「悪いないろは」
「全然大丈夫でござるよ!それよりもお兄ちゃんの風邪の方が心配でござる」
「お兄ちゃんはまあ大丈夫だから、安心して部活行ってきな」
「むー、わかったけどちゃんと寝るでござるよ!お兄ちゃん」
「はいはい、病人はゆっくりと寝かせてもらいます。行ってらっしゃい」
「冷蔵庫に食材入ってるし、水もこれ枕元に置いとくでござる。じゃあ行ってくるでござる」
「とは言うものの、参ったな」
僕は夏休みも中盤に差し掛かってところで風邪をひいてしまった。規則正しい生活を送ってこのザマなら最早打つ手はないだろう。
「今日は1人か」
あいにく今日いろはは部活が一日練習らしく夜遅くまで帰ってこない。いっそのこと妹に全てを委ねてしまうのもありだったが根本から不可能だった。
「ごほっごほっ...。しかし咳が止まらないな...」
咳が止まらない風邪は寝ようにも寝れずにただ体の嫌悪感が僕を襲うので1番嫌いだ。何をすればいいか、病人には明確にわかってはいるが成すことの難しさは当事者にしかわかりえない辛さだ。
「本でも読むか...」
枕元の机にある水を飲み薬を服用したあと、結局本を読むことにした。自分の世界に入ってしまえば一時的に倦怠感を忘れることができると思ったからだ。しかし
「いや辛いな」
10ページほど読み進めたところで本を置き再び布団へと潜った。理由としてはページを捲ることすら億劫で体が読み物を拒否していたためそうせざるを得なかった。こうなったらかくなる上は
「目、つぶろ」
病人が1番必要とする行為をただひたすらに遂行するのみだった。
「...んぅ。今、何時だ...。1時過ぎ...。寝れたんだな」
目を瞑ったが9時くらい、一応寝ることには成功したみたいだ。寝付きは咳のせいで悪かったが。しかしおかげで朝ほど体の倦怠感はなく、少しは楽になったようだ。
「ていうか下からなんか音聞こえるんだけど...。いろはから連絡は...きてないか」
今頃いろはは昼休憩が終わって再び稽古に勤しんでいることだろう。となると尚更誰なのだろうか。トイレをするついでに勇気を持ってリビングへ突撃することにした。ドアに近づき、恐る恐る開けると目の先には青色の髪をした学園のアイドルが台所に立っていた。
「星街...先輩?」
「あ、風真君起きたんだ。ちょっと待ってね、今お粥作ってるから。って言ってもレシピ見ながらなんだけどね」
「あーありがとうございます。ていうかその前に色々聞きたいことがあるんですが...」
「なんですいちゃんが風真君の家に来てるかって?それはね、君の妹からSOSをもらったから来ちゃったんだ」
「ああ、いろはから聞いたんですね」
「可愛い後輩なんだからしっかり看病してあげないとね。ほら病人は大人しくベッドで寝ててください」
「あ、ありがとうございます」
僕は御手洗を済ませたあと再びベッドへと戻った。階段から足音が聞こえる。お粥が完成したのだろう。
「じゃーん!すいちゃん特製のお粥」
「ああ、美味しそうですね」
「でしょー、でも風真くん野菜食べれるかわからないから敢えて入れなかったから」
「お気遣いありがとうございます。でも星街先輩と違って僕は野菜食べられますよ」
「は?そんなこと言うやつに渡す料理はねーよ」
僕の茶々に星街先輩は僕の持っているお皿をさらっていった。さらだけに。
「悪かったですって。返してください」
「えーどうしようかな〜。すいちゃんに野菜の話をした風真君にはお仕置かな?」
「お仕置って...」
すると星街先輩がスプーンを持って僕に目掛けて勢いよくズドーン!なんてことはなく...
「はい、あーん」
「え?」
「だから、あーんって。ほら早く口開けてよ、すいちゃんの腕疲れちゃうから」
「って言っても恥ずかしいですよさすがに...」
「じゃあすいちゃんのお粥食べなくてもいいんだ」
「いやそういうわけには...」
「じゃあはい、あーん」
スプーンにはたっぷりの量のお粥が、僕の前に差し出されていた。僕はもう素直に従うしかなくスプーンにがっついた。
「アッツ!!」
「あ、ごめんね。熱かったの忘れてた☆」
「もう既に舌が火傷した気がしますよ...。もうあとは1人で食べられますよ」
「だーめ、病人は大人しく指示に従いなさい。ほら今度は冷ましたから」
すると再び僕の前にスプーンが差し出された。さっきほどの抵抗はなかった。
「おいしい...」
「まあね、すいちゃんだし」
それから先も星街先輩のペースで僕の食事は進んでいった。お粥の量はさほど多くはなかったがお腹はいっぱいだった。今星街先輩は下に行って食器を片してくれている最中だ。至れり尽くせりで申し訳ない。
「食器片付け終わったよー」
勢いよく僕に部屋に突入してきた先輩は椅子に腰掛けさっきよりもリラックスしていた。
「お粥ありがとうございました。美味しかったです」
「すいちゃん仕込みですから。それよりも風真君の部屋ちゃんと綺麗だね。これってバスケットの時のトロフィー?」
「はい、思い出の品として一応持ってきたんです」
「あれ?風真君ってこっち出身じゃなかったの?」
「はいそうなんです。高校進学を気にこっちに来たんです」
「通りで親御さんの靴とか無いわけだ。しっかりしとるね〜」
「いえいえ」
「...」
「...」
ひとたび会話が終われば沈黙が僕らを襲ってくる。この気まずい空気感を打破するほど、病人の僕に気は残されていなかった。それと同時に少しずつ重くなってきた瞼をそっと下ろした。
「...空が赤い。18時か...」
どうやら僕は星街先輩を置いて1人で昼寝とは言い難いくらい寝てしまった。おかげで空には夕焼けが広がっている。昼の澄んだ空は僕の記憶の中にしかなかった。手に暖かい感触が残っていた。見ると星街先輩の手とベッドに寄っかかって居眠りする星街先輩本人がいた。
「星街先輩...」
寝てる間ずっと手を握ってくれていたらしい。じんわり僕の手には手汗が滲んでいるのに不快ではなかっただろうか。
「星街先輩...」
「ん...」
2回呼んでも起きなかった。今度は体を揺すって起こしにいく。
「星街先輩」
「んっ...。ふぁ〜...。起きたんだね風真君、おはよう」
「おはようございます、ずっとここにいてくれたんですか」
「まあね、いいものも撮れたし、ほら」
「あ!僕の寝顔じゃないですか!早く消してください」
「嫌だね〜一生これでいじってやる」
「勘弁してください...」
僕の部屋には夕日という明かりしか灯されてなかったため余計に僕の寝顔を鮮明に見ることになってしまった。ヨダレを垂らしていないことがわかったことだけが救いだった。
「あの星街先輩...」
「なに?」
「その...手...」
「え?ああ、まあいいじゃん今くらい」
「今くらいって...」
「それともすいちゃんと手繋ぐのやだ?」
「...いやじゃないです」
「それと星街先輩って呼ばないで」
「え?」
「すいせいって」
「でも...」
「でもじゃない」
「ほしま...」
「すいせい」
「...すいせい先輩」
「よろしい。にしても風真君の手、デカイね〜。しかもゴツゴツしてるし女のすいちゃんの手とは違うや」
そう言ってすいせい先輩は僕の手をしきりに握り続けた。すいせい先輩のスベスベした手。やけに心地よくてなんだか懐かしい感じがした。そして同時にすいせい先輩呼びを強制された。やられてばかりの後輩では無い。僕も僕なりの反撃の仕方があった。
「風真って...」
「ん?」
「風真って言われても、いろはか僕どっちかわからないです。名前で言ってくれないと」
「でも君って」
「僕にはわかりません」
僕なりに先輩を少しからかってみた。僕がこういうことをするキャラに見えないからなのか単に少しひょうきんなことを言われたからなのかすいせい先輩は困惑していた。
「遥」
「はい」
「呼び捨て呼んだんだから遥も呼び捨てなんじゃないの」
「先輩相手にそれは無理ですよ。それに恥ずかしいです」
「そんなこと関係ない」
「でも...」
ガチャ
「ああ、いろはちゃんが帰ってきちゃった。じゃあ看病はいろはちゃんと交代だね」
「すいせい!」
「!」
「...これで満足ですか?」
「あはは!」
「なんで笑うんですか...」
「だっていきなり喋ったと思ったら大きな声ですいせいって...あはは」
「...もう一生言いません」
「悪かったって。新鮮だったよ、ありがとう、遥。たまにはすいせいって呼んでね。それじゃあ」
するとすいせい先輩は立ち上がり僕の頭を撫でそのまま部屋を後にして行った。余興もなくそのままお別れとなりいろはと看病はバトンタッチとなった。
「お兄ちゃん大丈夫...って顔赤いでござる!!」
「はは、なんでだろ。風邪ぶり返したのかな」
サブキャラの話を番外編に載せるのはありか
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あり
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なくてもいい