ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

45 / 56
アズカバンの囚人
第45話 過酷な夏休み


 夏休み。それは名前の通り休みの筈だ。

 宿題を進めつつ、気ままにやりたい事をやり、遊び、新学期に備える。そんな約2ヶ月もの休日。

 

 実際ハーマイオニーはフランスへ、ロンはエジプトへ家族旅行へ行っている。

 ハリーは……まぁ、うん。

 

 私はと言うと、予定通り厳しく大変な事になった。

 

 やはり動物もどき習得の工程が一番の苦難だ。

 葉っぱを口に含み続けての生活はストレスが半端ない。一体何度失敗しそうになったか。

 食事もまともに摂れず、決闘や呪文の修練も無言が前提になり難しい。

 しかも去年までとは違って、スネイプとお爺様に加えてお母さんまでガチ指導をしてくれている。

 

 単純な呪文の扱いから、より実践的な戦い方。その為の知識と経験。

 どれだけやっても大人達に追いつける気がしない。道は険しく遠いと思い知った。まぁ、3人とも上澄み中の上澄みなんだけれども。

 

 一応1ヶ月でその厄介な工程は終わったけれど、満月が曇りそうで滅茶苦茶焦った。曇ったら台無し、やり直しなのだ。

 そして次の段階となったなら、今度は日の出と日の入りに呪文を唱える事になる。つまり夜明け前の起床だ。辛い。

 

 その上で宿題は勿論、一層勉強に取り組む。頑張って夜遅くまで机に噛り付く日々だ。

 ハーマイオニーと比べて純粋に劣る私に出来るのは、とにかく時間を掛け量をこなす事。

 そもそも根本的に勉強は苦手だし嫌いだ。ほんと辛い。

 

 閉心術に関してはそれこそ動物もどきと殆ど同じくらい大変だ。

 私の持つ情報は万が一にも敵に渡してはならないのだから、目指すべき水準は高い。

 

 というか、年頃の女の子の記憶をスネイプに覗かれたくはない。女の子には色んな秘密があるもんだ。恥ずかしいなんてもんじゃない。

 ついでに言えば内心で馬鹿にしたりしてるのを知られるのも恐ろしい。

 更に伝えていない未来の知識を読み取られたらどうなってしまうか……

 

 だからまぁ、そりゃあもうこれ以上無いくらいに全力で取り組んでいる。もー辛いったら。

 とは言え着実に鍛える為に手加減されてるし、充分な実力が付くのは相当先になるだろう。

 

 

 なんにせよ、どれもこれも一朝一夕でどうにかなるものではない。継続してこそだ。

 正直物凄く過酷だ。ただでさえ小柄だと言うのに、普通に体重が減っていく。

 だけど大事な事だから決して手は抜けない。抜きたくもない。

 

 無理をし過ぎるのも良くは無いと分かってはいる。分かっていても、走り出したら止まれない。

 止まれば一気に緩むだろうと確信出来る。自分の事だもの。

 

 とにかくやれ、やるんだ。頑張れ私!

 

 

 

 

 

 

 そんな辛く苦しい日々は過ぎ去り、夏休みも遂に終盤となった。

 そして最大の難関である動物もどきも習得は目前だ。

 

 最後の条件である雷雨が中々来なくてここまで引っ張ってしまったけれど、ようやく天気が荒れてくれた。

 

「準備はよろしいですね?」

 

「うん」

 

「臆せず飲むのじゃ。吐き出すでないぞ」

 

 土砂降りの中、人目に付かない丘の上で。完成した赤い魔法薬を持つ私をお爺様達が見守る。

 そうしてお母さんが1歩踏み出し杖を抜いた。万が一失敗した時の為に備えてくれてる……お爺様も同様だ。

 

「……アマト……アニモ……アニマト……アニメーガス……」

 

 杖を心臓に向け、毎日繰り返した呪文を一言一言ハッキリと唱える。

 これで最後の呪文なんだと、確実に成功させるんだと、決意を込めて。

 

 いつも通りに大きな鼓動が杖を伝わった。

 問題無し……さぁ、いくぞ。

 

「……っ」

 

 そして杖をしまい、魔法薬の小瓶を両手で持ち深呼吸。

 大雨の中だというのに、不思議とじっとり手に汗握る感覚が分かる。

 

 そんな緊張を振り切って、グイッとゴックン。クソ不味い。

 

 途端、体が焼ける様に感じた。

 内側から燃えていく様な……それでいて温かい様な……

 

 体が変わっていくのが分かる。感覚が塗り替わっていく。

 意識がグルグルと曖昧になり、途切れるかと思った瞬間――パッと弾けた。

 

「――――!」

 

 気付けば私は翼を大きく広げ、荒天の空に向けて雄叫びを上げていた。

 

 

「……成功じゃ」

 

 間を置いて、お爺様が静かにしみじみと言った。

 成功……成功した……? そっか……

 遅れて実感が湧いてくる。だけどなんだか冷静だ。これが変身特有の感情の抑制かな……

 

「不死鳥……そんな、こんな例は過去にありません。長い魔法界史上で初の……」

 

「わしも驚きじゃよ。魔法生物の動物もどき……興味が尽きんの」

 

 お母さんとお爺様の言葉もなんだか遠く感じる。

 

「ふ……てっきり失敗するかと思っていたのですがね。まぁ、達成出来た事は祝福しようではないか」

 

 あ、これはしっかり聞こえたぞ。なんだこのやろう。

 

「アリス、すぐにでも飛び立ちたいかもしれませんが……この天気です。慣れない内は危険でしょう。戻れますか?」

 

「まぁ戻れずともわしらが居る、安心せい。変身を繰り返して感覚を覚えると良い」

 

 スネイプをジトリと睨んでいると、変身を解除しろと声を掛けられた。

 いやいや……流石の私もいきなり飛んで行ったりはしないよ。多分。

 

 しかし解除か。どうやって……?

 ともかくやるだけやってみるか。

 お爺様達の助けもあるんだし。

 

「――!」

 

 そう考えて返事を1つ返しつつ、さっきの感覚を思い出しながら元の体をイメージした。

 するとまさしくその通りに感覚が巻き戻っていく。

 

「……戻れた」

 

 ポツンと立ち、ペタペタと体に触れて確認。

 改めて自分が変身していたんだと、更に深く実感する。

 

「やった……成功したよ!」

 

「ええ、ええ。分かっていますとも」

 

 さっきまでの冷静さは消えた。実感の後は達成感が爆発した。

 お母さん達に向き直り、満面の笑みで駆け出す……が。

 

「――あっ」

 

「アリス!?」

 

 気持ちに脚が追い付かず、もつれて転ぶ。

 地面に倒れる直前にお母さんに支えられた。

 

「あれ……」

 

「気が抜けたかの? 散々根を詰めておったんじゃ……ゆっくり休みなさい」

 

 体に全く力が入らない。お爺様の言う通り気が抜けてしまったようだ。

 動物もどきに限らず、とことん必死になって毎日を過ごした。その中で一番の困難を突破したから……

 

「あー……うん。えへへ……」

 

 加えて急激な身体の変化だ。こんな状態じゃ無理をすれば体調を崩してしまう。

 大人しくたっぷり休むとしよう。

 

 ふにゃりと答えつつ、頭に置かれた手の温かさを感じながら、私は目を閉じる事にした。

 

 

 

 

 

 翌朝――いやもうお昼だ。

 私が目を覚ますとお母さんが居た。きっとずっと診ていてくれたんだろう。

 

「起きましたか。ひとまず顔を洗ってらっしゃい」

 

「うん……」

 

 しょぼしょぼの目を擦りつつボケーっと歩き、顔を洗って覚醒。

 鏡に映る私は何処かスッキリしている様に見える。ここ最近はずっと張り詰めていたのに、一気に解放されたみたいだ。

 まだ残る夏休みは変わらず厳しい修練なんだけども、やっぱり無事習得出来た安堵は大きい。

 

 適当な服に着替えて戻ると、お母さんが簡単な朝……昼食を用意して待っていた。早……

 

「さて。食べながらで良いからお聞きなさい……」

 

 そして私を座らせながら口を開く。

 にこやかではあるけれど真面目な雰囲気だ。

 

「まず改めて、動物もどきの習得おめでとうございます。私達の補佐があったとは言え、その歳で成功してみせたのは大変素晴らしい事です。自信を持って誇りなさい」

 

 誇れと言いつつ、お母さん自身が誇らしげだ。

 守護霊の呪文の時と同じ。私がやり遂げた事を喜んでくれてるのが分かる。

 

「しかし同時に、未登録だという事も忘れてはなりません。決して魔法省に悟られない様、細心の注意を払いなさい」

 

「……今更だけど、未成年だから使った時点で分かっちゃうのかな?」

 

 絶対にバレてはいけない、というのは勿論理解してる。

 だけど考えてみれば未成年だと周囲で使われた魔法を探知されてしまう。そうなると実質使えない……本当に最後の切り札的な手段になるかもしれない。

 

「いえ……恐らくそれは問題無いでしょう。過去にも事情があって秘匿していた者は居ましたが、魔法省からの接触は無かった筈です。何故探知出来ないのか、詳細までは分かりませんが……」

 

 が、しかしその懸念はアッサリ払拭された。

 お母さんがそう言ってくれるなら信頼出来る。

 

 というかそうだよね。だってシリウス達は未成年時点から変身しまくってる訳だし。

 あくまで「人間の魔法使い」を対象にしていて、動物に変身した瞬間にもう対象外……とか?

 謎は謎だけど、問題無いなら一安心だ。

 

「だからと言って好き放題して良い訳ではありませんからね。あなたの変身は目立ちます……不死鳥というだけでも珍しいのに、本来金色の尾羽が白金色なのですから」

 

「え、そうだったんだ」

 

「動物もどきには変身前の身体的特徴等が現れます。なので、例えば飛ぶのに慣れたいからとそこらで変身してはなりません。まず箒で何処か人目の無い所に行きなさい」

 

 そして地味に驚きの事実。どうやら私は特に目立つ変身らしい。この髪かな……

 流石私だ、さぞ美しいだろう。うへへ。

 

 しかしそうとなれば確かにそこらを飛ぶだけで目を引く。尾の白い不死鳥なんてあっという間に噂になってしまうだろう。

 もっと言えば、一度知られた人には即座に見破られてしまうな……

 

 言われた通り、変身や飛行に慣れるのも手間を掛けた方が良さそうだ。

 合わせてホメナム・レベリオを習熟しよう。最低限、周辺の人間を探知してから変身という流れを徹底しなきゃ。

 

「そしてこれが最も重要な事ですが……魔法生物の動物もどきの例は過去にありません。つまり不死鳥の力が備わっているのか、追々調べていく必要があります」

 

 あぁ、そっか。魔法生物に変身出来たからと言って、その能力まで使えるかどうかは分からない。

 見た目だけという可能性だって充分ある。出来る事を把握しておかなきゃね。

 

 それにしても。自分が特別な存在だと自惚れるつもりは無い……けど、やっぱり普通ではないんだな。私は。

 特別感と言うよりも、むしろ疎外感……いや……なんだろう……言葉に出来ないモヤモヤを感じる。

 

「まぁ、蘇るかどうかの確認は絶対に出来ませんけれどね」

 

「そんなのしようとも思わないよ」

 

 でもそんなモヤモヤは多分、大した事じゃないだろう。

 微笑んで冗談を言うお母さんのお陰で簡単に吹き飛んだから。

 

 

「ともかく……もう夏休みもあと1週間、よく休む事を優先なさい」

 

 そこで真面目な話は終わったのか、お母さんは席を立ち私の隣へ。そのまま頭を撫でてくる。

 そうは言っても、まだ動物もどきの習得が終わっただけだ。

 

「うん……でも他の――」

 

「他の修練も終わりです。分かってはいましたが無理をさせ過ぎました……いえ、こちらの想定以上に頑張り過ぎていたと言いますか」

 

 しかしそんな言葉は遮られ、お母さんは屈んで目を合わせ一層優しく撫でてくれた。

 追加で勝手に勉強をハーマイオニー並みに詰め込んでたもんなぁ。他も一切妥協せずとことん必死だった。

 

「必死に取り組むあなたを止めようともせず、背を押し続けた事を申し訳なく思います。家族としてキチンと見定めなければならなかったのに……」

 

 成功した安堵で気が抜けただけとは言え、それで殆ど気絶に近い形で眠ってしまった。

 お母さん達が考えていた以上に、私は無理をしていた。それは事実だ。

 

 また心配を掛けた……謝らせる事じゃないのに。

 

「そんな……私からすれば感謝しかないよ。でもまぁ、それならしっかり休もうかな」

 

 こちらこそ申し訳ないと情けなく反省したものの、それを引き摺っても仕方ない。

 反省した上で切り替えなければ。

 

 だからこそ、感謝を伝え言われた通りに受け入れた。

 ゆっくり休みつつ、時々気分転換を兼ねて変身して飛んでみよう。 

 

「本当ですか? 何処かその辺りで飛び回っている姿が目に浮かびますよ?」

 

「…………いやぁ?」

 

 図星。だってせっかく変身出来る様になったんだし……そりゃ飛びたいよ。根本的に慣れたいし。

 

「……はぁ。あなたは言っても聞きませんからね」

 

 溜息。お母さんに呆れられてしまった。

 

「とにかく絶対に人目と危険を避けなさい。今のあなたならそこらの獣や魔法生物に遅れを取る事も無いでしょうが……油断してはいけませんよ」

 

「うん……ありがと」

 

 私の考える事なんて手に取る様に分かるんだろう。

 休む事だけをしろと強制はせず、やるならキッチリしろと忠告を頂いた。

 

 よく考えたらさっきも、変身するならまず箒で人目の無い所へ飛んでいけと言っていた。

 最初から織り込み済みじゃないか。全く、敵わない。

 本当に感謝しかないな。

 

「私達も流石に新学期の準備がありますからね。常に傍に居られるか――おや」

 

 続けてお母さんが口を開くと同時、窓に梟が降り立った。ヘドウィグだ。

 ハーマイオニーとロンは国外だから無理だけれど、少ないながらもハリーとは連絡を取っている。

 案の定、彼は彼で大変な夏休みになってしまい今は漏れ鍋で生活中だ。

 

「なになに……」

 

 お母さんから手紙を受け取り開く。

 旅行から帰って来る2人と合わせて最終日に会わないかとお誘いだ。

 どうせ新学期の買い出しに行かなきゃならないし快諾だね。

 

「お母さん、最終日にダイアゴン横丁に行ってくるね。ハーマイオニーとロンが帰って来るから」

 

「ええ、いってらっしゃいな」

 

 とりあえずで確認してみると、お母さんも快諾してくれた。

 よしよし、どうせなら変身して飛んで行ってみるのもアリかもしれないな。

 

「言っておきますけれど、暖炉で行くんですよ?」

 

「…………」

 

「目を見なさい」

 

 なんで分かるんだ……

 

「ロンドンでどうやって人目に付かずに降りるつもりですか。そもそもあなたの事ですから、見当違いの方向に飛んでいくだけでしょう」

 

「……はい」

 

 仰る通りです。考えてみればロンドンがここからどの方向か分かりません。

 なにもかも見事に看破され、私はしょんぼりと情けない声を返した。





【未成年の動物もどき】
あくまで考察の域を出ないが、未成年が動物もどきとして変身をしても魔法省にはバレない可能性が高い。

大前提として、魔法省は動物もどきを厳格に管理したがっている。つまり未成年魔法として探知したならほぼ確実に調査をする筈である。
ジェームズ、シリウス、ペティグリューが具体的に5年生の何時何処で習得したのかは不明だが、探知されたならその時点で発覚するだろう。

しかも忍びの地図を作る為だったり遊んだりと学校内外問わず好き放題動き回っている。
そして夏休み等だけは大人しく真面目に使用を控える……というのも正直疑わしい。

他にも原作外ではあるが、事情があって動物もどきを秘匿したいという生徒が過去に居り、マクゴナガルがそれを認め受け入れていた……らしい。
変身していたかどうかは不明だが。


バレないならそれはそれで何故なのか。
あくまで人間を対象にした探知であり、変身した瞬間にもう対象外になるのかもしれない。
動物もどきは単純な魔法ではないので、他の呪文の様には探知出来ないのかもしれない。

なんにせよ、逆に言えば未成年の変身を魔法省が把握出来るという説得力のある描写が無い。
という訳でここではバレない設定でいく。じゃないと習得させた意味が無いので。



ちなみに補足だが、アズカバンは別に終身刑という訳でも無いので未登録の動物もどきがバレてもある程度で出所となるらしい……が、その具体的な年数は不明。
決して短くはないようだが、なんにせよ心身共に擦り減るのは確実である。
受刑者が耐えられるかどうかは考えられていないかもしれない。

勿論、動物もどきだと分かっているのでその対策も取られる(シリウスが脱獄出来たのは把握されていなかったからである)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。