あの日から1ヶ月が経った。6月になった今もなお特段変わったことはない。記憶も戻っていない。しかし順風満帆な日々を過ごしていると思う。例えば勉強。最初こそ遅れを取り戻すのに苦労したが周囲のサポートもあってある程度はできるようになった。意外と勉強の才があるのかもしれない。こんなこと言ったら兎田には調子乗んなとか言われるんだろうけど。兎田と言えば、会長の仕事が板についてきたみたいだ。最初こそてんやわんやしてて面白かったけど、結局軌道修正できたみたいだ。おかげで尻に敷かれる日々だ。あと変わったことと言えば母親がしばらくこっちにいること。なんでも心配だとか、過保護だなとは思いつつも自分の置かれてる状況を自重しなければならない。あとは
「ご馳走様でした!今日も美味しかったです!」
「いいのよ〜シオンちゃん。いつでも召し上がってちょうだいね」
「ありがとうございます!」
「もうなんか慣れたわこの光景...意味わかんねーけど。遠慮とかないんか?」
「遠慮なんてしなくていいのよシオンちゃん。この子の面倒見てくれるだけで十分なんだから」
「だって遥」
「その顔ちょっと腹立つわ〜。何そんなに勝ち誇ってるんだよ」
「お母さんはこっちサイドだって、つまり2対1でしょ?こっちの勝ちじゃん」
「勝ちとかそういうのもないだろうに。ご馳走様でした、ほら行くよ紫咲」
「はーい、行ってきまーす」
紫咲が朝ごはんを食べに来るようになったくらいだろうか。母さんも歓迎するもんだから紫咲も紫咲で味を占めている。
「そういえば今日から夏服なんだな」
「もう暑くなってくるからね〜」
「似合ってる」
「え?!なに急に?もしかしてキャラ変?」
「ちげーよ、なんていうか...言いたくなった。ただそれだけ」
「...ふ〜ん。えいっ」
「いった!」
「ほんと脇腹弱いよね」
登校を共にするのにももう慣れた。最初こそからかわれていたが、今では味のしないガムだ。紫咲を俺の世話係とすることでそれを回避した。基本的にはみんな俺のサポートをしてくれるけど紫咲が率先してやってくれる。教室に入ると馴染みのメンツがたむろしていた。
「おはよう風真!小テストの勉強したか?」
「おはよう委員長。したけどちょっと自信ない。単語テストはどうも苦手なんだ」
「パって覚えるだけでしょ」
「古海にとっては簡単かもしれないけど俺にはどうも性に合ってないんだ。わかってくれ。コツも俺じゃなくてあんたの嫁に教えてやれ。前もぼーっとしてて危うく赤点だっただろ。」
「バカ!嫁って言うな、恥ずかしいから」
「なんでまだ初心なんだよ」
「柊だって嫁がいるじゃないか!」
「スバルの方がいじられるから俺はもうなんとも思わん。あいつはリアクションがでっかいからいじりがいがあるんだろうな」
「仲裁に入ったりしないのか?」
「別に。見てるのおもろいし」
「鬼だなお前、ほんとに彼氏か」
「その立場だから俯瞰してるんだ。ヤバくなった時のサインは俺が1番わかってっから」
「何キザなこと言ってんだ朝から」
朝から惚気を聞かされる身にもなってほしいものである。2人とも関係は良好だ。いい意味でマイペースに付き合えている結果だろう。
「風真君、ちょっといい?」
「どうした?」
「うちの後輩が風真君に会いたいって言ってるの。良かったら昼休みの時間に教室まで行ってあげて欲しいの」
「ん、了解」
昼休みになってすぐ目的地へ向かった。こういうのはなるべく早く終わらせたい口だ。あれ、あの人って女バスだよな。なんの情報も聞かないまま飛び出してきちまった。しかし教室を覗いた途端、急に立ち上がる人物がいた。きっとあの子だろう。
「風真先輩!」
「なにかようでもあった?」
俺とて副会長だ。この手の呼び出しは何回かあった。立場上人の目を集めてしまう、正直耐え難い。
「その〜...バ、バスケを!教えてほしいなって!」
「でさ、こうきたら、このタイミングで体を当てる。足が浮いてるじゃん?そしたらより吹き飛ぶんだよ」
「こう...ですか?なんかあんまり吹っ飛んだ感じが...」
「まあ男の俺と君とじゃ体格差がありすぎるからね。でもさっきよりはいい感じだと思う」
「ほんとですか!」
「ああ、あとはそうだな」
バスケを教えろって言われて最初は正直戸惑った。だけど天音が言っていたのもあるし一役かってみることにした。難しいの一言だ。だけどほんの少しだけ動きが変わったように見えて嬉しかった。もちろん本物のコーチみたいに上手に教えることはできない。感覚を頼りにすることになる。だけど歳が近い分寄り添えることもあるはずだ。
「積極性が、大事かな。例えばさっきは少しだけスペースが空いたじゃん。打ってもいいと思うよ。アメリカの方とかはスペースが空いたらガンガン打つんだよ。バスケって点を決める競技だから、打たなきゃ始まらない」
「だけどシュートが苦手で、バリエーションも少ないし」
「それは練習あるのみだよ。いいシュートタッチしてると思うよ。膝をもっと使った方がいい。腕だけで打とうとしているのがあんまり良くないんだ。膝を使ったらもっと楽にシュートが打てる」
本当にこれで合ってるかなんてわからない、だけど期待に応えたい。その一心だった。
「今日はここまでかな。どう?教えるの下手だから全然参考になった気がしないんだけど」
「いえ!ほんとうにためになりました!」
「それなら良かったわ」
「風真先輩はどうしてこんなに上手なのにバスケ部じゃなくて生徒会なんですか?」
「色々あるんだな〜これが。でもバスケはまだ好きだよ」
「風真先輩のプレイすっごい好きなんです!泥臭くチームに貢献する姿がほんとに印象的で!私もあんなプレイヤーになりたいって!」
「お、君は見る目があるね」
正直に言うと泥臭いとは真逆のプレイスタイルだと思う。きっと前の俺は上手にジョブチェンしたんだろう。ここは話を合わせることにした。
「他の子は柊先輩に目移りするんですけど、私は風真先輩みたいな献身性ある人が好きで、それで今日バスケ教えて欲しいなって」
「なるほど、珍しいタイプだね。そういうタイプの子は試合に出しやすい。なぜならムラがないから。シュートが入る日入らない日があるよね。ディフェンスは日によってムラが出にくい、安定性があるってことだ。安定してる選手は監督からしても安心して送り出せる。そんなプレイヤーを目指せばいいよ」
「はい!わかりました!あのもし良かったらもう1個質問に答えて欲しくて...」
「うん?なに?」
「その...む、紫咲先輩とはどういう関係なんですか?
「あーあいつ?まあ良き友人だよ」
「私2人のファンなんです!」
「え?ファンってどういうこと?」
「2人の関係性がすっごい好きで!もう推しです!」
「そんなに目立ってる?まじで?」
「いっしょに登校してる時の距離感とかがすっごいいいなって。私以外にもいるんですよ!」
「「うっわ恥ずかし」」
「「え?」」
「なんで紫咲がいるんだよ!」
「あ、あはは〜」
「あ!紫咲先輩!」
紫咲はずっと上のギャラリーで見ていた様子だった。渋々階段から降りてくる。どうやらファンクラブもあるという、もちろん非公式のだ。正直に言うと小っ恥ずかしい。
「いやまさかな〜。そんなことがあるなんて思ってもいなかった」
「ほんとにね〜」
さっきの話もあってか少しだけ距離が遠いように感じる。きっと紫咲も自重しているのだろう。
「でも俺たちは俺たちらしくいよう。外野なんて正直関係ない...と思う」
「へ〜。つまり満更でもないってこと?」
「違うわ!自惚れんなよ。ほらファンクラブだって名ばかりのものかもしれないだろ?だいたい俺らとおんなじような年の人がやるもんだ。直に飽きられるかもしれないだろ。俺たちの関係が誰かにとって疎まれてるってわけでもないしいいじゃないか」
「確かにね。でも遥の名前が知れ渡ってるのはわかるけど、なんでシオンまで?」
「副会長といるってことはそういうことなんじゃないか」
翌朝もいつもと変わらずいっしょに登校したのだが、意識しているのもあるせいか視線を感じるようになった。でも危害を加えられているわけでもないし放置でいいだろう。
「おはよう!風真...ってお前の後ろにすごい量の女子がいるぞ」
「え?んなわけ...いやそんなことあるわ」
言っておくが俺は公認した覚えはないからな
サブキャラの話を番外編に載せるのはありか
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あり
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なくてもいい