ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第26話 VS トム・リドル

 この秘密の部屋事件……どうしたって危険過ぎる。

 何度も言うけど、原作では偶々偶然にも石化で済んでるだけだ。

 その通りになるだなんて保証は無いし、いくらでもズレていくと私はもう分かってる。

 

 私1人でどうにかしようなんて無謀にも程があるけど、お爺様に全てを明かす事は未だに悩み続けている。

 そもそも明かした事でお爺様の考えや行動が大きく変わったらどうなるのか……

 

 そして予言者の様に振舞うのも難しい。

 と言うか、原作から何が変わるのか分からないのだから正確に予言出来ない。

 言ってた事と全然違うやんけ、とか言われたら私も困る。

 

 結局何をするにしても、余計な行動の所為で被害が出たら……一度でもそう考えてしまったらもう、どうしようもなかった。

 それもこれもバジリスクの目とかいう理不尽過ぎる脅威の所為だ。

 

 

 それでも足りない頭を必死に捏ね繰り回して、なんとかギリギリで出した答えは……

 初回の犯行現場で捕り押さえ、お爺様に突き出す。これだ。

 

 あの時私が口を挟んだ事でお爺様達にドビーの警告が伝わっている。

 何かあると警戒している所に、秘密の部屋という文言を壁に書くなんて事をしたなら確実に問い詰められるだろう。

 

 流石に言い逃れは出来ないし、なんなら開心術だってある。隠し通すのは不可能だ。

 そうなればリドルの日記が明るみになり、お爺様ならそれが何なのかを見抜いた上で破壊もしてくれる筈。

 

 ただし、そうなるとグリフィンドールの剣でバジリスクを倒すという要件が満たせない。

 それは原作通りの奇跡的な展開にならなければまず無理だ。しかし原作通りというのがもうまず無理だろう。

 手段に拘らず倒すだけなら、お爺様が居ればどうにかなるかもしれないけど……

 

 

 不確定で不特定多数の命の危機を避けるか……それを飲み込んで剣の強化か。

 そのどちらかしかない。そして私は前者を選んだ。

 

 皆を……仲の良い人もそうじゃない人も、ホグワーツの全ての人を守る事が先だ。

 未来の事は未来の私に投げてしまえ。今を守らなきゃその未来さえ無いんだ。

 

 最悪、私が悪霊の火をどうにかして習得した上で、分霊箱探しの旅に同行すればなんとかなる気がする。

 出来るかどうかはともかくとして、だけど。

 

 情けないけど……そうやって割り切って、開き直ってしまうしかなかった。

 

 

 いずれにせよ、根本的にこの初回の事件でさえ日時や手段が変わっていたらどうしようもないけど……

 少なくともジニーが1人で談話室を出るのは見ているし、殆どの生徒が大広間に集まる今日を逃しはしないだろう。

 

「よし……行くぞ」

 

 私は3階に上がって気合を入れた。

 ここでバジリスクとご対面は遠慮したいけど……その確認さえ命取り。ほんと理不尽

 だけどそれをしなきゃこれ以上は進めない。

 

 手鏡を取り出し、いくつもの角を曲がる度に恐る恐る確認を繰り返す。

 奴が原作と映画のどっちのサイズなのか分からないのがまた怖い。原作の方である事を祈ろう。

 

 そうして進むうちに水浸しの廊下に辿り着いた。

 バシャバシャと歩いて行き、改めて角から先を確かめる……バジリスクどころか誰も居ない。

 

 おかしい、まだだったか?

 それとも既に犯行は終わってる?

 どっちにしろ行ってみるしかない。

 

 歩いて行くと壁に書かれた文字を見つけた。

 ヤバイ、本当に犯行が終わって……あれ? ミセス・ノリスがぶら下がってない……

 

 どうなってる……これが原作からの変化なのか?

 そもそもこの文言ってなんなんだろう。よくよく考えてみれば、態々警告を書く意味とは……

 

「秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気を付けよ……」

 

 読み上げてみても分からない。

 

 だって以前部屋が開かれた時はホグワーツが閉鎖する所だったんだ。

 つまり、また部屋が開かれたなら即刻閉鎖される可能性は少なくない。

 

 それは彼の望む所じゃないだろう。そうなったらジニーの話し相手にされるだけだ。

 むしろだからこそ殺さずに石化にしたとか……いや無いな、どう考えても石化は偶然でしかない。結局治しちゃうし。

 いずれにせよこんな警告は――

 

「っ!? がっ……!」

 

 なんて思考は、体と同時に吹き飛ばされた。

 背後で何か光ったと思った瞬間、私は壁に思いっきり叩きつけられていた。

 

 痛みに悶え、廊下に転がり後ろを見る。依然誰も居ない。

 

「うぅ……ぐ、何……誰?」

 

 こんな状況でいきなり攻撃してくるのはジニーしか……リドルしか居ないと分かってる。

 それでも思わず困惑が口から出てきた。

 

 そうか……水浸しだったから誰か来たら足音で分かってしまう。

 私が音を立てた時点ですぐに隠れたんだな。

 

 多分目くらまし術……アレは実力次第で透明になれてしまうと聞く。リドル程の腕なら可能だろう。

 犯行を見られていなくとも、念の為に黙らせようって事か……それともマグル生まれと知っていて始末しようとしてるのか。

 

 どっちにしろ、どうせ捕り押さえる時に多少やり合う想定でいたんだ。予定外の流れだけど結果的には同じ事。

 スネイプに感謝だな……夏休みに厳しく鍛えられたお陰で充分戦える。

 

 ジニーを操ってる状態なら当然、リドルは万全の状態とは言えない。私でもどうにか出来る筈だ。

 まずは隠れてる姿を暴いてやる。

 

「レベリ――ちっ!」

 

 体を起こしてレベリオで暴こうした瞬間、閃光が飛んできた。

 慌てて無言のプロテゴで防ぐ。

 

 妨害は早かったけど、お陰で何処に居るのかは大体分かった。

 水浸しのお陰で動いてるのも判断出来る。やっぱり目くらまし術か。

 

「そこ! ステューピファイ!」

 

 大まかでも分かってるならさっさと反撃だ。

 暴くのは後でいい……と言うかどうせ隙を突かれるだけだ。

 

 そうして姿の見えない敵と呪文の撃ち合いが始まった。

 

 いくつもの閃光が飛び交う中で考える。

 初手の不意打ちで終わらせなかったのは何故だ?

 どうとでも出来た筈なのに、ただ吹き飛ばすだけだった理由は……

 

 そもそも、こうして撃ち合ってる呪文も大した物じゃない。

 全て無言呪文だから正確な所までは分かりづらいけど……特別強力な呪文じゃない事は確かだ。

 

 やっぱり操ってる状態だと……いや違う。

 それもあるかもしれないけど、バジリスクを使ってこそと考えてるんだ。じゃなきゃ秘密の部屋を開く意味が無い。

 

 つまりこの撃ち合いはきっと、バジリスクを呼び寄せる時間稼ぎ!

 私を最初の見せしめにするつもりだ!

 

「エクスペリアームス! この、いい加減に――っ!?」

 

 撃ち合う中で、空気の漏れる様な音が聞こえた。蛇語だ……

 そして視界の端に何か大きな物が動くのを捉えた。

 案の定だ……マズイ、本当にマズイ!

 

「ぐぁっ! ぁう……げほっ」

 

 私のその反応は明らかな隙だっただろう。

 呪文の1つを受け、またしても吹き飛ばされて壁に激突した。

 

 痛い……けどそんな事言ってる場合じゃない。

 かなりの大きさだったけど、映画程のサイズじゃなかったのはせめてもの救いか。

 それでも私なんて簡単に丸呑みされるだろうし、そもそも噛まれたら終わりだ。

 とにかくマズイぞ……でも下手に目を開けたら……

 

 ズルズルと奴が這って来る音が聞こえる。

 心臓が爆発しそうだ。嫌な汗が止まらない。

 

 どうする……いや、やるしかない。

 こうなる可能性なんて充分有り得た。その為に対策だって考えたじゃないか、冷静に動け!

 

「くっ、ネビュラス!」

 

 私は視界を遮る為に霧を発生させた。

 灰色の濃い霧があっという間に廊下を満たし、同時にこっそり移動する。

 

 リドルは私の位置が分からなくなった様で、見当違いの所に呪文が飛んで行った。

 よし、今の内に……

 

「エクスペクト・パトローナム……」

 

 ボソリと、こっそりと、私は万が一を考え守護霊を出してお爺様へと伝言を送った。

 秘密の部屋が開かれた、3階の廊下、バジリスクと犯人と戦闘中、と端的に。

 

 そして霧を生み出すのが止まってしまったからか、風が吹いて払われていく。

 クソ、流石に対応が早い。

 

「ネビュラス――危なっ」

 

 全く本当に対応が早い。もう私の姿を捉えた上に、霧を追加してる間に呪文が飛んで来た。

 バジリスク対策だってしなきゃならないってのに……

 

「うわっ!?」

 

 大きな何かが勢いよく体を掠めた。

 多分尻尾を振り回したんだろう。頭から突っ込んで来てたら終わってた…… 

 急げ……!

 

「グレイシアス! エバブリオ!」

 

 いくつか飛んで来る呪文を凌ぎながら、私はまず廊下全体に猛烈な冷気を振り撒いた。

 水浸しの廊下は氷が張られ、転がって濡れた私も全身が霜に覆われていく。

 

 続けて大きな泡を作り出す。この泡は中々に頑丈で、本来は相手の妨害や封じ込める目的で使われる物。

 だけど私は自分自身を包んだ。今この状況はこれで良い。

 他の対策になる呪文は私にはまだ難しい。

 

 蛇は熱と臭いで獲物を感知する。

 つまり……霧で奴の目を見ない様にするだけでなく、冷気で体温を誤魔化し、泡で臭いを物理的に遮断した訳だ。

 あとはまぁ、単純に寒さに弱いだろうし。

 

 バジリスクがどんな感覚器官なのか具体的には知らないけど、これで私を狙いにくくはなった筈。

 ただ、この後どうするのかが問題だ。どうしよう……

 

 

「へぇ……さっきから随分と驚かせてくれるね。2年生でその実力……それに、一目見ただけでこうも対策を取られるとは。流石、その名を持つだけはある」

 

 すると攻撃が止み、男の声が響いた。

 え、もうリドルとして会話が出来る程なのか?

 ジニーを操った上で彼が声を出してるのか、既に彼単体で動いてるのか、確認しておきたいな……

 

 けど返事は返せない。声を出したらバジリスクに位置がバレる。

 

「全く、どうして秘密の部屋の怪物を知っていたのやら……随分勉強してる様だ。蛇博士かい?」

 

「そりゃ勉強したよ。バジリスクを倒す為にね」

 

 しまった、思わず返しちゃった!

 元日本人として、そのセリフには返さざるを得ない。クソ、なんて卑劣な……

 別に倒す事なんて考えちゃいなかったのに……自然とセリフが出てしまった。

 

 いや冗談はともかく……頑なに姿を隠して黙ってたのに声を掛けて来たなら彼も会話するつもりと見て良い。

 ならバジリスクだって攻撃してこないかもしれない。一応警戒はしておくけど。

 

「大きく出たね……でもただの蛇博士じゃあこのバジリスクは倒せない。勿論、僕もね」

 

 もうええて。ここは忍者の世界じゃないんだよ。

 

「とは言え、だ。この程度なら構わず暴れさせれば良いが……そこまで言うって事は他にも対策があるんだろう。下手に時間を掛けて人が集まったら厄介だ」

 

 お? なんか勝手に深読みし始めたぞ。他の対策なんてある訳無いじゃん。

 頭の良い奴は無駄に考えてくれるらしいな。いいぞ……どんどん深読みして警戒しろ。

 

「あらゆる意味で君は最初の犠牲者に最適だったんだけどね……見せしめは諦めて、念の為にバジリスクを退かせた方が良さそうだ。まだまだこれからだからね……万が一にでも目を潰されたら後に響く」

 

 やったぜ。

 シューシューという声が響き、本当にバジリスクが移動していくのが分かった。 

 まさかこんな展開になるとは……

 

「あなたは退いてくれないんだ?」

 

 だったらもう、時間を稼いでお爺様を待てば良い。なんでもいいから会話を続けよう。

 守護霊を飛ばしたのは気付かれてないっぽいし、そもそも伝言出来るとも知らないかも。

 

「退く筈無いだろう。それに……君と戦う事にだって意味があるのさ」

 

「どういう事……?」

 

 私と戦う事に意味?

 なんだ、何を言ってる?

 

「態々教えるとでも? 君はただ、甚振られて悲鳴を上げていればいい。それが僕の力になる」

 

 それ教えてるじゃん……でも本当にどういう事だ?

 私を攻撃すると力を得るって事? なんのこっちゃ。

 だから初手で拘束するでもなく攻撃してきたのか?

 

「問答は終わりだ。始めよう」

 

 困惑する私を置いて、リドルの声の雰囲気が変わった。

 

 霧が一気に払われ、私は改めて姿の見えない敵と相対する。

 戦いは避けられないか……まぁいい。バジリスクが居ないだけで充分勝機はある。多分。

 

 そうだ、居なくなったなら泡は消してしまおう。よくよく考えたら包まれてちゃ呪文が撃てない。

 廊下の氷も溶かしておくか。凍ってるより水の方がマシだ。

 

 行くぞ……戦闘再開だ。

 

 

「レベ――くっ、コンフリンゴ!」

 

 いい加減に姿を見せろ、ともう一度レベリオを唱えようとしてもさっきの焼き直し。素早く妨害されてしまう。

 けどそんなのは予想してたから構わない。どうせいつ唱えようとしたってこうなってた。

 どうしても姿は見られたくないらしい。

 

 でも完全に透明になってるとは言え、動けば水で分かる。呪文を放てば閃光で分かる。

 さっきと同じだ、こんな廊下で1対1なら戦えない事も無い。

 

 ただ、姿の確認が出来ないって事はリドルの状態が分からないって事。

 もしジニーが操られてるなら……悪いけど、多少の怪我は受け入れてもらおう。手加減出来る相手じゃない。

 

 そうして、またしても激しい呪文の撃ち合いが始まった。

 

 

 呪文を放ち、防ぎ、動いて転がって避ける。

 それでもいくつかを受け、お互いに血を流し水に微かな赤が滲んだ。血が出るならやっぱりジニーか……ごめん。

 

 しかし長く感じる短い撃ち合いを続けども、決定打が入らない。

 まさに互角……予想以上だ。この時点で彼がこんなに戦える様になってるなんて……

 

「チッ……しぶとい奴だ。いや……僕が弱いだけ……まだ無理だったか……この状態で目くらましを維持しながらじゃ……」

 

 イライラした様な呟きが聞こえてくる。どうやら彼も攻めあぐねてるらしい。

 やっぱり本調子じゃないんだな……それで互角なのが恐ろしいけど。でもやられさえしなければお爺様が来て私の勝ちだ。

 

 耐えろ……耐えるんだ。あと少しできっと――

 

 

「……っ!?」

 

 撃ち合う最中、ゾワリと悪寒が走る。ズルズルと這い寄る音が背後から聞こえてきた。

 なっ、嘘……退かせたんじゃ……

 

 驚きから思わず反射的に振り返ろうとしてしまい、ギリギリで耐える。

 しかしそんな大きな隙を見逃す相手じゃない。

 

「くっ! インセンディオ!」

 

 正面に意識を戻した時にはもう、呪文の閃光が見えた。

 それを間一髪で防ぎ、背後を見ない様に勘で炎を放ち駆け出すも……

 

「しまっ……!?」

 

 シューシューという音が聞こえ、あっという間に私の横を大蛇が通り過ぎた。

 今度こそ反射的に目を閉じてしまう……いやむしろ閉じなかったら死んでいたかもしれない。

 

「終わりだ。ディフィンド」

 

 だけど……敵を前にして目を瞑り硬直なんてすれば、私の負けは決まっていた。

 

 

「あ」

 

 痛みが来るのは遅かった。

 強烈に焼ける様な熱さを感じて、そこから温かい物が噴き出した。

 

「え」

 

 胸から腹に掛けて、大きく深く切り裂かれた……と理解して、そこでようやく痛みを感じた。

 私は悲鳴を上げる事すら出来ず、ゆっくりと崩れ落ちていく。

 緩んだ手から杖が落ち、カランと音を立てた。

 

 

「……すまないね。どうやら戦いと血の匂いでバジリスクが興奮してしまったようだ。まさか勝手に戻って来るとは……もう帰したから安心しなよ。時間を掛け過ぎた今、いつまでも表に出ていてはマズイからね」

 

 水浸しの廊下にどんどんと赤が広がる。

 血と一緒に気力も何もかもが抜けていく様だ。

 

「感謝してくれよ、食い付こうとしたのを止めてあげたんだから。丸呑みなら証拠も残らないけど、それじゃあ僕の……いや、聞こえちゃいないか」

 

 数ヶ月しか経ってないのに、またしてもこんな…… 

 なんて……あっけない……

 

「こふっ……ぅ……ぁ」

 

 上手く息が出来ない。苦しい。痛い。

 ひゅうひゅうとか細い呼吸が不規則に響くだけだ。

 

「決闘としては気持ちの良い終わりじゃないが……まぁ勝てればいいさ。色々と確認出来て良かったよ」

 

 辛うじて落ちた杖へ震える手を伸ばしたけど握り締める事も出来ない。何も力が入らない。 

 

「見上げた精神だな。まぁ、言った通りこの場で殺しはしない……死を齎すのは魔法でも毒でも無く、バジリスクの目でなければね」

 

 伸ばした手を杖ごと蹴り飛ばされ、いよいよ何も抵抗が出来なくなった。

 

「ただ……殺しはしないが、念の為に今日の記憶は全て――っ」

 

 リドルの言葉が途切れた。

 あぁ……人が来たんだ。床に転がってるお陰で喧騒が伝わって来る。

 

「チッ……本当に時間を掛け過ぎた。急ごう……」

 

 そんな慌てた様な声が近づいて。

 

「オブリビエイト」

 

 緑色の閃光を最後に、私は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

『血の匂いだ……戦いの気配だ……殺してやる……殺してやるぞ……』

 

 

「ハリー! 一体どうしたって言うんだよ!?」

 

「いつまで走るの!? せめて説明してちょうだい!」

 

 僕達は揃って走っていた。

 

 長々とニックの絶命日パーティを楽しまされて、いい加減に皆我慢が出来なくなって逃げて来た……訳じゃ無い。

 確かに逃げて来たけど、今走ってるのは別だ。

 

「声だ! 声が聞こえるんだよ! 恐ろしい声が!」

 

 大広間のパーティも終わる頃だろうけど、せめてデザートぐらいは……と思って移動していたら声が聞こえた。

 この間も聞いた声だ。恐ろしく冷たい、残忍な声。

 

 何なのかは分からないけど、とにかく物騒な事を言っている。

 しかも壁や天井をお構い無しに動いてるらしく、こんなの気にならない訳が無い。

 

「そんなの何も……え」

 

「おいおい、ダンブルドアが走ってったぞ……そんな事あるか?」

 

「マクゴナガル先生とスネイプ先生もだわ……一体何が……」

 

 困惑した2人が立ち止まった。いや、僕も思わず止まってしまった。

 

 

『殺してやる……八つ裂きにしてやる……腹が減った……』

 

 

「あっちだ! 声もあっちからしてる!」

 

 走っていく先生達を見て僕は戦慄した。

 だって声が向かってる方向も同じなんだ。本当に、一体何があったって言うんだ……

 

 

 そのまま後を追う様に走り続け、僕達は3階まで上がった。

 そこでようやく先生達に追い付き並んだ。

 

「ポッター! 来てはならん、戻りたまえ!」

 

 するとスネイプがいつもの意地悪な表情を消して、走りながら真剣に叫んだ。

 あのスネイプが僕にこんな……なんなんだ?

 

「ウィーズリー、グレンジャー、あなた達もです! どうしてここに……」

 

「声が、声が聞こえたんです! こっちの方向に向かってた!」

 

「……声、だと?」

 

 マクゴナガル先生に理由を伝えると、スネイプも一緒になって困惑を返された。

 やっぱり僕にしか聞こえてないんだ……

 

 だったら尚更気になる。それなら先生達はどうして……

 

「今はもう聞こえなくなったけど……でも――え」

 

 何故か水浸しになった廊下を曲がり、見えた光景に言葉が消えた。

 

 薄暗い中でも分かる程に床が赤い。

 そして見慣れた小さな女の子が倒れている。

 この赤いのは……あの子は……まさか。

 

 僕達より一足先を走っていたダンブルドアが駆け寄っていく。

 嘘だ……嘘だよ……

 

「アリス!?」

 

 呆然とした僕達を置いて、マクゴナガル先生が悲鳴の様な声を上げて走る。

 違う……違うと言ってくれ。あれはアリスじゃない……って。

 

「校長! 呆けている場合ではない! アリスをむざむざ死なせるおつもりか!?」

 

 そんな事は誰も言っちゃくれない。夢でもなんでもない……あれは本当にアリスなんだ……

 

 震える手で抱き起こそうとするダンブルドアへ、スネイプが叱責しながら近づく。

 そして杖を抜いて、アリスの胸元へ向けた。

 

「ヴァルネラ・サネントゥール……」

 

 またしても、いつものスネイプとは思えない様な声が静かに響いた。

 何処か優し気な……歌う様な呪文だ。

 

 スネイプはその呪文を2度、3度と繰り返した。

 

「闇の魔術でなかったのは幸いだが……出血が多過ぎる」

 

「ええ……ただでさえアリスは小柄なのに、これ程の血を流しては……急ぎましょう」

 

 今のはどんな呪文だったのか……きっと応急処置か何かだったんだろう。

 

 杖をしまったスネイプが離れ、マクゴナガル先生が魔法を使わずアリスを抱えて走って行った。

 出血は止まってるみたいだけど、服に染み込んだ血がボタボタと垂れて赤い水を更に濃くした。

 

 そこまで眺めて、僕達は未だに何も言えなかった。

 

「……すまぬ、セブルス。2度目だと言うのに、またしても動揺してしまったようじゃ……」

 

「そのようですな」

 

 座り込んだまま沈痛な表情をしたダンブルドアが呟くと、スネイプは淡々と返した。

 応急処置をしただろう彼がこれだけ落ち着いてるなら、ひとまず少しは安心出来るかもしれない。

 

「アリアナ……」

 

 そしてダンブルドアは震える手を見つめ、何かをボソリと呟いた。

 誰かの名前……?

 

 

「まずはこの惨状を片付け、何があったのかを調べなければ」

 

 片やスネイプは床を見回してそう言った。

 改めて見ると本当に惨状だ……いくら水浸しだからって、廊下がこんなに真っ赤になるなんて。

 一体どれだけの血を流せば……アリス……

 

「ポッター! お前は先程、我々に聞こえない声について言っていたな?」

 

「……は、はい」

 

 唐突にスネイプが僕に向き直った。

 なんとか掠れた声で返事を返すので精一杯だ。

 

「間違い無く事件に関係あると見て良いだろう。後程詳しく聞かせて――なんだ、この文字は」

 

 スネイプが今度は壁を見て言葉を詰まらせ、僕もそっちを見た。

 壁にこれまた血の様な赤い文字で何かが書いてある。

 

 秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気を付けよ。

 

 なんだ……?

 秘密の部屋? 継承者? 何がなんだか分からない。

 

 そして首を捻っている間に喧騒が近づいてきた。パーティが終わったんだ。

 だけどどうも様子がおかしくかなり騒々しい。

 そうか……マクゴナガル先生がアリスを抱いて走って行ったから……

 

「チッ……血塗れのアリスを見られたか。面倒な……散れ! さっさと寮に戻らんか!」

 

 そんな生徒達がこの廊下に近づくと、スネイプが怒鳴った。

 この惨状とスネイプの声で生徒達は一気に静かになり、スゴスゴと下がっていく。

 

「お前達もだ! ここで心配していても何もならん!」

 

 そしてずっと泣きそうになりながら黙っている僕達にも振り返り怒鳴った。

 こればっかりは彼の言う通りだ。ここに居たってどうしようもない。

 

 僕達は何も言えないまま、やけに重い足取りで歩き出した。

 

 

「継承者の敵よ、気を付けよ……アリス・ダンブルドアの次はお前達の番だ。穢れた血共め……」

 

 小声でザワザワと騒ぎながら歩く生徒達を追う中で、そんなマルフォイの言葉がやけにハッキリ聞こえた。

 穢れた血……またか。アイツは一体何を知ってる……

 アリスをあんな目に遭わせた何かを知ってるのか?

 

 何なのか、誰なのか知らないけど……許さない。




未来を知っているからあっという間に全て解決……じゃあ面白くないので、主人公は無駄に考えまくって答えを見失うという形に。




【スペシアリス・レベリオ「Specialis Revelio」】
暴露呪文。レベリオと省略して使われる事が多い。
ホグワーツ・レガシーであらゆるプレイヤーが数えきれない程に連発した呪文。
用途は多岐に渡るが、共通しているのは隠された物を暴くという事。

魔法で姿を変えている対象にも通用する。
しかし動物もどきを人間に戻す事は出来ず、それはまた違う呪文を使うらしい。

アパレシウムという、レベリオよりも用途を絞ったと思われる暴露呪文もある。
見えないインクで書かれた文字や、簡単な隠蔽呪文の突破に使うらしい。

ホメナム・レベリオという、人間に限定して居場所を探る呪文もある。
こちらは暴露呪文では無いらしく、範囲内で確認するだけっぽい?
透明マントを被ったハリーの事をダンブルドアが見抜いた時は、これを無言杖無しで使ったとされる。



【ネビュラス「Nebulus」】
杖から霧を発生させる呪文。濃度の調整は当然出来るだろう。
視界を遮るだけなら煙幕呪文もある。
主人公にこちらを使わせたのはファンタスティックビーストでダンブルドアが使用していたから。



【フューモス「Fumos」】
煙幕呪文。上記とは霧か煙かの違いしか無さそう。
その場の環境次第で使い分けるのだろう。
ダンブルドアが霧を選んだのは、ロンドン市街という広範囲を覆うのに煙では異常過ぎたからかも。

どちらにしても視界を遮るのは効果的なので戦いに使われてきたらしい。
勿論、危険な生物と遭遇した際にも効果的とされる。あくまで目を使う生物相手なら、だけど。



【エバブリオ「Ebublio」】
対象を大きな泡に閉じ込める呪文。この泡は物理的な力では破裂しないらしい。
詳しい事は分からないが、妨害や拘束として使うようだ。
完全に遮断されては酸欠で倒れると思うが、人1人包む程の大きさなら少しの間は大丈夫だろう。

同じく泡で包む泡頭呪文とはまた違う物。
あちらは頭部のみ、且つ酸素だけは供給される様になっている。



【カーベ・イニミカム「Cave Inimicum」】
物語終盤の旅の中で、キャンプを守り警戒する為に使われた。
敵が近づくと知らせてくれるっぽいが、他にも効果がある。

なんとこの呪文は境界を作り出し、範囲内に居れば外からは見えず聞こえず匂いさえも遮断する……らしい。
その効果から、本当は上記のエバブリオではなくこちらを使わせたかったが、難易度の高そうな呪文なのでボツ。
あと自分が動いたら境界を越えてしまいそうだし。
なので物理的に覆って対処出来そうな呪文を選んだ。


余談だが「Cave」をケイブとは読まないようだ。
洞窟という意味以外に、気を付けろという意味があるので間違ってはいないと思うが……
語源であるラテン語がカーベと読む……という訳でも無さそうで、そちらはカウェーが近いそうだ。
よくわからない。



【ヴァルネラ・サネントゥール「Vulnera Sanentur」】
深い傷を癒す呪文と思われる。
スネイプがセクタム・センプラの反対呪文として同時に作ったと考えられていたが、後に過去の話であるファンタスティックビーストに登場した事で考察がズレてしまった呪文。

この呪文は3度繰り返すという設定ぽい。
1度目で出血を抑え、2度目で傷を綺麗にして治癒を始め、3度目で治癒を終える……との事。
随分と余計な手間を踏ませる癖に、これだけで完璧な処置が出来る訳では無いようだ。

映画での描写はまるで時が巻き戻るかの様に、流れた血や破れた服までもが綺麗に直ったが……それは流石に過剰な演出と見ていいだろう。
傷を治すだけでなく、死体を直す事も出来るらしい?
グリンデルバルドが死霊術の一環として使っていたが、この呪文単体で可能な事なのかは分からない。
そういった描写を見ての個人的な所感では、生物を対象にしたレパロに近いかも。

なんにせよかなり高度な治癒呪文である事は間違いないだろう。
ただし闇の魔術や狼人間による「呪われた傷」は治せないというのが根本にあるので、この呪文であってもそれは不可能だと思われる。



【セクタムセンプラ「Sectumsempra」】
スネイプが学生時代に作った、対象を斬り裂く呪文。ディフィンドよりも遥かに強力。
映画では他の呪文同様、閃光を放ち当たると対象が斬り裂かれる。
しかし原作では少し違い、杖を振った軌跡に効果が表れる。つまり見えない剣を振って斬っている感じ。

なので制御が他と違って難しく、意図しない物を斬ってしまう場合がある。
ジョージの耳を斬り落としてしまったのがそれ。
本当はどさくさに紛れて死食い人を斬るつもりだったらしく、スネイプはこっそり罪悪感に苛まれていた。


恐らく当初は闇の魔術として設定されていたと思われる。
唯一反対呪文のヴァルネラ・サネントゥールでのみ治せるからこそ、ジョージの耳は治せなかったのだろう。

しかし上記の呪文が過去の時代で使われてしまったので前提が崩れた。
どれだけ高度な治癒呪文だろうと呪われた傷は治せない、という設定は無視出来ない為、マルフォイの傷を治した=闇の魔術ではないという形にしなければならない。

が、そうするとジョージの耳が治せない理由が消えてしまう。
それはそれで何かしら理由を付ける事は出来そうではあるが……

まぁつまり、今となっては設定が滅茶苦茶な呪文である。
なのでここでは、ヴァルネラ・サネントゥールは高度な治癒呪文であり、セクタムセンプラは強力なだけで闇の魔術ではない、という設定で行く。
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