深くに埋まった親知らずが大きな神経に触れて炎症を起こして、顎から頭まで言い表せない程の激痛のまま年末年始を過ごし、治療後にはもう忙しくなってしまい気付けば前話から半月以上も……
クルーシオって多分あんな感じでしょうね。群発頭痛かと思いました。
まぁ言い訳はともかく。
どちらにせよ更新は遅いので今更な話です。
最後にちょっとだけハリー視点が入ります。
「さぁ急げ、早く来いや! 今日は良いもんがあるぞ! 凄い授業だぞ!」
授業に向かって外をてくてく歩いてると、ハグリッドの大声が響いた。
待ち切れないとばかりに生徒達を迎えに来たどころか急かしている。
流石に無視は出来ないので、生徒達は大人しく呼ばれるがまま集まって来た。
「皆来たか? よーし、付いて来いや!」
「張り切ってるなぁ……」
「まさか森に行くつもりじゃないよね……?」
ゾロゾロと集まる生徒を見て、気合を入れたハグリッドは声を張ってズンズンと歩いていく。
それにのんびりついていく中で、ロンとハリーは不安そうに呟いていた。
森か……無いと言い切れないのが怖い。
「さーて、イッチ番最初にやるこたぁ教科書を開くこった」
少し歩いて柵に囲まれた場所に来ると、ハグリッドは振り返って言った。
開くと言われても、あの怪物本の開き方なんて私達4人しか知らないだろう。生徒達は揃って困惑しかなかった。
ちなみに開き方を知ってはいても、私達は未だに実行はしていない。
だって普通に怖いし……縛り付けた状態でも暴れるんだぞ。大人しくさせられるからってわざわざ解いてあげる気にはなれない。
どれくらいの時間大人しくなってくれるかも分からないんだ、下手をすれば手を食い千切られるっての。
「どうやって?」
「あぁ?」
「どうやって開けば良いんです?」
困惑する生徒を代表してマルフォイが冷たく気取った様に訊ねた。
言い方はともかく、それは誰もが聞きたい事だ。生徒達は各々取り出した雁字搦めな本をどうしたもんかと眺めている。
「だ、誰も教科書を開けなんだのか?」
そんな皆を見てハグリッドは驚きガックリと項垂れた。
当たり前の事が出来なかったのか、とでも言いたげだ。なんか腹立つ。
「お前さん達、撫ぜりゃー良かったんだ」
そのまま近くにいたハーマイオニーの本を掴み、縛り付けられていたのを解放。
途端に噛みつこうと暴れたけど、ハグリッドは流れる様に背表紙を撫でて大人しくさせた。
「ああ、僕達ってなんて愚かだったんだろう! 撫ぜりゃー良かったんだ、どうして思い付かなかったのかねぇ!」
「お、俺はこいつらが愉快な奴らだと思ったんだが……」
それを見てマルフォイは鼻で笑い、嫌みったらしく言った。当然の事の様に言われて腹が立ったんだろう。
正直少しだけ分からないでもない。というか皆の反応も似たり寄ったりだ。
なんなら教わっても誰一人として教科書に手を出さない。
だからか、ハグリッドは自信を無くした様にしょんぼりした。
「恐ろしく愉快ですよ。全く、ユーモアたっぷりだ」
「黙れマルフォイ」
畳み掛けるマルフォイに対し、見かねたハリーが止めに入る……が、いつもより勢いが無かった。
「えーと、そんじゃ……えーと、教科書はある……そいで、こんだぁ魔法生物が必要だ。そんじゃあ俺が連れてくる、待っとれよ」
何を言うか忘れてしまったらしいハグリッドは、最初とは打って変わって静かに歩いて行った。
彼の気持ちは尊重したいし、最初の授業を成功させてあげたいとも思う。だけどちょっと擁護は難しい。
多分ハリーもそんな感じなんだろう。
「はぁ……あのウドの大木が教えるなんて、父上が知ったら卒倒なさるだろうな」
「黙れって言ってるんだ」
大股で去っていく大きな背中を見送って、マルフォイは盛大に溜息を吐いた。
相変わらず勢いの無いハリーも、庇う事までは出来ず止めるだけだ。
「フン……ポッター、気を付けろよ。吸魂鬼がお前のすぐ後ろに――」
今度はそんなハリーに矛先を変えたのか、マルフォイは例の冗談を言おうとして固まった。
視線の先、戻って来るハグリッドが連れているものを見て驚いたらしい。
「吸魂鬼じゃなくてヒッポグリフだね。凄い凄い!」
実際に見るのは初めてだけど、この群れは壮観だな。
とりあえずちょっとくらいは賑やかしをしてあげよう。
そう考えて、私は大袈裟に反応しつつ手を叩いた。
「どうだ、美しかろう! え? もうちっとこっちゃ来いや」
そのお陰かどうかは知らないけど、しょんぼりしていたハグリッドは多少気を取り直したらしい。
ヒッポグリフの群れが目の前に来れば流石に生徒達も真面目な顔で集まっていく。
「コイツらは誇り高い。すぐ怒るぞ。絶対、侮辱しちゃなんねぇ。そんな事をしたら、それがお前さんらの最期の仕業になるかもしんねぇぞ」
そのまま解説が始まった。
マルフォイとその取り巻き達は聞いちゃいないけど……困った奴らだ。
「まずコイツの前まで行ってお辞儀する。そんで待つんだ。お辞儀を返したら触っても良いっちゅうこった。もしお辞儀を返さなんだら素早く離れろ、コイツの鉤爪は痛いからな。そんで――」
しかし改めて聞いてるとアレだな……よくもまぁそんな危険な生物をいきなり連れてきたもんだ。
結局教科書は放置してるし。座学をやってからじゃないのか、こういうのは。
でも本より彼の知識と経験の方が余程学びになるのは間違いない。
あくまでハグリッドだからこそな面が大きいから簡単には真似出来ないけど、それでもやり方次第で素晴らしい授業になる筈だ。
それが出来るかどうかはともかく、ね……頑張れとしか言えない。
「よーし、誰が一番乗りだ?」
一通り話を終えると、ハグリッドは生徒達を見回した。しかし誰もが後退りして離れた。
散々危険な事を説明されて、誰がわざわざ近づくと言うのか。ていうかお手本見せろ。
そもそもヒッポグリフ達は鎖で繋がれているのが嫌なのか少し暴れてる。尚更近づきたくはない。
「誰も居らんのか……?」
またしてもしょぼん。
そんな縋る様に見回さなくても……
「……僕、やるよ」
「駄目よハリー、お茶の葉を忘れたの?」
そんな空気に耐え兼ね、ハリーが進み出た。本当に優しい事で。
それを聞いてラベンダー達が慌てて引き留めるが、占いの話なんて持ち出したら逆効果にしかならない。
ムキになったのか、恐る恐るだった脚はズンズンと進んだ。
「偉いぞハリー! そんじゃあバックビークとやってみよう」
お茶の葉なんて知ったこっちゃないハグリッドは大喜び。
鎖の1本を解き、バックビークという子だけを引き連れてきた。
「落ち着いて目を逸らすなよ、なるべく瞬きもするな。コイツらは目をしょぼしょぼさせる奴を信用せんからな」
言われた通りにするハリーを、私達は少し離れた位置で見守る。
興味深そうに、だけど怖くてこっちまで緊張して息を止める程に。
そしてお辞儀。まるで首を差し出す様な形だ、本人はさぞ怖いだろう。
ハリーが頭を下げて2秒、3秒……5秒、まだ動かない。おい大丈夫なのか?
そうして10秒近く経ってようやくバックビークが動いた。
前脚を折り頭を下げ、どう見てもお辞儀だと思われる格好をした。
「やったぞハリー! 触っても良いぞ、嘴を撫でてやれ、ほれ!」
するとハグリッドが大喜び。
ハリーはこれで終わりじゃないのかと言わんばかりに嫌そうな顔を一瞬だけ見せた。頑張れ。
しかし撫でてみればバックビークは気持ちよさそうに楽しそうに目を閉じた。
これには生徒達も揃って拍手。マルフォイ達だけは酷くがっかりしてるけど……なんにせよ私もホッとした。
「コイツはお前さんを背中に乗せてくれると思うぞ」
そのままハグリッドは凄い事を言い出す。
流石のハリーも、さっきは一瞬だった表情を隠す事も出来なかった。
それに気付かないのか、ハグリッドはハリーに乗り方を教え跨らせる。
ひたすらに困惑しているハリーに、今度は同情の視線が向けられた。うん、頑張れ。
「そーれ、行け!」
そして前触れもなくハグリッドはバックビークの尻を叩き、あっという間に飛んで行った。おい、せめてちゃんと掴まってる事を確認しろ。
箒に乗るのとは訳が違うんだぞ……ていうか実際どんな感じなんだろう。翼があるから難しい筈だ。鞍も無いし、小柄な私には無理だね。
上空を優雅に飛び回る彼らを、私達はただ眺めていた。
優雅に見えるけど、乗ってる側からすればグラグラと揺れまくって堪ったもんじゃないだろう。
きっとハリーは落ちないように必死にしがみ付いてるな。
しばらく飛び回ったバックビークが戻って来ると、生徒達は歓声を上げた。マルフォイ達だけは以下略。
いやはや、本当によくやったもんだよ。その優しさと度胸は素直に尊敬する。
「よく出来たなハリー! ――他にやってみたいモンは居るか?」
でもって背から降りたハリーの表情はなんと言うか……解き放たれていた。
相変わらずハグリッドは気付かないまま、他のヒッポグリフを鎖から放していく。
だけどハリーの頑張りのお陰で、生徒達は一気に緊張が無くなり安心したようだ。
各々が近くのヒッポグリフにお辞儀を試し始めた。
ロンとハーマイオニーも、ネビルだって挑戦している。
なんならマルフォイでさえちゃんとお辞儀をしていた。あれ……そうだったっけ?
一応は授業を聞いてたのか。大丈夫ならそれに越した事は無いんだけど……
「簡単じゃないか。ポッターに出来るんだ、全然危険なんかじゃないなぁお前?」
あえてハリーと同じバックビークに向かったんだろう。彼は嘴を撫でながらご満悦だ。
自分にも出来るんだぞ、とわざとらしく大きな声でアピールしてる。しかもヒッポグリフを下に見る様な尊大な態度だ。
ちょ……お辞儀を返してもらえたからってそれは……
「そうだろう? 醜いデカブツの野獣君」
そのまま彼はあろうことか、ペシペシと叩き侮辱の言葉を吐きつけた。
まずいっ――
「マルフォイ!」
「フォイ!?」
私が動くと同時に鉤爪が鈍く光った。
横から全力でタックルをぶちかまし……鮮血が舞い、生徒達の悲鳴が上がる。
「痛っ……」
どうやら位置とタイミングが良くなかったらしい。右腕を切り裂かれてしまった。
普通にお辞儀して撫でてるのを見て、少し反応が遅れたか。
杖を抜いて構えていればどうにでもなっただろうに。予想と違う流れだからって警戒を緩めてどうする。
相変わらず詰めが甘いな、私は……
「「アリス!?」」
近くで見ていたらしいハリー達が駆け付けてきた。
ハグリッドは暴れるバックビークを必死に押さえつけている。
そして当のマルフォイは……口をパクパクとさせ、何が起きたのか分かっていないようだ。
「大丈夫……そんなに深くないから……」
心配そうに慌てる皆に、私は強がって笑う。
痛いし出血も多いけど今までの怪我に比べれば軽い……いや、また医務室じゃないか。
ていうか事件そのものは回避出来てないじゃないか。
「あ……な……何やってるんだお前!?」
そこでようやくマルフォイも状況を理解したらしい。
本当に何やってるんでしょうね、私。
いや、冗談言ってる状況じゃないな。
ちゃんと意識を切り替えよう。
「それはこっちのセリフだよ。授業聞いてたなら分かるでしょ? 侮辱なんてして良いと思ったの?」
「だからってなんで――」
真面目に危険な事だからこそ、私は強めに怒った。
対する彼の表情はとことん複雑な物。
状況は理解出来ても、庇われた意味が理解出来ないんだろう。私が怪我を負ったのも合わせて余計に感情が滅茶苦茶になってるようだ。
「勘違いしないで。庇ったのはあんたの為じゃないし、怪我したのはやり方を間違えた私の所為」
だけどごちゃごちゃ言わせはしない。後に残したくもない。
だから私はハッキリと本心を伝えた。
「けどそれはそれとして、馬鹿な真似をした事はちゃんと反省して」
「それは……でも……クソッ、なんなんだ……なんで……」
この場でキッチリ始末をつけて終わり。それでいい……んだけど、マルフォイとしては全然納得いってないみたいだ。
ひたすら困惑し続けている。うーん……後に引き摺りたくないのに。
「反省するのはあなたもよ! どうしてこう無茶しかしない訳!?」
「あぅ」
と、そこでハーマイオニーのお叱りを受けてしまった。
本気で心配してくれてるのが分かるからこそ、何も言い返せない。
「大丈夫か!? あぁ、なんてこった……こりゃ急いで医務室に行かんと……」
次いでハグリッドが顔面蒼白で近づいて来た。
バックビークを落ち着かせるどころか、他のヒッポグリフ達も隅っこに移動させたらしい。仕事早いな……
しかし彼には悪い事をしたな。
「ごめんハグリッド……せっかくの初授業だったのに」
「お前さんが謝るこっちゃねぇ! とにかく医務室だ、ほら!」
「わっ」
その悲痛そうな顔を見て思わず謝ると、これまた必死な様子でヒョイと肩に担がれた。
ちょっ、お尻を支えるな、鷲掴むなコラ。
「悪いが授業は終わりだ! お前さん達は寮に戻っちょれ!」
そのまま彼は大股でドッスンドッスンと大急ぎで走っていく。
後ろで生徒達が心配と困惑でウロウロしているのを眺めつつ、私は肩の上で揺られながら運ばれて行った。
*
「こうも医務室が好きな生徒は居ませんよ?」
「いや好きって訳じゃないんですけど……」
とりあえずの治療を終えると、マダム・ポンフリーは大層呆れた声で言った。
皮肉を言われても仕方ないくらいに運ばれてるのだから、自分でさえも呆れる話だ。
私を運んだハグリッドは既に何処かに行ってしまった。
事の報告とかに行ったんだろうか。
もう他の授業も終わっている時間だし、お母さんとかお爺様に――
「怪我の具合はどうですか?」
「おや、お早い到着ですね。この子にしては珍しく重症ではありませんよ。1日もあれば綺麗に治ります」
と、そこまで考えた所で医務室の扉が開き、そのお母さんが足早に現れた。
そのまま止まる事無く、マダム・ポンフリーの説明を聞きながら近づいて来る。
「事情はハグリッドや生徒達から聞きました。全く……これで何度目の怪我ですか。叱るべきか褒めるべきか、困った子ですね」
そしてベッドに腰掛ける私の前まで来て、大きな溜息を吐いた。
あぁ……きっとまた心配を掛けたんだろう。
「どうせ怪我ばかりするのですから、もうここで生活すれば良いのではないですか?」
「ご、ごめんなさい……」
お母さんは私の腕に巻かれた包帯を見てそう言った。
どうやら叱る方を選んだらしい。チクチク言葉が深々と刺さる。
「しかしまぁ、友人を助けようと動いた事は褒めるべきなのでしょうね」
と思いきや、項垂れる私の頭を優しく撫でてくれた。
思わずふにゃりと顔を緩ませ、すぐに引き締める。
喜んでどうする。反省しなきゃ駄目だ。
「あー……ハグリッドはどう? 最初の授業でこんな事件になっちゃって……」
「そうですね……厳しい事は言いましたが、それを抜きにしても沈み込んでいました」
意識を切り替えて訊ねてみる。
お説教もした後らしいけど、やっぱりハグリッドは意気消沈してるようだ。
早々に治った腕を見せてやらなきゃなぁ……
ついでにその後の対応についても聞いておこうか。
マルフォイは怪我をしていないのだから原作程の問題にはなってない筈だ。
「理事の人達は何も言わないかな? バックビークを危険だって処分しようとしたりとか……」
「そこまでの大事では……あぁ、なるほど。そういう事ですか」
原因になったのがマルフォイであるという事は聞いているだろう。
その上で具体的な質問をしたからか、私が何をどうしたくて庇ったのか察したらしい。
お母さんは優し気に微笑んでくれた。
「ハグリッド自身には多少の処罰がされますが、大丈夫ですよ。あなたの危惧する様な事にはなりません」
よしよし、一応は未来を変えられたみたいで一安心だね。
言い方からして処罰とやらも大した物ではなさそうだ。
どっちにしろ意気消沈したハグリッドをどうにかしてあげないといけないけども。
「さて。怪我の具合も分かりましたし、私は戻ります。後はお願いしますね」
どうやら本当に怪我の確認だけに来てくれたらしい。
お母さんは安心した様に言って歩き出した。
「はいはい、しっかり見張っておきますとも」
いつの間にかベッドから離れて私達を眺めていたマダム・ポンフリーが入れ替わりで私の傍に立つ。
え、見張るって……?
「何を不思議そうな顔をしてるのですか。今日はこのまま安静になさい」
ポカンと見上げていると至極当然の事の様に言われた。
治療は終わったんだし、もう放っておけば治るんじゃなかったのか?
「腕の怪我くらいでそんな――」
「何か?」
「――なんでもないです」
抵抗しようにも圧が強過ぎて大人しく受け入れるしかなかった。
*
アリスは夕食になっても姿を見せなかった。なんならハグリッドも居なかった。
だから食事を終えた僕らは医務室に向かったんだけど――
「なんだって腕の怪我で面会謝絶になるんだ」
「それだけ酷い怪我……って訳じゃないよね。マダム・ポンフリーはそんな感じじゃなかったし」
医務室に入る前に見つかって追い返されてしまった。
ロンと一緒になって僕は首を傾げる。決して怪我が酷い様な態度では無かった。
むしろ説明するマダム・ポンフリーは溜息交じりだったくらいで……なんなんだろう。
「まぁ……アリスだからでしょうね」
「「なるほど」」
横から同じく溜息交じりに呟くハーマイオニーの言葉で、僕らは思わず納得してしまった。
だってアリスときたらこれまで何回医務室に運ばれたんだか分かりゃしない。
厳格なあの人なら、そりゃあいい加減にしろとベッドに縛り付けていてもおかしくはないだろう。
「しっかし、休み明けの初日にしちゃあ波乱に富んだ1日だよな」
「マルフォイの所為さ。あんな奴、怪我してまで庇わなくても良かったのに……」
寮へ戻ろうと廊下を歩く中、ロンが疲れた様に言った。
鬱陶しい揶揄いから始まり、鬱陶しい占いを聞いて、怖い思いをして空に連れ去られて、最後は流血沙汰だ。
どうしてこうも密度の濃いスタートになるのやら。
しかも半分くらいはマルフォイの所為だ。思い出すだけで腹が立つ。
「でも彼が怪我をしてたらとんでもない事になってたと思うわ」
「確かに。絶対に親まで引っ張り出して搔き回しただろうな」
あぁ、なるほど間違いない。
アリスが庇わなかったらどんな怪我になってたかは分からないけど、さぞかし騒ぎ立てるだろう。
なんだか去年のナメクジの時みたいだな。
結果的にアリスが被害を受ける事でどうにか収まってる。
そう考えるとちょっと可哀想だな……優しくしてあげよう。
「あれ……ハグリッドの小屋に明かりが見える」
歩きながらふと窓の外を見ると丁度ハグリッドの小屋が見えた。
夕食に来なかったから心配だ……どうしてるだろうか。
「この時間ならまだ会いに行けるかもしれないよ」
「え、それはどうなのかしら……」
そんな僕の考えを察したのか、ロンが良い提案をしてくれた。
外はもう真っ暗だけど、一応は校内だ。多分出歩いても大丈夫だろう。
しかしハーマイオニーは渋い表情で僕をチラリと見た。
どうって、どうもしないよ。
「僕、校内を歩くのは許されてるんだ。シリウス・ブラックはここじゃまだ吸魂鬼を出し抜いてないだろ」
心配してくれてるんだと分かってはいる。
だけど、今の僕にはそれを素直に受け止める事が出来なかった。
ついつい強めに言い返して足早に外へ向かう。
そんな僕の態度に、2人は何も言わなかった。
小屋に辿り着いてノックすると、中から呻く様な声が返ってきた。
扉を開けた瞬間、濃いお酒の匂いが鼻を突く。
「あぁ……初日っからこんな事件を起こすなんざ、先生失格だ」
ハグリッドはバケツみたいなジョッキを握って項垂れていた。
一応はこちらを向いてくれたけど、相当に深酒をしていて目の焦点さえ合っていない。
「アリスにゃ悪い事をした……俺の考えが甘かったんだ。校長やマクゴナガル先生にも、始めっから飛ばし過ぎだと……」
どうやらアリスが怪我を負った事で自分を責めまくってるらしい。
言い方からして、授業のやり方についてもお説教を食らったんだろう。
「ヒッポグリフはもっと後にするべきだった……レタス食い虫かなんかっから始めてりゃ……イッチ番最初の授業にはアイツが最高だと思ったんだがな……みんな俺が悪い……」
確かにやる気が空回りしてた感は否めない。
教科書も読んでないし、飛ばし過ぎてたのは同意したいくらいだ。僕は飛ばされたし。
だけど、だからってこんなに意気消沈しているのは見るに堪えない。
ハグリッドは本当に真剣に、最高の授業をしようと考えていたのは間違いない。
「違う、ハグリッドはちゃんと説明した。聞いてなかったマルフォイが悪いんだ」
何より、結果的には上手くいっていた。
マルフォイが余計な事をしなければ……多分……きっと。
そう、だから悪いのはマルフォイだ。
何もかもアイツの所為だ。そういう事にしよう。
「それにアリスだってハグリッドを恨んだりしないわ。怪我も大した事無いわよ……多分」
「そうそう、あんまり気にし過ぎたって仕方ないよ。授業自体はその……あー、結構良かったと思うし。反省してもっと上手くやれば良いじゃないか」
僕に合わせてハーマイオニーとロンも励ました。
なんだか微妙に励ましになってない気がしなくもないけど、とにかくこれから見返すくらい凄い授業をやればいいんだ。
勿論安全な授業で。それだけはお願い。
「なんにせよ飲み過ぎよ、もう」
上手い励ましが言えないからなのか、ハーマイオニーは無理矢理にジョッキを奪い取って窓からお酒を捨てた。
凄い雑……いや、実際飲み過ぎだし良いか。このままベロンベロンに酔ったままじゃ、反省も無く明日の授業を迎える事になる。
受けるのは僕達じゃないけど、それは駄目だろう。
「あぁ……あぁ、そうだな。ありがとう」
一応は僕達の想いが伝わってくれたらしい。
ハグリッドはフラフラと立ち上がり、水の入ったバケツに頭を突っ込んだ。
そしてびしょ濡れの長い髪と髭を犬の様に振り回してくれたお陰で、僕達も揃ってびしょ濡れにされた。
「ふぅ……さっぱりした。お前さん達の言う通り、落ち込んでるばかりじゃ――」
多少は酔いも冷めたのか、ハグリッドはさっきよりよっぽどハッキリした目で見回して……何故か驚いている。
もしかして今更誰が居るか気付いたの?
「って、お前さん達は一体何しちょる!? ハリー、暗くなってからウロウロしちゃいかん!」
そして唐突に物凄い大声を出すもんだから、僕達は揃って30センチも跳び上がった。
急にどうしたんだ、一体。何をそんなに……
「来るんだ! 俺が学校まで送っていく」
腕を掴まれ、僕は無理矢理に小屋から出された。
後ろからロンとハーマイオニーも慌てて付いて来る。
あぁ……そういう事か。
ハグリッドも、僕が狙われてるからって世話を焼くのか。満足に外を歩く事さえさせてくれないのか。
嬉しい事の筈なのに、僕は無性に腹が立ってしまった。
誰も彼も、ああだこうだと騒ぎ立てて気を遣って……僕はそんなに弱く見えるのか。護られるばかりの子供だ、って。
悔しい。僕はもう子供じゃないのに……
意外に感じるかもしれませんが、実は原作からしてマルフォイはバックビークを撫でる事までは出来ていました。
出来たからこそ調子に乗って侮辱した結果がアレです。
アズカバン編は主人公の内面を描けたら……と考えてはいますが、ついでにハリーも同じく描けたらなーなんて。
どれくらい深く描くかは未定ですが。
【レタス食い虫】
フロバーワーム。体長が約20センチもある、茶色の芋虫みたいなやつ。
体の前後に口があるらしいが歯は無い。名前の通り、レタスやキャベツを食べる草食性。
餌を与え過ぎると死んでしまう。
実は食用可能で、揚げた物がホグワーツの食事に出る事もあるそうだ。
ただし生徒からの評判は全くよろしくはない。
原作では自信を無くしたハグリッドがしばらくこの虫の世話をする授業をしていた。
やはり生徒からの評判は全くよろしくなかった。
この世で最も退屈な生き物の1つとまで言われる程だが、粘液は魔法薬の材料として重宝されているので全く価値が無いという訳ではない。