ハリー・ポッターと予言の少女   作:桜寝子

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第6話 飛行訓練

 魔法界は子供でさえも、当たり前の様に箒に乗って空を飛ぶ。

 杖を持ち魔法を学ぶよりも先に飛んでいるのだから、それがどれだけ当たり前の事なのかが分かる。

 

 自分が飛び回っていた話とクィディッチの話。それらは男子連中は聞いてみればいくらでも語ってくれるだろう。

 実際ロンに聞いてみれば、どうもハンググライダーにぶつかりそうになった事があるらしい。何してるんだ。

 

 まぁ、この年代の男子なんて話を盛りたくなるもんだ。本当かどうかは分からない。

 隠蔽に大人がどう動いたのかを聞いてみればハッキリするだろうけど……そこを突いてやるのも野暮と言うもの。

 

 ちなみにマルフォイはヘリコプターを危うく躱したなんて話をひたすらしている。

 これは明らかに嘘だろう。あんなデカくてうるさい物、躱すまでも無く近づかない。

 気付かなかったならそれはそれで相当なポンコツだ。最早そういう自虐なのではないだろうか。

 

 

 

 なんにせよそんな当たり前に語られる事に対して、マグル生まれの子は不安になっている。

 逸る子と不安な子とで、飛行訓練のお知らせが出てから随分と賑やかだ。

 

 ロンは純粋に楽しみにしている様だけど、ハリーはスリザリンとの合同と聞いて気分はどん底。マルフォイに笑われるんじゃないかと愚痴ってばかりだ。

 実際、なんで仲の悪い2寮を合同にする事が多いのか謎だ。やめてやれよ。

 

 そしてハーマイオニーに至っては、本から仕入れた飛行のコツをまるで自分に言い聞かせるかの様に話し続ける。

 何を読んだ所で、実際にやってみなきゃ何も分からないというのに。

 

 そんな彼女の傍には、聞き逃すまいとネビルが酷く真剣な表情で居座っている。

 どうも彼は、お婆さんが絶対に箒に近づかせなかった為に経験が無いのだとか。

 賢明な判断だ。彼は両足が地面に付いてたって、ひっきりなしに事故を起こすのだから。

 実際、飛行訓練で事故を起こす訳だし。

 

 そう、そこも悩ましい問題だ。

 あの痛そうな事故を未然に防ぐ事は出来るだろう。しかしそうすると、その後のイベントが消えてハリーは選手に選ばれなくなってしまう……かもしれない。

 つまり知っていて落下させるという良心の痛む事をしなければならないのだ。私こそ気分が沈む。

 

 

 

「アリスは余裕そうよね。ねぇ、コツとか教えてくれない?」

 

 何度も聞かされる話に内心ウンザリしていると、ハーマイオニーが縋りついてきた。

 当然の如く後ろにはネビルも居て、期待の目を向けられている。

 

「教えてもいいけど、まずはやってみなきゃ分らないでしょ。それで難しいと感じたなら教えてあげる」

 

 私はそれなりに乗れている自信がある。伊達に勉強サボって子供達と飛んでない。

 

 しかしアドバイスとなると難しい。アレは感覚でどうにかするものだ。

 とにかく乗ってみて、自分で考えるのが一番。私はそう思ってる。

 

「そのやってみる為に、まず聞いておきたいんだけど……」

 

「最初は低空で浮くだけだし、変な先入観や知識は要らないのに……まぁ、じゃあ1つだけね。出来るだけ力を抜いて、冷静になる事。無駄に力んでちゃバランスも取れないしね」

 

 しかし彼女は食い下がった。なら私が初めて乗って感じた事だけを教えておこう。

 とは言え慣れない内は不安と緊張でどうしても力んでしまうものだ。こんな助言が役に立つ人の方が少ないかもしれない。

 

「……もうちょっと」

 

「無い。あとは経験して考えて」

 

「ケチ。まぁいいわ、ならもっとよく本を読まないと……」

 

 そんな当たり障りの無いコツでは満足してくれないらしい。

 しかし意欲があるのは良いけど、まだ読むのか。要らないと思うんだけどなぁ。

 

「……本を読むより、体幹を鍛えた方がよっぽど効果あっただろうね」

 

「それよ! あぁ、でもどうやったら……ちょっと図書館に行ってくるわ」

 

 思わず声に出してしまったのを聞いていたようで、ハーマイオニーは慌てて身支度を整え始める。

 結局読むのか……いや、流石にこれは止めてあげようかな。

 

「ホグワーツにそんな本は無いと思うよ。ていうか今からやってどうするのさ。授業は今日だよ?」 

 

「……それもそうね」

 

 私の制止の声で、彼女はスンと落ち着いて座った。

 うーん……ハーマイオニーってこんなキャラだったっけ?

 自意識過剰かもしれないけど、既に私という友達が居る事で何か変わってるのかな。

 

 彼女を眺めてそんな事を考えていると、ふくろう便がバサバサと飛んで来た。

 あぁ、そんな時間だったか……じゃあこれでネビルの所に――

 

「思い出し玉だ!」

 

 届いたらしい。彼がウキウキしながら包みを開くと、白い煙が詰まっている様な掌大のガラス玉が現れた。

 

「何か忘れてると、この玉が教えてくれるんだ。見ててごらん、こういう風にギュッと握るんだよ。もし赤くなったら何かを忘れてるって事……あれれ?」

 

 説明通り真っ赤になった玉を見て、ネビルは愕然とした。

 

「忘れてる事だけ分かったってねぇ……内容が分からないんじゃ、正直……」

 

「うぅ……」

 

 一体何の為にあるんだろう、この道具は。

 忘れてるってのも何処からそうだと判断されるのやら。昨日の食事とかを忘れても赤くなるのかな。

 

 つい言ってしまった感想を聞いて、ネビルはしょんぼりと項垂れた。

 うん、まぁ……私が握っても赤くなると思うよ。安心しなよ。いやそういう話じゃないか。

 

 

「へぇ、随分変な物を持ってるじゃないか」

 

 丁度その時、マルフォイが私達の座るテーブルの傍を通り掛かり……何故か玉をひったくった。

 何がしたいんだ君は。どうしても何にしても手を出したくて仕方ないらしい。

 

「「マルフォイ!」」

 

 そしてハリーとロンが弾ける様に立ち上がった。

 凄い反応だ。2人共、マルフォイと喧嘩する口実を待ってるよね。

 こっちもこっちで手を出したくて仕方ないんだな。君ら実は仲良しなんじゃないの?

 

「どうしたんですか?」

 

 しかし残念ながら喧嘩は始まらない。

 何かいざこざがあっても、いつもマクゴナガル先生が目聡く見つけるのだ。

 

「先生、マルフォイが僕の思い出し玉を取ったんです」

 

「見てただけですよ」

 

 途端、彼はしかめっ面で素早く玉をテーブルに戻した。

 そしてそれ以上何かを言われる前に、お供のデカブツ達を引き連れてさっさと逃げていく。

 

「ふふっ、見た? マルフォイが握っても真っ赤だったよ。何か忘れてるんだろうね――あ、私もだ」

 

 せっかく立ち上がったのにやり場が無くなったハリーとロン、虐められる所だったネビル。

 彼らの穏やかじゃない空気を和ませる為に、私はマルフォイを笑ってやった。お陰で多少はマシになったようだ。

 

 しかし、私も握ってみたら案の定赤くなったけど……やっぱり何かまでは思い出せない。役立たずめ。

 

 

 

 

 

 

 そして遂に飛行訓練の時間。

 私達が着いた頃にはスリザリン生は全員揃って待っていた。こういう所はしっかりしてるんだよね、彼らは。

 

 さて……ちゃんとした箒が引ければいいな。

 フレッドとジョージが言ってたけど、どうも学校の箒はよろしくないらしい。

 高く飛ぶと震えだしたり、勝手に向きが変わっていったりする物があるんだとか。

 

 実際、地面に並べられた箒は酷い物だ。

 古ぼけていて、碌に手入れをされていない。小枝がとんでもない方向に飛びだしているのもいくつかある。

 

 こうして見ると、ネビルの事故は箒の所為でもある……という可能性も無くは無いかもしれないな。

 

 

「何をボヤボヤしてるんですか! 皆箒の傍に立って、さぁ早く!」

 

 マダム・フーチが来ると、開口一番ガミガミと叫んだ。

 何をそんなに叫ぶ事があるんだ。それじゃあ内気な生徒は萎縮しちゃうだろうに。

 

「右手を箒の上に突き出して、そして『上がれ』と言いなさい!」

 

 急かされた生徒達が言われた通りに箒の傍に立つと、彼女はそう説明した。

 

 皆が『上がれ』と叫び始める。ハリーの箒はすぐさま飛び上がったけれど、そんな箒は多くなかった。

 ハーマイオニーの箒は地面をコロリと転がっただけ、ネビルの箒に至ってはピクリともしない。

 あんな震え声じゃ、箒だって乗らせてくれないだろう。知らんけど。

 

 

 勿論、私の箒はサッと手に収まった。随分とゴツゴツしていて、ささくれもある。正直これに跨りたくはない。

 というか今更だけど、女子はスカートだ。これって下から丸見えなんじゃ……

 実は皆、下着の上に何か履いてるのか……? まさか私だけ丸見えなんてオチじゃないだろうな。

 

 とは言え本当に今更だ、諦めよう。気を付けて飛ぶしかない。

 むしろクッション呪文が掛けられているだけマシだ。私が子供達と遊んでいた安そうな箒にはそんなもの掛かってなかったし。

 全体重が集中するあの股間の痛さと言ったらもう……箒を降りたら恥も捨てて股間を抑えていたものだ。男と女でどっちがマシなんだろうと真剣に悩んだ。

 

 

「さあ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴って。2メートルくらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りてください」

 

 私が変な事を考えている間に授業は進み、いよいよ空中へ飛び立つ時が来た。

 

「笛を吹いたらですよ、1、2の――」

 

「わぁぁあああっ!?」

 

 緊張と不安の中、どうかしちゃったらしいネビルが飛んでった。

 分かってはいたけどちょっとびっくりした。

 あぁ、どうか軽い怪我で済んでくれますように。

 

「こら、戻ってきなさい!」

 

 先生が大声を上げているけど、戻る制御が出来るなら勝手に飛んでってないと思う。

 そのままグングンと高く上がって……あれ、こんなに高く飛んでくんだっけ。屋根まで飛んだぞ。これ落ちたら怪我じゃ済まない……いや死ぬよね?

 

 そんな風に何処か冷静に考えていたけれど、ネビルが真っ青な顔で声にならない悲鳴を上げ、真っ逆さまに落ちた瞬間――

 

「――っ、モリアーレ!」

 

 今まで考えていた事は全て忘れて、呪文を唱えていた。

 こんなの、良心がどうとか先の展開がどうとか関係無い。

 

 使ったのは箒にも掛けられているクッション呪文。クッションなんて言われてるけど、『緩めよ』という意味の通り、速度を緩やかにする事も出来る。

 

 しかし威力……というか出力が弱かったのか、緩やかになったはなったけどそれでも地面に激突……ボキッと嫌な音が聞こえた。

 

 ごめん、ネビル。もっと魔法の腕を磨いておけば……動きを止めるアレスト・モメンタムは難しくて、まだ咄嗟に使える程習熟してないんだ。

 地面にスポンジファイでも良かったかもしれないけど、それだけじゃ正直不安だったから止めた。

 

 

「手首が折れてるわ」

 

 ネビルと同じくらいに真っ青な顔をした先生が駆け寄り言った。

 それで済んで良かったよ。あの高さじゃ洒落にならない。私が呪文を使わなかったらどうなっていたか……ゾッとする。

 

 全く、先生は何をしているんだ。箒で飛んで支えに行くでもなく、杖を抜くでもなく、ただ呼ぶだけだなんて。

 やっぱり危険という価値観が大きく違うよね。骨が抜けても薬1つで治る世界だ、仕方ないのかな。

 

「ミス・ダンブルドア、良い呪文でした。グリフィンドールに10点。本来なら私がすべき事でしたね、ありがとうございます――さあさあ、ネビル、大丈夫。立って」

 

 あ、自覚はあったのね。というかこれで大丈夫と言い切って立たせるって凄いな。

 

 まぁネビルには悪いけど、結果オーライとしておこう。

 流れを変えずに、多少の自己満足を得て、更に点まで貰えた。これ以上は無いだろう。

 

「私がこの子を医務室に連れて行きますから、その間誰も動いてはいけません。箒もそのままにして置いておくように。さもないと、クィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ」

 

 先生はそう言いながら、涙でグチャグチャな顔をしたネビルを支えて歩いて行った。

 皆はそれを見送り、2人が見えなくなるまで誰も口を開かなかった。

 

 

 

「あいつの顔を見たか? あの大まぬけの」

 

 そしてこういう時に真っ先に口を開くのはマルフォイだ。

 いや、口を開くというか大笑いしている。それどころか、スリザリン生が揃って囃し立てる始末だ。当事者じゃなくても腹立たしい。

 

 今すぐ杖を向けてやりたい。きっとそうやって、誰もが武器を持ち歩くから呪文を撃ち合って争いが絶えないんだろうな。

 女子連中の言い合いを聞きながら、私は握り締めたままの杖を必死に抑えていた。

 

「ごらんよ! ロングボトムの婆さんが送ってきたバカ玉だ」

 

 草むらの中から、マルフォイが思い出し玉を拾って高く掲げた。

 陽を受けて真っ赤にキラキラと輝いている。まだ何か忘れているらしい。

 

 忘れてる証明を掲げるなんて馬鹿っぽい奴だな、とこっそり溜飲を下げておく。

 

「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」

 

 ハリーの静かな怒りを含んだ声が通った。

 マルフォイが気に入らないからなのか、ネビルを想ってなのか、どちらなのかは分からない。

 

 それでも、とにかく彼が怒っている事だけは分かる。

 騒いでいた皆は口を閉じて2人に注目した。

 

「それじゃ、ロングボトムが後で取りに来られる所に置いておくよ。そうだな……木の上なんてどうだい?」

 

「こっちに渡せったら!」

 

 そんな彼の怒りなんて気にもせず、マルフォイは更に笑う。

 当然ハリーも更に怒りを露わにして詰め寄った。

 

 しかしマルフォイはヒラリと箒に乗って飛び上がり逃げる。

 どうやら充分に飛べるだけの腕があるのは確からしい。

 

「ここまで取りにこいよ、ポッター」

 

 言った通り木の傍へ、高く浮いたまま呼びかける。

 それに応える様に、ハリーは箒を掴んだ。

 

「ダメ! 先生が仰ったでしょう、動いちゃいけないって。私達皆が迷惑するのよ!」

 

 ハーマイオニーの叫びも無視して、ハリーは箒に跨って地面を強く蹴り急上昇した。

 凄い……初めてだなんて思えない。軽々とスムーズに、綺麗に飛んで行く。アレが才能か。

 

 流石に予想外だったろう、マルフォイは呆然としている。

 

「こっちへ渡せよ。でないと箒から突き落としてやる」

 

「……へぇ、そうかい?」

 

 相も変わらず、ハリーは静かな怒りを向けている。

 笑って返そうとしたらしいマルフォイだけど、顔は強張って声は震えていた。

 

 これ以上は無駄と見たのか、ハリーは槍の様に飛び出した。本当に叩き落そうとしているかの様だ。

 危うく躱されてしまったけど、鋭く1回転して体勢を整える。全く、初めてなのになんて制御だ。

 

 咄嗟だったからか、マルフォイは玉を落としかけ慌てた。

 

「あぁ、ネビルの大事な玉が! 割れたらネビルが玉無しになっちゃう!」

 

「言い方」

 

 思わず私は叫んだ。早々に落としてしまったらこのイベントの意味が無いだろう。ちゃんと持ってくれ。

 隣からハーマイオニーの冷たい声が聞こえた。

 

「「気が散るから黙っててくれ!」」

 

「あ、はい」

 

 空の2人からも何故か怒られた。

 なんだよ、仲良いじゃないかお前ら。

 

 そして彼らはそのまま飛び回り、鬼ごっこが始まった。

 

「て、そうじゃなくて! アリスも止めてよ! さっきみたいに呪文で――」

 

「無理だよ、下手な事して事故になったらどうするの。大丈夫、すぐ終わるよ」

 

 思い出した様にハーマイオニーが私に泣き付いてきた。いやいや、この状態でどうしろと。

 ここまで来たら眺めるしかない。精々、事故に備えるだけだ。

 

 むしろその必要も無いかもしれない。だってもう既にマルフォイは追い込まれているのだから。

 

 

「クラッブもゴイルもここまでは助けに来ないぞ。ピンチだな、マルフォイ」

 

 彼がどう動こうと、ハリーは更にその上を行く。

 なんとかギリギリで躱す事しか出来ていない。

 

 自信のあった飛行だと言うのに、初めて箒に触れた相手に負けている。

 それがどれ程に苦しいか。きっと彼の心中は屈辱と嫉妬が渦巻いている事だろう。

 表情がハッキリと物語ってしまっている。

 

 ハリーも今度は逆に挑発をしている。薄々でも立場と力量に感づいているらしい。

 授業が始まる前は、笑われるだのなんだの言ってたけど……やってみればこれだ。対照的に自信が漲っている。

 

「取れるものなら取るがいい、ほら!」

 

 いよいよどうしようも無くなったんだろう。マルフォイは苦し紛れに玉を放り投げ、そそくさと地面に降りて……いや、逃げて行った。

 そんな情けない姿なんて、ハリーは視界にも入れていない。

 

 落ちる玉よりも速く急降下。地面スレスレで追い付き、玉を掴んだ。

 そして水平に立て直し、草の上に転がる様に着陸。

 玉が投げられてから数秒も無い、ほんの僅かな時間……見事と言う他に無い。生徒達も賞賛、喝采の嵐だ。

 

 きっとこれが、彼にとって初めての明確な成功体験だろう。凄く良い笑顔をしてる。

 こっちとしても良い物が見れた。おまけにマルフォイの情けない所を見て、今度こそ充分に溜飲が下がった。

 

 まぁ、それもこれも、教師の言い付けを無視したという所に目を瞑れば……だけど。

 

 

 

「ハリー・ポッター!」

 

 一体何処から見ていたのやら、マクゴナガル先生が走ってきた。

 途端、ハリーはさっきのダイビング以上の速さで萎んでいく。

 

「まさか――こんな事はホグワーツで1度も……」

 

 どうやらショックで言葉も出ないらしい。良い意味でのショックだけど、そんなのは今はまだ誰も知る由も無い。

 

 複数の生徒がしょんぼりしているハリーを庇い弁明して引き留めるも……問答している暇は無いとばかりにバッサリと切り捨てられていく。

 うんうん、早く連れて行きたいもんね。

 

「ポッター、さあ一緒にいらっしゃい」

 

 と言う訳で、しおしおに萎れたハリーは興奮したマクゴナガル先生に連れ去られて行った。

 

 

 後に残るのは、不安、不満、困惑……ザワザワと騒がしい場だ。

 そしてやっぱり、笑い始めて注目を引くのは彼。

 

「ははっ、ざまぁみろ! これでポッターは退学だ!」

 

 さっきまでの情けない姿は何処へやら。

 屈辱と嫉妬を与えられた相手が居なくなると思い込んでいるんだろう。

 

 彼もムカつくけど、そんな事より皆を安心させる為にも言わせてもらおうか。

 

「見てたなら誰が玉を投げたのかも考えると思わない? ていうかマルフォイが降りたのとハリーが飛び出したのってほぼ同時でしょ。どっちにしろ2人共見られてたと思うけど」

 

「う……そ、それは」

 

 どうして自分は大丈夫と思ってるのか謎だ。

 多分何の根拠も無かったんだろう、指摘されると慌て始めた。

 

 思い出し玉が届いた時のやり取りを先生に見られていた事も、まさしく思い出しただろう。

 その玉を投げたのは誰かと考えたら、真っ先に頭に浮かんだ筈だ。

 

「そもそも、マクゴナガル先生は怒ってなかったよ。怒るともっとこう……静かで怖い」

 

「じゃあ何だって言うんだ。僕は連れて行かれなかったぞ」

 

「そんなの知らないよ。後でスネイプ先生……は怒らないか、フーチ先生に怒られるんじゃない? まぁ、そう簡単に退学なんてならないよ」

 

「うぅ……」

 

 私の言葉でマルフォイはさっきのハリーの様に萎んでいき、逆にグリフィンドール生は安心を見せた。

 なんせ私は入学前からマクゴナガル先生と親交がある、と知られている。その私が怒ってなかったと言えば信じられるのだろう。 

 だからこそマルフォイも大人しく聞いていた……のかもしれない。

 

 というか彼は私に対して、何故か若干マシな態度を取る。ハリーとロンと常に一緒に居る私に、だ。しかも汽車で初めて会った時は蔑まれたのに。

 喧嘩は避けてるし、そもそも会話も少ないのだから嫌う理由が無いのかな。父親の指示で、敵対はするなとか言われてる可能性もあるけど。

 

 

 

「さあさあ、授業を再開しますよ!」

 

 萎れたマルフォイを観察していると、マダム・フーチが声を張り上げて戻ってきた。

 あ、声を聞いた瞬間にマルフォイがビクリと跳ねた。気が強いんだか弱いんだか……根本的には弱いんだろうな。

 

「しかしその前に……ミスター・マルフォイ!」

 

 呼ばれて今度こそ跳ね上がった。面白い奴だ。

 

「マクゴナガル先生から聞いています。あれ程言ったというのに、勝手に箒に乗っていたようですね? スリザリンから10点減点! 勿論グリフィンドールからも10点減点です! そもそも――」

 

 そのままお互いの寮から等しく減点を受け、ガミガミと説教が続いた。

 あーあ、せっかく私が10点稼いだのに。後で私もハリーに文句言ってやろ。

 ……でも、彼の飛ぶ姿は本当に凄かったな。





【モリアーレ「Molliare」】
クッション呪文。緩める、和らげるという意味らしい。
原作でもトロッコから放り出された時にハーマイオニーが使って着地している。その際はまるで無重力で滑るかの様に降りた。
呪文名は呪いの子から。

箒に掛けられてる場合は見えないクッションの様になっている。
効果を使い分ける事が出来るのだろう。



【アレスト・モメンタム「Arresto Momentum」】
実は原作で出てきてない、対象を減速させる呪文。描写的には停止までさせている。
映画では度々使われ、上記のトロッコから落ちる場面ではこちらの呪文に変更されていた。

クィディッチにて、クァッフルが落ちる速度を遅くしチェイサーが拾いやすくする為に開発されたとかなんとか。



【スポンジファイ「Spongify」】
こちらはゲームから。対象を柔らかくし、スポンジというよりもむしろゴムの様にする。
ゲームではタイルに使用し、トランポリンの様に跳ねていた。

今回これを使っていたら、ネビルがもう1度高く跳ね飛んでいったかもしれない。
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