教室に入ると開口一番に目に入ったのが机に入ったチョコレートやクッキーの類だった。しかし目視で数を確認できるくらいしか入っていなかったためほっと胸を撫で下ろす。
「風真は大変かもしれないけど、他の男子見てみろ。嫉妬の眼差しだぞ」
「そうかもしれないけど...。俺だってこうなりたくてなってるわけじゃ」
「贅沢言うんじゃない。だいたい色んな女の子をキープしてきたお前が悪いからな」
「は?!俺はそんなつもり」
「これだからたらしは...。とにかく今はその袋に入れちまえ、学校はまだまだ始まったばっかりだぞ」
机に入っているのはお菓子だけじゃない。なんなら律儀に手紙まで付いている。試しに一通開いて中身を確認してみると連絡先が記載されていた。名前を見る限り俺は覚えていなかった。記憶を無くす前の俺も面識がなかったら非常にありがたい。他にも何通か入っていたがとりあえずカバンの中にそっとしまっておいた。
「おっはよーって、案の定すごいねw」
「笑うなよ」
「いやシオンの想像以上だよこれは」
「何個か食べてくれてもいいんだぞ、さすがにこの量を1人で食べ切るのは無理があるし健康にも良くない。ただでさえ入院生活で筋肉も落ちてるのによ」
「だーめ。人様の想いを無碍にするんじゃない」
「たまにはまともなこと言うじゃないか」
「ふ〜んいいんだそういうこと言って。シオンのチョコあーげない」
「は?!...それは困るな」
「...え?そんなにもらっておいて?」
「やっぱり知ってる人からもらうチョコって違うだろ。それに...紫咲のは何となくほしい、何となく」
「ふ、ふ〜ん...。...まあシオン持ってないんだけど」
「おい!作ってなかったのかよ!」
「だって〜、どうせ遥はいっぱいチョコもらうんだろうな〜って思ってたから」
「紫咲なりの配慮か」
「そういうことです〜」
腑に落ちないがそういうことにしておこう。それからというもの休み時間に入っては少し呼び出されを繰り返した。
「24、25...。これで最後だ」
「26か」
「意外といかなかったね」
「うるせーやい」
「俺らは30近くはいくと思ったんだけどな」
「変な予想を立てるな。だいたいお前らはなんだ、彼女からもらって鼻の下伸ばしてんじゃねーよ」
「まあな、古海?」
「うん」
「...こういう時だけ彼女いますアピールしやがって」
「委員長も地味に人気あるよね」
「5つかな、俺は」
「おお!やるじゃん委員長」
「ただ...俺は少し甘いものが苦手でな、こういうティラミスをもらった時は若干嬉しかった」
「なるほど、ちなみにそれは誰から?」
「癒月さんだ」
「「「やっぱそうだよな」」」
HRを終え、俺はすぐに帰宅するのではなく屋上へと向かった。理由はない、ただ何となく高い所へ行きたかった。実は復帰してから何度か明日を運んでいる。未だになれない街を眺めるのもまた一興だ。
「寒いな」
途中で買った暖かいココアで暖をとる。小さいがこれがまたどうしようもなく身体中に熱を提供してくれる。
「...ここにいた」
「すいせい先輩、どうかしましたか?」
「どうかしたって、どうもしてないけど。ちなみに今日は何の日?」
「何の日ってバレンタインですけど」
「よくご存知でってそりゃあそんなだけ貰ってたらわかるか...」
袋いっぱいに詰め込まれたお菓子を見てすいせい先輩は苦笑していた。
「こうなることは見越してすいちゃんはお菓子以外のものにしたんだ」
「え?すいせい先輩もくれるんですか?」
「当たり前でしょ、すいちゃんの可愛い後輩なんだから。ほらこれ」
すいせい先輩は丁寧にラッピングされたふたつの袋を俺に渡してくれた。俺はいつも以上に丁寧に包装を開け中身を見た。
「ブックカバーにヘッドバンド、俺が欲しいと思ってたものだ」
「ふふ、当たってた?まあすいちゃんの勘なんだけどさ。ブックカバーは遥が本読むの好きなの変わってなかったらいいなって思って。ヘッドバンドは...。バスケやってる時に汗垂れてきて何回も拭ってたからさ。正規部員じゃないから渡すのはどうかなって思ったけどきっと遥はこれからもバスケやるだろうし」
「ありがとうございます!マジで大切にします」
「そうしてもらわなきゃ困る。すいちゃんを覚えててもらいたいからヘッドバンドは水色にしたんだよ?すいちゃん背負って活躍してもらわなきゃ」
「そうですね」
「それにすいちゃんはもう卒業だからさ、形だけでも遥には覚えててほしい」
「忘れませんよ!絶対に!復帰したあとも仲良くしてくれて、最高の先輩です」
「そう思っててくれたら嬉しいな。じゃあまたしらけんで」
「はい」
参ったな、ちゃんとバスケやらなきゃな。
「...帰るか」
夕日が昇り始めてきたため帰宅の準備をして下駄箱へ向かおうとした時
「...兎田」
「ようやく来たペコか」
「ようやくって何時間待って」
「さあ、気づいたら夕日が昇ってたペコ。そんなことよりこれ、ぺこーらから」
「うお...。ありがとう」
「別に深い意味は無いぺこだから!!ちゃんと賞味期限以内に食べろペコ!じゃあ!」
「あ、ああ。じゃあね」
興味本位でその場で開けてみることにした。
「マカロン...。確かまだもらってなかった。美味しそうだ」
マカロンを地味に食べたことがなかった俺にとっては未知への挑戦だった。いい機会をくれた兎田には感謝しなきゃいけない。
下駄箱を開けると中には一通の手紙と袋が入っていた。送り主は天音だった。
『風真君へ。今日はバレンタインですね。本当は直接渡したかったけどあまりにも色んな人にもらってたから下駄箱に入れておきました。プレゼント気に入ってくれると嬉しいです。また一緒にバスケしようね!!天音かなたより』
もちろんその場で袋を開けた。中身はおそらく腕につけるであろうサポーターだった。きっと俺が骨折してしまった部位を気にしての贈り物なのだろう。
「...幸せもんなんだな俺って」
そんなことを噛み締めながら寒空の下を歩く。体は冷えているはずなのに心の芯はとても暖かった。
「ただいま...なんだこの靴」
帰ると玄関には俺の知らない靴が置かれていた。サイズ的にいろはの友達なのだろうか。
「おー遥帰ってきた」
「遥待ってたわよ」
「いやなんでお母さんは紫咲を上げてるの」
「積もる話があったからね〜?シオンちゃん」
「そうですよねお母さん」
「まあ全然いいんだけどさ」
「見てくださいよ!遥こんなにもらってるんです」
「あらあら、遥ったらそんなにモテてるのね」
「知らないって。きっと前の俺がよく頑張ってくれた」
「そんな遥にこれ!」
すると紫咲は俺に袋を差し出してきた。
「これって...紫咲は何も無いって言ってたじゃないか」
「お菓子はないって言ったけど、贈り物がないなんて一言も言ってないし」
「...そうか。これはマフラー?」
「季節的にもう終わっちゃうからどうかな〜って思ったけど似合いそうだから買っちゃった!お菓子の方が良かった?」
「いや嬉しいよ、ありがとう。大切にする」
「...そう」
「あらあら。そうだわ、シオンちゃん良かったら夜ご飯食べていかない?今日はバレンタインだからご馳走なのよ」
「いいんですか!ぜひ」
「あーもうまったく!」
きっと今の俺はとても幸せに違いない。
サブキャラの話を番外編に載せるのはありか
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あり
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なくてもいい