ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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ホグズミード出身の生徒は何故出てこなかったんですかね。
魔法使いだけの村、且つ子供が居ない訳が無いのだから、全学年で見ればそういう生徒はいくらか居ると思うんですけど。

とは言えオリキャラを出しても活用出来ないので、ここでは居ても出しません。
主人公が村の子供と遊んでる描写をしていたけど……まぁ世代が違ったり、特別仲良くしてる訳ではないという事で。


第21話 ダイアゴン横丁、再び

 翌日、私達は揃ってダイアゴン横丁へ新学期の買い出しに行く事になった。

 一旦「隠れ穴」に行き皆の準備を済ませ、いざ暖炉へ。

 

 初めての煙突飛行になるハリーにやいやいと皆で助言を投げ、手本の様にフレッド、ジョージ、パーシーが消えていく。

 

「ほら、ハリー。どうぞ」

 

「う、うん」

 

 緊張しているハリーを促し、私は内心不安になりながら眺める。

 ちゃんとダイアゴン横丁に行けないのはともかく、ノクターン横丁のボージン・アンド・バークスに出られるかどうか……

 もし全く違う何処か遠い所に出てしまったらどうしよう。

 

 彼がちゃんと名前を言える事を祈ろう。

 

「ダイ……ゲホッ、ダイア……ゴン、横丁!」

 

「「あ」」

 

 祈りは空しく、思いっきり咽ていた。

 ハリーの消えた空っぽの暖炉へ、私達の声もまた空しく響いた。

 

「咽ちゃったら何処へ行くか分からない、って……」

 

 ハーマイオニーが若干顔を青くして呟いた。 

 

「大変! これで迷子になんてなってしまったら……おじ様とおば様になんて申し開きをすれば!」

 

 一拍遅れてモリーさんが大層慌てて叫び出す。

 子を預かる親として立派に責任感を持った人だ。こっちは可哀想なくらいに真っ青な顔になっている。

 

「精々1つ隣の火格子まで通り過ぎてるくらいなら良いんだが……」

 

「何をそんな悠長に! とにかく探さなくっちゃ!」

 

 アーサーさんの希望的な呟きにも叫びながら返しつつ、モリーさんは煙突飛行粉をぶちまけ大急ぎで飛んで行った。 

 

「確かに、探さなきゃならないのは本当だ。私も行こう」

 

 続いて彼もまた、急いで暖炉に入り消える。

 残された私、ハーマイオニー、ロン、ジニーは何も言えず、数秒間は暖炉を見つめて動かなかった。

 

「……えっと、とりあえず私達も行こうか」

 

「そうね……」

 

「これで向こうに着いたらハリーが居る、なんて展開なら良いんだけどな……」

 

「あぁ……ハリー……」

 

 ボケっとしていても仕方ないので、私の声を皮切りにゾロゾロと動き出す。

 目の前で失敗してくれたお陰でちょっぴり怖くなったけど、無事に発音する事が出来た。

 

 さーて、ハリーは何処に行ったかな。

 割と真面目に不安だ。頼むから物語通りになっててくれ。

 

 

 

 

 

 

 そんな不安がしばらく続いたけれど、案外アッサリとハリーと合流する事が出来た。

 どうやらしっかりボージン・アンド・バークスの暖炉に出て、ノクターン横丁をウロウロしてる内にハグリッドと会えたらしい。

 あぁ、良かった……本当に。

 

 ていうか原作とは日時が違う筈なのに会えるもんなんだな。

 今更だけどこういうのが運命力ってやつなのか。マルフォイ親子も店に居たらしいし。

 

 そのハグリッドは私達に挨拶しただけで、すぐに何処かへ行ってしまった。多分彼も忙しいんだろう。

 森番が外を動き回ってて仕事になるのかと思ってしまうけど……ホグワーツの雑用全般をやらされてるし、必要な物だって買わなきゃならないんだ。

 むしろ彼に休みはあるんだろうか……

 

 

 ともかく、合流したならまずグリンゴッツ銀行へ。

 

 ウィーズリー家の金庫はまぁ……寂しいものだった。本当に失礼だけど、可哀想になってしまうくらいにほんのちょっぴりのお金しかない。

 その次はハリーの金庫。さっきの寂しい有様を見てしまったからか、ハリーは彼らに気を遣って少しだけ扉を開けて素早く取り出していた。

 だけど私の位置からは山の様に積まれた金貨が見えていた。

 

 そして私の番。実は夏休みに入ってすぐに金庫の手続きをしていたのだ。

 気を遣っていると思わせる事もまた失礼かと思い、私は普通に扉を開けた。

 

 結果的にハリー以上のとんでもない中身をお見せする事になったけど……これはお爺さまの金庫だから仕方ない。私は使わせてもらっているに過ぎないんだ。

 当然それは皆も分かっているので、殊更に嫌味と感じる事は無いと思いたい。

 

 ハーマイオニーはまだ金庫を作っていないようなので、銀行の用事はこれで終わり。

 どうやらホグズミードで使うお小遣いとは別に、この買い出し用のお金も換金していたらしい。

 

 そういえば原作だと彼女の両親を案内するって流れだったのに今日は居ない。

 むしろ案内は既に済んでいると言っていた。たっぷり換金しに来た際、ついでに案内したんだとか。

 

 

 ちなみに、やたら速いトロッコに乗っての移動を繰り返す度に私は叫んだ。そして最後には吐いた。

 なんなんだ……速いのは良いけど、なんであんな複雑かつ急なコースで走るんだ……

 

 

 地獄の様な銀行を出ると自由行動となった。

 各々が好きな物必要な物を買いに行き、最後に書店で合流して皆の教科書を纏めて買う流れらしい。

 

 パーシーは1人で何処かへ。フレッドとジョージは偶然会った悪友リー・ジョーダンと楽し気に去って行った。

 ジニーはモリーさんに連れられて中古の制服を買いに行き、アーサーさんはバーに向かった。

 本来ならハーマイオニーの両親と飲みに行く筈だったのに、寂しい独り酒だ。

 

 そうして残ったのは、ぐったりダウンした私と、ハーマイオニ―、ハリー、ロンの4人。

 結局いつものメンバーだけど、これはこれで良いだろう。楽しくお買い物といこうか。

 

 ただ、もうちょっと待ってね……まだ世界が揺れてるんだ……おえっぷ……

 

 

 

 

 

 

 しばらく休んで、すっかり元気になった私はご機嫌で歩いていた。

 

「人のお金で食べる物はより美味しいね」

 

 早々にハリーがでっかいアイスクリームを全員分買ってくれたのだ。甘くて美味しい、最高のデザートだな。

 しかし境遇の所為もあるだろうけど、友達と楽しむ為ならいくらでも財布が緩む彼の将来が心配だ。うむ、美味い。

 

「……やっぱ返してくれる?」

 

「やだ」

 

 そんな軽口を叩きながら色んな店を覗いていく。

 必要な物以外を買う事はしないけど、それでも皆となら眺めるだけでも楽しいものだ。

 

 そうこうしている内に、マダム・マルキンの洋装店へ来た。

 私の制服はズタボロの雑巾になってしまって予備しか残ってないからね。

 皆も1年振りでサイズも変わって、新調するか魔法で調整する必要があるだろう。

 

 しかしサイズに関しては私の場合……

 

「あんまり成長してないって分かってたんだから、数字なんて見なきゃ良かった……」

 

 一応念の為とりあえず測ってもらったものの……これが1年分の成長なのかと疑う数字が並んでいる。

 全体的にちょっとずつ成長してはいるけど、そんなのは最低限当然の事。私の成長期はまだですか。

 

「まぁ……これからね」

 

 項垂れる私の肩をハーマイオニーが優しく叩いた。

 ちくしょう見てろ……今年こそしっかり成長してやる。

 

「普段は今の予備を着て、新しいのを大きめの予備にしちゃえば?」

 

「そうするよ」

 

 彼女の助言に従って仕立て直してもらい、悔しい思いを抱えながら店を出た。

 

「丁度良いかな……そろそろ約束の時間だ」

 

「じゃあもう向かった方が良いね」

 

 するとロンが時間を伝えてくれた。もうそんな経ったのか……彼は意外と真面目に人を纏めてくれる面があるから助かるね。

 約束通り、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店に行こう。

 

 さて、原作だとあの男が居た訳だけど……日時は変わってる筈だから静かに終わるかもしれないな。

 

 

 

 なんて、そんな淡い期待は早々に消し飛ばされた。

 

「ギルデロイ・ロックハートのサイン会? なんだこりゃ、凄い人だかりだな」

 

 うげぇ、とロンが呟く。

 まぁ、近づいた時点でそんな気はしてたよ。こんな運命力は要らない。

 

「へぇ……本物の彼に合えるのね。運が良いわ」

 

 ハーマイオニーはしっかり反応している。やっぱり原作通りファンになってしまっているのだろうか。

 

「まさか君もこの人だかりと同じなのかい?」

 

 ウキウキした彼女の声を聞いて、ロンは信じられないという顔で訊ねた。

 私も信じたくない。そこにルンルン気分で並んでるモリーさんも含め、どうか正気に戻ってほしい。

 

「別にそこまでじゃないわよ。彼の本は面白いし、素晴らしい人だと思うけど……まだほんの数冊しか読めてないのよ」

 

 しかし予想外にも、原作とは違って控えめだった。

 そうか……勉強により熱を入れた上に、私の所に遊びに来てるんだ。彼の本を読む暇が無かったのかもしれない。

 ミーハーマイオニーは回避された……良かった。

 

「そりゃ良かった……」

 

「何よアリスまで。あなただって彼の本を揃えてたじゃない」

 

 心底ホッとして、思わず声が漏れた。

 それを耳聡く聞いた彼女は文句を返してくる。おっと、部屋に置いてあったのを見られてたのか。

 

「いやまぁ……確かに面白い本だけどさ。物語はともかく、彼自身には欠片も興味無いよ」

 

 どうせ必要になると分かっていたから、私は先んじて彼の本を買っていた。ちょっとだけ読んでみたかったし。

 でもだからと言って彼の事はどうでもいいのだ。真実を知っているだけに嫌悪感すらある。

 

 ちなみに、悔しいけど本自体はちゃんと面白い。

 他人の英雄譚を奪って整えているのだから当然とも言えるけど……それでもやはり売れてるだけあって物語として良い物になっている。

 文才とマネジメント能力については認めざるを得ないだろう。それがまた腹立たしい。

 

「あんなに凄い人なのに? 彼の本って全て実話なんでしょう?」

 

 そんな内心が声に滲み出てしまったようだ。

 私の言い方が気になったのか彼女は食い下がってきた。

 

「ハーマイオニー、1つ良い事を教えてあげる。彼が授与されたマーリン勲章は勲三等……一等でも二等でもないんだ。それをよく考えてみて」

 

「……?」

 

 原作とは違ってまだマシな状態の彼女なら気付けるかもしれない。そう思って助言を与えた。

 と言っても忘却呪文でやらかしている事は流石に気付けるものじゃない。何かおかしいと分かればそれでいい。

 

 首を捻るハーマイオニーを横目に、私は必要な教科書を取りにスタコラ歩いて行った。

 正直、彼にはあまり関わりたくないんだ。ついでだから皆の分も確保しておこうか。

 

 歩きながらチラリと人だかりの奥を見てみたけれど……

 机に座ったロックハートの周りは、彼自身の大きな写真で埋められている。

 それが一斉にウインクしながら輝く白い歯を見せつけているのだ。

 これだけで彼がどういう人間なのか分かるというもの。

 

 確かに容姿は良いけど……あれを見てどうして夢中になれるのか、ズラリと並ぶ女性達が理解出来ない。

 元男としても気に食わない。妬んでないぞ、こんちくしょう。

 

 

 

 

 

 

 騒がしい場を離れてのんびりと指定の教科書を選び戻った頃。

 それはちょうどアーサーさんがルシウスに殴りかかる所だった。

 うわぁ……嫌なタイミングで戻ってきちゃった。

 

 色んな物が吹き飛び転がり、本棚を倒して散乱して大騒ぎ。

 そこへ囃し立てる双子やら止める声やら、喧騒も混ざってうるさいなんてもんじゃない。

 

「やめんかい、おっさん達! やめんかい!」

 

 どうしようもなく叫ぶだけの店員に同情の目を向けていると、何処からかハグリッドが現れておっさん達を無理矢理引き剥がした。

 いい歳したおっさんがボコボコに顔を腫らしている。こんな場で喧嘩して、なんとも情けない姿だ。

 

 ていうか原作だとグレンジャー夫妻と居る事を馬鹿にされてブチギレてたけど……今回はどういう流れで喧嘩になったのやら。

 まぁあのマルフォイ親子なら、いくらでも火種を作って煽り散らかすだろう。

 

 そもそもこの喧嘩自体がルシウスの策略だった筈。

 騒ぎを起こしてリドルの日記をジニーの荷物に紛れ込ませるとかいう、無駄に遠回りな方法だ。

 むしろ本心で煽っていて、喧嘩になったのを利用したんじゃないかと思うけど。

 

 そしてその日記もしっかり彼女の荷物に入っている事を確認した。

 新品のロックハートの本と擦り切れた古本に紛れているから、そのどちらでもない日記は全体が見えなくても分かった。

 アレをどうするか……本当に、そろそろ答えを出さなければならないな。

 

 

「全く……アーサー、アイツの事は放って置け」

 

 ハグリッドはアーサーさんを吊るし上げそうにしながら呆れた様に言った。

 どうやら乱れたローブを整えてあげようとしてるっぽい。不器用か。 

 

「マルフォイ家は家族全員、骨の髄まで腐っとるなんてのは皆知っちょる。揃って根性曲がりだ。あんな奴らの言うこたぁ、聞く価値が無ぇ」

 

 これでもかと扱き下ろすセリフを聞きながら、私はようやく皆に合流した。

 ハグリッドに続き、モリーさんも叱りつける様に叫びながらアーサーさんに寄って行く。

 それを横目に、とりあえず一番近くに居たハリーの元へ。

 

「はいこれ、2年生の教科書。それにしても、随分と暴れたねぇ……本が大変な事になってるよ」

 

「ありがとう……ていうかアリス、一体いつの間に居なくなってたんだよ。僕なんて酷い目に遭ったんだ」

 

 吹っ飛んだ本や、今にも倒れそうな本棚を眺めて呟く。

 ついでに皆の分の教科書を渡すと、お礼と一緒に文句がおまけで付いてきた。そりゃ散々だったろうよ、あの男に絡まれたらね……

 

「多分、一番酷い目に遭ったのはこの店――だぁっ!?」

 

 どうせ魔法で元通りだろうけど、この惨状を見ればそんな冗談も言いたくなる。

 しかし言い切る事は出来ず、ドゴンと重い音と同時に私の悲鳴が響いた。

 

「「アリスー!?」」

 

 やたらと大きく重い本が落ちて来たのだ。私の頭の上に。

 あまりの衝撃にクラリときて、私は倒れた。

 びっくりしてハリー達も叫んだ。

 

「くぅうう……ぉぉおあああ……ち、縮むぅ……せっかく伸びた5センチがぁ……っ」

 

 そのままジタバタと頭を押さえて涙目で悶える。

 なんでこんな本を上に置いてあるんだこの店は。馬鹿なのか!? 首が折れるだろ!

 ていうか喧嘩は終わったんだから早く直せよ! むしろ暴れたおっさんが直せ!

 

「四捨五入でしょ……鯖読まないの」

 

 心配するでもなく、ハーマイオニーが呆れながら頭を擦ってくれた。いいじゃん別に……

 ついでに転がって捲れそうなスカートを押さえてくれた。そこはありがとう。

 

「だ、大丈夫?」

 

「凄い音したぜ。本に潰されるなんてあるんだな……」

 

 とりあえず一番酷い目に遭ったのは私になった。

 何も関係無いのに……

 

 

 

 

 

 

 その後は「漏れ鍋」へと戻り、暖炉から帰宅となる。

 しかし来た時も思ったけど……何故ダイアゴン横丁と言って漏れ鍋の暖炉に出るのか謎だ。

 入口になってるからなのだろうか。最初から漏れ鍋と言えば良いのでは……?

 

 まぁそんな疑問は置いておこう。

 そのまま私とハーマイオニーがホグズミードに帰ろうとした所、モリーさんのお誘いで夕食を共にする事になった。

 うん……甘えさせてもらおうかな。

 

 そうしてたっぷりとお腹に詰め込まれ、夜も更けた頃になって今度こそお別れになった。

 

「あー……眠い」

 

「あなたって食べるとすぐ眠くなるのね……」

 

 そういうもんだろう。違うのか?

 

「寝ちゃわない内にシャワー浴びてくるね」

 

「ええ、私は荷物を整理してるわ」

 

 とりあえずそういう事で、私は浴室へ。

 たまには温泉みたいにデカいお風呂にのんびり浸かりたいけど、そんな物は無い。監督生、目指してみようかなぁ……

 

 

 シャワーを浴びながら、鏡に映る見慣れた体を眺めてみる。

 自分が元男という事を意識してみても、最早何も興奮しない程に見慣れた。

 いや、赤ちゃん時点から意識があるから興奮なんてした事も無いんだけど……

 

 これがしっかり成長して女らしくなったら、この感覚も変わるんだろうか。

 自分で自分に興奮する様になったら大変だな……そんなナルシスト以上の何かにはなりたくない。

 

 ちょっぴり膨らんできた胸を揉んでみる。

 柔らかいけど少し硬い。あと少し痛い。うーん……ムズムズするからもう止めよう。

 せっかく買ったブラも邪魔に感じて外しちゃうけど、ちゃんと付けて慣れなきゃなぁ……

 

 私はこの体を、自分の事を受け入れた。けど、成長した時にどうなるのか……それはその時になってみなきゃ分からない。

 より女の子らしくなっていくのか、それとも……

 

 止めだ止めだ! 悩んでばかりだな私は。

 シャワーのお湯を冷たい水に切り替えて、悩みを流す様に浴びた。

 

「冷たぁっ!?」

 

 後悔した。

 

 

 

「なんで1人でシャワー浴びながら騒げるのよ……」

 

「聞こえてたんだ……」

 

 着替えて戻ってくると、本日何度目かの呆れたハーマイオニーが迎えてくれた。

 恥ずかしい。

 

「まぁそれはともかく……ちょっとアリスに聞きたいんだけど」

 

「なになに?」

 

 彼女はすぐに話を変えた。聞きたい事ってなんだろうか。

 

「書店で言ってた事。私、考えてみたんだけど……そもそもマーリン勲章の事をよく知らないのよ。教えてくれない?」

 

「あぁ、なるほどね。いいよ」

 

 そうか、確かに勲章を知らなきゃ助言にもならないか。

 じゃあ教えてあげよう。これできっと彼女は正気でいられるだろう。

 

「あのマーリンに因んだ勲章なのは名前の通りだね。まぁ起源とかは置いといて、魔法省から贈られるその勲章は一等から三等に分かれるの」

 

 起源や経緯なんてのはこの際飛ばす。ていうか私もちゃんと調べなきゃ分からんし。

 ともかく、大事なのは一等から三等ある事とその内訳だ。

 

「一等は傑出した勇気や優れた功績を示した人に。二等は並外れた業績や努力を示した人に。三等は知識や娯楽に貢献した人に。ロックハートが贈られたのはその内の三等」

 

「ふむふむ。なるほど……」

 

 例えばお爺様は一等を授与されている。あのニュート・スキャマンダーは二等だ。

 私の説明を聞いてハーマイオニーは頷きを繰り返した。流石の頭の良さだ、もう私の言いたい事を理解してくれたのかも――

 

「つまり、魔法省の目が節穴だって事ね」

 

 違う。

 いやまぁ、節穴って言うか腐ってるのは事実だけど……今この話では間違いだ。

 

「そうじゃなくて……えっと……」

 

 どういう風に言えば分かりやすいだろうか。

 

「彼の本は全て実話と言っているよね。それなら功績としては二等でも良さそうなのに……じゃあ何故か?」

 

 物語になる程の英雄譚をいくつも持っているのに。

 それこそ彼の罪の結果と言っていい。

 

「そんな話は誰も知らないんだ。事実として確認出来てないんだよ」

 

 彼は何か事を成した人に話を聞き、当人から記憶を消し去り自分の物にした。

 当然、他人がそれに気付いてしまっては無意味だ。だから当人に限らず、その話を知る人は全て忘却術の犠牲にした筈。

 つまり、真実を隠す為に誰も知らない物語にしてしまったんだ。

 

 その所為でせっかく奪った功績を認めてもらえない。

 一部のファンだけは事実と信じてくれるけど、言ってしまえばそれだけだ。

 だからどれだけ繰り返しても彼は満足出来ないんだろう。

 

「……創作なのに事実だと嘘を吐いているって事?」

 

 とは言えそんな真実は本来知り様が無い事。彼女が推察出来るのはここまでか。

 

「まぁ、そういう事かな。少なくとも、作品通りの実力なんて無いだろうね」

 

「嘘でしょ……あの人、今年の闇の魔術に対する防衛術の先生よ」

 

「今年は自習が大事になりそうだね」

 

 授業なんて聞き流して、自分達で学ぶしか……いや大体の年がそうか。

 

 お爺様ならきっと真実に気付いてるだろうに。

 なんで教師として採用してしまったのか。人手不足が過ぎるな。

 

「……よし、夏休みの残りもしっかり勉強と練習よ。ハリーとロンに教えられるくらいにならなきゃ!」

 

「ふふっ……そうだね。頑張ろっか」

 

 どうやら彼女の背中を押す事に繋がったようだ。

 もうとっくに教えられるくらいになってるよ。

 虚栄心の塊の何処かの誰かと違って、素晴らしい向上心の塊だな。

 

 私も一層頑張ろうかな。今年は大変だろうからね……いや毎年か。





【オブリビエイト「Obliviate」】
忘却呪文。対象から特定の記憶を消す事が出来る。魔法界をマグルから隠す為に多用されており、魔法省に専門の部署がある。
完全に記憶を消す訳ではないらしく、拷問等で記憶が戻る事がある。
他にも魔法的な手段で戻す事も可能っぽい。

適切に扱えなかった場合は対象の脳に損傷を与え、ほぼ回復不能な状態になってしまう。
そして失敗せずとも、必要以上に強力に掛けると物忘れが酷くなったりするらしい。やはり脳に何かしら作用しているのだろう。

物語終盤、ハーマイオニーは両親を戦いに巻き込まない為に自分の存在を抹消した。
しかしこれは記憶の忘却ではなく改変だと言われている。
実際原作ではその後の展開にて、忘却呪文は使った事が無い的な発言をしている。

映画では記憶どころか写真からさえも彼女は消えたが、これを映画の演出だと切り捨てて良いのかは微妙な所。
忘却ではなく改変なのだと分かりやすくしたのかもしれないが……どちらにせよ物が残っていてはすぐにおかしいと気付いてしまう。

そもそも記憶以外の物に干渉出来るのか、と考えると微妙なので他の魔法があるのかもしれない。


ちなみに、他に記憶の改変をした描写があるのはヴォルデモートくらい。



【ノクターン横丁】
夜の闇横丁とも書く。ダイアゴン横丁に隣接する町、もしくは区画。
描写が少ない為詳細は不明だが、不気味で怪し気な店と人々が占めている。そして闇の魔術に関する物で溢れている。
魔法省はここをどう扱っているのだろうか。



【ボージン・アンド・バークス】
ボージンとカラクタカス・バークの2人が創設した店。怪しいノクターン横丁に構えた、怪しい魔法の品が並ぶ怪しい店。
当たり前の様に闇の魔術に関する物も取り扱っており、ルシウスは家にあるよろしくない品を売りに来た。

ヴォルデモートがホグワーツ卒業後に一時期働いていた事もある。
そして後々になって出てくる重要アイテム達がチラ見せされていた事で有名。
意外とガッツリ物語に絡んでいる。



【マーリン勲章】
かの偉大なるマーリンを記念して創設されたが、その経緯等は不明。
彼が組織したマーリン騎士団とこのマーリン勲章はどちらも「Order of Merlin」なので、そこに関係があるとされているが……やはり正確な所は不明。

金のメダルで、等級によってリボンの色が違う。
勲一等は傑出した勇気や優れた功績に贈られる。リボンの色は緑で、マーリンが所属したスリザリンの色から来ているらしい。
勲二等は並外れた業績や努力に贈られる。リボンの色は紫。
勲三等は魔法界の知識や娯楽に貢献した人に贈られる。リボンの色は白。

描写だけで見ると一等は授与された者が多く、二等と三等はニュートとロックハートしか語られていない。

アークタルス・ブラック3世は魔法省に大金を積む事で授与されたらしい。後にシリウスがゴミと一緒に捨てた。
魔法大臣のコーネリウス・ファッジは特に何もしていないが自分で自分に授与している。

そう聞くと本当に素晴らしい評価なのか疑わしい勲章だが、物語終了後にルーピンやマクゴナガルがちゃんとした功績で授与されていたりする。
恐らく他にも大戦で活躍した者が多数授与されたのではないだろうか。



【ギルデロイ・ロックハート】
嫌われキャラと言う程ではないけど、癖の強い人。
虚栄心の塊で、まともに呪文も扱えないのに自信過剰で物凄いナルシスト。

意外にもしっかりとバックストーリーが設定されている。

彼は魔女とマグルの間に生まれ、姉が2人居た。しかし彼女達はスクイブであり、母親は彼だけを溺愛し……そうして彼の歪んだ基盤が出来上がった。
ホグワーツの世代としてはジェームズ達の4つ下らしい。レイブンクローに組分けされたが、なんとハットストールだった。多分後付け。

成績としては中々に優秀。しかし誰よりも優れた人気者を夢見る彼としては全く満足出来ず、自分より優秀な人を見て勝手に傷付いていたとか。
そこで向上心を持てず劣等感を拗らせ虚栄心を増長させていくのが彼、という事だろう。

ホグワーツ卒業後、文筆家として活動を始めつつ忘却呪文を習得。
そうして世界中を旅し、他人の功績と記憶を奪っていった。

成績や傑出した忘却呪文の腕、奪った記憶とは言え本を書き大ヒットさせる等々、自身で気付けなかっただけで本当は沢山の才能があったのかもしれない。
優秀だった筈なのに、忘却呪文だけをひたすら鍛えていく中でその他の呪文を忘却していった……という皮肉が良い味を出している。




ロックハートの勲章については拡大解釈です。
本来は単純に「闇の生物との遭遇に関する多数の著書を執筆し、その撃退方法を人々に広めた」という功績を認められての授与らしいです。
あくまで著書に関してであり、その数々が事実として評価されている訳ではないという点を個人的な解釈で広げました。

聞き出した話に関わっていた人を手当たり次第纏めて、というのは勝手な想像です。そうしなければ何処かで破綻してしまいますからね。
少なくとも家族や友人等、話を詳しく知る人だけは記憶を消したのでは。
誰とも関わらなかった孤独な英雄を毎回探し当てたのなら別ですけど……無理があるでしょう。

ついでに本が面白いというのも想像。
いくら魔法界がユルユルだろうと、作家の容姿だけで売れる物ではないと思いたい。
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