「なあ風真と委員長、それから...柊はいいか」
「おい!そんなぞんざいに俺を扱うんじゃねーよ!」
「で、どうしたの?なにか百鬼さんとあったの?」
「いいやそうじゃなくて、俺の祖父母がちょっと離れたところで旅館やってるんだ。今度連休中に帰省するんだけど良かったらお友達連れてきたら?って言われちゃったからさ。良かったら来てくれないかと思って」
「まじ?!もちろん行くでしょ!」
「柊は部活あるんじゃないのか?俺や風真と違って」
「いいからいいからなんとでもなるって」
「こんなやつが次期キャプテンだなんて信じられねーな...」
「まあ実を言うと連休中顧問が部活付けないからちょうど空いてるってわけよ。そのせいで今しわ寄せがきてんだけどな。お前らはくるのか?」
「僕は行けると思う。あとは委員長じゃないかな」
「俺は構わないが...」
「が?」
「いや、せっかく百鬼さんと付き合えたんだ。ほんとうに俺たちでいいのかって思ってな」
「...確かにその考えを忘れてたかも」
「今更俺らとは行かないなんて言わせねーからな」
「じゃあ百鬼さんたちもついでに誘ってしまうのはどうだ?俺が言うのもなんだが、たくさん人がいた方が楽しいだろ」
「え〜でもそんなに人いて大丈夫かな?...ん?電話だ。もしもし、どうしたのおばあちゃん」
<帰省の件はどうなったの?友達本当にいるんでしょうね?>
「いるよ...。ただ人数が多くなりそうでさ」
<そんなもの気にしなくて大丈夫よ、後で人数送ってちょうだいね>
「...決まりだな」
委員長の提案は古海が迷うことなく可決されるという結果になった。2人で行けるという選択肢に気づいた時の古海は若干悲しそうにも見えたが1度言ったことだ、男に二言はないだろう。古海が百鬼さん経由でいつものメンバーに聞いてみると、なんと5人全員予定が空いてるみたいで無事にこれることになった。
「じゃあ合計9人でいいんだな?おばあちゃんに送るからな、ドタキャンすんなよお前ら」
「わかってるって、古海こそ今更僕らを省くなんてするなよ」
「...はいはい」
それから先の日常は思ったよりも早く過ぎ去って行った。僕は催し物に思いを馳せるタイプではないと自負していたが、最近はなんだか早くその日がきてくれと切望するようになった。大空さんに言われた通り僕の中でなにか変化があったのかもしれない。
寝て起きて学校へ行くという何の変哲もないサイクルを繰り返しているうちに、気がついたらプチ旅行当日になっていた。楽しみで寝れない!という小学生が遠足を夢見るなんてことはなく前日はぐっすり寝ることができた。
「お兄ちゃん行ってくるから、いない間1人でも大丈夫?」
「大丈夫でござるよ!お土産楽しみに待ってるでござる」
「確か沙花叉さんとか鷹嶺さん呼んでお泊まり会するんだっけ?あんまりハメを外しすぎないように」
「わかってるでござるよ〜お兄ちゃんこそハメを外さないでね、女子の友達も来るってござる知ってるでござるから」
「えっ、なんで知ってるの?」
「ふっふっふ、秘密でござる!さあ早く行ってらっしゃい!新幹線乗り遅れるでござるよ」
「はい、行ってきます」
冬の冷え込む朝のせいで覚めきっていない頭は一気に覚醒した。冬はこれだから嫌いだ、布団を嫁として娶りたいくらいだ。体を小刻みに震わせながら僕は目的地へと向かった。
「おお、早いね古海」
「もちろん。俺が誘ったんだし遅れたら顔向けできないよ。ていうか集合時間まであと20分くらいあるんだけど早くないか?」
「遅れるよりはマシだよ。古海だってそうでしょ?」
「まあな。しかも実は女性陣が遅れても困らないように集合時間を新幹線の時間より早めておいたんだ」
「そうなんだ、でもなんで遅れるって」
「あやめが遅れるからな、今回ばかりは遅れたら取り返しがつかないししょうがなくね」
「朝から惚気は聞きたくなかったな」
「惚気けてねーわ!」
駅のホームでみんなが来るのを待つ時間でさえなんだか楽しかった、次から次へと来るみんなを見るともうすぐ旅行が始まるんだなと思った。
「やっぱりあやめが1番遅かった。ね、言ったでしょ風真」
「そうだな」
「これでも頑張ったほうだ余!許してみんな〜」
結局集合時間を5分すぎたタイミングで百鬼さんがやってきた。古海曰くまあ10分くらいは大丈夫だよという事だったので想定内だったらしい。まったく、頭が上がらない。
「へ〜新幹線ってこんな感じなんだね」
「え?風真は乗ったことないのか?」
「うん、元々田舎住まいだったし遠出もしないからね。今日が初めて」
「確かに引っ越して今の学園にはるばる来たって言ってたな」
「そうそう、親元離れてもうすぐ2年経つよ」
「できた子どもだなお前は、えーと俺らは2人席だから別れるか」
僕と柊がパー、委員長と古海がグーでちょうど別れたのでその通り座席に座った。ちなみに女子たちは2人席と3人席で別れている。
「いやー運が付きまとうものでもお前と隣になるなんて奇遇だな〜風真」
「最悪な腐れ縁だ」
「朝から毒を飛ばすな!毒を。先が思いやられる」
「いや、最初のうちにお灸を据えるのは大事だよ。特に柊は調子に乗るでしょ?」
「乗らねーわ、なんでそんなに信用ないんだよ」
「とにかく、お客さんいるんだから暴れたり叫んだりしないでよ」
「わかってるって。でも新幹線乗ったらまずやることあるよな?」
「...なに?」
「眠ぃ!おやすみ」
「いやばかか」
新幹線が目的地に向かって出発して早10分、柊は寝た。気持ちよさそうに僕の方に頭を預けている。おかげで僕は身動きが取れないし意外と重いので寝ることもできなかった。僕はただ移りゆく景色をぼっーと眺めていた。
ピコン
「ん?」
<遥起きてる?あくあちゃん寝ちゃって暇なんだよね〜助けてよ>
どうやらシオンさんの相方も夢の世界へと誘われたようだった。互いに境遇が似ていることを連絡し傷を舐めあった。しかし気持ちはわからなくもない。早朝出発だったし、今のうちに寝て夜に備えるのも懸命な判断だ。学生同士の泊まりで寝られるなんてそんな甘いことはないのだから。
<僕たちも寝た方がいいかもしれません、夜はきっと長いので>
<ちょっとなにそれ意味深なんですけど〜ww、朝から如何わしくない?ww>
<ただ遊んでて寝れないってだけです!深い意味はないです>
<ほんと〜?って言ってもシオンは寝れないから遥に連絡してるの。もう少し付き合ってよ>
<少しだけですよ>
きっと大きなあの声が聞こえないってことは大空さんも寝てるんだろうな。耳を澄ませばいびきが聞こえてくるんじゃないかと思い耳を済ませてみたが、さすがにそんなことはなかった。
<他の人は起きてないんですか?>
<え〜シオンだけだよ、ちなみにスバルは少しいびきかいててまじでウケるww>
訂正、ちゃんといびきをかいていた。
<そういえば今日のシオンの服、どう?似合ってる?>
実は今日が初めて女子たちの私服を見た日だ。遊んでないことはないが夢の国へ足を運んだ時も制服、打ち上げの時ももちろん制服だったので今の今までお目にかかれていなかった。今日のシオンさんの服は確か上が白色のハイネックニットで下は...なんて言うんだろう。僕は女性のファッションに疎いのでよくわからないが多分スキニーの黒いズボンに少し大きめの茶色のジャケットだったような気がする
<はい、普段のシオンさんと違って大人っぽくていいと思います>
<ねえええ、じゃあ普段シオンが子どもっぽいって言いたいわけ?>
<まあそうかもしれませんね>
<ねえええ!!>
しばらくシオンさんと連絡を取ったあとようやく眠気がきたとのことだったので通知音はそれを境に鳴らなくなった。僕も肩の重みからようやく解放されたので背もたれに体重をかけ瞼を閉じた。
「...今ここはどこだ...ってまだか」
目的地まであと少しのところだった。スマホを見て時刻を確認すると小1時間くらい寝ていたことがわかった。ちなみに隣の柊はまだ爆睡中だ。あどけなくヨダレを垂らして寝る姿は少年のようだった。
「んー!!!ようやく着いたか〜、ずっと寝てたから身体中ガチガチだぜ」
「本当か風真?」
「うん、僕も途中寝てたけど少なくとも僕が起きてる時はずっと寝てたよ。ひとまずそのよだれの跡拭いた方がいいと思う」
「げっ!まじかよ最初にそれ言ってくれよ」
「おーい大輝ー!」
「あ、女子たちがお手洗い終わったみたいだから行こうか」
トイレ休憩を済ませたあと僕たちは古海の祖父母のいる旅館へと向かう。今の駅から徒歩で五分ほどらしい。どんな旅館かは知らされていないが古海が知ってても楽しさ半減だろうから秘密にしておくと言って口を閉ざしていた。
「おい...こんないい旅館タダで泊まれんのかよ?!すごそうな木がいっぱい生えてるぞ!」
「うわすご!なんかもう外見からちょっとレベル違うわ!」
「ちょっと大空さんと柊ボリュームダウンして、恥ずかしいから」
「にしても古海様、こんないい旅館だなんて。意外とお坊っちゃんだったりするんです?」
「いいやそんなことはないよ、普通の男の子だよ」
「ふ、普通の男の子はこんな旅館来れないとあてぃしは思うな」
「もうそんなことはどうでもいい!中入ろうぜ!!」
この場で誰よりもはしゃぐ大空さんと柊を先頭に僕たちは旅館の扉をくぐり抜けた。少なくともうるさい2人は少し場違いなんじゃないかと思うくらい上品な綺麗な旅館で、僕たち高校生にはなんか早いんじゃないかと思った。2人の子どもに先導される僕たちは保護者のような目で2人を見つめていた。そんな2人を背に古海はチェックインをテキパキと済ませていた。できる男とは違うなとつくづく思う。
「はい、これ女子の鍵。できるだけ近い方が楽しいかなって思って男子と女子の階は同じにしてもらった。一旦部屋行って一段落したらまたここで落ち合おう」
珍しく古海が指揮をとる姿に僕たちは感嘆としている。いや付き合うと人って変わるなと。
「うっわ、部屋もすごいな...。しかも部屋の外に露天風呂もあるし?!あとでお金取るとか言うなよ古海!!」
「取るわけないでしょ今更...。どうせならいい部屋にっておばあちゃんが」
「俺、おばあちゃんに肩もみしてくるわ。あんずるな、最初に集合場所行ってていいからな」
「そんなにしなくてもいいから委員長...」
僕たちの部屋は古風な雰囲気がありながら年季が入ってそうにも関わらず綺麗に保たれていた。少なくとも僕たちにはもったいないであろうアメニティやサービスなども備わっていて、規格外なところに来てしまったなというのが本音だ。そんな僕とは裏腹に柊は少年のように目を輝かせ、羨望の眼差しを送っていた。
「うお、江戸時代みたいな木が生えてるぞ!」
「いやなにそれはw」
コンコン
「はーい。ああ、あやめ」
「おばあちゃんのところ行くんでしょ?早く行っちゃおう余」
「ああそうだね。悪い、俺とあやめはちょっとおばあちゃんに顔合わせてくっから」
そういうと古海と百鬼さんは部屋を出ていった。
「なあ風真と柊、3ヶ月くらいで祖父母に彼女を合わせるって時期尚早じゃないか?」
「まあ別れるとは到底思えないから大丈夫だと思うよ...柊はその拳を下げて、もう付き合ったものはしょうがないじゃん」
「俺も...彼女がほしーよお前ら...」
感情の起伏が激しい柊は隅においやって委員長と色々部屋を探索した。露天風呂はあるしちゃんと人数分の布団、しかもかなりの上物だと思う。ルームサービスなんかもあったがもちろん旅館相応に高く手が出るはずがない。しかしそんな贅沢をせずとも十分に楽しめそうだった。ここまでくると女子の部屋がどんなものか気になる。下心はないよ、決して。
「なんかすごいな...」
「うん...僕たち泊まって大丈夫なんだろうか」
「まあせっかく泊まらせてもらったんだ。楽しむしかないだろう...だけど俺はなんか居心地悪くて蕁麻疹が...」
「しっかりしてくれ委員長」
「とりあえず荷物を整理して準備するか、ほら柊もいつまでも落ち込んでんな。せっかくの旅行が台無しだぞ」
「...へいへい」
古海の帰りを待つ傍ら手荷物を軽くし出かける準備をする。と言っても持ってきた宿泊用のバッグを部屋に置いていけばいいだけなのだが。せっかくなので古海に連絡をして待ち合わせ場所のロビーに先に行っていることにした。
「あ、もういたんですね。どうでした女子の部屋は」
「もうなんていうかシオンたち泊まっていいのかって」
「ですよね〜」
「スバル様ははしゃぎすぎて襖ぶっ壊しちゃいそうでしたよね?」
「しょーがないじゃんスバルはそうなんだって!ごめんって」
「しょーがないで済まないかもしれないぞ、もしものでもなんでも壊したら地下送りかもしれない」
「ちょっとやめてよ委員長!もうスバルここにいられんくなる!」
しばらくすると古海夫妻が帰ってきた。そのまま旅館の鍵を受付の人に預け京都観光に繰り出した。
サブキャラの話を番外編に載せるのはありか
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あり
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なくてもいい