駅を降りたらハグリッドの先導の元歩き、ボートに4人ずつ乗って湖を渡った。
ハリー、ロン、私、そしてハーマイオニーだ。なんで彼女がここに乗ろうと思ったのかは知らないけど、まぁこのメンバーに不満は無い。
なるべくしてなった、と考えよう。きっとこの先もこのメンバーで過ごす事になる。というかなってくれなきゃ困る。
「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」
「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」
玄関ホールに着くと、マクゴナガル先生が現れて引き継いだ。
何時にも増して厳格な表情だ。この場の大半の新入生が、逆らってはいけない人と思っただろう。
実際かなり親しい私でさえ逆らえない。とても厳しいお母さんみたいな存在だ。
そのまま先生は、ホールの脇にある小さな空き部屋に皆を案内した。狭い。
しかしこんな部屋に押し込める程度しか新入生は居ないのか……意外と言うか何と言うか。
「ホグワーツ入学おめでとう。新入生の歓迎会が間も無く始まりますが、大広間の席に着く前に、皆さんが入る寮を――」
カット。挨拶だけにしといて。
「――皆さん1人1人が寮にとっての誇りとなるよう望みます」
まだ入場もしてないのにそんなに長々と語られても、多分皆聞いてないんじゃないかな。
「準備が出来たら戻ってきますから、静かに待っていてください」
そして一言残して小部屋を出て行った。
静かに、なんて11歳の子供達が守れる筈も無い……と思いきや、話す子供は少なかった。皆緊張してるんだろうか。
「一体どうやって寮を決めるんだろう」
「試験の様な物だと思う。凄く痛いってフレッドが言ってたけど、きっと冗談だ」
ハリーがロンに訊ねると、そんな答えが返って来る。
冗談だと言いつつも、彼もまた不安そうにしているのが分かった。
近くでハーマイオニーが呪文をひたすらブツブツと呟いているので、ちょっとだけ悪戯心が湧いて来る。
ふむ……どんな冗談を言ったら面白いだろうか――
なんて考えは沢山の悲鳴で掻き消された。ゴースト達が現れたのだ。
私も悲鳴に驚き、ゴーストに驚き、冗談どころじゃなくなった。虫とホラーは無理なんだよ。
そのゴースト達は、怯える生徒に一言二言投げ掛けて壁の向こうに消えていった。
「さぁ行きますよ。組み分け儀式が間も無く始まります。1列になって付いて来てください」
入れ替わりにマクゴナガル先生が戻って来て、厳しい声を響かせる。
言われた通り私達はゾロゾロと並んで歩き、ホールを通って大広間へ入った。
そこに広がるのは、魔法界に慣れたと思っていた私でも息を呑む程の光景だった。
何千という蠟燭が宙に浮かび、4つの大きな大きなテーブルを照らしている。
そこには上級生達が着席していて、輝く金の皿が置いてある。
更に奥にはまた別のテーブルがあり、先生達が並んでいる。
天井には黒い空が広がり、沢山の星々が光る。天井があるなんてとても思えない。
遂に来たんだ……ホグワーツに。
「本当の空に見える様に魔法が掛けられているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ」
説明ありがとう。知ってるけど。
そしてマクゴナガル先生は、立ち並ぶ新入生の前にスツールを置いた。
勿論その上には、継ぎ接ぎだらけでボロボロの汚らしいとんがり帽子。
うわ……あんなに汚いんだ。
シンと静まり返る中、その帽子が口の様な物を開いて歌い出す。
「私は綺麗じゃないけれど 人は見かけに依らぬもの――」
カット。
歌が終わると何故か拍手喝采。え、そんなに?
組み分けの方法を知って、ロンが兄への文句を言っているのが聞こえた。
新入生で誰も知らなかった(話題になってなかったから多分)って事は、嘘を教えるのがお約束……なんだろうな。
勿論私も聞かされていない。知ってたけど。
「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子を被って椅子に座り、組み分けを受けてください」
どうやら始まるようだ。私は帽子にどう判断されるんだろうか。
きっとグリフィンドール、という予感はあるけど……
というか、物語を知っているという事を読み取られたらどうしよう。
まぁでも大丈夫だろう。帽子は性急過ぎる……なんて言われてたし、心の奥底までは読めないのかもしれない。
次々に生徒が呼ばれ、組み分けされていく。
なんでこの場だけが姓・名で呼ばれるのか謎だけど、ともかく私はD・A……早々に呼ばれる事になる。逆だったら真っ先に呼ばれてたな。
大人のつもりだったのに、緊張で手汗が滲んでくる。ドキドキと胸がうるさい。
「ダンブルドア・アリス!」
私の名前を聞いて、大広間中に騒めきが広がった。
そりゃそうだ。20世紀で最も偉大な魔法使いと言われる校長の名を持っているんだから。
特に汽車で接したハリー達は、ポカンと口を開けて見てくる。
ま、言わなかった理由は後で教えてあげよう。どうせ詰め寄ってくるだろうから。
緊張を極力出さない様、努めて冷静に振舞って歩いて行く。
どう足掻いても、これから先の学校生活では注目を浴びていく事になる。
この程度で緊張していては仕方ない。慣れてしまえ。
むしろ見惚れるが良いさ、この美少女にな!
なんて自分で自分を誤魔化しつつ、ようやく帽子へと辿り着いた。
こっそり深呼吸している間に帽子が被されると、私の視界は闇に包まれた。
そして頭の中に声が響く。
「フーム……早々に難しい生徒が来た。勇気があり、頭は良く、他人を思い遣る心を持っている。しかしそのとても狡猾な気質はスリザリン」
え。いや、自分でも薄々そう思ってはいたけど、そんなに目立つ?
あと私、頭良くないよ。悪いよ。知識は欲しいけど。
「他の何を持っていても、目的の為ならば手段を選ばず、力を求めている。やはりスリザリン」
待って待って、そんなスリザリンばっかり言わないで。
偏見とか差別とか良くないって自分でも言ったし思ってるけどさ。
でもやっぱり好みってのがありまして……スリザリンはちょっと……どうしても上手くやっていく自信が無いかなーって……
「ほう……スリザリンは嫌かね? どの寮でも君は結果を出すだろう。しかし間違いなく偉大になれるのはスリザリンだ」
別に偉大になりたい訳じゃないし。それに、お爺様だってグリフィンドールであれだけ偉大な人になったんだ。
きっとそこに寮は関係無い。結局は何を成すか、だ。
私の道がどんな物だったとしても、それが寮で大きく変わるとは思わない。
「そうか、君がそう言うのなら……グリ――」
待って。もうちょっと待って。
せっかくこんなに悩んだならもうちょっと悩もう。
答えは変えなくていいから、時間掛けよう。
どうせダンブルドアの名前で注目されるんだ。そこに組み分け困難者って扱いも加われば、一層注目されるだろう。
なら、その注目と評価を利用していきたい。カースト上位に居座れば発言力も増す筈だ。きっと色々動き易くなる。
あと何十年かに1人の組み分け困難者ってカッコ良くない? ないか……
「……そういう所がまさしくスリザリン。良かろう、スリ……グリフィンドール!」
ちょ、勝手に終わんないで! 良かろうじゃないよ、全然聞いてないじゃん。
ていうか今スリザリンって叫びかけたよね!?
あぁ、歓声が……特にグリフィンドールのテーブルから物凄い歓声が聞こえる。
あそこにこれから飛び込むのか……怖。
「きっとあなたはグリフィンドールだと思っていました。歓迎しますよ、アリス」
不満気な私の頭から帽子を外し、マクゴナガル先生が優しく嬉しそうに小声で囁いた。
おっと危ない、不満そうにしてる顔を見られたくない。グリフィンドールになった事自体は嬉しいからね。
「こちらこそよろしく、先生」
私も笑顔を返し、覚悟を決めてテーブルへと歩いて行く。
お爺様の笑顔も見えた。相変わらず不機嫌そうなスネイプも。なんでこんな場でも眉間に皺が寄ってるんだろう、あの人。
ふぅ……終わってしまえば一気に緊張が解けた。よし。
後はハリー達を待つだけだ。
*
そんなこんなで少し時間は飛んで、組み分け終了。
勿論ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人もグリフィンドールだ。
しかも組み分けされると勝手に私の所に集まってきた。いいぞいいぞ、仲良くしていこうじゃないか。
ネビルも近くに居るな。彼は覚醒が遅かっただけで、真のグリフィンドール生だ。
彼とも仲良くしていきたいし、多少のフォローをしていこうかな。
と……お爺様が立ち上がり、腕を大きく広げて笑った。
「ホグワーツの新入生諸君、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言三言、言わせて頂きたい。では行きますぞ……そーれ、わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」
わー。
無駄に拍手と歓声が響いた。
お爺様は何がしたいんだろう……
「あの人……ちょっぴりおかしくない?」
「うん」
隣に座ったハリーがボソッと呟いたので、キッパリと答えてあげた。
よくもまぁ、私のお目の前で貶せるものだな。事実おかしいと思うけどね。ちょっとだけ。
「いや……ていうかアリス! なんでダンブルドアの――」
「はいはい、説明するから騒がない。言っておくけど養子だからね」
対面に座った、呆れた様なロンが訂正しようとして言葉を詰まらせた。
そのまま私への疑問を叫ぼうとするので、一旦止める。
口に出してはいないけど、ハーマイオニーも興味津々って感じだ。当然ハリーも。
「で、言わなかった理由だけど……お爺様の名前の影響力が大き過ぎるんだよ。だから、そういうの全部取っ払って友達になりたかったんだ。だって汽車で自己紹介した時、ダンブルドアですって言ってたらあんな風に仲良くなれた?」
「そりゃあ……その」
お望み通りに説明をしてあげつつ、分かり切った質問をしてみる。
するとロンは口をモゴモゴさせて黙ってしまった。
そうだろう? 絶対、余計な感情が混ざる筈だ。
「黙ってた事は謝る、ごめん。でもありがとう……お陰で、私を私として見てくれる友達が出来た。これからよろしくね」
正直ハーマイオニーはまだ、友達と言える程関われてない。でもそれなりに会話をしてるから友達って事にしておこう。
距離はこれからいくらでも縮められるんだし。
私はそう言って笑顔を見せる。食らえ美少女スマイル第2弾。
効果は抜群。3人は顔を赤くした――ん、3人?
ハーマイオニーまで赤くなってるのは何故だ。
あぁ、でも……ぶっちゃけ友達居ない系女子の彼女からすれば、こうして面と向かって言われるのは照れくさいか。
決して彼女にそっちの気があるとかじゃない筈。君はロンとくっついてなさい。
そうこうしている内に食事が現れた。
とにかく豪華だ。肉が多めな気がするけど、沢山の料理が並んでいる。
言っておくけどイギリスの料理は不味い。実際不味い。少なくとも日本食に慣れ過ぎた私にとっては。
しかしホグワーツのレシピのお陰か、屋敷しもべ妖精のお陰か、ホグズミードに来てからは不味いなんて思った事が無い。
けど……更に美味しいとは思わなかった。同じレシピを流用して作ってくれていたのかと思いきやちょっと違う。
個人に向けた物と大勢に向けた物とでは、そりゃ作る料理も変わるか。やるじゃないか屋敷しもべ妖精。流石だ。
屋敷しもべ妖精って呼ぶの長いな。ハウスエルフを訳したんだっけ? しもべは何処から来たんだ……まぁいいや。
「痛っ」
食事は賑やかに楽しく過ぎて行った……んだけど、唐突にハリーが額を抑えて痛がった。
あー……クィレルのターバン越しにスネイプと目が合った瞬間に痛くなったんだっけ。これで勘違いが始まるんだよね。睨んでる人が悪いと思うけど。
「どうしたの? 大丈夫?」
「な、なんでもない」
一応隣に居るんだから、私はとりあえず心配する声だけを掛けておいた。
それ以上は突っ込むつもりは無い。だって今はデザートの時間だもの。
しかしこの勘違い、どうしたもんかなぁ……別に放って置いてもいいんだけど、これでもスネイプとは4年の浅い付き合いがある。
自業自得とは言え無駄に嫌われて警戒されてるのを見るのも面白くない。というか、真犯人を知らない振りって私に出来るだろうか。
「エヘン。全員よく食べ、よく飲んだ事じゃろう。新学期を迎えるにあたり――」
そんな事を考えている間にデザートは消えてしまい、お爺様が立ち上がり話し始めた。
食事は終わりか。美味しいのは良いけど、全然量が食べられなかったな。私は小食なんだ。
あー……しかしまぁ……お腹が満たされると眠気が襲ってくる。そこにお爺様のちょっと長いお話が睡眠導入剤になって……眠い。
「――最後に。とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい4階の右側の廊下に入ってはならんぞ」
こっちも問題か。どうしようか……私はどう動くべきなんだろう。
結局、私が何をしなくても事態は解決する筈なんだ。だけど……うーん。
「では、寝る前に校歌を歌いましょうぞ!」
そしてお爺様がそう声を張り上げると、先生達の顔が一気に強張った。
あぁ……うん。こんなもんカットだ。
「ああ、音楽とは何にも勝る魔法じゃ」
歌い終わるとお爺様は感激の涙を流した。
やっぱり、ちょっぴりどころじゃなくおかしいや。
「さぁ諸君、就寝時間じゃ。駆け足!」
今度は打って変わって、生徒達を急かしていく。
これで歓迎会は終わり……後は寮に行って寝るだけだ。
もう眠くて仕方ない。私は健康的な生活を言い聞かされているお陰で、夜更かし出来ない体なんだよ。
なのに成長遅いのが気に食わないけど……とにかく、おねむなのだ。
後は寝るだけ、と意識してしまったからか、本当に眠い。今横になれたなら何処でも寝れると思う。
欠伸をしながら、ポテポテと歩いてなんとか皆に付いて行く。
途中、ピーブズが現れたらしいけど最早気にする事も無かった。
グリフィンドール寮に入り、説明を聞き流し、とりあえず女子達の後に続いて行く。
あんまりにも私が眠そうにしているからか、隣でハーマイオニーが支えてくれた。
「ちょっと、大丈夫? 転ばないでよ? ちゃんと歩いてよ、もう」
「んー……」
「駄目だわ、全然駄目。全く、見た目通りお子様なのね。ほら、部屋に着いたわよ、私達は同じ部屋みたいね……聞いてる?」
「んー……」
「こっちは私のベッドよ。あなたはそっち! あーもう、寝るなら着替えなさいよ」
「んー……」
「脱ぐだけじゃなくてっ……もう! はしたない!」
「んー……」
何をモーモー言ってるんだ……?
まぁいい、おやすみ。
【組分け帽子】
ホグワーツの創設者である4人に依って個性と知能を与えられた、約1000年物の古びた帽子。
被った者の心を読み、適切な寮へ組分ける。ただしその判断が良いか悪いかは……
判断が間違っているとは絶対に認めないらしい。
明確な描写は無い為、ここでは心の奥底までは読み取れないという設定に。
それが出来たなら物語は大きく変わっていたかも。
【組分け困難者】
ハットストール。複数の寮に適性があり、5分以上帽子が悩んだ生徒の事。50年に1人程度の稀な存在。
ハリーを始め複数の適性がある生徒は特別珍しくは無く、5分以上悩んだ生徒をそう呼ぶ。
例としてはマクゴナガルはグリフィンドールとレイブンクローで、ペティグリューはグリフィンドールとスリザリンとで長々と悩まれた組分け困難者。
地味にハーマイオニーとネビルも、4分程悩まれたとか。
全員グリフィンドールじゃねぇか。
【クィリナス・クィレル】
レイブンクロー卒でマグル学教授を務め、1年の休職を経て闇の魔術に対する防衛術の教授になった。
学生時代は才能豊かだったらしいが、内気で繊細な性格や吃音の所為でよくからかわれていた。
その虐めによって憎しみや野心を募らせてしまったそうだ。
それは教授になってからも変わらず、貪欲に自分の価値を求め大きな事を成そうと夢見た。
遂には1年の休暇を得てヴォルデモートの捜索を開始。
闇の帝王を追い立てた英雄になる、もしくは彼から素晴らしい魔法を学ぶ……どちらでも良かったのかもしれない。
彼の生存を何故確信していたのか、どうやって発見したのかは不明。
世界を巡ったらしいので、本当に偶々だった可能性もある。
しかしヴォルデモートには敵わず憑依されてしまった。
勘違いしがちだが、肉体を共有したのはグリンゴッツへ盗みに入った後である。
彼も証言をしているし、そもそも原作では漏れ鍋でハリーと握手をしている上にターバンを巻いている描写は無い。
つまり本人の実力で銀行強盗に入って足を掴ませなかった。
まぁ原作からして杖無し無言の魔法を使っているので、優秀だったのは間違いないだろう(憑依された事で得た力かどうかは判断出来ないが)
実力だけでなく多才でもある。
危険な生物の扱い……特にトロルに対しては並外れており、制圧し指示通りに動かす事が出来たようだ。
マグルの機械もしっかり理解する等、柔軟で優れた頭脳を持つ。
薬草学にも優れ、演技力だって言わずもがな。
しかしヴォルデモートに屈して闇に堕ちてしまった。
弱々しく抵抗していたが、最終的には心の底から彼に仕える事を望んでいた。
石をヴォルデモートに捧げる自分がみぞの鏡に映った事がその証明だろう。
灰になって散るのは映画のみ。原作ではハリーはしがみ付きながら意識を失うので描写がされていない。
愛の護りが彼を焼き殺したのではなく、ヴォルデモートが体から離れた事で死亡したと後々で示唆されている。
ちなみに。何故クィレルがユニコーンの血を飲まなければならなかったのか?
ヴォルデモートは既に分霊箱で繋ぎ止められているので、そんな血は必要無い。
しかし肉体を共有した事でクィレル自身が著しく衰弱し、1年も保たない状態だった。
それはせっかくの駒を得たヴォルデモートとしても望む所ではなかった。だから石を手に入れるまでの繋ぎとして飲んでいた……と言われている。
更に余談だが、スネイプとジェームズの関係を知っていたそうなので同年代……もしくは近い時期に生徒だった可能性が高い。