Fate/chaos chronicle   作:あんのうん

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スマホって、何でこんなに打つの疲れるんでしょうかね……


9、初日─最終

「ふん、どうやらもう取り込み中らしいぜ」

 

 古式ゆかしき平屋作りの武家屋敷、衛宮邸の庭塀は見事に破壊されていた。当たり前の如く担いでいた荷物(・・)を投げ落としてガッツは首を回した。派手な音は聞こえないが、派手な雰囲気は感じる──矛盾したようだが始めての事では無い。まあ、足元で荷物が何やら文句を垂れている様だが、ガッツとしては最低限の望みは聞いてやった自覚があるが為にそれ以上は知ったことではなかった。敵は荷物の小娘曰く、何でも魔術師などという人種に当たるらしい。ガッツからしてみれば中々に響きからして山師の様な名称だが、そういうものであるならばそういうものとして扱えばいい。今までの人生経験から、未知も既知も不可思議も全ては同じ次元に落とし込める事をガッツは知っていた。敵が何だろうと、何処にいようと、逃がしはしない。断ち切れる物ならば全て叩き斬る。只管に慣れた痛みを刻む首筋に指を当てれば、それは血に濡れていた。そう、彼に痛みを刻むモノ。それ即ち、何を以ってしてでも殺すべき存在なのだ。愉悦と言うには凄惨な、忿怒と言うには異質な表情を浮かべるガッツは今まさに殺意の体現者となっていた。

 

「──ちょっと、聞いてるの?魔術体系が違い過ぎて何とも言えないけど、遮音の結界だわ。外に音が漏れない分、中にも音は聞こえない……言いたい事は、判るわね?」

 

「横合いから叩き殺してやるよ」

 

「精々やり過ぎない様にね」

 

 全く違和感の一つも抱かぬとばかりに荷物の様に担がれたのはいいが、全く違和感の一つも抱かぬとばかりに放り出されるのも凛としては予想はしていた。しかし、やられてみれば矢張り文句の一つや二つや三つばかりも出てくるものだろう。言い連ねてみようかと思ったが、どうせ聞かないと思い起こして現実に返った。思い起こしたのは数分ばかりガッツに言い散らかしてからであったと言う事実は、蛇足に過ぎよう。しかし、そのお陰で気付いた。目の前には見事に破壊された庭塀に穴の空いた庭、しかし全くの静寂を保っていると言う事実。確かめる為に、一息吸って細く吐き出す。

 

Briefmarke(刻印) Drehung(回転),die beginnt(起動). Ein Schuler wird gelost und wird es aufgetragen. und ich.(瞳は解きて、私に語る)

 

 魔術刻印の発動は原動機に似ている、魔力と言う不定形のエネルギーにより刻印を廻して起動するのだ。念には念を入れて三工程(トリプルアクション)の解析呪文を構築し、発動させるた結果は思った通りの防音結界。不思議な事は人払いの結界が張られていないのはどう言うわけだろうか。普通は双方共に仕掛けるものだが……矢張りどこか普通の魔術師とは違う。少なくとも、結界の起動点や構築を見る限り先程逃亡したサーヴァントである事は間違いないだろう。それ位あのサーヴァントの魔術構成は特異だ。それをガッツに示唆した意味は一つ、派手に演っても問題はないと言う意思表示であった。それでも釘を刺したのは、家主である同学年の少年に対する凛のせめてもの情けである。何せ凛には弁償する気などさらさら無い、気持ちだけでもと言う奴だ──おまけに気持ちには金がかからない。彼女の使う魔術は兎角金を食う為、自然に身についた経済観念だった。解き放たれるのを待つ野獣に似た空気を発するガッツにちらりと横目を向け。

 

「セイバー、断ち切って来て」

 

 その声で、人型の殺意は戦場へ放たれた。

 

 

「な、なんなんだ、こいつ……!」

 

「公安当局より目撃者及び当事者の消毒を最優先事項に設定されている」

 

「くっ……!」

 

 ポスターを丸めただけの武器とも言えない長物が、一瞬だけ正面の黒いコートの男が振るう黒い杖(ブラックロッド)と拮抗し、斬り落とされる。片やただの厚紙、片や刃の付いている様には見えない棒の、打ち合いには見えないこの事象が起きているのは両者ともに(・・・・・)魔術を使っている事に尽きる。衛宮士郎が正体不明の敵としか言いようの無い男に襲われたのは、軒先であった。以前の屋敷主である彼の義父が仕掛けた侵入者用の魔術警報が鳴らなければ、恐らく既に彼の命はなかったであろう。彼を救ったのは義父からの遺産であり、それに彼は感謝すると同時に歯噛みした。そんな士郎の内心なぞお構いなく、黒い制帽に目の微章を付けた表情がまるで動かない死人が迫る。その姿は士郎の脳裏に焼き付いていた断片の記憶の一つだった。身近にあったポスターに魔力を通す事によって強化し、何とか迎撃したものの半ばから斬り落とされたポスターの残骸を投げ付けて脇をすり抜ける様に駆け出す。危なげなくそれをロッドで叩き落とした死人は急ぐ事なく士郎を追う、死人は決して焦らない。

 

同調(トレース)開始(オン)!」

 

 庭の隅の土蔵に駆け込み、扉を閉めて、閂をかける。ここまでを一動作でやってのけ、そのまま閂に強化の魔術をかける。これで少しは持つだろう、と士郎はほんの少しだけ緊張を緩めた。その間にも武器になりそうな物を物色する手は止めなかった、土蔵の中は彼の修行の場であり息抜きの場でもある。この空間だけは士郎を裏切らない、そんな気すらしてくる。

 

「こんな物しかないか……」

 

 何故か昔から衛宮士郎と言う少年は武具に惹かれた、中でも長剣や短剣と言った刀剣に。今彼の手の中にあるその物体もまた一つの刃物であり、武器であった。腕に装着して使う仕込み短剣、彼が魔術訓練の息抜きに作成した、数多転がる魔力で投影したガラクタの一つである。何かの雑誌で見た特殊なこの武器を何の気なしに投影したはいいが、刃こそある物の外見だけの言わばロマン武器である。何しろ投影して分かった事だが、この刃を使うには構造上指を斬り落とさないと使えないのだ。未だ嘗て武器など投影したことはなかった為の失敗だったのかもしれない──そう考えて放置していた物であった。

 

「でもこんなのじゃどうしようにも……痛っ」

 

 武器の風上にぎりぎりで引っかかるかもしれない程度の武器だが、無いとあるとでは現状では精神的な面でかなり違う。しかし、そもそもが装備出来ないとなると結局のところ意味がないのである。そう考えて手放そうとした士郎だったが刃で指を軽く切ってしまった。じわり、と滴り落ちて床に吸い込まれて行く血は何とか今も彼が生きている事を証明している様にも思えた。

 

「っ、おもい、だした……!」

 

 そして、その鮮烈な紅を見た時に、士郎の記憶は唐突に噛み合ったのだ。夜の校庭で自分が殺された事、手すら触れずに恐らくは魔術で自分を殺した相手の事、それと斬り合う黒い剣士。そして、赤い少女。網膜に焼き付けたその顔は、三つ。人とは思えぬ凶相の男と、己を殺す死人の顔、最後には見知った美麗な少女。

 

「【呪刃】、発唱(コール)

 

 抑揚のない声が、高速で記憶を巻き戻し再生していた士郎の意識を現実へと醒ます。ぱきり、と言うあっさりした破砕音で強化した閂が破壊された事を悟る。元から大した時間稼ぎにならない事は分かっていた、先程の攻防とも言えぬ一幕だけで彼我の魔術の質の差ははっきりと分かる程に士郎は劣っている。それでも尚立ち向かうのは何故か、ゆっくりと床板を踏みしめながら土蔵へと侵入してくる死人と相対しながらその答えを士郎は痛いほどに理解していた。仲間もいず、対するは己の命を取りに来た死人。まるでゲームだ、と苦笑するほどの余裕すらある。視界にはもう相手しか見えない、死を前にした驚異的な集中力が他に振り向ける注意力と言うリソースを全て眼前の敵に注ぎ込んでいたのだ。両手に持つ仕込み短刀を構える彼の顔には諦めだけは存在し得無い、何しろ生を諦めるなどと言う傲慢はこの身に赦されてなどいないのだ。

 

 ぽたり、と一雫の血液が短刀から垂れる。それが暗黙の合図だった。

 

「公務を執行する」

 

「……死んで、たまるか!」

 

 振り下ろされた黒杖と宣告を裂帛の気合の声が受ける。刃筋の立て方が上手かったのか、ぎゃり、と音を立てて偶然にも黒杖は受け流される。そして、その偶然の対価として士郎の手は己の持つ短刀の刃で切り裂かれていた。更に滴る血液が床を濡らす。それを他人事の様に捉えながら、士郎はまだ短刀を離さない。血液が滴り落ちた足元から、濃密な魔力が漂う事にも気付かずに死人の眼を睨む。

 

「お前、何だかわからないけど!ここでなんとかしないと俺の時みたいに人を殺すんだろ?──なら、止めないと!」

 

 その確固たる意思は叫びとなり、放たれる。己の命すら惜しむ事は無い、その意思を言葉に出した瞬間──彼の足元から光が瞬いた。

 

「想定外事項発生、対処する」

 

「あ、あ、あ、あ、あ……!」

 

 黒い死人が左掌に埋め込まれた印形を変化させ、その光に対する何らかの対応を取ろうとしたその瞬間を士郎は見逃さなかった。火事場の馬鹿力で床を踏み抜く勢いそのままに突撃しようと雄叫びを上げる、が流石に素人の動きを見逃す程馬鹿ではなかった。飛び掛かり、中空にある身体を裏拳で殴打、もんどり打って吹き飛ぶ士郎の目の前には黒杖の先端、無常の声が引導を渡そうと紡がれる。

 

「【呪弾】、圧しょ……(クラ……)

 

「さて、喉が潰れてもその文言を唱えられるか試してみるか?」

 

 静やかな声が、黒い死人の呪言を途絶えさせた。まるで意識の合間を縫ったかのように、忽然と出現した白い人影。そして、黒い死人の喉元からは先程まで士郎が持っていた筈の短刀が、背後から生えていた。

 

「ふむ、簡単には死なないか。どうにも厄介な物だ。初めまして、君が私のマスターとやらかな?──む?」

 

「敵性存在を確認、排除する──【呪弾】、圧唱(クライ)

 

 音もなく腕元にするりと短刀を滑り込ませながら、瞬時の内に士郎の前に現れる。細やかな装飾をされた白いフードの下に、頑丈さが見て取れる防具を着込んだ男だった。隠れて目元が見えないが、士郎にかける声は真摯なものである。だが、士郎の言葉を聞く事なく、男は唐突に訝しげに入口に視線を向けて唸った。それに答えたのは黒い死人、左掌の印形が激しく光り輝く度に損傷が修復される。瞬く間に喉の傷を塞いだ死人は、戦闘続行を発言し──同じく白い人影の視線の先に魔術を発動する。

 

 衝撃音。

 

 重さと勢いで半分程閉じていた外開きの土蔵の扉。それが外に向かって放たれた魔力弾の衝撃で勢いよく開け放たれたと同時に、どう言う方法かそれを打ち返された(・・・・・・)衝撃を受けて、半壊した音である。

 

「知らねえ内に、一人増えて随分と楽しそうじゃねえか。何で増えてるんだか知らねえが──さっさと、死ね」

 

 扉の向こうから現れたのは黒い男だった、長大に過ぎる大剣を振り抜いた体勢から炯々と激情の色を湛えたその眼は、何よりも殺意の権化である。黒い剣士ガッツ、堂々の参上であった。

 

 最初に動いたのは死人だった。ガッツの獲物であれば狭い室内の方が一見有利であると見える。だが、一度相対してガッツの膂力を知っていた死人──キャスターは逆に室内は危険と判断、印形を瞬時に変更し何らかの魔術を起動、凄まじいまでの瞬発力で外へと逃げ出した。対して己の脇をすり抜けて逃亡しようとする黒いキャスターを確認したガッツは、背後に飛びながらもその勢いを利用して回転するかの様な横薙ぎを放つ。死人は超人的な瞬発力で既に間合いの外であり、大剣を振り切った隙を見逃さずに間合い外からの攻撃を選択する。

 

「【致死】、圧唱(クライ)

 

「ハ──遅えよ」

 

 キャスターが発した致死の呪文は、ガッツの身体を隠す様に構えられた鉄塊により霧散させられる。未だ塀を超えたばかりだった凛は、遠目からそれを目撃して息を飲んでいた。ガッツが飛び込んだ直後の土蔵から放たれた蒼い光と魔力の渦は確実に召喚が為された結果である。彼女の脳裏にある召喚者候補は一人の少女、この家に良く訪れていると聞く彼女の半身とも言える少女だ。真逆、それを行ったのが思考の慮外にいる当事者の少年だとは流石の彼女も現状想像してはいない。

 

 桜が、いるのかしら。そうであるならば今度こそ彼女は、敵として相対せねばならない。その想像をチラリと脳内に展開し、振り払う。邪念は、目の前の結果すら逃すと分かっているからであった。

 

 しかし、と凛は思考を続ける。ガッツはセイバーの割りに対魔力の低さがネックだと思っていたが、あの大剣にそんな使い方があったとは、と舌を巻く。恐らくは大剣に宿る持ち主にも牙を向きそうな程に攻撃的な神気が、剣腹に当たった致死の呪文を分解してしまったのだろう。相も変わらずデタラメな男である、と半分呆れてもいた。呪文を圧唱した直後の隙をガッツも見逃さない。瞬時に間合いを詰め、烈風すら巻き起こす神速の袈裟懸け。それに何とか対応したキャスターをこそ賞賛すべきであろうか。ギリギリで身体を横に飛び退く様に移動させる。地面を掘り返し土砂を巻き上げながらの逆袈裟気味の斜め薙ぎは、キャスターの額を掠った程度で躱される。土蔵からそれら人外の攻防を目撃した士郎は息を飲む。黒い剣士の剣捌きに黒い死人のトリッキーな動き、それらは一つ一つが極致に身を置く者の業であった。

 

「さて、あの二人が熱心にやりあっている内に自己紹介でも済まそうか。マスター?」

 

「マスターって……誰が?」

 

「君のことさ、ラインが繋がっているのは分かるだろう?──兎も角、君は私のマスターだ……この殺し合いのね。さあ、私と言う手駒で君はあの二人をどうする?」

 

 淡々と白い男は士郎に、あの二人への背後からの強襲を匂わせる──今ならば隙を突けると。それに士郎は素直に頷きを返せなかった。己の記憶が正しければ、あの黒い剣士は己を救ってくれたのかもしれない恩人である。自分を襲ってきたもう一方の相手にしても、それを殺すか、と聞かれるとどうしても忌避感が否めない。

 

「では、このまま見ているのも一興か。恐らくそう時間はかからないで終わるだろう」

 

 士郎の心中を読み取ったかの様に頷いた彼は、士郎を土蔵の外へと連れだした。彼の言う通り、数合の打ち合いの後、魔人同士の争いは終局を迎えていた。

 

「グ、ググ……!」

 

「どうした、そんなもんだったか?」

 

 掠った額を押さえながら呻くキャスターに不信を憶えたガッツは、挑発で様子を見る事にした。大した傷では無い、手応えすら無かった程度だ。薄皮を切り裂いた程度、とガッツ自身は判断していた。しかし、それだけの手傷で唐突に壊れた人形のように動きを止めるキャスターの様子は不気味であった。今の今まで死人だった顔に微かに表情が伺える様にすら見えるのはまるで、死人から人に戻ろうとしているかの様にも見えた。刹那の思考により、ガッツは状況を押し切る事に決める。

 

「じゃあな、死人」

 

『見つけた見つけた、みぃつけた!やっと出てこれた!』

 

 ガッツは振りかぶった剣を止めた、声の主はどこにもいない。されど存在だけは感じる。なんだ、これは──ここまで明瞭に声が聞こえるにも関わらず、気配を感じる事のできない相手をガッツは知らない。それ以前に、首が痛まない(・・・・・・)事が不可解さを増している。声の位置を探すのは手間ではなかった、それはなんと庭塀の欠片だったのである。

 

『探しても無駄無駄ムゥーダッ!あたしは言霊、彼の中に残った残りカス!』と、無数の欠片が一斉に口を聞いた。

 

 なんだ、こいつは──その呟きと共に庭塀の破片は大剣によって粉々に砕かれる。だが、お喋りは止まらない。

 

『初めまして、さよなら!私はヴァージニア・サーティーン。私は捨て駒、私は用済み、私はただのゴミ!そして目覚まし時計!よーくお聴き、よくお聴き!』と、庭の木が口を開いた。

 

「……言霊だけの存在?魔力を消費したら消えてしまうだけの木霊で何を?」と、凛が眉を顰めて呟いた。この出来事自体が全く意味を掴めない。

 

『汝魔術士、七重に名を秘めし者!されど今、我は汝が名を七たび呼ばん!!』

 

 言霊は只管に調子外れな少女の声で一方的に続ける。ガッツは害はないと判断し臨戦体制で構えるだけである。どの道、物理的な攻撃は何の意味も為さない。

 

『スレイマン!【嗤う悪霊】!』

 

『スレイマン!【スペルジャグラー】!』

 

『スレイマン!【踊る死人占い師】!』

 

『スレイマン!【馳せる疫病】!』

 

『スレイマン!【怒れるジョーカー】!』

 

『スレイマン!【悪意のアヴァタール】!』

 

 庭木が、土蔵の扉が、障子が、大黒柱が、瓦が、塀のひび割れが、投影の失敗作であるスピーカーが、それぞれ声を出し、静かになる。

 

「解呪にしては、おかしな手順ね……?」

 

「クハ」

 

 凛の呟きは、キャスターから漏れた呼気の漏れた様な嗤い声で以て返された。全員の視線がキャスターへと集まる。当のキャスターは今までの無表情が嘘の様に肩を震わせて噛み殺した様な嗤い声をあげる。

 

「ハ、ハ、ハ!」

 

 呵々大笑、そんな言葉が浮かぶ程の嗤い声。そこに含まれた感情は嘲笑、表情もまさに人間的な物が浮かんでいる。それ即ち──悪意と傲慢。

 

「クハ、馬鹿が馬鹿どもが!寄ってたかって群れて来やがる。素晴らしい眺めだ、素晴らしすぎて漏らしちまう!」

 

 いつの間にか、キャスターの左眼が蒼い虹彩を持っている事に皆が気付いていたが誰もそれに違和感を持たなかった。そも同一人物なのか疑わしいと言う認識で統一されている以上、些細な事であったのかもしれない。それ位、唐突な変貌だった。

 

「初めましてとご挨拶申し上げたい処だが、親愛なるクソ忌々しいクソマスター殿が帰って来いと煩い。残念だがここまでだ、嗚呼全く残念だ!」

 

 お礼に全員腐れた死体に御招待したいところだったんだが、と愉快に話すその眼は正気で、狂気だった。息をする様に狂っている。と凛は怖気を走らせた。

 

「じゃあな雑魚共、今度はパパがゆっくり寝かしつけてやるからなあ?」

 

 全員を、その中でも主に凛を舐め回す様に視姦して、背を向ける。己が上位者であると全く疑わない、傲慢さが満ち満ちている。

 

「そう言うな、ここで死んでけ」

 

 ガシャリ、と重々しい音が鳴った。ガッツが義手を支えるように構えている。何をする、と凛が問いかける間もなくいつの間にか咥えられていた紐を躊躇なく引き絞る。

 

 爆音。

 

「アンタ、何してんのよ……!」

 

「た、大砲?!」

 

 轟音と共に義手の手首が折れ、火炎が飛び出した。向かう先は元キャスターだった何か、だがそれに向かって印形の掌を伸ばした元キャスターに、あっさりと受け止められていた。

 

「死ねだって?【煩え、馬鹿手前が死ね】!」

 

「チ……!」

 

 返す刀で発生されたのは只の声、だが込められた魔力の桁がおかしい所為でそのまま致死の呪いと化してガッツに襲いかかる。それを剣腹で再び受け流して、気付いてみれば敵は消え去っていた。

 

「逃げられた、わね」

 

「……ああ」

 

 凛の言葉に、ガッツが憮然とした表情で頷いた。一先ずの戦闘の終結を見たところで、もう一つの問題を片付けようと凛は振り返った。

 

「遠坂……だよな?」

 

「私以外に誰に見えるのかしら、衛宮君?──処でそこのサーヴァントは、未だ戦闘の意思はあるのかしら。そこまで殺気をぶつけられると、私としても彼を抑えられる自信は無いわ」

 

「……いや、今は敵対しないさ。なあ、マスター」

 

「敵対……って、なんで俺と遠坂が?」

 

 そう言う士郎の顔は全く状況を理解していない様に見えて、凛は溜息を吐いた。戦闘は終わったが、自分の苦労はここからの様だ、と。




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