ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第41話 蜘蛛蜘蛛パニック

「お母さーん……」

 

「おや、アリス。どうしました? 授業で分からない所でも?」

 

 翌日、変身術の授業が終わった所で私は1人、お母さんへ近づき声を掛けた。

 

「それはまだ大丈夫。えっと、そうじゃなくて……今日の罰則の内容、変えた方が良いんじゃないかなー……って、思ってぇ……」

 

「何故です?」

 

「何故ってそりゃ……その……アクロマンチュラの群れが居ると思うから……」

 

 罰則に付いて行くと言ってしまったけど、やっぱりちょっぴり蜘蛛は嫌だ。

 どうしたもんかと一晩考えた結果、そもそも危険なら罰則の内容を変えてもらえば良いんじゃないか、と思い至った。

 

 流石に危険だと分かればお母さんでも罰則を変えるかも……

 

「ええ、居るでしょうね。禁じられた森ですから」

 

「はぇ?」

 

 しかし予想に反して、なんとも当たり前の様に返された。

 

「入る事を禁じる程に危険な場所……ではありますけれど、ハグリッドが居れば大丈夫。だからこそ罰則として成り立つのですよ」

 

「安全に怖い思いをさせるのが罰って事?」

 

「分かりやすく言えばその通りです」

 

「えぇ……」

 

 昨日も思った通り、森に入る事そのものが罰則だった。

 マジか……マジかぁ……

 ちょっと呆れてしまった。流石の魔法界だな……危険の価値観がおかしい。

 

「ハグリッドはあなた達に負けないくらいに問題を起こしますが、その能力は評価しています。彼ほど森番に相応しい者は居ないでしょう」

 

「うーん……まぁ、確かに……?」

 

 私を安心させる為か、お母さんは微笑んでそう言った。

 確かに、長年あの森を1人で管理して大した怪我もしないんだもんな。その辺りは生徒の私よりずっと理解してるんだろう。

 去年の罰則はグダグダだった気がするけど……まぁ、うん。ハゲターバンがヤバかっただけで、それ以外は確かに安全ではあったか。

 

 私達に負けないくらいって所だけは反論したいけどね。

 彼の方がよっぽどヤバイでしょ。

 

 そのアクロマンチュラだって彼が放ったんだぞ。

 それとは関係無しに他の群れが居たかもしれないけどさ。なんせ広いし。

 

「……もしかして、あなたの知る未来では何か良からぬ事件が起こり得るのですか?」

 

 まだ微妙な顔をしてる私を見て、声を潜めて真面目に確認してきた。

 うーん……どうだろう。

 

 原作で大変な事になったのはハグリッド無しで行ったからだし……

 そもそも自ら蜘蛛を追いかけたからだし……

 今回の罰則で群れが居る範囲に行くかも分からないし……

 

 あれ? じゃあ意外とイケる?

 

「んー……そこまでの事じゃないかも……?」

 

「では大丈夫ですね。ハグリッドから離れなければ問題無いでしょう」

 

 改めて考えた結果、思わず素直に否定してしまった。

 お陰で罰則の変更は出来なくなった。ちくしょう。

 

 

 

 

 

 

 そうして放課後。

 

「あぁーーーーー!?」

 

「ぎゃーーーーー!?」

 

 案の定である。

 私とロンは絶叫しながら爆走中。ここは森の何処ですか。

 

 もしかしたら……なんて淡い期待だった。

 

「アリスなら呪文でなんとか出来ないの!?」

 

「アレ相手に正面から冷静に呪文を使える気がしないよ!」

 

 奴らは鋏をカチカチと鳴らして雪の上を這ってくる。そもそもなんで真冬の雪の中で虫がワラワラと湧いてくるんだよ。

 いや、あんな人間より大きな蜘蛛はもう虫とか言う範疇じゃない。化物だ。

 

 蜘蛛そのものへの苦手意識以上の、純粋な恐怖。むしろそれらが掛け合わさった悍ましいまでの何か。

 正直去年のクィレル&ヴォルデモートより怖い。

 

 もう混乱し過ぎて呪文を使える精神状態じゃない。まず一旦少しでも落ち着きたい。

 だけど足を止めたら終わりだろう。

 

「もうやだぁっ! やっぱり来なきゃ良かった!」

 

「罰則だからってあんまりだ! 一生分の罰を受けてる気分だよ!」

 

 逃げる先からどんどん現れ、悲鳴を上げて進路を変える。そんな事を何回も繰り返している。

 なんでもいいから叫んでいないとどうにかなってしまいそうだ。

 

 なんでこうなったのか? ハグリッドと来たなら大丈夫な筈だって?

 うん、そうだったね……私って本当に馬鹿……

 

 

 

 

 

 時は少し遡って。

 私達はハグリッドと共に禁じられた森へやってきた。

 罰則の変更は通らず、予定通り森を走り回る謎の車の調査だ。謎じゃないけど。

 

 一応念の為、皆にはアクロマンチュラの群れが居るかもとは伝えておいた。

 ロンは絶望して真っ青になってた。

 

 群れを生み出した原因のハグリッドも当然知っている事で、自分が居るなら大丈夫と自信満々だ。

 やらかしを見てきた側としては不信感が拭えないけど、ここはもう信頼せざるを得ない。

 

 

 森は雪に覆われているものの、幸いにも今は降ってはいない。

 寒さに耐えつつ、私達は急ぎ足で進んだ。のんびりしていたらすぐに暗くなってしまう。

 

「さーて、俺はこの辺りで車を見かけたんだが……」

 

 そうしてしばらく森の中を歩いた頃、先頭のハグリッドが立ち止まって言った。

 

「その時も走り回ってたの?」

 

「おう。車と言うより、ありゃもう獣だな。しっかし何がしたくて走ってるのやら……不思議な事もあるもんだ」

 

「完全に野生化してるじゃない……」

 

 ハリーとハーマイオニーがハグリッドの隣で話し合っている。

 私とロンは及び腰で歩いていたので数歩後ろだ。

 

「どうやって探せば良いんだろう……雪に車の跡とかないかな?」

 

「今日は降ってないからあるかもしれないけど……どうかしらね」

 

 とりあえず辺りを見渡してみよう、と前の3人がキョロキョロ。

 一応私とロンも恐る恐る視線を巡らせてみる。

 

 そして見つけた。すぐ傍の茂みから覗く、真っ黒で巨大な蜘蛛を。

 

「ひっ」

 

 私は思わず悲鳴を漏らして硬直した。

 

「あ……あぁ……」

 

 その反応で隣に居たロンも茂みに視線を向け、同じく固まった。

 

「ん? っ、いかん! 2人とも俺の傍へ――」

 

「「ぎゃぁああーーー!?」」

 

 遅れてハグリッドが叫び、同時に蜘蛛が飛び出して来た。

 そして私達はとんでもない悲鳴を上げて駆け出した。

 そう、駆け出してしまった。

 

「アリス、ロン!」

 

「駄目、戻って!」

 

「よせ! この子達は俺の連れだ! 襲っちゃならねぇ!」

 

 ハグリッドの隣にいたハリーとハーマイオニーは守られてるから大丈夫だった。

 だけど自ら離れて行った私とロンは蜘蛛からすれば別なんだろう。逃げる私達を追い掛けてきた。

 

 当然、出遅れつつハグリッドも追い掛ける。安全の為に2人も一緒に連れて。

 だけど私達は戻ろうにも戻れなかった。背後に追い縋る蜘蛛が恐ろしかったから。

 

 これが蜘蛛じゃなければ多分まともな判断が出来た。分かんないけど。

 でも唐突に現れた奴を見て、理性を吹っ飛ばして本能が逃げろと叫んだんだ。

 

 杖を抜くでもなく、ハグリッドに駆け寄るでもなく、ただ逃げた。

 本当に大馬鹿だった。

 

 

 

 結局そのまま逃げに逃げてきたのが今だ。

 

 滅茶苦茶に走った所為か、もうハグリッド達はとっくに見えなくなってる。

 いや、仮に見える範囲に居たとしても簡単には近づけないだろう。奴らはあちこちから湧いて集まってきている。

 

「もう駄目だ! 完全に囲まれてる!」

 

 私の少し先を走っていたロンが急ブレーキで止まり叫ぶ。

 その横に並んで私も理解した。

 

「嘘……どんだけ居るの……?」

 

 何匹居るのか分からないくらいにうじゃうじゃと囲まれてしまった。もう逃げ場が無い。

 そして当然奴らは止まっちゃくれない。疲労した獲物を囲んでのんびりする筈もないんだ。

 散々走って荒れた息を整える暇さえ与えず迫り来る。

 

「こうなったらやるしかないよ!」

 

「わ、分かってるけどっ……」

 

 泣きそうな震え声で叫びながら、ロンはモタモタと杖を抜いた。

 自棄になるなと言いたい所だけど、私の方こそ自棄になりそうだ。

 

 ともかく急いで私も杖を抜こう、と懐を弄り……

 

「――っ」

 

 同時に、スルリと眼前に蜘蛛が降りてきた。

 触れそうなくらいに近いソレを見て、ヒュッと息を呑んだ。もう悲鳴さえ出ず、体は石の様に硬直した。

 

 黒々と光る8つの目が私を射抜き、同じく真っ黒な毛に覆われた8本の足が広がる。

 キチキチと鋏が動くのがやけにゆっくりと見える。

 

「あ……」

 

 無惨に食われる予感しかしなかった。

 そして私はまるで下半身が溶けたかの様にふにゃりと崩れ落ちた。

 漏らさなかったのは奇跡かもしれない。

 

 隣でロンが滅茶苦茶に叫んで、滅茶苦茶に杖を振ってなんか色々飛ばしてる。

 腰を抜かしてる場合じゃない。私もさっさと杖を抜いて呪文を唱えなきゃ……

 だって目の前の蜘蛛は今にも飛び掛かろうとして――

 

「アリス!」

 

「わっ」

 

 蜘蛛じゃなくロンが私に飛び掛かってきた。

 私がヤバイと判断して、咄嗟に引き離してくれたんだろう。

 

 だけど雪の上を転がり押し倒されて、私達は揃って無防備になってしまった。

 当然、他の蜘蛛が目前に群がってくる。

 

「ぁぁぁぁぁ……」

 

 今度こそ終わりか……と声にならない小さな叫びを漏らすしかない。

 もう絶望しかなかったが、そこに大きくてけたたましい乱入者が現れた。

 

「は? え?」

 

 それに気付いたロンは間抜けな声を上げて体を起こした。

 

 その乱入者は……車。彼がよく知るフォード・アングリア。

 エンジンを唸らせ排気音を響かせ、クラクションを鳴らし猛スピードで飛び込んできた。

 そうしてまるでラリーカーかの様に素晴らしい動きで駆け回り、群れを蹴散らしていく。

 

 廃車寸前のボロボロな車体の癖に、なんとカッコイイ車か。

 まさか車に助けられるとは……

 

 ……あれ?

 

「なんか……やたらクルクル回ってない?」

 

「アイツ、雪の上で滑っちゃってるんだ……」

 

 残念、制御を失って殆ど暴走してるだけだった。カッコよくない……

 でも夏休み明けに使われた車だもんね。冬タイヤどころかチェーンなんて履いてる訳無い。

 そもそもアーサーさんがタイヤの事を知ってたかも怪しいけど……ともかく、雪の上なんてまともに走れやしないだろう。

 

「うわぁああっ!?」

 

「どわぁああっ!?」

 

 呑気に眺めていたら勢い良く滑り込んできて、私達は危うく轢かれる所だった。

 咄嗟に後ろに転がって逃げなければヤバかった。

 

「蜘蛛の次は車から逃げなきゃなの!?」

 

 しかしそれだけ危険な中だからこそ、蜘蛛はさっさと離れて様子を伺っている状態だ。

 一難去ってまた一難、ではあるけど……さっきよりはマシかな。

 現にこうして会話するだけの余裕は出来た。

 

「速度が落ちた所に飛び乗ろう! なんか屋根が無くなってるし、意外とイケるかも!」

 

「嘘でしょ!? あーでもやるしかない!」

 

 そこでロンが随分とアクロバティックな提案をした。

 ボロボロで最早オープンカーみたいになってるから、確かに飛び乗れるだろう。

 そして乗れさえすれば運転して蜘蛛からも逃げられる。

 

 とにかく速度さえどうにかすれば……いや、待て待ていい加減に杖を抜け。私は魔女だぞ。

 

「アレスト・モメンタム! ロン、今だよ!」

 

「ナイス!」

 

 今更ながら呪文を唱え、殆ど停止状態の車に向かって跳んだ。

 よしよし、これでロンがちゃんと運転さえしてくれれば……

 

「って君が運転席に入ってどうするんだよ!?」

 

「しまった!? ちょ、狭い……あ、あ、あー! 蜘蛛蜘蛛蜘蛛!」

 

 位置が悪く、偶然にも私が運転席に飛び込む形になってしまった。

 屋根が無くなった所為で車内を広くする魔法が切れてるのか、元の狭い状態だ。スムーズに入れ替わる事が出来ない。

 

 そして最悪な事に蜘蛛達が動き出した。

 私達が逃げようとしてる事を理解したんだろう。

 暴れ回っていた車が大人しくなった所為でもあるか。

 

 ともかく1秒でも早く動かなきゃ……!

 

「仕方ない、このまま行くよ!」

 

「嘘だろ!? 君に車が運転出来るってのか!?」

 

 土壇場だけどやるしかない。やってやろうじゃないか。

 これでも10年以上前は車もバイクもそこそこ乗ってたんだ、なんとかなる。多分。

 

 て、これマニュアル!? そりゃそうか、古いんだから!

 流石に旧車も旧車過ぎて感覚が分からないけど……とにかく動け!

 

「いっけー!」

 

「マジかよ……」

 

 幸いにも発進は出来た。生前の経験が初めてちゃんと活きた気がする。

 後は事故らない様に木々を抜けるだけだ。

 雪の上だから思う様に走れないし、オマケにデコボコだけど……いや難しいな!?

 

 ただでさえ後ろから追ってくる蜘蛛に意識が向くのに!

 

「ロン、この呪文をひたすら撃って! アラーニア・エグズメイ!」

 

「君よく運転しながら呪文使えるな!? 色々驚きだよ!」

 

 旧車らしい細いステアリングを片手で握り、私は後ろへ呪文を放った。

 手本として1発だけだ、後は見様見真似で良いからロンに任せよう。

 

「大した速度は出てないけど、振り落とされない様にね!」

 

「さっきまで腰を抜かしてたとは思えないくらい元気だな……まぁいいや!」

 

 いや、限界まで混乱した後に久々の運転でちょっとテンション上がってて……

 

 なにやら呆れ声が聞こえたけど、ロンは言われた通り呪文を放ち始めた。

 座席を掴んで後ろ向きに膝立ちしてるから、多分振り落とされはしないだろう。舌は嚙むなよ。

 

「よし……よし、なんとかなってる!」

 

 ガタガタと車体は跳ねるし滑るけど、不思議と立て直せてる。私ってこんなに運転上手かったっけ?

 いや違う、車自身も制御をしてくれてるんだ。だから発進もスムーズだった。

 言うならばAIの自動操縦……いや補助だ。

 

 私の運転と車の意思が合わさったこれなら、雪の上でも蜘蛛から逃げられる。

 なんならこのまま森の外にだって……ん?

 

「……ねぇ、ロン。私は何処に向かってるの?」

 

 そういえば方向なんて何も考えず、ただ走り出しただけだった。

 

「「……」」

 

 呪文がパタリと止み、お互いに無言。

 ほんの1秒も無い間なのに長く感じる。

 

「え?」

 

「えへへ……」

 

 そして私を見下ろすロンと目が合った。

 その表情と目だけで彼の感情が読み取れる。呆れと困惑と驚き……うん、ごめんなさい。

 とりあえず笑って誤魔化しておこう。

 

「いや知らないよ!? ハグリッド達の方か、森の外に向かってるんじゃないの!?」

 

「そんな方向なんて分かる訳ないじゃん」

 

 方向音痴ナメんな。そもそもこんな森でどう判断しろと。

 真っすぐ走ってるつもりでも、木々を避けてく中でズレまくってる。

 

「なんで開き直ってるんだよ!? 来た道を戻れば良いだろ!?」

 

「何処? もう分かんないよ」

 

 だからそれが分かんないんだってば。分かってたらこんなんなってないよ。

 あ、でも来た道なら雪に足跡なりなんなり残ってるか……どっちにしろもう分かんないけど。

 

「開き直るなって! ちょっ、もう交代……いや僕だって今更道分かんないや! 最悪だ!」

 

「じゃあ人の事言えないじゃんか」

 

「君が訳分かんない方向に走った所為だけどね?」

 

 それはそう。

 

 

「とりあえずなんとなくで進むしかないか……蜘蛛はどう?」

 

「まだ来てるけど、かなり距離は離せてる」

 

 ひとまず後ろの状況を確認してもらうと、そんな安堵の声が返ってきた。

 ロンの様子からして呪文も既に必要無いみたいだ。

 

 進行方向の問題はともかく、蜘蛛から逃げるという問題はなんとかなりそうで良かった。

 多分あとちょっとで完全に諦めてくれるだろう。

 

「なんとなくで進むなんて賛成したくないけど……なんにせよ安全な所まで行ってから考えよう」

 

「おっけー」

 

 果たしてこの森に安全な所があるのかは甚だ疑問だけど……まぁ一息付ければ良い。

 

 ていうか今思い出したけど、この車は飛べるんじゃ……もう壊れて無理かな?

 むしろ箒を呼び寄せればそれで終わりだった。

 

 色々振り切れてとことん馬鹿になってたな……

 でもまぁ、せっかくだからこのまま運転するか。ひゃっほー。

 

 

 

 

 

 

「あ! 待って、居た!」

 

 そのまま数分程も走った頃、ロンが慌てて声を上げた。

 

「え、蜘蛛!?」

 

「違うよハグリッド達だ! あっち!」

 

 まさかと思ってヒヤッとしたけど、幸いにも見つかったのはハグリッド達。良かった……

 もしかしたら車の意思で、少しずつ森の外に向かって修正してくれてたのかもしれない。

 

「あっちってどっち!? こっち!?」

 

「違っ、逆! 思った以上にポンコツだな君!?」

 

 とりあえず曲がってみたら怒られた。

 うるさいな……振り落としたろか。方向音痴に曖昧な指示をする方が悪い。

 

 右とか左とか言ってくれ。多分指差してくれてたんだろうけど、見てる余裕が無かったよ。

 この辺は特に鬱蒼としてるから運転に集中してたし……ていうか何処だって?

 

「え、本当に居た?」

 

 言われた方向に直したものの、私には見えないんだけど……木と草しか無いぞ。

 

「居るっていうか見えてるよ! なんで君は見えてな……あぁ、そっか……君の目線が低いから……」

 

「アグアメンティ」

 

「ぶわぁっ!? ちょっ、やめっ……ごめんって!」

 

 目線が低くて悪かったな。真冬にびしょ濡れになって凍えてろバーカ。

 

「あ、見えた! おーい!」

 

 真っすぐ茂みを突き抜けると、ようやく私にも皆が見える様になった。

 向こうもとっくに音で車に気付いてたんだろう、立ち止まって……なんか凄い驚いてる。

 私達が乗ってる事までは予想外だったっぽい。

 

 なんにせよ合流出来て良かった良かった。

 そろそろ止まろうか――

 

「って止まんないし!? ヤバイヤバイ、あーー!?」

 

 それなりの速度だった所為か、雪の上ですぐには止まれなかった。

 しかもそのまま大きめの段差に乗り上げてしまう。

 

 ドガンという音と共に車が跳ね上がる。

 シートベルトもせず、屋根も無い。つまり私達は勢い良く空中に舞った。

 

「「なんでー!? ぐへぇっ」」

 

 とは言え大した高さではないし、雪にダイブしたお陰で怪我は無い。

 そうか、この辺は少し雪が深かったからあんなに滑ったのか……

 

「……何に驚けば良いの?」

 

「無事に戻った事を喜んで」

 

 駆け寄ったハーマイオニーに溜息を吐かれた。

 車で戻ってきた事か、私が運転してた事か、吹っ飛んだ事か……ハチャメチャだな。

 

「全くお前さん達ときたら……あれ程離れちゃイカンと言うただろうが」

 

「「ごめんなさい……」」

 

 体を起こした私達に向き直って、ハグリッドがお説教をくれた。

 怒るという程じゃなく、心配と安堵の混ざった物だ。素直に申し訳無い……

 普段のやらかしはともかく、今回は純粋に私達が悪い。

 

「いやまぁ……分かるわよ。流石にアレは逃げるわ」

 

「そうだね……ハグリッドに押さえられなかったら僕も逃げてた」

 

 ハーマイオニーとハリーが理解を示してくれたのが唯一の救いか。

 どっちにしろ反省しなきゃいけないけど。

 

「この車が助けてくれたんだ。ありがとね」

 

「もう本当に終わったかと思ったよ」

 

 私とロンが車をペシペシ叩いて礼を伝えると、車は犬か何かの様にすり寄り身震いした。

 そしてゆっくりと私達の周りを走り、クラクションを鳴らして森の中へ消えて行った。

 

「ばいばーい!」

 

 思わず私は手を振って見送った。

 なんとも不思議な車だ。マジで何がどうなってあんな生き物らしくなっちゃったんだか……

 

「いやバイバイじゃなくて……帰しちゃっていいの?」

 

「あ」

 

 ハーマイオニーに言われて思い出した。

 罰則はあの車の調査だった。お母さん的にはただの理由付けで、森に入る事が罰だったみたいだけど。

 

「ありのままを伝えるしかないんじゃない?」

 

「捕まえろとは言ってなかったもんな」

 

 ハリーとロンは呑気だ。

 まぁそうするしかないし、それで充分だろう。

 

「ありゃもう生き物と同じ様なもんだし、害も無ぇだろう。なら俺は森の一員として迎えるまでだな」

 

 ハグリッドとしても森に不思議な生き物が増えた程度の認識みたいだ。

 

「じゃあもう帰ろ……疲れた」

 

「でしょうね」

 

「おう、これ以上は暗くて余計に危険だからな。報告は俺がするから、お前さん達はゆっくりするとええ」

 

 私が促すと、ハグリッドもそう言って先頭に立って歩き出した。

 

「僕も早く帰ってシャワー浴びたいよ……ぶえっくしょん!」

 

「……なんでロンはびしょ濡れなの?」

 

「さぁ?」

 

 私もシャワー浴びたいな……

 厚着して走り回ったから結構汗かいちゃったし。

 

 

 と、そんな感じで罰則は終了。

 帰り道は今度こそハグリッドから離れない様に、団子の様に皆で固まって歩いた。

 結局大騒ぎだったけど、怪我も無かったし良しとしよう。

 

 全く私達ときたら、賑やか過ぎる毎日なことで。

 でもなんだかんだそれが楽しいんだよね。こんな危険な目に遭ってるのに……

 私もすっかり魔法界に染まったなぁ……まいっか。

 

 

 ちなみに翌日、ロンは風邪をひいた。ごめん……





【禁じられた森】
ホグワーツの敷地の端にある森……と言われるが、実際には敷地内にあるのは極一部。かなり広大な深い深い森である。
名前の通り、生徒の立ち入りは禁じられている。
多種多様な危険生物が生息しており、学校外でも好んで入る人はあまり居ない。

闇の森とも呼ばれるくらいの場所ではあるが、小道や川があったりと場所によっては意外と悪くない……かもしれない。
入るなら箒で飛んで行くのが良いとされる。迷った時に飛んで解決出来るからだろうか。

森番はこの危険な森を管理するのが仕事らしいが、あまりに広いのでホグワーツ敷地内だけと考えて良いだろう。
ハグリッドやケトルバーン教授の様な変わり者が広範囲で活動する程度か。

どれ程の生物が居るのかは最早分からない。
アクロマンチュラはアラゴグの群れ以外にも居るかもしれないし、3巻のヒッポグリフは元からこの森に居たらしい。
セストラルも居るし、ユニコーンやケンタウルス、トロール、果ては人狼の子孫の群れが住み着いたり。
後々マンティコアも発見された。噂では1巻のケルベロスは森に放たれたとか……
そして車は後の時代にも森に居るらしい。



【アクロマンチュラ】
馬ほどの大きさで8つの目と8つの足を持ち、黒くて毛深く巨大な蜘蛛。
人肉を好み非常に危険だが、元は魔法使いが飼育し生み出したとされる。
そして彼らの持つ猛毒は高値で取引されている。

数百からなる大きな集団で暮らし、最年長の雄と雌に服従する。
アラゴグがハグリッドを友としていたお陰で、彼の支配する群れはハグリッドだけは襲わない。
ただしそれはあくまで群れの長に従っていただけで、アラゴグの死後は普通に襲ってくる。

中々に高度な知能を持ち、人の言葉を話す事が出来る。
人によって生み出された生物だからこそなのかもしれない。



【アラーニア・エグズメイ「Arania Exumai」】
蜘蛛を撃退する呪文。原作では登場しない。
映画版にてアクロマンチュラに襲われた際にハリーが使用した。
リドルの日記の中でこの呪文を見て覚えたそうだ。

ただし2人の呪文は効果が違う。
リドルは他の呪文同様に単発の閃光を放ち、避けられたものの石に大きな焦げ跡を残した。
ハリーは持続する光を放ち吹き飛ばした。

語源からすると追い払うという意味が強いので、ハリーの使った物が本来の効果かもしれない。
リドルは卓越した実力から退治する程の呪文になった……とか?

まぁぶっちゃけ映画2作目までは魔法の描写はかなり曖昧なので、あまり真面目に考える事では無いかもしれない。
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