怪獣8号短編 作:TuT
会敵した四ノ宮キコルによると、試験会場で怪獣たちを蘇生させた怪獣は人語を喋っていたらしい。
それほどに知能の高い怪獣が、人間に敵対しているというのはあまりに危険だ。
警視庁に加え、一部の防衛隊オペレーターらも協力して調査しているが成果はほとんど無い。
···関連性は不明だが、独り身の人間が突如失踪するという事例も複数確認されており、一般市民も危機感を覚えているようだ。
「入隊証書授与。合格者代表、首席・四ノ宮キコル」
「はい!」
しかし今日はめでたい隊員任命式の日だ。
考えていても今はどうにもならないし、先輩として後進の加入を祝わないと。
「本日をもって君たち27名を防衛隊隊員に任命する!」
「27名を代表して命をかけて戦う事を宣誓します!」
「···君には試験後の“事件”でも助けられた。おかげで被害者を出さずに済んだ。改めて感謝する」
あ、キコルちゃんの表情が揺らいだ。
やっぱりあの本獣を倒したのは別の誰かだね。
フォルティチュードからして隊長や副隊長、もしくは私以外に単独で撃破できる人間は第3部隊には存在しない。
となると、やっぱり怪獣8号かな。
···そんな事を考えていると、後方のドアが遠慮がちに開いた。
「途中参加で失礼しまーす···」
えっと、彼は確か日比野隊員···いや
私は討伐任務で出払っていたけど、隊員選定会議で保科副隊長の小隊に加入する事が決まったらしい。
体力試験や解放戦力はほぼ最下層だったけど、筆記は前職の経験からか優秀だったし、実戦でも非力ながら知識を活かした立ち回りを見せたとか。
“現場に出られるオペレーター”···本人は不本意かもしれないけど、分析支援に使えそうな人材だね。
「彼は候補生としての入隊なので、隊員任命式からは外れてもらった」
「あのおっさん残ったんか···!」
「番狂わせだな」
誰かの呟きが耳に入る。
確かに年齢というのは大きなハンデだ。
40や50を越えても前線で活躍する人はごく少数だし、そういう人は若い頃から経験を積み重ねている。
少子化のあおりを受けて防衛隊の採用上限年齢を33歳に引き上げたはいいけど、効果は少ないと見込まれていた。
「それでは全員揃ったところで亜白隊長から一言」
「──諸君。近年は怪獣の発生件数とフォルティチュード、共に例年の平均を大きく上回っている。先日は死んだ怪獣が蘇るという怪事件も起きた。死と隣り合わせの危険な討伐が続くだろう。最初の任務で死ぬ者もいるかもしれない。命の保証など微塵も無い。···
亜白隊長の激励に感化されたのだろうか、候補生が唐突に口を開いた。
「···ミナ。俺もすぐ──すぐに隣に行くからな」
一瞬の静寂。そして、
「なんだコイツやべーぞ!?」
「亜白隊長を呼び捨てに!?」
「隊長が話してる最中に割り込むなよ!!」
案の定、その場の全員がドン引きした。
新人隊員たちはあからさまに日比野候補生から距離を取っている。
さすがに非常識が過ぎるね。
まあ雰囲気は和んだけど···副隊長は“こういう効果”を見込んだのかな?
「カフ···日比野カフカ。無許可の私語と上官呼び捨て、合わせて腕立て100回」
「ああぁぁあ!思わず口に出ちまったー!」
···あれ、さっき名前で呼びかけた?
「ギャハハハ、初っ端からやりおった!ちょっと罰が甘いんちゃいますか亜白隊長──え?」
しかもほんの一瞬ではあったけど、確かに微笑んでいた。あの“鉄の女”が!
副隊長もそれを見逃さなかったのだろう、言葉に詰まっている。
···任命式が終わったら話を聞いてみよう。
◆◆
ドアの前に立ち、コンコンコンとノックを3回。
「失礼します」
「入れ」
棚の上には数々のトロフィーや賞状。
ホワイトボードにはスケジュールなど諸々の事項が書き込まれており、部屋の主の多忙さが窺える。
そして奥に鎮座する重厚なデスク。
──これが第3部隊隊長室、亜白ミナの居城だ。
「···保科副隊長は?」
「保科は新人を率いて訓練中だ」
「うわ、初日から彼らも大変ですね」
来客は基本的に応接室で対応するし、よほどの緊急事態が無い限り副隊長以外は基本的にこの部屋には来ない。
つまりしばらくは2人きりで、かつての
“圧”が弱まり、部屋の雰囲気が和らいだ。
「それで、何の用事?」
「単刀直入に聞くね。
「···!なんでそれを?」
「え、あれで隠してたつもり?」
「うん···カフカくんを見ても動じることなく、隊長として振る舞えたと思ってた」
まさかの“くん”付けとは。
彼とはよほど仲が良かったらしい。
「いやバレバレだったよ。任命式の時も名前で呼びかけてたし、壇上から降りるとき少しニヤけてなかった?」
「······」
振り返ってみてようやく自覚したのか、少し頬を染めて目を逸らす。
今でこそ隊長としての箔が付いているが、亜白ミナはこういうPONなところがあるのだ。
「彼とは幼馴染。しかし人事に私情を挟んではいけないと···隠してたのに···」
「そういう事だったんだ。良かったね、なんとか入隊できて」
「でもまだ候補生だからなあ···大丈夫かな」
「副隊長に鍛えられるなら確実でしょ。ねえ、彼との話をもっと詳しく聞かせてよ」
「え〜···?」
普段の隊長としての顔からは想像できない、何と言うか···“女性らしい”表情だ。
「カフカくんは私のヒーローだったんだ。小さい時、怪獣が出現したらすぐにシェルターに引っ張ってくれたし」
「へえぇ···」
「でも、小学校にいる時は恥ずかしかったな。学年が違うのにお構い無しに話しかけてくるから」
「あー···今日も凄かったもんね」
「うん。“あの頃”と全く変わってなかった。やっぱりカフカくんはカフカくんだったよ」
つまり彼は隊長と幼馴染で、でも解放戦力0で、それでも候補生としてギリギリ入隊したと。
まるで主人公みたいなムーブだなあ···これはもう、怪獣8号の正体はほぼ確定かな。
「最後に聞きたいんだけど」
「ん、なに?」
「ミナちゃんって“カフカくん”の事好きなの?」
「·········うん」
ああ、やっぱりそうなんだね···ふーん···
まあ別に良いけど···良いけど···ッ!
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百合不成立。無念。