You Tubeにて配信中のショートドラマ『ヤニシカスミの生活』の二次小説。
ただ普通に生活しているヤニシカスミ。
その裏側で、彼女の父親から半強制的に、彼女を守る任務を任された憐れな男の物語。

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ヤニシカスミの生活チャンネル登録者数200突破記念✨





#1

女が、ベランダで紫煙を燻らす。

町は寝静まり、灯りは見えない。

街灯があるはずだが、近くのものは切れているのか、道路は深く暗い。

(…仕事しろよ、ぎょーせー)

煙草を咥えたまま、女が呟く。

風が、髪を撫でる。

昼間の熱気は落ち着き、程よく涼しい。

ふう、と吐いた煙に視線を移す。

紫の煙は、勢いを失くしたところで立ち昇る。

自然と、視線も昇る。

縦に直線に星が集まっている。

(…川みたい)

そういえば、と思い出す。

歴史好きの同僚が、言っていた。

今日が、旧暦の七夕だ、と。

あれがホントの天の川なんだ、と思い、なんとなく織姫と彦星を探す。

天の川の近くの星なのだろうが、全く分からない。

もう少し、きちんと勉強してれば、分かっただろうか?

いや。

勉強していたとしても、きっと、忘れてしまっているだろう。

結局は、興味があるかないかなのだろう。

興味があれば、新人のプロレスラーだって、小さな劇団の俳優だって覚える。

興味がなければ、今の総理大臣だって、会社の社長だって覚えない。

人間なんて、そんなもんだろう。

今、興味があるとすれば、今年も織姫と彦星はイチャついてんだろうなってことである。

そう思うと、女は無性に腹が立ちはじめた。

(今年は、あたしが見せつけてやる)

女は、部屋に入り、電話を掛けはじめる。

その様子を、切れた街灯の下で、男が見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かちり、という音と共に、暗闇に火が点る。

火に照らされ、男の顔が浮かぶ。

短髪の男だ。

がっしりとした顎に、首が太い。

不精ひげを生やしているが、不潔さはない。

ただただ、自然体に見える。

照らされた耳は、変形し、丸く膨らんでいる。

変形した耳に、窮屈そうにイヤホンが着いている。

精悍な顔立ちである。

しかし、垂れ気味の目のせいか、柔らかい印象を受ける。

煙を喫み込み、吐き出す。

(面倒いねえ…)

男は、塀を背もたれに地べたに座る。

自然と、視線が上を向く。

空には、川の様な星の集まりが見える。

(こんな町中でも、案外、見えるもんだな)

煙草を咥えたまま、煙を吐き出す。

(面倒な日に、当番になったもんだ)

七夕伝説ー

表面だけ見れば、ロマンチックだろう。

しかし、カササギの橋は、織姫と彦星を繋げるだけではない。

二人を別けた天帝への恨み、会えない時間の不安、不満。

そういった悪いモノも、一緒に繫げる。

良くも悪くも、『あちら』と『こちら』を繫げるのだ。

(お嬢は、呼びやすいからねえ)

立ち昇る煙を、目で追う。

イヤホンから、女の声が聞こえる。

誰かと話しているようだが、相手の声は聞こえない。

電話なのだろう。

(親父殿の頼みとはいえ、嫌な仕事だな)

煙草を咥えたまま、煙を飲み込む。

『今度の日曜とかは?…そっ…か』

落胆の声。

言いたい事を飲み込み、そっと蓋を閉じる。

最近、出来た男か。

はあ、と大きく溜め息を吐く。

呼び込みやすい日、呼び込みやすい時間に、呼び込みやすい感情になっている。

(まあ、どうにかなるか)

男は、にかりと笑う。

笑うことで、引き込まれないようにする。

意識的にやっていることではないが、自然とそうする様になった。

そのお陰なのか、なんとか生き延びてきたのだ。

(さて)

男は立ち上がり、ゆっくりと伸びをする。

身長は、それほど高くない。

中肉中背といったところだろう。

しかし、ゆったりとしたシャツから覗く腕は、太く、しなやかだ。

煙草を一息吸うと、名残惜しそうに煙草を見る。

まだ、半分ほど残っている。

(もう少し、待ってくれないかねえ)

ポケットから携帯灰皿を取り出し、揉み消す。

ふ、と息を吐き、にかりと強く笑う。

近付いてくる何かへと、身体を向ける。

星々に照らされ、何かが見えてくる。

人の顔と顔と顔と顔。

人の腕と腕と腕と腕。

人の脚と脚と脚と脚。

幾つもの粘土細工を、一つにまとめて潰したようなモノ。

それに、ぱっくりと口がついている。

その口から吐き出される、不安と怨念と恐怖と嫉妬。

「やるかい」

男は言いつつ、両手に数珠を巻き付ける。

「さあ、この九重紫煙(くじゅうしえん)が、お相手だ」

九重の言葉に応じ、無数の手が伸びる。

ゆるり

と、九重が沈む。

ひゅ

と、九重の頭上を、腕が襲う。

熱い。

空気が、焦げる。

ごお

と、腕が振り降ろされる。

ひゅる

と、九重が避ける。

しっ

と、腕が突く。

ゆる

と、九重が流す。

ひゅ

ゆるり

ごお

ひゅる

しっ

ゆる

ひゅ

ゆるり

ごお

ひゅる

しっ

ゆる

ひゅ

ひゅ

ゆるり

ゆるり

ごお

ごお

ひゅる

ひゅる

しっ

しっ

ゆる

ゆる

ごお

しっ

ひゅる

ゆる

無数の凶風が、九重を襲う。

九重はそれを、ゆるゆると避けていく。

ゆったりと動いているが、それでも当たらない。

じわり、じわりと間合いを詰める。

当たらないことに苛立ったのか、凶風の回転が速くなる。

背中に、じっとりとシャツが貼り付く。

笑みを浮かべているが、九重に余裕など無い。

当たれば、死なず、引きずられ、アレと一緒になるのだ。

必死である。

それでも、焦らず、侮らず、適度に緊張と恐怖を維持させる。

凶風がやむ。

突然の静謐。

九重の目の前には、アレがいる。

目と鼻の先。

その小さな隙間が歪む。

歪む。

ごっ

と、アレが吸う。

と、九重が吸う。

咆哮。

笑み。

無数の腕。

当たる瞬間、ゆるりと回転する。

だんっ

と、踏み締める音と共に、ソレの腹に、九重の拳が突き刺さる。

ソレは、ゆっくりと闇に溶ける。

ぷふうぅ

溜めていた息が、漏れていく。

「やれやれ…」

九重は、額を拭う。

煙草を取り出し、女の部屋を見上げる。

咥えると、ぐっしょりと濡れている。

「ほんと、面倒な仕事だよ」

そう言って、ぷかりと吸った。






台風のお陰で二連休を得た夢枕悪です。
基本、引き籠もっているので、アパートに被害が無ければ、特に平気です。
…食料買い込み忘れましたが…orz

さて、本作は、You Tubeにて配信しておりますショートドラマ『ヤニシカスミの生活』の二次小説でございます。
主演のLUYさんが、チャンネル登録者数100人突破記念でファンアートやろーぜーとの呼びかけの下、執筆しておりましたが、あれよあれよと200人突破していましたwww
本当におめでとうございます(。>ω<ノノ゙パチパチ♪

本作についてですが、多少、本編とリンクしてる箇所もありますが、本編の設定、監督様の世界観と大きく異なると思われます。
どうかご了承ください。

それでは、残暑厳しい9月となりそうですが、皆様、どうか体調に気を付けてください。

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