この先の展開、こっちの方が良いんじゃない?
と思いついてしまったので書き直してます。
しばらくお待ちくださいませ。
翌朝、予定通りに決闘クラブの開催が告知された。
それを見た生徒達の反応は中々に好感触、前向きだった。
やれ役に立つだの、これはちゃんとした防衛術を教えようとしてるだの、やる気充分だ。
まぁ確かに、決闘を学べば万が一襲われた時に活用出来るかもしれない……と考えてしまうのは仕方ないだろう。
むしろそう考えたからロックハートは注目を集められると判断して提案したに違いない。
実際は付け焼刃で学んだってどうしようもないし、そんな簡単な物でも無いんだけど……
だからこそ、ここで私が実力を見せつける事に意味がある。らしい。スネイプが言うには。
そんなそわそわした空気のまま放課後になった。
夜の開催だった原作とは違い、夕食前の早い時間に変わったようだ。ざわざわと大勢の生徒が大広間へ集まっていく。
私は逸るハリー、ロン、ハーマイオニーの3人と共に向かった。
彼らは他の生徒達以上にやる気充分らしい。特に、夏休みに私と決闘ごっこをしていたハーマイオニーは相当だ。
片や私は若干気落ちしている。あぁ……こんな大勢の前でスネイプにボコされるのか……
大広間はスッキリ片付けられ、決闘用の舞台がいくつか並んでいた。
ゲームにもあったけど、この舞台ってなんなんだろう。幅が無いから殆ど横に避けられないじゃん。
これじゃただ正面から撃ち合うだけだ。すぐに決着が付くようにあえてそうしてるのかもしれないけど、動いて避ける事を覚えなきゃ実戦の為にならないぞ。
「決闘なんて、一体誰が教えるんだ?」
「誰かが言ってたけど、フリットウィック先生って若い頃に決闘チャンピオンだったらしいわ。多分彼よ」
ロンの呟きにハーマイオニーが予想を答える。
そうだったらどれだけ良かったか……実際に教えてもらいたいくらいだ。
「誰だって良いよ。アイツで無ければ――うげぇ……」
ハリーの声が止まり、心底嫌そうな声が漏れた。
彼の言うアイツ……ロックハートが中央の舞台に現れたからだ。
そしてその後ろにはスネイプ。
ハリーからすれば最悪のコンビだろうな。
「静粛に――さぁ皆さん、集まって! 私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか?」
登壇した彼はいつもの笑顔を振り撒き、よく通る声を張った。
「ダンブルドア校長から、私がこの小さな決闘クラブを開催するお許しを頂きました。私自身が数え切れない程に経験してきた様に、自らを守らなければならない万一の場合に備えて、皆さんをしっかり鍛え上げる為にです。詳しくは私の著書を読んで下さいね!」
大勢の注目を浴びているのが堪らなく気持ちいいんだろう。まだ何もしていないのに満足そうだ。
「では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう」
そして大袈裟な振りでスネイプに注目を移した。
こっちは対照的にいつものしかめっ面。不機嫌なのが見て取れる。
「先生が仰るには、決闘について極僅かにご存じらしい。訓練を始めるにあたり、勇敢にも模範演技を手伝ってくださります。しかしご心配めさるな! 模範演技の後でも、皆さんの先生はちゃんと存在しますから!」
知らないとは言え、元死食い人の実力者相手に素晴らしい煽りだこと。
ニヤニヤと鬱陶しい笑顔でそう言った彼の後ろで、スネイプのしかめっ面がヒクヒクと微かに動き始めた。
「相打ちで両方やられちまえば良いのにな」
隣でロンがぼそりと呟く。
残念ながらスネイプはめちゃ強いから叶わぬ願いだ。
その間にも壇上の2人は動き、向かい合って杖を抜き礼をした。そして構える。
スネイプはスムーズに、ロックハートはやたらくねくねした変な動きだ。
なんだアレ……彼なりに格好良い動きをしてるつもりなのかな……
「御覧の様に、決闘の際はお辞儀をするのが作法です。杖の構え方は各々がやりやすい形で良いでしょう」
クラブを提案するだけあって、一応知識はしっかりあるんだろう。
まるで本当に生徒達に教えるかの様に説明を始めた。動きはとことん変だけど……
杖の構え方は大事だ。振りに直結するから、ああしろこうしろと形を決められるとやりづらくて逆に上手く扱えない。
持ち方だって人其々。そっと摘まむ様に持つ人も居れば、ぐっと握り込む人だっている。
武器とは言え結局は細い小さな棒。人によっていくらでも扱い方があるもんだ。
「3つ数えて呪文を放ちます。勿論、どちらも相手を殺すつもりはありませんよ」
「僕にはそうは思えないけど……」
ロックハートは態々周囲にウインクを見せながら言った。
今度はハリーがぼそりと呟く。
うん……あっちの恐ろしい顔を見たら、誰もそうは思わないだろう。
アイツは正面の顔が見えていないんだろうか。
「1……2……3!」
「エクスペリアームス!」
そして始まると同時、スネイプは呪文を放った。
どれだけ私怨を込めたのやら、目も眩む様な赤い閃光が奔り……ロックハートが舞台から消え去った。
そして気づいた頃には奥の壁に激突し、ズルズルと崩れ落ちて大の字になっていた。
カウントダウンをしたのは彼自身なのにも関わらず、何も反応が出来ていなかったな。
やっぱり知識だけで、決闘なんてまともに出来ないんだろう。分かり切ってて期待もしてなかったけどさ。
しかし驚いた事に、彼はフラフラと起き上がり笑顔を見せた。
「さぁ、皆分かったでしょう! 今のが武装解除の呪文、御覧の通り私は杖を失った訳です」
なんともないぞ、と平静を取り繕っているのかは知らんけど……そのまま壇上に歩いて戻りながら説明をして見せる。
御覧の通りだとただ吹っ飛んだだけなんですけどね。本当にただの武装解除なのか生徒には分からないだろう。
しかし相当激しく吹っ飛ばされて壁にぶつかってたのに、随分と丈夫な奴だな……
「スネイプ先生、生徒にあの呪文を見せようとしたのは素晴らしいお考えです。しかし遠慮無く一言申し上げるなら、先生が何をなさろうとしたのかはあまりにも見え透いていましたね! 止めようと思えばいとも簡単だったでしょうが、受けて見せた方が生徒の教育に良いかと思いまして……」
杖を拾ってくれた生徒から受け取りつつ、言い訳をペチャクチャと並べた。
反応さえ出来なかった事を認められず、まるでスネイプを下に見る様なセリフだ。
だけど全てを言い切る前に止まった。ようやく正面の恐ろしい顔に気づいたらしい。
むしろさっきよりも殺気が漲ってるから手遅れだろう。
「あー……コホン。模範演技はこれで充分でしょう! では次は皆さんを2人1組にしていきますよ」
それを見なかった事にして、ロックハートはこれ以上無様を晒すまいと切り替えた。
今のを模範演技と言っていいのかは甚だ疑問だけど……
そう言って壇上から降り、生徒達を適当に組ませていく。
ふむ。仲の良い生徒同士に任せてなぁなぁでやらせようとしないのは素直に良いと思う。意外とちゃんと考えてるのか……?
「仲良し組も今だけは解散だ。ウィーズリーはロングボトムと、グレンジャーはブルストロードと、ポッターはマルフォイと組みたまえ」
スネイプも私達を見て手早く組ませていく。
あの……始まる前から一部火花を散らしてる人達が居るんですけど。何がしたくてハリーとマルフォイを……まぁいいか。
「私は?」
「今は大人しく見学でもしていろ。先んじて見せては後の印象が薄れる」
「はーい」
スルーされたので聞いてみると、スネイプは小声で答えた。
了解、どうせ全員が一斉には出来ないから半分は見学っぽいし、それはそれでいいか。
どんな大騒ぎになるか見させてもらおう。せめて面白い騒ぎであってくれ。
「相手と向き合って! そして礼!」
先程組まされた人達の準備が済むとロックハートが声を張った。
流石にこれくらいは言われた通りに皆が……いや、ハリーとマルフォイは殆ど頭を下げてない。嫌がり過ぎだろ君達……
「杖を構えて……私が3つ数えたら先程の武装解除の呪文を放ちなさい。いいですか、武器を取り上げるだけですよ」
最初というだけあって、武装解除を撃ち合うだけにするらしい。
やっぱり意外とちゃんとクラブとしてやってみせようとしてるっぽいな。生徒が聞いてるかは知らんけど。
「1……2……3!」
そして始まった決闘の練習。
残念ながら武装解除を唱えた生徒は誰一人として居なかった。
他の呪文を唱えたり、杖を捨てて殴りかかったり、なんかもう滅茶苦茶だ。
苦し気な笑い声が響き、何人かが宙を舞い、踊り始め取っ組み合う。
どうしてそうなるの……?
いやでも、そりゃ……大人を壁まで吹っ飛ばした呪文を使えと言われてもね。嫌だよね
「武器を取り上げるだけだと言ったのに! やめなさい! ストップ!」
それを見てロックハートは悲鳴の様に叫んだ。
いくらなんでもこんな展開は予想出来なかったんだろう。驚きと困惑でアタフタと動き回っている。
彼がしばらく頑張っていると、やっと生徒達は大人しくなった。
正直今だけは同情するよ。ホグワーツの生徒は流石過ぎる。
「なんと、なんと……これは根本的に1から教えないといけませんね。むしろ呪文の防ぎ方からでしょうか」
「では……今度こそ戦いという物をしかとお見せするべきでしょうな」
本当に困った様に彼が呟くと、それは良いとスネイプがニヤリと笑って反応した。
するとロックハートは若干青褪めて1歩退がった。マジの決闘をやらされると分かって、どうにか上手く辞退する為に必死に頭を悩ませているんだろう。
言ってる事は真っ当なんだけどなぁ……なんとも残念な人だこと。
ていうかスネイプはさっきの騒ぎの時になんで大人しかったんだ。面倒だからって丸投げしてただろ……
「ふっ……ご心配めさるな。貴殿の手を煩わせるまでもありますまい……こと決闘に関しては丁度良い者がおりますのでな」
そんなロックハートを見て、スネイプは鼻で笑って嫌味ったらしく言いながら舞台に上がった。
もう私の出番か……気が重いなぁ……
「アリス・ダンブルドア、前へ」
はぁ……はいはい、行きますよ。
「スネイプ先生? 流石に生徒を相手にして本格的な決闘というのは、いささか……」
項垂れた私が登壇すると、ロックハートが何故か口を挟んできた。
自分が相手をするのは嫌だろうに、代わりに生徒を呼ぶのは引き留めようとするなんて。
ビビッて及び腰になってる癖に……なんだ、やっぱり先生としての意識が無い訳じゃないんだな。ほんのちょっぴり見直したぞ。
でも残念、これは最初から決まってた事。どれだけ口を挟もうが変わらない。
なんなら生徒達でさえブーブー文句を飛ばしているくらいだ。
だけどスネイプは全く聞こえないとばかりに無視を決め込み、邪魔をするなと威圧感を増すだけ。
「あぁ……アリス、先生が君に杖を向けたら、こういう風にしなさい」
これは駄目だなと諦めたのか、ロックハートは私に近づきよくわからない何かを見せてくれた。
こういう風に、と言いながら杖を振り上げて複雑にくねくねさせた挙句、杖を取り落とした。
……何?
「おっとっと……私の杖はちょっと張り切り過ぎな様ですね」
彼が慌てて杖を拾いなおすのを、スネイプどころか大勢の生徒が呆れた様に見つめた。
私はもう苦笑いしか返せなかった。結局何がしたいんだかさっぱり分からない……くねくねさせて何がどうなるんだ。
「さてさて……無知で無謀な諸君は運の良い事に、これから素晴らしき決闘を見届ける事になる。多少の指導もしてやろう……一言足りとも聞き逃さず、一挙手一投足を見逃さず、空っぽの脳みそに刻み付けたまえ」
スネイプはもうロックハートの存在を無視して説明を始めた。
真剣なのが伝わったのか生徒達はシンと静まり返って聞いていた。
そして私達は数歩進み、舞台の上で向かい合い礼をし、杖を構えた。
集中しろ……絶対理不尽な事してくるぞ……せめて皆の前で情けない姿は晒さない様にしないと。
「アリス、私がやった様にやるんだよ!」
「え? 杖を落とせば良いんですか?」
余計な声が横から飛んできた。集中してるんだから邪魔するな馬鹿。
腹が立ったのでテキトーに返すと無視された。何か言えや。
「1……2……3!」
「わっ!?」
今度はスネイプ自身がカウントダウンをし、さっき以上の速さで閃光が奔る。
なんとかギリギリで防いだけど……ズルいだろそれ!
自分でカウントダウンして開始と同時に無言呪文とか!
「諸君、見たか? 今彼女が使ったのが防御呪文、プロテゴだ。そして吾輩が放ったのは無言呪文……威力は落ちるが呪文を唱える必要が無く、素早く放つ事が出来る」
何事も無かったかの様にスネイプは解説を始めた。
あ、本当にしっかり指導するんだ。意外……でもないか。
闇の魔術に対する防衛術の教授をやりたがるだけはあるな。
「勿論、唱えないという事は何の呪文なのかも分かりづらいという事だ。数を放ち、敵の隙を作り、そうして確実な威力を出したい時に唱えるのが戦いの基本となる」
言いながら呪文をばかすか飛ばしてくる。
そんな基本は実力者だけだよ!
舞台が狭いから横に避けづらい。私はひたすらに盾で弾くだけだ。
これじゃお手本ですらない、ただのサンドバッグだ。
「プロテゴは基本的には障壁を張り防ぐ呪文であるが……彼女の様に扱う事も可能だ。慣れればああした使い方の方が楽だろう。守り続けるよりも反撃の余裕が生まれる」
その間にも解説は続く。そう、私はプロテゴの使い方を変えている。
本来は正面に壁として張る物だけど、私は杖先に障壁を張って振る事で呪文を弾いている。
防ぐのではなく弾く。体全体を守る様な大きな障壁を維持しつづけるよりずっと楽だ。
やろうと思えば、映画の彼の様に呪文を逸らして他人に当てる事も出来る。
要は使い様……単発でいくつも呪文が飛んでくるならこっちの方が良いってだけ。
今は違うけど、実戦だと動き回るからね。防御の度に足を止めるよりも……って事だ。
「くぅ……エヴァーテ・スタティム!」
反撃の余裕が、なんて言ってくれたのだから私も見せてやらなきゃ。
弾いた流れで杖を振り、呪文を唱えて橙色の閃光を放つ。
「ただしあの使い方には弱点がある。長く維持される呪文にはやはり盾も維持し続けなければならん。なにより――」
しかしスネイプは全く意に介さず、ペッと軽く弾いて反撃してきた。
もう一度防御に回ったけれど、閃光を弾いた瞬間に次の閃光が眼前に見えた。
「っ……わぁーっ!?」
「同時に複数の呪文を弾く事は出来ん」
弾くにももう遅く、見事に私は宙を舞った。
絶妙にズラして2回放ってたんだ。指導の時に何回も食らってるパターンなのに! 成長しねぇなー私!
「ぐべっ」
舞台に転がった私は情けない声を上げた。くそぅ……
そうなのだ。杖を振って弾いている以上、ちょっとズラして複数放たれると次が弾けない。
他にも、インセンディオなんかで長く火を放たれたり……そういう時は本来の使い方をする必要がある。
楽だからと同じ使い方をしていれば弱点を突かれてしまう。攻撃に合わせて防ぎ方を変えなきゃならないんだ。
というか基本は避けるんだ、こんな狭い舞台で撃ち合う事なんて考えちゃいない。
避ける、防ぐ、弾く。それらをどういった手段でやるのか。
攻撃への対処1つとってもこの複雑さ……これが戦いなんだ。
「さて……防御に関してはこの程度にしておこう。あまり詰め込んでも諸君らの小さな脳みそでは処理出来んだろうからな。次は攻撃についてだ」
私が起き上がると、スネイプは次の指導に移った。
今のだけで充分攻撃を見せてると思うんですけど……?
「攻撃においては、生物を召喚し手数を増やすのも有効だ。生物に限らず人形でも構わぬが……術者以外に注意を向けさせるというのは大きな要素だ。サーペンソーティア!」
そしてそう言って杖を突き出し、蛇を召喚した。少し大きめな、正直近づきたくもない蛇だ。
蛇博士じゃないんだから蛇の種類なんてよく分からん。
その蛇はスルスルと舞台を動き私に向かってくる。
思ったより速いし、普通に怖い。
「うげっ……ヴィペラ・イヴァネスカ! あ……」
とりあえず放置は出来ないので蛇を消してやるが……その直後に閃光が迫る。
「あーっ!」
そしてまたしても私はポーンと宙を舞った。
なんでこんな目に遭わなきゃならないんだ……
「とまぁ、こういった形で隙を突く戦術となる。今はたかが蛇1匹であったが……これが複数だったならどうだ? 諸君でもよく分かる単純な話であろう」
「ふぎゃっ」
指導の声を背に、私はベチャリと舞台に落ちた。
痛い……目が回る……
正直こうなるのは分かってた。スネイプはとにかく呪文が速い。
私が蛇を消そうとした瞬間にはもう放っていたんだ。
これが実力。相手がいつどんな行動をするのか分かってる。
それに合わせて素早く正確に呪文を放つもんだから、こっちからすれば訳が分からない。
夏休みの指導を経て、ようやく何をされたか理解が出来る様になった程度だ。
「くっ……エイビス! オパグノ!」
立ち上がった私はお返しとばかりに白い小鳥の群れを召喚し、一斉に襲わせた。
合わせて私も無言で衝撃呪文を放つ。
「そう、たかが小鳥と言えど複数に襲われれば術者から意識を逸らしてしまう。召喚せずとも、そこらにある物を利用するも良し……いずれにせよ手数は重要と言う事だ」
しかしスネイプはサラリと受け流し、風を起こして竜巻の様に鳥達を絡めとり消し去った。
表情も変わらない。後に残ったのは散った羽だけだ。
「えぇ……」
指導しながらそんなアッサリ……意識逸らしてないやん……
どこまで読まれてるやら。全く歯が立たなくて笑えて来る。
「武装解除、失神、拘束、果ては強力な殺傷力を持った物。敵を無力化する呪文は多い。つまり隙を見せればそれらを受け、即ち負けとなる。特に、実力の拮抗した者同士ともなれば……その一瞬で勝敗が分かれるであろう」
一旦攻撃が止まり、スネイプは至極真面目に語った。
そうなんだよなぁ……分かってても難しいんだけど。
あの日私がリドルに負けた時はどんな負け方だったんだろう。
全く、記憶を消されると具体的な反省も出来やしない。
「如何に隙を作るか、隙を見せぬかが戦いである。その為の攻撃と防御、そして相手の嫌がる事を見極める目だ。これで諸君がほんの少しでも戦いという物を理解出来た事を祈ろう」
生徒たちはすっかり聞き入っていた。
これだけ本格的な指導を受ければ、無謀に犯人をどうこうしようなんてのも収まるかもしれない。
身を削った甲斐はあったかも――
「では……軽く指導を済ませた所で、本当の決闘と言う物を見せて差し上げよう。模範演技の為に分かりやすく体現してくれていたが……ここから先は彼女も本気を見せてくれるそうだ」
「……え?」
何言ってんのこの人。
いやまぁ、皆に指導してるのもあって少しだけ気を抜いて軽めにやってたのは事実だ。
でも今から本気って……マジか。
はぁ……そうだよなぁ。私の実力のアピールがそもそもの目的だもんね。
やるしかないか。意識を切り替えろ……本気だ。本気で行くぞ。
「っ――コホン。いいでしょう……1……2……」
スネイプの鋭い目で促され、何処か呆けていたロックハートがカウントダウンを始めた。
さっきは止めようとしてくれたのに……
「……3!」
「エクスペリアームス!」
開始と同時、私達はお互いに赤い閃光を放ち、ぶつかり合って弾けた。向こうは無言で放ったのに相殺だ……嫌になりそうだこの実力差。
そのままただ撃ち合う。衝撃呪文を、拘束呪文を、妨害呪文を……果ては炎を放ち爆破した。
どうせキッチリ防ぐと分かっているのだから遠慮はいらない。他の生徒を巻き込まないならなんだって良いだろう。
撃ち、弾き、防ぎ、そして狭い舞台の上でまさに舞う様にステップを踏みギリギリで閃光を避ける。
狙いが正確だからこそ、速さに慣れれば避けられる。
きっと生徒達は息を吞んでいる事だろう。だけど反応を伺う余裕さえ無い。
「エイビス」
閃光をクルリと避けつつ、ついでに先程の白い小鳥の群れを召喚する。
私の動きに合わせて周囲に小鳥が飛び回った。
「オパグノ」
そして襲わせる。今度は一斉ではなく、其々を大きく動かし1匹ずつの絶え間ない襲撃。
オマケに私も追加でいくつも呪文を放つ。
案の定、スネイプは先程と同様に防ぎつつ竜巻か何かで小鳥を対処しようとした。
だけど私はそこへ突風を送り込み、舞台の上で風が弾ける。
風の制御が乱れた所為か、スネイプは舌打ちをして小鳥達の動きを遅くし、直接撃ち落とす手段に切り替えた。
ここだ!
「フリペンド!」
「プロテゴ」
一際威力を込めた呪文を放つ……が、スネイプは小鳥を対処しながらプロテゴを一瞬だけ使い呪文を反射させてきた。
嘘っ……反射ってそんなながら作業で出来る事!?
「くっ……コンフリンゴ!」
反射されたそれを危うく躱しながら攻撃。
しかし既にスネイプは諸々の対処を終えて反撃に移っていた。
私の呪文にあえて合わせたんだろう、スネイプも爆破呪文を放ちぶつかりあって爆炎が上がった。
全く、行動が速過ぎる……一体どれだけ――
「うわぉ!?」
閃光が爆炎を突き抜けてきて、なんとかギリギリで杖を振るって弾く。
やべっ……弾く方向ミスって生徒の方に……誰か飛んでった。ごめん。
爆炎が目隠しになるって分かってて、相殺を前提に2発目を撃ってたのか。
「インペディメンタ」
「げっ」
生徒の方に意識を逸らしてしまった所為で反応が遅れた。
私は呪文を受け、体が思う様に動かなくなる。マズイ……
「エヴァーテ・スタティム」
「あー!」
結局どうしようもなく、私は三度宙を舞った。
もうやだぁ……
「て、うわっ、ちょっ……」
何故か空中でガクンと急に止まり、私は逆さ吊りになる。これレビコーパス!?
馬鹿馬鹿、それは駄目! 私スカート! デリカシー無さ過ぎ!
「リベラコーパス! アレスト・モメンタム!」
大慌てで私は反対呪文を唱えた。大丈夫、すぐに対処したから丸出しにはなってない……筈。
そのまま頭から落下するけど、しっかり減速。体を捻って着地に備える。
ただし呑気に着地なんて許しちゃくれなかった。
「エクスペリアームス」
「あ」
降りた瞬間にはもう、赤い閃光が迫っていた。
反応するにも間に合わず、私の手から杖が弾かれスネイプの方へ飛んでいく。
「インカーセラス。決着だ」
「んぎゃっ……なんで、縛る意味無いじゃん!」
杖を奪われた時点で決着なのに、私は何故か拘束された。
ぐるぐると全身をロープで縛られ、もうまともに動く事さえ出来ない。いじめか。
「さて。これで諸君にも決闘と言う物が理解出来たであろう。ぼんやりしている暇は無い、さぁ、今のを糧に始めたまえ」
スネイプは私をふわりと浮かし運びながら、生徒達を睨む様に見渡し言った。
いやいや……始めろと言われても困るでしょ。ていうか何処連れてくの……
「無論、言うまでも無いであろうが……扱えると確信する呪文以外は使わぬ事だ。己に何が出来るのかを理解し、それを最大限活用せよ」
そのままスタスタと奥へ歩き、ロックハートを見て進行を促した。
舞台から離れていた彼は慌てて壇上に戻っていく。
「あー……コホン。素晴らしい決闘でしたね、ええ。私ならばもう少しお手本らしい繊細且つ優雅な決闘をお見せ出来ましたが……ともかく皆さん、先程の様に2人1組で始めましょう。次は見学だった組からにしましょうかね!」
相変わらず何か言いだしたけど、彼としてはあまり言い過ぎない内に切り替えた。
じゃあやって見せろと言われたら困るからだろう。
そうして場はざわざわと騒ぎ始め、さっきよりはよっぽど決闘らしき練習が始まった。
ていうかお手本らしくなくて悪かったな。
最初からそんなつもりも無かったんだよ。アピールらしいからね。
で、そのアピールは充分だったのか……どうなんですか先生?
「なんだその目は。扱いが不満なら強くなりたまえ」
そんな質問を込めて見上げてみたけど、全然分かってくれなかった。
壁際に来てようやく私を解放し、腕を組んでそう言った。
多分強くなっても扱いは変わらない気がする。
「今の戦いの反省を終えたら再度――いや、そこまでする時間があるかは分からんな……反省だけしていろ」
「はーい。じゃあアピールはもういい?」
「恐らくな。実際どの程度効果があるかは時間が経たねば分からん」
とりあえず会話をしながら、揃って皆を眺めてみる。
うーん……一応決闘らしくはしてるけど、同じ様な呪文しか使ってない。
なんなら悪戯に使うような物が多いくらいで、よく見ればグダグダだと分かる。
これじゃ決闘と言うよりはふざけて呪文を撃ち合ってるだけだ。
使える呪文を活用しろってのも難しいくらいだろう。
「……全く、碌な呪文が飛び交っておらんな。決闘を学ぶよりも先に呪文を学ばなければどうしようもない」
「それは仕方ないんじゃないかなぁ……」
私が見て分かる事なんて、スネイプも当然分かってる。
でも去年と今年で闇の魔術に対する防衛術の教師がアレだ。しっかり学べて決闘に使えそうなのは呪文学で学んだいくつか程度だろう。
少なくとも3年生以上じゃなきゃ……ていうかなんかスネイプ、ウズウズしてない?
「レベルが低過ぎて見ていられん」
イライラと言ったかと思うと、さっさか歩き出した。
え、帰るの? いくらレベルが低いからってそんな――
「止まれ! 静まれ! 貴様らには戦う事すら早かったようだ。まずは呪文を学ぶ必要がある……特別に吾輩がこの場限りで指導してやろうではないか」
全然そんなつもりじゃなかった。むしろ珍しく張り切ってる様にも見える。
流石、防衛術の教授になりたいだけあるな……さっきも思ったけど。
こういうのを教えたくて堪らないんだろう。
「ポッター! 次は貴様が模範演技を務める番だ、舞台に上がりたまえ。その身をもって知るがよい……さすれば貴様であろうとある程度は扱える様になるだろう」
まぁ……楽しそうで何より。
ハリーは……ドンマイ。
と、そんなこんなで決闘クラブの時間が過ぎていった。
なんだかんだ終わる頃には皆、満足そうだった。
私達の目論見はともかく、純粋に良い催しになったんじゃなかろうか。
意欲の高かったハーマイオニーを始めしっかり身になったようだ。
ハリーは凄く不満そうにぶつくさ言ってるけど、学べたのは間違いない。
皆が強くなるのは将来的にも良い事でしかないから喜ぼう。
どうせならこのクラブも続いたら良いんじゃないかな。
事件を解決した後ならいくらでも付き合おう。
その為にも、早く作戦を整えて動かなきゃね。
【エヴァーテ・スタティム「Everte Statum」】
相手を吹き飛ばす。似た様な呪文多くない……?
強いて言うなら投げ飛ばす様な感じで特別痛みは強くないらしい。
あとはやたらとグルグル宙を舞う印象か。
この呪文が映画で使われたシーンの原作では、呪文を唱える描写は無くハリーは頭をフライパンで殴られた様に感じただけ。
映画オリジナルと割り切り、同じ呪文だとは考えない方が良いだろう。
【サーペンソーティア「Serpensortia」】
杖先から蛇を召喚する呪文。飛び出す際に銃の様な音がするらしい。
生物を召喚する呪文はいくつかあり、どれも無から命を生み出しているそうだ。とんでもねぇ。
しかし限りなく本物に近いだけで、しばらくすると消えてしまうとか。
無から生み出した物はそういう特徴らしい。
ただし具体的にどう違うのかはかなり複雑。正直よく分からない。
個人的には、何処ぞの忍者漫画の影分身の様に消える前提の限定的な命と考えている。
下記のエイビスで召喚された鳥はぶつかったりすると煙になって消えたので、本当にそれっぽいイメージで良さそう。
ちなみにこの呪文はインド発祥らしい。いくら蛇だからって……
しかしラテン語(ヨーロッパ)という矛盾。
【ヴィペラ・イヴァネスカ「Vipera Evanesca」】
蛇を消失させる呪文。
「viper(ヴァイパー)」ではない。が、「vipera(ヴァイペラ)」は毒蛇の一種を指す……らしい。
イヴァネスカは消失呪文のエバネスコと同じ語源なので派生なのだろう。
あちらでも生物を消せる筈だが……対象を蛇だけに固定する事で簡単になるのかもしれない。
【エイビス「Avis」】
鳥を召喚する呪文。やはり銃の様な音と共に杖先から飛び出すらしい。
群れで召喚する描写しかないが、それが基本なのかどうかは不明。
上記の蛇もそうだが、大きさや見た目は術者次第で幅がありそうだ。
サーペンソーティアと並んで、最も簡単な生物召喚呪文という事になっている。
ただし6年生の授業で召喚出来たのはハーマイオニーのみなので、根本的に難しい召喚呪文の中では簡単な方というだけだろう。
なのにマルフォイは2年生時点で蛇を出している。謎。
ちなみに、召喚された生物を盾にすればアバダケダブラを防げるのではという説がある。
所詮偽物の命と考えると厳しそうだが……個人的には面白いと思う。
【オパグノ「Oppugno」】
何かしらを利用して対象を攻撃する呪文。エイビスからのオパグノのコンボをするハーマイオニーの印象が強い。
召喚物の他にも、とりあえず動かせる物ならいけるっぽい。物を操作して攻撃している様に見えるシーンの大体がこの呪文だろうと言われている。
なんならドビーがブラッジャーを操って襲ったのも、この呪文もしくはこれに近い魔法だとかなんとか。
【フリペンド「Flipendo」】
以前軽く紹介したが、これがノックバックジンクス……衝撃を与える呪文。
威力の調整をすれば対象を吹き飛ばす事も出来る。
ゲーム1作目から攻撃手段として登場し続けてきた。
しかしホグワーツ・レガシーでは対象を回転させる効果となり、通常攻撃とは別の呪文として学ぶ。
語源は英語の「flip」と「end」で、ひっくり返すという意味になるらしい。
衝撃を与える事で結果的に相手がひっくり返るという意味合いで作られたと思われるが、レガシーでは改めて言葉の意味に合わせて効果を変更したのかもしれない。
ここでは2つを合わせて、衝撃を与えつつ回転させる様な物に。当たってないから効果出てないけど。
【決闘クラブ】
ホグワーツにもしっかりクラブ活動があり、その内の1つとしてロックハートが開催した。
作中で第1回と言っているので、しばらく活動していたのかもしれない。
もしかしたら普段から活動している決闘クラブもあったのかも。
他のクラブについては殆ど描写が無い為不明。
クィディッチもクラブの1つとして扱うっぽい。
ホグワーツ・レガシーでも杖十字会というクラブが存在した。
ただしあちらは決闘とは名ばかりに、舞台は使わないし対複数で戦わされる上に礼も何もない戦闘狂の集い。
ゲームシステム上仕方の無い事だろうが、普通に死人が出そうなくらいに激しい戦闘を繰り広げる。
尚、決闘の舞台の狭さに関しては妄想。
逃げずに撃ち合い、且つ早々に決着が着く様にしているのかもしれない。
勿論プロテゴの使い方も妄想。
しかし実際映画では杖を振って防いでいるので、理屈を付けたらこんな感じか?