ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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なんだか数週間前に、お気に入り件数が一気に伸びたみたいなんですが……何があったんですかね。
目標3000件って遠いなーって思ってたので、それを突破したのは嬉しい限りなんですけども。
更新止まってる間に何故……

ともあれ、とてもありがたいです。本当に。


第54話 作戦会議

 それから1ヶ月程経った。

 学校生活であった事と言えば、ボガート・スネイプの件が噂として本人に伝わった所為でネビルが可哀想な事になっているくらいだろうか。

 クィディッチはこれからだし……後はまぁ、魔法生物飼育学が大人しい授業になったな。つまらない授業とも言うけど、レタス食い虫の世話じゃないだけマシというもの。

 片やルーピン先生の授業はどんどん評価が高まっている。先生の人柄と能力のお陰だ。

 

 シリウスの事もお爺様達に報告済み。

 ただし今は酷く弱って理性的じゃないから、と引き合わせる事はしていない。

 まぁ、とっくに何の問題も無さそうではあるけど……たった1日でアレだったし。

 

 それでも私には表面的な部分しか見えないからね。

 念の為に時間を掛けた訳だ。

 

 

 そして今日も今日とて、必要の部屋に顔を出す。

 いい加減1人でこっそり動くのも限界だ。明らかにハリー達に怪しまれている。

 そういう意味でもそろそろかもしれない。

 

「あのさぁ……もうちょっと控えめになろうとか思わない?」

 

 部屋に入った私は溜息を吐きながら言った。

 今日のシリウスはソファに深く座って優雅に脚を組み、何かの本を読んでいる。そして傍らのテーブルにはお茶とおやつ。

 寛ぎ過ぎだろ。ここは談話室か?

 

「これ以上何を控えめにしろと言うんだ。1歩たりとも外に出ず、部屋で出来る事だけをしてるじゃないか」

 

 顔を上げた彼は怠そうに口を開いた。

 確かにそうだけども……必要の部屋が悪いな、これは。出来る事の幅が広過ぎる。

 あと私がおやつやら何やら持って来過ぎたかもしれない。

 

「軟禁生活を甘んじて受け入れているんだ。文句を言われる程じゃないと思うが?」

 

 これもまぁその通り。ここへ連れてきたのは私だし、少なくとも言われた通り部屋から出ない事は徹底してくれている。

 入室条件だって念の為に数日置きに確認がてら設定し直してるし。

 やってる事は問題無い……筈なんだけど。なんか納得いかない。

 

「最高の環境で匿ってもらってる立場でそんな尊大になれる?」

 

 私はズカズカと近づき、本とおやつを取り上げた。

 態度がなぁ……いや、復讐の為に来たのに閉じ込められてるという状況からすれば充分に大人しいけどね。

 

「礼が欲しいならいくらでも言ってやろう。実際、感謝はしている……これ以上無い程にな」

 

 ちょっと強めに言うと、シリウスは崩していた姿勢を直し真面目な表情に変わって返して来た。

 分かっててその振舞いかよ。ていうかその顔やめろ。

 

 もうすっかり綺麗に健康的になったお陰で、既にイケオジと化している。

 私じゃなければこの真剣な表情で落ちてるかもしれない。腹立たしいなコイツ。

 

「そろそろ進展が欲しいものだが……まだなのか?」

 

「明日の夜、お爺様達を連れてここに来ようかなって」

 

 ムスッとしている私を一切気にせず、シリウスはまた深くソファに沈み込みながら訊ねてきた。

 進展を考えてたのは私も同じだ。流石にもう大丈夫だろう。 

 

「そうか……リーマスとスネイプもか?」

 

「勿論。でも喧嘩は止めてね」

 

 なんだかすごく微妙そうな顔をしている。

 ルーピン先生に会える事と、スネイプに会ってしまう事が混ざったんだろう。

 ちなみに2人が教師としてここに居るという事を伝えた時の彼の反応は凄かったけど……それは置いておこう。

 

 なんにせよそこが不安なんだよね。スネイプと顔を合わせた瞬間喧嘩になりかねない。

 そうなれば話し合うどころじゃなくなってしまう。というか物凄く面倒臭い。

 

「善処しよう。君に免じて……な」

 

 一応注意をしてみた所、なんと善処してくれるらしい。どれくらいかは分からんけども。

 でもまたあの真面目な表情に変わったから嘘ではなさそうだ。

 ここはもう信じるしかないだろう。後はスネイプの方から喧嘩を売らない事を祈ろう。

 

 ……それにしても、2人が喧嘩する様な仲だと私が知っている事には驚かないのか。

 説明する手間が省けて楽だから良いけど。ちょっと反応が面白くない。

 

 

 しかしまぁ、こうして軽口を叩ける様な関係になれたのは幸いだ。

 この1ヶ月で随分と打ち解けられたと思う。主にハリーについてだけど、色んな話も出来た。

 最初はどうなるかと不安だったけど、良い感じじゃないかな。

 

 原作がどうとかそういうのは別として、さっさと収めてハリーに会わせてやりたいもんだ。

 その為にも、明日はたっぷり話し合うとしよう。

 

 

 

 

 

 

 でもって翌日。私、お爺様、お母さん、スネイプ、ルーピン先生の団体でゾロゾロと廊下を進む。

 夜じゃなければ何事かと思われるだろう。

 

 万が一にも人目に付かない為の夜だけど、だからってのんびりする意味も無い。

 なのでさっさと扉を開けて中へ入る事にする。

 

「……なんなのですか、この部屋は?」

 

「随分と良いご身分な様で」

 

 入った瞬間、お母さんとスネイプが若干呆れた様な声を漏らした。

 無駄に綺麗で豪華なリビングだからね。

 

 そしてお爺様は特に反応無し。だけどルーピン先生は……

 

「シリウス……」

 

 感極まった声でふらりと前へ出た。

 あの日、全てを失ってしまった彼の絶望はどれ程だったのか。

 それを思えばこの反応も当然だろう。

 

「リーマス……久しぶりだな」

 

 部屋に居たシリウスがこっちに歩いて来た。

 彼もまた、沢山の感情が籠った声だった。

 

 そのまま2人は抱き合った。

 兄弟の様に固く、強く。

 

「……なんだ、元気そうじゃないか。こんな健康的な脱獄囚は居ないぞ……」

 

「そこのお嬢さんのお陰さ……なんだかよく分からんが、私の心身の回復に尽くしてくれた」

 

 泣きそうな2人を見ているとこっちまでしんみりしてしまう。

 誤魔化そうと軽口を叩こうとしても、何も隠せていない。

 

 うん。やっぱり彼らに明かしたのは間違いじゃなかった。

 

「別に……尽くしてないし」

 

「ふふ……話したい事はいくらでもあるじゃろうが、今はこちらの話を進めさせてもらおうかの」

 

 私のお陰、とシリウスが本気で言っているのが気恥ずかしくなって、思わず否定してしまった。

 そんな私の頭を撫でながらお爺様が前へ出た。

 

「おお、そうじゃ。感動の再会と言うならセブルスもじゃろう?」

 

「「チッ!」」

 

 が、しかし楽しそうに余計な言葉を追加した。

 言われた瞬間、当の2人は物凄い顔で睨み合い舌打ち。

 わざと? お爺様それわざとやった?

 

「アリス、一緒にお茶を用意しましょうか」

 

「うん」

 

 喧嘩になりそうだと察したのか、お母さんが私を連れて離れた。

 素直に付いて行くとしよう。面倒臭い。

 だってもう後ろで言い合いが始まってるもの。

 喧嘩するなって言ったじゃん。善処するって言ったじゃん。

 

「食べる物も多少あるし、つまみながらにしようよ。ほら見て、ジェミニオ!」

 

 一旦後ろは見ないフリをして、私は最近習得した呪文をお披露目する事にした。

 杖を抜いて呪文を唱え、どうだ凄いだろうとドヤ顔でお母さんを見上げる。

 

「おや……いつの間にそんな呪文を。難しいのによく習得しましたね」

 

「えへへ。数日置きに多めの食事を貰い続けるのも悪いしおかしいからさ。貰うのは控えめにして増やしてたんだ」

 

 お母さんは純粋に驚いたらしい。柔らかく微笑んで褒めてくれた。

 難しかろうと必要だから頑張ったのだ。

 

 説明した通り、頻繁に大量の食事を貰うというのはおかしな話だ。

 屋敷しもべ妖精から話が広まる事は無いだろうけど、そもそも単純に迷惑になりかねない。彼らは喜んで差し出してくれるけど……甘えるばかりは違うだろう。

 だからこの双子の呪文で複製する事にした訳だ。逆にいくらでも増やせてしまうからこそ、シリウスに余計な贅沢をさせてしまった訳でもあるけど。

 

「その子には本当に世話になった。全く優秀な生徒だな」

 

 そんな贅沢を存分に味わったシリウスが、言い合いを止めてこっちの話に交ざって来た。

 照れくさいけど、これで喧嘩が落ち着いたなら良いとしよう。

 

「そうでしょうな。何処ぞの高慢な愚か者と比べれば優秀なのは違いない」

 

「そうだな。闇の魔術に頭からどっぷり浸かって溺れてた何処かの誰かと比べれば遥かに素晴らしい」

 

 いや、全然終わってなかった。

 なんなんだお前ら。何かにつけて貶さなきゃ気が済まないのか。

 ていうか当時のアンタらの方が優秀だろうに。

 

「……どうしてまた喧嘩になるんだ。頼むからいい加減我慢してくれないか? それに彼女が優秀なのは確かだけど、勝手に比較するもんじゃないよ」

 

 そこで呆れたルーピン先生が制止に入った。遅いよ。

 ていうかなんで私を引き合いに出すの……

 

「それも当然でしょう。私の娘ですからね」

 

「ほほほ……アリスはわしの娘なのを忘れておるのかの?」

 

 しかも何故かお母さんとお爺様まで参戦した。

 なんなのこれ。

 

「はぁ……もう私、お風呂入って来るから。話進めといてね」

 

 もう面倒臭いから逃げよう。ていうか無駄に褒められてムズムズする。痒い。

 私が居なくても出来る話は多いんだし、最近お気に入りのあのデカイ風呂でのんびり癒されてくるとしよう。

 

 と、私は言うだけ言って勝手に歩き出した。

 

「あ、コラお風呂ってなんですか。まさか連日……年頃の女の子が一体何て事を――」

 

 後ろからお母さんの声が聞こえたけど今は無視だ。

 扉を閉めると一気に静かになった。無駄にしっかりした扉な事で。

 

 よし、1時間くらいのんびりすれば話も進んでるだろう。そう信じよう。

 

 

 パッと服を脱ぎ下着も脱ぎ、杖をフリフリ浄化しておく。

 これで洗濯しなくても着直せる。なんて便利。

 でも気分的にはあまりよろしくはない。やっぱり下着くらいは水で洗った方が良い気がしてしまう。

 

 まぁともかく、いざお風呂へ。

 入り浸ってたお陰で、とっくに私好みの風呂になっている。

 必要だと思えば物が現れてくれる所為だ。きっと豪華さ便利さでは監督生用のお風呂にも負けてないだろう。実際に見た事は無いけど。

 お風呂どころかちょっと深めのプールさえ作った。その気になれば思う存分泳げて、私は大変満足である。

 軟禁中のシリウスにとっても運動が出来て良い筈だ。

 

 しかしあっちのお風呂も気になる……監督生、目指そうかな。

 ライバルがハーマイオニーとなると厳しいけど。

 

「あぁー…………」

 

 湯に浸かるとなんでこんな気の抜けた声が出てしまうんだろうか。

 ぐでーっとだらしなく蕩けるのがここ最近のお気に入り。

 あぁ……シリウスを追い出してここで生活したい。

 

 実際いつまでもここで匿うのは難しい。厨房から遠い分、食事を運ぶのが中々に大変なんだ。

 少なくとも私はこれ以上動けないだろう。頻繁に1人で行動している理由を誤魔化しきれない。

 

 いや、今は考えなくていいや。それは後で皆と話せばいい。

 今は……うん。蕩けよう。

 

 

 

 

 

 

「ふー、さっぱり。ほくほく」

 

 存分にお風呂を堪能した私は、満足気にリビングへ戻った。

 きっちり1時間。かなり話は進んだ筈だ。

 

「……なんでそこの2人は頬が腫れてるの?」

 

 戻った私に皆が揃って顔を向ける。

 物凄く不機嫌そうに頬を腫らしてるシリウスとスネイプはどうしたんだ。

 いや、殴り合ったんだろうなとは分かるけど。

 

「色々あったんだよ」

 

「そっか」

 

 疲れた様な呆れた様な顔でルーピン先生が曖昧な説明をしてくれた。

 でしょうね。情報を共有する事で憎しみが爆発したんだろうな。

 とりあえず流しておこう。

 

 でも殴り合うだけで済んだなら良いのかもしれない。

 原作だとお互いに狂気染みた憎しみをぶつけてたし……それを考えるとマシなんてもんじゃないな。

 きっとお爺様達も場を収める為に頑張ったんだろう。お風呂行ってて良かったかもしれない。

 

 なんにせよ、ぶつかり合うって大事だと思うんだ。うん。そういう事にしておこうよ。

 

「で、何処まで話したの?」

 

 ひとまず彼らの事は突っ込まず、具体的にどれくらい話をしたのかを確認したい。

 私がそう訊ねると、お爺様が口を開いた。

 

「うむ、一通りは話し終えておる――」

 

 そうして説明してくれたけれど、ちょっと予想外に話が進んでいた。

 

 大前提として、私がある程度の未来を知るという事。

 合わせてそれに関わる過去も多少知っている事。

 未来は不確かで、大筋を違えない様に大きな変化は避けたい事。

 既に私達は行動を始めていて、分霊箱の破壊も進んでいる事。

 

 その他諸々。あの日何があったのかもやはり共有済み。

 どうやら本当に大概の話が終わっていたようだ。

 

 ていうかこれ、完全に私が無駄に長くお風呂入ってるのを待ってたやつ……やっべ。

 

「あー……もしかしなくても……待ってた……?」

 

 てへぺろ。

 じゃなくて、割と申し訳ないので気まずい。ごめんなさい。

 

「当然だ。貴重な時間を無駄にしおって……勝手な真似は控えろ」

 

「……その貴重な時間で喧嘩してた人に言われたくないんですけど」

 

 腫れた顔で普段より5割増しくらいに不機嫌な声でスネイプが怒った。

 開き直る気は無いし、実際私が悪いとは思う。だけどそれはアンタには言われたくない。

 

「はっはっは! 言われてるじゃないかスネイプ。ざまぁみろ」

 

「貴様……」

 

 横でシリウスが大笑い。お陰でまたしても喧嘩が始まりそうになってしまった。

 この2人の前じゃ下手な事言えないや……勝手に喧嘩の種にされてしまう。

 

「ともかく! それならこれからの事を話そうって感じでいい?」

 

「うむ。改めて、今年の事件についてアリスの知る事を語っておくれ」

 

 両手で2人を引き離して喧嘩を防ぎつつ、私は話を切り替えた。

 お爺様は喧嘩にうんざりしたのか我関せず。さっきの私より自然と流している。

 最初のきっかけは自分でやった癖に……

 

「分かった。じゃあまず最初に――」

 

 まぁそれは良い。ひとまず詳細を伝えるとしよう。

 

 

 

「……理解は出来た。が、みすみす奴を逃さなければならないとはな」

 

 そうして話を進めると、シリウスが物凄く苦い顔で呟いた。

 復讐の為に脱獄してきた彼からすれば、心底納得いかないだろう。堪えてもらうしかない。

 

「そうなんだけど……本当に殺すつもりで追い詰めて、ハリー達の前で全てを明かすんだ。最後は捕えて……どうにか自然に逃がす」

 

 とは言え、ただ逃がすだけじゃ駄目だ。

 もうヴォルデモートの下に行くしかない、と奴が判断するくらいに追い詰めなければならない。

 

 しかもハリー達の前でという条件付き。

 全てを知ったハリーが、殺す以外の選択肢でシリウス達を説得する。つまりその場だけでも庇う。

 説明するのは難しいけど、それが後々に繋がる。

 

 その条件を聞いて皆は一瞬不思議そうな顔をしたけれど、深くは訊ねてこなかった。

 わざわざ言うなら大事な事なんだろう、と分かってくれたらしい。頭の良い人達で本当に助かる。

 

「捕えた上で自然に……難しい話だ。アリス、君の知る未来ではどうなっていたんだい?」

 

 そしてルーピン先生はその先の問題に触れた。

 いや、マジでそこが一番悩むんだよね。

 

 とりあえず未来の情報としては教えておくけれど……先生としてはあまり聞きたくないかもしれないな。

 

「えっと……その日がたまたま満月で、先生が脱狼薬を飲み忘れて暴れちゃって……」

 

「……恥ずかしい話だったな」

 

 案の定、先生は目を逸らしてしまった。

 ハリー達の前で変身して暴れる、という危険極まりない事をしてしまう未来が有り得ただけでも堪ったもんじゃないんだろう。

 

「貴様。吾輩に散々手間を掛けさせておいて飲み忘れるなど……ふざけておるのか」

 

「待て、違う。未来の話だ」

 

 まだまだ怒りが鎮まらないのか、八つ当たりの様にスネイプが畳み掛けた。

 あー……嫌々押し付けられた難しい調合を頑張って続ける側からすれば腹も立つか。

 あの薬は7日間飲み続けなきゃならないから、最後の1日で忘れたら全て無駄になる。

 

 だからって今怒る事じゃないけど。本当に八つ当たりだ。

 矛先が自分に向いて慌てたのか、ルーピン先生は至極当然な弁明をした。

 

「ちなみにスネイプ……先生は大暴走してハリー達にノックアウトされてた」

 

「……退学にしてくれる」

 

「だから未来の話だ」

 

 とりあえず可哀想なので無駄に補足してやった。

 今度はこの場に居ないハリー達に矛先が向いてしまったけど……頑張れ皆。多分授業が厳しくなる。

 青筋を立てるスネイプの耳には、ルーピン先生の冷静なツッコミも一応押し殺したシリウスの笑いも届いちゃいないだろう。

 

 

「はいはい。冗談はともかく、実際どうするべきかを話し合いましょうか」

 

 グダグダな流れを仕切り直そうと、お母さんが手を叩いて収めた。

 お陰で皆は多少なりとも真面目な顔に戻って考え始める。

 本当にどうするのがベストなのやら。

 

「あまり大きな変化は避けたいのだろう? 彼女の知る未来の通り、リーマスが変身した方が良いんじゃないか?」

 

 間を置いて、シリウスが切り出した。

 確かにそれが楽と言えば楽だ。考える事も少なくて済む。

 何よりペティグリューから目を離す理由としてはこれ以上無い緊急事態だし。

 

 ただ、問題は……

 

「危険過ぎる。人間を前に変身したら、私に制御は不可能だ」

 

「私が全力で押さえて離そう。2人だけになれば大人しくなるだろう」

 

 ルーピン先生としては受け入れがたい作戦だろうと言う所。

 本来だったら、事情を察して慌てて動いたから薬を飲み忘れる。それは仕方ない。

 だけど分かった上で、あえて私達の前で変身するというのは……

 

「本気か? 作戦とは言えそんな事は――」

 

「誰も傷付けさせないさ。お前もな」

 

 渋い顔をする先生に、シリウスが至極真面目なイケメン顔で言い切った。

 

 先生が恐れるのは、自分が誰かを傷付けてしまう事。彼もそれが分かってるんだろう。

 ハリー達も、ましてや自分だって傷付けさせない。何がなんでも守る、という覚悟を滲ませる顔と声だった。

 

 そうまで言われて、先生は押し黙った。

 きっと物凄く葛藤しているだろう。

 

「……よく言うものだな。何処までも高慢な男だ」

 

 でもって横から超不機嫌な声が。

 まぁ、そうも言いたくなるだろう。

 

 なんせ昔、変身した先生にスネイプを襲わせるという大事件をやらかそうとしたからね。

 ハリーのお父さんがギリギリで止めたから良かったものの……

 

 だからこその今なのかな。成長して理解したのかもしれない。

 

「今だけはお前も信用してやる。教師としてハリー達を守れ」

 

「…………言われずとも」

 

 シリウスはスネイプの喧嘩口に反論せず流し、横目でぶすっと言った。

 そこは多少の負い目があるらしい。

 

 言われたスネイプも、色々押し込めてぶっきらぼうに返した。

 おやおや……なんだか思った以上に和解が進んだっぽいな。完全な和解はまずあり得ないけど、犬猿の仲くらいには収まった……か?

 こういう変化ならいくらでも来い。良い事だ。きっと。

 

「じゃあシリウスが押さえに行って、私とスネイプ先生でハリー達を守ろうとして、その隙を突かれて逃げられるって形にするんだね」

 

 ほんわかするのは後回しにして、私が軽く纏めて決定とした。

 ルーピン先生も何も言わないから、多分受け入れてくれたんだろう。

 

「うむ。ではもう少し詳細を詰めていこうかの」

 

 お爺様としても異論は無さそうだ。

 となれば、言われた通りこのままより詳しい事を考え決めていこう。

 

 

 そもそも作戦はいつ頃になるのか。

 そこに至るまでにどう追い詰めていくのか。

 その時は決して人目に付いちゃならない以上、場所の問題もある。まぁあの屋敷で良いだろうけど。

 

 ハリーの守護霊の呪文習得も大事だし……追い詰められての覚醒をどうするべきか。

 わざとシリウスが吸魂鬼に襲われるというのはあまりに危険過ぎる。

 

 最終的にシリウスを捕える形にするかどうかも。

 原作通り魔法省に引き渡す直前で逃亡させるのも、この場の全員がグルなら手段はいくらでもある。

 その必要があるかは分からないけど、吸魂鬼を引き上げさせる理由になるかも。

 

 そうして話し合いは続く。夜も更け、私が眠くなるまで。





【ジェミニオ「Geminio」】
双子の魔女が作り出した、物体を複製する呪文。そのまま双子の呪文と呼ぶ事もある。
名前の所為で勘違いしがちだが増やす数に制限は無い。詳細は後述。
複製してしばらくはオリジナルと区別が付かない程だが、時間が経つと劣化していく。

分霊箱を複製しても中の魂まで複製されない。つまり生物は複製出来ないとされる。
ただし植物や食料としての肉は可能。

この呪文の本質は増殖させ続ける事であり、それを止められるのは術者のみ。
術者が望む数になった時点で止める、という形なのだろう。
ただしオリジナルが破壊されたらそれ以上複製は出来なくなる。

その特性はセキュリティとしても使われ、レストレンジ家の金庫のシーンがそれ。
恐らく、誰かが触れたら発動するという条件付きの魔法を掛けるのだろう。
そうして実際に触れられた時、制御不能に増殖を始め……どれが本物か分からないどころか空間が埋め尽くされ、閉じ込められるか最悪圧し潰される。

なんにせよ便利さで言えば相当な呪文。



【監督生用の浴室】
ホグワーツの5階にある浴室。
首席、監督生、クィディッチのキャプテンのみが使用を許される。
ここを使えるというだけで監督生になる価値があると言われる程。
入るには合言葉が必要で、寮同様に定期的に変わるようだ。

豪華なシャンデリアが照らし、浴槽はプールの様に広く大理石で出来ている。
おまけにトイレも併設されアメニティ類も完備。脱衣場は何処だろう……壁際とかか。
浴槽を囲む様に100個もの蛇口(1つずつ違う宝石付き)が並び、なんかもう色々出て来る。映画では形が変わっている。


第二試験の卵の謎に苦戦しているハリーを見て、セドリックはここを使えと手助けをした。
ハリーは風呂に来てもよく分からず、泳いだりと遊び始めた。

ここには度々マートルが来る。セドリックが卵を沈めているのを彼女が見ていたお陰でハリーに教える事が出来た。
何故来るのかは謎。やはり覗き趣味なのではなかろうか。


クィディッチのキャプテンになったハリーを祝う際、既に監督生だったハーマイオニーとロンが最初に言ったのはこの風呂が使えるという事だった。
どうやら相当に楽しんでいたようだ。しかしその後にハリーが正当にこの風呂を楽しんだかどうかは不明である。

ちなみに各寮にある一般生徒の浴室はシャワーと小さな浴槽で、カーテンで仕切られた個室となっている。



【監督生】
寮監と校長から、特別な権限と責任を与えられた生徒。
5年生時に各寮男女1名ずつ選ばれ、基本的にはそのまま卒業まで務める事になる。
分かりやすく言えば学級委員、もしくは生徒会役員か。合計で24人居ると考えると結構な数である。

名前の通り、他の生徒を監督し指導する立場となる。新入生の案内からイベント時の監督等もするらしい。
所属する寮から減点する事は可能だが、実は他寮の生徒相手では減点出来ないそうだ。
ホグワーツ特急には監督生用の車両があり、首席生徒からの指示で巡回をする。同じく、校内でも夜間の巡回を行う。

立場を剥奪される事もあるのかもしれないが詳細不明。
ハーマイオニーとロンが不在となったグリフィンドールはどうしていたのだろうか。他学年がカバーしたのか、新しく選ばれたのか……

ちなみにハーマイオニーは至極真面目に取り組んだが、ロンはそんな事も無く規則を無視していた。
そもそもロンが選ばれたのは、大変な状況になっていくハリーに監督生の役割を与えるのは辛いだろうとダンブルドアが考えたからである。
だからと言って何故ロンを選ぶのかは謎。まぁ他のグリフィンドール5年生男子の中で候補が居るかと言うと居ないが(ネビルの覚醒はもっと後)



【首席】
ヘッドボーイ、ヘッドガール。校長から任命される、監督生の更に上に立つ生徒。
監督生とは違い、全7年生の中から男女1名ずつだけ選ばれる。
分かりやすく言えば生徒会長的な物かもしれない。いや、分かりやすく訳したのが首席なのだが……役割的に若干意味合いが違う気はする。

学業、人格、その他あらゆる面で優れていなければまず任命はされない。
その条件の所為か、監督生がそのまま繰り上げの様に選出される可能性が高い。
選ばれたともなれば、卒業後の進路にも大きく影響する。

パーシーがとことん胸を張って自慢しているのも当然な話である。
長男のビルも選ばれていたのでウィーズリー家はぶっちゃけ凄い。
明かされた情報を見る限りではグリフィンドール率が高い。
ダンブルドアやマクゴナガル、ジェームズとリリーもそうだった。

詳細はあまり無いが、とりあえず監督生への指示が主な役割と思われる。
場合によっては教師から特別な任務を与えられる事もある。非常事態など。




【忠誠の術】
秘密の守り手と呼ばれる1つの魂に秘密を隠す、極めて複雑な魔法。
例えば場所を秘密として隠した場合、秘密を知る者以外には絶対に見えず触れず聞こえず、位置の特定は不可能になる。

真実薬、開心術、拷問、服従、その他一切の手段は通用せず、守り手の意思でのみ伝える事が出来る。
つまり秘密を吐かせるという行為は完全に無意味である。
逆に言えば自ら望んで明かせる人間でなければならないのでは、という説が有力。これは契約に縛られるしもべ妖精や、喋れない動物を守り手にしない理由だろうと言われている。

そして他者に伝える事が出来るのは守り手1人のみであり、秘密を共有された人からはどうやっても伝えられない。
守り手が書面で記し、他者がそれを関節的に見せて伝える事は出来るそうだ。
しかし守り手が死亡した場合は、共有していた者全員が守り手に変わる。

ハリー達はそうして守り手になった後に姿あらわしで敵と一緒に隠れ家に飛んでしまった為、自ら明かす形になった。
もしそれが本来の守り手であるダンブルドアの生前だった場合、ハリー達からは伝える事が出来ないので相手はそこが探していた場所だと認識出来ない、何なのか理解が出来ない状態になる……らしい。


作中でも特に複雑だからか、思いっきり矛盾が生じている魔法でもある。
というか作者自身が途中で守り手の設定を変更したと言っているそうだ。

例えばシリウスが守り手になっていれば、彼なら絶対に自ら明かす事は無いのでポッター家は無事で済んでいた。
激化する戦争中という状況故に、守り手になった自分が殺された時を考えつつ、囮になって敵の動きを分かりやすくしたかったのだろうが……
そもそも吐かせる事は出来ないのだから、囮になるかどうかも怪しい。

というかペティグリューは死んでいないので、彼が直接伝えていない者には場所が分かる筈も無く、しかもそれは未だに続いている筈。
にも関わらず事件後ポッター家にスネイプやハグリッド等が向かっているという謎(メモを書かせ、それをシリウスが見せる事で伝えていたなら有り得るが……少なくともスネイプに伝えるとは思えない)
秘密を託した側が死亡すると魔法が解除されるのだろうか?


そもそも何故ダンブルドアが守り手にならなかったんだという疑問は誰もが抱く事だろう。
一応最初はそのつもりだったらしいが、結局シリウスに決まり、後からペティグリューに変えるという作戦になったそうだ。

ハリーの予言がされた時点で、ダンブルドアとしては夫妻の犠牲を織り込み済みだったという説もあるが……微妙な所。


他にも終盤で貝殻の家の事を守り手以外が伝えていたりと、とにかく矛盾が多い。
元からその秘密を知っていた者はどうなるのかという問題もある。
これも説が色々あってややこしい。「守り手ではない伝えられた者」として勝手に設定されるのか、認知が変わって知らない事になるのか。

本当に複雑過ぎて、この解説もなんだか曖昧で微妙に思えて来る。
ちゃんと考察を読み解いて文章に出来てるんだろうか……

上げていけばまだまだ出てくる。というか書きたい事の半分以上を端折ってもこの長さ。
気になる人は調べてみると面白いかもしれない。
頭が痛くなるかもしれないけど……




余談になるが、実は襲撃後ハリーを保護してダーズリー家に預けるという話を決めるまでシリウスはハグリッドらと一緒に居た事になっている。
そこで空飛ぶバイクを貸し、その後にペティグリューの追跡を始めた。らしい。

しかしそんな精神的余裕が彼にあったのか、そもそもそんな時間があったのかは甚だ疑問である。むしろ合わせる顔が無いだろう。
シリウス自身が語った内容からして、そんな悠長な事をしていたとは全く読み取れない。
慌ててポッター家に行き全てを悟ってそのまま追った筈。

これもやはり設定のズレなのだろう。
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