ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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あんまりにも多忙だったので全然執筆が進んでません。
とりあえず説明&繋ぎの回。

後半ハリー視点へ。


第55話 毎年恒例、ハロウィン事件

 話し合いは長かった。

 私がお風呂でのんびりしていた間の事も含めて一旦纏めてみよう。

 

 まず、私の事情は明かされた。

 そして過去の各々の考えやそれによる後悔、罪悪感を揃って打ち明け謝罪し収まったそうだ。

 

 ルーピン先生がお爺様の期待と信頼を裏切り、動物もどきの3人と遊び回っていた事とか。それをずっと秘密にしていた事とか。

 シリウスとルーピンがお互いにスパイと疑い合っていた事とか。シリウスの裏切りを信じ、誰も庇う事も無く見送った事とか。

 皆が抱えていた物を打ち明け合った……らしい。それはそれで私は場に居なくて良かったかもしれない。

 私が居ないからこそ言える事もあっただろう。大人として、子供の前じゃ言いたくない事が。

 

 しかしスネイプの事情は何処まで話したんだろうか。そこまでは聞けなかった。

 簡単に踏み込める所じゃないし……

 

 他には……あぁ、分霊箱についてだね。

 シリウスとルーピン先生にはその数に驚かれ、日記、髪飾り、指輪、既に3つを破壊している事を伝えて更に驚かれた。

 

 勿論、髪飾りと指輪を破壊したのはお爺様。夏休みの間に奔走してくれた。

 だけど詳細までは聞いてない。破壊した指輪は厳重に保管しているとだけ伝えられた。

 何を思って破壊したのか……これもやっぱり、簡単には踏み込めない。

 

 それよりもブラック家にあるだろうロケットだ。

 シリウスとしては最悪だろうけど、家に戻ってもらわなければならない。

 物凄く嫌々ながらでも納得してくれたので助かる。

 

 ただし今はペティグリューに専念。今回の事が終わってから……つまりまた夏休みに動くと決まった。

 どう動くのかはやっぱり未定。だってロケットの件って複雑なんだもの……

 

 

 ともかく。とりあえず鼠捕りの作戦決行はずっと後に決まった。学年末と言わずも、春頃だろう。

 ペティグリューについての予言がされるかどうかは分からないけど、されると考えて長期戦になった。念の為。

 

 場所は叫びの屋敷。どうにかハリー達と鼠を連れ込む事になる。

 原作通り多少強引でも良いし、私が誘導する事も出来るだろう。

 後は予定通りの茶番を演じる。演技を頑張ろう。

 

 そしてハリーが守護霊の呪文を完璧に扱えるよう、覚醒させる必要がある。呪文の重要性もそうだけど、彼の実力を上げるにも大事な事だ。

 その為にはシリウスが死ぬ程の覚悟が要るけれど……残念ながらその時は狼状態のルーピン先生を大人しくさせる為に変身したままになる。つまり吸魂鬼に襲われない。

 原作はなんで倒れてたんだろう……じゃなくて。

 

 じゃあどうするか。私が代わりに襲われようかと考えたけど、既に汽車で守護霊を見せてしまっている。

 そもそも皆から猛反対を受けてしょんぼりだったけど。

 

 だからまぁ、こればかりはどうしようもないだろう。

 私も指導役として混ざる事で後押しし、覚醒シーン無しで習得まで漕ぎ着けるしかない。

 そもそも逆転時計が無いしね。未来が変化したお陰で危うい状況なら、無理をするリスクの方が大きい。

 スパルタになってでも叩き込んであげよう。

 

 

 そしてそして、諸々片付いたらシリウスを原作通り捕えて牢に入れる。

 魔法省を呼びつけ、そしてこっそり逃がす。手段はいくらでもあるので問題無い。

 本腰入れた捜索に一旦の区切りを付けさせる為、吸魂鬼を引き上げさせる為。これもやっぱり念の為。

 

 それまで彼にはペティグリューをじわじわと精神的に追い詰める為に動いてもらう。

 その手段は彼に一任した。ただし肖像画を切り裂くとかの行為は無し、精々強めの恫喝まで。流石に可哀想なので。

 

 

 合わせて彼の世話はルーピン先生に交代となった。その方がやりやすいし、満月の時も2人で居れば安心出来るとか。

 食事も厨房ではなく、一旦先生の部屋に運ぶようお爺様が指示をしておくそうだ。

 

 

 最後に、これも重要な事。

 基本的には実行役がシリウス、影からルーピン先生と私。動くのはこの3人だけだ。

 捕える時にスネイプが合流するだけ。お爺様とお母さんは最後まで手は出さない。

 想定外に備えはするけど、極力そうならない様に。

 

 これは警戒心の強いペティグリューに、万が一にも悟られない為。そして、私の知る未来から既に大きく変わっているから。

 これ以上の変化はもうどうなってしまうか想像出来ない。

 

 

 

 

 一旦、今の所の話としてはこんなものか。

 裏方はともかく……本来の学校生活の方もこれから忙しくなる。

 なんせもうクィディッチシーズンだからね。

 

「俺達は最高の――学校一の強烈なチームだ」

 

 今シーズンの作戦会議、という事で私達チームは招集された。

 相変わらずの熱で語り始めたのは勿論、我らがリーダー、オリバー。

 

「去年はもしかしたら試合が中止になるんじゃないかと戦々恐々したが……無事開催。どころか、遂に我々は優勝杯を手にする事が出来た! やっと……やっとだ! 6年目にしてようやく優勝出来た! しかし! これで満足する奴は居ないだろう!?」

 

 いや、相変わらずではないな。去年よりも熱が凄い。もう叫んでる。

 

 彼の言う通り、去年は遂に優勝杯を頂いた。

 本来なら秘密の部屋事件の所為で試合は中止、だけどそれを早期解決したお陰で未来が変わった。

 まぁ全然良い変化だろう。私も浮かれに浮かれて優勝パーティーを楽しんだ。

 

「今年も捕るぞ! 何より今年で俺は居なくなる……優勝杯を持って卒業させてくれ!」

 

 拳を握って叫ぶ彼を鬱陶しく思う人はここには居ない。

 彼の想いなんてとっくに分かってる。

 

 だから誰もが同じ顔で頷いた。

 

「「分かってるぜオリバー」」

 

「やってやるわよ!」

 

 フレッドとジョージ、アンジェリーナが気合十分に返す。

 

「うん、絶対だ」

 

 ハリーも決意を漲らせて続いた。

 言葉を発しない他のメンバーだって同じ気持ちだ。言葉にするまでもない、って感じだろうか。

 勿論私だってその内の1人。物語がどうとか未来がどうとかは関係無い。負けるのはやだ。

 

 でもニンバスが壊れてファイアボルトを手に入れないとヤバイ。

 それはつまり負けるという事だ。まぁ1試合目は仕方ないと負けを受け入れるしかないだろう。最終的に優勝出来れば気も晴れる。

 

 いや待てよ……シリウスに事情を伝えて、ただのプレゼントとして贈らせるのもアリか?

 というかマルフォイを助けたから試合自体が変わる。

 相手が相手だからハリーが張り切って即終わらせる可能性も……

 

 うん、とりあえず今はいいや。

 ファイアボルトという結果だけならどうにでもなる、という事が分かっているなら大丈夫だ。

 ともかく、1試合目がどうとか関係無く優勝する為にも真面目に頑張ろう。

 

 

 という訳で厳しい練習が始まった。

 なんと一週間に3回だ。段々と寒くなっていく中で、雨に風に晒され泥だらけになって飛ぶ。

 日が沈むのが早くなってもお構いなしに、暗い中でも飛び回った。

 

 ある夜。私達が練習を終えて談話室に戻って来ると、騒がしい生徒達が迎えてくれた。

 

「何かあったの?」

 

「週末のホグズミードだよ」

 

「10月末、ハロウィンね」

 

 近づいて来るロンとハーマイオニーにハリーが訊ねると、2人は掲示板を指差して答えた。

 しかし待ち望んでいたにも関わらず、その表情は笑顔じゃない。

 許可証が無いハリーの前では流石に喜べなかったらしい。本当に友達想いだこと。

 

 だけど当のハリーは気落ちした様に椅子へドッサリと座り込んだ。

 

「きっとすぐに行けるようになるわ。ブラックは捕まるに決まってる」

 

 気を遣ってハーマイオニーが優しく語り掛けた。

 シリウスが捕まったところで許可証が無いんじゃ無理だと思うけど……

 そんな事に気付かないくらいに、なんとか励まそうとしているんだろう。

 

「ハリー1人を残しておくなんて出来ないよ。マクゴナガルに聞いてみようぜ、ハリー」

 

「うん……やってみる」

 

 真剣に言うロンに、ハリーは曖昧に笑って返した。

 実際、シリウスの警戒が必要無いと分かっていれば可能性は……無くはないかもしれない。

 原作よりも甘くなってるお母さんなら、もしかしたら許可をしてくれるかも……いや、それでも規則は規則だしなぁ……

 

「無理だったらほら、クリスマス休暇に学校を出れば良いんだよ。私ん家に泊まれば毎日観光出来るし」

 

 2人の様に、私もどうにかなる方法を考えてみた

 原作がそうだったから、と見て見ぬフリをしていた負い目もある。

 これなら規則を守りつつ思う存分楽しめる筈だ。

 

「いや……それはなんか凄く良くない気がするからやめておくよ……」

 

「ハリー、もう遅いかも。めっちゃ睨まれてる」

 

 我ながら名案と思ったのに、ハリーは微妙な反応だった。

 ロンに至っては周りを見渡して、まるで同情するかの様にハリーの肩に手を置いた。

 

 何……? なんか周りの男子が険しい顔をしてチラチラとこっちを……あっ。

 

「お馬鹿……気軽にとんでもない誘いしてるって気付いてる?」

 

 物凄く呆れたハーマイオニーに溜息を吐かれた。

 気付いてるよ……たった今だけど。ロンの言う通りもう遅いけど。

 

「ごめん、全然そういうつもりじゃなかった……」

 

 私が基本的に1人暮らしだという事は周知されている。

 そんな私が男子を、それもクリスマス休暇に泊まりに誘うなんて……本当にとんでもないお誘いだ。

 

 そりゃ周りの男子達もハリーを睨む。リンチされない事を祈っておこう。

 ていうか私も睨まれてるような……うん、ジニーに物凄い形相で睨まれてた。ごめん違うんだ。

 

「それはそれで言い切られると辛い」

 

 やっちゃったー、てへぺろ。と否定する私を見て、ハリーは複雑な表情をした。

 どう言えと。いや分かるよ? 元男としても、女子から言外に興味無いと言われるのは辛いだろうって理解出来る。

 でもこう言うしかないじゃないか。

 

「あ、だったら皆で――ひょわおぅ!?」

 

 というかハリー1人を誘うからおかしな話になるんだ。皆だったら、と思って口を開いたものの悲鳴に変わった。

 クルックシャンクスが大きな蜘蛛を咥えて近づいて来たからだ。

 なんてもん持ってくるんだこの子は。勘弁してくれ。

 

「わざわざ僕達の前でそれを食うつもり?」

 

 私の様に悲鳴は上げなかったけど、ロンは物凄く嫌そうに顔をしかめて距離を取った。

 いや本当に。せめて見せないでほしい。どれだけ可愛かろうと受け入れ難い。

 しばらく舐められないようにしよう。毛繕いした後に撫でるのも止めておこう。

 

「お利口さんね、クルックシャンクス。1人で捕まえたの?」

 

 呑気な飼い主は顔を綻ばせて褒めている。

 君はそのデカイ蜘蛛の死骸を見て何も感じないのか……?

 

「ソイツをそこから動かすなよ。スキャバーズが鞄で寝てるんだから」

 

 距離を取るついでに元々居たテーブルまで戻ったロンは鞄を抱いてそう言った。

 

「いつまで警戒してるの? もう襲おうとはしてないじゃない。ちゃんと分かってくれたのよ」

 

「……だと良いけど」

 

 しかし既に言い聞かせてあるお陰で、クルックシャンクスはスキャバーズを追い掛ける事は無くなった。

 警戒する様に睨んだりはするけど、それだけだ。

 

 だからひとまず喧嘩にはなりそうにない。

 いやぁ……良かった良かった。私の胃が救われた。

 

 

 

 が、しかし。ハリーの胃は救われなかったらしい。

 数日後。許可証のサインについてどうにかならないかとお母さんに聞いてみたものの……見事に玉砕したそうだ。

 そこはやっぱり、なんだかんだ規則に厳しいお母さんだった。

 

 とことん沈み込んだハリーを皆がどうにか慰めようとしているけれど、あまり効果は無い。

 

「皆騒いでるけど、大丈夫だハリー。僕が保証しよう……ホグズミードなんて評判程じゃない」

 

「あん?」

 

 あのパーシーでさえ気を遣って慰めようとするくらいだ。

 だけど私の前でホグズミードを大した所じゃないなんて言うとは。喧嘩売ってるのか?

 

「いや、あー……うん。まぁ、気を落とすな」

 

 思わず睨み付けるとパーシーは気まずそうに顔を逸らしてハリーの肩を叩き歩き去った。

 まぁ仕方ないから許してやろう。慰めてやりたいのはこっちも同じだ。

 

 こないだは可愛くも恐ろしいクルックシャンクスのお陰で話が途切れたからね。

 改めてお誘いしてみようか。

 

「前回は言いそびれたけど、1人じゃなく皆でウチに泊まりに来る?」

 

「悪くはないかもしれないけど、駄目よ。流石にそこまでの広さじゃないし、何より不安しかないわ」

 

 と言ってみたら微妙な顔をしたハーマイオニーに拒否された。

 確かに小さな家だしベッドも1つしかないけども。どうにかなる範囲だと思うんだけどなぁ……

 

 一体何が不安なのやら。私は首を傾げた。

 

「あなた、お風呂上りとか普通に下着姿で出て来るじゃない。なんなら素っ裸で出て来た事もあったし」

 

「流石に男子が居たらしないけど!?」

 

 至極真っ当な不安だった。

 実際去年の夏休みにハーマイオニーと過ごした時、色々やらかした覚えがある。

 

 でもあれは基本1人だった生活に慣れてたからだし……同性のハーマイオニーだったからだし……

 というか今はもうそこまで無防備ではないつもりだ。私の名誉の為にもキッチリ否定しておかねば。

 

 が、ハリーやロン含め周囲は何も言ってくれなかった。

 なんか言えや。想像してんじゃねぇぞコラ。

 

 

 

 

 

 

「ハリー、1人で何をしてるんだい?」

 

 ハロウィーンの日。そして皆がホグズミードに遊びに行く日。僕は1人寂しく、何の目的も無く校内をうろついていた。

 気を遣ってるんだかなんなのか……色んな人に色んな事を言われて、モヤモヤイライラと歩いている所にルーピン先生の声が掛かる。

 どうやらいつの間にか先生の部屋の前まで来ていたようだ。

 

「あー、皆はホグズミードに。僕は、その……」

 

「……ちょっと中に入らないか?」

 

 何気なく返そうとしたつもりだけど、先生には見抜かれてしまったんだろう。

 一瞬だけ僕を見つめ、部屋へ僕を招いた。

 断る理由も無いから大人しく部屋にお邪魔させてもらおう。

 

 部屋に入ってみると、隅に置かれた水槽が目に入った。

 鋭い角を生やした気味の悪い緑色の生物が居る。

 ガラスに顔を押し付けたり、細長い指を曲げ伸ばしたり……観察していると、授業で使う予定だと教えてくれた。グリンデローという水魔らしい。

 

「紅茶はどうかな? ティーバッグしかないけど……お茶の葉はうんざりだろう?」

 

「どうしてそれを……」

 

 ちょっとだけ申し訳無さそうに、だけどなんだか朗らかに先生は微笑んで言った。

 確かにお茶の葉は見たくないけど……なんであの占いの事を知ってるんだろう。 

 

「マクゴナガル先生が教えてくださった。気にしたりはしてないだろうね?」

 

「……大丈夫です」

 

 気にしてないと言えば嘘になる。

 何より、実際黒い大きな犬を僕は見てるんだ。

 その事を話してみようかとも一瞬思ったけど、臆病だと思われたくないから止めた。

 

「心配事があるのかい?」

 

「いえ……はい。あります」

 

 だけどそんな微妙な反応もしっかり見抜かれている。

 真摯に見えるそんな先生の態度と言葉のお陰か、少しくらいは話そうと思えた。

 占いとか犬の事じゃなく、気になってる事を。

 

「先生。ボガートの授業の時、どうして僕に戦わせてくれなかったんですか?」

 

 あの時もモヤっとした。僕はボガートにも立ち向かえない程、弱くて臆病だと思われているのだろうか。

 きっとそんな事は無い筈だ。だけど心に引っ掛かっていた。

 誰も彼も僕を過保護に見るから……守らなきゃならない無力な子供だとばかりに……

 

「……もしかしたらヴォルデモート卿になるかもしれないと思ったんだ」

 

 少し言いづらそうにした先生の答えを聞いて僕は驚いた。

 それを可能性として考えてくれた事もそうだけど、何より、その名を口に出したから。

 僕以外じゃ、アリスやダンブルドアくらいしか言わない。特に大人は絶対言わないだろうと感じてたのに。

 

「最初は確かにヴォルデモートを思い浮かべました。でも僕……吸魂鬼の事を思い出したんです」

 

「そうか……いや、感心したよ」

 

 そして実際、奴を思い浮かべたから。

 だけど対面してすぐに吸魂鬼に上書きされた。それ程に汽車のアイツは強烈だった。

 

 そう答えると先生は何故か考え深そうに言った。

 何に感心してるんだろう。

 

「それはつまり、君が最も恐れているのは恐怖そのものだと言う事だ。ハリー、とても賢明な事だよ」

 

 よく分かっていない僕にまた微笑んで、先生は続けた。

 あんなの誰だって恐れるだろう。あれを恐れる事と、恐怖そのものを恐れる事がイコールになる理由も分からない。

 何て言って返せばいいか分からないけど……でも、何かを認めて貰えた気がして、悪い気はしなかった。

 

「しかしそうか……ボガートと戦う能力が無いと思われている、と考えていたんだね」

 

「その……はい。先生、吸魂鬼の事で――」

 

 やっぱり、僕の内心はすっかり見抜かれているらしい。

 この言い方からして、先生は全然そんなつもりじゃなかったという事は分かった。

 

 ルーピン先生なら信頼出来る。

 そう感じて、僕はもう少し踏み込んでみようと思った。

 だけど僕が口を開いたタイミングでノックの音が響いた。

 

「どうぞ。あぁ、セブルス……どうもありがとう」

 

 そうして入って来たのはまさかのスネイプ。

 先生は何故か礼を言って迎えた。なんの礼だろう?

 

「ルーピン、すぐ飲みたまえ」

 

 スネイプは持っていたゴブレットを机の上に置いて、いつも通りぶっきらぼうに言う。

 なんだか煙が上がっている……魔法薬? なんの?

 

「はいはい、そうしますとも。セブルス、ありがとう」

 

「礼には及ばん」

 

 先生はもう一度礼を言い、スネイプはやっぱりいつも通りの表情で返す。

 いや、なんだか違う……? 2人共、他の先生方とは微妙に態度が違うような……

 

 まぁスネイプなんて観察したくもない。むしろする暇も無いくらいサッサと出て行った。

 向こうも僕なんて見たくはないだろうさ。実際こっちを見ようともしなかった。

 

 そして先生はすぐ飲めと言われた通り、立ち上がってゴブレットを手に取った。

 

「スネイプ先生が私の為にわざわざ調合してくださった。私はどうにも魔法薬学が苦手でね……これは特に複雑な薬なんだ」

 

 ジッと見つめていたからか、訊ねるまでもなく説明をしてくれた。

 どうやら本当に魔法薬のようだ。あのスネイプが誰かの為に、なんて信じられない。

 

 先生は、砂糖を入れると効果が無くなるのは残念だ……と小さな声で呟いて、薬をチビリと飲んだ。瞬間、顔をしかめた。

 どうやら中々な味らしい。スネイプが持ってきたって所も合わせて、僕なら絶対飲みたくない。

 

「この頃どうも調子がおかしくてね。この薬しか効かないんだ。彼と同じ職場というのは本当に幸運だ……これを調合出来る人は少ない」

 

 嫌そうな顔でチビチビと飲みながらも、先生は説明を続けた。

 言い方からして普通の薬ではないんだろう。

 納得はいかないけど、スネイプだって一応は教師だ。それもアリス曰く、ダンブルドアが特に信用するくらいの。

 

 だからってどんな薬なのかなんてのは分からないし、何かの病気とかだったらわざわざ聞くのも失礼だろう。

 

「酷い味だ……さぁハリー、私は仕事を続けるとしよう。また後で、宴会で会おうか」

 

 本当に不味くて嫌なのがハッキリ分かる表情のまま飲み切った先生は、気を取り直して机に向かった。

 さっきの話が途切れたままだけど仕方ない。僕だって先生の仕事の邪魔をしたい訳じゃない。

 そして、何をする訳でも無く時間を潰すだけの僕が邪魔していい訳も無い。

 

 だから残念だけど話を切り上げて部屋を出た。

 さて。どうやって時間を潰そうか。

 宿題や勉強なんてものをやれる気力も無いしなぁ……

 

 はぁ……今頃は皆ホグズミードでワイワイ楽しく遊んでるんだろう。

 先生のお陰でちょっとだけ晴れたとは言え、まだまだモヤモヤは消えそうにない。

 

 

 

 そうして時間が経って、皆が帰って来た。

 たっぷりのお土産を買ってきてくれて、1つ1つどんな物なのか説明までしてくれた。

 

 何処がどうだったとか、何が楽しかったとか、そういう羨ましい感想も同時に聞く事にはなったけど。

 それでも少しずつモヤモヤは晴れていった。

 

 なんなら、ハロウィンの宴会が始まってからはすっかり気にならなくなった。

 楽しくて美味しくて、やっと皆と一緒の時間が過ごせて。

 それはもう、マルフォイのちょっかいだって気にせず流せるくらいだった。

 

 

 なのに。

 僕の心はまたしても真っ暗になった。

 

 宴会の後、寮の前の廊下が寮生ですし詰めになっていた。

 酷く怯える『太った婦人』が肖像画から逃げてしまい、扉が開かないそうだ。

 

 詳細を見ていたらしいピーブズが明かした、最悪な理由。

 シリウス・ブラックがグリフィンドール寮に侵入しようとした。

 

 晴れたと思ったモヤモヤが一気に戻って来た。





【蘇りの石】
死の秘宝の1つ。名前の通り、死者を呼び戻す。
ただしそれはあくまで霊の様な物。ゴーストよりは実体があるけれど、生者程には無い
石を持っている間だけ、当人だけに見えるらしい。

いつからか分からないが、石は指輪として嵌め込まれた。
それがゴーント家の家宝となり、リドルの手に渡り分霊箱となった。
ただし彼は指輪が死の秘宝だとは気付かなかった。

分霊箱なのはゴーントの指輪で、石はあくまで嵌め込まれているだけ……という訳でもなく、後の描写からすると石も込みで分霊箱となっていたようだ。
つまり石も一緒に破壊する事になる。それについては後述。


指輪を身に付けるとほぼ即死レベルの呪いを受けるよう、リドルが対策していた。
そしてダンブルドアは、分霊箱である事や警戒していた事を一瞬で完全に忘れてしまう程の強い衝動から指に嵌めてしまった。
過去に探し求めていた物であり、なにより妹のアリアナに会いたい一心だったそうだ。

しかし流石ダンブルドアと言うべきか。
即死レベルの呪いを抑え込み、スネイプの助けを得て、腕1本の犠牲と余命1年という所まで軽減した。

その後自分は石を使うに値しないと悟ったらしい。
ハリーへ遺言を残し、とあるスニッチの中に封印した。

ちなみに石は最終的に森の中に落とされたまま永遠に失われるように、とハリーは探しに行かなかったそうだ。



ハリーが使う際にはヒビが入っていると描写されているが、ちゃんと効果は発揮した。
これは分霊箱として破壊した後にダンブルドアが何かしたらしい。原作者がそれっぽい事を言っているが、正直詳細が読み取れなかった。
本来不可能である杖の復元さえ出来るニワトコの杖ならもしかして……?


なんにせよ、ダンブルドアがほんの少しでも衝動を抑える事が出来たなら一切問題は無かった。
という訳で……ここでは主人公の存在がある事、忠告をされた事から、その衝動を少しだけ緩和出来た。としておきます。
この辺はダンブルドア視点でちょろっと触れたいなと思ってます。思ってるだけで未定。
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