「お、おかえりなさいませお嬢様」
「きゃー!」
「おい、風真!恥ずかしさが残ってるぞ」
「いやわかってるけど、恥ずかしいし...」
「今日だけなんだから吹っ切れてもいいだろ、お前目当てで来てくれる客もいるんだから期待裏切るのだけはやめろよ」
「...わかったよ」
「わかったんなら早く接客行ってお嬢様たちをもてなしてこい!」
待ちに待った高校生活2度目の学園祭が始まった。体育館で全校生徒が集まり、生徒会が作り上げた面白おかしいオープニングを皮切りに全校生徒の熱気が俄然高まった。これぞ学園祭と言った雰囲気で縁日でする模擬店の準備の時でさえみんなのやる気が伝わってきた。
「あ、尾丸さん。来てくれたんですね」
「おー風真先輩じゃん!ていうかはーちゃんって名前なに?w」
「なんか源氏名?みたいな感じらしいですよ」
僕たちはあくまでも表面上は執事ということらしいがホストのように源氏名を持っている。だったらいっそのこと最初からホストカフェでも良かったのではないのか。ちなみに柊の源氏名はまーちんだ。
「それよりもそれよりも!アレやってくださいよ、おかえりなさいませってやつ」
「いやまあ、ええと...。おかえりなさいませ、お嬢様」
「あはは!ガチでおもしろいんだけど!」
「ちょっとおまるん、先輩だからやめて方がいいって...」
「大丈夫だって!はーちゃんはなんといっても優しいですから」
「大丈夫ですよ、尾丸さんいつもこんな感じなので。静かにしてほしい時は低気圧にすればいいだけなので」
「おいやめてくれよ!」
「まあひとまず、ラミィたちは全員オムライスでいい?」
「えーあたしラーメンの方がよかったな」
「ここには置いてないんだから我慢してよししろん...。じゃあオムライス4つお願いします」
「かしこまりました」
いつまでたっても接客には慣れなかった。さらに知っている人にこの有様を見せてしまうことで恥ずかしさに拍車がかかる。できる限り見せたくは無いが接客という仕事を任されてしまった以上、僕に拒否権なんてないのだ。
「お待たせ致しました。こちらオムライスです」
「おー美味しそうだね!せっかくだし初めての学園祭を祝って乾杯しようよ。ねえラミィ、イタリア語で乾杯って知ってる?」
「え?知らないけど」
「○○○○」
「ほんとに最低だよ」
「じゃあ乾杯!」
「ちょっとししろん早いって...」
1年生はなんだか見ていると自然と元気をもらえる。孫の姿を見て元気が湧いてくると言っていた祖父の言葉が今わかったような気がする。
「ああ、はーちゃん先輩に一応言っとくと、こっちが雪花ラミィで、こっちが桃鈴ねねで、こっちが獅白ぼたん」
「みなさん名字がとても特徴的なので覚えやすいです」
「えへへ、でしょ〜よく言われるー。それでねねの名字は?」
「桃鈴さんですよね?さすがにいまさっき言われたことなので分かりますよ。桃鈴ってなんか可愛らしい苗字ですね」
「そうですか〜?もしかして可愛いなんて言ってねねのこと落とそうとしてます?」
「いいえ」
「いや即答はやめてください」
「それでみなさんオムライスは美味しいですか?」
「はい!ラミィ的には結構美味しいと思います」
「私はやっぱりラーメンが...」
「わかったから学園祭終わったらラーメン行こうね〜」
「ラミィちゃんの奢りね」
「それはやめて」
和気あいあいとしている尾丸さんたちに時々相槌を入れながら接客の仕事を果たしていた。知っている人に会うともちろん恥ずかしいが、知っている分会話はしやすいので僕的にはとても助かった。
「じゃあね〜はーちゃん先輩!時間あったらポルカたちのとこも来てね〜」
「わかりました、それじゃあ学園祭楽しんでください」
「いや〜風真君面白かったよ〜。後輩の女子相手にたじたじになっちゃって」
「あんまり見ないでくださいよ紫咲さん。僕も恥ずかしい思いしながら接客してるんですから」
「だって〜、見てる側はちょー面白いしw。まあ風真君がいるおかげでシオンたちのクラスは結構お客さんが来てるみたいだけど」
「僕のおかげなんですかね?」
「まあそうじゃない?バスケットの試合のあとからたまに風真君の話を聞くよ」
「と、いいつつほんとは嬉しいくせに〜、素直に喜んでもいいんだぞ〜」
「やめてください...。せっかく紫咲さんのメイド服似合ってるって褒めようとしてたんですけど、気が変わりました」
「え!似合ってる?!でしょ〜シオン的にもこれは自信あるわ〜」
「意外と乗り気なんですね」
「まあたまにはいいじゃん、普段は絶対に着ないけどね」
「話はここら辺にして仕事をしましょう、それでは」
「はいはい」
恥ずかしいことに変わりはないが、非日常的な空間が僕にとっては新鮮で楽しかった。
「ちょっとお嬢ちゃん、連絡先教えてくれない?」
「え?いや、ちょっと困ります...」
「俺ら先輩なんだからちゃんとメイドらしく御奉仕してくれよ」
「すみません、うちのメイドが困ってるのでそういうのはお引き取り願いたい」
「なんだ?お前、少しバスケ上手だからって調子乗りやがって」
「それは関係ないですよね?いいから早く出てけって。大事にしたくないからさ」
「あ!せんせーいこっちです〜」
「ちっ、覚えてろよ」
「いや〜助かった余、風真君」
「僕も正直焦りました。紫咲さんが先生呼んでくれなかったら僕もやばかったです」
「え?呼んでないよ?」
「はい?」
「ま、結果オーライでしょ!でも現実にもあんなモブ臭い男の人っているんだね〜、威勢だけ良くて案外弱そうだったし先輩面すんなって感じ」
「百鬼さんはとりあえず大丈夫ですか?なんか変なことされたりとかは?」
「ううん、余は大丈夫」
「やっぱりあやめって人気あるんだよね〜、本人に自覚はないっぽいんだけど」
その後は癒月さんが生徒会にチクったらしくコテンパンにされたらしい。クラスの女子がナンパされるいかにもラノベみたいな展開に直面するなんて考えてもなかったため、解決案なしに体が動き出してしまった。穏便に済ませることができて何よりだ。その後は無事に仕事をやり切り達成感に浸ったところで腰を上げ、学園祭を回るべく、執事服とはおさらばした。
「お兄ちゃん!こっちでござる」
「ああ、いろは。ようやく見つけた」
人混みを掻い潜り我が妹をついに見つけることができた。
「お兄ちゃんのところなんかヤンキーみたいな人が来たんでござるか?」
「そうなんだよね。ほんとに現実なのかなって感じ」
「そいつらは不届き者でござる。もしお兄ちゃんに何かあったらござるがじゃきんじゃきんでござる」
「まあまあなにもなかったからいいよ。それより今は学園祭を楽しんだ方がきっと得だよ。ほらお兄ちゃんがいっぱい奢ってあげるからなんでも好きな物食べな」
「ほんとでござるか!じゃあまずは焼きそばと〜」
「うん、定番だね」
「あ!チュロスも食べたいでござる」
「たまに食べると美味しいよね」
「あとナスの1本漬けと...」
「さすがに学園祭には置いてないかもしれないね...」
要望通りいろはの行きたいところに付き添ってあげた。食べ物だけじゃなく、射的やヨーヨー救い、先輩である3年生のクラスでは自分たちで作ったという簡易的なジェットコースターもあったため一緒に乗った。学園祭クオリティとはとても思えなく、短いながらも十分に満足することができた。でもできればここにだけは来たくなかった。
「ねえ、いろは?絶対ここ出てくるよね...?」
「うんそうだと思う...。お兄ちゃん先行ってよ」
「いや絶対にやだよ。お兄ちゃんがお化け屋敷嫌いなこと知ってるでしょ?」
「ござるも無理...」
「じゃあなんできたのさ!ほんとにもう」
「いや〜お兄ちゃんがいるからいいかな〜って。あとお兄ちゃんが怖がってる姿が見たかったでござる」
「...最悪だ。ってわぁあああ?!?!」
「あはは!お兄ちゃん驚きす、キャー!!?」
僕らは叫びまくった、人目を気にせず傍から見たらなんでこんなに苦手なのに来たんだろうと思われるくらいには。
「いらっしゃい、ああいろはちゃん。来てくれたんだ」
「キャー!すいせい先輩今日もかっこいいでござる!」
「星街先輩の衣装はかっこいい系なんですね、ホストみたいです」
「ふっ、まあね。すいちゃんを活かしてくれるのはこの衣装なんじゃないかって」
「そのテンションでずっといたんですか?」
「え、気まぐれだけど?」
「ですよね、いろはがうちわにサイン書いてほしいって言ってて、良かったら書いてもらえませんか?」
「もちろん、ここでいい?」
「はい!もう思う存分書いて欲しいでござる!」
「...はいこれでいい?」
「もうござる死んでもいいでござる...」
「いやまだ花火あるからそれまでは息絶えないで」
「あー!風真兄妹!」
「ああさくら先輩」
「さっきみこたち風真君のクラスに遊びに行ったんだけどちょうどいなくて、いる時間聞けばよかったにぇ、すいちゃん」
「まあシフト的に厳しかったんじゃない?」
「そうかもしれねーけどさ!やっぱり後輩の頑張ってる姿を見てあげたいじゃん!みこたち先輩だし」
「まあ今は兄妹のてえてえところを見せてもらうとしますか」
「ええ...」
先輩たちの出し物は学校の中でも一際完成度が高かったさすが先輩と言ったところだ。来年僕たちは無事に最高学年になれるんだろうか。
<全校生徒のみなさんは校庭に集まってください>
「お兄ちゃん、これって花火?」
「そうだね、去年と同じならきっと花火が上がるよ」
「お兄ちゃんはござるとずーっと一緒にいてもいいの?」
「今日はずっと可愛い妹といる予定だったから大丈夫。逆にいろはは大丈夫なの?沙花叉さんと博衣さんが待ってるんじゃない?」
「ござるもお兄ちゃんと同じ考えでござるよ。じゃあ早く校庭に行くでござる!」
「いや、僕たちは校庭じゃないとこに行こう」
「お、屋上なんて大丈夫でござるか?先生たちにしばかれるんじゃないでござるか?」
「普通だったらね。まあ大丈夫だよ。あ、花火が上がるよ」
「うわ〜!綺麗でござるな!学校で花火見れるなんて考えてもいなかったでござる!」
「結構規模も大きいしね。さすがホロライブ学園って感じがするよ」
「谷郷校長さまさまでござるね」
「それで、今日は楽しかった?」
「うん!すっごく楽しかったですござる!お兄ちゃんと回れてござる嬉しかった!」
「そっか、お兄ちゃんも嬉しかったよ」
「それで、お兄ちゃん...」
「なに?」
「今日のござる...どう?」
今日のいろははいつものポニーテールではなくブロンドの綺麗な髪は編み込まれていて、学園祭のみ許可されている化粧のおかげもあってかいつもの天真爛漫さとは打って変わってクラスTシャツを着ているのにも関わらず艶やかな感じに仕上がっていた。
「うん、綺麗だ」
「ほんと?えへへ、やったでござる。お兄ちゃんに綺麗って言って欲しくてござる朝早くから起きて頑張ったでござる」
「そっか...。ありがとう」
「え?なんでありがとうでござるか?」
「なんとなく一緒の学校に来てくれて嬉しかったなって思って、言いたくなった」
「そうでござるか、ござるは最初からお兄ちゃんのいるところに行くって決めてたでござるから!」
「小学生くらいの時に言ってくれたのは覚えてるけど、まさかほんとに来るとは思わなくて」
「えへへ、だってお兄ちゃん好きだし...」
「はは、ありがとう」
「もう!お兄ちゃんも好きって言ってよ!ござるだけ恥ずかしいじゃん」
「いや照れくさくて...。お兄ちゃんも好きだよ、これからも兄妹で仲良く暮らそうな」
「やっ.....お兄ち.......好きは意......が違.......ざる」
「ごめん!花火で聞こえてない」
「なにも言ってないでござるよ!それよりもずっと仲良しでいようね!お兄ちゃん!」
僕たちの約束を祝福するかのように最後の1発が空高く打ち上がった。学園祭を締め括るには十分すぎるほどだった。
「ござる気になったんだけど、なんで屋上になんて来れたでござるか?」
「えーとそれはね...、あ、ときの先輩」
「やっほー風真君」
「ええ!ときの先輩!?」
「そうだよ、屋上の景色はどうだった?」
「はい、とても良かったです。ときの先輩には感謝です、こんな一等地で見せてくれて」
「そらが会長であることを褒めて欲しいな。それで風真君、後期は生徒会に入ってみない?」
「生徒会ですか?」
「うん、今の風真君の知名度なら生徒会にもいい風を吹かせてくれるんじゃないかなって思って」
「でも結構大変なんじゃ...」
「そんなことないよ、確かに行事の時とかは今日みたいに大変かもしれないけど結構自由だし...どうかな?」
どうやら一等地で見させてくれた分の対価はしっかり払わなければいけなそうだった。
サブキャラの話を番外編に載せるのはありか
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あり
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なくてもいい