ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第29話 暴走ブラッジャー

 裸を見られただのなんだので吹っ飛んでいたけど、改めて整理してみよう。

 お爺様が語った予言とやらについてを。

 

 どうやら私の存在は生まれる前から予言されていたらしい。

 なんてこった。根本的に物語からズレていたとは。

 

 恐らくはハリーと共にヴォルデモートと戦い、私の未来の知識によって勝利に導く……とか。

 と言う事は、だ。逆に言えば、この世界は私が未来の知識を活用しなければ勝てないのではないだろうか?

 

 私だけが知っている未来の出来事。細かい所はあやふやで、思い出すのも土壇場になりがちな記憶。

 それが勝利の為に必要となると……

 ただでさえ重く圧し掛かっていた物が更に重くなった気がする。

 

 でもまぁ、私がそう感じる事もお爺様達には筒抜けだったんだろう。

 私1人で背負うべきものじゃないと何度も念入りに言われてしまった。

 

 言われて初めて、自分がそんな烏滸がましい真似をしていたのだと気付いた。

 あのお説教は私を打ちのめして反省させるには充分過ぎた。

 

 どうせ変わってしまう未来なら、皆で未来を変える。

 それが良いのか悪いのかは、結果次第だけど……私1人で背負いきれる物じゃない事だけは確かだ。

 

 

 とは言え、いずれにせよ私がやる事の大筋は変わらない。

 お爺様の考えを全て理解出来た訳じゃ無いけど、私が必要だと思った事を共有しろと言ってくれたのは正直助かる。

 運命的な流れで勝利したのが原作だ。それを大きく変えれば予測が出来なくなるというのもやはり変わらない。

 

 予測出来た方がよっぽどマシなのは間違い無い。

 基本は原作に沿う様にしつつ、より良い可能性を探して動く。それだけだ。

 

 まぁ……言うのは簡単でも、実際はとことん難しいんだけどね。

 それでも、ああして言ってくれたお陰で少しだけ気が楽になった。

 

 とにかく頑張ろう。頑張るしかない。

 頑張った先にはきっと、最高の未来が待ってる。そう信じよう。

 

 

 

 

 そうして、少しだけ成長出来た私が学校に復帰して数日。

 事件は鳴りを潜め、少しだけ平穏な空気が戻ってきた。

 

 どうやら本当にリドルはまともに動けなくなっているらしい。

 先生達が厳重な警戒をしているからだ。おまけに生徒は夕食以降の外出が禁止されている。

 それまでの放課後は自由だけど、生徒達は限られた時間を楽しんでるから何処も賑やか。

 しかもハリー達が言ってた様に誰もが集団で動いている。

 

 これじゃ彼が動けないのも当然だ。1人でこっそり動いていたらあまりにも浮いてしまうし、そもそもこの状況で動ける性格でも無いだろう。

 元々そんなに立て続けに事件は起こしてなかったけども。

 

 で、操られていたであろうジニーはと言うと……

 常に体調が悪そうにしているし、私を見るだけで青褪めて震え始める。

 

 もしかして襲った時の事を覚えてる……?

 気になるけど、残念ながら私が近づくと一目散に逃げてしまう。

 会話どころじゃないなこれ。

 

 

 お爺様達と事件の解決に動くというのも、今はまだ警戒以外に大した事は出来ていない。

 様々な案を出し合ってはいるけど、これだという答えが出ないのだ。

 

 日記に関しては同じ女子寮の私が盗み出すと提案した。

 結果、私とお母さんで深夜に部屋まで潜入したんだけど……日記は見当たらなかった。

 大騒ぎになって警戒されているからこそ、リドルが何かしら対策を取ったのかもしれない。もしくはベッドの中に持ち込んでいたか……

 

 当然ながら魔法で呼び寄せる事も出来やしない。

 直接聞き出すなりして、理由を付けて日記を回収する案も出た。

 だけど万が一リドルに悟られたら面倒になる、と泣く泣くジニーに負担を押し付けている。

 

 憑依している彼の意識がどうなっているのか具体的に分からないからだ。

 ジニーだと思っていたら、実はリドルの意識だった……なんてのも有り得るかもしれない。

 

 強引な手段を取って、自棄になったリドルがバジリスクを解放して手当たり次第に……なんてのは絶対に避けたい。

 早々にジニーが日記を捨ててくれたら良いんだけど……それはそれで想定外の人の手に渡ったら困る。

 

 

 それでも部屋の所在は伝えたし、戦力も剣もある。帽子から引き抜けるのが真のグリフィンドール生だけって話で、保管してある剣を持ち出すのは別だ。

 つまり、状況さえ整えばバジリスクの討伐はすぐにでも終わるだろう。

 

 問題はその状況だ。

 他の生徒に危害の及ばない場所で対面しなければならない上に、そもそもリドルが呼び出してくれなきゃ何処に居るかが分からない。

 せっかく秘密の部屋から解放されたのに、変わらず部屋に籠ってるとは思えないし。

 それに下手に部屋を開いて気付かれるのも避けたい。

 

 本当に厄介な事件だ。

 でもさっき言った通り、まだ多少安心していられる状況だ。ジニーには悪いけど。

 

 リドルが業を煮やして動き始めるのが先か、私達が作戦を立てて動くのが先か。

 急ぎはしても決して焦らず、確実な手を模索しよう。

 全く、本当にストレスが酷い。

 

 

 ちなみにハリー達は助言を貰った翌日にはロックハートのサインを手に入れ、禁書の棚から「最も強力な魔法薬」とか言う本を借りていた。

 行動早いね……これはスネイプの倉庫が荒らされるのもすぐだな。

 

 

 

* 

 

 

 そんな日々だとしても、学校生活は普通に過ぎていく。

 今日はクィディッチの試合だ。相手は勿論、スリザリン。

 

 殺されかけて復帰したばかりの私が試合に出るつもりだと聞いて、チームメンバーどころか周囲の人は皆驚いて心配していた。

 だけど、だからこそ試合に出るべきだと思う。

 

 被害者の私が元気良く試合で活躍する事は、きっと生徒達の為になる。

 未だに不安がっている人は当然居るんだ。

 励ますという訳では無いけど、気分は変わる筈だと思いたい。

 

 なんて、試合に臨むだけじゃない気合を入れながら、ハーマイオニーとロンに見送られハリーと共に競技場へ向かった。

 

 

「スリザリンには我々より優れた箒がある! それは否定すべくも無い!」

 

 チームが集まるとウッドの激励演説が始まった。

 

「しかしだ。我々にはより優れた乗り手が居る! 我々は厳しい訓練をしてきた。我々はどんな天候でも空を飛んだ――」

 

「全くだ。俺なんてここしばらく、ちゃんと乾いてた試しが無いぜ」

 

 皆もやる気充分の筈なんだけど、彼のやる気に比べればまだまだだろう。

 演説を聞きながらジョージの呟きを聞いて少し笑いそうになった。

 というか悪天候でも構わず練習してたのはやっぱり意義があったのね……効果があるかは別として。 

 

「そしてあの小賢しいネチネチ野郎のマルフォイを金の力でチームに入れてしまった事を、連中に後悔させてやるんだ!」

 

 演説は続き、熱が上がってきた。もう叫んでるじゃないか……

 

「ハリー、君次第だぞ。シーカーの資格は金持ちの親父だけじゃ駄目なんだと目に物見せてやれ!」

 

 というか彼もマルフォイがシーカーになれたのはお金のお陰だと分かってるらしい。

 憎き宿敵のチームだろうと、そこには納得がいってない様に見える。

 

 言われたハリーは緊張して頷いた。

 

「マルフォイより先にスニッチを掴め! 然らずんば死あるのみだ。何故なら我々は勝たねばならないのだ、何が何でも!」

 

 しかしそこで終わればいいのに、ウッドは更なるプレッシャーを与えていく。

 死あるのみって……試合前からハリーが汗掻いてるよ。

 

「ま、そう気負い過ぎるなよ、ハリー」

 

 フレッドがウインクして気を楽にさせようとしたけど、効果は無さそうだった。

 頑張れ、ハリー……

 

「アリス、君もだ。大丈夫だから試合に出させてくれと言ったのは君だ……始まってからやっぱり無理でしたは通用しないぞ」

 

「そりゃ勿論。絶好調だし、精一杯やるよ」

 

 今度は私が激励の対象にされた。

 とは言え怪我なんてすっかり完治してるし、私は私のやるべき事をやるだけだ。

 嘘偽り無く、精一杯頑張るさ。積み重ねた練習の成果を見せてやる。

 

「結構。ブラッジャーを食らってでもゴールにぶち込んでいけ」

 

「いやそれは無理……」

 

 私が笑顔で答えると、ウッドは満足そうに頷いて無茶を追加してきた。

 そんなの出来たら人間じゃないよ。アレは鉄製だ。

 食らったらまた医務室送りにされてしまう。

 

 って……ブラッジャー……?

 あ! しまった、この試合ってドビーがブラッジャーを操って妨害する試合じゃん!

 

 やっば……すっかり忘れてた。ていうかドビーの存在さえもう忘れかけてた。

 全く、これだよ……ちゃんと覚えてる事の方がきっと少ないっての。

 

 あー、どうしよう……もう遅いか。そもそも対策しようが無いか。

 本当に頑張るしかないぞハリー……多分殺されはしないから……多分ね。

 

 

 

 

 早々にブラッジャーの事は諦めて、試合開始。

 合図と共に選手達が一斉に鉛色の空へ舞い上がり、観客の声が響いた。

 

 私が務めるチェイサーはクアッフルを相手のゴールに叩き込むのが役目だ。

 その妨害に相手のチェイサーとブラッジャーが飛んで来る。

 

 小柄な私とシルバーアローの性能なら、加速と細かい制御はお手の物。

 つまりウッドの言う様に、乗り手の差で箒の差を埋められる……筈。

 

 見てろよ皆。私の初試合……素晴らしい活躍で見惚れさせてやる!

 

「さぁ、先に飛び出したのはグリフィンドール! ホークスヘッドだ! パスを回して……あーっと、アンジェリーナが突っ込んだが流石に無理か!」

 

 リー・ジョーダンの実況を背に、チェイサー3人が矢じり型の陣形で飛ぶ。

 攻撃的なフォーメーションだ。格上の箒相手に様子見は要らないってね。

 

 そのまま初手はアンジェリーナがゴールに向かうけど、そう簡単に決まるものじゃない。

 相手のキーパーが防ぎ、クアッフルをチェイサーへ回そうと投げた。

 

「おぉーっと!? アリスが下から奪った!? 行け、ゴールは目の前だぞ!」

 

 それを予想していた私は先んじて気付かれにくい下に潜り込み、急上昇してパスをカット。

 

 普通のボールじゃこんな事は出来ないけど、クアッフルには魔法が掛けられている。

 その1つが握りやすくする呪文だ。直径は30センチもあるってのに、私の小さな手でも片手で掴めてしまう。当然ながらキャッチするのも楽だ。

 

 ゴールを目の前にして私はクアッフルを振り被り……投げるフリをして横へポイ。

 後ろから妨害に来た相手を躱し、そしてキーパーは反応がズレた。

 

 それを流れる様に拾い直して隣のゴールへ叩き込む。

 よし、まずは10点。

 

「決めたー! 良いぞ、その調子でどんどんゴールだ!」

 

 ……相変わらずのグリフィンドール贔屓な解説だな。

 ポジションに戻る間、呆れを隠しつつ観客席に手を振る。

 まだまだ。もっと元気良く活躍しなきゃ。

 

 しかしスリザリンは慢心してるっぽいね。全員が最新の箒を手に入れた所為かな。

 あんな単純なフェイントがあっさり通るとは……でも何度も通用するとは思わない方が良さそうだ。

 

 本当はフェイントじゃなくパスをして、2人のどっちかに投げてもらいたかったんだけどね。

 残念ながら地味なルールがあって、スコアエリアに入れるチェイサーは1人だ。

 先に突っ込んだアンジェリーナがすぐに戻ったから私が行けた訳だし。

 

「アリスは今年選ばれたばかりの2年生選手、初試合とは思えない素晴らしいゴールでした!」

 

 お、いいぞいいぞ。もっと褒めろ。大変気分が良い。

 そんなに素晴らしかったとは思わんけど。

 

「何より彼女は先日、何者かに襲われ大怪我を負ったそうですが……全く元気ですね! 見てるか犯人、俺達のアリスは無事だぞ!」

 

「ジョーダン!」 

 

 そうそう、そのアピールをしてるんだよ。もっと言って。

 でも犯人を煽るのはやめてね。リドル自身は聞いてないかもしれないけど、横でお母さんが咎めている様に軽く見て良い事件じゃないんだから。

 

 ていうか俺達のアリスって何。私がいつ誰の物になったって?

 まさかアイツもファンクラブの……今度調べるか。

 

 

 まぁいい。ところでハリーはどうなってる?

 ブラッジャーってどのタイミングで……あ、もう暴れてるわ。

 

 私達よりもずっと上の方で、ハリーはブラッジャーから逃げ回っていた。

 それをどうにかしようとフレッドとジョージが張り付いて打ち返し続けている。

 

 明らかに異常だけど、今はまだ誰も問題視していない。

 私達が下で活躍する程に気付かれなくなるか……でも仕方ない。とにかく頑張れ3人。

 

 

 

 

 残念ながらその後の展開は苦しかった。

 続けて2回、3回と私達がゴールを決めた辺りからスリザリンチームの慢心が消えた。

 最初は良くても、結局箒の性能で追い縋って来たのだ。

 

 しかもこっちはビーターの2人がハリーに付きっきり。

 残るもう1つのブラッジャーへの対処が出来ない状況だ。

 

 つまり……相手はチェイサー3人、ビーター2人、ブラッジャー1つ。

 それに対し私達はたったチェイサー3人と、ゴール前から動けないキーパー1人。

 

 攻める余裕どころか、防衛も妨害もまともに出来やしない。

 

 敵の進攻を止める術はたったの1つ。襲い来るブラッジャーを掻い潜って、シュートされる前にクアッフルを奪取するのみ。

 無理。あまりにも不利だ。

 

 全く持ってどうしようもない。

 結果がこの30-60という点数だ。

 

 先制できた30点以降、短時間で6回も立て続けにゴールされている。

 当然キーパーのウッドだって何回も防いでくれているのにこれだ。どれだけ猛攻が続いているのか、観客からもよく分かるだろう。

 

 そして大粒の雨が降り始めて余計にやりづらくなった。

 圧倒的に不利な状況で、視界まで悪くなったのだ。

 

 いい加減苦しくて困り果て、またしてもゴールを決められるとホイッスルが響いた。

 ウッドがタイムを申請したようだ。

 

「フレッド、ジョージ、一体何をやってるんだ? ずっと攻められ続けてるぞ、もう30-70だ」

 

 私達が集まると、そのウッドは厳しい顔で双子を見た。

 なんで状況が分かってないんだ、なんて言えやしない。流石の彼だって、あれだけ猛攻を受けていれば上空で何が起きてるかなんて把握出来る筈も無い。

 

「俺達、ずっと上の方でもう1つのブラッジャーをどうにかしてたんだ」

 

「誰かが細工したんだ……ハリーに付き纏って離れない。試合が始まってからずっと、ハリー以外を狙わないんだよ」

 

 それに双子が腹立たし気に返した。誰かが、とは言うけど……明らかにスリザリンを疑っている。

 むしろ真実を知っている私以外の全員がそう考えた。

 

「しかし最後の練習の後、マダム・フーチの部屋で鍵を掛けて仕舞ってあったんだ。そんな事……いや、なんにせよ今どうするかだ」

 

 言われてウッドは訝し気に考え込もうとして、すぐに今この場での対処を悩み始めた。

 

「聞いて。フレッドとジョージが僕の周りを飛び回ってちゃ、向こうから飛び込んで来てくれない限りスニッチは捕れない。2人は皆の所に戻って、ブラッジャーは僕に任せて」

 

「馬鹿言うな、頭を吹っ飛ばされるぞ!」

 

 そこでハリーが1歩進み出て、彼なりの考えの下で作戦を提案した。

 いや、作戦とも言えない様なただの無茶だ。

 

 そんな無茶を聞いて、フレッドが思わず叫んだ。

 それも当然、ブラッジャーは直径25センチ程の鉄の塊。そんな剛速球を受ければどうなるか……魔法界の価値観が壊れてるからアレだけど、本当に危険だ。

 

 ウッドは彼らを交互に見て、どう答えるべきか考えている。

 私も一応考え、ハリーとこっちに1人ずつ別れて付いたらいいんじゃないか……と言いかけて止めた。

 そんなの当人達が一番分かってる筈だ。それでもハリーに2人で付いていた理由がある。

 

 スニッチを捕れれば150点分は逆転出来る。だけど彼がやられたらまず負けが確定してしまうんだ。

 得点を明け渡してでもシーカーは守らなきゃならない。

 きっと2人じゃないと対応出来ないという判断だったのかも。

 

 だけど逆転出来ない程に点差を付けられたら、そもそも話にならないのも事実。悩ましい。

 

「オリバー、そんなの正気の沙汰じゃないわ。ハリー1人に任せるなんて駄目よ、調査を依頼して――」

 

「今中止したら没収試合になる! たかが狂ったブラッジャー1つの所為でスリザリンに負けられるか!」

 

 ウッドが答えるよりも前に、アリシアが声を上げた。

 しかしハリーはそれを遮って叫ぶ。負けん気の強い事で……

 

 でも去年の事を思うと、彼の熱意も理解出来る。

 自分が出れなかった所為で優勝を逃し、次こそはと意気込むチームを見て……今度は自分が狙われた所為で中止なんて堪らないだろう。

 

「……よーし。分かった、フレッドとジョージはこっちに戻ってこい。スニッチとブラッジャーはハリーに任せろ」

 

 彼の熱意を見せつけられて、ウッドはキャプテンとしてキッパリと指示を下した。

 チームとしてはキャプテンの指示には従うべきだ。皆はそれを受け入れ、会議が終了した。

 

 その指示に不満は無くとも心配はある。だけど同時に、ハリーの熱意を見て何も思わない訳も無い。

 重苦しい空気で始まった会議だったけど、雨空へ舞い戻る頃にはそんな物は吹き飛んでいた。

 皆の表情も変わった様に思う。

 

「ったく、ウッドの所為だぞ……『スニッチを掴め、然らずんば死あるのみ』なんて馬鹿な事を言うから、ハリーがおかしくなっちまった」

 

 飛びながらジョージが呆れた様にボヤいたのが聞こえた。

 チラリと横を見ると、当のウッドは微妙な顔をしていた。若干反省してるらしい。

 

 

 

 私達がそうしてキッチリ精神的にも仕切り直せたタイム中……スリザリンチームは余裕振ってニヤニヤと笑ってばかりだった。

 腹は立つけど、思う存分笑っていればいいさ。最後に笑うのは私達だ。

 

 せっかく圧倒的に押せていたというのに、ちょっと間が空いただけでもう慢心が戻っている様に見える。

 その証拠に、試合が再開されて早々に防衛を成功させ攻めに転じる事が出来た。

 

 双子が私達の方へ戻ってくれたお陰で、ハリーが1人で対処してくれてるお陰で、さっきとは比べ物にならない程に動きやすい。

 実質1つしか機能していないブラッジャーをこちらが打てれば合わせて攻めるのも楽だ。

 

 全く、これで更に相手ビーターが居ない状況だったんだから、そりゃあんな猛攻が続くわな。

 けどもう攻めさせはしない。ここから逆転といこうか。

 

 

「おらぁっ!」

 

 フレッドがブラッジャーをブチかまし、私達はパスを回して敵のゴールへ飛ぶ。

 

「ほらほら、あっちだ!」

 

「残念、こっちじゃないよ!」

 

「こっちこっち! やっぱりあっち!」

 

 まるでおちょくる様に素早く縦横無尽に動いた。

 パスを回すには少し近い距離を保ったまま、ヒョイヒョイとクアッフルが飛び交う。

 

 短いパスを様々な角度で素早く繰り返す。進攻は遅くとも、翻弄して確実に行く。

 それがウッドの捻り出した対スリザリンの戦い方であり、私達が必死に磨いた技術だ。

 

 

「行け行け! さっきまでとは打って変わってグリフィンドールの攻撃だ! どうしたスリザリン、せっかくの最新箒が泣いてるぞ!」

 

「ジョーダン!」

 

 

 スリザリンの最新箒は確かに脅威だけど、そのご自慢の最高速度に到達する前に切り返させてしまえば良い。

 あっちにこっちに振り回してやれば……瞬間的な加速だけならまだ対処のしようがある。

 

 しかも、だ。彼らは全員が同じ箒を使っている……つまり1つの対策だけで全員に効いてくれると言っても過言ではない。

 いや全員は過言かも……ポジションで動きも全然違うし。

 

 ともかく、ファイアボルトみたいぶっ飛んだ箒でもなければどうにかなる。

 

 

「おっと、アンジェリーナがゴール下へ……いやこれはパスだ! 上に居るのはアリス!」

 

 

 ゴール手前の下方にアンジェリーナが飛び込んだのを見て私も加速した。

 スコアエリアの直前で彼女が上へとパスを投げ、私は目の前に上がってきたクアッフルへと手を伸ばし……急ブレーキをかけた。

 

 直後、眼前をブラッジャーが通過する。

 危うく腕を、下手すれば頭を吹っ飛ばされてたかも……怖。良い狙いしてるわ。

 

 そして私は急ブレーキで前へつんのめって姿勢を崩し、クアッフルは少し上でふわりと落ち始めた。

 マズイ、腕の短い私じゃ届かない。奪われる……ゴール目前でそれは嫌だ。だったらそれこそ、無理矢理にでもこっちが……

 

 そのたった数瞬の思考の後、私は箒から脚を放した。

 

「うっりゃぁぁああ!」

 

 

「なんとー!? アリスが1回転、クアッフルを蹴ったー!? ゴールには投げ入れなければならないルールがありますが、パスに脚を使ってはいけないというルールはありません! でも普通やるかー!?」

 

 

 つんのめった勢いを利用して前へ縦回転。

 しっかり柄を掴んで、精一杯脚を伸ばしてクアッフルに向かって踵落とし。

 

 パスを送ってきたアンジェリーナにクアッフルを蹴り戻した。

 私より先に拾おうと飛んで来た相手は愕然としている。

 

「痛ったぁぁああ!?」

 

 我ながら咄嗟に素晴らしい踵落としが出来たもんだと自画自賛してしまうが、普通に痛かった。

 

「ちょっ……!? 危なっ……でもナイス!」

 

 

「辛うじてアンジェリーナが受け取った! 行けー! 決めちまえー!」

 

 

 直前で止まったから私はまだスコアエリアに入っていない。

 なんとかパスを受け取ってくれた彼女が代わりに突っ込み、急上昇しながらシュート。

 

 私のおかしな行動でキーパーさえも驚いて一瞬硬直していたようだ。

 防ぐにもギリギリで間に合わず、クアッフルはゴールを突き抜けた。

 

 

「入ったー! これで40-70! 良いぞ、ここから逆転だ! もしくはスニッチを捕って終わらせちまえ!」

 

「ジョーダン、いい加減にしなさい」

 

「はい、すみません……先生、何故立ってるんですか?」

 

「娘の活躍を喜んではいけませんか?」

 

「いえ……あの、筒抜けです」

 

 

 何してるんだお母さん……今更だけど常に家族に見られてるってのは中々恥ずかしいな……

 

 まぁいい、しっかり活躍して注目を集められた事は嬉しい。

 ずっと攻められていて観客までもが重苦しい雰囲気だったからね。

 攻めに転じていきなりインパクトのあるゴールで、かなりの歓声が響いてる。

 全く、気持ち良いじゃないか。もっと見て。もっと歓声頂戴。

 

 自分でゴールを決めた訳でも無いのに、私はこれでもかと観客に笑顔で手を振ってポジションに戻って行く。

 そうしてハリーの方を確認して……

 

「あっ……」

 

 思わず声を上げた。

 ハリーとマルフォイは何やら止まって向き合っており、ニヤニヤ笑ってるマルフォイの顔の傍にスニッチが居る。

 嘘でしょ……なんでアレに気付かないんだアイツ。

 しかもこっちで得点されてるのに、2つの意味で笑ってる場合じゃないだろ。

 

 当然ハリーは突進する様に素早く飛んだ。

 それにビビったのか、マルフォイは慌てて大きく離れる。まだスニッチに気付いてないのか……

 

 

「あっ、ハリーが動いたぞ! スニッチだ! マルフォイはスニッチから離れて……何してるんだ?」

 

 

 むしろ実況の方が早く気付いている始末。

 それを聞いてマルフォイは大慌てで姿勢を整え飛び出すが、あまりにも遅過ぎた。

 ビーター2人も妨害にブラッジャーを打って飛んで行くも、ドビーの変則的なブラッジャーをずっと避け続けていた彼はサラリと避ける。 

 

 きっとこのまますぐに捕るだろう。

 うーん……正直もうちょっとこっちで活躍したかった。なんとなく消化不良だ。

 でもまぁ、うん。いいか。

 

 そうしてハリーはスニッチを掴もうと腕を伸ばし……って、マズイ!

 

「ハリー! 避けて!」

 

 シーカーがスニッチを追ってる間だって、チェイサーは戦わなきゃならない。決してボケっと見ていてはいけない。

 そんな事も忘れて、私は堪らず叫んだ。

 

 暴走しっぱなしのもう1つのブラッジャーが迫っていたからだ。

 

 

「あーっ! ハリーの腕が!? 2つ目のブラッジャーが直撃した! 大丈夫かー!?」

 

 

 だけど声が届く前にハリーの右腕がブラッジャーに砕かれた。

 大丈夫な訳が無い。観客席で悲鳴が上がり、私は顔を顰めた。

 うげぇ……変な方向に曲がって、ダランとぶら下がってる……

 

 しかし当のハリーは痛みに耐え、すかさず左腕を伸ばして今度こそスニッチを掴み取った。

 あっぱれだな……いや余計にマズイじゃん!

 

「ハリー!」

 

 私はとうとうチェイサーの役目を放棄して飛んだ。

 片腕を折られ、残った手でスニッチを掴んだ……と言う事は箒を握れない!

 

 案の定バランスを崩して地面へ向かっていく。

 脚で箒を挟み込んでなんとか制御をしているようだけど、墜落は免れない。

 私がせっかく飛び出した意味も無く、彼は地面を勢い良く転がった。

 

 それでも握ったスニッチは決して放さず、倒れたまま空へと掲げた。

 

 

「スニッチを捕った! ハリーが捕ったぞ! 190-70! グリフィンドールの勝利だーっ!!」

 

 

 興奮した実況が叫ぶよりも早く、競技場が沸いた。

 後ろでチームメンバーの喜びの声が聞こえ、悔しそうなスリザリンチームに見向きもせずに私は更に飛ぶ。

 

 そう、だってまだ終わっていない。あのブラッジャーは未だに暴走中だ。

 ドビーは随分と執拗な奴だな。

 

「ハリー! まだ終わってない!」

 

「うわぁっ!?」

 

 今度こそ私の声が届き、ハリーは悲鳴を上げて顔を逸らした。

 さっきまで顔があった位置の地面が凹んでいる。おい……殺す気だろアレ。

 

 再びブラッジャーが空へ舞い、今度こそ仕留めようと落下を始めた。

 

「動かないで! 今私が――はぁっ!?」

 

 試合自体は既に終わったのだから、もう呪文を使ったって構わない。粉々にしてやろう。

 だけど私が杖を抜くよりも前に、ブラッジャーが予想外の動きをして驚いた。

 

 有り得ない角度で曲がり、私へと向かってきたのだ。

 まさか私が狙われるとは思いもしなかったから、咄嗟に避けるだけの余裕さえ無かった。

 

「ぐっ……ごっふぅ……っ!?」

 

 辛うじて両腕を前に組んで守ったけれど、高速の鉄の塊相手じゃどうしようもない。

 しかもこっちは急いで飛んでいたんだ。正面衝突で相対速度はかなりの物。

 鉄球は両腕を砕き押し退け、鳩尾に重くめり込んだ。

 

「かっ、は……げほっ……おげぇ……」

 

 当然そのまま落とされ、地面に叩きつけられる。

 腹の中の物をぶち撒けつつ、あまりの痛みと衝撃であっという間に視界がぼやけた。

 

 その視界の端で、またしてもハリーに向かっていくブラッジャーが空中で爆散したのが見えた。

 誰か知らないけどありがとう……

 

 薄れる意識の中、最早謎に冷静になった私はしみじみ思った。

 

 あぁ……また医務室送りだ。

 私は何をしてるんだ……ていうか……私が何をしたって言うんだ……

 本当に……厄年……だ……




たまにはこういう話も良いかなと入れたけれど……スポーツ物(一応)って難しい。
最初はもっと試合展開を細かくしていたんですが、やたら長くなった上に面白いのかという疑問を抱いたので、アッサリした原作に合わせました。




【クィディッチ】
魔法界で人気のスポーツ。今更解説するまでもないだろうが、良い機会なので一応。
マグルで言うとバスケットボールやフットボールの様な物。ただしゴールは3つある。
大体150×50メートルくらいの楕円形の競技場で、外に出てはいけないが高さに制限は無い。ただし基本的に地面に降りてはいけない。

選手は杖を持ち込んでも良いが、いかなる場合も試合中の使用は禁止。
観客が魔法を掛けた場合、チームの意思は関係無く失格となる……らしいが、観客とチームの関係等々、具体的な所は不明。

なんにせよとにかく魔法は禁止だそうだ。防水呪文も駄目なんだろうか?


クアッフルは直径30センチ程の赤いボール。これをゴールに投げ込む事で10点。
革製なので本来は茶色だが、泥に落ちると見えなくなるので赤く塗られた。
握りやすくする呪文の他に落下速度を遅くする呪文が掛けられている。その呪文がアレスト・モメンタムらしい。
革だけど柔らかいようには見えないので、それなりに硬い設定にした。

ブラッジャーは直径25センチ程の黒い鉄のボール。
近くの選手を無差別に襲う様に魔法が掛けられている。
元は大きな石で、鉛を経由して鉄になった。
ヤバイとか言うレベルじゃなく危険だと思うが……流石の魔法界である。
一応ホグワーツ「では」死亡事故は起きてないらしい。

スニッチは直径3センチ程で羽の生えた金色のボール。広げた羽を含めると意外と大きい。とんでもなく速く飛び回る。
元はスニジェットという真ん丸の小さな鳥を使っていて、乱獲されて激減したので今のスニッチに変わった。
捕まえると150点、且つ試合が終了する。クィディッチの象徴的な存在であり、クソルールと呼ばれる所以。
試合開始から即終了となる事もあれば、数日どころか数ヶ月も続いたりするらしい。馬鹿。
一応両チームの合意で終わる事も出来るらしいが……何故試合時間が定まっていないのか謎過ぎる。


チェイサーは3人。クアッフルを奪い合い、相手のゴールを目指す。
一番楽しそうなポジションであり、どれだけ頑張ってもスニッチで帳消しされる可能性のある可哀想なポジションでもある。
奪い合う中で勿論妨害もするが、相手を掴むのは反則。触れるくらいなら流石に大丈夫だと思われる。
スコアエリアという、ゴール前の区画には1人しか入ってはいけないという地味なルールがある。
脚を使っていいのかは知らない。少なくともゴールには投げ入れるようだが、屁理屈染みた解釈にした。

ビーターは2人。ブラッジャーを打ち合い妨害をする。
魔法で強化されたクラブ(棍棒)を使うが、勿論打っていいのはブラッジャーだけ。
普通に技術と筋力が無いと務まらないポジションだろう。観客席の方へ打つと反則となるので気を遣う必要もありそうだ。

キーパーは1人。基本的にゴールの前から動かない。
ゴールのリング内に入ってはいけないらしく、ゴール前で防がなければならない。
その立ち位置から司令塔の様な役目も担うっぽい? 偶々キャプテン等そういう人物がキーパーなだけかもしれない。

シーカーも1人。スニッチを捕まえる以外の事はしてはいけないし、他の選手もスニッチに触れてはいけない。
小さく高速な目標を広い競技場内で探し、妨害を躱し、誰よりも速く飛ばなければならない。
花形という立場ではあるが、同時に責任も重い。スニッチを捕まえるタイミングを考える必要もあるので、決して脳死で飛ぶだけの役目ではない。


反則をしても相手にペナルティシュートが与えられるだけで退場は無い。そして補欠は居ても交代は無い。
負傷等でやむを得ず退場した場合は不在のまま試合をしなければならない。なんじゃそりゃ。

反則は700以上も存在するらしいが、基本的なもの以外は公表されていない。
公表したらそこからヒントを得て悪用するから、らしい。

ただしその9割以上が普通は起こらない事であり、例に挙げるなら……
敵を燃やす。斧で攻撃する。諸々の魔法を使う。刀で斬り付ける。大量の蝙蝠を放つ……等々。
マジでなんじゃそりゃ。流石魔法界。



余談だが24年9月、クソルールが変更されたクィディッチのゲームが発売された。

ビーターが1人に減ったのはともかく、スニッチの得点が30点になり2回捕まえる事が出来る。
そして試合時間がキッチリ定められ、時間切れもしくは得点が100点に達した時に試合終了となる。

と、ちゃんとゲームとして、試合としてまともになっている。
個人的には色々な面でもうちょっと……という評価だが、普通に面白い。


更なる余談として、現実でもクィディッチをスポーツとして遊んでいたりする。
流石に空は飛べないが、箒っぽい物に跨って走り回る馬鹿っぽ……面白い競技。
やりたいとは思わない。
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