ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第53話 シリウス確保

 それから更に数日後。

 遂に私はクルックシャンクスとの密会に漕ぎ着けた。

 

 ハーマイオニーに無理を言って、ベッドに引き摺り込み寝たフリをし、深夜になってから抱きかかえて寮を抜け出す。

 吸魂鬼を警戒して杖を構えたまま移動しなければならないのが大変だった。だってこの子って本当に大きいんだもの。

 ついでにフィルチを避ける為に目くらまし術も併用しなきゃならないし。

 

 そうして外へ出てクルックシャンクスを降ろし、念入りにホメナム・レベリオで周囲に誰も居ない事を確認。しばらくぶりの変身をした。

 流石に目の前で私が不死鳥になれば頭の良い彼も驚いたようだ。数秒はポカンとしていた。

 だけども意思疎通を図ってみればちゃんと出来る。

 上手く言うのは難しいけれど、なんとなく伝えたい事が分かるとでも言うか……まぁそんな感じだ。

 

 あの鼠が私の様に変身している危険人物である事。

 しかし今は泳がせておきたいから手を出してはいけない事。

 ただしこちらから指示した場合はその通りにしてほしい事。

 

 それらを伝えると、渋々ながら納得してくれた……と思う。なんとなく。

 主の近くに危険人物が潜んでいるのは嫌なんだろうけど、とにかく必死に伝えたので分かってくれたと信じよう。

 そもそもこんな複雑な話が通じるんだろうか。いや考えても仕方ないか。通じた伝わった、よし。

 

 その後はさっさと寮に戻る……というのもちょっと勿体無いので、そのままお散歩になった。

 世間話的な何かをちょこちょことしながら、城の周りをぐるぐる。

 話してみて分かったけど、どうやら私の可愛がり方がちょっぴり鬱陶しいらしい。ショック……

 意思疎通が出来るというのは残酷な事だった。

 

 

 

 そうしてしばらく経った頃。

 クルックシャンクスを掴んで空のお散歩を試してみた所、下で何か黒い大きな物が動くのを見つけた。

 え、あれってまさか……シリウスってこの時点で学校の傍に来てたのか。

 

 ボケッと犬を眺めながら飛んでいるとクルックシャンクスが暴れ出した。

 あぁごめん、ずっと掴むのはやっぱり痛いか。はいはい今降りるから……いや待て降りたらシリウスが……あー……

 

 着地。

 犬、猫、鳥、3匹揃って顔を見合わせる。

 

 シリウスは意味が分からず驚き困惑。そりゃ不死鳥が猫を連れて飛んで来たらそうなる。

 クルックシャンクスは呑気に、コイツも人間じゃね? と私を見て首を傾げる。襲う気配は無いので怪しいとは感じてないようだ。

 そして私は頭を抱えそうになって、抱える手が無いと気付いてオロオロした。

 

 どうすんだよオイ。予定外にも程があるぞ。もう学校に居るとか知らない聞いてない。

 ていうかクルックシャンクスの反応で、私も動物もどきだと察してるんじゃ……

 いやそもそもシリウスの困惑が伝わるって事はつまり、動物もどき同士でも意思疎通が出来るという事だ。

 つまり私がどうしたもんかと慌ててるのも伝わってる訳で……あぁもう駄目だ。

 

 流れで行くしかない。どうにかしてやろう。

 この間約10秒。長ぇ。

 

「……こんな所で会うなんて思わなかったよ。シリウス・ブラック」

 

 ひとまず変身を解除して身なりを整えてから口を開いた。外に出るのを考えて薄着じゃなかったのは幸いだな。

 手遅れかもしれないけど、とりあえず余裕を見せておこう。そうだ、ルーピン先生同様にミステリアスな感じで対応しよう。

 

「……おかしいな。何故私がシリウス・ブラックだと分かった?」

 

 彼も変身を解除してくれたけど、物凄い警戒されてる。

 正体が知られていると分かり困惑は吹き飛んだらしい。

 低く威嚇する様な声だ。なんか普通に怖い。

 暗闇の中だから顔や恰好まではあまり見えない。痩せてボロボロの服だという事だけは分かるけど。

 

「私のあの姿を知る者は、極一部を除いて居ない。君は何者だ?」

 

「お散歩中のただのホグワーツ生だよ」

 

 今にも致命的な攻撃をしてきそうな気配。手負いの獣そのものだ。

 虚勢を張っておかなければとっくに組み敷かれているかもしれない。

 

「はっ……新入生の癖に動物もどきで深夜に抜け出すなんて悪い子だな」

 

「自分だって散々抜け出してた癖に」

 

 また新入生って……じゃなくて、それは一旦置いておこう。

 

「どうやらとことん詳しく話をしなきゃならないようだ」

 

「おっと。せっかく無実なのに、本当の犯罪者になるつもり? あ、脱獄した時点で犯罪か」

 

 私が軽く答えると1歩を踏み込んできた。

 同時に私も1歩下がって杖を抜き突き出す。

 明らかに私を攻撃するつもりだったな……マジで怖いんだけど。

 

「っ――一体何処まで知ってる!?」

 

「静かに。こんな夜中じゃ声が響くよ」

 

 シリウスは最早驚きどころか怒りをぶつける様に叫んだ。

 そういえば無実を知ってるのってペティグリューくらい……つまり裏切者と繋がってるって言ってる様なものだ。怒りは当然か。

 やらかした。ルーピン先生の時はこんな反応じゃなかったから……

 ミステリアスって難しい。

 

 ていうか本当に怖過ぎて虚勢を張るだけで精一杯だ。

 なんかもう殺気みたいなのを感じるんだけど。

 

 ひとまず警戒を解いて、落ち着いて会話が出来れば良いんだけど……難しいだろう。

 怒りや憎しみを抱えて決死の脱獄、そしてひたすら逃げ続けてきた人だ。精神状態は限界の筈。無駄に刺激し過ぎたな……

 

「そうだな……静かに君を制圧して連れ去るとしよう。話はそれからだっ」

 

「えっ、ちょ……」

 

 違う意味で彼は冷静に私を観察していたらしい。

 突き出していた杖を一瞬で逸らされ腕を掴まれ、そのまま押し倒された。

 

 虚勢を張るのに必死だったから反応が遅れた。

 なにより痩せていても体格が違い過ぎる。手足が長いってズルい。

 

 だけど舐めてもらっちゃ困る。私だって多少はそういう喧嘩も出来るんだ。

 

「や!」

 

「おごぁっ……!?」

 

「あ」

 

 膝で思いっきり腹を蹴り上げる……つもりだったのに股間に吸い込まれた。きっと体格差の所為だ、私は悪くない。

 むしろおっさんがか弱い少女を押し倒してるんだ、誰が見ても私が悪いとは言わないだろう。

 

 ちなみに脚にはクルックシャンクスが噛みついている。流石、良い子だ。

 

「ぐっ……良い、膝だ……クソッ……」

 

 シリウスは堪らず私を離し、股間を押さえて転がった。

 お褒め預かり光栄ですこと。ついでに礼もくれて良いぞ。

 指名手配に追加でロリコンの変質者になるところだったのを止めたんだからね。いやロリじゃねぇ。

 

 ていうか、近づいてやっと分かったけど……なんだこの姿は。

 まるで骸骨の様に痩せてズタボロ。肌は蝋の様で真っ黄色の歯。ボサボサどころじゃない髪と髭。

 異臭を纏っていて、死体と言われても納得だ。むしろそうとしか見えない。

 

 こんなになるまで……一体どれだけの……

 

「何をそんな顔をしている……君がやったんだぞ……」

 

 可哀想な物を見る目をしていたんだろう。勘違いしたシリウスの声で私はハッと意識を戻した。

 未だに股間を押さえているのは置いておこう。

 

 これはもう、原作からどうとか、利用するだとか、そんなのは関係無い。考えてる場合じゃない。

 そもそも考える頭が足りないんだからこれでいいんだ。

 

「……とりあえず冷静になって。ここじゃなんだし、変身して付いて来て。あなたを匿ってあげる」

 

 私はクルックシャンクスを抱き上げ、城を指差した。

 今まで機会が無かったけど、必要の部屋を使う時が来た。

 あそこで彼を匿っておこう。まずは療養だ。それからどうするかはお爺様達と相談出来る。

 

「匿うだと……? 初対面で怪しさ満点の子供をどう信用しろと言うんだ」

 

 とは言え、そんな事を急に言われてもシリウスとしては素直に頷ける筈も無い。

 脂汗を滲ませた険しい顔で見上げて吐き捨てた。

 

「無理だろうけど……ここで私を信用しないならあなたの目的は果たせない。ハリーをもう一目見る事さえ叶わない」

 

「本当に何処まで知ってるんだ、君は……クソッ、仕方ない。連れて行け」

 

 多少強引に、脅す様に言うと彼は渋々受け入れた。

 良かった、それくらいの判断はしてくれるか。じゃなきゃ気絶させて運ばなきゃならなかった。

 

「あぁ、いや……もう少し待ってくれ。歩けそうにない……」

 

「なんか……ごめんなさい」

 

 しかし立ち上がろうとして脚が崩れた。

 どうやら相当にクリーンヒットしたらしい。

 そこまでのダメージになると流石に罪悪感がある。私は悪くないけどね?

 

 

 

 

 

 その後。シリウス・ジュニアが回復するのを待って、目くらまし術でどうにかこうにか必要の部屋まで来た。

 クルックシャンクスはとりあえず寮の前で待っていてくれと伝えて別れた。あの子なら言われた通りにしてくれるだろう。

 

「なんだここは……ホグワーツにこんな部屋があったのか」

 

 ひとまず着替えがあって、寝室と浴室とトイレをキッチリ分けた普通の部屋にしておいた。

 勿論入室条件も厳しく設定。私――アリス・ダンブルドアだけが開く事の出来る部屋だ。これなら勝手な出入りは出来ない……筈。

 

 中に入ったシリウスは変身を解き、ガチャガチャと扉を開けて各部屋の中を確認しながらひたすら困惑している。

 ふふふ……学校中を調べ尽くしたと思ってる彼からすれば、ここの存在は信じられないだろうな。

 

「ここは必要の部屋。何が欲しいか思い描けば食べ物以外は大抵の物が揃う筈だけど……条件が変わると他の人に見つかるかもしれない。余計な事はせず、絶対にこの部屋から出ないで。食べ物は私が差し入れするから」

 

 彼なら勝手に部屋の仕組みに気付くかもしれないし、それで設定を変えられると困る。

 特に入室条件については変わった瞬間終わりと考えていい。

 だから先んじて説明した上で、しっかり忠告しておくべきだろう。

 

 食べ物だけはどうしようもないから私が運ぶ。

 厨房に行けば貰えるし、なによりホグワーツの屋敷しもべ妖精は私の世話に来てくれてたから顔見知りだ。

 

「まずはしばらくここで療養して。ちゃんと冷静になって、健康になって、それから話をしようか」

 

 なんにせよシリウスには休んでもらおう。

 暖かい部屋で、シャワーを浴びて、綺麗な服を着て、柔らかいベッドで寝て……ちゃんとした食事を摂って。

 見るに堪えない死体の様な姿から回復してほしい。

 

 そうすれば理性を取り戻して冷静になるだろうし、お爺様達との話も充分可能になるだろう。

 今はまだ手負いの獣……複雑な話をしていくには難しい。

 

「ここまで来て大人しく待てと……いや、分かった。君はとことん情報を持っている。何者かは分からないが、今は従うのが一番だろうな」

 

「そうしてくれると助かるな……じゃあ私はもう行くよ」

 

 案の定物凄く不満そうだけど、なんとか堪えてくれたようだ。

 じゃあこの場はこれで別れるとしよう。

 

 という事で、思い出した様に私はミステリアスな雰囲気で微笑みながら部屋を出た。

 特に意味は無いけどこのムーブはやっぱり良いな。ちょっと楽しい。

 

 

 

 

 

 

 翌日。夕食の前に適当な理由を付けて皆と別れた私は、厨房からたっぷりの食料を貰った。

 寮で友達と食べる、とこっちも適当な理由だ。

 

 運ぶのも問題は無い。ホグワーツ生のトランクは検知不可能拡大呪文が掛けられてるからね。

 念の為に本来の荷物はベッドにぶちまけてきたけど……多分後でハーマイオニーに散らかすなと怒られるだろうな。

 

 これだけあれば1日2日は保つだろうし、傷みそうな物から優先して食べてくれる筈だ。

 無くなったらまた適当な理由で貰ってくれば良い。

 

 でもそれをずっと続けるのも大変だ。変身させてペットとして何処かに置くか……?

 ペティグリューに見つからない場所となるとそれも難しそうだけど。

 

 ともかく。

 そんな事を考えながらコソコソと7階に向かい、そうして必要の部屋に入った私の第一声。

 

「わお」

 

 一瞬部屋を間違えたかと思った。

 なんだこの豪華な部屋は。何処の屋敷だ。

 

 綺麗な絨毯が敷かれ、立派なテーブルと椅子が置かれ、シャンデリアが輝く。何の為のリビングだ。

 シリウスが見当たらないので一旦食事をテーブルに置き、近くの扉を開けると……これまたデッカイ風呂。え、これ私が入りたい。

 

 どれもこれも、派手過ぎない程度に豪華で綺麗な物。使い道の分からない小物や装飾も無いお陰でスッキリしている様にも見える。

 普通にここで生活したいくらいだ。

 

「君か。やっと食事にありつける……腹が減って仕方ない」

 

 部屋を観察していると後ろから声を掛けられた。

 多分寝室にでも居たんだろう。

 

「ひぇっ!? 別人みたいになってる!?」

 

 振り返った私は思わず悲鳴を上げた。

 誰だこれ。当然骸骨の様に痩せたままではあるけれど、すっかり綺麗になり髪も髭も整えられている。若干顔色も良くなってるか。

 死体みたいだった昨日とはまるで違う。既にイケメンのオーラが出始めてる。

 

「ていうか何この部屋!」

 

「素晴らしい所だな、ここは。こんな部屋を学生時代に見つけていたらと思うと……」

 

「感想は聞いてないよ! なんで1日で住み慣れた感出せるの!?」

 

 言われて部屋を見渡したシリウスは、何故かしみじみとしながら呟いた。

 昨日初めて知った部屋を使いこなし過ぎだろう。ていうか弄るなって言ったじゃん!

 

「説明したのは君だろう。多少の贅沢くらい許せ。それに君が気にしていたのは入室条件の様な物だろう? それは変わっていない筈だ」

 

「したけども。こんなに順応するとは思わなかった……あ、コラ! 食べていいなんて言ってない! 待て! おすわり!」

 

 多少……? こんな部屋で何するんだ。

 しかし入室条件の事まで察してるとはね。ありがたいという事にしよう、もう。

 

 そしてシリウスは私が話してる間に勝手にテーブルの上の食べ物をつまみ始めた。

 言う事を聞けとは言わんから、せめて話を聞け。犬っころ。

 

「賑やかな子だな、君は。昨日はそんな感じじゃなかったが……」

 

「うぅ……せっかく格好付けたのにグダグダ……」

 

 賑やかにするつもりは全く無かったんですけどね。

 ていうかミステリアスムーブは成功してたんかい。私の虚勢というか演技は中々なようだ。

 それも完全に崩れちゃったけど。

 

「……面白い子だ」

 

 こっちは面白くないんだよ。

 ムシャムシャ食ってんじゃねぇ、止まれ。

 

「ところで、君の名は教えてくれないのか? 私だけ知られているというのは気に食わん」

 

 あっという間に一品片付けたシリウスは、テーブルに軽く腰掛けて真面目な空気を醸し出した。

 その癖、手は新しくチキンに伸びてムッシャムッシャ。

 自由か。あとせっかく椅子出したんなら使え。いいや、私が使ってやる。

 

「……アリス・ダンブルドア」

 

「なんだって?」

 

 無駄に立派な椅子を引いてドカッと座り、不機嫌を隠さずに自己紹介をしてやる。

 これには流石に食べるのも止まって、怪訝な表情でジッと見てきた。

 ダンブルドアの名を聞けばそりゃそうなるか。

 

「養子だよ。詳しい話は今度にしてね。色々繋がってて長いからさ……その時はお爺様達を連れて来るよ」

 

 だってその私があれだけの情報を持っているなら、お爺様もそうだと簡単に想像出来る。

 それはつまり、彼からすれば裏切りに等しい。

 あの人が事情を知っているなら、何故自分はこうなっているんだ……と。そう考えてもなんらおかしくない。

 

 だけどそれを今説明するのは難しい。私の事情も含め全てを話さなきゃならない。

 だから複雑な話なんだという事だけ伝えて、詳細は保留させてもらおう。

 

「……分かった、今は大人しく従うさ」

 

 チキンと一緒に言いたい事も飲み込み、シリウスは渋い表情で頷いた。

 良かった……ここで爆発されても困るからね。

 なんにせよ彼が心身ともに充分回復してからだ。

 

「しかし納得だ。1年生で動物もどきとはどんな天才だ、と――」

 

「3年生ですけど」

 

 あえて自分から話を変えたんだろう。シリウスはそう思い返す様に呟いた。

 気を遣ってくれたのは嬉しいけど、内容としては全く嬉しくないので怒りを隠さずに言葉を遮る。

 

 ルーピン先生に続いてどうしてこうも新入生扱いされるのか。

 いくら身長がそれくらいだからって……

 

「……? そういえば君はグリフィンドールだったんだな。私も昔は――」

 

「流すな! 知ってるわ!」

 

 しかし彼は、まるで意味が分からないとでも言わんばかりに首を捻った。

 そのまま話を続けようとする所を、今度はテーブルを叩いて止める。

 

「冗談だ」

 

「腹立つなぁ……」

 

 どうやら私はおちょくられているらしい。

 まぁ秘密だらけで話そうとしないんだ、敵意を向けられないだけマシと思おう。

 そうやって気を紛らわせてるのかもしれないしね。

 

「グリフィンドールで3年生ならハリーと同じか……」

 

「そうだよ、これでも仲は良いんだから。ちなみに鼠の飼い主も友達だね」

 

 話を続けようとするのも、気を紛らわせる面が大きいのかもしれない。

 今後は顔を見るついでにハリーの話をしてあげるのも良いかな。

 

「……一応確認しておくが、危険は無いんだな?」

 

 誰に何の危険が、なんて確認は要らないだろう。

 私が諸々を知った上でペティグリューを泳がせていると理解してくれてはいる……けど、不安は拭えないようだ。

 

「思い切った動きが出来る性格じゃないって事くらい分かってるでしょ」

 

「それはそうだが……」

 

 これも今はこんな事しか言えない。

 奴の性格はシリウスの方がよっぽど知ってる筈だ。何の後ろ盾も無しに動く事は無い。

 

「ま、とりあえず今はこんな所で切り上げさせてもらおうかな。私も夕食に行かなきゃだから」

 

 ひとまず今日はこれで戻るとしよう。

 夕食に遅れたくはないし、持ってきたのはシリウスの為の物だ。私が減らす訳にはいかない。

 

 そう言って私は椅子から立ち上がり扉へ向かって歩き出す。

 特に何も言ってこないから、彼も引き留めるつもりは無さそうだ。

 

「2日に1回は来るから……本当に大人しくしててよ?」

 

「分かったって」

 

 一応念押しはしておいたけどダルそうな返事だ。

 大丈夫かなぁ……もし外で黒い犬を見かけたらお仕置きしてやろう。

 

「それじゃ……あ、そうだ。今度あのお風呂入らせてね」

 

 そして扉を開ける直前に思い出した。

 今日は無理だけど、あの大きなお風呂は是非とも入ってみたい。せっかくあるんだからね。

 あれはこのまま維持してもらおう。

 

「……ほぼ初対面の男が居る部屋でそれはどうなんだ?」

 

 するとシリウスは呆れた顔で溜息を吐いた。

 むぅ……ルーピン先生の時と似た様な事をしてしまった。

 信頼出来る人だと一方的に知っているから、ついつい気を許してしまう。

 

 向こうからすれば理解出来ない振舞いでしかないだろう。

 まぁまぁ、これもミステリアスと言う事で……ね?

 

「いいじゃん。覗かないでよ?」

 

「安心しろ、私にロリコンの気は無い」

 

 そんな感じで開き直ってみたら素っ気無く返された。

 ロリじゃねーっての。ちくしょう。

 

「ぐぬぬ……」

 

 でもそれを声高に叫んでも惨めなだけだ。実際幼く見えるのは分かってるし……クソ。

 なので何も言い返さず部屋を出る事にした。悔しい。





【厨房】
ホグワーツの厨房は大広間の真下、ハッフルパフ寮の近くにある。絵画の中の梨を擽ると扉になって入る事が出来る。
大広間と同等の大きさがあり、テーブルも全く同じ位置に置かれている。
大広間とここのテーブルが魔法で繋がっているお陰で料理が一瞬で現れたり消えたりする。
壁の周りに調理場や道具、暖炉が並んでおり、廃棄場所もある。

屋敷しもべ妖精を虐待から守りつつ充分な労働に就かせる為にヘルガ・ハッフルパフが用意したらしい。
同時に多くのレシピを考案した。ハッフルパフ寮の近くにあるのもそれが理由だろう。

厨房だけで少なくとも100人の屋敷しもべ妖精が働いているそうだ。
そして彼らの住処もここにあり、樽を積み上げてそれぞれの部屋として使っている。
魔法で中を広くしているかもしれないが、中を見た者は居ない。

知ってる人は知ってる程度の場所で、知らない生徒の方が余程多い。
上記の事情からか、ハッフルパフ生に限っては知ってる人が多いとかなんとか?
過去には厨房でイベントを行う事もあったそうだ。

ジェームズは透明マントを被って食べ物を盗み、フレッドとジョージはどうやってか大量に貰ってきた。
とは言え、極普通に親切で礼儀正しくするなら、彼らは喜んで食べ物を分けてくれるらしい。

ホグワーツ・レガシーで細かく観察出来るが、ぶっちゃけ清潔感は全く無い。
まぁ時代が違うし、魔法界はわざと汚い面を見せる様な描写をするので気にしてはいけないかもしれない。
なんにせよ美味しいらしいから良しとしよう。調理場なんてそんなもんである。



【検知不可能拡大呪文】
カペイシャス・エクストレミス「Capacious Extremis」という呪文らしい。
物体の見た目を変える事無く内部を広げる高度な魔法。ついでに中身を軽くする効果もあり、どれだけ詰め込んでも関係無い。
検知不可能と言うだけあって、実際に中を確認しなければ魔法が掛かっているかどうかは分からないそうだ。

便利なんてもんじゃないが、私的利用はNGでこの魔法が掛けられた物品は魔法省の許可を得て作られている。
ホグワーツの生徒が使うトランクなんかもそうした品だとか。意外と身近で使ってた。

そんな訳で魔法省によって厳重に管理されている……筈なのに割と好き勝手に使われる。
マグルの手に渡ってしまった時が厄介だという理由で管理しようとしてるのだろう。実際そうなったら検知不可能故に本当に大変。


あくまで内部空間を広げるだけなのにも関わらず、明らかに入口のサイズが合わなくても物が入る。ハーマイオニーは小さなバッグに肖像画を入れてみせた。
その上、入れ物を振り回したりしても中は滅茶苦茶にならないっぽい?

トイレの個室サイズでも100人で生活出来るくらい広げられると言われている。
詰め込まれたまま入れ物が破壊された時にどうなるのか気になる所。

バッグ、トランク、車、家と様々な物に使われている。
便利さで言えばバッグは断トツだろう。広くすればする程取り出す時が大変そうだが、アクシオで召喚すれば良い。
ちなみに中身をたっぷり詰めた物を落とした場合は、相応に大きな音が鳴るらしい。音だけ。
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