僕の平穏だった学園生活   作:-つくし-

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病室

「...歩くのってこんなに難しかったんだな」

 

 

 俺はずっと寝たきりだったせいで歩くという行為を体が忘れてしまっていたようだ。ベッドから起き上がりトイレに行こうとするだけで足は産まれたての子鹿のように震え出す。リハビリを念入りにしなければバスケなんて到底できる代物ではなかった。おまけに右腕はギプスに包まれていて転んだら最後俺の頼みの綱は自分のものではないような左手だけになってしまう。手すりなんて日常生活で気にすることなんてなかったが今になってそのありがたさを知る。

 

 

「...暇だな」

 

 

 目も覚めたし俺自身なにも異常のないように感じたため早期退院できるのではと期待に胸を躍らせていたがそんな簡単な話ではなかった。経過観察はマストであり今後も安静にとのこと。この状態では大晦日も病院で過ごすはめになりそうだ。

 

 

 コンコン

 

 

「はい」

 

「失礼します」

 

 

 また俺の知らない人が入ってきた。会う度俺の見知らぬ人が来るため毎度覚えていないというのもさすがに気が引ける。なんとかして記憶を捻り出そうとしても異郷の地で会った人たちのことを覚えてるはずもなかった。

 

 

「ごめんね突然お邪魔して。...白上たちのことは覚えてないよね?えーと、私は白上フブキだよ!今は3年生で風真君の先輩にあたるよ」

 

 

 元気!という言葉が実に合いそうな人を先頭に自己紹介が行われていった。これも俺への配慮なのだろう。

 

 

「ほらぺこらちゃんも」

 

「...そら先輩がしてもいいペコ」

 

「もう...。ごめんね風真君、この子は兎田ぺこらちゃん、今はツンツンしてるけど本当はとってもユーモアがあって優しい子なんだけど...。今はちょっと恥ずかしいみたい」

 

「そ〜、なんですか」

 

 

 前の俺はこんなにもハーレムしてたのか?!なんなんだ男子1人に女子4人て?クール系の鷹嶺さんに清楚系のときの先輩、元気ハツラツな白上先輩、ツンツン系の兎田さんときた。もう属性がコンプリートされてるじゃないか。

 

 

「それで...俺はあなたたちとなんの繋がりがあるんですか?」

 

「私たちは同じ生徒会員なんです。私もそら先輩もフブキ先輩もぺこら先輩も...って言っても覚えていませんよね」

 

「う〜ん、全く思い出せない...」

 

「...まあまあこれから思い出してけばいいって!ねえぺこらちゃん?」

 

「...」

 

「ていうか俺生徒会なんですか?!俺なんかに務まるものなんですか?!」

 

「俺なんかっていうか...入ってきた時から仕事の覚えは早くて要領もいいし即戦力だったよ。私の目は確かだったと思ったよ」

 

「ときの先輩が俺のことをスカウトって...生徒会はスカウト式なんですか?」

 

「特例中の特例ですよ、風真君」

 

「はえ〜世の中変わったこともあるんですね」

 

「でもこの調子を見る限り今の風真先輩と私たちの知ってる風真先輩は全然違う人ですね」

 

「やっぱそうなんですか?俺の友達もそう言ってましたね」

 

「ええ、白上もそう思います。だってあんなに真面目そうな風真君がなんというか...ちょっと砕けた感じなのが意外だなというか...。ああ!全然いやな意味じゃないですよ!白上はどっちの風真君もいいなって思いますから!」

 

「...そうなんだ。俺ってそんな...」

 

 

 一体何があったんだ。俺は直近の記憶で言ったら血が繋がってないってことくらいしか衝撃的な出来事を知らせていない。少なくとも中学生の俺は、だ。それ以降になにかあったのだろうか。

 

 

「じゃあ俺ってバスケ部には入ってないってことですか?」

 

 

 助っ人でたまに試合に参加するといろはが言っていたし生徒会に所属しているということは俺はバスケ部に入らないことを選んだことになる。

 

 

「そうだね、私が知ってる限りは助っ人で入ってるってことしか知らないけど...。部活っていう括りで言ったらしらけんに入ってるよ」

 

「しらけんってなんですか?ときの先輩」

 

「あ〜しらけんって言ってもわからないよね。しらないこと研究会って言って色んなことをしてる部活だよ。まあ行ってみた方が早いし、会ってみた方がいいかも。色々思い出すかもしれないし」

 

「俺は変わってんなぁ...」

 

「確か私が聞いた話だと午後にしらけんのみんなが来るみたいだよ」

 

「なるほど...って差し支えなければ...男女比って?」

 

「?男子は風真君1人ですよ」

 

「おいマジかよ〜!」

 

 

 少し今後のことを話して生徒会メンバーとはお暇となった。

 

 

「...あんた」

 

「...はひ!」

 

 

 帰ったと思われていた生徒会メンバーだったが今まで一言も発してこなかった兎田さんが再び僕1人になった病室にやってきた。

 

 

「...ほんとになにも覚えてないペコか?」

 

「...うん」

 

「ぺこーらと一緒に作業したこととか一緒に球技大会運営したこととか...それも覚えてないペコか?」

 

「...うん」

 

「...はぁ〜ほんとに手間のかかるやつペコ...。」

 

 

 兎田さんは俺の記憶が無いことに呆れ腰に手を当てため息する素振りを見せた。

 

 

「...ぺ、ぺこーらはそれでも待ってるから!あんたが会長になるペコ!そしてぺこーらがあんたの下についてまた...生徒会で待ってるペコだから。それじゃあ、元気で」

 

「え?ああ、兎田さん!」

 

 

 俺の言葉に見向きもせず嵐のように兎田さんは来ては帰って行った。俺は...そんな器なのか。

 

 

 

 

「病院食ってまずいな...」

 

 

 健康なことはわかる。わかるんだけど...肉とか寿司とかラーメンとかそういう年頃の男が美味い美味いと言って食べるようなそんな食べ物が食いたかった。

 

 

「...これで左手怪我してたら最悪だったな」

 

 

 幸いにも俺は利き手が左なため食べるという行為に支障は出ていない。細かいとこにふれるなら食器を持てないため必然的に行儀の悪い食べ方になってしまうことが気になるくらいだ。

 

 

「かっざませんぱーい。ポルカたちのこと覚えてるー?まあ覚えてるわけないかー」

 

「ええ...」

 

「ちょっとポルカ、あんまり走らないの。ごめんね風真君。ああえーと自己紹介からだよね。あたしは不知火フレア、しらけんの部長だよ」

 

「ああしらけんの...ときの先輩から聞いてるよ」

 

「そうなんだねってノエルは病院で肉まん食べないの!」

 

「ふいまへーん」

 

「うわ!風真君起きてる!久しぶり!みこたちお見舞い来てたの気づいてた?」

 

「気づいてるわけ...ってああもう情報量が多すぎる!!」

 

 

 

 ご飯を食べ終えたあと改めてしらけん?の人たちと話が進んでいった。

 

 

「俺はしらけんに一応入ってて...ってなんで入ったんでしょう」

 

「そりゃーすいちゃんとみこが風真君を熱心に勧誘した結果にぇ!」

 

「そうなんだ...」

 

「ていうか風真先輩って一人称俺でしたっけー?なんか違和感あるような気がするんだけど」

 

「え?俺はもとより俺だけど」

 

「あ〜、前の遥は僕って言ってたんだよ」

 

「そうなんですね、あと星街先輩は俺のこと名前呼びなんですね」

 

「そ、そうなんだよね。あと遥もすいちゃんのことすいせい先輩って呼んでたからー」

 

「あ、そうなんですね...、じゃあすいせい先輩って呼んだ方が良さそうですね」

 

「うんうん」

 

「ねえみこ先輩、風真先輩ってすいちゃんのこと1回も名前で呼んだことないよね?」

 

「やっぱぽぅぽぅも思ってた?みこもそんな気がするんだけど...」

 

「ポルカとみこちは黙って」

 

「ひい!」

 

「これが魔性の女にぇ!」

 

「あはは...」

 

 

 結局今日は色んな人に会ったが収穫は何も無かった。なにかこうビビっと来たのはそばにある花を見た時に来たあれ以来。でもその花が俺になんのゆかりがあるのかわからなかった。

 

 

 

 今年も今日で終わりなのになんで俺はここにいるんだろうな。今までは色んな人が来てくれたけど、今日は家族との時間を大事にして欲しいと思う。俺みたいに急に事故って急に記憶なくなるバカもいるんだから。

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

「いろは...とお母さん」

 

「どうかしたの?なんか元気なさそうだけど」

 

「ああ...なんかね。みんな俺に会う度自己紹介してくれたり今までのこと話してくれたりさ、すげえ優しいんだけど俺はその優しさに甘えていいのかなって思ってさ。だって相手は覚えてくれてんのに俺はこれっぽっちも覚えてない。なんか罪悪感だよ」

 

「今は甘えてもいいんじゃないかしら?その分を遥が埋めていけばいいじゃない。無理に取り繕うより自然体のままの方がきっとみんなとしてもいいと思うわ」

 

「そうかなぁ...」

 

「じゃあすぐに記憶は取り戻せるの?」

 

「それはできない...」

 

「なら今はみんなの優しさに甘えなさい、無理したらダメだからね」

 

「はーい」

 

「ちょっとござるのことも忘れないで!」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 

 今年が終わるまで30分。いつもと場所も違ければ状況もかなりややこしいけど年を1人でこさずに済みそうで良かった。ひとりだと静かで寒い病室も家族がいればこの上なく暖かった。

 

 

サブキャラの話を番外編に載せるのはありか

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