ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

18 / 56
ダンブルドア視点から主人公視点へ。


追記
後書きに「未成年の匂い、魔法の痕跡」についての解説を追加しました。


第18話 1年の終わり

 大騒ぎの夜は終わった。

 朝になった今は、生徒達は皆慌てて荷物を纏めている頃じゃろう。

 わしはセブルスと共に、この1年を振り返っていた。

 

「あの……お爺様……お願いがあるんだけど……」

 

 そんな中、アリスが校長室へ恐る恐る入ってきた。

 何かあればいつでも来なさいと合言葉は教えてあったからの。

 

 さて……何の用か、なんて聞くまでもなかろう。

 

「ふふふ……見送りに行きたいのじゃろう? 構わんよ……終わったら向こうの、何処かの路地にでも隠れなさい。わしが……いや、ミネルバを迎えに行かせよう」

 

「あ……ありがとう」

 

 迎えに行かせるのはミネルバが良かろう。彼女は大層、アリスを心配しておったしの。

 そのまま家に帰って、団欒の時を過ごすのが一番じゃろう。

 

 わしがそう伝えると、アリスは朗らかに笑顔を見せた。

 一体何をそんなにビクビクしておったのか……怒られるとでも思っておったのじゃろうか。

 

 

「しかしアリス。その前に少々お話をせねばなるまい。あの夜の事について……」

 

「う……」

 

 まぁどちらにせよ話をしておきたかったのは変わらぬ。

 そう思ってあの夜について切り出してみると、アリスはしょんぼりと俯いた。

 

 やはり怒られると思ってしまっているようじゃ。全く、そんな筈が無かろう。

 

「もっと自分を大切にするのじゃ……わしは相当に肝を冷やしたぞ」

 

 わしだけではない。ミネルバの取り乱し様は凄まじかった。

 アリスが治療を終えて戻ってきてからも、彼女らしく他の生徒達の前だからと堪えておったが……きっとすぐにでも駆け寄って抱き締めたかった筈じゃ。

 

「ごめんなさい……油断して大怪我しちゃって……逃げられなかったから……」

 

「ふん……あれ程の醜態を晒した理由が油断とは。生温い指導が良くなかった様ですな……トロール1匹に情け無い」

 

 申し訳無さそうに俯くアリスへ、セブルスが厳しい言葉を投げた。

 

 決して生温くは無かったと思うんじゃが……

 というか自分だってケルベロスに脚を……いや、何も言うまい。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「これ、セブルス。あのトロールを倒して生き延びただけ褒めるべきじゃろう」

 

 彼の所為で余計に沈み込んでしもうた。

 しかしなるほど、アリスがビクビクしながら顔を見せた理由が分かった。

 こうなると予想しておったんじゃな。セブルスはちと厳し過ぎるのぅ……

 

 そもそも油断と言うならわしもじゃ。先んじて知っていた守りと違うとは……普通のトロールならばと放置してしもうた。

 追われた時の事を考えて、わしが学校を離れてから別のトロールに変えたのじゃろう。用意周到な男じゃ。

 こればかりはわしの落ち度じゃな。

 

「未熟な事を褒めるなど……これでは先が思いやられる。今後はより一層厳しく鍛えなければなりませんな」

 

「セブルス」

 

 わしが口を挟んでも尚続けおった。流石に可哀想じゃから強めに止めておこうかの。

 

 しかし彼もこんな事を言っておるが、あの時わしとミネルバの後ろで珍しく心配そうに焦っておったのを知っておるぞ。

 彼も多少は変わったようじゃな。一層厳しく鍛える……そうしたいと思った理由は、果たして戦力として見ているだけかね?

 極稀にでも……なんて言っておったのは何処の誰じゃ。

 

 まぁ、これもまた態々言う事ではない。言った所で認めはせんじゃろうしな。

 

 

「なんで……どうしてそこまで私を鍛えるの?」

 

 しまった、セブルスの言葉の所為で……どう答えるべきか。

 

 勿論とっくにこの疑問は持っておったじゃろう。それでも直接聞いてきたのは初めてじゃ。

 真実はまだ……伝えるには早い。いや違う……わしの心の準備が出来ておらん……全く情けない事じゃが。

 

「アリス、それは……」

 

「ハリーを近くで守る為……だよね? それは……私が孤児で利用しやすかったから?」

 

 真実は予言ではあるが、そういう意味もあるとは言える。

 何より、孤児だからこそ引き取り教育出来たという面は確かにあるのじゃ。

 じゃが利用しやすいから選んだ訳では無い。

 

「違うっ……違うんじゃ……出生や境遇など関係無い……」

 

「じゃあ、私だから……私じゃなきゃ駄目な理由があるって事?」

 

 そんな事を考えさせてしまっていた事が心苦しい。

 慌てて否定をしたが、それで終わる話ではない。

 アリスでなければならなかった理由……それを伝えるという事は、予言を伝えるという事。

 

 ハリーもそうじゃったが、それは酷な事じゃ。

 理不尽に運命を定められ戦いに身を置かされる……幼いこの子らが知るにはまだ早い。

 

 散々利用しておいて何様なのか……そもそも、これも勝手に判断しているだけじゃ。

 結局わし自身が踏み切れないだけなのじゃろう。何処までも愚かで情けない……

 

「そっか……やっぱり私も、ハリーみたいに戦う運命なんだね」

 

「アリス……」

 

 わしが何も言えずにいると、何かを察した様に呟いた。

 答えない時点で言っているのと同じじゃ。聡い彼女なら分かってしまうじゃろう。

 

 むしろ本当に、知っておったのかもしれん。自分の未来を……

 

「まぁ、薄々分かってたよ。どう考えてもおかしいしさ」

 

「……済まぬ。わしは……」

 

 憎まれる事も恨まれる事も覚悟しておったつもりじゃが……そんな覚悟なんて何も出来ておらんかった。

 いい加減、腹を括る時なのかもしれん――

 

 

「別に良いよ。どんな理由だろうと、私のやる事は変わらないもん」

 

 わしが覚悟を決めようとした瞬間、アリスは眩しい笑顔でそう言った。

 なけなしの覚悟など、その笑顔の前では吹き飛んでしもうた。

 

「もし私がただの子供だったとしても、友達が戦う運命なら隣に立つよ。皆と一緒に笑って生きたいから……」

 

 この子は……本当に。わしには眩し過ぎる。

 こんな子を戦いの駒として利用している自分が、どんどん惨めになっていく。

 

 わしはもう何も言えんかった。

 いや、何を馬鹿な事を……言わなければならないのじゃ。

 少なくともわしの気持ちだけでも。

 

「信じて欲しい……どんな理由があったとしても、わしは君を、本当に家族として愛しておる」

 

 どれ程罪悪感に苛まれようとも、それだけはずっと変わらぬ。

 

 愛しているからこそ、伝えなければならぬ。

 愛しているからこそ、簡単には伝えられぬ。

 

 済まない……愚かなわしが心を決められるまで……もう暫し待っておくれ。

 

「うん……私も……こんな最高の世界に連れ出して育ててくれた皆を愛してる。どんな理由だって良いよ……今が幸せだから」

 

 こんなわしでも、子を愛する事くらいは許されるじゃろうか……

 変わらず笑顔でそう言い切るアリスを、わしはただ抱きしめるしか出来なかった。

 

 誓おう。全身全霊でもって、この子を愛し護ろう。

 それが償いであり、わしの望みじゃ。

 

 

「さぁ……もう行きなさい。きっと皆は移動を始めておる時間じゃ……」

 

「うん……」

 

 名残惜しいが、見送りに行くならもう時間が無い。

 そう伝えるとアリスは少しだけ赤い顔をして、校長室を出て行った。

 

 

「……勝つぞ、セブルス。どんな過酷な戦いになるか分からぬ……いつ終わるかも分からぬ。それでも、勝つのじゃ。あの子らの未来の為に」

 

「……今更ですな。元よりそのつもり……吾輩は揺るぎませぬ」

 

 その小さな後ろ姿を見送り、わしは改めてハッキリと声に出した。

 予言からしてヴォルデモートを打ち倒すのはハリーじゃ。わしでは無理なのじゃろう……それでも足掻こう。

 その為になら……あの子らを護る為なら、わしは何だってしよう。

 

 その言葉に、珍しく眉間の皺が少なく見えるセブルスも応えた。

 往こう……どれ程苦しい戦いでも、その果ての未来を生きる子供達の為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

「休暇中は魔法を使わないように……なんて、酷いよな」

 

 皆で汽車に乗り込み、コンパートメントに入ってしばらく。流れる景色を眺めているとロンが不満そうに呟いた。

 勿論、皆というのは……ハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビル、私の5人だ。

 

「やっぱり駄目なのよね……勉強だけじゃなくて呪文の練習もしたいのに」

 

 ハーマイオニーもやはり不満そうだ。

 

 ちなみに試験の結果は……勿論私が1位。

 彼女は物凄く悔しそうだった。ははは……安心したまえ、その内君が追い越すよ。

 

「あれ……? でも私、入学前に呪文を沢山練習してたわ。アレは良かったのかしら?」

 

 しかし思い出した様に首を傾げた。そういえばそうだったか。

 

「入学前は関係無いんじゃない?」

 

「変なの……」

 

 これは正直分からん。原作でも語られてなかった筈。

 まぁ、入学前の子供は魔法を暴走させてしまうと言うし……そんなのを一々探知してたら堪らないって事なのかな。

 

「なんで使っちゃ駄目なんだろう」

 

「当然、マグルに見られたら大変だからだよ。隠蔽には沢山の大人が動くからね」

 

 ネビルもまた首を傾げた。そりゃ、魔法族からすれば家族が使ってるのを見て育ってるからね。

 使うなと言われてもピンと来ないのは仕方ない。

 

「未成年の匂いっていう魔法が掛けられてるんだ。凄い危ない言葉だけど……変な物じゃないよ」

 

 皆も多分知らないだろうから、良い機会だしお勉強といくか。でもちゃんとした名前は忘れた。

 

 これは一体いつ掛けられたのか、全く分からない。

 入学前は関係無いなら、入学してから掛けられたんだと思うけど……そもそも掛ける物でもないのかな。

 

 しかし字面だけだと本当に危険な名前だな。未成年の匂いって……ある意味ヤバイ匂いがプンプンする。

 

「未成年、つまり17歳未満の人の周りで使われた魔法を探知する魔法だね。何処何処の未成年魔法使いの近くで魔法が使われたぞ、って魔法省に分かっちゃうんだ」

 

「え、でもそれって……」

 

 簡単な説明をすると、ハーマイオニーが鋭く反応した。

 流石、頭が良いな。

 

「うん。明確に誰が使ったかは判断出来ないから、大人の魔法使いが居る場所じゃ実質無意味なんだ」

 

「そうなのね……て、やっぱり私は使えないじゃない」

 

「僕もだ。せっかくダドリーに使ってやろうと思ったのに」

 

 例えば原作ではドビーの魔法を探知され、その近辺には未成年のハリー以外に魔法使いが居なかった故に警告を受けてしまう。

 なんともガバガバで不公平な魔法だ。

 

 損をするだけのハーマイオニーとハリーは残念そうに嘆いた。

 ていうか彼は何しようとしてんだ。

 

「じゃあ僕とネビルは使えるんだ。なんだ、兄貴達どころかパパもママも教えてくれなかったよ」

 

 そういう事になる。けど多分お兄さん達も知らないんじゃないかな。

 というか御両親が使わせないかもしれないけど。

 

「私も使い放題だよ。だってホグズミードって魔法使いしか居ない村だからね」

 

「ズルイわ……」

 

 私は全く気にする事無く使える筈だ。ていうか使うつもりでいる。

 もっともっと強くなりたいからね。修行修行。

 

 ハーマイオニーが悔しそうに睨んできたから、じゃあ泊まりに来て呪文の練習する? と言いかけて止めた。

 それはちょっとハリーが可哀想だ。後々手紙で呼ぶかもしれないけど、この場では止めよう。

 

 流石の私も男子を泊めるのはちょっとね。そもそもハリーはあの家に居なきゃいけないんだし。

 

 

「そういえば、アリスってどうやって生活してるの? ダンブルドアとかマクゴナガル先生だって、常に居る訳じゃないんだろう?」

 

 そのハリーは気になったのか、今更な質問をしてきた。

 簡単にしか話してないから気になるのも当然か。

 

「夏休みは頻繁に来てくれるけど、基本1人だよ。それでもホグワーツの屋敷しもべ妖精が世話をしてくれてたけど……今年からはどうなるんだろう」

 

 家事の殆どは彼らにお任せだった。とは言えあまり親交は無かったけど。

 

 だって彼らはホグワーツでは姿を見せない様にしてるんだ。

 その癖なのか、私の前でもあまり姿を見せてくれない。

 

 それでも会話はあったし、個人的にも感謝と尊敬はある。

 決して下に見る事無く敬意を持って接してたから、割と私は好かれているらしい。

 

 なんてのは今はどうでもいいか。

 

「屋敷しもべ妖精?」

 

「あー……えっと、なんか凄い魔法が使える、主人の為に働く事が大好きな人達。説明すると長いから自分で調べて」

 

 しまった、ハーマイオニーに興味を持たせてしまった。

 例の活動は止めてくれよ……説明も面倒だからぶん投げよう。彼女なら自分で調べられる筈だ。多分。

 

 

 

 その後もゆっくりと時間は過ぎていき、別れが近づくのを忘れた様にまったりしていた。

 

「ちょっと皆、もっとどんどんお菓子減らしてよ」

 

 ただし大量のお菓子を消費しながらだ。

 お見舞いで山になっていたお菓子を減らさないと大変だからね。

 

「いや多過ぎるよ。僕の分もあるんだもの」

 

 しかもハリーのお見舞いの分も含めてだからとんでもない数になっている。

 彼の方は寮でだいぶ消費してあった様だけど、それでも合わせると凄い山だ。

 

 流石にこれだけの山を消費しなきゃならないと考えると、お菓子でも嫌になりそう。

 

「それでも食べて。こんなに持ち帰ったら、私は夏休みの間に太っちゃうよ」

 

 私を想ってのお見舞い品なんだ。捨てるなんて出来やしない。

 かといってこれを1人で食べるとなると、私のお腹が大変ご機嫌な事になるだろう。

 

「じゃあアリスも百味ビーンズ食べてくれよ。僕はさっきから変な味が続いてさ……」

 

「えー……」

 

 其々に押し付ける様にお菓子を置いていく私に、ロンが百味ビーンズを差し出してくる。

 思わず私は顔が引き攣った。

 

「正直これ、もう食べたくないんだけど……仕方ないな」

 

 あの味を食べたらもう……ね。

 

 受け取ったついでに隣のハーマイオニーにも差し出した。

 彼女は適当に1つを摘まみ、私は念入りに混ぜた。ハズレは嫌だ。絶対嫌だ。

 

「何があったの?」

 

「汽車で会った時に食べたやつがゲロ味だったんだって。本当に吐いちゃってた」

 

 誰に聞いたか、ハーマイオニーの声にハリーが答えた。

 

「…………」

 

 そっと手が伸び、箱へ1粒落ちていった。おいこら。

 

「戻すな!」

 

 すかさず取り出して、しっかりと彼女の手に握らせた。

 凄く嫌そうな顔だ。ビーンズ自体は何回も食べてるでしょーが!

 

「んー……これだ!」

 

 いい加減混ぜるのを止めて手を突っ込む。

 適当に選んだ物を1つ摘まんで、勢いのまま口へ運び……いや待って、何か今凄い見覚えのある色だったよ!?

 

「――っ、んーっ!!!」

 

 案の定だ! 本当に最悪だ!

 私は大急ぎで窓を開けた。前回ので慣れたとかは無い。むしろアレの所為で余計に素早く吐き気が襲ってきた。

 

「ゲボロロロロ……」

 

 またかよ……何回吐くんだ私は……

 ごめんね、後ろの車両の人。もしかしたらまたぶっかかってるかも。恥ずかし過ぎる。

 ごめんね、お見舞いにお菓子をくれた人。あなたのくれたお菓子はゲロになって飛んでったよ。

 

「……君、逆に凄いよ」

 

 若干引いてるロンが嬉しくない誉め言葉をくれた。

 うるせぇ。ゲロ食わすぞ。

 

「アリス……また?」

 

「はぁ、はぁ……まただよ!」

 

 ロンどころかハリーも、むしろ全員が引いていた。

 そしてハーマイオニーは思い切って食べ、ホッと安堵していた。何故。

 

 恥ずかしいやら腹が立つやら、苦しかったやら。私は涙目の赤い顔で叫んだ。

 

「もう嫌い! もう絶対食べてやるもんか!」

 

 私は誓った。

 金輪際、百味ビーンズは食べない。

 

 

 

 

 

 

 マグルに紛れる恰好へ着替え、汽車を降り、やたらと時間を掛けてプラットホームを抜けていく。

 一気に生徒がキングス・クロス駅に飛び出すと大変な事になるからだろう。誘導員みたいな人が居て送り出していた。

 

 そうして人の波に流され、改札を通り、生徒達は家族に迎えられて去っていく。

 羨ましい……とは思わない。私だってお爺様やマクゴナガル先生が居てくれるんだ。

 

 しかしまぁ、行き交う生徒が私達に笑顔で手を振っていくから皆苦笑いだ。

 すっかり人気者だな。私とハリーは元からだけど。

 

 

 その内ネビルがお婆さんを見つけ、私達にお別れを告げて走って行った。

 ちょっと話してみたいけど……物凄い厳しい人らしいから怖いかも。

 遠目だけれど、頭を下げておいた。お婆さん、ネビルは凄く成長したよ。

 

 大して間を置かず、今度はウィーズリー家が大集合だ。

 そういえばちゃんとした挨拶はしてないから、ここでしておきたいな。

 

「どうも、アリス・ダンブルドアです。お会いした時はちゃんと挨拶出来なくてすみません。ダンブルドアの名前を出さずに友達を作りたかったので……」

 

「ええ、ええ。聞いてるわ。まさかダンブルドアに養子が居たなんて、驚いたわ。これからもウチの子達と仲良くしてちょうだいね」

 

「勿論です」

 

 という訳でモリーさんに改めて挨拶。

 兄弟の誰がどういう風に私の事を伝えてたのかは知らないけど、とりあえず印象は悪くないようだ。

 

「……ねぇ、ロン。僕の気の所為かな……アリスよりロンの妹さんの方が年上に見えない?」

 

「気の所為じゃないと思うよ。ジニーは確かに成長したみたいだけど……アリスの成長が遅過ぎるんだ」

 

 聞こえてるぞコラ。むしろ聞こえる様に言ってるのかコラ。

 喧嘩なら買うぞ。

 

「確かにあなた、随分と小さいわねぇ……ちゃんとご飯は食べてるの?」

 

「た、食べてます。小食だけど……」

 

 モリーさんも聞いていた様で、頭を撫でられた。擽ったい。

 

「そう? いつでもウチに遊びにいらっしゃい。歓迎するわ。沢山食べさせてあげる」

 

「あはは……その時はよろしくお願いします」

 

 いやだから小食なんで……

 遊びに行ったら本当にたんまり食べさせられそうだ。

 まぁ、それはともかく遊びには行きたいかな。ウィーズリー家は楽しそうだから。

 

「アリスがあんなにちゃんと話してるのって珍しくない?」

 

「確かに。いつも冗談言ったり適当な事言ってるのに……」

 

 だから聞こえてるっての。

 

 

 

 

 とまぁ、軽く挨拶を済ませて見送った。

 だっていくら恰好を整えたって魔法使いの一団は目立つ。いつまでものんびりしていられないんだ。

 

 ハリーを迎えに来たダーズリー一家は、私の予想以上に……何と言うか酷かった。

 子供相手にあんな目を向けられるなんて。それどころか私達全員にも同じ様な目を向けていた。

 

 魔法が使えないのは残念だけど、それをダーズリー達は知らないから脅してやる。なんて事を言いながらハリーは笑顔で帰っていった。

 無理だと思うけど彼の心穏やかな夏休みを祈ろう。

 

 ハーマイオニーの御両親ともちゃんと挨拶をして、何故かまたしても頭を撫でられた。

 こっちはこっちで、彼女が随分と私の事を手紙に書いて伝えていたらしい。

 それをバラされて顔を赤くして恥ずかしがっていた。何を書いていたのやら……

 

 

 そうして最後には私だけがポツンと残され、一気に寂しさが押し寄せて来た。

 しかしボケッと立ってたって仕方ない。回収に備えて駅の近くの路地へと隠れる様に移動した。

 

「アリス、もうよろしいですね? 帰りましょうか」

 

 すると後ろから声を掛けられた。マクゴナガル先生だ。

 姿現しの音がしなかったって事は、待たせてたみたいだ。

 

「はい。待たせてしまってすみません」

 

「あらあら……もう夏休み、学校では無いのですよ。今まで通りで構いません」

 

 返事をして振り向くと先生は笑った。

 入学以前の気易い態度で良いらしい。そう言った彼女も学校の時とは違ってとても優し気だ。

 

「うん……」

 

 言われた通り、甘えさせてもらおうかな。

 

 私は先生の前だと、意識してなくても自然と見た目相応の子供らしい態度になってしまう。

 以前までは自分でも理由は分かってなかったけど、今の私なら分かる。分かる様になれた。

 

「さて、あなたとは色々と話したい事もありますし……今日はゆっくりと食事しながらお話しましょうか」

 

「久々だ」

 

 付き添い姿くらましに備えて手を握り、嬉しいお誘いをしてくれる。

 これは本当に珍しいのだ。四六時中学校に居なきゃならない先生なのだから仕方ない。

 

「まぁ……その前にたっぷりとお説教をしますけれど」

 

「げ……」

 

「お説教をされるとは思ってなかったのですか? これは長くなりそうですね」

 

「ごめんなさい……」

 

 言ってる事は恐ろしいけど口調は優しい。

 しかしだからって安心してはいけない。ここから雷が落ちるのが先生だ。

 

 ひとまず先に移動、という事で……私達は誰にも気づかれる事無く、路地から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 マクゴナガル先生は私の母親の様な存在だ。

 歳が大きく離れていたって、本当にそう思ってる。

 

 魔法界へ連れ出され、親も知らず殆ど独りで生活する事になる私を大層心配してくれた。

 忙しい中でどうにか時間を見つけて、その度に私の元へ来て沢山の事を教えてくれた。

 厳しく、優しく、温かく、私を育ててくれた。

 

 学校では残念ながら、そういう面をお互いに出す事は出来ない。

 だからだろうか。家に帰って、一緒に食事をして、ただ話すだけの時間が今まで以上に幸せに感じた。

 

 勿論お説教もされたけど、覚悟していたのに叱られたのは最初だけ。

 後はずっと、大怪我をした私への心配ばかりだった。

 流石に私も申し訳無く感じて、しょんぼりと俯いてばかりだった。

 

 照れ臭いけど……これが愛されてるって事なんだろう。

 申し訳無い筈なのに、何処か嬉しく感じてしまった。

 

 お爺様にも、マクゴナガル先生にも。私は愛されている。スネイプは……知らん。

 だけど私もそんな皆を愛してる。それが幸せなんだ。

 

 

 

「ふぁ……」

 

 後はもう寝るだけ、という時間になっても話し続けた。

 だけどやっぱり私に夜更かしは難しい。

 

「もうおやすみなさい……夏休みは始まったばかり、私はいくらでも来ますとも」

 

 欠伸をする私を、先生はベッドへ促す。

 抵抗はせずに私は立ち上がって歩いた。

 

「うん……でも……寝るまでは居て」

 

「勿論。しかし随分と甘えん坊になりましたね」

 

 歩きながら先生の服を掴み、思わず甘えてしまった。

 顔が熱くなって、微笑む彼女から目を逸らした。

 

 こんな幼い事言うつもりは無かったのに。

 自分で思っていた以上に、先生の前だと幼児退行するらしい。

 

「やっぱり寂しかったから。今までの関係が消えちゃったんじゃないかって……」

 

 この際言ってしまおうかな。

 私はベッドに腰かけ、内心に秘めていた思いを伝えた。

 

「そんな事……あぁ、でも……確かに必要以上に距離を置き過ぎたかもしれませんね」

 

 どうしたって意識して距離を置かないと緩んでしまう。

 生徒と教師である事を考えると当然の対処だし、厳格な先生なら尚更だ。 

 

 お互いに線を引いて、踏み越えない様にしていた。

 だけどそれが寂しかった。だってまともな会話さえも少なかったのだから。

 

「ハリーを特別扱いして、ハーマイオニーを沢山褒めて、ちょっとズルイって思っちゃった……」

 

 なのに私の傍に居る人を、先生は私以上に見て評価する。

 私達はこんなにも距離が近かった筈なのに……

 

 だから、その線を踏み越えたくなった。

 

 

「ねぇ……お母さんって呼んでも……良い?」

 

「……アリス」

 

 私はどうしちゃったんだろう。

 理由は分かっていても、行動に移すなんて自分でも驚きだ。

 

 先生は息を呑んだかと思うと、そっと優しく抱きしめてくれた。

 

「嫌だなんて言うものですか。私にとっても……あなたは大切な娘です。勿論、ずっと前から……」

 

 あぁ……やっぱり嬉しいな……

 

 この1年を経て、私も大きく変わった。自分という存在を見つめ直し、理解する事が出来た。

 

 大人だとか子供だとか、男だとか女だとか、色々悩んだ。

 でもそんなのどうでも良かったんだ。

 

 ちょっと中身がおかしな、アリスという女の子。

 ただそれだけだったんだ。

 

 滅茶苦茶なのも全部ひっくるめて私で、今は子供として改めて成長していっている。

 だからこうして歳相応に甘えたかった。そういう事なんだ。

 

 

 何十秒抱きしめられていたのか。

 気付いた時には、私も手を回していた。温かい……

 

 

「私、1年で成長したよ。体は全然成長してくれなかったけど……凄く変われた。だから……見て。今ならきっと……」

 

 名残惜しくも離れ、私はある事を思いついて杖を取った。

 

 自分の望みを知り、幸せという物を知った。

 あるがままの自分を受け入れて、夢の為に生きる決意をした。

 

 それなら――

 

「エクスペクト・パトローナム」

 

 確信があった。呪文を唱え、ふわりと杖を振るうと光が溢れた。

 

 光が形作るのは……不死鳥。

 

 お爺様と同じとは。なんだか感慨深い。

 でもよく考えたらなんだかしっくり来る。

 死んだ自覚は無かったけど、私はこの世界にどうしてか生まれ変わった。そんな私の守護霊が不死鳥というのは面白い……かも。

 

 

「アリス……まさか……そんな!」

 

 先せ……お母さんは大層驚いている。

 そりゃ、いきなりこんな物を見せられるとは思わなかっただろう。

 この呪文は直接教わってはいなかったのだから。

 

「あぁ……なんてこと。その歳で有体の守護霊を……あなたは本当に、最高の娘です!」

 

 もう1度抱き着いて褒めてくれた。

 

 守護霊の呪文が何故高難易度なのか。

 それはきっと、何が自分にとっての幸せなのか……その中で更に特別強い物を見つけ、明確に想い描く事が難しいんだ。

 

 だってそれは、自分という知っていそうで知らない物を、深く理解しなければ出来ない事だから。

 

 

 白銀に輝く不死鳥は、抱き合う私達の周りを飛び回り……窓を抜け空へと消えた。

 想い描く幸せを噛み締めながら、私は改めて自分に誓った。

 

 この世界を、現実を、私は生きていく。

 夢の為に、幸せの為に、精一杯。





【痕跡】
匂いとも呼ばれる物。17歳未満の魔法使いの近くで魔法が使われた場合、その呪文と場所と時刻が(恐らく周辺の魔法使い及びマグルの存在も)魔法省に通達される。
ただしあくまで近くで使われたかどうかであり、誰が使ったのかは分からず状況次第で対応は変わってしまう。
いつ掛けられたのかは不明だが、17歳になると自動的に消える。

長期休暇中は魔法の使用は禁止という規則があり、破ると警告や罰を受ける。
しかし魔法使いの家では親が魔法の教育や躾をするという前提で見逃しているそうだ。入学前や学校生活中も同様と思われる。

魔法が強力であればある程罪は重くなるという発言があるが、具体的な罰は不明。
ハリーについては魔法省の思惑が絡んでいるので参考にはならない。

見逃されると分かっていても、規則は規則だからと順守させる人は少なくないっぽい?


以下、作中のこれに纏わる描写と考察をいくつか並べてみる。

入学前はハーマイオニーが呪文の練習をしまくっていたし、ハリーを迎えに行ったハグリッドが近くで使っている。どちらもマグルの傍である。
ハグリッドの場合は迎えに行く事(魔法を近くで使う事)を魔法省に伝えていたかもしれない……が、彼は杖を折られ魔法の使用を許可されていないので通達があったらアウトになりかねない。
とりあえず入学前は監視されていない(通達があったとしても魔法省の目は通っていない)と見て良い。
入学前の子供は魔法を暴走させがち、というのもあるのでやるだけ無駄で手間なのだろう。

アーサーがハリーを迎えに行った時にも魔法を何回か使っているが、ドビーの時と違って警告は無い。
魔法省の役人だったり暖炉を繋げたりしているので、こちらこそ事前に話を通していた可能性が高い。

ホグズミードに遊びに行って使ってしまう生徒は居る筈だし、4巻でハリーが墓地に連れていかれた際の戦いは一切探知されていない。
という事はホグワーツ内だから見逃している、という訳ではないのだろう。

過去、リドルが死の呪文で祖父母を殺害し叔父の記憶を改竄した事も魔法省は把握出来ていない。
これは16歳でしかも長期休暇中であるが……あまりにも魔法に卓越し過ぎていて、解除する方法を編み出していたのかもしれない。

他にも7人のポッター作戦――これは掌握された魔法省に厳重な監視をされているハリーを移動させるのに魔法は使えないという理由だった。
その移動先である隠れ穴での結婚式の際もハリー達は変装する必要があった(映画版では変装しないので経緯や計画が若干破綻している)

しかし隠れ穴は生活の中でいくらでも魔法を使う場所であり、結局筒抜けになる筈である。
もしかしたら周辺に魔法使いしか居ない場所では監視が出来ないのかもしれない。式での変装はあくまで姿を隠す為だけなのかも。


というか、例えば未成年の魔法使いが100人居る場所で誰か1人が魔法を使ったら100人分の通達が纏めてされる事になる。
果たしてそれは処理出来るのだろうか。

総じて、矛盾や説明不足な点が多い。
ここからは完全に個人的な考察だが……

恐らくは生まれ持って掛けられている……というよりは、範囲内(イギリス国内?)で17歳未満を自動で捕捉しているだけ。その通達を魔法省が精査して動いていると思われる。
ホグワーツの入学名簿も範囲内で魔法に目覚めた者を自動で記しているので似た魔法なのだろう。範囲内の年齢を見る魔法も4巻に出て来た年齢線が近い。

長期休暇中に使ってはいけないというのはあくまでマグルから隠す為。逆に言えば、マグルの目に触れない状況なら使っても問題は無いかもしれない。
魔法を使った際に近くのマグルも捕捉しているようなので判断は楽だろう。だから魔法族の家では見逃す。
環境によって対応が変わるなんて事は表立って言えないから建前として規則にしているだけ。

ダイアゴン横丁やホグワーツ特急内、ホグズミード等ではそもそも隠す必要が無い。
ドビーの時は周辺の魔法使いがハリーのみだったから警告を受けた=周辺の魔法使いの存在を捕捉している。
つまり、ある程度の数以上に魔法使いが居る場=マグルの目を気にしなくて良い場、という判断かもしれない。
自動であるとすればそういった条件の設定は充分可能だろう。

そもそも通達された物を魔法省が精査するにしても膨大な量になる筈。
なのでなにかしらの条件で弾くというのはほぼ確実にしていると思われる。

とにもかくにも、簡単には語り尽くせない複雑な話である。



【エクスペクト・パトローナム「Expecto Patronum」】
守護霊の呪文。ハリー・ポッターという作品を知らずとも、聞いた事はあるという人が多いだろう呪文。
なのに実際は大した使い道の無い呪文。
ただし設定上、エモい演出に多用される。

吸魂鬼やレシフォールドに対する唯一の対抗手段。
彼らを退けるのみであり、他の攻撃や防御能力は無い。

しかしダンブルドアは守護霊に声を届けさせるという手法を考案し、セキュリティ面で非常に優れた連絡手段へと変化させた。
ただしこれは不死鳥の騎士団のメンバー等にしか教えていないようだ。
ついでに、スネイプの守護霊をダンブルドアは知らなかった、と言う事はこの使い方はスネイプに教えていない事になる。


幸福をエネルギーとし、使用するには幸せな事を思い浮かべる必要がある。
ただしあくまでそういう感情、というだけなのでまるっきり想像でも構わない。

かなり高難易度な呪文であり、大抵の場合は杖先から霧の様な物を出す程度。
守護霊を形作るまでに至れる者は限られる。
故にこの呪文を扱えるというだけで、相応に高い評価をされる。

にも拘わらず大勢の生徒がハリーの指導により習得してみせた。
生徒達が優秀過ぎる。

闇の魔法使いには行使する事が出来ないとされる。
そう考えるとスネイプはリリーを失ってから呪文を使える様になったのだろう。
逆にこの呪文が使える程に心の底から変わったとも言える。
やはりエモい。ただし遅い。


守護霊の姿は人によって様々。動物もどきで変身する動物と同じになる可能性が高い……とされてはいる。
あくまでそういう設定が明かされているだけで、作中では誰も知らない筈。
そして術者の心の状態で別の動物に変わる事もある。誰かを強く愛する等、幸せと感じる根源が変わった場合だろう。

いずれにせよ基本的には極普通の動物の姿をとり、絶滅した生物の姿はかなり珍しい。
更に魔法生物の姿ともなるとほぼ居ない。

とは言え見た目は強さに影響せず、小さなネズミの守護霊で物凄い効力を発揮した例もあった。
実力次第では複数体を操る事も出来る。


ここで言う高難易度の理由は妄想。

語源になっている「Patronus」はラテン語で保護者や守護者を意味し、古ラテン語では父を意味するらしい。
ハリーの守護霊が父と同じなのもそこからだろうか。

なので主人公の守護霊も養父のダンブルドアと同じ不死鳥に設定。
少し特別感が有り過ぎるけれど、見た目で強さは変わらないのでエモさ重視に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。