ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第30話 束の間の日常

「見慣れた天井だなぁ……」

 

 医務室のベッドで目を覚ました私は、大きな溜息交じりに呟いた。

 元気な事をアピールした結果がベッドか……凄い馬鹿っぽいな私。自分に呆れて笑いが出てくる。

 ていうかこのベッド、私専用になってない?

 

「アリス、起きたんだ」

 

 隣のベッドからハリーの声が聞こえ、頭だけをそちらへ向けた。

 彼は右腕以外は問題無さそうだ。

 

 なんで私の方が重傷なんだろう……本当に馬鹿じゃん。

 治療はされたらしいけどまだ痛い。両腕だけじゃなく腹と胸も激痛、あばらもいくらかやられたっぽい。気軽に逝っていい骨じゃないんですけど……

 

「ついさっきまで皆居たんだけど……マダム・ポンフリーに追い出されちゃった」

 

「なんだ、惜しかったなぁ」

 

 思ったより時間は経っていないみたいだ。

 いつも目覚めるのが数日後だったからよく分からなくなってくる。

 

「見てよこれ……あ、見えないか。腕の骨が消えたんだ。ロックハートがやってくれたよ……ゴムみたいにデロンデロンだった」

 

「えぇ……」

 

 笑うしかないとばかりに、ハリーが固定された腕を見せる。

 グルグル巻きで腕そのものは見えないけど、見たいとも思わない。

 

 そこは原作通りか……可哀想に。

 知ってたとも言えないから私は曖昧に反応しておいた。

 

「下手したらアリスの両腕がこうなってたかも。最初はそっちに駆けつけて、皆からとんでもなく邪魔されて僕の所に来たんだ」

 

「えぇー……」

 

 続く言葉で私は戦慄した。

 皆ありがとう。本当にマジでありがとう。

 そしてハリー、引き受けてくれてありがとう。

 

「で、結局どうなったの?」

 

「ブラッジャーはマクゴナガル先生が怒って粉々にしてくれたよ。教員席が近かったのは不幸中の幸いだね」

 

 そんな恐ろしい話は置いといて、あの後どうなったのかを聞いてみた。

 あー……またお母さんに心配掛けたんだろうなぁ……情けない。

 

「まぁでも、怪我以外は気持ちよく勝てたよ。マルフォイなんて頭の傍にスニッチが居るのに気付けなくて、散々怒られてたらしいし」

 

 心底嬉しそうにハリーが続けた。去年の責任を感じてあれだけ熱意を見せてたし、相手は一番厄介なスリザリン。

 この勝利で彼だけじゃなくチーム皆が喜んで安堵しただろう。心配は掛けただろうけど。

 

「そうだ、皆がくれたお菓子があるからアリスも食べて……あー……」

 

「……どうやって?」

 

 笑顔のままハリーはお菓子のお裾分けをしようとして、私の腕を見て言葉に詰まった。

 両手が固定されてるのにどうしろって言うんだ。

 

「ごめん、諦めて」

 

 解決策を考えるまでもなく諦めさせられた。

 おいおい、食べさせてあげるくらいは言ってみろよ。

 そういうのはまだまだ無理か。

 

「うーん……寝るしか無いか。仕方ない」

 

「多分アリスの方が早く治るよ。僕は骨を1から生やさなきゃならないからさ」

 

 隣へ向けていた顔を天井へ戻し、私はもう一度溜息を吐いた。

 つまんない。いい加減、病室のベッドは飽きた。

 早く治ると言っても、どうせ朝まで寝るなら変わらんよ。

 

 

 

 

 

 

 恐らく深夜。私は隣の騒がしい声で目を覚ました。

 どうやらドビーが現れてハリーと色々話しているらしい。

 キーキー声が頭に響く……そうだ、私を酷い目に遭わせてくれたんだし1発くらい殴っても良いんじゃないだろうか。

 あ、この腕じゃ殴れないや……だいぶ治ってるみたいだけど固定されてちゃ無理だ。

 

 他に恨みを晴らすには……お母さんに言いつけてやるか?

 いやなんか凄い可哀そうな事になりそうだから、まだギリギリ止めてやろう。

 

「ドビー、僕の骨が生えてこない内にとっとと出て行った方が良い。じゃないと君を絞め殺してしまうかもしれない」

 

「殺すという脅しには慣れっこでございます。お屋敷では1日5回も脅されます」

 

 かなり怒っていそうなハリーの声に、ドビーは何も気にせず返した。

 本当に慣れすぎだろ……不憫な奴だ。個人的には許さないけど。

 

「あぁ……ハリー・ポッターがお分かり下されば良いのに! 私はあなた様の為を思って警告をしたのに! 邪魔をしたのに! 怪我をさせたのに! それでもあなた様は学校に残ってしまう!」

 

 さっきまで散々、今までの事を説明していたがハリーは何も聞き入れなかった。

 むしろ1つ説明される度に怒りが増えていった結果がさっきの脅しだろう。

 

 何も伝わってくれない事にイライラしているのか、ドビーは叫びまくった。

 彼は彼で色々考えて動いていた。それは分かる。

 手段がイカレてる事を除けば納得は出来る。

 

 でも今この場で私が言いたい事は1つだ。

 

 

「うるっさぁぁああい!!」

 

 起こされた所為で眠いし、彼への怒りもある。

 腕の固定はそのままに、無理矢理に体を起こして私は隣のベッドへ跳んだ。

 

 そしてストレスをぶつける様に、その小さい体へ飛び蹴りをブチかました。

 殴れないなら蹴れば良い!

 

「おぎゃーっ!?」

 

 見事、クリーンヒットしてドビーは吹き飛んだ。

 

「「痛ぁぁああ!?」」

 

 そしてハリーの上に落下。

 お互いの腕が治療中の所為で一切の支えも無く、衝撃と痛みで同時に叫んだ。

 殆ど治ってるっぽいから大丈夫と思ったけど、全然そんな事は無かった。

 

「何やってんのアリス!? ドビーが吹っ飛んでったけど!? ていうか痛いよ!」

 

「だってうるさいんだもん!」

 

 痛みに悶えながらハリーが驚きと困惑で更に叫ぶ。

 ちょっとやり過ぎたかもしれないけど怒りは晴れた。

 

「ちょっ、起こして……痛い」

 

「本当に何してんの……僕だって片腕しか使えないのに……もう」

 

 起き上がる事も出来ず、私はハリーの上でモゾモゾした。

 片手でなんとかしようとしてくれるけど流石に難しそうだ。

 というか気を遣っているのか恐る恐るにしか触れてこない。

 とりあえず本当に痛いから早くしてほしい。

 

「あぁ……あなた様にも謝らなければなりません……助けに入ろうとするあなた様を見て、私はついついブラッジャーを向けてしまったのです……ドビーは悪い子! ドビーは悪い子!!」

 

 離れた所でフラフラとドビーが起き上がった。

 かと思うと自分を罰しようと近くのベッドに頭を打ち付け始める。

 

 もしかしたら実は煽りを聞いてたリドルが手を出したのかもとほんのちょっぴり思ってたけど、しっかり彼の仕業だった。

 素直に吐いてくれて助かる。蹴ったのが無駄にならなくて良かった。

 

「うるさい! 謝るくらいならするな! ていうか罰する暇があるなら今この状況を助けろ馬鹿!」

 

「はい……」

 

 私がもう一度叫ぶと、しょんぼりしながらドビーが近づいて来る。はよ来い。

 

 

 彼の助けを得て、どうにか私は自分のベッドに戻る事が出来た。

 そこでようやく仕切り直しという事で、ハリーは大きく溜息を吐いてから口を開いた。

 

「はぁ……ドビー、君の言いたい事は分かった。でも、秘密の部屋だのなんだのはもうダンブルドアを始め先生達が動いてる。君がどうするまでも無く解決に向かってるんだ」

 

 そう、彼がどうしようとも本来の流れが変わっている今は殆ど無意味だ。

 とは言えそれで納得出来るなら彼も暴走していないだろう。

 

「しかし……危険な事には変わりありません。ドビーは――」

 

「あーもう面倒くさいな! お爺様を呼んでこようか!? 君の知ってる事を全て吐かせてあげるから!」

 

 良いヤツなんだろうけど、正直面倒臭いヤツだとも思ってしまう。

 主に背くのは良くて具体的に話すのは無理ってのも理解出来ない。

 彼が全てをお爺様に明かしてしまえばルシウスも纏めてどうにか出来るだろうに。

 

「そ、それだけは御勘弁を……っ、ドビーはもう行かなくては!」

 

「あ、逃げた!」

 

 私が怒ってそう言うと、彼は慌てて姿を消した。

 なんて逃げ足の速い……

 

「あーあ……アリス駄目だよ、あんな脅す様な言い方。せっかく事件の事を色々聞けたかもしれないのに」

 

 ハリーは不満気だ。脅すつもりでさえ無かったんだけど……ていうか自分だって絞め殺すとか脅してたじゃん。

 むしろ脅されるのは慣れっこだって……あぁ、殺すって脅し限定か。

 

「まぁいいじゃん、逃げた時点で言えないって言ってる様なもんだし」

 

「それは……そうだね。はぁ……寝ようか」

 

 お爺様にさえ詳しく話せないのなら、この場で聞ける事も無い。

 実際、既に知っている事しか話せないだろう。

 

 私の言葉で納得したのか、ハリーは起こしていた体を戻していく。

 そうそう、今は寝よう。起こされて眠いよ、もう……

 

 

 あ……そういえばコリンは運ばれてこなかったな。

 早々に先生達が警戒して、夕食以降の外出が禁止にされてるお陰だろうか。

 流石の彼も深夜に抜け出す真似はしなかったか。

 

 ともかく犠牲者を減らす事が出来たのは事実。

 私はちょっとだけの達成感と安堵を感じて眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 しかしそれから数日。私はまたしても頭を抱える羽目になった。

 どうやら学校内で良くない流れが出来たようだ。

 

 それは……事件の犯人、つまり継承者を見つけようという動きだ。

 

 本来ならあの夜に襲われていた筈のコリンは無事。つまり、明確な被害者が私以外にまだ居ない。

 その私が元気な事をアピールしてしまった所為で、安心させるどころか事件を軽く見させてしまったのかもしれない。

 

 なんなら明らかにおかしいブラッジャーに私がやられた事で、犯人がなんとしても私を殺そうとしているんだと思ってしまったらしい。

 しかもお爺様達でさえ、もしやと思ったんだとか。

 リドルじゃなくドビーの仕業だと説明はしたけど……彼は今後ホグワーツで働けるんだろうか。主にお母さんが怖かった。

 

 なんにしろ憶測が飛び交うのは仕方ない。生徒達にドビーの事は明かせないからね。

 こんな展開になるなんて予想もしてなかったけど。

 

 なんか、私のやる事なす事全部が裏目に出てる気がする。

 なんなんだよもう……どうしろってんだよ……

 

 

 何日か経てば落ち着くかと思いきや、そんな事は無かった。

 特に、ブラッジャーの件で余計にスリザリンを疑う様になったグリフィンドール生のやる気は全く衰えない。

 

 グリフィンドールらしく騎士気取りなのか知らないけど、数人の男子生徒がまるで私を守るかの様に近くをウロウロとし続けている。ファンクラブの連中だろうか……

 なんにせよ何処に行くにも心配そうに見られて居心地が悪い。気持ちは嬉しいんだけど……正直鬱陶しい。

 

 お陰で下手にお爺様達との作戦会議に行く事も出来ず、私はモヤモヤとするばかりだ。

 ただでさえ基本的に集団行動になっていて抜け出せないのに。

 

 束の間の日常を過ごせるのは良いけど……そんな場合じゃないんだ。

 厳重な警戒以外にはまだ何も出来てないんだから……

 

 

 

 

 そんな中、とある日の魔法薬学の授業。

 ハリー達は倉庫からポリジュース薬の材料を盗もうと行動を起こした。

 授業前に私は聞かされていたから分かってはいたけど……なんとも凄い事をするもんだ。

 

 今更だけど、よく考えたら他の生徒が動くのは駄目でハリー達は良いって考えるのもおかしいよね。

 色んな感情から我慢出来なくて、何かしたくて堪らない彼らを引き留める気になれなかったとは言え、だ。そんなのは皆がそうだ。

 

 原作でもやってる事だし、彼らの事ならまだ多少の予測が出来るから……なんて。

 私も甘いなぁ……反省しなきゃ。

 

 

 まぁそれはともかくとして。原作通りハリーはスネイプの隙を突いて、花火をゴイルの大鍋に投げ入れた。

 当然鍋は爆発し、調合中だった『ふくれ薬』がクラス中に飛び散った。

 

 もう大騒ぎなんてもんじゃない。悲鳴がそこら中で上がり、少なくない生徒が身体の何処かを風船の様に膨らませた。

 そして運悪く、私までその被害に遭った。いや、むしろ運は良かったかもしれない。

 

「うわぁー!? なんじゃこりゃーっ!?」

 

 偶然にも胸に薬が掛かり、小さかった胸が膨らんだ。

 やったぜ。いや何を喜んでるんだ私は……

 

 いやしかしこれは中々……凄いな。でっか……重っ……でも柔らかい……ヤバイ。

 なんだか面白くなってしまい、私は悲惨な皆を見ないフリして呑気に楽しみ始めた。

 

「見て見て、巨乳になっちゃった」

 

 ハーマイオニーは盗みに夢中で居ないから、近くのラベンダーとパーバティに声を掛けた。

 胸を下から揉み、ゆさゆさと見せつける。

 

「うわぁ……ヤバ」

 

「デカ……アリスの体が小さいから余計にデカく見えるよ」

 

 どうやら2人は薬の被害に遭わずに済んだらしい。

 私の胸を見てポカンと口を開けて驚いた。

 

 こんなもん男子に見られたら、違う何かが膨らむかも……いや止めよう。

 ていうかもう滅茶苦茶見られてるから遅いか。まぁ今回は仕方ないと許してやろう。

 

「ええい、静まれ! 静まらんか! 薬を浴びた者には『ぺしゃんこ薬』をやるから来い!」

 

 騒ぎ続ける生徒にスネイプが叫んだ。

 すると被害に遭って膨らんだ人達が重い体でドシンドシンと急いで走っていく。

 大体クラスの半分くらいが浴びたのか……皆凄い事になってる。

 腕やら脚やら、目に鼻に唇に、とにかく凄い光景だ。マルフォイなんて鼻がメロンくらいに膨らんでる。

 こうして見ると私は本当に運が良い方だったな……

 

「アリスは行かないの?」

 

「えー……行かなきゃ駄目かなぁ……?」

 

 動かず眺めるだけの私にラベンダーがきょとんと声を掛けてきた。

 面白いし、困らないし、どうせならこのままで良いんだけど。時間が経てば戻るだろうし。

 

「どっちかと言うと駄目だと思うけど……色々と」

 

 私の返事を聞いてパーバティは呆れた様に笑った。

 駄目かぁ……いやでもこのまま黙っていればいいんじゃないかな。

 

「チッ……とんだ迷惑だ。ふざけた真似をしおって――」

 

 集まった生徒達が薬で元に戻ったのを見届け、スネイプが大層イラついて呟いている。

 まぁ……本当にとんでもない事をしたもんだよね。怒って当然と言うか……普通にヤバイ事してる。これに追加で窃盗だからね。

 ハリー達はともかく、ハーマイオニーも魔法界らしくだいぶぶっ飛んできたなぁ……

 

「お前も薬を浴びただろう、何故来ないのだ。余計な手間を掛けさせるな」

 

 ゴイルの大鍋を確認しようと歩き出したスネイプは私に気付いて薬を差し出した。

 ちぇっ……良く見てる事で……いや何処見てんだよ変態。

 

「このままじゃ駄目? どうせ時間で戻るでしょ?」

 

 差し出された薬を受け取らず、私は曖昧に笑って流そうとしてみる。

 せっかくだからもうちょっと堪能させてよ。

 

「黙ってさっさと治せ馬鹿者」

 

「あっ」

 

 しかし流石スネイプ、聞く耳持たず勝手に薬を私の胸にぶっかけた。 

 

「あーあ……せっかく大きくなったのに……あれ?」

 

 当然、どんどんと萎んでいく。

 はぁ……勿体ない……いや待ってなんか……

 

 すっかり重さと存在感が消え去った胸をペタペタと触ってみる。

 あれ……こんなに薄かったっけ……?

 

「あーっ!? 元よりぺしゃんこになっちゃったじゃん!? どういう事!? なんて事してくれてんの!?」

 

 なんという悲劇か、ただでさえちょっとしか無かった私の胸は素晴らしい程の真っ平になった。

 薬の量が多かったんじゃないのこれ!? マジで何してんの!?

 

「……いつもと変わらん。大袈裟に騒ぐな鬱陶しい」

 

「はぁああ!?」

 

 更にムカつく事に、とんでもない暴言を吐きやがった。

 いつもと変わらないってどういう事だコラ!?

 

 ていうか目を逸らすな。明らかに薬が多かったよな? やっちゃったよな?

 イラついて八つ当たり気分でテキトーに薬ぶっかけたよな?

 

 授業を妨害されて、材料を盗まれて、ちょっとだけ同情してたけど全部帳消しだ。

 もっと困れ馬鹿。

 

「……ぬ……ぐっ……このぉ……」

 

 思いつく限りの罵倒を叫びたかったけど我慢した。

 言ったら確実に減点という理不尽を返してくるのが目に見えてる。

 

 せめてもの反抗として、背を向けてさっさか歩いていくスネイプを歯ぎしりして睨みつけるだけだ。

 そんな私の肩をラベンダーとパーバティが優しく叩いた。同情すんな……

 

 はぁ……これ、元に戻るまでどれくらい時間掛かるのかな……

 

 

「さて……原因はこれだ。これを投げ入れたのが誰なのか判明した暁には……吾輩が間違いなくソイツを退学にしてやろう」

 

 ゴイルの鍋から花火の燃えカスを掬い上げたスネイプは淡々とそう言った。

 なんで何事も無かったかの様に話し始められるんだ、あの野郎。私の胸はそんな些細な事なのか。

 

 ていうか真っ直ぐハリーを見据えてるんだけど……え、バレてんの?

 当のハリーは、一体誰なんだろうとキョトンとした顔で取り繕っていた。知らない間に随分と度胸が付いたようで……

 

 ハーマイオニーもいつの間にか戻って来ていた。

 盗んだ材料であからさまにローブが膨らんでるけど、そこ以外は素晴らしい犯行だったね。

 静かに素早く、誰にも気付かれる事無く盗んでくるなんて……泥棒の素質あるよ、君。

 

 

 そうして授業はそのすぐ後に終わった。

 怒り心頭のスネイプが怖くて、ハリー達以外もいそいそと教室を出ていく。

 大丈夫だと思うけど、バレない事を祈るよ……

 

 ちなみに、萎んだ胸は数時間経ってようやく戻った。

 ……うん、戻ったんだよね? こんなもんだったっけ?

 いやこんなもんだったか……クソが。

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、スネイプが私を連れ去った。

 いやまぁ、相変わらず私の周りで警戒してるつもりの人達から無理矢理に引き剥がす為だけど……強引過ぎる。

 抵抗すると面倒臭そうなので、ひとまず大人しく引き摺られて行く事にした。

 

「なんのようですか」

 

 そして部屋に入ると不満を隠さずに用件を聞いた。

 言っとくけど私はまだあの件を許してないぞ。顔見たらまたムカついてきた。

 

「……いつまでヘソを曲げておるのだ、面倒な奴め」

 

「だれのせいですか」

 

 なんでアンタが文句を言うんだよ、こっちが言いたいんだよ。

 ぶすっとした顔で睨んでみるけど何も効きゃしない。

 

「もういい、分かった。とにかく話を進めさせてもらおう……明日、決闘クラブを開催する」

 

 言葉通り、心底面倒臭そうにしながらスネイプはそう言った。

 え、なんでそんな事やる必要が……そんな場合じゃなくない?

 

「決闘クラブ? なんでまた急に……」

 

「言っておくが吾輩の発案ではない。ここ最近の動きでとある男が随分と張り切っておいででな……くだらない催しだが、利用出来るやもしれん」

 

 思わず怒りを引っ込めて素直に聞いてしまった。

 どうやら原作通りロックハートがなんか言ってたらしい。

 でも利用ってどういう……?

 

「事件の犯人を見つけようなどと言うふざけた行動は邪魔でしかない。だがしかし、言って聞く様な連中なら苦労はせん……故に連中には現実を突き付けてやらねばなるまい」

 

「現実」

 

 私が首を捻っていると、スネイプはイライラと説明を始めた。

 相変わらず眉間の皺が深い事で。まぁ、解決に動く側からすれば邪魔で仕方ないのは確かだろうけども。

 

「お前はそれなりに戦える実力がある。それを皆の前で示せ」

 

 うん、結局何が言いたいのか全然分からん。

 私は更に深く首を傾げた。もっと説明ぷりーず。

 

「チッ……そこらの生徒よりもよほど実力のあるお前が無様且つ無惨に負けた様な犯人に、どうやって手を出すつもりなのかと理解させるのだ」

 

 舌打ちされた。一応分かりやすく言い直してくれはしたけど、なんか余計な言葉があった気がする。

 でもまぁ、お陰で理解は出来た。なるほどねぇ……

 

「それって効果あるの……?」

 

「知らん。が、やらないよりはマシだろう」

 

 理解した事で戻った首がまた傾いた。正直不安の方が大きい。

 しかしそんなのは彼も分かっているようだ。やらないよりマシと言われれば、そりゃまぁそうだろう。だから利用出来るかも、だったんだね。

 

 うーん……力の差を見せつけてやる気を失くさせるってのは気分の良いもんじゃないけど……仕方ないか。

 むしろ結果的にやる気を上げさせる事にならなきゃ良いけど……

 

「まぁある意味では丁度良いとも言えるな。またしても無様を晒したお前を叩き直してくれよう……覚悟しておきたまえ」

 

「え」

 

 私が勝手にモヤモヤしてる所に衝撃的なセリフが飛んで来た。

 マジか……そりゃ本気の実力を見せるなら相応の相手が必要だけどさ。

 

 指導のレベルでさえ未だにスネイプ相手に勝てた試しが無いんだけど、それって皆の前で無様を晒されるだけじゃない?

 もしかして私を虐めるのも理由の1つになってない? 大丈夫?

 

 

「話は終わりだ、もう時間も――いや待て、今日の授業で起きた騒ぎについて……お前は何か知っているか?」

 

 もう放課後になってしばらく経つ。そろそろ夕食の時間だ。

 だからかスネイプは早々に話を終わらせて立ち上がり……思い出した様にあの花火事件を掘り返してきた。

 知ってるか、って言うか……知ってるだろって顔ですけども。

 

「えっ……や、何も……あの、知らにゃいです」

 

 予想外でとりあえずどうにか誤魔化そうとしたけど、これ多分駄目だ。噛んだ。

 

「…………開心術を使うまでも無いな」

 

 案の定、思いっきり馬鹿にする様な目で薄ら笑いを浮かべた。くそぅ……ムカつく。

 

「どうせまたポッター共なのだろう。全く迷惑極まりない事だが、騒ぎの後に棚から材料がいくつか消えていた……恐らくポリジュース薬だ。何をするつもりだ?」

 

「……あぅ……えっと」

 

 なんならハリーがやった事もバレていたし、盗まれた材料から作ろうとしてる薬まで当ててきた。何処までお見通しなんだよ……

 でも流石に目的までは分かってないみたいだ。ならこれだけはどうにか誤魔化しておかないと。

 

 あなたの寮に潜入して情報収集しようとしてるだけです、なんて言えない。

 彼の言う犯人を見つけようという行動そのものだし……根本的にかなりの問題行為だ。マジで退学にしようとしかねない。

 どうする、どうやって誤魔化す……? もう無理?

 

「チッ……大変不本意ではあるが、今回に限っては吾輩は何もせん。お前が知っていながら止めなかったのならば、これも何かしらの意味があるという事なのだろう?」

 

 私が冷や汗を掻いて慌てているのを見て、またしても舌打ち。

 だけど続いた言葉はもう予想外とかいうもんじゃなかった。

 

 なんて言った? 何もしない? あのスネイプが?

 

「…………あの、誰ですか? ポリジュース薬で先生に変身してる?」

 

 思わず目を丸くしてパチクリ。このおっさんは誰だ?

 

「グリフィンドール20点減点」

 

「んなっ!?」

 

 紛れも無くスネイプだった。

 

 なんか知らんけど、私が犯行を止めなかった事で勝手に色々考えてくれたらしい。

 ごめん、なんも考えてないし意味は無いよ……

 

「言えんのならばもういい、さっさと戻れ」

 

「は、はーいっ」

 

 冗談で流そうとしたと思われたのか、事情と目的は言えない理由がある、と判断したのか。スネイプはギロリと睨んで私を外へ促した。

 そこまで勝手に考えてくれるなら、もうそれに乗っかるしかない。

 

 私は追い出される様に慌てて部屋を出た。

 はー……なにより開心術使われなくて良かったなぁ……

 内心で馬鹿にしてたりを見抜かれたら怖過ぎる。

 

 でも……ああして考えるくらいには信頼してくれてる、と思うとなんだか嬉しい。信頼を利用してる様で後ろめたさもあるけど………

 

 

 しかし頭の良い人はある事無い事を深読みしちゃうんだろうか。お陰で助かったけど。

 ……あれ、なんか最近そんな事があった様な……うーん?

 まぁいいや。




事件に焦点を当てるとあっという間に時間が過ぎてしまう。
日常に焦点を当てると事件が間延びしてしまう。
改めてハリポタって事件と日常のバランスが難しい作品ですね。
のんびりしてないで早く動けよと思われそう。




【レダクト「Reducto」】
対象を粉々に破壊する呪文。
ハリーがダンブルドア軍団に教えた呪文の1つで頻繁に登場する。
映画ではジニーが使う印象が強いだろう。

言ってる事が恐ろしいし、それを戦闘で人に放とうというのも恐ろしい。
しかし人が爆散している描写は無い。精々が映画のベラトリックスくらいだが、それがこの呪文だったのかは分からない。
こんな呪文がポンポン決まったら実質アバダケダブラだと思う。

つまり生物にはある程度しか効かないのかもしれない。腕に当たったら腕の骨が砕けるとか、それくらいなのではないかと思っている。
勿論防ぐ事も出来るだろうが、個人的にはプロテゴ特攻的なイメージがある。
防御を砕いて有利を取る、みたいな。あくまでイメージ。

実際はどうなのか分からないが、なんにせよ使い勝手の良さそうな呪文だ。



【ブラキアム・エメンド「Brackium Emendo」】
恐らく治癒呪文なのだろうが、ロックハートが使用すると骨が抜けた。
語源としても「brackium」は腕、「emendo」は直すという意味らしい。
となれば呪文の選択そのものは間違っておらず、単純に失敗したと見て良さそうだ。

原作でも彼はやっちまった感を出し、誤魔化しも言い淀んで逃げて行った。
やはり全然関係無い呪文を使う程イカレてる訳では無かった……のかもしれない。



【ふくれ薬、ぺしゃんこ薬】
詳細不明。ふくれ薬は浴びた箇所が膨らみ、ぺしゃんこ薬はその対処として飲まされていた。
何故ぺしゃんこの方は飲む必要があるのか謎。もしかしたらふくれ薬の効果を打ち消す為だけの薬で、通常時に飲んでも効果は無いのかもしれない。

それだとなんだか面白くないので、ここでは呪文のエンゴージオとレデュシオの様な効果と解釈した。
ついでに飲むのではなく直接ぶっ掛けて対処するという設定に変更。

時間経過で勝手に治るのかどうかも謎だが、流石に永続だとは思えない。
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