ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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ハリー視点から明けて翌日、主人公視点へ


第34話 急転直下 3

 リドルが霧散して数秒、誰も口を開く事は無かった。

 

「いやー、継承者は強敵でしたね! いやはや生徒達が無事で良かった!」

 

 そんなシンと静まりかえった場に、ロックハートの声が響く。

 何もしてない人が何を言ってるんだろう……ていうか本当になんで居るんだろう。

 

「ぅう……」

 

「ジニー!?」

 

 と、そこに微かな呻き声が聞こえた。

 それに一早く反応したロンがジニーに駆け寄る。

 合わせて場所を譲る様にアリスが横へ離れた。

 

 良かった……彼女も無事だ。リドルが消えた事で、彼に奪われていた魂とやらが戻ったんだ。

 

「ジニー大丈夫か? 僕が分かるか? 体はなんとも無いか?」

 

 ロンはジニーの肩に触れ、酷く慌てて確認をする。

 だけど彼女はまだ意識がハッキリしていないようだ。体を起こされてもうつらうつらとしている。

 

「あ……あたし……っ」

 

 そして少し間を置いて覚醒した彼女は、ハッとして震え始めた。

 かなり弱っている表情なのはともかくとして、まるで絶望したかの様にも見える。

 

「ごめんなさいっ! あたしっ、あたし!」

 

 続いた言葉は謝罪だった。恐怖に震え、体を掻き抱き、ひたすらにごめんなさいと呟き続ける。

 とてもじゃないけど、見ていられない程だった。

 ロンも心配そうに宥めようとしているけど、あまり効果は無さそうだ。

 

「ジニー、落ち着いて」

 

「だってあたし、あんなに酷い事をっ! またあなたを……ごめんなさい……っ」

 

 アリスがズリズリと動いて、正面から彼女を抱き締めた。

 それでもジニーが落ち着く事は無く、涙を滲ませてアリスへ謝罪を繰り返す。

 

「やっぱり……操られてる間の事を覚えてるの?」

 

「……覚えてるわ。アリスを襲った時と、さっきまでの事は……」

 

 僕も思った事をハーマイオニーが確認した。

 リドルが言っていた通り、感情をどうとか心がなんとかって……その為に意識を残してたんだ。少なくとも、アリスを攻撃する時だけは。

 自分がやらされた事を覚えてるなんて残酷だ。もう消えた奴を憎んだってどうしようもないのに、いくらでも嫌悪感が湧いてくる。

 

「全部あたしの所為なのよ! なにもかもあたしが……」

 

「大丈夫……良く見て。ほら、誰も怪我なんてしてない。皆無事だよ」

 

 自分を責めまくるジニーを安心させようとアリスは更に言葉を掛ける。

 

「でも……だって……あんなに苦しんでたのに……」

 

「もう……良く見てってば。私は全然平気だよ、ピンピンしてる」

 

 ジニーが自分を責める理由の殆どは、きっとアリスを攻撃した事だ。

 だからこそなのか、アリスは少し離れて胸を張って笑った。

 

 嘘だ。なんにも平気じゃない。

 これでも1年以上一緒に居るんだ、あれが虚勢だって事はすぐに分かる。

 確かに怪我はしてないみたいだけど、相当辛い状態の筈だ。

 

「うっ……うぅ……それでも、ごめんなさい……」

 

「いいんだよ。さっきも言ったでしょ、ジニーは操られてただけなんだから」

 

 だけどそんな虚勢だとしても、あんまり接してなかったジニーには通用するんだろう。

 安心させようと繰り返したお陰で多少は落ち着いた様に見える。

 

 さっきっていうのは多分、連れ去られる前だ。

 同じ様に慰めて、助けようとした……その隙をリドルが乗っ取ったんだ。

 

「……それもあたしの所為だわ。あんな日記に夢中になって……よく考えればおかしいのに……それに、あなたに嫉妬してるのは事実だもの。結局あたしが……」

 

「こら。自分を責めるのはもう終わり。むしろジニーは凄いよ? だって、あのヴォルデモートに立ち向かってみせたんだから」

 

 多少落ち着いたとしても、やっぱりジニーは俯いてしまう。

 それをアリスは、両手で彼女の頬をペチンと挟んで顔を上げさせた。そしてもう一度笑顔を見せる。

 

 よくもまぁ、あんな風に笑えるもんだよなぁ……今、この場の誰よりも身体的に弱ってるのは彼女だろうに。

 しかも、面と向かって嫉妬を打ち明けられて……

 

「あたしが……? そんな事してないわ……襲った時の事を覚えてたって逃げようとして……」

 

「でも結局は動いた。操られてると察して、拒絶して、打ち明けに行こうとしてたじゃん。アイツが暴れてた頃は、立派な大人の魔法使いでさえ誑かされてたんだよ。なのにジニーは直接操られても、拒絶して解決しようとした。それを立ち向かったって言わないで何て言うのさ」

 

 キョトンとしたジニーへ、アリスはゆっくりと語り掛けた。

 

 そうだよね……学生時代のとは言えヴォルデモートに支配されて、少しでも拒絶出来たなんて。

 しかも彼女はホグワーツに入学したばかりだ。去年の僕にそんな事が出来たんだろうか。

 素直に凄いと思う。

 

「それに、嫉妬が何だっての! そんなの誰だっていくらだってするよ。私だってするよ」

 

 そしてアリスはまだまだ笑顔だ。

 これは意外……嫉妬なんてするんだ……

 

「アリスが……?」

 

「どっかの誰かさん達はさ……勉強や魔法であっという間に追いついてくるし、初めて乗った箒で訳分かんない才能を見せるし、優しくて賑やかな最高の家族に囲まれてるし……」

 

 名前は出さないけど流石に分かる。

 なんだかむず痒い。

 

 僕は彼女に対して、尊敬と同時に嫉妬もしてた。

 箒では勝てても、他のあらゆる要素でずっと高みに居るから。助けられてばかりだから。

 

 上手く言葉に出来ないけど……認められていたと知れたと言うか、とにかく気恥ずかしい。

 

「僕だけ実力じゃなくて環境じゃないか……くそぅ……」

 

 それを聞いてロンが不満そうに呟いた。

 気持ちは分からないでもないけど、今は口を挟まない方が良いんじゃないかな……

 ていうかそこは僕だって滅茶苦茶羨ましいと感じてるよ。

 

「嫉妬なんて当たり前にするもんだよ。大事なのは……こなくそーって向上心に変えられるかどうかじゃないかな。受け入れて、前向いて、歩こうとする気持ちに変えられたら……嫉妬だってちゃんと意味のある物になるよ」

 

 アリスの言葉を聞いて、何かが心にストンと落ち着いた。

 そうだ。彼女を尊敬して、嫉妬して、それでも追いつきたい並びたいって。

 そう思ってちょっとは勉強を頑張ろうと思えたし、昨日だって理不尽なスネイプの指導を耐えた。

 唯一勝てる箒だって、だからこそ一層頑張れた。

 

 ハーマイオニーもうんうんと頷いている。

 そっか、彼女も彼女でアリスに嫉妬してたのかもしれない。だって確実に影響を受けてたし。

 

 

 そして視線を動かして気づいた。

 ロックハートが物凄い表情になっている。拳を握って……怒りとか悔しさとか悲しさとか、滅茶苦茶になった様な表情だ。

 なんだろう……駄目な所しか見てないけど、一応は彼も尊敬とかを受けてきた立場の筈なのに。

 なんであんな表情を……

 

「これ以上良い感じのセリフは出て来ないけど……まっ、精一杯嫉妬したら良いんじゃないかな! この天才美少女アリスちゃんに!」

 

「なにそれ……もう」

 

 良い事言おうとして恥ずかしくなったのか、アリスは少しだけ顔を赤くして誤魔化す様にまた笑った。

 精一杯嫉妬しろって、すごいセリフだな。なんかもう流石アリスって感じだ。

 

 横で聞いていたハーマイオニーも苦笑いで呆れている。

 ジニーもそう感じたのか、ほんのちょっとだけ笑顔が見えた。

 

「アリスは強いのね……あたしもあなたみたいになれたら……」

 

「私を目標にされても恥ずかしいけど……変われるよ。誰だって、ちょっとずつでも変わっていける」

 

「……頑張ってみるわ。まずはこの事件の事……全部打ち明ける勇気を出してみる」

 

 良かった……ジニーはもう完全に落ち着いた。

 それにどうやら事件以外も諸々が解決しそうだ。

 

 ていうかまたアリスのお陰で誰かが変わるんだな。

 本人は恥ずかしいとか言ってるけど、彼女を目標にしてる人が周りに何人居るか知ったらどうなるんだろう。

 全く最高の友達を持てたもんだよ。僕も頑張ろう……もっと、もっと強くなるんだ。

 

 

「で……その天才美少女アリスちゃんとやらはいつまで小便臭いままでいるつもりだ?」

 

「――っ!?」

 

 そして空気を読まないスネイプがとんでもない事を言った。

 途端にアリスは顔を真っ赤にして、ズサーっと凄い勢いでジニーから離れた。

 

「そ、そうだった……磔の呪文があんまりにもヤバかったから、私おもらしを……」

 

「なっ……磔の呪文!? アリスちょっと待ちなさい、そんなとんでもない目に遭っていたのですか!? 呑気に話してる場合じゃ無いでしょう! 急いで医務室へ――」

 

 そして言うが早いか、そそくさと移動しようとして……マクゴナガル先生に支えられて柱の陰に消えた。

 一体陰で何を……いや、考えちゃいけない。これ以上アリスに頭をおかしくされて堪るか。

 

 ていうか先生のあの予想外と言った慌て様……磔の呪文って本当にヤバイやつなんだろうな。

 それでも動けてるならマシ……なんだろう。

 

「セブルス……流石にどうかと思うがの」

 

 心配そうに、だけど付いて行く事も出来ずに彼女を見送ったダンブルドアがしかめっ面でスネイプを見る。

 いや本当だよ。普通言うか? 言わないだろ、辛い目に遭った女の子相手にあんな事。

 

「失礼、あの空気と臭いには耐えられなかったものでして。なによりこんな所でのんびりしているよりも、早く戻るべきなのでは? 事件が無事解決した事を伝えなければ」

 

「急に真っ当な事を言いおって……まぁ良い、その通りじゃな。早く生徒達を安心させてやらねばなるまい。2人を休ませてやりたいしの」

 

 空気を読まなかったんじゃなく、読んだ上であえて言ったのか。余計酷いな。

 ていうかそんなに臭ってなかったじゃないか。話をするなら後で落ち着いた場所でゆっくりしろって言いたかったのかな。分かりづら……

 

 なんにしろ後半は本当にその通りだ。

 ダンブルドアも呆れながら納得し、周りを見回した。

 

「さぁ、皆の者! ちょちょいと帰るとしようかの!」

 

 そして笑顔で声を張った。

 それを聞いてアリスと先生も柱の陰から戻って来る。早いな……流石魔法だ。

 

「そういえば……どうやってあのパイプを登るんだ?」

 

「……頑張って登るしかないんじゃないかしら」

 

「あの距離を……?」

 

 思い出した様に僕達は顔を見合わせて呟いた。

 戻れる気がしないんだけど……

 

「大丈夫じゃよ。フォークスは大層力持ちでの……2往復もすれば全員帰れるじゃろう」

 

 そんな僕達を見てダンブルドアは朗らかに答えた。

 運んで飛べるって事……? 不死鳥ってそんな……もういいや。

 

 当の不死鳥、フォークスはダンブルドアの肩の上で驚いた様に彼の顔を見た。

 あの……なんか嫌そうですけど。

 

「おぉ、なんじゃ嫌なのか。じゃがあっちの移動でもこの人数は厳しいのではないかの?」

 

 あっちの移動ってなんだろう。

 そういえばフォークスってどうやってここに……確か炎が……

 

「往復するよりはマシと言いたいのじゃろうか……まぁ良い。皆、手を繋ぐのじゃ」

 

 よく分からないまま、僕達は言われた通りに手を取り合った。

 

「では頼むぞフォークス。行き先は上のトイレにするかの……距離は短い方が良かろう」

 

 ダンブルドアの言葉が終わると同時、僕達は炎に包まれた。

 

 だけど決して熱くは無く……不思議な感覚がしたと思った次の瞬間に、トイレの床に投げ出された。

 

 

「痛っ……え、トイレ?」

 

「凄い……一瞬で移動したわ」

 

 何が何だか分からず呆ける僕達を見て、ダンブルドアはまた笑った。

 

「ほほ……不死鳥は様々な能力があっての。これはまぁ、瞬間移動じゃな」

 

 不死鳥ってもうなんか……うん。

 考えるのは止めよう。魔法界って不思議だなぁ。

 

「そうだ……マートル、居る?」

 

 僕達と違って呆けていなかったアリスは、まさかのマートルを呼んだ。

 ちょっ、なんで態々……疲れた所に癇癪をお見舞いされたくはないだろうに。

 

「なんなのこんな大勢で……ここって女子トイレじゃなかったかしら」

 

 そして素直に呼ばれるがまま、彼女は姿を現した。

 並んだ僕達を見て思いっきり困惑している。

 いやまぁ……うん、ごもっともで。

 

「あら……残念、生きてたのね。あなたが死んでゴーストになってくれたら仲良くなれるかもって思ってたのに」

 

「あはは……それは無理かな。それより聞いて、あなたの仇は討ったよ」

 

 マートルはアリスを見て本当に残念そうに呟く。

 対しアリスは笑いながらヨロヨロと1歩踏み出し、かと思えば真剣な表情でそう言った。

 そうか……そういえば確かに、彼女こそ犠牲者だったんだ。50年経ってようやく……

 

「だから何だって話だけど……遅過ぎたのかもしれないけど……それだけ伝えたくて」

 

「そう……別にどうでもいいけど」

 

 マートルは特に気にした風も無く、言葉通りどうでも良さそうに返した。

 表情からも感情は読み取れず、ゆっくりと移動していく。

 

「でも、ありがとう……」

 

 そうして個室に入り、小さな声で礼を言い……彼女にしては珍しく静かな水音を立てて消えていった。

 

 どうでもいいとは言っていたし、実際彼女が自分の死をどう思っていたのかは分からない。

 だけど、それでも彼女の心が少しでも救われたなら良いな。

 

 

「ふぅ……マートルに報告も出来たし、これで本当に事件は終わりだね」

 

「そうじゃの。色々と聞きたい事も話したい事もあるが……それは明日にしよう。今は休みなさい」

 

 安堵した様に息を吐いたアリスの頭を優しく撫で、ダンブルドアは改めて僕達を見回した。

 そうだね……今はとにかくアリスとジニーを休ませてあげなきゃ。

 

「これから夕食もありますし、大騒ぎになるでしょうが……事件の詳細を語ってはいけませんよ」

 

 マクゴナガル先生も僕達を見て忠告をした。

 言われて僕はハッとした。犯人は日記だなんて誰も信じない……というかもう証明のしようが無い。

 犯人については絶対に何も言っちゃいけないんだ。ジニーを守る為にも……

 

 そこはきっと先生達が上手い話を作って広めてくれるだろう。

 僕達は顔を見合わせて頷き合った。

 

「ギルデロイ、お主もじゃ。決して軽率に口を開くでないぞ、良いな?」

 

「……っ、ええ、いいでしょう。何も語りませんとも」

 

 そしてダンブルドアはロックハートを睨む様にして忠告を引き継ぐ。

 ビクリと反応した彼は大人しく従った。

 

 とにかく自分の優秀さや凄さをアピールしたがる彼だ。自分が解決したとかって誇張して語るつもりだったのかも。

 それが目的で付いて来たのかな……なんにしろダンブルドアに忠告されなきゃ絶対余計な事まで言っちゃってただろうな。

 

「では解散じゃ! ミネルバは2人を医務室へ、そのまま彼らも寮へ送りなさい。わしらは教員達へ詳細を伝えよう」

 

 そうして僕達は先生に連れられ歩き出す。

 歩いている内に、事件解決を伝えるダンブルドアの声が城中に響いた。

 

 あぁ……本当に終わったんだ……いや待てよ?

 ドビーは結局誰の……ていうかあの訳分からない日記は一体何処から……?

 いや、その辺りはきっとダンブルドアが知ってるかもしれない。

 もしかしたら明日分かるかも。

 

 なにより、今はそんな事よりもだ。

 もっと重大な事を思い出してしまった。

 

 ポリジュース薬……どうしよう……

 

 

 

 

 

 

「おはよう、見慣れた景色」

 

 もう何回目かも分からないな……この天井を見上げるのは。

 こんな短期間で何回も医務室送りになる生徒も珍しい、というか居なかったんじゃなかろうか。

 なんなら聖マンゴも2回は行ってる。もう呆れさえも通り越して逆に自分で感心する。

 丈夫だなぁ……私。魔法のお陰だけど。

 

 ていうか、もしかして私の体が全然成長してくれないのって大怪我の所為なんじゃ?

 成長するだけの栄養的な諸々が怪我の回復に使われてるとか……うわ、ありそう……

 あ、でも怪我したのは学年末だから成長が遅いのは事実か……ちくしょう。

 

「それにしてもこのお菓子の山の凄さよ……」

 

 体を起こしてベッドの横を見れば、たっぷり詰まれたお見舞いのお菓子がある。

 

 昨日の夕食前に医務室に来て、たっぷり寝て朝。

 夜の外出禁止の時間を考えればお見舞いに来れたのは精々が数時間程度の筈なんだけど。

 その限られた時間で一体何人が駆け付けてくれたのやら。有難いけど、それだけ心配を掛けさせたという事でもあるか……反省だ。

 

 しかし皆よくこんなにお菓子を持ってるもんだな。

 ともかくこれは後で食べるとして……とりあえず起きよう。

 

「んーっ……よし! 体はなんともナシ、絶好調!」

 

 思いっきり伸びをして、ぴょんとベッドから降りる。

 

 今回は怪我してないし、磔の呪文で滅茶苦茶痛い思いをしただけだ。あと漏らして恥ずかしい思いをしただけだ。最悪。

 後遺症が残る程にひたすら受け続けてた訳じゃないし、しっかり寝て休めば回復。

 流石のマダム・ポンフリーもガーガー言わずにさっさと解放してくれるだろう。

 

「ん……ぁ、アリス?」

 

「あっ……ごめん、起こしちゃった?」

 

 私の声で起きちゃったのか、隣のベッドでジニーがしょぼしょぼの目を擦ってもぞもぞした。

 

「大丈夫よ……あたしも起きるわ」

 

「そう? でも起きたってマダム・ポンフリーを待つだけだよ」

 

 断り無く勝手に医務室を出るのは駄目だろうし、待つ以外には何もする事が無い。

 既にベッドを降りた私が言う事じゃないかもしれないけど。

 

「誰も居ないなら丁度良いわ……ちょっとアリスと話したかったし」

 

 ジニーは体を起こして私を見る。

 真剣な目だ。まだ何か話す事ってあったっけ?

 

「話?」

 

「嫉妬の事……改めて、その……謝りたいし、意思表示もしたい……かなって」

 

 訊ねてみればそういう事らしい。

 別に謝る事じゃないんだけどな……でも、彼女なりに考えて動こうとしてるなら見届けて応えよう。

 

「本当に、ごめんなさい。アリスは勉強も魔法もクィディッチも出来るし、人気だし、綺麗で可愛いし、色んな事で嫉妬してたわ」

 

 並べられると流石私って感じだ。

 まぁそれは冗談としても、そう言えるだけの努力をしてきたつもりだ。

 努力とか関係無い環境とか諸々に恵まれていたのはまぁ……うん。

 

 でも彼女の嫉妬はそれだけじゃない筈だ。

 むしろこっちが本命だろう。

 

「ハリーの事もでしょ?」

 

「――っ!? なっ、え、それはっ」

 

 だからそれを指摘してやると、顔を真っ赤にして慌てた。

 おーおー、可愛らしい事で。

 

「そこに関しては安心してよ。私はそういうつもりは無いからさ」

 

「そ、そうなの……?」

 

「特に誰かをそういう風に想う事は無い……かな」

 

 無駄に考えさせる事じゃないし、ちゃんと伝えておこう。

 私が本音を明かすと、ジニーは少し驚いてキョトンとした。

 

 未だに私の自意識はしっかり男だ。男相手に恋愛感情を抱く事は自分でも想像出来ない。

 そういう事に全く興味が無いとは言わないけど……

 

「まぁあくまで私は、だけどね。私にそのつもりが無くても、向こうがどう思うかまでは分からないよ?」

 

「ぅう……絶対ハリーはアリスの事……」

 

 ただしこれは私の話であって、他人の感情までは知ったこっちゃない。

 その忠告をすると、ジニーはしょんぼりした。

 

 どうかなぁ……好意的に見られてるのは確かだろうけど、恋愛的な感情なのかな?

 これだけ生きてきても、自分に向けられる恋なんて分からん。

 

「仮にそうだったとして……ジニーは諦めるの? そんな軽い、ちょっとした憧れ程度の気持ち?」

 

「違っ……う、と思うわ。憧れかもしれないけど……絶対軽くは無い!」

 

 念の為に彼女の気持ちを確認してみると、ちゃんとしっかりした想いを持っていた。

 きっと最初は人伝の話や噂を元にした憧れだったろう。それでも夏休みを同じ家で過ごして、何かしら心境が変わったのか……

 ともかく、ただの憧れじゃなく恋だと自覚してるなら結構。

 

「じゃあそれでいいじゃん。言ったでしょ、嫉妬したって向上心に変えられたらそれで良いんじゃないかなって。振り向かせて見せればいいじゃん」

 

 私に嫉妬しようと、負けじと張り合うなりなんなり動力になってくれれば良い……と思う。

 ハリーを振り向かせようと、もしかしたら原作以上に魅力的な女の子に成長するかもしれない。

 まぁ女磨きとしてそこらの男達とチュッチュッするのはやめてほしいけどね。個人的には。

 

「そんな簡単な話じゃ……」

 

「簡単かはともかく、他に何かある?」

 

「……無いわ」

 

 私がアッサリと言ったからか、ジニーは反論しようとした。

 だけど他にどうすると言うのか。

 結局恋愛なんて、どうにかして相手を振り向かせる以外にやる事なんて無いんだよ。

 

 その手段に悩むならともかく、目的はただそれだけだ。

 まだ11歳の彼女にはその手段と目的の違いが曖昧に感じるのかもしれないけど。 

 

「でしょ。とにかく……勉強にしろ恋愛にしろ、私は応援するよ。私に出来る事なら協力もする」

 

 そしてそんな目的の為に頑張るのなら手を貸そう。

 彼女に限らず、誰が相手だとしても……私に出来る力添えなら可能な限りやってみよう。

 この世界で生きると覚悟した時、そう思ったんだ。

 

 

「頑張れっ! 頑張ったら絶対に結果が出る、なんて言わないけどさ……頑張んなきゃ結果は出ないよ!」

 

 俯くジニーの背中を優しく叩く。

 これはきっとどんな事にも言える事。

 

 どれだけ手を尽くしても駄目な事はいくらでもあるだろう。

 だけどそれさえやらないで良いなんて、そんなのは極々限られた人と物事だけだ。

 

 もう何時言われたのかも分からない程に使い古された言葉だけど……

 それを贈るだけの意味がある言葉でもある。

 

「アリスって本当に……あーあ……嫉妬してたって、それ以上に尊敬したくなっちゃう。何なのよもう」

 

 まだ幼いからこそ、彼女にはその言葉が新鮮に感じたのかもしれない。

 うん、効果があった様で何より。

 

 しかし何処からか拾ってきた言葉を使ってるだけとか言えないな……恥ずかしい。

 いやまぁ、実際そう思ってるからこそ伝えたんだけど。

 

「ふふっ……まぁ、これでもお姉さんですから」

 

 私は周りよりもずっと大人のつもりだ。私って今は合計で何歳なんですかね……

 

 どうであれこれだけの人生経験を経て、恵まれた環境で育った。

 だったらそれに恥じない様に努力を重ね自信を持ち、尊敬される人間で居たい。

 そうでなければ、それこそ恥ずかしいってもんだ。

 

 同年代の子供でありながら、それでも1歩先を行く存在……そうであれたらと思ってる。

 もう物語の登場人物だとかなんて考えてもいない。どんどん影響を与え合って成長していこうじゃないか。

 

 

「とは言え、見た目はジニーの方が若干お姉さんだけどね」

 

「ふふ……1つでも勝てる要素があって良かったわ」

 

 しんみりした彼女を見て冗談を飛ばすと、彼女はぎこちないながらも笑ってくれた。

 悔しい事に事実なんだけどね……なんでだ。

 

「1つで満足?」

 

「ううん、もっと勝ちたい。だから、頑張るわ」

 

 そして発破をかける様に聞き返すと、しっかり私を見上げて宣言した。

 今度は良い笑顔だ。完全に立ち直れた様に見える……良かった。

 

「その意気だ!」

 

 私はもう一度、彼女の背を優しく叩いてガッツポーズ。

 自然とこっちも笑顔になれた。

 

 前を向いて歩き出そうとする瞬間、成長した瞬間を見れた事がなんだか嬉しい。

 心が大人だからこその上から目線。だからこそ感じ取れる物。

 

 もしかしたら私は教師に向いてる性格なのかもしれない。

 将来はそういう道もアリだな……その将来の為にも頑張んなきゃならないけど。

 

 

「さて……綺麗に収まった所で、改めてよろしくね。ジニー」

 

「……うん」

 

 これ以上語る必要は無いだろう。

 そう思って私はジニーに手を差し出す。

 

 お互いにギュッと握り合い、目を見つめ合い、そして笑い合った。

 

 結局ちゃんと挨拶する事も無かった私達だけど、これでようやく友達になれた。

 彼女の内心がどうであれ、これからは共に歩む友人として長い付き合いになるだろう。




事件の後始末より先にジニーのメンタルケアと成長を優先しました。

という事でジニー攻略完了。
嫉妬渦巻くドロドロの感情もそれはそれで面白いけど、多少無理矢理にでも綺麗に納めました。
ちょっと主人公を持ち上げ過ぎな気がしますが……




フォークスがどこまでの重さを運べるのか不明……というか流石にこの人数は重さとか言う話以上に物理的に無理なのでは、という事でパッと行く形に。
往復させるのも可哀想だし面倒臭い。

しかし困った事に瞬間移動もまた、距離や同時に連れて行ける人数等が不明。
なのでとりあえず控えめにしておきました。
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