「さーて……私はどうしようかな」
マルフォイ達から離れ、ある程度歩いた所で私は独り呟いた。
ハリーとロンが元に戻ってから合流するまで時間がある。待つ間何をしようか……
ハーマイオニーは一体何処に行ったのやら。
「とりあえずトイレ行こ」
でも考える前に一旦トイレだ。
ここから一番近いのは……あー……マジか。あっちのピーブズが暴れてる廊下の先だ……
ならそこの階段で上のトイレに……そっちはマートルのとこじゃん。詰んだ。
仕方ない、面倒さで言えばまだ彼女の方がマシだ。居ない事もあるし。
「到着っと。お願いだから居ませんように……」
という訳でトイレに向かい、恐る恐るドアを開けて入る。
しかしそこに居たのはマートルではなく――
「「え」」
お互いに驚いて顔を見合わせる。
「私が居る……」
割と本気で困惑したけど、すぐに思い至った。
これもしかしてハーマイオニー……?
「あっ、あ、え、いや違っ……なんで!?」
手洗い場の鏡の前で、私が赤い顔でワタワタと慌てふためいてる。
なんではこっちのセリフだけど……
「……こうして見るとやっぱり私って可愛いな」
ともかく真っ先に出てきた感想はこんなんだった。
鏡じゃないだけで随分と変わるもんだな。そもそも普段鏡で見る様な表情でもない。
「この状況でそのセリフが出て来るのは本当に凄いと思うわ……」
「冷静にならないで」
慌ててたのに盛大に溜息を吐かれた。
自分でもちょっとナルシスト過ぎるセリフだなって思ったよ。でも素直に出て来ちゃったんだからしょうがないじゃないか。
いい加減、元男としての客観視は改めた方が良いかもしれない。
「ていうかハーマイオニー……で良いんだよね?」
「……そうよ」
今更ながら一応の確認をしてみれば、彼女は赤い顔のまま目を逸らし肯定した。
バツの悪そうな、それでいて不貞腐れた様な表情だ。
「なんで私に変身してるの?」
「それは……その……」
「え、まさか言えない様な事してた……?」
「し、してないわよ!?」
なんか怪しい。
本当に変な事してないだろうな……
「これは……その……あの……えっと」
「…………」
「あーもうっ、憧れの友達になってみたいって思ったって良いじゃない!」
私がひたすらジットリと見つめると、ハーマイオニーは観念……いや開き直った。
「アリスみたいになれたら……って何回思った事か!」
「逆ギレ……ていうかそれで本当に変身しちゃうのは何か違う気がするけど……」
どうやら変な理由ではないみたいだけど、凄くムズムズする理由だ。
赤い顔で逆ギレする彼女を見て、私は苦笑いしか出て来なかった。
なんか責めるに責められないなぁ……まぁ別に嫌だとは思わないんだけどね。恥ずかしいだけで。
「う……ごめんなさい、ちょっと配慮が足りなかったわ」
「なんにせよその気持ちだけは嬉しく思うよ、うん。恥ずかしいけどね」
今度はしょんぼりとして謝ってきた。
しょうがない、恥ずかしさは我慢して許してやろう。
憧れって言ってくれたし、好意的な物なのは確かだ。
「こうしてあなたになってみて改めて理解したわ。冗談抜きで可愛いんだって」
「あ、ありがとう」
私に責める気が無いと分かったのか、彼女は曖昧に笑った。
改めて面と向かって言われると反応に困る。
「本当、美少女って感じ。鏡を見るだけでなんか楽しいわ。なんなのこの細さ……肌はスベスベぷにぷにだし……」
オマケに鏡の前で簡単なポーズを取っている。
多分、私が来る前もこんな感じで呑気に楽しんでたのかもしれない。
「ちょ、やめ……余計恥ずかしいからっ」
「いつも自分で言ってるじゃない」
なんだかもう色んな恥ずかしさが混ざってよく分からなくなってくる。
だって目の前に居るのは自分を褒めちぎる私だ。正直見ていられない。
周りから見ると普段の私はこういう風に見えてるのかな……ナルシスト過ぎる。本当に反省しよう。
「でもやっぱりそのまま変身するもんじゃないわね……下着が合わなくてちょっと気になっちゃう」
「配慮何処行った?」
完全に気を取り直したのか、彼女は軽口を叩き始めた。
何て事を言いやがる。くそ……分かっては居たけどしっかり差が……
ていうか揉むな、それ私の胸だから。
「あっ……と、ごめんなさいちょっとトイレ……」
「コラ逃げるな」
私が睨むと彼女は慌ててトイレの個室に向かった。
まったく、逃げるくらいなら言わなきゃいいのに。
とりあえず、本当に用を足す為だったら個室まで追い掛けるのも良くはない。
私だって我慢中だし、おふざけはこのくらいにして……ん?
「ってちょっと待ったーっ!?」
「きゃっ!? な、何よ?」
呑気に見送ろうとして、今度は私が大慌てで服を引っ掴み引き留めた。
「駄目に決まってるでしょ!? それ私の体! トイレとか恥ずかし過ぎるってば!」
今の彼女は私に変身してる。
つまり当たり前の行動さえ物凄く恥ずかしい事に変わってしまう訳だ。
「……いや、そんなっ……別にほら、他意は無いと言うか……観察する訳じゃあるまいし……」
「されて堪るか」
そこでようやく彼女も理解したのか、またしても真っ赤な顔でしどろもどろになった。
他意があったら困るんだよ。
「でも実際ちょっとギリギリなのよ」
「なんで薬飲む前に済ませなかったのさ! 駄目ったら駄目!」
「じゃあ漏らせって言うの!?」
「……それはそれでちょっと」
お漏らしする自分を見せられるのはなんかもう何なんだ。
訳が分からない上に恥ずかしいとか言う話じゃない。
ていうか見た目はともかく、体内はどう変身してるんだろうか。
まさか同じ様なタイミングで催したのって……いや考え過ぎか。
「目瞑るから!」
「信じたいけど不安!」
「じゃあもう見張ってたら良いじゃない! 自分の体なら良いでしょ!」
「なんのプレイ!?」
そのままギャーギャーと言い合う。
開き直り過ぎだろ。君はそれで良いのか。
いや、私達にしては珍しくただ勢い任せに叫ぶだけのやり取りだ。
とんでもない事を言ってる自覚も無いんだろう。
「あっ……」
「え」
そして唐突にハーマイオニーが硬直した。
何その切ない声。まさか……限界突破しちゃった……?
「隙アリ!」
「あっ!」
合わせて私まで硬直してしまい、その隙に個室に逃げ込まれた。
やられた!? ハッタリだったのか!
「くそぅ……本当にお願いだから手早く済ませてね! 変な事しないでね!」
「しないったら!」
仕方ない。もう諦めよう。
この期に及んで突入したってお互い最悪に気まずい恥ずかしい思いをするだけだ。
ドアにへばり付いてるのも失礼だから離れておこう。
「……きゃあ!?」
すると何故か個室から悲鳴が聞こえた。何事?
「ちょっ……何処から顔出してっ……!?」
「あら、随分と可愛らしい反応する様になったわね。相変わらずお子様だけど」
「ひゃっ……嘘でしょっ!? 駄目ったら!」
マートルかよ!? 居ないと思ったら今更出てきた!
何処から出てきたのかはもう考えたくも無いけど……って……
「待て待て待て、何されてるの私!?」
私っていうかハーマイオニーだけど。
もしかしなくてもこれ前に私がやられたやつだろ!
相変わらずお子様って何!? 何処見て何した感想!?
「ん? あら?」
私が大慌てでドアに駆け戻って叫ぶと、不思議そうな顔をしたマートルが顔を出して来た。
「……どういう状況?」
「ハーマイオニーが薬で変身してる」
私と個室を交互に見て首を傾げるマートルに簡単な説明をする。
もう遅いかもしれないけど、ちょっと大人しくしててほしい。
これ以上事態をややこしくしないで。
「ふーん……前とは全然違う反応だった訳だわ」
「悪かったね、私は可愛らしくない反応で」
なんかもう楽しんでるだろお前。他にも被害者が居そうだ。
私だと判断して出てきたなら……考えない方が良いか。
「はぁ……とりあえず私も済ませちゃお」
色々と言いたい事はあるけど、もうそれを伝えるのも面倒臭い。
なんにせよここに来た目的を果たそう。私こそ限界が近い。
て事で個室に入りパンツを降ろして座り……
「ぬあ!? 入ってくるなぁっ!」
マートルがぬるりとドアをすり抜けてきた。
なんでだよもう、そっちの気があるのか? お前も性癖壊れてるのか?
ていうか出ちゃうから出てけ!
「なんかアンタを見てたら、こういう悪戯も良いなって思ったのよ」
「悪戯じゃ済まない変態行為だけど!?」
良くないし思うな。やっぱりそっちの気がありそうだ。怖……
「笑ってないでさっさと――」
いやそんな事よりもう出……あっ……
「――出てけよぉ……見るなぁ……」
「その泣きそうな顔、なんだかゾクゾクするわ」
この変態幽霊ヤバイ……ホグワーツまじでヤバイ。
なんでまたこんな恥ずかしい目に遭わなきゃいけないの……
もうこのトイレ使わない。絶対。
*
その後は泣きそうになりながらトイレを逃げ出し、気付けば夕食の時間になっていた。
だから皆の合流は自然と大広間になったものの、流石に大勢が居る食事の場で話せる内容じゃない。
いつも通りを装い、食後に廊下を歩きながら報告会だ。
「じゃあ何? 僕らがギリギリまで粘って情報聞き出してる間、君らは遊んでた訳?」
そしてロンがお怒りだ。
恥ずかしいから詳しくは言わなかったけど、私とハーマイオニーが遊んでいたと判断されてしまった訳だ。
実際彼女はそんな感じだけども。
でも私は違う。ただ酷いセクハラを受けただけだ。
「そういう訳じゃ……いや、ごめん」
でも一応謝っておこう。
滅茶苦茶不味い薬を飲んで嫌な奴に変身して、嫌な奴から情報を聞き出した彼らの苦労は大きい。
文句の1つや2つは言いたくもなるだろう。
「まぁまぁ、どうせクラッブとゴイル以外は無理そうだし……」
「そりゃ……うん。まぁいいや、お陰でアイツの屋敷にある『秘密の部屋』はパパに伝えられたし」
苦笑いでハリーが仲裁してくれたお陰で、ロンの怒りはあっさり鎮まった。
言ってる通り、得る物は得たから多少気分もマシなのかもしれない。
既に梟を飛ばしてるっぽいし、これでマルフォイ邸に隠してある闇の魔術に関わるよろしくない品々を押収出来る。
それらが使われて余計に原作から乖離するなんて事も無いだろう。
「よしよし、これで一泡吹かせられるね」
何よりアーサーさんの気が少しでも晴れてくれたら良い。
いや、彼に限った話ではないか。家族皆だな。
やってやったぞザマーミロ、なんて思いながらうんうんと頷く。
と、そこで満足気な私達に声が掛けられた。
「今度は何をしたのですか?」
「「「えっ」」」
お母さん!?
今の話を聞かれてたのか、と私達は揃って飛び上がらんばかりに驚いた。
「まぁ深くは訊ねませんけれど……ともかく、先日話していた罰則の件を伝えに来ました」
どうやら聞かれてはいなかったみたいだ。まぁ聞かれてたとしても後半だけなら大丈夫か。
しかし随分間が空いたけど、やっと罰則が決まったらしい。
どんな内容になったのやら……
「単刀直入に言いますと、またしても禁じられた森での罰則になります」
「えぇっ、またあの森に?」
わーお、またか。
嫌そうに反応するロンだけど、正直私でも同じ反応をするだろう。
あんな森は何回も行くもんじゃない。
「今回は事件と言う程のものではありませんよ。実は近頃、森で車が走り回っているとか……その調査です」
「車って……」
「嘘だろ」
去年とは違って今回はなんとも面白い話だった。
ハリーとロンは顔を見合わせて青褪める。心当たりがあり過ぎるんだろう。
「あなた達が乗ってきたっていう車?」
「「多分……」」
彼らの反応でハーマイオニーにも事情は理解出来たらしい。
「なんで車が勝手に走ってるのよ……」
「色んな魔法が掛かってるみたいだしねー」
それは分からん。あの車は一体何なんだ。
壊れて墜落して激突して叩き潰されたんじゃ……ていうかガス欠にもなってないってもう訳分からん。
魔法掛けまくった所為でおかしな事になってるんじゃないか?
「明日の放課後、ハグリッドと共に行きなさい。なにも車を捕まえてこいとは言いませんから」
お母さんはちょっとだけ笑いながらそう言った。
捕まえられるもんなら捕まえてみたいけどね。
というかこの言い方からして、森に行かせる事そのものが罰則って感じなんだろうな。
「……私も行った方が良いのかなぁ」
「いやそれは」
「悪い事したのは私達よ、アリスは違うじゃない」
思わず溢した私の言葉に、皆はすぐに声を上げた。
割と悩んでたんだよね。あんまり首を突っ込み過ぎるのも違うとは思うんだけどさ……やっぱり加担してないとは言えない訳で。
「でも背中押しちゃったし……知ってて止めなかったし……」
「ふふ……好きになさい。それであなたが納得出来るなら行けばよろしい。私は止めませんとも」
私がそうモゴモゴしていると、お母さんは微笑んで私の頭をポンポンと優しく叩いた。
納得出来る様に選ばせてくれるらしい。
一応はヤバめな校則違反の罰則だって言うのに……今回は随分と甘い対応だな。
ていうか最近はもう厳格な教師としての面が薄くなってるような。先生じゃなくお母さんって感じで私は嬉しいけど。
「じゃあ行こうかな……車も気になるし」
ともかく、それなら答えは決まってる。
あと純粋に好奇心が……
「……大丈夫? あなた去年は森で凄く怖がってたのに」
「真夜中じゃなければ……多分」
分かり切ってたであろう答えを聞いて、真っ先にハーマイオニーが心配そうに言った。
前と違って今回は放課後……12月だけどギリギリ日は落ちない。すぐに暗くなっちゃうけど。
「ていうか別に怖がってないし!」
「否定遅いよ」
そして答えてから気付いたけど、なんで私が怖がる前提で話してるんだコラ。
そう返したものの、皆からは生温かい目で笑われた。
まぁ、ぶっちゃけ怖いかもしれないけど、多分大丈夫だろう。
さっき言った通り真夜中じゃないし、ヴォルデモートが出てきたりも……ん?
そういえば秘密の部屋編の森って……確か……車が出て来るシーンって……
蜘蛛……?
でっかい奴……?
…………やっぱ行かないって言ったら駄目かな?