ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第38話 ポリジュース薬 1

「……」

 

「「「…………」」」

 

 あっという間に12月も半ばに差し掛かった頃。

 私達いつもの4人は今、放課後の魔法薬学の教室に居た。

 

 しかめっ面のスネイプの前に置かれた大鍋、それを挟み3人が神妙な顔で立ち並ぶ。

 そして更にそれを横から眺める様に座る私。

 

 今日は遂にポリジュース薬の提出となったのだ。

 予想通り、クリスマス頃だった原作よりも少し早い完成だね。

 

「空気重過ぎない?」

 

「少し黙っていろ」

 

「はい」

 

 とりあえずスネイプとしては至極真面目に薬の評価をしているようだ。

 口は挟めそうに無い。大人しくしていよう。

 

「……ふむ。なるほど、確かにポリジュース薬だな。しかし――」

 

 いつも通りの険しい顔だけど、とりあえず薬として完成している事は認めた。

 ただしそれだけだ。続く言葉は聞かなくてもなんとなく分かる。

 

「評価としては極平凡、素晴らしいとは口が裂けても言えぬ出来栄えだ。これはまさしく魔法書通りでしかない」

 

「……魔法書通りなら良いんじゃ」

 

 いや、思ったよりは高い評価だった。完成はしている、というのが大きいんだろう。

 だけどその評価にハリーは不満を顔に出し、ロンは実際に口に出した。

 ただ1人ハーマイオニーだけは真面目に聞いている。ちなみに実際に作ったのは殆どが彼女だ。

 

「馬鹿者。教科書や魔法書の記述が完璧だとでも思っておるのか? 己の研鑽と研究の成果の全てをおいそれと公に出す筈が無かろう。あれらは著者がこの程度なら公開して良いと判断した物が大半だ。その通りに真似した所で、優れた調合など決して出来ん」

 

 スネイプが語る所によると、魔法薬学というのはそういう物らしい。

 言われると確かにそうだろうなと思ってしまう。彼自身、学生時代に教科書から改善してより良い調合をしてきた訳だし。

 というか相当貴重な魔法書でなければ知り得ない情報ってのは確かにある。

 

 魔法界らしい秘密主義……とも限らないか。

 マグルの世界だって、研究者は知識や技術を全て公開なんてしないもんね。

 

 うん、まぁ理解は出来る。けどそれは評価としては厳し過ぎじゃない?

 

「そんなのを2年生に求めないでよ……」

 

「黙っていろと言った筈だが?」

 

「……はい」

 

 思わず言ってしまったら怒られた。

 

「とは言え、それでも薬としては完成している。減点は50点で済ませてやろう」

 

 すぐに話を戻した彼は減点を告げた。

 まぁそれは分かり切ってた事だ。むしろ予想より甘い減点だった事に安心したまである。

 

 やっぱり彼なりに真面目に評価したのかもしれない。本人もそこまで求めるのは無理があると思ってるんだろう。

 逆に言えばそれくらいしか文句の付け所が無い訳だ。

 

 経緯がどうであれ、本来なら2年生には作れない様な難易度。

 魔法書通りに調合する、なんて事がどれだけ難しいか。

 誰でも出来るなら授業にならないんだもの。

 

 

「さて。問題はこの薬をどうするかであるが……」

 

 減点を無言で受け入れた私達を見もせず、スネイプは話を続ける。

 

「いつまでもこんな事に関わっていられる程、吾輩は暇ではない。そこの傍観者気取りの馬鹿者に処分を任せるとしよう」

 

「えー……」

 

 結局処分する事になるのは予想通りだったけど、謎に私に振られた。

 なんで私がやらなきゃならないの?

 

「口答えは許さん。理解出来たのならさっさと動きたまえ」

 

 言うが早いか、スネイプはハリー達を追い立て私に鍋を押し付けた。

 

「えっと……ごめんアリス、後はお願い」

 

 でもって3人は申し訳なさそうに大人しく出て行った。

 私を置いていかないでー……駄目か。私も大人しく言われた通りにしよう。

 

「なんで私が……」

 

「貴様は本当に馬鹿なのか? 本来使う未来があったのだろう。それも何かしら意味のある事に」

 

「え」

 

 ぶつくさと鍋を運ぼうとした私を見て、スネイプが盛大に溜息を吐いてそう言った。

 それってもしかして……

 

「後は好きにしろと言っておるのだ。今となっては必要無い、と言うのならばそれこそ処分すれば良い」

 

 まさか過ぎる。ここまでの流れはあくまで、教授として評価しつつ得点を帳消しにしてやるというだけだったらしい。

 

 未来を知る私が止めなかったなら意味がある事……事件解決の後でも、そう信じてくれたままだ。

 そういえば別に事件解決の為だなんて私は説明してないや。

 

 全然そんな大した事じゃないんだけど……罪悪感ヤバ……

 

「無論、これで更なる問題行動が発覚すれば減点だ。分かっているだろうな?」

 

 つまりバレない様に使え、と。

 仮に発覚する事態になったとしても、とことん減点出来て彼にとってはプラスなのかもしれない。

 

 はぁー……こんな展開になるのは予想外。

 ていうかスネイプにしては本当に甘過ぎる対応だ。罪悪感はあれど驚きの方が大きい。

 どうなっちゃったんだ彼は。

 

「正気?」

 

「グリフィンドール更に5点減点」

 

 正気だった。

 

 

 

 

 

 

「――と言う訳で。じゃじゃーん、ポリジュース薬~」

 

 翌日。適当な空き教室に3人を連れ込み、『処分を任されたからこっそり頂いて来た』と嘘の説明をした。

 

 何処ぞのロボットの様に掲げた手にあるのは瓶。鍋から取り分けた内の1つだ。

 残念ながら元々3人分として調合してあったから瓶も3つ。

 量を減らして4つに分けようとも思ったけど、それで効果がどうなるのか私には分からないから止めた。

 

 後はこれに変身したい対象の体の一部を入れれば真に完成となる。

 

「マジかよ……」

 

 やりやがったぞコイツ。みたいな目でロンに見られた。

 いや皆揃って同じ目をしてる。先にやりやがったのは君達だろ。

 

 ていうか違う、私はそんなとんでもない問題児じゃないんだ……

 未来がどうたらってスネイプの考えを説明出来ないからこう言うしかなかっただけで……

 あ、やめて。そんな目で見ないで。なんかツライ。

 

「どうする……?」

 

「今更変身してマルフォイを探ってもなぁ……」

 

 そのままハリーとロンは微妙そうな表情で顔を合わせた。

 困惑するのも分からなくはない。事件解決の為に使おうとしてたんだ、今更何をしようって話だものね。

 

「「「う~ん……」」」

 

 ハーマイオニーも含めて3人は首を捻りまくる。

 ぶっちゃけ持ってきた私だって良い使い方は分からない。

 勿体無いとは思うけど、これで要らないなら本当に捨てるさ。

 

 ていうかここで捨てろと言わない辺り、皆も大概だな……

 

「一応言っておくけど変な事に使うのは止めてね。特にそこの男子2人」

 

「「いや、そんな……」」

 

 使い道は悩ましいけど、とりあえず釘は刺しておこう。

 こないだ怪しい反応をしていた思春期男子に自由に使わせるのは危ない。

 

「私も色々考えてはみるけど……あ」

 

 変な事じゃなく、それでいてポリジュース薬じゃないと出来ない様な事……

 あ……アレがあった。

 

「予定通りマルフォイを探ろう」

 

 ある事を思い出した私はニヤリと笑った。

 使い道は変えなくて良かったんだ。

 

「なんでさ。今更そんな事したって、もう事件は解決したじゃないか」

 

「いや、ほら。アーサーさん……というか魔法省はマルフォイ家へ調査に行ってるんでしょ?」

 

 若干不満気なロンに向き直って説明を始める。

 魔法省の立ち入り検査で色々と面倒な事になるからリドルの日記を処分しようと動いた……のが今回の事件の始まりだった筈。

 

「あぁ、確か闇の魔術の掛かった物品とかそういう……あんまり大した物が見つからないって、こないだパパがぼやいてたな」

 

「あ、それ僕分かるよ。ノクターン横丁でマルフォイ達を見た時、良くない品を売りに来てたんだ」

 

 なんとなくでも事情を知っていたらしいロンが補足してくれた。

 それを聞いてハリーが身を乗り出す。

 

「本当? なんだよ、じゃあ立ち入り検査は何回やっても駄目じゃないか」

 

 既に処分された後だと知って、ロンはガックリと肩を落とした。

 アーサーさんがその為に動いてるからこそ悔しいんだろう。

 けど安心しなさい。

 

「何処かに隠してるかもしれないじゃん。それを暴いたらアーサーさんも溜飲が下がるんじゃないかな?」

 

 原作では相当数を処分しつつも一部は隠して置いている。

 その隠し場所をマルフォイがポロっと溢す事で、ロンが伝えてくれるという流れだった筈だ。

 

 それで具体的にどうなるかまでは知らないけど、やっておくに越した事は無い。

 押収されなかった品が後から利用されて別の事件発生とか冗談じゃないからね。

 

「……なるほど。私は賛成よ」

 

「賛成って。君はそうだろうな……なんせクラッブとゴイルに変身する羽目になるのは僕らだもの」

 

「正直嫌なんだけど……」

 

 少し考えただけでハーマイオニーはあっさり賛成してくれた。

 しかしロンとハリーは乗り気じゃない。

 

 だけど気持ちは分かる。というか彼女は誰に変身するつもりなんだろうか。

 原作と違ってまだ冬休みじゃないから女子生徒の誰かに成り代わるのは難しい。そもそも原作でも無茶だったけど。

 

 とは言えこれ以上の使い道は無いだろう。

 彼らが嫌だろうとやってもらわなきゃ。

 

「そりゃ、やり返したい気持ちは確かにあるよ。これでもかってくらいね」

 

 妹を利用されたどころか、ルシウスが企んでいたのはそれ以上だ。

 ロンからすれば怒りしかないだろう。

 

 それでも二の足を踏むくらいには変身が嫌らしい。主に対象が。

 

「そうだよね……分かった。アーサーさんの為にも飲むよ。車の件で迷惑掛けちゃったし……」

 

「う……」

 

 でもって片や覚悟を決めたハリーの言葉で硬直した。

 

「はい決定。じゃあこれにクラッブとゴイルの髪の毛でも入れて飲んでね」

 

 あと一押しと見て、私はもうゴリ押す事にした。

 無理矢理に2人に瓶を突き付け笑う。

 

 私だってぶっちゃけ想像するだけで寒気がする変身だけど、仕方ない事なんだ。頑張ってくれ。

 私は薬も無いし、本当に傍観者にならせてもらおう。傍から見る分には面白そうだし。

 

「簡単に言うけど、どうやってやれって言うんだ?」

 

「カップケーキか何かに眠り薬でも仕込んで、アイツらの前に浮かせとけば釣られてくれるよ」

 

 不貞腐れた様なロンに私は原作知識で手段を上げた。

 そんなの上手く行く気がしないけど、確かそんな感じの流れだった。

 

「ええ、私もその想定でいたわ。後はその辺のロッカーにでも押し込んでおけば大丈夫よ」

 

 どうやらハーマイオニーもそう考えていたらしい。

 じゃあやっぱり原作通りだな。

 

「「そんな馬鹿な」」

 

 あんまりにもな手段を聞いて、ハリーとロンは口を揃えて笑い飛ばした。

 うん、私も同じ感想だよ。

 

 

 

 

 

 

「「そんな馬鹿な」」

 

 人気の無い廊下にハリーとロンの呆れた声が静かに響いた。

 君達それ好きね。

 

「自分で提案しといてアレだけど、本当に成功しちゃうんだね……」

 

 思い立ったが吉日、と放課後に早速行動に移した私達は今、グッスリと眠り込んだクラッブとゴイルを見下ろしている。

 なんでコイツらは廊下に浮かんでるケーキを何の疑いも無く食べるんだ?

 

「ここまで頭悪くなれるもんかな?」

 

「とりあえず早くしよ」

 

 呆れ過ぎて笑えないロンの呟きをよそに、私は魔法で2人のデカイ体を運びだす。

 そのまま近くの物置に放り込み、遠慮無くローブやら靴やらを剥ぎ取っていく。

 

「よくソイツらを脱がそうと思えるな」

 

「アリス、何してるの……?」

 

 私の行動に3人はドン引きだった。

 

「いや、着てるのをそのまま使った方が楽でしょ」

 

 ハーマイオニーは洗濯物置き場からスリザリンのローブを盗むつもりだったそうだけど、こうした方がよっぽど楽だ。

 そもそもローブ以外にシャツやズボンだってサイズが全く合わない。

 というかもうここで変身したら良い。

 

 原作だと彼らがクリスマスの食事に夢中になってて、マルフォイが離れてたから出来た。

 今回は偶々別れてたから出来たものの、既に探されてるかもしれないからね。

 

「ほら、時間掛けてられないんだからさっさと変身!」

 

「「分かったよ……」」

 

 そのまま両手で其々の髪を掴んでブチリ。

 それをハリーとロンに突き出して急かした。

 

 嫌そうに受け取った2人は瓶に髪を投入。見る見る変色していく薬をうげぇっと眺めている。

 アレは本当に飲んで大丈夫な物なんだよね? 不安だ。

 

「じゃあ私達は出てるわね。正直見てられないし……」

 

 そしてハーマイオニーは私の背を押して物置を出た。

 まぁ見ていたくは無いよね……パンツ一丁のクラッブとゴイルなんて。

 そこまで剝ぎ取った私が言う事ではないけど。

 

「あなた、よくもまぁあんな事出来るわね」

 

「パンツまで脱がした方が良かった?」

 

「絶対止めて」

 

 物置を出ると溜息のオマケ付きで呆れられた。

 元男で良かったよ。じゃなきゃ出来る訳無い。

 

「ところでハーマイオニーは誰に変身するの?」

 

 話を変えて、彼女が誰に成り代わるのかを聞いてみた。

 そこらへんの事はまだ何も聞いてないんだよね。

 

「それについてはちょっと厳しいわね……彼らはホラ、その……アレだから成り代わりやすいけど……」

 

 するとモゴモゴと言いづらそうにする。ハッキリ言って良いよ、そこは。

 呆れる程に馬鹿だから成り代われるってのは事実だ。こうして眠らせるのもそうだけど、おかしな言動をしても気にされづらい2人だもの。

 

「まぁそうだよね。女子生徒を眠らせて脱がせるとか冗談じゃ済まなさそうだし」

 

「脱がさないわよ!」

 

 そんな成り代わりやすい女子生徒はスリザリンには居ないだろう。

 原作ではクリスマスで帰省中の生徒に変身する予定だったけど、今はまだ全員居る。

 

 元から後で確認されたら終わりな作戦だし、彼女が変身する意味は無いと言っていいだろう。

 そもそも眠らせて閉じ込めて……て時点でちょっとマズイ。脱がすまではしないらしいけど。

 

「ともかく、終わったら合流しましょ。クラッブとゴイルと一緒に居るのはおかしいもの」

 

「そりゃそうだけど……あ、行っちゃった」

 

 そして彼女は早々に場を離れて行った。

 確かに彼らと一緒に居るのはおかしいし、付いて行っても私達にはフォローも出来ない。

 でも何処に……まぁいいか。私も彼らの様子を見つつ、適当な所で離れよう。

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