ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

44 / 56
最後は駆け足になりましたが、とりあえず2年生編終了です。


第44話 2年目の終わり

 さてさて。時間はどんどん過ぎ去り、学年末となった。

 原作じゃ事件解決のお祝いで期末試験は流れたけど、そんな事になる筈も無く。

 しっかり真面目にテスト勉強をして臨んだ。

 

 その後は去年寝てる間に逃したクィデッチの最終戦。

 これもキッチリ勝利。優勝杯は頂いた。

 いくらでも語りたい所だけど、それだけでとっても長くなりそうだから止めておく。

 物凄い大騒ぎの宴会で、最高に楽しかったとだけ言っておこう。

 

 

 そうしてまた1年が終わる。

 振り返ってみれば、大変だったのは最初の数ヶ月だけかもしれない。

 事件が解決してからは本当にあっという間だった。

 

 今年、私は成長出来ただろうか。

 いや肉体的にはもう分かり切ってるから考えなくていい。考えたくない。

 重要なのは精神的な所だ。去年は確かな実感があったけど……

 

 まぁ色々と反省して学んだのは間違いない。

 そして多くの事が変化した。多分、良い方向に。

 

 うん、良い1年だったんじゃないかな。そういう事にしよう。

 はい振り返り終了。

 

 

 

「え……僅差……?」

 

 そんでもって最終日。試験結果の確認だ。

 今年も私がトップでハーマイオニーが続く……けど、その差は僅か。マジかよ……

 

「うーん……かなり自信あったんだけど、やっぱりアリスには届かないわね」

 

 本人は悔しそうに、だけども満足そうに笑っている。

 いやいやいや……ちょっと待ってほしい。

 

「ちょっ……え? もうこんなに追い付かれてるの……?」

 

 私にとっては良い結果なんて出て当然の内容なのに。4年も先行して学んだからこれだけ優秀で居られてるのに。

 魔法界に来て2年の彼女がどうして私と僅差なんだ……私6年目だよ?

 ちょっと優秀過ぎやしませんかね。私がポンコツなだけ?

 

「調子が良かったのよ。それに去年と違って今年は勉強に集中出来たし」

 

「去年は集中出来てなかったのかよ……」

 

 苦笑いするハーマイオニーの後ろでロンがぼやく。

 言いたい事は分かるけどね。去年は色々と考える事が多かったもの。

 今年は早々に事件が解決したから、その分だけ一層勉強出来たんだろう。

 

 決闘クラブで学びつつ、日頃の予習復習を欠かさず、早くから試験に備えてた。

 流石としか言えないな……私じゃそこまでは出来ない。

 

「これは来年には越されるかな」

 

 私も苦笑するしかなかった。そうして全然気にしてない風を装った。

 悔しくなんかない……訳が無い。悔しい。

 

「僕達も結構頑張ったんだけど……全然だなぁ」

 

「この2人に比べて、だろ。去年より良いんだから良いんだよ」

 

 夏休みは本当に頑張ろう。宿題に鍛錬に動物もどき、閉心術。そんなんじゃ足りない。

 勉強そのものだってしっかりやらなきゃ。今まで以上に、出来る限りに。

 

 結果を見てわいわいと騒ぐ皆を横目に、私は拳を握って気合を入れた。

 

 

 

 

 

 

「お爺様ー」

 

 何はともあれ、見送りに行きたいと伝えに校長室に来た。

 皆は慌てて荷物を纏めている頃だろう。私は荷物なんてどうにでもなるから後回しだ。

 

「ふふ……いってらっしゃい。去年と同じ流れで良かろう?」

 

「あ、うん」

 

 入ってきた私を見て、お爺様は朗らかに笑った。

 どうやらとっくに予想されてたらしい。多分お母さんもそのつもりでいるだろう。

 

「精々楽しんでくるが良い。明日からはとことん厳しい日々が始まりますからな」

 

 そして何故か居るスネイプは意地悪そうに笑っている。同じ笑顔でこうも違うとは。

 

「の、望む所だし!」

 

「ほう。その意気込みが嘘にならない事を祈るとしよう」

 

 正直不安も大きいけど、気合を入れたばかりなのもあって私は前のめりに宣言した。

 しかし返って来るのは嫌味なセリフだけ。相変わらずなおっさんだ。

 

「あまり無理せず頑張るのじゃよ? わしも手を貸すが、何分忙しいでな……あまり見てやれぬ。動物もどきだけは確実に見るがの」

 

 片やお爺様は心配そうだ。詰め込み過ぎとは思ってくれてる……のかな。

 でももっともっと頑張らなきゃね。

 

「そんなに忙しいの?」

 

「分霊箱の破壊にどれ程の時間が掛かるか分からぬ。これから魔法省に出頭する男の対応もしたいしの」

 

 しかし多忙の理由は……と聞いてみると、予想外の言葉が出てきた。

 分霊箱については仕方ない。未来を知ってる私はともかく、お爺様からすれば実際に見なきゃ判断出来る筈が無い。

 けど後者は、つまりロックハートについてはなんだろう。

 

「対応って?」

 

「直接と言える程ではなくとも、教え子ではある。道を誤り、それを自ら打ち明けると言うのなら……多少の手は貸してやりたいのじゃ」

 

 なるほどね。自分から罪を明かす、なんて変化はお爺様の考えや行動にも影響したようだ。

 手を貸すってのが具体的にどんな事なのかは想像付かないけど。

 

「当人、その友人や家族、近くに住む者……記憶を奪われたのは果たしてどれだけの数になるか。最早彼自身でさえ把握しきれておらん筈じゃ。その証拠も無いとなれば、罪も罰もどれ程になるか分からぬ」

 

 確かにその通りだ。原作じゃ記憶を丸々失って病院送りで、罪がどうとかは完全に吹っ飛んでる。

 覚えの無い悪行について糾弾されるのは流石に可哀想、みたいな理由だった筈。

 本当にどうなるんだろう。こっちも全く想像付かないや。

 

「あまりに重過ぎれば、せっかくの更生もままならん。不当に軽くするつもりは毛頭無いが、新たな道が途絶えぬ様な落とし所を探るくらいはしてやりたい」

 

「そっか……」

 

 最悪アズカバン送り……そうなったらもう更生なんて出来ない。

 もしかしたら、彼自身そうなるかもしれないと覚悟してるから……だから裁かれて終わろうとしてたのかもしれない。

 なんだかそれは……嫌だな。

 

 お爺様もそんな感じの事を思ったから、出来る範囲で弁護的な事をしようとしてるっぽい。

 こればかりは祈ろう。彼がいつか新しい人生を歩めるように。

 

 

「それとは別に、新しい教授を見つけなければならんしの。全く、闇の魔術に対する防衛術は不人気での……募集が毎年大変なのじゃよ」

 

 若干しんみりした空気を変える様に、お爺様は今度は苦笑いで続けた。

 あー……そういう問題もあるのか。私は誰が教授になるか知ってるけども。 

 ていうかちゃんとルーピンに先生をやってもらわなきゃ駄目だよね。

 

「どうじゃ、セブルス。お主がやってみるか?」

 

「ご冗談を。何が起こるか分からぬ呪いなど、今はご遠慮させて頂きたいですな。興味は大いにありますがね」

 

 話を振られたスネイプはあっさり拒否。ていうか呪いの事知ってるんだね。

 あれ? 担当になりたいのは周知の事実の筈……なりたいけどなりたくない、が生徒達にズレて伝わってるだけかな。

 

 しかし流石のお爺様も冗談を言わなきゃやってられないみたいだ。毎年毎年苦労してるんだろうな……

 これは物語に沿う為にも、私から提案してみよう。その方がお爺様も楽が出来る。

 

「教授についてなら……真面目で能力があって、でも仕事を探してる人が居る筈だよ。来年度は同窓会だね」

 

「……ふむ、リーマスか」

 

 名前を出す前に察してくれた。

 ペティグリューの所在を知ったシリウスが脱獄、そこで同窓会となれば残るはルーピンしか居ないからね。

 

「どうせ未来で知っているのだろうが、奴の事情はどうするのだ。簡単な話ではないですぞ」

 

「魔法薬学に優れた人がここに居るじゃん」

 

 スネイプとしては納得の行く人選ではないらしい。

 まぁ確かに、普通なら厳しいだろう。狼人間を差別する気は一切無いけど、どうしたって職務を全うするのは難しいんだ。

 

 だけど原作通り解決策はある……と、失礼ながらスネイプを指差した。

 

「吾輩に脱狼薬を作れと? 毎月などそれこそ簡単な話ではない」

 

 こっちも言いたい事を理解してくれた。凄く不満顔。

 大変だろうけどやってもらわなきゃ困るのよ。お願い。

 

「苦労を掛けるのう、セブルス」

 

「…………気に食わん」

 

 どうやらお爺様の中ではもう決定事項になったらしい。

 長い間を置いてスネイプも溜息を吐いて受け入れた。私の知る未来ではそうしてる、と悟ったんだろう。

 

 

「待て、聞き流していたが同窓会だと? つまり奴らがホグワーツに集まると言う事か?」

 

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

 そしてハッとして私に向き直った。

 伝えてた気がしたけど、気の所為だったっぽい。大事な事を忘れてたか。

 

「言っておらん、馬鹿者」

 

 馬鹿じゃない。

 

「そろそろ簡単にでも何が起こるか教えてもらえんかの?」

 

「あー……順番に説明すると、ペティグリューは鼠の動物もどきなんだ。しかもロンのペットの、ね」

 

 お爺様にも促されたので、ひとまず簡単な説明だけでもしてしまおう。詳細は後から追加出来るし。

 なんとも可哀想な事に、ロンは小太りの汚いおっさんを可愛がっているのだ。心底同情する。

 

「それに気付いたシリウスがホグワーツまで来て、ルーピンとついでにそこの人も合わせて大騒ぎ……って感じ」

 

 気付いた理由までは説明しなくていいだろう。

 確かウィーズリー家がエジプト旅行に行った新聞を見たんだったか。

 

 ちなみにそこの人は凄い不機嫌な顔をしてる。

 彼らを思い出して嫌になってるんだろう。

 

「なんと……一体いつからあの家に……」

 

「えっと……10年以上前?」

 

 裏切って逃げた後、すぐにウィーズリー家に潜り込んだ筈。

 ある程度有力な魔法族の家に居れば魔法界の状況が逐一分かるだろう、みたいな感じだ。

 

「ただの鼠がそれ程長く生きる筈なかろう。何故気付かんのだ……」

 

「さぁ……?」

 

 それを聞いてスネイプが呆れて溜息を吐いた。私としても苦笑いしか出ない。

 鼠の寿命なんて精々が3年くらいだってのにね。

 特別凄い鼠だとでも思って可愛がってるのかもしれない。特別ヤバイおっさんだよ。

 

「しかしそれだけ身近に居ると知っていて今まで放置してきた……と言う事は、つまり奴の動きにも意味がある訳だな?」

 

 不機嫌だったり呆れたりと忙しいけど、スネイプはしっかり考えてくれたようだ。

 私が彼を放置していた意味を悟ってくれた。本当に、彼の動きで全てが変わってしまうだろう。

 

「追い詰められたアイツが逃げる事で、ヴォルデモート復活に繋がるの。それが最終的に勝利に繋がる……筈」

 

 複雑な理由だけど、復活させる儀式が重要なのだ。

 ハリーの血を使うからこその結末、そうでなければ恐らく負けになる。

 

「なるほど……確かに重要じゃな」

 

「みすみす逃せという事か……」

 

「とりあえず、あの鼠を見ても普段通りにね。あと……シリウスとかにはしばらく秘密のままがいいかも。追い詰められなきゃ逃げないと思うから」

 

 深く頷くお爺様と苦々しく拳を握るスネイプを見て、1つ忠告を。

 この重要な未来の情報を知った事で、2人の行動が物語から大きく変わってはどうしようもない。

 特にスネイプなんて、彼を前にしたら怒りを抑えられるか分からないもの。

 

 合わせてシリウスやルーピンにも情報を与えない方が良いかもしれない。

 最初から全て明かして協力体制を組めたら楽だけど、それはそれでどんな展開になるか分からない。

 

 物語では、怒りで暴走するシリウスが迫っていると感じて段々と追い詰められていく。

 そうして遂に殺されるとなった時にハリーが殺すのではなく償わせるんだと庇い、結果的に逃げる。

 それもまた後々に影響する行動だ。

 

 とは言え、今全ての流れや行動を決める必要も無い。その時その時、適宜適切な考えで動こう。

 

「あい分かった。わし達はあまり余計な事はせぬ方が良さそうじゃの」

 

 知っている未来を軸に、より良い方向へ動く。

 そう以前に話し合った通り、お爺様はもう一度深く頷いた。

 重要だからこそ何もしない。そういう事もあるのだ。

 

「うん、お願い……あっ! ごめんなさい、私もう行くね! まぁ、今年みたいに切羽詰まった危険な事件にはならないからさ。多分ね!」

 

「多分では困るのだがな」

 

 私もそれに頷きを返し、思った以上に時間を使ってしまった事に気付いて慌てて歩き出す。

 汽車の時間まではまだあるけど、流石に荷物を完全放置は出来ない。説明する時間はまた取れるし、ここは急がせてもらおう。

 

 独り言の様に漏れたスネイプの呆れ声を背に、私はさっさか部屋を出た。

 

 

 

 

「おや、校長室に居たのですか。探しましたよ」

 

「ロックハート先生」

 

 校長室から降りて来ると、ばったりロックハートが現れた。

 どうやら彼も用があって来たようだ。

 それ以前に私を探していたみたいだけど……なんだろう。

 

「もう先生ではないのですがね……ともかく、最後に会えて良かった。――これを」

 

 なんとなくスッキリした様に微笑み、彼は1冊の本を差し出す。

 受け取って眺めて見ると、知らない彼の著書だった。表紙には大きくサインが描かれている。

 

「愚かな魔法使い、ギルデロイ・ロックハート最後の本。そして最後のサインです。私の生涯を綴ったこの本は、明日の朝には出版されます」

 

 罪を打ち明けるのは魔法省にだけじゃないらしい。

 最後の著書として大勢が知る事になる訳か。人知れず消えるのではなく、騙して来たファン達全ての人へ明かす……と。

 世間が大騒ぎになる頃にはもう裁判中だろう。

 

「私を変えてくれた君に、これを贈りたかったのです。まぁ、邪魔なら燃やしてくれて構いませんがね」

 

「邪魔だなんてそんな……ちゃんと大切に持っておきますよ」

 

 相変わらず、私自身には彼を変えた実感は無いんだけどな……

 多分彼もそれは分かってるのかもしれない。余計な物を押し付けるつもりは無いからこそ、要らなければ処分して良いと言っているんだろう。

 

 でもそんな事をするつもりは無い。

 これは彼の覚悟の証、そして変化の証だ。大切に保存させてもらおう。

 

 サインなんて興味も無かったし、貰う気も全く無かった。

 だけど今だけは、この大きなサインがやけに嬉しく感じる。

 

「多くは語りません。私が勝手に君の影響を受けただけですから……これ以上伝える必要も無いでしょう。ですが――」

 

 彼はいつぞやの様に真面目な表情で語る。

 

「もう一度、礼だけは言わせてください。私は罪を明かし裁かれて終わるつもりでした。けれど、君の言葉で見つめ直す事が出来た。罰を受け、罪を償い、そうして出来る事ならこんな新しい人生を……と思えるようになった。ありがとうございます」

 

 やっぱり裁かれて終わりにしようとしていたようだ。

 アズカバンに送られてそのまま……とか、その覚悟をしていたんだろう。だけど新しい人生を歩む選択肢を見つけられたらしい。

 

 それが可能かどうかは分からないけど、私も出来るならそうなってほしいと思う。

 

「……こちらこそ。ありがとうございました。あなたはちゃんと、先生でしたよ」

 

「最高の見送りですね」

 

 なんにせよ、以前考えた通り、生徒として先生を見送ろう。

 まともになったのは学期後半からだったし、むしろ反面教師としての面が大きかったけど。

 私だって彼に影響を受けた所が無い訳じゃない。

 

 笑顔でそう伝えると、彼は過去最高に眩しく笑って返してくれた。

 

「また会う事があるかも分かりませんが……さようなら、ロックハート先生」

 

「ええ……さようなら」

 

 何処かしんみりとした空気の中、惜しい気持ちを感じながら、お互いに別れを告げた。

 お互いの人生に大きな意味のある存在になれた。それは間違い無く素晴らしい事だろう。

 そうやって出逢って別れる。きっとそれが人生そのものだ。

 

 

 

 

 

 

 汽車に乗り込んだ後、なんとなくで受け取った本を読んでいた。

 後回しにして今は皆と過ごすべきとも思ったけど、気になって仕方ないからちょっとだけ……

 

「アリス、それ何の本?」

 

「ロックハート最後の著書だってさ。生涯を綴った罪の証」

 

 目敏く気付いたハーマイオニーが訊ねてくる。

 さらりと答えてあげると目を丸くして驚いた。

 

 彼が何をしたのかは予想出来ていたとは言え、こんな本を出すとは思いもしなかっただろう。

 

「なんだそれ……ていうか罪って、案の定アイツやらかしてたんだな」

 

「そんな本を出すって事は、もしかしてロックハートは自首するの?」

 

 横で聞いていたロンとハリーも驚いて反応している。

 ロックハートを嫌っていた彼らだって、まともになった頃にはもう何も言っていなかった。

 実際どう感じていたのか、話してみるのも面白いかもしれないな。

 

「うん。これは明日から売られるみたいだけど、彼は多分今日にでも魔法省に出頭するよ。世界中で記憶を奪って、それを著書にしてきたって自ら明かすんだ」

 

「そう……でもどうしてアリスがそんな話と本を……」

 

 そりゃあ皆からすれば気になる事だろう。

 私が詳細を知っている、どころかまだ世に出ていない著書を手にしている。

 明らかに何かがあったと誰にだって分かる。でも……

 

「内緒っ」

 

 簡単な事情だけは教えるけれど、これ以上は語らない。

 理由は自分でも具体的には分からない。

 

 私はただ、クスリと笑って誤魔化した。

 笑えた理由も、やっぱり分からなかった。

 

 

「まぁそれならそれでいいけど……汽車に揺られながら読書は止めたら? すぐに酔っちゃうわよ」

 

 そんな私を見て、ハーマイオニーは大人しく引き下がってくれた。

 ついでに読書好きな彼女からの忠告も頂いた。

 

「……もうちょっと早く言ってほしかったかも」

 

 言われて自分が酔い始めてるんだと気付いた。

 なんだかぐわんぐわんしてる。読むのに集中してて分からなかったのか……

 

 気付いたらもう駄目だ。気持ち悪い……うっぷ……

 

「あ、駄目だこれ……トイレ行ってくる……」

 

「君、吐くの好きだな」

 

 のそりと立ち上がって口元を押さえる私を見て、ロンが呆れていた。

 嫌いだよ。馬鹿。

 

 そんな状態でも、本は丁寧にバッグへしまった。

 その本……『私は私』の表紙に映る彼も、なんだか呆れてる様に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。ギルデロイ・ロックハートに関わる長い長い裁判があった。

 証拠は無く、具体的な被害者の詳細も不明。そもそもの調査からして難航を極めた。

 

 そうして下された判決は……魔法界からの追放。

 杖を折られ、今後彼から魔法界に関わる事は禁止された。

 

 本人に強い更生の意思がある事。その本人が魔法を捨てる事を望んだ事。ダンブルドアがその背を押した事。

 そして彼の著書等に関わる売上の全てが魔法省に流れる様、権利の譲渡がされた事。

 そういった事情から、本来アズカバン送りだった所から追放という形に落ち着いた。

 

 数年、もしくは十数年は定期的な監視や査察がされ、マグルとして一生を生きていく事になる。

 その為の根回しなんかは魔法省が魔法でどうにかするらしい。

 

 杖を折られるどころか追放……それはやっぱり、魔法使いとしては重い物だ。

 世間は大騒ぎで非難の声も凄かったものの、最終的に大半の人はそれで納得していた。

 時が経つにつれ、そんな彼の存在さえ人々の記憶から薄れていった。

 

 だけど私は決して忘れない。

 どうであれ罪を償った後に新しい人生を歩めるならそれで良い、と密かに少しだけ応援し続けた。

 

 

 

 

 それから遠くない未来の事。

 マグル界にとある俳優が現れた。

 

 図抜けた演技力、整った容姿、優れた話術、言語力、そして何でも出来るという人気者。

 ちょっとナルシストだけど、唐突にデビューした新人だけど、あっという間に頭角を現し注目の的となった。

 

 それ以前に何処で何をしていたのかは一切が謎に包まれている。

 どうやって繋がりを得て台頭したのかは分からないけれど、登り詰めたのは本人の実力だった。

 イギリス国内に留まらず、これからは世界に羽ばたくかもしれない。

 

 

 ……なんだそれは。

 新しい人生を応援したけれど、そんなに順風満帆に行くとは思わなかった。

 あの野郎……やっぱり妬ましい。





【私は私】
本来なら記憶を失った後に執筆された「私は誰?」をオマージュ。
自ら愚かと称する彼の人生を、ユーモアを交えて綴ったエッセイ的作品。

誰かと比較する事や、劣等感、そういった誰もが感じ得る物が主軸となっており、地味に長年読まれる事になる……とか。

最後の方で登場する少女について一部で考察がされたらしい。
当時のホグワーツ生の大半は気付いた。
当人は本を投げた。



【狼人間】
人狼。ウェアウルフやライカンスロープとも。満月が昇ると狼に変身する。
映画では怪物感を強調した恐ろしい外見になっているが、設定では普通の狼と殆ど区別が付かないとされている。
精々、鼻が多少短く人間っぽい眼をしているくらい。それらや異常な狂暴性等で判断するようだ。

ルーピンの変身時、後ろ足で立つという描写が原作にあるが、やはり設定としてはそんな事は無い。
他にも齟齬があり、変身した状態のシリウスに対し普通に襲い掛かったり(人間が目の前に居たからかもしれない)
そこで顔等に呪われた傷を受けまくったシリウスに傷跡が残らなかったり(変身状態で負った傷が人間状態にどう反映されるのか複雑だったのかもしれない)

3巻執筆当時は設定が固まっていなかったのだろうか。


種族ではなく病の様な物で、変身した狼人間の唾液が血に混ざる事で発症する。噛まれると……というのはそういう理由。
噛まれた怪我の程度次第でそのまま死亡してしまう事もあるが、銀とディタニ―(強い治癒力のある魔法の薬草。生で食べても多少の傷が治る)を混ぜた物を傷口に塗る事で生き延びられる。
しかし狼人間として生きていくより死を懇願する者も居る。

ちなみに人間状態のまま噛まれた場合、被害者は発症せずとも生肉を好む様になったりする。
狼人間から受けた傷は呪われていて治せない、というのは変身しているかどうかは関係無い。が、上記の処置だけは別なのかもしれない。


彼らは滅多に子を残さないらしい。これはルーピンの様に、病が受け継がれてしまう事を極端に恐れているからと思われる。
例が少ない為、具体的にどうなるのか、男女で変わるのか、狼人間同士なら、等の詳細は分からない。
しかし変身中の狼人間同士の交尾で生まれるのは完全な狼らしい。それも人間の様な知能を持った美しい狼であるとか。


満月の前後は体調が悪くなる。変身時は激しい苦痛を伴い、自我を失い制御不能で危険な状態となる。
人間を標的にするが、他の生物には危険を及ぼさない。なので彼らは誰も居ない所で変身して孤独と苦痛に耐えるが、対象が居ない所為か自らを傷付けて暴れる場合があるそうだ。
ルーピンが傷だらけなのはそれが理由であり、だからこそジェームズ達は動物もどきを習得し寄り添った。

魔法界では彼らに対する偏見や差別は非常に強く、社会から疎外されている。
そしてアンブリッジが制定した反狼人間法の所為でまともな職に就く事さえ出来ず、貧困と差別と苦痛に晒される。

そうした憎しみを募らせ、ヴォルデモートに与する者も多い。
第一次魔法戦争時、ルーピンはそうした狼人間達の下へ頻繁に潜入していた。
ポッター家襲撃の際もそうした遠方且つ単独の任務に就いていた為、全てが終わってから知る事となった。

物語終了後には改善に向かうが、それはルーピンに狼人間で初の勲一等マーリン勲章が授与されたという事が大きい。
勿論、彼を見てきたハリー達の尽力もある。彼自身は死亡したが、その人生は魔法界に多大な影響を与えた。



【脱狼薬】
狼人間の症状を緩和する魔法薬。
主成分は、初回の魔法薬学で問題に出されたウルフスベーン(トリカブト)である。

この薬は満月の一週間前から毎日飲まなければならない。1日でも飲み忘れると効果は発揮されない。
味が酷いらしいが、砂糖を入れると効果が消えてしまう。
まぁ色々な物を複雑に混ぜて作る魔法薬に余計な物を入れたら、そりゃそうだろうと思うが。

きっちり飲んでいれば狼に変身しても自我を保ち、他人を傷付ける事が無くなる。
ただの無害な狼になって眠り、満月が過ぎるのを待つ事が出来る。
しかし満月の前後で体調を崩すのは変わらないようだ。

作成は非常に難しく、ルーピン曰くこれを作れる魔法使いはそうそう居ないとのこと。
更に材料そのものからして非常に高価。つまり完成品の価格も相応の物になってしまう上、毎月7つ必要になる。
そもそも作中でも最近発明されたと明言しており、希少性までも高いと思われる。

つまり安定した職に就く事がそもそも難しい狼人間にとっては、喉から出した手が届かない場合が殆どである。
だからこそ、薬の為の犯罪も発生してしまうようだ。

ルーピンは魔法薬学が得意ではないそうで、スネイプが調合してくれる事に心底感謝していた。
まともな職に就き、唯一の希望とまで言う貴重な薬を無償で与えられ、ホグワーツの生活は彼にとって最高に素晴らしい物だっただろう。
そこにシリウスが無罪だったやら逃亡やら……そういった諸々が気に食わなかったからスネイプは「ついうっかり」してしまったのかもしれない。



【異形戻しの術】
ホモルファス・チャーム。狼人間の変身を一時的に解除する事が可能。
ロックハートが授業で著書のシーンを再現している時に登場した。
彼の誇張された嘘ではなく、本当にそういう呪文である。
とある村を襲った狼人間をそうやって鎮め事件を解決した……人の逸話を奪った。

この著書を参考に、実際に呪文を使って事態に対処する人も居たようだ。
なんだかんだ影響力は凄い男である。


もしかしたら動物もどきを解除する呪文もこれなのかもしれない。
しかしそうなると、ペティグリューの変身を解除したシリウスがルーピンに使わなかったのはおかしい話になってしまう。
非常に難しいとされているので長いアズカバン生活後の弱った彼1人では不可能だった、もしくは狼人間に対しては一層難しい……とか?



【『闇の魔術に対する防衛術』に纏わる呪い】
正式名称は不明。端的に言えば「闇の魔術に対する防衛術の担当教師は1年以上就任する事が出来ない」という呪い。
ヴォルデモートが嫌がらせの様に掛けた面倒臭い傍迷惑な呪いである。実は映画では全く触れられない。

以下、そうなった経緯。
ホグワーツを卒業したリドルはこの科目の教師になろうとしたが、18歳では若過ぎるので数年後にまた応募しろと当時の校長に断られた。
それから20年程も経った頃。彼は新校長のダンブルドアに教職を求めたが、既に邪悪さは察せられていたのでアッサリ断られた。
とは言えダンブルドアに断られるのは彼も分かっていたと思われ、そもそも分霊箱を隠す為にホグワーツを訪れる口実でしかなかった。
にも関わらず、断られた腹癒せに呪いを掛けていった。

全くもって困った奴である。
しかもダンブルドアでさえ解除出来ない程に強力なのだから厄介。
遠回り過ぎるが、イギリス魔法使いがまともに防衛術を学べなくする事で自分に対抗出来る者が少なくなるようにしたかったのかもしれない。


この呪いはあくまで防衛術の担当が1年以上続かないというだけである。
続けられない理由は様々。別に重症や死亡が理由とは限らない。
なんならスネイプは立場が変わるだけで学校には残っていた。

計算上27人程がこの呪いの被害に遭った事になるが、その殆どは辞職らしい。(精神的に追い詰められたりと平穏無事ではないが)
分かっている範囲の死者はクィレルとクラウチJrのみ。ロックハートの深刻な記憶喪失もある意味死かもしれない。
成り代わられたムーディも言ってしまえば呪いの被害者……なのか?
担当して数年後に死亡するルーピンとスネイプをカウントするのは微妙な所。


なんにせよ何かしら嫌な思いをして自ら去っていくのが大半という事で、この仕事は大層不人気となっている。
ダンブルドアは雇用の為に散々頭を悩ませた事だろう。
違う教科を新しく作るという単純な対策を取らない辺り、複雑な呪いなのかもしれない。

ヴォルデモートの死後は呪いが解けたのでもう安心。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。