TCG販促アニメでどう足掻いても悪役ポジションの私が開き直って悪役RPを満喫するお話 作:木津 吉木
わんこさんを抱えたまま、ずっと歩き続けるわたす……不思議なことに、全然足が疲れないっぺ。
前にも、こんな感じで歩き続けても疲れなかった事があったような気がするけれども……何時だったっけ?
「あれ……なんか、聞こえるっぺなわんこさん」
「わふっ!」
お祭りの時の楽器の音が聞こえてきて……多分、道の先で誰かが演奏してるっぺ。
そして少し、早足になるわたす……この森の出口があるかもしれないから、少なくとも誰かがいるのが確定しているっぺ!
「わぁ……お祭りだっぺ〜!!」
森を抜けた先、月の光が照らす広場の中では……小さなお祭りが開かれていたっぺ。
出店は無いけども……みんなが思い思いに動物のお面を付けていて、赤い提灯の下で楽しげに話しているっぺ。
その中の一人……タヌキのお面を付けている、太ったおじさんがこっちに来るっぺ。
「あの、わたす……迷子で、ずっと森の中にいたんだっぺ……帰り道、教えて欲しいですっぺ」
「おやまあ、人間のお嬢ちゃんが迷ってくるなんて何百年ぶりだろうねぇ……」
まるで、自分が人間じゃないみたいに話すおじさん……何故だか、そのタヌキのお面を被った穏やかなおじさんの姿を見ていると、わたすの大好きなモンスターの一体が脳裏に浮かぶ。
「もしかして……おじさん【サンダユウ】だっぺ?」
「わしの事を知っているのかい?もしかして、わしら【
コクコクと何度も頷けば、タヌキのお面のおじさん──【サンダユウ】が、嬉しそうにわたすの頭を大きな手で撫でてくるっぺ。優しくて、暖かくて……おっとうみたいだっぺな。
「そうかそうか、お嬢ちゃんがここに来たのはその縁だろうなぁ……今な、わしら【
「やっぱりお祭りだっぺか?だから、みんなちょっと楽しそうにしてるっぺ?」
「そうだよ、数ヶ月前に冬眠に入った【オオモリサマ】がこれからお目覚めになるんだよ」
【サンダユウ】が指差す先には、古い縄が掛けられている大きな岩があったっぺ。
思わず、デッキケースから【
「お?【オオモリサマ】のカードだね、今は眠っておられるから見た目が違うんだよ、お嬢ちゃん」
「そうなんだっぺか……」
「もうすぐ【オオモリサマ】が目覚めて、蓄えた"サモンエナジー"でこの豊穣の森に沢山の実りを与えてくれるんだ。その収穫を祝って、美味しい物を沢山食べるのがこのお祭りなのだけども……良かったら、お嬢ちゃんも参加しないかい?このお祭りが終わったら、お嬢ちゃんもきっと元の所に帰れるよ」
申し訳なさそうに言ってくる【サンダユウ】は、わたすを騙そうとかそういう気配が全く無いっぺ。
……どうせ、お祭りが終わるまで出られないのなら、このお祭りを楽しんだ方がずっと良いっぺな。
「それじゃあ、わたすもお祭りに参加するっぺ!」
「そうかそうか!いやぁ、人間さんが来るのは本当に久しぶりだからねぇ……よーし!おじさんも腕をよりを掛けて、料理を沢山作っちゃうぞー!」
「わぁ……!!すっごい、楽しみだっぺ【サンダユウ】!!」
「わふっ!!」
わんこさんも料理が楽しみなのか、嬉しそうに吠えるっぺ。
おばあちゃんに会うのが遅れるのは申し訳ないけんども…仕方ないっぺな。
それからしばらくは【サンダユウ】に連れられて、他のモンスターさんとお話してたっぺ。
みんな、わたすのデッキにいる人達ばかりで……会う人みんなが、わたすのことを心配しながらも歓迎してくれて、すごく嬉しかったっぺ。
だから……その人達の悲鳴が聞こえた時に、いても立ってもいられずに走り出したっぺ。
「アレはまさか……待つんだ、お嬢ちゃん!!」
【サンダユウ】の静止を振り切り、駆け抜けた先では……
「だ、だめだっぺ!!」
「キャッ!?」
力いっぱい
その事に驚いたのか、
「もう!何すんのよ!!ヤォが怪我したらどうするのよ!!」
「だ、だって……みんなが大切にしてるモノを壊そうとするのはだめだっぺ!」
「ヤォが壊したいからいいのよ!やっちゃえ、ジンちゃん!!」
「だからだめだっぺー!
女の子の言葉に従って、
何か無いかとポケットをまさぐれば……虫除けスプレーがあったっぺ。その口を緩め……思いっきり、
空中で緩んだ口から、虫除けスプレーの中身が掛かって……お札の文字が滲んで、そのままお札が外れたっぺ。
「やった……ぇ?」
お札が外れたから、元の優しい
おっかない目つきの
何かが破裂するような、湿った音が響く。
何度も地面をバウンドする女の子は血を吐いていて……酷い事を言われたけんども、あまりにも酷い暴力を振るわれた彼女が心配で、思わず駆け寄ろうとしたら……
「じ、
「オ…マエ……ハ、チ……ガウ…」
あのいつもの困ったような、でも優しい表情ではなく歯を食いしばった……怒っているみたいな顔の
そして、無理やりに出されたみたいな、低い唸り声混じりの声を出してから……あの女の子の方に向き直って、人が出しているとは思えない雄叫びを上げながらあの女の子に向かって走り出してしまう。
それに対して、女の子は立ち上がり、笑いながらお札に何かを書いて……【オオモリサマ】に向かって、投げつけた。
「あっは♡狂った瑞神に殺されちゃいなよ」
凄まじい速度の
そして、抱えたままのわんこさんが……何かに警戒しているみたいに、低く唸り始める。
「わんこさん……?」
「ぐるるる……!!」
それと同時に、ピシリと硬い物にヒビが入ったような音が聞こえたっぺ。
音の出処は……お札を投げつけられた【オオモリサマ】だっぺ。
ヒビはどんどん増えていってるけんども……様子がおかしい。
ヒビを埋めるみたいに、色んな色のキノコが生えてきて……やがて【オオモリサマ】の全身を埋め尽くしたっぺ。
「これは……まさか衰退の沼の……!?」
「【サンダユウ】!なんか、女の子がお札投げたら【オオモリサマ】がキノコまみれになったっぺ!!」
ふぅふぅと太った体を揺らしながら走ってくる【サンダユウ】が、キノコまみれの【オオモリサマ】を見て焦った様子で、周りに叫び出す。
「全員逃げろ!!【オオモリサマ】が狂い病に犯されたかもしれない!!妖の森に助けを求めるんだ!!早く!!」
そうしてる間にもヒビの入る音は増え続けて……そして
『………ごぉ、はぁん』
【オオモリサマ】が目覚めた。
全身を苔ではなく、キノコに覆われたその豚頭の巨人は……白目の所が黒く染まっていて、真っ赤な瞳でわたすらを見下ろしていた。
そして、手を伸ばして……わたすを捕まえようとしたのを【サンダユウ】が、どこからか取り出した大きな木製のしゃもじで払い除ける。
「ぐぅ……お嬢ちゃん、ごめんね。お祭りは中止だよ……ご飯、食べさせてあげられなくて……本当に、ごめんね」
「そ、そんなのは良いっぺ!【サンダユウ】も早く逃げようっぺ!」
「それは出来ないんだよ、わしが逃げたら……誰が【オオモリサマ】を止めるんだい?」
指を構えて、小さく何かを呟いた【サンダユウ】の姿が変わる。
大きな前掛けに、ふわふわの濃い茶色の毛……【オオモリサマ】に負けないくらいの大きさのタヌキの姿に戻った【サンダユウ】が、わたすに笑いかける。
「さあ、お嬢ちゃん……目覚める時間だよ」
急に後ろに引っ張られるような感覚を覚える、手を【サンダユウ】に向かって伸ばすけども……届かない。
寂しそうに笑う【サンダユウ】の姿が遠くなって……そして……
「【サンダユウ】!!!」
『どうしたのじゃ……ミドリコ、
手を前に伸ばした状態でそう叫んだわたすは……とうに降りた筈のバスの車内にまだいたっぺ。
『他に乗客もおらぬから良いが……泣いておるのか?どうした?怖い夢でも見たのか?』
「あ、えっと……夢、だったっぺか?」
あの出来事が、全部夢だったのだろうか……?
ふと、ポケットに手を入れたら……入れていた筈の虫除けスプレーが無くなっていたっぺ。
それと、見覚えの無いカードもまた一緒に入っていた。
「【
そのイラストは、あの夢に出てきていたキノコに塗れた【オオモリサマ】その物だったっぺ。
ーーーーー
あの迷子になった人間の女の子を上手く返す事は出来た……問題は、やっぱり目の前のこの狂ってしまった豊穣の森の守護神だろう。
「──大盛様、大盛様、繁栄は既に満たされました。お力をお
『ごぉ……はぁん!!』
狂ったように
それでも、討伐してしまうのは簡単だが……この方に我ら【
『お腹が空いたんだね〜一緒にいっぱい食べようね〜』
『ほら、一人で食べるよりも皆で食べる方が美味しいからねぇ〜』
『皆が美味しいって言ってくれるのが私にとっては一番のご馳走だよ〜』
この森にふらりと現れて、いつの間にか居着いた【オオモリサマ】は……既に我ら【
だから、わしには彼を傷つけることは出来ない。
「……【オオモリサマ】」
『ごぉはぁんんん!!!』
わしに向かって伸ばされる手……それを払う気力も無くなり、わしはそのまま【オオモリサマ】に喰われる
筈だった
「わふ」
場違いな犬の声、それが聞こえたと同時に【オオモリサマ】の悲鳴が響く。
「お、【オオモリサマ】!!?」
『いた■いい■い■■い!!!?!?』
【オオモリサマ】の腕は
そして、わしと【オオモリサマ】の間に……見慣れぬ黒い小さな犬がいた。
「一体、何が……」
『あ、ああああ……!!?』
明らかにその犬に対して怯えている【オオモリサマ】
「わふ」
犬がまた、鳴き声を上げると同時に……今度は【オオモリサマ】の足が片方
『いやだ、私は……私はあああああああ!!!!!』
痛みに叫びながらも、犬に向かって【オオモリサマ】が残った腕を振り下ろす……だが、不思議とわしにはその行く末が分かってしまった。
「わふ」
血が、辺りに撒き散らされる。
【オオモリサマ】がいた所には無数の肉片のみが残されていた。
その惨状に……わしは、まるで
「おおもり、さま……」
……我らモンスターは、死したとしても時間があればまた復活する。
故に……【オオモリサマ】もまた、何時かの時に帰ってこられるだろう。
しかし、そうと分かっていても……やはり、家族が死んだという事実が心を酷く
「…………」
黒い犬が、いつの間にかこちらを見ていた……助けてくれたのは分かる、だが……それでも【オオモリサマ】を手に掛けたこの犬の事は、好ましく思えない。
「助けてくれたのは、感謝するけれど……少し、気持ちの整理をする時間をくれないかな」
「…………」
犬は何も言わない……
ただ、一歩ずつこちらに近づいてくる。
「言葉が……分からない、かな?」
「…………」
その犬の胸元、一筋の弧を描く白い毛の周りが赤い血で汚れているのが見えた。
そこ以外は、血に汚れていない……【オオモリサマ】を肉片にしたと言うのに。
「キミは……」
白い毛がバックリと割れる。
それは、胸元にあったのは大きな口だった。
巨大な口、そして意思の疎通が取れない存在。
ソレの正体に気づいたわしは……
「わふ」
視界が黒く染まり、何も分からなくなった。
やべぇ存在に懐かれた