Fate/chaos chronicle   作:あんのうん

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6、初日━3

「おい、何だこれは」

 

「サーヴァントの癖に、何故かエーテル化出来ない誰かさんの為の苦肉の策よ。昼間、その格好で動き回るわけには行かないでしょう?」

 

胡乱げな目をしたガッツの言葉に、凛は鼻高々に言いのけた。陽も暮れた頃、軍資品を買ってきたと帰宅して早々に凛が取り出したのはどう見ても服であった。出掛けた間に鎧を脱いだらしいガッツの体躯は、矢張りと言うか傷だらけであり歴戦の兵と言う風格は確かにあった。そこに凛が取り出したのが、サイズ特大の迷彩柄カーゴパンツに黒いシャツである。鎧無しですら尋常ならざる威圧感を放つガッツに着せた瞬間に、様々な意味で破壊力が強過ぎる一品となる事は間違いないだろう。凛としてもわざわざ選んで買ってきたわけではなく、ガッツの体型で着衣可能な服がこんなモノしか無かったと言う身も蓋もない現実的な理由からの選択だったのだが、ガッツの反応に我に返り正直早くも後悔し始めてきた。世にも珍妙なモノを見る目付きでつまみ上げた服を眺めるガッツにしても、何か言いたそうな表情である。

 

「……何よ、言いたい事があるなら言いなさい?」

 

言外に、苦情は聞くだけ聞くけど基本無駄よ、と言うニュアンスを匂わせながらも形だけ問いかけた凛に対するガッツの返答は、予想の斜め上だった。

 

「敵がいねえなら、昼は寝てりゃいいだけの話だろう?」

 

「何処のニートよ、アンタ……」

 

がっくり、そう形容するに相応しい脱力振りを見せた凛は、ガッツに対する能力評価を下方修正した。株価でいえば下げ止まらない状態でもある、底値も最早近い。何時の間にやら、二人称も貴方からアンタへとランクダウンしている辺りからもその辺りの心情が伺える。

 

「こっちの世界でも、こんな冬の時期には何やら羽織るんだろう?なら、其れで充分だ。忘れているのか勘違いしているのか知らねえが、俺の武器も防具も呼べばやって来るような便利なものじゃねえぞ」

 

詰まるところ、その格好で敵に遭遇しても十全と言い難い状態での戦闘になると言う申告だった。それは不味い、己の失策で足を掬われるのは全く勘弁である。そう考えれば、ガッツの言葉には一理も二理もあった。だからと言って、昼間は寝ているというのは当たり前に却下だが。凛は戦争する為のサーヴァントを召喚した訳であり、夜も寝ずに昼寝する様な役立たずを召喚したわけでは断じてない。

 

「そうよね、装備の問題があるのよね。本当、悪い所ばかり規格外だわ」

 

エーテル化と物質化により、非戦闘状態と戦闘状態を切り替えるのが基本的な聖杯戦争であると聞いたが、それすら覚束ないわけだ。戦闘になれば完全な装備状態で物質化出来るであろう他のサーヴァントと違い、あくまで現実に即した行動しか取れないガッツが凛の買ってきた服で戦闘に臨めば━━文字通り徒手空拳で戦う事になる。これは凛でなくとも辛辣な言葉は出るだろう、寧ろ他の魔術師と比べれば優しい扱いであるかもしれない。

 

魔術師とは閉じた世界の住人である、そして得てして歪んだ自尊心を持ちやすい傾向にある。少なくとも一般的には人格の高潔と言われる人間が魔術師となった場合、大抵は劣等の評価を免れぬ事は出来ないだろう。どんな環境であれ、閉じた世界は空気が淀む。淀んだ空気は人を歪めるものである、それが閉じた世界をこそ容認する環境であれば名分を得て加速していく。その典型であり、その末路を凛は身近で知っている。奴であれば、鎖で以てサーヴァントを飼うつもりであってもおかしくは無い。まあ、それ以前に参加出来るとは思えないが。

 

「アンタがどう思おうと構わねえよ。やる事が無いなら、俺は好きにやる」

 

「待ちなさい、無い訳が無いでしょう?」

 

何をするつもりか大剣を担いで出て行こうとするガッツを、腕を掴んで引き留めた。実際は引き止めるどころか、若干引き摺られてからガッツが止まったというのが真相である。引き摺ってから漸く気付いたとばかりに視線を向けられた事に、凛としては色々と言いたい事があるが今は置いておく。

 

「街に出るわ、準備して」

 

「あん?」

 

「アンタのその武器、それだけ大きいと狭い所だと不利でしょう?少しでも有利に戦える場所を見繕うのは無駄じゃないわ」

 

セイバーたるガッツの戦闘能力が不明な以上、土俵だけでも此方の土俵に引き摺り込みたい。その為の偵察という事である。能天気に、むむむなるほど!などと声を上げているパックは既に空気の様な扱いである。差し詰め、賑やかなポルターガイストとでも表現すべきであろうか。そして本命たるガッツは暫し凛を見つめ、ふん、と鼻を鳴らして鎧を付け始めた。片手の義手を物ともしない手早い装備である。普段が全くやる気のない様子である所為か、やる事はやる様であるその姿に凛は少しだけ安堵した。

 

「まずは、そうね……新都辺りでも行ってみましょうか」

 

「任せる、土地勘は全く無いんでな」

 

背に大剣を背負い、全身を隈無く黒いマントで覆ったガッツが凛の言葉に答えた。そのガッツの姿に、夜とは言え人目には注意すべきだと改めて実感して凛は扉を開けた。大体にしてよく考えると視界に入れなくても圧迫感を感じる様な男がだ、見た目を多少変えた処で目立たなくなる筈が無い。それならば逆に余計な事をしないこの方が良かったのかもしれない、と背後からの威圧感を受けながら凛は脱力感と共に己を無理やり納得させた。

 

「そう言えば、天井直しておいてくれた?」

 

「あん?俺にあんなもん直せるわけないだろうが」

 

「せめて少しは頑張って見たけど、くらいの振りはしてくれないかしら」

 

静かな住宅地の夜道を歩きながら、教会へ行く前に頼んでおいたことを確認する凛に、きっぱりと何の衒いもなくやってないと口にするガッツ。聞いた方も答えた方も互いの認識に齟齬がない会話だが、そこにあるのは信頼関係とは真逆であると言うどうにもならぬ空気であった。しかし、最初の召喚時のあのギスギスとした空気からはかけ離れた物でもある。そう言った意味では、主従はともあれ関係としては悪い物ではないだろう━━その事に凛は密かに安堵していた。下手な地雷を踏み抜かなければ、この関係を維持する事は難しくない。後は戦闘能力の確認が取れるならば、他のサーヴァントへの対策も立てられるだろう。凛が出来る事は前衛としてガッツが飛び込んだ背後から補助をする位の物であろうが、ガッツの行う戦闘の流れの端緒でも掴めれば連携を取る事も不可能では無い筈である。

 

まずは、歩きながらでもガッツの能力を具体的に確認すべきだろう。良い方法は、と考えて見ると、確かシステムの補助でサーヴァントのステータスが見られる筈である事を思い出した。同時に今の今まで確認していなかった己の不首尾に気付いて、凛の顔が赤くなる。唯でさえ召喚時間のミスと言う、初手で行うには最大級の失敗をしているのだ。思いつかなかったのは召喚後で体調が悪かった、など死ぬ可能性の前には欠片の言い訳にもならない。因みにパックは霊体化と念話が出来る特性を生かして、現在斥候中である。しかも激しい感情を持つ存在がいると可視不可視に関わらず感知出来ると言う、精神感受能力を持っていることが冬木教会で明らかになった。世の中何が役に立つかわからない、当人は最後まで嫌だ嫌だと反対していたが。そう言った理由もあって、周囲の警戒に意識を過剰に割かなくて良い状況は凛の精神に多少のゆとりを齎していた。

 

サーヴァント、ステータス、と段階的に意識を移動させて見ると脳裏に見慣れない画面が浮かんでいた。これがステータス確認という事だろうか、物の話に聞くゲーム画面とやらに似ている様な気がする。

 

一番上の項目はクラス名、セイバーと表示されている点で間違いない。次に真名の項目、ここにはガッツと同時にパックとも書かれている。聖杯はこの二人を併せて一体のサーヴァントと認識している様である。でなければ、凛は一人でサーヴァント枠を二つ使っている事になってしまう。その下はマスター名、無論だが遠坂凛の文字が記載されている。よくよく考えて見ると、サーヴァントの確認など最初からこの機能を使えば良かったのではないかと気付いたが後の祭りである。どうも凛は、この手の文明の利器とやらに通じる機能全般が苦手なのであった。更に項目を進めると、身長体重性別などの身体特徴欄、属性が記載されている。そして、ある意味本命であるパラメータの欄。筋力から始まる六項目が、アルファベットで格付けされて表示されている。

 

「見た目通りではあったけど……ここまでとは思ってなかったわね」

 

言葉に表せない、と言う態で凛は漸く口を開いた。確かに体型的にも武器的にも低いとは思っていなかったが、真逆筋力がA+などと言う化物染みたステータスだとは思っていなかった。耐久と敏捷がBもあると言うのも、かなりバランスブレイカーではないかと思われる。確かに敏捷に関しては既に凛は召喚時に体験して身に染みてはいた。危なく、命を等価交換に持っていかれる処だったが。だが、残りの項目である魔力がEで幸運がDと言う惨状に、凛としては先程とは逆の意味で言葉が出なかった。何があったかはわからないが酷過ぎる。対魔力スキルがあると言われるセイバーなのに、魔力が最低ランクとは一体何の冗談なのか。

 

「アンタの人生に、俄然興味が湧いてくるようなステータスね」

 

「知らねえな」

 

相も変わらずこの態度であるが、流石に慣れたので特にそれ以上追求もしない。下手な事で虎の尾を踏むのは勘弁である。パックに方向を指示しつつ到着したのは、教会に向かう際にも渡った大きな橋の袂であった。冬木大橋、新都と深山町を分ける未遠川に掛けられた橋である。

 

「この辺りなら多少は楽に戦えるんじゃないかしら?」

 

「剣振るだけなら、まあな」

 

「煮え切らない返事ね、他に何か攻撃方法があるの?」

 

さあな、と肩を竦めるガッツ。良い加減、秘密主義も大概にして欲しい物である。ステータスのスキル欄も、当人の許可がないとロックが掛かっているらしく見る事ができない。つまりは戦略が立てられないと言う事にも繋がる。最もスキルについては、当人もどうやらよく理解していないらしいと言うのが実際の話の様だ。例えば己の戦闘経験の内、一体何がスキルに該当するのか、と問われて見ると確かに分からない。実際の経験と文字で見るステータスの括りは別の物である事は、凛も理解している。その経験や特技の中でもより顕著な物を、スキルとして聖杯が取り出して表示しているに過ぎない。それを聖杯のシステムサポートで各々のサーヴァントがスキルと認識しているとするならば、何故か聖杯からのサポートがちぐはぐなガッツやパックが理解出来なくても仕方ないのかもしれない。

 

「ま、パラメーターが分かっただけでもかなりマシだわ。少しはセイバーの実力も信頼できそうよ」

 

「勝手な野郎だ」

 

「あら、野郎は無いんじゃないかしら。これでも私は女なんだけど?」

 

「知るか」

 

橋の袂の小公園で言い合う男女、そこだけ抜き出して見ればある意味ロマンスだが、ガッツの風体が何もかもを裏切る程に胡散臭い。一昔前なら人攫いなどと間違えられそうである。そうで無くとも凛の格好は配色的に目立つ。黒尽くめのガッツはまだ幾らか夜闇に隠れそうだが、凛の格好は赤を基調としている。一ヶ所に留まらない方がいいだろう。

 

(リン、何かが凄い早さで来る。何だろう、凄い……怖い!)

 

「……っ!」

 

緊迫感を帯びたパックの念話が、弛緩した雰囲気を一気に引き締めた。それと同時にガッツの小さい呻き。見れば、首を抑えて顔を顰めている。何か攻撃を受けたか、と一瞬考えたがそうでもなさそうだと判断した。パックの感覚は、綺礼を見た時の一言で一考するに足るだけの物だと凛は思っている。尋常じゃない早さでの移動と言う報告も加味して、パックが発見した相手は恐らく他のサーヴァントだろう。問題はその行動である、つまり目的は何だろうか。開戦前の攻撃は基本的に厳禁となっている、その為問題行動を起こすまでは基本的に手が出せない。始まりの御三家と呼ばれ、この地を管理する遠坂家としてはあからさまなルール違反をする気にはならないと言うこともある。向こうは一体どういう行動を取ろうとしているのか。その思考を念頭に、パックに連絡を取る。

 

(パック、気付かれてる?)

 

(それは大丈夫みたいだけど……猛烈な勢いで走ってる)

 

(どっちの方向?)

 

そうしてパックが示した方向を聞いて、凛は脳を全力回転させる。ガッツが凛の変調をガッツなりに察したらしく、此方を伺う様な空気を凛は感じるが返答する余裕は無い。一体何処からか?それは、確実に新都に拠点を持つ者の手だろう。凛の拠点である深山町から冬木大橋に移動したのは夕方から夜に掛けて、新都方向と深山町を結ぶ地点は基本的にこの冬木大橋以外には無い。その間に深山町から新都へ、新都なら深山町へ移動したサーヴァントはいない。いれば、パックが反応を見つけているだろう。または、凛へ何らかの干渉をしてきた筈である。何しろ凛のサーヴァントはエーテル化出来ない、他のサーヴァントにとっては闇夜を照らす灯台の様に目立つだれう。そして、魔術師の行動時間は基本的に夜である。神秘の隠匿と一般人への被害や干渉を最低限に抑える事が出来るのが夜である為だ。事を大事にすれば教会からも協会からも処刑人(エグゼキューター)が派遣され、最終的に行き着く先は優秀さによって変わるが命は彼岸行きなのは間違いない。つまり相手が昼に事を荒立てる程の先の見えない馬鹿でなければ、以上から前述の過程が成り立つ事になる。更に走っていると言う報告から、物質化つまり現界して移動している処を見ると、その事自体に何かの要因が絡んで来るのかもしれない。無論、ガッツの様な根本的にどうしようにもない理由も可能性としてゼロではない。

 

「セイバー、あの仮想敵を追って私を抱えて全力移動。パラメーター的には問題無いわ、その方が確実に早い」

 

「……ふん、文句は聞かねえぞ」

 

そこまでの思考で凛は、躊躇無くガッツに"命令した"。それに対してガッツは文句を言わず凛を持ち上げる。凛の危機感が通じているのかは分からないが、そのまま肩に担ぎ上げるガッツに多少の文句はあったが素直に担がれる。くだらないことを言っている場合ではない。何故なら謎の影が向かう先は、穂群原学園。遠坂凛の通う高校であったのだから。

 

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