どうやら今日は休日になったらしい。
事件が無事に解決した事を祝う……というのは建前。実際は事件の後始末で忙しくなるからだそうだ。魔法省や理事に報告とかあるだろうしね。
と言っても、生徒達からすれば建前通りただ大騒ぎ出来る休日でしかない。
昨日の時点でとんでもない大騒ぎになったらしいけど、朝食の場に私達が顔を見せた時と言ったらもう。
グリフィンドールのテーブルに向かうだけで揉みくちゃにされた。
まぁその大騒ぎはカット。
話は朝食を終えた後……改めて事件の当事者が校長室へ集められた所まで飛ばそう。
集まったのは私とジニー、ハリー達3人、そしてお爺様達3人だ。
ロックハートは居ないけどどうでもいいだろう。ていうかなんで居たんだろう……まぁいいや。
流石に説明はしなければならない、とウィーズリー夫妻も呼んだそうだけどまだ到着していない。
兄達も合わせて話を聞きに来るらしい。
そして話が始まる前に、私はフォークスへ近づいてわしゃわしゃと撫でた。
昨日はお礼を言えてなかったからね。
「フォークス、ありがとね。でも助けに来るなら早く来てよ~」
全く、不死鳥はチートだ。
原作通りバジリスクの目を潰したりと大活躍してくれた。
でもなんで私が連れ去られてすぐに来てくれなかったんだ。
ハリー達が来て長々と会話をして、そうしてようやくだ。しかも私を助けるというよりもハリーを助けに来た形。
なんでや。これでも5年の付き合いなのに。
こうして可愛がるくらいには仲良くしてきたのに。
いやまぁ、あのタイミングで来てくれたからこそだったのは分かってるんだけどさ。
なんだか納得がいかない。
「痛っ、イタタ……痛い痛いっ、なんで!?」
口を尖らせて滅茶苦茶に撫でていたら、おでこをめっちゃ突かれた。キツツキか。
堪らず私は逃げ惑う。
「なんなのもう……撫でて怒った事無いじゃん……」
「ほほ……怒ってはおらんよ。わしには激励の様に見えるぞ」
不貞腐れてフォークスを睨んでいるとお爺様が笑った。
私以上どころか、もうどれ程の付き合いかも分からないお爺様が言うならそうなんだろう。
甘えるな、みたいな感じで叱ってるんだろうか。
不死鳥は凄く頭が良いらしいし、家族の様な付き合いがあるからこその厳しさ……なのかな?
いや敵に攫われた時くらいは甘えさせてよ。
「遊んでる場合ではない。そろそろ話を始めたいのだが?」
「あ、はーい」
私も私でスネイプに睨まれたので、一旦おふざけは止めて真面目モードに戻ろう。
のんびりほんわかするのは後始末まで全て終わらせてからだな。反省反省。
という訳で私達は順番に語っていった。
ジニーが打ち明けようと動いた事、そこに私が鉢合わせてリドルにやられた事。
偶然にも秘密の部屋を発見したハリー達がそのまま乗り込んだ事……はかなり言葉を濁して誤魔化していた。
そして部屋でリドルがペチャクチャと話してくれた事も、フォークスが現れてバジリスクを追い詰めた事も語った。
そうしてお爺様達が到着して一瞬で終わらせた、と。
改めて思うと凄い事になってたんだな……
リドルが可哀想になるくらいに滅茶苦茶だ。
しかし結果的には最高と言っていいだろう。
日記の破壊、バジリスクの討伐、しかも剣に毒を吸収させる事も出来た。
解決まで約1ヶ月というのも、反省は有れど原作を考えたら文句無しに早い。
私以外に襲われた人も居ないし、ジニーの罪悪感も多少マシに……はなってないかな?
しかしまさか、ジニーの意識を残す事でリドルが力を高めるとはね……
原作通りになんていかないのは分かってたけど、そういう変化も有り得るのは恐ろしい。
予測が難し過ぎる……私の知識は参考程度にしかならないと改めて肝に銘じておこう。
「なるほど……うむ、これで事態の把握は済んだじゃろう。無事に解決出来てなによりじゃ……肩の荷が下りたのう」
情報を擦り合わせ全容を把握する、というだけなのであっさり終了。
お爺様は大きく息を吐いてそう言った。全く同意だ。
「秘密の部屋へ突入した事を叱るべきではあるが……同時にその勇気を称えるべきでもある。君達には『ホグワーツ特別功労賞』を授与しよう」
お爺様はハリー達3人に向かって微笑みながら続けた。
おー……それは原作通りなのか。いまいちどういう賞なのかよく分からないけど。
ついでに言うとハリーとハーマイオニーもよく分かっていない。
ロンだけは驚いているけど、それは罰則でトロフィー磨きをやらされていて特別功労賞を知っていたからだろう。
「ジニー・ウィーズリー……君もじゃ。奴の支配を受けながらも拒絶してみせた事を称えよう……事件解決に寄与したという形じゃがな」
「そんな……だって、私……とんでもない事を……」
そして微笑んだままジニーに視線を移す。言われた彼女は、驚き以上に困惑した。
実行犯として動かされた自分が称えられるなんて……とか思ってるんだろう。
「昨日アリスが言った通りじゃよ。2度は言わずとも良いかのう?」
「……ありがとう……ございますっ」
尚も続けたお爺様の言葉で、ジニーは涙ぐんで礼を言った。
罰則を受けるでもなく、ましてや退学を伝えられるでもなく、賞を与えられた。
それをどう感じたかは分からないけど……心底安堵した様に見える。
しかし原作では賞はハリーとロンだけだったのに、どういう意図なのやら。
ハーマイオニーはともかくとして、ジニーもなんて。
彼女のメンタルケア? 授与の理由もハリー達と同様にして、操られた事は徹底的に伏せるみたいだし。
出来事が変わるなら人も変わる。
お爺様もやっぱり原作とは性格が変わってきてるよね。
「……私は?」
まぁお爺様の内心はともかく、1人だけ除け者にされるのは寂しいので私は口を挟んだ。
別に特別功労賞とかいうよく分からない物はどうでも良いけど。ホントだよ。
「勿論アリスもじゃよ。特別扱いだと思われてしまうのも避けたいが……今回はむしろたっぷり特別扱いしてやりたい所じゃ」
「うへへ……」
不満気な私を見て、お爺様は殊更に柔らかく笑って頭を撫でてくれた。
その温かい手がくすぐったくて、よく分からない賞でも評価された事がなんだかんだ嬉しくて、私も思わず笑った。
「ついでに大盤振る舞いじゃ、1人70点をくれてやろう」
「えぇっ!?」
「マジかよ……この時期にもう350点? こりゃ寮杯は決まりだな……」
なんとそのまま得点までくれて、これには堪らず皆が驚いて喜んだ。
お爺様……ちょっと甘過ぎやしないかい?
成り行きとは言え結果的に全てがスピード解決出来た事で、中々に気分が良くなってるのかもしれない。
ここまでするのはお母さんもスネイプも予想外だったのか、あからさまに反応を見せた。
お母さんは驚きつつもニヤけているし、スネイプはとんでもないしかめっ面で不満そうだ。
「……しかし吾輩としては、少々疑問に思う所がありますぞ。何故彼らは『偶然にも』秘密の部屋の入口を発見出来たのでしょうな?」
と、そのスネイプが盛大に咳払いをして口を開いた。
途端にハリー達はビクリと硬直。嬉しそうな笑顔から一転、真顔だ。
ハーマイオニーはともかく、ハリーとロンが女子トイレに居た理由なんて説明出来る筈が無い。
さぁ困った、と彼らは顔を見合わせ冷や汗を垂らす。私も困った。どうやってフォローしよう。
ハーマイオニーだけがトイレに居て、犯人と部屋の事に気付いて知らせた……とかならなんとか誤魔化せるか?
でもそれは攫われていた私に言う事が出来ない。
「もっと言えば、あのトイレはなにやら崇高な香りが漂っていた。そう、例えば……魔法薬の様な……複雑な調合で煮詰める香りだ」
言い訳を言う暇さえ与えず、スネイプは畳み掛けた。
女子トイレの匂いを語りだすおっさんとかヤバ過ぎるけど、そんな冗談を言っていられないくらいこの状況はもっとヤバイ。
クソ……なんで分かるんだよ。流石は魔法薬学の教授だな……
これは駄目そうだ。多分全部分かってて、ちょっとずつ追い詰めてるだけだろう。
ハリー達もそれを察したのかもう絶望している。
「実は先日、吾輩の薬品棚からとある材料がいくつか紛失しましてな。その材料を並べて真っ先に思いつくのはポリジュース薬……そしておかしな事に、トイレで嗅いだのも……」
ていうかポリジュース薬に関しては何もしないとか言ってた癖に……
あぁ、でもそうか。知っていた筈の私が止めなかったなら事件に関係している事、と勝手に考えて黙っていてくれただけだ。
事件が解決した今はもう関係無いのか……
「そういえば紛失した日の授業で、鍋に花火が投げ込まれるという危険極まりない悪質な悪戯が発生しましたな。あれは確か君達の授業だったと記憶しているが?」
これでもかと言う程に追い詰めて満足したのか、スネイプはハリー達を睨みつけて意地悪そうに笑った。
絶望している彼らを横目に、私は助けを求めてお母さんとお爺様を見た。
しかし2人は黙って首を振るだけ。あぁ……終わった。
そりゃそうだよね……こんなやらかしは初耳だろう。
どう足掻いてもヤバい事件を起こしてるのは事実、庇える訳が無い。
「ここまで語ってもだんまりか? え?」
「「「ごめんなさいっ!」」」
睨みながら嘲笑うという器用な表情をしたスネイプへ、ハリー達は揃って謝った。
もう誠心誠意謝るしかない。許してくれるとは思えないけど、そうする以外に無いんだ。
謝罪の流れで各々が事を起こした理由を語るも、彼はあまり聞いていない。
それがどうしたと言わんばかりにただ眺めるだけだ。
そして一通り聞き終わっても鼻で笑い飛ばした。
「ポッターとウィーズリーはもう後が無かった筈であるが……全く呆れ果てたものだ」
「セブルス……結果的に彼らが先んじてトムと対面していた事で時間が稼げたのも事実じゃ。それでも罰は与えねばならぬじゃろうが……」
言外に退学を匂わせるセリフにお爺様が口を挟んだ。
やった事はともかく、そのお陰で結果に繋がったというギリギリで微妙なフォロー……だけど意外にもスネイプは押し黙った。
ポリジュース薬の密造という行為のお陰で秘密の部屋を開く犯人に気づいた。そうして突入する事で時間を稼いだ。
ハリー達の行動がスムーズに解決出来た一因である、と言われれば多少の思う所はあるだろう。
彼だって事件については散々頭を悩ませていたんだから。
「……では罰則についてはお任せしよう。ただし減点だけはさせて頂きますぞ……ポッター、ウィーズリー、グレンジャーの3人で300点の減点だ」
全く納得いってない、と顔に書いてあるけど……スネイプはそう言って引き下がった。
しかし特大の減点にも関わらず、先の得点には及ばない。
彼の性格なら帳消し以上の減点をしそうなものだけど……何を考えているのやら。良い事なんだけど不気味だ。
「当然、調合中のポリジュース薬も今すぐに没収……と言いたい所だが、そうしたとて捨てるだけだ。ならばいっそ完成させて見せろ。その出来が悪ければ追加で減点だ」
「あ、そういう……」
横で聞いていた私は思わず納得の声を漏らした。
そうだよね、今から没収したって無駄にするだけだ。だったら完成までやらせる方がよっぽど意味がある。
まだ2年生の彼らが完成させられるのか、っていう若干の期待もあるのかもしれない。
だってなんだかんだ魔法薬に関しては本当に真剣なんだから。
そして出来次第でと言ってる辺り、ほぼ確実に減点するつもりだろう。
それで得点を帳消しにして、後は罰則で終わり……なのかな?
だとしてもスネイプの対応としてはやっぱり甘い。
こっちも事件解決で気分が良くなってるんだろうか。
「全く……まさかそんな事になっているとは思いもしませんでした。後日改めて私からもお説教をしましょう。罰則はその時にでも……」
「「「ごめんなさい……」」」
スネイプの話が一通り終わったと見て、今度はお母さんが呆れを隠さずに言った。
それを聞いてハリー達はもう一度しょんぼりと謝罪。あー……なんか私まで胃が痛くなってきた……
止めなかった私の責任もあるし、これはまた罰則を一緒に受けようかな……その方が気が楽だ。
「100を超える校則を粉々に破った事はともかく……なんにせよ皆が無事で本当に良かった。これからは自分達で解決しようとするのではなく、大人を頼るのですよ?」
「「「はい……」」」
「ぐへぇ……」
揃って落ち込んだ声で返事をするハリー達と違い、私はグサリと心に突き刺さった言葉を嚙み締めた。
このセリフはもう何度突き刺さってるか分からない。自覚があるのに繰り返してしまう。
信頼してない筈は無いのに、何故か難しいんだ……
*
「ジニー!」
その後、ウィーズリー家が揃って校長室へ到着した。
入るなりモリーさんがジニーに駆け寄って抱き締める。
怪我も無く救出されたとは聞かされていても心配は当然だ。
アーサーさんも兄達も浮かない顔で見つめている。
そのままお爺様が軽く事件の概要を説明し……原因の話になった。
そこで一旦途切れ、沈黙。ややあってジニーが意を決して口を開いた。
「……全部あたしの所為だったの」
どういう事なのか、と尋ねる夫妻へ彼女は語った。
自分がしてしまった事を家族へ自ら伝えるのは、年頃の子供からすれば中々に辛いもの。
それでも勇気を出して打ち明けると言っていた通り、全てを詳細に伝えた。
「ジニー! パパはお前に何も教えなかったと言うのかい? 何度も言っただろう、脳みそが何処にあるか分からないのに勝手に考える事が出来る物は信用しちゃいけないって! そんな妖しげな物は闇の魔術が詰まっているってハッキリしているのに!」
「あたし……知らなかった……闇の魔術がこんなに恐ろしい物だったなんて……」
話を聞いてアーサーさんは堪らずと言った感じで、ジニーを叱りつけた。
どれだけ言われていようと、結局はまだまだ子供。ほんの11歳。
具体的にどれ程の危険なのか、なんて察するのは難しい。
しかもそうと思わせない様なリドルの巧みな話術に依る人心掌握だ。
一度警戒を緩めてしまえばもう……
「まぁ今回の件に関しては仕方の無い所もあるじゃろう。トム・リドル……ヴォルデモート卿に支配されて抵抗するなど、大人の魔法使いでも難しい事じゃ」
「なっ……ではその日記は『例のあの人』の……?」
「左様。しかし彼女は拒絶してみせ、わしに打ち明けようとした。あまり責めぬ事じゃ……」
私が彼女に伝えた事と同じ内容をお爺様が言った。
正直、私だってどういう物か全く知らなかったなら抵抗出来たかどうか。
「あぁ……ジニー。本当に無事でよかった……」
ヴォルデモートの名前が出た所為か、モリーさんは泣きそうになりながらジニーをもう一度抱き締めた。
先の時代を知っている人からすればもう、恐怖とか言うレベルじゃないんだろう。
改めて安堵の空気が広がり、兄達もようやく気を取り直してきた。
そしてそんな兄達……フレッドとジョージが思い出した様に口を開いた。
「いやちょっと待ってくれ。最初の事件の後、ジニーは俺達に何かを話そうとしてなかったか?」
「ああ、してた。何かとんでもない事を打ち明けようとしてる様な感じで……」
「言われてみれば……」
双子の発言にロンも同意した。
その時だけとは言え、そこは原作通りだったか。なんだ、早くから勇気を出せてたんじゃないか。
私は知らなかったけど……まぁ私は当時彼女に避けられていたから当然か。
「そしてそれをぶった切ってくれたのはパーシーだ」
「やってくれたな監督生様。全く、パーシーが邪魔しなかったらもっと早く解決してたかもしれないぞ」
「待っ、待ってくれ! 僕はそんな……そんなつもりじゃっ!」
そのまま双子はパーシーに詰め寄った。
本気で怒ってる様には見えないけど、詰められたパーシーの慌てっぷりは凄い。多分罪悪感も凄いだろうけど。
「あの時のあたしじゃ、どっちにしろ言い出せなかったわ……話を打ち切られて安心しちゃってたもの」
そこへジニーが口を挟んだ。あー……逃げたってそういう事だったのか。
でも今はこうして全て話せる様になった訳だし、成長出来たなら結果オーライだ。
「それに多分、パーシーは勘違いしてるわ。私がアレを見たって広めちゃうと思ったんでしょ?」
「「アレ?」」
「いやっ、待っ……ジニー!?」
多少なりとも怒ってしまった兄達の意識を逸らすつもりだったのか、ジニーは笑いながら勘違いを指摘した。
途端にパーシーはさっき以上に慌てふためいた。
あっ……そういえばそうだった。今思い出したわ。
彼も彼で中々にやらかしてたんだった。そんなに悪い事じゃないんだけど……彼の普段の言動からすればよろしくない事だ。
「こりゃ絶対に聞くべきだな」
「観念しろパーシー。勘違いで邪魔をした責任を取れ」
その反応で双子はもう怒りが何処かへ行方不明になり、面白そうな物を見つけたぞと言わんばかりにニヤニヤと笑い始める。
堅物の兄を揶揄うのが大好きな2人だ、この機を逃しはしない。
早く言っちゃえ、とジニーに目配せを送りまくっている。
「う、うーん……」
話題を出した当の本人は土壇場で言い淀んだ。
揶揄って良い事なのかと悩んでるんだろう。
ふむ……
「パーシーが校内で隠れて彼女とチュッチュッしてた事?」
私が言っちゃえ。
正直私もこういうのは面白がるタイプだ。双子と同類。
私があっけらかんとバラした瞬間、皆がギョッと驚いた。凄い反応だな……
ジニーもまさか私が知ってるなんて予想もしてなかっただろう。
初めて見る凄い表情で振り返った。そんな面白い顔出来るんだね……
真面目な表情か沈み込んだ表情ばかり見てたから、これからはそういう色んな表情を見せてくれ。
「なっ、なんで知って……! いや違うっ、違うぞ! 僕は……」
そしてパーシーの驚愕と、双子の最高にニヤケまくった表情ったらもう。
双子はそのまま彼を壁際まで追い詰め、笑顔で尋問を始めた。
さっきまでのシリアスな空気は完全に吹き飛んだけど、喧嘩にはならなかったからヨシ。
「ふふふ……私はなんでもお見通しなのだ」
何故知ってるかは言ってやらん。
とりあえず追及を躱す為に私は胸を張ってドヤ顔をしておいた。これで躱せるのかは知らん。
まぁここらでパーシーは少し反省してくださいな。
これが他人の事だったなら、監督生らしく風紀を乱すなと厳しく注意してる事だろうに。
他人に厳しく自分に甘いなんて、認めてくれる人は少ないぞ。立場があるなら尚更にね。
特に双子は彼に最も小言を言われているからな。確か原作でロンが言ってたのは……弟達の所為で自分の評価を下げられたくないとかなんとか?
それが事実かはともかく、言われたパーシーは逆ギレみたいに減点してたっけ。
そもそも見られてる時点でこっそり出来てないし。
必要の部屋を教えてやろうか……あ、もしかしてあの部屋ってそういう……いや止めよう、生々しい。
ていうかこんな話はもういいんだよ。いつまでも引っ張るもんじゃない。
兄弟喧嘩に発展するのは止めたんだ、大事な話に戻ろう。
「コホンッ……まぁ監督生が校内の風紀を乱してたのは置いといて。お爺様、問題はその日記が何処から来たのかだよね?」
咳払いを1つ挟み、私は至極真面目な顔でお爺様を振り返った。
ほらほら、おふざけはここまでだよ。戻っておいで。
「え、この流れで話を戻すの?」
「急に真面目」
ロンとハーマイオニーが呆れてこっちを見てきた。
いいんだよ。君達もシリアスモードに戻りなさい。
「真犯人はトム・リドル、だけど黒幕はまた別の誰か……て事?」
「うん。だって日記は所詮日記だよ。誰かが運ばなきゃジニーの手には渡らない」
一早く真面目な顔に戻ったハリーは、私の言いたい事を察して確認を入れてきた。
その通り。黒幕の存在を忘れてはいけない。
まぁ私とお爺様達は既に知ってるんだけど……ちゃんと共有しなきゃね。
「うむ……トムはマグル生まれを始末しようとしておった。もし彼女が操られるがまま事件を起こしていたなら、その後にどうなるか考えてみるとしよう」
お爺様は私と同じく、何事も無かったかの様に切り替えた。
知っていたとは流石に言えないからか、あからさまな答えを言わずヒントを出す様に語る。
「ウィーズリー家は純血の中でも最も著名な一族の1つ。アーサーの作った『マグル保護法』にどんな影響があるじゃろうか?」
聖……28? だかなんだかの一族だっけ。間違い無く純血だとかいう家系の1つ。
イギリス魔法界では結構大きな意味を持つものだ。
その中でマグル寄りの立ち位置に居るウィーズリー家。しかもアーサーさんは法を制定するほど。
そんなウィーズリー家の子がマグル生まれを排斥しようというのは大事件だ。世間の注目度は計り知れない。
現状でさえ、一部からは血を裏切る者として冷遇されているんだ。最悪の場合は……
「そうまでして貶めたいと考える者は誰なのか。ヴォルデモート所縁の闇の物品を持っていたのは誰なのか。アーサーよ、心当たりがあるのではないかの?」
「……ルシウス・マルフォイ。そうだ、奴は書店で会った時にジニーの荷物から本を抜き出して馬鹿にしていた! その後に本を戻して……その時に紛れ込ませたんだ!」
お爺様が訊ねてみれば、アーサーさんはすぐにハッとして答えた。
今の純血主義の筆頭とも言えるルシウスが死食い人だった事、ずる賢く罪から逃れた事は大抵の人が知っている。
そしてマグル保護法についても含め、事あるごとに敵対している。なんならアーサーさんは闇の魔術の品の押収に行ったりもしてるし。
「じゃが……残念ながら証明は出来ん。たとえ追及してものらりくらりと躱されるだけじゃろう」
彼の答えにお爺様は頷きを返すも、すぐに首を横に振った。
そう。彼が日記を持っていたという事も、荷物に紛れ込ませたという事も証明出来ない。
そもそも日記はもうなんの証拠にもならない。ついでに言うなら、もし開心術とか真実薬で明かしたとしても証拠として認められない。
全く狡猾な奴だ。
押収に備えつつ、滅んだ(と思い込んでいる)主から預かった厄介な品を押し付け処分する。
ついでにマグル生まれを始末し、ジニーを犯人にする事で鬱陶しいウィーズリー家まで追い詰める。
その上で自分は何も手を汚さず、公に罪を認めさせる事も出来ない。
なんなら原作の様にお爺様を追い出すのも算段の内だろう。
たった1つの日記を使うだけでこれだ。
マルフォイってだけでなんだか小物臭い印象だけど、こうして考えてみると本当に厄介だな。
ある意味ヴォルデモート討伐のMVPだけども。
「くっ……何も出来ないと言う事か……」
それを聞いてアーサーさんは苦々しく呟いた。
娘を利用された彼の内心は煮え滾っているだろうに……それを抑え込むしかないというのは辛い。
「何の用かは分からぬが、この後にルシウスも来る事になっておる。一応わしも問うてみるが……期待はせんでくれ」
「え、あの人来るの?」
渋い表情でお爺様が続ける。
私は驚いてつい反応した。もう何がどれくらい原作通りに動くのか全然分からない。
原作だと理事達を脅したりしてお爺様を追い出してたけど……何しに来るんだろう。
「うむ。大方、事件を利用してわしを糾弾するつもりなのじゃろうが……まぁ安心しなさい。そう簡単にやり込まれる程わしも甘くはない」
その辺はお爺様も予想してるようだ。
なんにせよ直接文句を言うくらいしか出来なさそうだし、そこは安心して良いかな。
「ぬぅ……そういう事なら、我々はもう席を外した方が良さそうだ。今アイツを前にしたら冷静では居られない……」
アーサーさんは怒りをどうにか抑えて、早々に場を離れる事を決めた。
そりゃそうだ……この状況でルシウスが現れたら、書店の殴り合いどころじゃない事件になるかもしれない。
冷静で居られないのは彼だけじゃない、家族もそうだろう。あの時は止めたモリーさんだって加勢しかねない。
「じゃあ私達も戻ろうか。せっかくの休日だし、ゆっくりしよ」
「そうね……」
なら丁度良いしここらで解散としよう。
そう考えて私は皆を見渡して言った。
ハーマイオニーが賛同し、ロンも頷く。しかしハリーだけは違った。
「ごめん、僕はもうちょっと話したい事があるんだ。校長先生、まだ大丈夫ですか?」
「いいとも。全ての疑問に答えられるかは分からぬがの」
はて。ハリーの話したい事ってなんだろう。
原作だと……確かリドルと似てる件とかグリフィンドールの剣とかの話だったか?
まぁいい、そこは態々私達が首を突っ込む事じゃないだろう。
聞いてほしい事だったらそう言う筈だ。ならこの場は大人しく下がろう。
「なら僕らは先に行ってるよ」
あまり聞かれたくない話だとロンも察したのか、そう言って歩き出した。
という訳で、ハリーだけを残して私達は揃って校長室を後にした。
お母さんとスネイプも一緒だけど、多分2人はこれから忙しくなるんだろう。
教員として事件解決の後始末をしなきゃならないからね。
しかしまぁ……何故かルシウスが来る上に、ハリーが何やら話したいと残るなんてね。
原作の様にドビーの解放イベントになるんだろうか。これが運命力か?
どっちにしろ彼の解放は一応物語でも重要な事。
私の知らない所で勝手に解放してもらえるならそれに越した事は無い。悩む手間が省けるってもんだ。
がんばれーハリー、頼んだぞー。
【必要の部屋】
あったりなかったり部屋と呼んだりもする。
ホグワーツに存在する、もう1つの秘密の部屋と言っていい存在。
何時誰が作ったのかは不明だが、便利過ぎるチート部屋。
ホグワーツの7階、馬鹿のバーナバスがトロルにバレエを教えようとしているタペストリーの向かいの壁にある。
この壁の前を、何が必要かを考えながら3回通り過ぎると扉が現れる。
その条件の所為か存在を知っている人は少ない。
が、長い歴史の中で見れば結構な利用者が居たようだ。
嘘か本当か、ダンブルドアはトイレの危機に瀕してうろついていたら便器だらけの部屋が現れた……という理由で部屋の存在を知ったとか。
食べ物を除き大抵の物を出現させる。部屋の構造から広さまで、かなり細かく反映してくれる。勿論、中に入った後からでも色々設定出来る。
なんとホグワーツの新しい抜け道を作る事も出来てしまう。
〇〇が入れない部屋、を要求するという様な形で入室条件さえ設定が可能。
とにかく便利だが、誰かが使っている間は新しい部屋を開く事は出来ないようだ。
物語上としても重要な場所となる。
ダンブルドア軍団の訓練に使われたり、マルフォイがキャビネットで死食い人を侵入させる為に使ったり、ネビルの主導で隠れ家として活用されたりした。
そして分霊箱の1つ、レイブンクローの髪飾りが隠されている。
具体的に言うと、必要の部屋の形態の1つ……隠された物の部屋にある。
何かを隠したいと考える人の前に現れるそうで、長い歴史の中で多くの生徒が隠した物が大量に置かれている。
ヴォルデモートは当時、この部屋を知っているのは自分だけだと信じて一切の対策を講じずに髪飾りをただ置くだけだった。
隠しに来た時の状況からして、あまり時間を掛けていられなかったからとも言われているが……なんにせよ彼の傲慢と無知を表している描写だろう。
しかし沢山の物で溢れているのに、自分しか知らないと考えるとは……相当な馬鹿。
ちなみに、その隠された物の部屋にある物品はやはりホグワーツらしくぶっ飛んでいる。恐らく魔法でやらかしたであろう、壊れた家具類。大量の本、悪戯グッズ。怪しげな薬。謎の骨が散らばった檻。武器や鎧、なんなら血に染まった物さえ。
明らかにヤバイ事をしでかした生徒が沢山居たのだろうと察せられる。
映画版では過去の撮影で使われてきた小道具を詰め込んでいるので、細かい所を観察してみると面白い物が見つかるかもしれない。
この必要の部屋は当然ながら「忍びの地図」にも載っていない。
そもそも作った彼らがこの部屋を知らないからとも言われているし、それを言うなら秘密の部屋だって載っていないだろう。
尚、屋敷しもべ妖精の姿現しを使ってさえも行く事が出来ず、直接扉から入るしか無い。
物語終盤に悪霊の火で燃え尽きた為もう使えない……かと思いきや、実はそんな事は無かった。
【聖28一族】
カンケンタラス・ノット著、1930年代出版「純血一族一覧」という本に記されたもの。
間違いなく純血の血筋とされるが、既に滅んだ家や除外された家もある。
そしてあくまでイギリスの魔法族のみ。
その多くが純血主義を掲げている。死食い人率も高い。
ここで28の家を解説するのは多過ぎるので割愛。
いくつかを上げるなら、ウィーズリー家はマグル寄りな為「血を裏切る者」とされている。
ポッター家は過去に魔法省と対立した事で除外された。ついでにマグルにありふれた姓だからとも。
ゴーント家はヴォルデモートの母方の家系であり断絶した……が、後にヴォルデモートの娘が出てきたので一応まだ存続していると言える。