッ」

 

 途端、こん棒は物凄い勢いで跳び上がりヤツの顔面をカチ上げた。

 さっきの爆発で兜も吹っ飛んでるからモロに入った。

 まだだ……続けて食らえ。

 

「ディセンド」

 

 そのまま高く飛んだこん棒を、再度叩き落す。

 下から上から、頭を思いっきり殴られてヤツは堪らず倒れた。

 

 

 確認なんて要らない。まだ終わってないと思え。

 私はズリズリと這って距離を取ろうとしたけれど、ヤツもまた這ってこちらに近づいて来た。

 

「しぶといな……クソ……これ以上どうすれば……」

 

 案の定だ。本当にマズイ。

 私よりも遥かに大きな体で這うものだから、もう追い付かれてしまった。

 

 のっそりと起き上がりこちらへ手を伸ばす。

 もう相当なダメージを受けてる筈なのに……頭もカチ割られてかなりの血を流している癖に。

 どうすれば倒せるんだ……

 

 大きな手が迫る。必死に抵抗しても何の意味も無く、あっけなく私は掴まれた。

 

「くっ……やめろっ……ぐぁ……あぁぁあああっ!!」

 

 掴まれたまま高く掲げられる。握り殺すつもりなのか、どんどん力が込められていく。

 ミシミシと骨が軋み、何処かの骨は折れた。既に折れていただろう骨は更に砕け内臓へ突き刺さる。

 激痛なんて物じゃない。もう視界は真っ白になって意識は曖昧だ。 

 

 投げられたら終わり、このまま潰されても終わり。

 万事休す……な訳が無い! 諦めて堪るか! こんな所で死んで堪るか!

 

 幸いにも杖を持った腕は下を……ヤツの顔面へ向いている。

 この距離じゃ自分も食らうだろうけど、悩む時間は無い。

 やらなきゃどうせ殺される。

 

 だったらもう、制御なんか知った事か。

 ありったけを食らえ。

 

「ボンバーダ・マキシマ!」

 

 ヤツの顔面へと、特大の爆発を放った。

 物凄い光と音が広がり、爆風で私は高く吹き飛ばされ、遂に意識までもが飛んだ。

 

 最後に見えたのは……ずっと下でトロールが大量の血を噴き出し、今度こそぐったりと倒れ伏す所だった。





【イモビラス「Immobulus」】
対象の動きを止める呪文。
似た様な効果の物との違いはやはり曖昧。
この呪文はマグルの防犯アラームや暴れ柳等も止める事が出来る。
映画ではハーマイオニーが部屋中のピクシーを停止させた。原作では2匹程度。



【プロテゴ「Protego」】
大抵の呪文や物理的な攻撃を防ぐもしくは反射まで可能な、目に見えない盾を作り出す呪文。
見えない筈だが、演出の都合なのか半透明にされる事が多い。
飛んできた呪文の光で朧げに見えたりするとかなんとか。

重要なんてもんじゃない呪文ではあるが、まともに扱える人は多くないらしい。
特別高難易度という訳では無いらしいので、仕事にしろ決闘にしろ戦う事を考える人以外は使わないのだろう。
もしくは一時的にヴォルデモートが倒され平和ボケしたのかもしれない。高々十数年だけれど。



【エネルベート、リナベイト「Enervate」「Rennervate」】
蘇生呪文。蘇生はつまり意識を回復させる事であり、死者蘇生ではない。
失神呪文の反対呪文とされるが、複数を受けた場合には効果が無い。
強力な魔法によって意識を失っている場合は難しいようだ。

死者蘇生ではないのだが、死霊術と併用するとまさしく蘇生……に近い事になる。つまりゾンビ。

エネルベートと呼称されていたが、それは間違いらしくリナベイトに変更された。似ているが意味はまるで違うとか。
日本語訳のリナベイトもちょっと怪しい。レネルベートと書かれる場合もあるっぽい?



【衝撃呪文】
簡単に言えば通常攻撃。記念すべきゲーム1作目から登場。
フリペンド・ノックバック・ジンクスという名前に聞き覚えのある人は多いかも。

しかしホグワーツ・レガシーではフリペンドが全く違う効果に変わった。
普段撃ちまくってる通常攻撃が何の呪文なのかは不明。

なのでここでもレガシーと同じで、フリペンドではなく無言が前提の衝撃呪文という設定にした。
まぁ多分、攻撃の意思でもって杖を振れば何かしら出るのだろう。火花とか飛ばせるらしいし。



【コンフリンゴ「Confringo」】
皆大好き爆破呪文。使い勝手が良い印象。
炎を放つが区分としてはあくまで爆破。

威力に優れ、昔から決闘等の戦いに使われてきたそうだ。
というか誕生の経緯からして決闘の為だったらしいので、とにかく戦いに特化した呪文なのだろう。



【インセンディオ「Incendio」】
こちらは炎を放ち炎上させる呪文。
恐らく出力を調整可能で、何かに火を付ける事から攻撃まで幅広い。
火を使うなら殆どこれで良いのでは。
意外にも学ぶのは薬草学であり、危険な植物への対処の1つとして教えるようだ。



【エクスペリアームス「Expelliarmus」】
原作ハリーのお気に入り、武装解除呪文。
訳が結構ごちゃ混ぜになっているが、発音としては「ズ」ではなく「ス」になる。

攻撃は最大の防御とはよく言った物で、敵の武装……つまり殆どの場合は杖を手放させる。
体ごと吹き飛ばしたり杖だけを飛ばしたり、飛ばした杖を自分の方へ向けて奪ったり、実力や制御や当たり所で効果が地味に変わるようだ。



【インペディメンタ「Impedimenta」】
妨害呪文。動きを遅くしたり、止めたり、吹き飛ばしたりと効果は曖昧。
戦闘で使われる事が多いので恐らく使い勝手が良いのだろう。
イモビラスが広範囲の弱い妨害、こっちが単体の強い妨害……とか?



【ディフィンド「Diffindo」】
切断呪文。ホグワーツ・レガシーでは魔法の刃の様な物を放つが、そうではない描写も作品によってはある。
意味としては斬るより裂くの方が近い。実力次第では非常に高い精度で使えるが、そうでないなら危険な呪文。

対象によっては当然ちょっと切れる程度にしかならなかったり。
原作ではスネイプが凍った湖を割ったりしていた。



【アグアメンティ「Aguamenti」】
水を生み出し操作する、インセンディオの反対呪文。
これも恐らくいくらでも調整可能。飲料水としても使える。

無から生み出した物は長持ちしない設定があるが、飲んだ後に喉が渇くのかは不明。
まぁ水分なんてそこらにあるので無からではないとも考えられるが。



【グレイシアス「Glacius」】
ゲームから登場、冷気を放つ呪文。
特にそれ以外に言う事の無い呪文。
強いて言うなら調整の幅が広く、ただ冷やす事から極度の冷気まで制御出来るようだ。



【エクスパルソ「Expulso」】
強力な爆破呪文。描写は色々で、炎を伴う爆発だったり青い光を放っての衝撃波だったりショボイ爆発だったりする。
ゲームではマシンガンみたいになった事も……何故?

なんにせよ設定としては強力な爆発、もしくは衝撃波だというのは確からしい。
ここでは単純により強力な炎の爆発と設定した。コンフリンゴの上位版。
強力な分、まだ未熟な主人公は制御の為に数秒の集中を必要とした。



【ディセンド「Descendo」】
対象を下降させる呪文。
ホグワーツ・レガシーでは中々に鬼畜な呪文で、浮かせた敵を物凄い勢いで地面に叩きつける。



【アセンディオ「Ascendio」】
物体を上昇させる呪文……なのだが、術者本人を上昇させているシーンしかない為詳しい効果が不明。
湖の中からハリーが水面へ飛び出す際に使った。
ニュートは地形を上昇させたが、やはり本人がそこに乗っていた。



【ヴォラーテ・アセンデリ「Volate Ascendare」】
上記の上昇呪文が曖昧だった為、今回はこちらの呪文にした。
対象を物凄い勢いで上へ跳ね飛ばす。
あのロックハートが蛇に使ったやつ。なんで使った?

英語版では字幕が「Alarte Ascendare」になっていたらしく、発音について議論があったとか。



【ボンバーダ「Bombarda」】
またまた爆破呪文。これも描写がかなり曖昧。
ホグワーツ・レガシーでは青い光の爆発で攻撃し、炎上しない。
エクスパルソの描写の1つを引っ張ってきたのかもしれない。

炎上はしないが着弾点が焦げてたりするので、熱は相当にあるのだろう。
雷の様なスパークが若干見えたりもする。
結構な威力があるようで、何かしらを破壊する為に使うシーンが多い。
ここではレガシー準拠、強化版の方をイメージした。


エクスパルソと違って、こちらはマキシマという派生がある。
マキシマは強化する為に追加で唱える物。追加可能かどうかは呪文によるらしい。
ゲームでは他に、デュオ、トリアと様々な呪文に強化版が存在するが、マキシマが一番上っぽい。
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