第3話 ホグワーツ特急
ここがハリーポッターの世界と知って4年。
今が物語のいつなのか、なんてのは早々に調べていた。
というか、ハリーに関しては調べようと思わなくても情報はあった。
そうして判明したのは、彼とは同い年だと言う事。
それに気付いた時の小さな絶望と言ったらもう。何をしても確実に巻き込まれる。
ともかく、そうとなればロンやハーマイオニーも同い年。
逆に常に主人公達に混ざって居れば早々に死ぬ事は無いと信じたい。良い関係を築ける様にしないとね。
だからこそ、今日の出逢いは重要だ。
*
という事で9月1日、午前10時……をだいぶ過ぎてしまった頃。
私は大きな荷物を引き摺り、ロンドンにあるキングス・クロス駅を彷徨っていた。
「9と3/4番線……て何処ぉ?」
更に正確に言うなら、迷っている。
人込みは久々だし、私は小さい。荷物があっても尚、流される様にあっちへフラフラこっちへフラフラと歩いてきたのだ。
初めての広い駅で迷うなと言う方が無理だろう。どうしよう……もう時間がギリギリだ。
どうせならホームに姿現ししてくれたら良かったのに……スネイプめ。
そう、今日私を駅へと送り届けたのはスネイプだった。
時間通りに荷物を引っ提げて家を出た私を、大層不機嫌な顔で迎えてくれた。
ここに来るのは最後とか言ってたのに、なんて思わず笑って言ってしまったよ。
お陰で彼の深い眉間の皺はより一層深い谷を作った。
そして無言で襟を掴まれ、駅の近くへと放り出され……文句を言う暇も無く消えた。
うん……本当に素晴らしく不機嫌だったらしい。
多分お爺様とかマクゴナガル先生とかは入学当日は忙しいんだろうな……
それで押し付けられた上に、子供に揶揄われたと。後が怖いや。
まぁ、ホームに直接姿現ししなかったのは仕方ないとも思えるけどさ。
だってあそこにいきなりスネイプが現れたら悲鳴が上がるぞ。
だからってちょっとくらい説明してくれてもいいのになぁ……
なんて事を考えながら歩いていると、知らない筈の見知った赤毛集団を見つけた。
良かった、彼らに付いて行けばホームに着くぞ。
ついでにここで接点を作る事も出来そうだ。ウィーズリー家と親密になれば毎年イベント発生だろう。楽しそうだから混ぜてくれ。
離れた位置からこっそり後ろを歩いていくと、彼らが柱へと消えていった。
アレがあの……有名なアレか。うん、語彙が無ぇ。
原作だと柵だったけど、これは映画の柱なのか……
ていうか、今なんか黒髪の子が走ってったな。
見つけたぞ主人公。私と仲良くなろうじゃないか。
「よし、行くぞ……」
なんにせよもう時間も押してるんだ、さっさと行こう。
なんで私はカートを使わなかったんだろう。デカい荷物は先に運ばれてるけど、これでも手で運ぶには大きいって言うのに。
くだらない反省をしながら、そしてドキドキしながら突進。
変な感覚がして、一瞬で違うホームに出た。
と思った瞬間、誰かとぶつかった。
「うわっ!?」
「ぎゃっ」
盛大に事故った。どんがらがっしゃんと転がり、縺れ合う。
危ね、お前今私の胸に触りかけたぞ。無いけどあるんだよ。触ったら玉蹴るぞ。
大体、なんで柱の前に居るんだハリー・ポッター! 止まるな危ないだろ!
いや、とりあえず謝らなければ。
人が居るかもっていう当たり前の予想をせずに突っ込んだのはこちら。つまり悪いのは私。
ていうか走る必要無いじゃんね。お馬鹿。
「ご、ごめん、ごめんね? ちょっと勢いつけ過ぎちゃったかも!」
「いや……僕もこんな所に立ってたから……イテテ」
「あぁ、怪我まで……今治すね。エピスキー、あとレパロ」
掌を擦りむいたらしい。ハリーの右手を治すついでに、罅の入った眼鏡も直してあげた。
内心はともかく、表面上は取り繕っておかねば。
随分な出逢いになったけど、良い印象を与えておくに越した事は無い。
「うわ、凄い! これも魔法!?」
まだまだ新鮮だろう、驚け驚け。今だけだぞ、その感動は。
て、私は何様の目線なんだ。
「よし、これでお相子だね!」
それはともかく、食らえ美少女スマイル。年頃の男の子には効果は抜群だ。
特に女の子と縁なんて無かっただろうハリーには急所に当たったどころじゃないだろう。
「え、あ、うん……」
案の定、ハリーは顔を赤くして目を逸らした。惚れるなよ?
カップリングを壊す気は無いし、男に興味は無いんだ。私には良い印象だけを抱いていろ。
ふふふ……事故だろうと利用させてもらおうじゃないか。これでお前とは縁が出来た。
今後とも良い関係にしていこう。
…………あれ? 私スリザリンじゃね?
まぁなるようになれ。スネイプは私をグリフィンドールって言ってたし。
帽子さん頼むよー?
*
「へー、君があのハリー・ポッターなんだね」
あれから、ひとまず赤毛集団に軽く挨拶をしつつ……その流れでハリーとロンと一緒に汽車に乗り込んだ。
元々、彼らのコンパートメントを探して乱入する予定だったから助かる。
今は改めて自己紹介を終えた所だ。
と言っても、私はダンブルドアの名は出さなかった。
マグルの孤児院育ちで、魔法使いに引き取られたアリスちゃん、という事しか伝えていない。
だってここでダンブルドアの名を出すと自己紹介どころじゃなくなりそうだし。
「じゃあ、君、本当にあるの? ほら……」
恐る恐る訊ねるロンに、ハリーは前髪をかき上げて傷を見せた。
まぁ私は人の傷跡に興味は無いから、特に反応はしなかった。子供だろうと失礼と言うもんだ。
そういえばロンって序盤はクソガキだったよな……私は口を出さずにいられるだろうか。無理そうだ。
まぁいいや、喧嘩に発展する程じゃなければ構わないだろう。逆に悪い所が治ったらそれはそれで良い事だ。多分。
そのままなんて事ない会話を続けていると、車内販売が通り掛かった。
何か買おうかな、と一瞬考えて止める。
お爺様からお小遣いは貰ってるし、余裕もある。けど私は知ってるからね。
「全部ちょうだい!」
ほら来た。彼が遠慮無く買ってくれるから、私は何も払わず食べられるという訳だ。
モゴモゴしていたロンも嬉しそうだし、良いぞハリー、もっと買え。いや、やっぱり要らない。多過ぎるわ。
まぁ、彼にとっては好きなだけお菓子を買えて、それを友人と分け合うなんていう初めてだろう機会だ。winwinってやつだね、うん。
その大量のお菓子の中から、百味ビーンズを見つけ出して開ける。ふふっ、これも仲良くなるのに使えるね。
「ハリー、良い物あげよっか?」
「ちょ……」
隣でロンが声を上げたけど、構わず私は適当に摘まんだ物をいくつかハリーに渡した。
魔法界最初の食べ物がこれっていうのはかなり酷いかもしれない。でも想い出にはなるだろう。
「何これ? あ、美味しい」
ちっ……アタリか。何味かは知らんけどちょっと残念だ。
「今なんか舌打ち……え、なんで僕はこんなに? なんで君は1つなんだ?」
「まぁまぁ、食べよ」
とりあえずロンにも渡しつつ、自分も1つ口に入れる。
ハズレはあるけど、やっぱり定番なのだ。運試しって奴だね。
「――っ、ん~っ!!??」
運は最悪だった。
「うわ……ヤバイの引いたっぽい」
ロンが可哀想な物を見る目で見てくる。やめろ同情するな。
同情するならさっさと食え。
しかし……あぁ駄目だ。これは耐えられる物じゃない。
「ぐっ……んーっ!」
退け、と手で示し窓へ慌てて駆け寄ると、素早く外へ吐き出した。
「ゲボロロロロ」
腹の中の物もついでに全部。
「えぇっ!? ちょ、大丈夫!?」
ハリーが驚いて心配してくるけど、まぁ大丈夫だ。これはそういう物なんだ。
舌に穴が開くとか、そういうのと違って味だけだから全然マシなお菓子なんだよ。
願わくば、私の吐瀉物が後ろの窓に行ってませんように。
「百味ビーンズって結構ハズレがあるんだぜ。君はアタリだったみたいだけど……アリスは相当ヤバイのを食べたみたいだ。何味?」
「ゲロ味」
「…………」
おいハリー、戻すな。渡した分は食え。
「あー……酷かった」
出す物は出したので、かぼちゃジュースで口をリセット。
甘くて好きなんだよね、これ。吐いた後だとちょっと濃くてキツイけど、リセットしないとずっとキツイ。
あと初対面でゲロ臭い美少女とか終わってるし。
「ちょっと、ロンも食べてよ。ハリーも! 何大鍋ケーキに逃げてんの!」
お前ら陽キャのグリフィンドールだろうが。陽キャらしくビーンズでキャッキャしろ。
「わ、分かった! 分かったから纏めて口に入れようとしないでくれ! そんなの吐くどころじゃないよ!」
「ちょっとだけ挑戦してみるよ……」
と、そんなこんなで子供らしく賑やかに時間は過ぎて行った。
結果的に仲良くなれたならそれで良いのだ。
*
そしてそして、遂に彼女が現れた。
「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのが居なくなったの」
ノックもせずに堂々と戸を開いたのは、ボサボサの栗色の髪をした少女。
まだまだ芋臭いけど私には分かる。可愛い。
そしてぽっちゃりした少年が後ろに見える。
「蛙なら食べてるけど……」
ちょうど蛙チョコレートを食べていた所だったので、私は掴んでいた食べ掛けを見せた。
「違うわよ。ヒキガエルって言ってるでしょう?」
「ヒキガエルもさっきロンが食べちゃった」
「僕食べてないよ!?」
威張った様な話し方が気になったので、ちょっと揶揄いたくなってしまった。
冗談にロンを巻き込んでみると、予想通り良い反応をしてくれる。
「……結局見たのか見てないのか、答えてくれない?」
「「「見てない」」」
片や彼女は面白い反応を見せてくれなかった。
呆れた様な顔でもう一度聞いて来るので、今度は正直に答える事にする。自然と3人で声が揃った。
「そう……あら、魔法を掛けるの?」
そして興味を移したのか、ロンを見てそう言った。
今は丁度、彼がスキャバーズに魔法を掛けて黄色に変えようとしている所だったのだ。
「らしいよ」
「それじゃ、見せてもらうわ」
私が答えると、彼女はズイッとコンパートメントに入り覗き込む。
凄いな、よくこんなにガンガンと行けるもんだ。
「あー……まぁいいや。コホンッ……お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ」
するとロンは恥ずかしそうにしながら、なんだかすっごく聞き覚えのある呪文らしき物を唱えた。
しかし何も起こらなかった。
「その呪文、間違ってないの?」
多分間違ってるんだろうけど、その杖の問題もあるんじゃないかなぁ……
いやでも、動物もどきだから効かない的なアレなのかな。黄色にされるかとペティグリューはビクビクしてたりするんだろうか。
ちなみに私は本来の流れを大きく変えるつもりは無い。細かい所は変えたいけど。
だからこの汚いおっさんもひとまず放置する。コイツを突き出したら物語はもう滅茶苦茶だ。
ただし何処に居るかは出来るだけ見ておきたいかな。だって色々と覗かれそうでキモイし。足元に来たら踏んでやろう。
いや変態の話はともかく、杖の話だ。
ロンの杖はボロボロでユニコーンの毛がはみ出している程。
あの杖は兄からのお下がり、しかも譲ったら杖の力が失われる材質。なんてこった、最悪だ。
いくら貧乏だからって、杖くらいは買ってやろうよ……他人ん家の事情に首は突っ込みたくないけど。
というか、長く続く純血の名家でもあるウィーズリー家が、杖の材質による特徴を知らずにお下がりにしているのが信じられない。
て事はつまり、杖に関しては特徴さえも職人の知識だけで一般には殆ど知られていないんだろうね。そうとしか思えない。
「まぁ、あんまり上手くいかなかったわね。私も練習のつもりで――」
そんな考察をしている間、少女はひたすらにぺちゃくちゃと語り続けていた。
「――私、ハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は?」
そうしてようやく、自己紹介もしていないと気付いたのか名乗り始める。
ここまで一息だ、口を挟む暇も無かった。挟むつもりも無いけど。
「僕、ロン・ウィーズリー」
「私はアリス」
「ハリー・ポッター」
順々に名乗っていく。私がまだファーストネームしか名乗らない事には誰も触れなかった。何故なら……
「本当に? 私、勿論あなたの事全部知って――」
ハリーの名を聞いた途端、ハーマイオニーがまたしても長々と語り始めたからだ。
「――もう行くわ。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。3人とも着替えた方がいいわ、もうすぐ着く筈だから」
聞き流していると話は終わり、さっさと戻って行った。
凄い子だな、本当に。
「寮はあの子の居ないとこがいいな……」
それを見送り、ロンが呟いた。うん、この初対面じゃそう思うわな。
彼もクソガキだけど、彼女も彼女で凄い。まぁあっちは早々に改善されてたと思うけど。
「寮っていくつあるの?」
「グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンの4つだね」
「ウチは皆グリフィンドールだ。もし僕がそうじゃなかったら、家族になんて言われるか。レイブンクローだったらそれ程悪く無いかもしれないけど、スリザリンなんかに入れられたらそれこそ最悪だ」
寮という言葉に反応したのか、ハリーが訊ねる。
あぁ、この会話か……とりあえず私が教えると、次いでロンが語った。
出たぞスリザリン差別。マグル差別を嫌っておいてそれはズレてると誰もが思うだろう。
そりゃ、正直クソ野郎しか居ない寮だなって私も思うよ。
歪んだヤツが多くて嫌われて、嫌われてるから更に歪んで、おまけに身内で固まるばかり……悪循環だ。
でもそこだけで判断しちゃいけない、そういう面ばかり描かれていただけだ。
実際はきっと良い面も沢山ある。真の友なんて他寮でも得られると思うけど、きっとある筈だ。
「コラ! スリザリンだからってそういう言い方は駄目!」
「なんだよ、君はスリザリンの肩を持つのか?」
やっぱり口を出さずにはいられなくて、思わず孤児院で年下の子を叱る時の様になってしまった。
しかしロンは反発。なかなかに根深いようだ。
「そうじゃないけど……悪い面を聞いただけで判断出来ないでしょ。ちゃんと見て、それから自分で判断しなきゃ。そうして出した答えがそれなら、私はこれ以上口煩く言わないよ」
「……なんだよ、もう」
私の並べた綺麗事に、今度は返す言葉が無かったらしい。
不貞腐れた様にしょんぼりした。
「何だって良い所があれば悪い所があるんだよ」
「じゃあ君の悪い所は説教臭い所だ。ママみたいだよ、全く」
ほほう。この短時間で随分言うじゃないか。
それだけ打ち解けたと見てもいいか……まぁそれはさておき。
「ならお母さんらしくお仕置きを――」
「このコンパートメントにハリーポッターが居るって本当かい? 汽車の中じゃその話で持ち切りなんだけど……君なのか?」
お仕置きしてやろうと思ったら何か来た。フォーイ。
嫌なタイミングで来たなぁ、もう。
「そうだよ」
ハリーが答えた。そして視線を青白い彼と、その隣のデカブツに向ける。
「あぁ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ。そして僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」
で、名乗った。そしてロンはクスクスと笑い声を出し、咳き込んで誤魔化した。
いや私も正直、何故か面白く感じちゃったけどさ……
「僕の名前が変だとでも言うのかい? 君が誰だか聞く必要も――」
「ロン! 言ったばかりでしょ!?」
と言う事で、自分を棚に放り投げてロンへのお仕置きの続きとして軽く引っ叩く。
これでくだらない喧嘩にはならないかな?
「イタッ、何するんだよ!」
「人の名前を笑うなんて、失礼だと思わないの? それとも、彼の事を直接見て判断した結果がそれだとでも? 初対面っぽいのに!」
「だからって叩くなよな。僕は楽器じゃないんだ。君の悪い所が増えたよ……」
「まぁ、つい手が出ちゃったのは事実悪い事だけど……とにかく、さっき言った事をもう一度よく考えて」
君の悪い所を直したいんだよ。
しかし私も悪かった。そこは改めるとして、ロンもちゃんと考えて貰わなきゃ――
「あー……ポッター君? その内家柄の良い魔法族とそうでないのとが分かってくるよ。間違ったのとは付き合わない事だね。その辺は僕が教えてあげよう」
「間違ったのかどうかを見分けるのは自分でも出来ると思うよ。どうもご親切さま」
あれ? ちょっと待って。なんか勝手に始まってない?
そういえばハリーとマルフォイはダイアゴン横丁で既に出逢ってるんだったか。マルフォイの差別発言のおまけ付きで。
それがあるから最初から険悪なんだ。このクソガキめ。
「ポッター君。僕ならもう少し気を付けるがね……礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道を辿る事になるぞ。君の両親も、何が自分の身の為になるかを知らなかった様だ」
酷いセリフだ。亡くなった両親をそんな風に……
私とロンが言い合うのを止めて思わず彼らを見ると、これまた酷く蔑んだ様な目を向けられた。
「ウィーズリー家やそこの女や、ハグリッドみたいな下等な連中と一緒に居ると、君も同類になるだろうよ」
え、私も入ってる? なんで……そうか、父親から何かしら聞いてるのか。
ルシウスはダンブルドアを目の敵にしているし、そのダンブルドアの養子である私にも注目していたんだろう。
「もう一遍言ってみろ!」
堪らずにロンが叫んで立ち上がる。
ほんの少し別の思考へと移っていた私は、止める声を出せなかった。
「へぇ、僕達とやるつもりかい?」
「今すぐ出て行かないならね」
せせら笑うマルフォイに、ハリーはキッパリと言い返す。
あのー、女の子が居るんですけど……喧嘩に巻き込む気満々ですか?
「出ていく気分じゃないな。僕達、自分のお菓子は全部食べちゃったし、ここにはまだある様だしさ」
マルフォイがそう言い切ると、ゴイルがお菓子に手を伸ばした。
そして跳び掛かるロンが触れる前に、ゴイルが悲鳴を上げる。
どうやらスキャバーズが指に食らい付いたらしい。
いいぞ、やっちゃえペティグリュー。何でそうしたのかはよく分からないけど、とにかくやっちゃえ。噛み千切れ。
しかし子供相手とは言え、たかがネズミ如きでは敵う筈も無い。私の内心の応援空しく窓に叩きつけられた。ざまぁ。
が、何故か3人は逃走。やるつもりかい、とか言っといてネズミ如きに追い返されるとかだっさ。ざまぁ。
「一体何をやってたの?」
と、ハーマイオニーまで顔を出した。
あぁ、人が来るのに気付いて逃げたのか。何にせよだっさ。
当の彼女は呆れている。
床いっぱいにお菓子が散らばってるし、3人が走って行ったんだ。気にはなるか。
「何か御用?」
ロンは彼女へ振り向いて訊ねた。
わお、既に棘がある。
「3人共急いだ方がいいわ、もう間もなく着くって。――喧嘩してたんじゃ無いでしょうね? まだ着いてもいない内から問題になるわよ!」
「スキャバーズが喧嘩してたんだ、僕達じゃないよ」
「よろしければ、着替えるから出てってくれないかな?」
だから棘在り過ぎ。そんなに気に障ってたのか?
「いいわよ。皆が通路で駆けっこしたりして、あんまり子供っぽい振舞をするもんだから、様子を見に来てみただけよ」
それに対し、ハーマイオニーはツンと小馬鹿にした様な声で答え去っていった。
あーあ……駄目だこりゃ。
「行っちゃった……まぁいいか。とにかく、彼女の言う通り早く着替えなきゃ」
ともかく彼女の指摘は間違ってない。実際、汽車は速度を落とし始めている。
そもそも今のも親切心から来てくれたんだろう。不器用な子だ。可愛い。
と、私は2人を急かしながら服を脱ぎ始めた。
「ちょっ……何やってるんだ!?」
「待って! すぐ出てくから、止まって!」
「あ……しまった。ごめん」
そうだった。私だけ女だった。
孤児院の頃はそんなの関係無かったし、家には屋敷しもべ妖精が来てくれてたけど実質1人だったから……
まぁ恥ずかしい物は見せてないから大丈夫だ。彼らの反応が早くて助かった。
「よし、ごめんお待たせ。いいよ」
そそくさと出て行った彼らにも悪いから、手早く着替えを済ませて呼び掛ける。
「全く、びっくりさせないでくれよ」
「……妹さんが居るなら慣れたもんじゃないの?」
「まさか」
ロンって女の子に免疫無さ過ぎるよね。ハリーもそうだけど。
「いや出てってよ」
「はーい」
そのハリーに、顔を赤くしながら言われてしまった。
確かに、なんで居座ってるんだ私は。
しかし……うーん……早々にやらかしたか。マクゴナガル先生から散々言われてたんだけどなぁ。
あなたはガサツだとか、無防備だとか、なんか色々。女の子らしくしてるつもりでも、男って意識の所為で細かい所までは中々ね……
というかこれ、距離感間違えたら大変な事になりそうだ。
なんせ私は美少女。免疫の無い男子にはそりゃあ……
まぁなるようになるか。そこまで考えて生きていくのは面倒だもの。
これが私の最推しの呪文、なるようになれ、だ。
【エピスキー「Episkey」】
比較的軽い怪我を治す呪文。軽いとか言うが、多少の骨折まで治る。
治る時に熱くなり、すぐに冷えていく感覚があるらしい。
映画では温度の代わりに痛みがあるようだ。
【レパロ「Reparo」】
物を直す、誰もが欲しがる呪文。しかし物に宿る魔法的な能力までは直せない。
覆水は盆に返らないらしいが、実力次第で返るという説も。
ハリーは物語の最後、自分本来の杖を完璧に修復した。
これはニワトコの杖のお陰であり普通は不可能。
一言に直すと言っても、よくよく考えると具体的な所が不明。
壊れた部分を遠く離されていた場合はどうなる?
砂になるまで粉々に砕かれた石だったら?
溶けて水になった氷は?
謎。
魔法は深く考えてはいけないのかもしれない。
映画ではハリーの眼鏡を直す際、ハーマイオニーがオキュラス・レパロと対象を指定した。
他には破れた紙片を直す為に、パピルス・レパロと唱える事もある。
対象を指定する事でより正確に行使するのだろうか。