それからの夏休みはあっという間だった。
沢山の勉強と呪文の練習をこれでもかと詰め込んだ。
しかし残り後1週間という所で、私はハーマイオニーを家に帰す事にした。
お互い惜しい気持ちはあるけど、これからまたクリスマスまで……いや、今年は帰らない可能性が高い。となると1年も家族とお別れになる。
それはきっとよろしくないだろう。家族との生活だって大切なんだから。
そう考えて彼女を見送った。
そして気付けば9月1日。新学期が始まる。
初日からハリーは大騒ぎを起こす事になるけど……頑張れ。
ドビーの妨害は私にはどうしようもない。
作中でも言われてたけど、梟が目の前に居るんだから教師か誰かに連絡すればいいのに。
あーでも、その手紙がまたドビーに回収されたら意味無いのか。
原作のハリーはそれを心の何処かで分かってたから、手段として考えもしなかったのかも……いや無いな。
なんにせよ、ずっと封鎖は出来ないだろうし姿現しだってあるんだ。
モリーさんとアーサーさんが車に戻って来るまで大人しく待ち続ければ、いつかはなんとかなるだろう。
いやでも、姿現しってどうなんだろう。私も去年、直接ホームに飛んでくれればなんて思ったけど……それが出来るなら大抵の家がそうするよね。
ウィーズリー家だって態々車で……人数と荷物が多いからなのかな。分からん。
あ、そうだ……ロンの杖は折れてくれなきゃ困るから、結局は事故を起こさないといけないのか。
普通に生活してたら杖が折れる事なんて無いもんね。
しょうがない、物語通り車で飛んで来なさい。一応フォローもしてあげるから。
そんな事を取り留めも無くモヤモヤと考えながら私は1人、早くもホグワーツへ到着。
しかし特にやる事も無いので、校長室で不死鳥のフォークスを撫でたり、ソファに寝転がったりとのんびり。
これなら汽車でハーマイオニーと話してる方が有意義だったなと反省した。
時間的にまだ発車したばかり、ハリーとロンは大慌てしてる頃だろう。
つまり歓迎会までたっぷり過ぎる程に時間がある。
あー、つまんなーい。ひまー。
*
「これ、アリス。いつまで寝ておるんじゃ。もう皆が到着する時間じゃよ」
「んぇ……?」
いつの間にか眠ってしまったらしい。
困った様に微笑むお爺様に優しく起こされた。
「ふぁ……んーっ」
欠伸をして体を伸ばし、ぴょんとソファを降りて立ち上がる。
同時に、勢いよく扉が開いた。
「校長、面倒な事になりましたぞ」
そう言って現れたのはスネイプ。なにやら紙を持っている。
「何故君がここに居るのかは疑問だが……ついでに見たまえ」
「あちゃぁ……」
私をチラリと見つつ、手に持っていた紙――予言者新聞の夕刊を机に広げた。
そこには案の定、空飛ぶフォード・アングリア。お説教確定だ。
物語として望んでいた事だけど、実際事件が起きてみると若干の呆れが出てくる。
「これだけならば、愚かな魔法使いの失態と流すだけだが……どうやら君のお友達が2人、何故か汽車に乗っていないようだ。時刻も合っている。さて……?」
「ふむ……これは確かに困った事になったのう」
なんで彼らが汽車に乗ってない事を知ってるのやら。
ともかく、確信に近い程に疑っているらしい。実際疑うまでも無く彼らなんだけど。
お爺様も本当に困った様に、長い髭を撫でた。
「君の今の反応からして、何か知っているな? 吐きたまえ」
あーもう目聡い奴め。仕方ない、彼に詰められたら話すしかない。
だって彼とお爺様には開心術がある。隠そうとして心を読まれたら堪ったもんじゃない。
ごめん、ハリー、ロン。私は吐くよ。
まさか今年は違う意味で吐く事になるとはね。いや銀行でもう吐いてたわ。
「あー……監禁されたハリーをアーサーさんの空飛ぶ車でロン達が助けたとかなんとか。家族で駅に向かったのも車だと思うから……」
「アーサー・ウィーズリーは確か、マグル製品不正使用取締局に勤めていた筈だが……?」
私の言葉を聞いてスネイプは眉根を寄せた。まぁいつも寄ってるけど……いやそうじゃない。
ていうかしまった。誰の車かは言う必要無かったかもしれない。
けど彼らが車を盗んで魔法を掛けたと思われる方が駄目か。
「セブルス、そこは今は良いじゃろう」
なにやら察してしまったお爺様が援護に入った。
ごめんなさい、アーサーさん……あなたの作った法の抜け穴は筒抜けになりました。
「これだけ時間が経っていれば既に魔法省が動いた後じゃ。問題は彼らが何故、汽車に乗らず車で飛んでいるのかという所じゃよ」
「……信じ難い事ですが、同時刻に9と3/4番線から出られなくなったという話が。それで強硬手段に走ったのでしょうな。まぁ、彼らの行動の方が余程信じ難い事ですが……」
ホントだよ、全く。内心で同意しながら、私は窓の外に視線を向けた。
多分そろそろ飛んで来るんじゃないかな……
「あ」
とか思ってたら本当に飛んできた。
暗くてよく分からないけど、あの光は間違い無く車のヘッドライトだろう。
私は急いで窓に寄って車を目で追った。
なんだか物凄い動きをしている。完全に制御不能らしい。
「おぉ、なんとタイミングの良い。あれが空飛ぶ車じゃな……随分と面白い物を作ったのう」
「悠長な事を言っている場合では無いですぞ。あれではいつ城にぶつかってもおかしくない……全く、ふざけた事をしおって」
後ろから2人も窓を覗き込んで車を眺めている。
お爺様と違ってスネイプは既にお怒りだ。
「あ、落ちてった」
ただでさえ不安定な動きをしていた車は、遂に煙を吹いて失速し墜落。
そして――
「あーあ……」
大きな木に突撃していった。暴れ柳だ。
衝突した音がここまで聞こえた。
「あの……馬鹿共めっ!」
こっちはスネイプが爆発した。
物凄い形相で、早足に校長室を飛び出していく。
「……アリス、彼らを迎えに行ってやりなさい。セブルスが何を言い出すか分からんでの」
「え、お爺様が行けばいいのに……」
扉を見やって、お爺様は厄介な事を言ってきた。
むしろもうスネイプにお任せしようよ。駄目? 駄目か。
「わしは歓迎会に顔を出さねばならん。流石にわしが居ないのは良くないじゃろう」
「ぶー……貧乏くじだー。ていうかご飯……」
確かに、歓迎会に校長が顔を見せないのはちょっと……
でもなんか納得いかない。たまたま私がここに居たから投げたでしょ。
それに、多少なりとも事情を知ってるから一緒に話を聞かれる筈だ。私までパーティーに参加出来るか怪しいぞ。
「手早く連れて行けば食事には間に合うじゃろう。お説教と詳しい事情を聞くのはその後じゃ」
しかしそこは原作とは流れが変わったようだ。
ふむ……とりあえずスネイプを抑えつつ2人を歓迎会に連れて行けばいいと。無茶振りだなぁ……
「2人共、ご飯が喉を通るのかな……」
「それは分からんのう……」
というかそんなのは流石の彼らも食事なんてまともに出来ないだろう。
いっそ早く処罰してくれと願うかもしれないな。
お爺様はもう一度、長い髭を撫でて困った様に微笑んだ。
まぁ、なんにせよこれは真面目に罰しなければならない事件なんだよね。お爺様が本当に困るくらいには。
はぁー……フォロー頑張ろ。
*
傷付いた暴れ柳を調べている、大層お怒りになられたプンプンスネイプに追い付いた。
ハリーとロンどころか車の影も無いけど、木の方が重要なのか……
そして私の顔を見るなり、何故来たんだと怒られた。いやだって……お爺様が。
説明するのもなんだか面倒だったので適当に流しておいた。どうせ何言っても変わらんでしょ。
軽く調べるだけですぐ終わったのか、さっさか歩き出したスネイプにまた付いて行く。
ここに居ないなら歓迎会に向かったと判断したんだろう。
しばらく歩き大広間に着くと……
窓にへばり付いて中の様子を伺っているハリーとロンを見つけた。
「スネイプが居ないぞ。教職員のテーブルが1つ空いてる」
呑気に話しているけど、間抜けにもそのスネイプと私がすぐ後ろまで来ている事には全く気付いていない。
「もしかして病気じゃないのか?」
「もしかしたら辞めたのかもしれない。だってまたしても闇の魔術に対する防衛術の教授になれなかったから」
「もしかしたらクビになったのかも!」
何故か楽し気だ。自分達の状況をもう忘れてるらしい。
むしろ気に入らないスネイプに対する軽口で気を紛らわせているのか?
「言いたい放題だね」
彼らを指差し、小声で呟きながら隣を見上げ笑う。
私は私で、隣の恐ろしい人の気を紛らわせようとしたのだけど……全く無意味の様だ。
既にキレていた彼はもう、血管まで爆発するんじゃないかと言わんばかり。こりゃ駄目だ。
「もしかしたら――」
スネイプはあえて怒声を上げず数歩近付き、彼らの軽口に合わせて口を開いた。
そんな冷たく恐ろしい声を聞いた瞬間、ハリーとロンの体がビクリと跳ねた。
「その人は……汽車に乗っていなかった生徒達を気に掛け、空を飛んできた理由をお伺いしようかと……お待ち申し上げているかもしれないですな」
怒りをたっぷり滲ませた声がゆっくりと静かに響く。
彼らはこの先の地獄を想像したのか、これまたゆっくりと振り向いた。
「ひぇ……」
真っ青な顔で震える2人へ、私は苦笑いしか向けられなかった。
そんな助けを求めるみたいに見ないで……無理だから。ちょっぴりの延命しか出来ないから。
「まさかとは思うが……とんだご到着をしておいて歓迎会に参加出来るなどと考えてはいないだろうな? 付いてきたまえ」
望んだご到着じゃなかったと思うけど……
まぁ事故だろうと責任は負わなきゃね。でもそれは後だ、まずはそのちょっぴりの延命をしてあげよう。
「あー……先生、一応お爺様としてはお説教と事情聴取は歓迎会の後だって……」
「なんだと?」
口を挟むのが怖いけど、とりあえず説明。
案の定恐ろしい顔で私を見てきた。怖っ。
「そんな私に怒りを向けられても……」
「チッ……まぁいい。どうせ校長と副校長も呼ばねばならん……こんな事で吾輩まで食事を後回しにされるのも腹立たしい」
困ってしょんぼりする私を見て、流石に八つ当たりだと思ったのかスネイプは引き下がった。
とは言え一緒に歓迎会に向かう事になる訳で、結局付いて行く事になるんだけど。
「精々、最後の晩餐を楽しむが良い。もっとも……楽しめるだけの精神的余裕が貴様らに残っているのであれば、だが」
私達を先導しながら、チラリと意地の悪い顔で振り返る。
その言葉でハリーとロンは余計に青褪めた。
「……僕達どうなっちゃうの?」
「さぁ? なんにせよ……ちょっとやり過ぎちゃったね」
トボトボと歩きながら、ハリーが不安そうに呟く。
どうなっちゃうんだろうねぇ……
「ちょっとどころではない! 貴様らは大勢のマグルに見られていたのだ。その尻拭いでどれだけ――」
「はいはい、お説教は後でしょ。そんな恐ろしい顔で大広間に入るのは止めようよ」
するとまたスネイプが振り返って、今度こそ怒鳴った。
なんで私の言葉でキレるのよ……
もう面倒臭いから、学校の中だけど軽い態度で流した。
夏休みの指導の時もこんな感じだったし、今日くらいは良いだろう。
「貴様は吾輩の怒りを逆撫でる為に付いてきたのか? 新学期早々、減点してやってもいいのだぞ」
それになんだかスネイプの態度も微妙に変わったからね。
去年だったら有無を言わさず減点してただろう。
彼の厳しい指導に必死で食らい付いて見せたお陰か、多少なりとも認めてくれたのかもしれない。
そうだとしたらまぁ、ちょっぴり嬉しいかな。
そんな事はともかく、どっちにしろ減点は通らないと思うよ。
「新学期だけどまだ歓迎会中だから始まってませーん」
凄い屁理屈だと思うけど、学校生活はこれからだ。
というか減点しようにもそもそも得点がまだ無いでしょ。マイナスってあるの?
私が気にしてなかっただけで、実は前年から継続だった?
まぁいいや。とにかく減点はナシでーす。
「では後日、適当な理由で減点してやるとしよう。覚悟しておきたまえ」
「あ、やだやだ。止めて」
しかしこの場だけで終わらせてくれる程甘くは無かった。
やっちゃった……ふざけ過ぎたかも。
絶対何かしら理不尽が襲ってくるぞ。あ、でもいつもの事か……じゃあいいや。
なんて事を喋りながら歩き、大広間の扉を開く。
随分と遅れた登場になった私達へ一斉に視線が向いた。
全く私達ときたら、流石の注目だな。
いつも以上に険しい表情のスネイプに、ハリーとロンは死にそうな顔をして歩いている。
明らかに何かがあったと誰もが理解しただろう。
「はっ……これって私も何かやらかした1人に見られてるんじゃ……私は違うよー。違いますよー関係無いでーす」
そこに交ざってる私だって、傍から見れば同じだ。
それはなんだか屈辱だし納得いかない。
なので周囲に笑顔で手を振りながらアピールをしておいた。
私だけ気楽に笑っていれば信じてくれる……かな?
「……良い性格してるよな」
「なんか言った?」
「いいえ……」
ボソリとロンが呟いたので睨んでおいた。
*
青褪めたハリーとロンは予想通り食事どころではなかったようだ。
最後の晩餐なんて言われてしまい、この後の事で胃が痛いばかりだっただろう。
席に着いた瞬間から、周囲に何があったんだと聞かれて困り果てていた。
特にハーマイオニーの追及には特別苦い顔をしていた。
どうやらさっきの大きな音は皆が聞いていたらしい。そりゃそうか。
別に言っちゃっても良いんだけど、ここで広めてしまうのも可哀想だから私も適当に誤魔化しておいた。感謝しろよ全く。
ただしフレッドとジョージは薄々でも分かっていたのか、何で俺達を呼び戻さなかったんだよとニヤケ顔で言っていた。
空を照らして飛んで来る車を誰も見ていないとも言い切れないし、多分そのうち真実が広まるだろう。
そうしてなんとか食事が終わって解散、寮へ向かう事になったタイミングでお母さんが近づいてきた。
途端に2人は身を強張らせ、何も言えないまま連れて行かれていく。
うーん……フォローしてあげるって考えてたし、私も行くか。仕方ない。
彼らの後を追って近くの部屋に入ると、既にお爺様とスネイプも居た。
凄い空気だ……もうハリーとロンは説教が始まる前から、可哀想になるくらいに打ちひしがれている。
「あらアリス、どうしたのですか?」
「一応ある程度の事は話せるかなって」
「そうですか……まぁいいでしょう。庇えるかどうかはともかく、情報は多い方が良いですから」
お母さんは険しい表情を一瞬だけ収めて私を見た。
適当に理由を伝えながら横に並ぶ。追い出されないだけマシだろう。
「……さて。先程も言ったが、貴様らはマグルに見られていた」
場は整った、とスネイプが改めて口を開いた。
同時に予言者新聞を机に広げ、ハリーとロンに見せつける。
「ウィーズリー、貴様の父親はマグル製品不正使用取締局に勤めているな? なんとまぁ、我が子を罰しなければならないとはな。そもそもが彼の車だと言うなら、彼自身も無事では済まない話だが……」
そしてロンに向かって意地悪くほくそ笑んだ。
きっと2人ともアーサーさんの事を忘れていたんだろう。
蒼白とさえも言えない絶望の表情で見つめ合い、自分達の犯した事をようやく理解した。
「もっと言えば、貴重な暴れ柳までもが相当な被害を受けた。新学期早々やってくれたな」
スネイプはネチネチと付け足す様に言った。
あれの何処がそんな貴重なんだろう……危険なだけのヤバイ木じゃないの?
「あの木より僕達の方がもっと被害を――」
「黙らんか!」
ロンが思わず反論してしまい、怒鳴られて一瞬で萎れた。
なんでこの状況で口答えしちゃうんだ……
「非常に残念だが、貴様らは吾輩の寮では無いからして……退校処分は吾輩の決定する所ではない。そこはその幸運な決定権を持つお2人に任せよう」
本当に心底残念そうに、スネイプはお爺様とお母さんに判断を委ねた。
そうして1歩退がり、代わりにお母さんが前に出る。
「では、ご説明なさい。この前代未聞の事件を起こすに至った経緯を」
こっちもこっちで本当に怖い。
昔思いっきり怒られた事を思い出して、私まで身震いをしてしまう。
「……僕達、どうしてか9と3/4番線に入る事が出来なかったんです」
「汽車に乗れなくて、どうしようって……それで、パパの車があったから……」
なんとか絞り出す様に語り出した2人はもう泣きそうだ。
「毎度毎度、何故あなた方は自分達で解決しようとしてしまうのですか。梟が居るなら連絡が出来たでしょう」
それを聞いてお母さんは盛大に溜息を吐いた。
いやもう全く仰る通りで。むしろ私にも刺さる言葉です。
「あー、お母さ……先生。それは無理だったかも」
だけどここで私がフォローしなきゃ来た意味が無い。
思い切って口を挟んだ。
「無理とは? アリス、何を知っているのですか?」
「ハリーは夏休み中、変な屋敷しもべ妖精に手紙を奪われ続けてたんだ。梟で連絡してもまた奪われてたんじゃないかなって。そうでしょ、ハリー?」
これはあくまで私の想像でしかない。
むしろこの場で明かして良い事なのかも分からない。
だけどまぁ、上手く転がる事を祈ろう。
「そ、そう! そうなんです!」
確認する様にハリーへ投げ掛けてみれば、パッと弾けた様に顔を上げた。若干の希望を見た表情だ。
私に言われるまですっかり忘れてた癖に……
「……その屋敷しもべ妖精は一体どういう?」
「分かりません……僕が友達に忘れられたと思えばホグワーツに行きたくないと思うだろうって。どうあっても僕を行かせたくないって……お陰で僕、本当に最悪で散々な目に遭って……」
予想外な展開にお母さんの思考は逸れて行った。
それを見てハリーは、この機会を逃すなと言わんばかりに語った。
どうにかマシな方向へ着地しようと必死だ。どんな理由だろうとやった事はアウトのまま変わらないんだけどね……
「……ふむ。では9と3/4番線を封鎖したのも彼かもしれんのう。彼ら屋敷しもべ妖精の使う魔法は、わしらとはまた少し違う物じゃからな」
「何故そのような事をする必要が? その嫌がらせもそうですが、あまりに遠回り過ぎる。彼の主は何を考えてそんな指示を……」
するとお爺様が1つの真実を見抜いた。ハリーをホグワーツに行かせない為にやった事なのだと話が繋がったのだ。
スネイプまでもがこの場の目的を忘れ、逸れた話に乗っている。
まぁそれくらいに謎な出来事だ。ハリーとロンはこのまま話が有耶無耶になってくれないかと期待している事だろう。
「ハリー、彼が他に何を言っておったか覚えておるかの?」
「警告に来たって言ってました。ホグワーツで世にも恐ろしい事が……誰かが何かをしようとしてるって。僕を守る為だって言って、とことん邪魔してきて……」
その期待通り、お爺様は更に話を深堀していく。
そしてハリーはさっきまでとは打って変わってハキハキと返す。絶望してたのに調子の良い事で。
「それが誰なのかは言わなかったんじゃな?」
「言えないみたいです。聞いたら変な声を上げて壁に頭を打ち付け始めて……」
「なるほどのう……」
一通り聞いたお爺様は、髭を撫でながら深く考え込んだ。
聞き流して良い内容じゃないのだから当然だ。
私の言葉がきっかけとは言え、お説教は何処に行ったんだろう。
完全に違う話が進んで止まった。
「ですが、いずれにせよ彼らの起こした事件は別でしょう。どうにも複雑な事情が絡んでいそうではありますが、愚かな行為を肯定する訳にはいきますまい」
「そうじゃの……」
しかしそこで、それがどうしたと言わんばかりにスネイプが話を戻した。それを聞いてお爺様も思い出した様に同意する。
途端、希望の表情だった2人はまたしても絶望した。
「話が逸れて安心してたでしょ……」
その反応に思わず口を出してしまった。
当然、図星だった彼らは気まずくなって俯く。
私はさっきから彼らにツッコミたくて仕方が無かったんだ。
あーなんかスッキリした。
「事の重大さはしっかりと伝えておかねばなるまい。悪いが家族にも手紙を書かせてもらう事になる」
お爺様は至極真面目に2人を見た。
そう、これはハッキリ言って魔法犯罪だ。法律違反だからね。
と言っても、使ってはいけない筈の魔法を好き放題使ってた私とハーマイオニーも同じ事。
じゃあ何が違うのか。マグルに見られたという所だ。
ついでに、マグルの製品に魔法を掛けて使用したっていうのも追加だ。正確には魔法を掛けたのはアーサーさんだけど。
結局見られなければ、公にならなければ大した問題じゃないんだ。
実際、大概の人が何かしらやらかしているのだからそういうもんなんだよ。
魔法界は狡く生きるべきなのさ。いやちょっと言い過ぎかな?
「その屋敷しもべ妖精に倣って、わしも警告しておこう。今後またこの様な事があれば、わしとしても退学にせざるを得ない。それだけは覚えておきなさい」
ともかく、だからこそ人に危害が及ぶ様な危険な事件でもなければ1発退学は無いのだ。
そして処罰を受ければそれで終わり。そういう価値観の社会だ。
「校長、お言葉ですが――」
「セブルス、これ以上の処罰を決めるのはマクゴナガル先生じゃ」
でもってそんな処罰に納得のいかないスネイプが口を挟む……けどお爺様にキッパリと遮られた。
気に食わないから思い知らせてやりたいという私情でしかないものね。全く、本当に教師失格なおっさんだな。
「あとは彼女に任せて、わしらはもう行くとしよう。考えなくてはならない事も増えたしの」
そう言ってお爺様はスネイプを引き連れて部屋を出て行った。
うん、是非考えてくれ。これだけじゃあんまり考え様が無いかもしれないけど、今後も多少のヒントを出していくつもりだ。
私1人じゃどうしようもないし、予言の様に情報を伝えるのもまだ悩んでる。どうにか上手く運んで行かなきゃね……
「……さて、ではあなた方の処罰ですが」
彼らを見送り、今度はお母さんが口を開く。
表情は依然厳しいけど、口調はだいぶ柔らかくなっている。
「ひとまず罰則のみとします。ただし、相当に厳しい物になりますから覚悟しておくように」
さっきのお爺様の言葉で退学まではいかないと分かっている。
それでもようやく、ハリーとロンは息をついて安心した。
厳しい罰則だって言ってるのに……それで安心してしまう程に追い詰められていたんだろう。
そのまま私達は促されるまま部屋を出る。
「さぁ、もうお行きなさい。しっかり反省するのですよ? あぁ、寮の合言葉はミミダレミツスイです」
そう言ってお母さんは私達を見送った。
その頃にはもうすっかり険しい表情は消えていて、柔らかく微笑んでいた。
絶望からようやく安堵した彼らには、その微笑みが染み入った事だろう。
「ふぅ……なんとかなったね」
しばらく無言で歩き、私は2人に声を掛けた。
なにはともあれ、どうにかフォロー出来て良かったな。
「生きた心地がしなかったよ……アリスが口を挟んでくれなかったらどうなってたか」
苦笑いでハリーが答える。
私がドビーについて話した事で、多少なりともマシな展開になったのは事実。
ちゃんと自覚してくれてる様で何より。
「頼むから今だけはお説教は止めてくれよ……」
「今しないでいつするの……って言いたい所だけど、まぁいいか」
ロンは追加で私に怒られると思ったのか、げんなりして呟いた。
うーん……そのつもりだったけど、充分痛い目を見ただろうから良しとしよう。
それに明日になればモリーさんからの吠えメールが届いて酷い事になるだろう。
ここで私まで怒る必要は無いかな。
その後、寮に入ると盛大な歓迎を受けた。
どうやらもう情報が回っているらしい。誰が広めたんだか……
やっぱりお調子者で派手好きなグリフィンドールは、大抵の生徒が好意的に受け止めてしまうらしい。大丈夫かこの寮。
まぁそれ自体はどうでもいいのだけど、1つ問題が。
なんで私もやらかした1人にされているんだ。
私も汽車に乗ってなかったからか? ちゃんと違うって言ったじゃないか。
やらかしておいて笑顔でアピールするヤバイ奴と思われていたら最悪だ。
なので私は全力で否定しておいた。今度こそ信じてくれると良いんだけど……
【フォークス】
ダンブルドアが飼っている不死鳥。
不死鳥は厳密には死なないのではなく、命を終える際に燃えて灰になり、その灰の中から雛として蘇る。
燃焼日という言い方をしている辺り、ある程度老いたら燃えて蘇るという事を定期的に繰り返しているのだろう。
深紅の羽毛と、孔雀の様に長い金色の尾。温度の調整が出来るのかは不明だが、尾は熱を持っている。
体の大きさは白鳥くらいらしいので大体150センチ程、翼を広げたら2メートル半を越えるサイズだろう。
映画だと若干小さく見えるが、もしかしたらその150センチ程という大きさを「長い尾を含めた全長」として捉えたのかもしれない。
しかしあくまでフォークスの事であり、不死鳥全般がその大きさなのかどうかは不明。
ホグワーツ・レガシーで登場した不死鳥はもっと大きく厳ついデザインになっている。
というか正直イラスト等も結構差があるので、具体的にコレというのは無いかもしれない。
蘇る以外にも様々な能力がある。
不死性のお陰なのか、バジリスクの目が通用しない。しかし死の呪文は一応通用する様で、受けると燃えて灰から蘇った。
涙に治癒の力があり、殆どの傷を癒す事が出来る。たった数滴でバジリスクの毒さえ綺麗さっぱり消してしまう程。
とんでもない力で飛ぶ事が出来、子供3人大人1人を引っ提げ軽々と飛ぶ。それ程の力でもって高速で飛び回り、鉤爪や嘴を使って充分に戦える。
そして炎の閃光と共に瞬間移動が出来、掴まった人間も一緒に移動が可能。
てっきりダンブルドアが魔法を使ったのかと思いきや、実はフォークスの能力だったらしい。
姿現しが使えないホグワーツ内からでも消えた事から、人間の魔法とは違う力と思われる。
そういった移動は屋敷しもべ妖精や、姿を消す魔法生物ディリコール等の例がある。
更には歌も歌えるらしく、その歌声は勇気と冷静さを与える……とか。
原作ではダンブルドアの葬儀で哀歌を歌い、野生へと戻って行った。
グリンデルバルドは火を使って不死鳥の雛を成鳥に変えた。
不死鳥と火は関連深いので、何かしら強化的な事が出来るのかもしれない。
他にもかなり高度な知能を有する上に、死を恐れる本能が無く忠誠心が強い。
自らを犠牲にして主のダンブルドアを死の呪文から守る程だった。
そんなフォークスが天文台の塔では助けに来なかった事から、ダンブルドアが自ら死を選んだ事さえも理解していたのではないかと言われている。
ついでに独自の言語があるらしく、ダンブルドアやオリバンダーはフェニックス語を理解しているとか……
ちなみにダンブルドアの家系には代々不死鳥が現れるという設定が後に明かされた。
どんな家系だ……チート過ぎやしないか?
誰々が助けられたとか飼っていたとか言われているが、同一の個体ではなさそうだ。
そんな感じでアルバス・ダンブルドアに飼われる事になったのがフォークスなのだろう。
その時期は不明だが、なんにせよかなり長い付き合いなのは確かだ。
【空飛ぶフォード・アングリア】
アーサー・ウィーズリー所有の車。
モデルはそのままフォード社のアングリア。1953年生まれで59年にモデルチェンジをした105Eと思われる。
作中でも既に古い車と言っていいが、これを選んだ理由は原作者の過去のロマンスが元ネタだとか。
誕生当時はかなりの数が走っており、後々ハリー・ポッターの影響でそれなりの数が復活したとかなんとか……
時代もあってかなり小型の車なのだが、魔法が掛けられているお陰で中はかなり快適な広さになっている。
8人+大量の荷物が楽々入る程で、魔法の便利さが分かる。というか外から窓を覗いたら中はどうなっているのだろうか。
アーサー自身が制定したマグル保護法には、マグルの製品に魔法を掛けても実際に使わなければ問題は無いという抜け穴が用意されている。
抜け穴とは言うが、無許可で空間を広げて運転している時点で結局アウトだろう。
何にせよ自分がマグル製品を弄りたいからという理由であり、中々に強かな人。
そこまで力を入れて弄るだけあって、車内空間を広げるだけに飽き足らず空を飛び、更に透明化までする。
この透明化がまた結構な性能で、車体どころか搭乗者まで物理的に自分を見失う。
かなり高度なめくらまし術かそれに類似する魔法が掛けられているらしい。しかも杖を使わずボタン1つで発動とかいう、地味に凄い技術を持っている。
しかし空を飛ぶにしてもエンジンがその役割を果たしているらしく、長時間の運転の所為かぶっ壊れて墜落した。
そしてなんとも運の悪い事に暴れ柳に突っ込み、ボコボコに殴られ潰される。
何故か車に意思の様なものがあり、散々な目に遭って嫌になったのかハリー達と荷物を放り出して森へ逃げた。
なのに後で彼らを助けに現れるのでツンデレと思われる。さっぱり謎。
【暴れ柳】
枝が届く範囲の生物を手当たり次第に攻撃する。
木というのは本当に重い物で、それが腕の様に振り回されるのだから威力は相当。普通に死ぬ。
スネイプの言う「貴重な木」がどういう意味なのかは不明。というかこの木については情報が殆ど無い。
こんなのがそこらに生えていたら大変なので、希少という事なのだろうか。
ホグワーツの物はルーピンが入学した1971年に植えられたが、ホグズミードにある叫びの屋敷に繋がる道を隠す為だった。
考えたくは無いが……性質上、この恐ろしい木の周りは死骸が散乱しているかもしれない。
色んな意味で近づきたくない木と言える。
むしろ近づいてほしくない場所を守る為に使われる物なのかもしれない。
とは言え、その危険な枝はイモビラス等の呪文で止まる。
根本あたりにあるコブを触っても止まる。
秘密の部屋編で地味に悩んだ所がここ。
主人公は魔法を使い放題で、ハリー達は処罰。そこにちゃんとした理由を付けなければ、と。
とは言え、相当危険な事で無ければバレなきゃ良いというのは実際そうなんじゃないかなと思います。
そういう軽い価値観であり、それでもバレたら処罰を受けて終わり。それが魔法界。
アーサーを見ればなんとなく分かるかもしれません。
マグル製品不正使用取締局の局長が抜け穴を用意した法を制定し、それを利用していたという大事件。
それでも彼は尋問と罰金で終わり、そのまま6巻開始まで局長として働き続けます。
まぁ、たった2人だけで立場も給料も低い部署だったからなのかもしれないけれど。
ちなみに1巻でハリーを玄関先に置き去るシーンにて、ハグリッドはシリウスのバイクを借りて空を飛んで来ます。
当然それも車と同じくアウトの筈なのに、ダンブルドアもマクゴナガルも全く気にしていません。
当時は法の制定がまだだったという可能性はありますが、結局その行為自体に特別何か思う所は無い訳で。
更に言うなら、後々にそのバイクを追加で改造するのがアーサーです。そうするに至った事情はともかく、懲りてないっぽいですね。
ともかく、そういう価値観でそういう社会なのだという想像で書きました。