TCG販促アニメでどう足掻いても悪役ポジションの私が開き直って悪役RPを満喫するお話   作:木津 吉木

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ユギト 1

熱は感じたけども、不思議と火傷は負わなかった。

爆炎が収まると同時に、ガシャンという金属音が鳴る。三人が閉じ込められていた牢屋の扉が開け放たれていた……水兎(ミト)米子(コメコ)の無事が気になるけども、今はアイツの方に注意しなきゃいけない。

片膝を着いた状態で俯いたまましゃがんでいるアイツに恐る恐る近づく。

 

 

「どうだ、お前の思い通りにはならなかったぜ」

 

「…………確かに、引き分けという選択肢は私の中にはありませんでした。けれども……キミ達は()()()()()()()()()()。私達が今している事を止める条件は負けた時です。()()()()()()()()()()

 

 

屁理屈にも似た言葉を吐きながら、ゆっくりとアイツが立ち上がる。

被っている仮面にはヒビが幾つも入って、壊れる寸前みたいになっている。服も炎にまかれて、元々血や黒い粉末にまみれて汚れていた服は端が破けたり焦げたりしてボロ布に近くなっていた。

 

 

「HAHAHA……流石にそれは言い訳が苦しくないかい?」

 

「いいえ、そんな事はありません。引き分けを負けとカウントしているならば、契約は速やかに執行されています。契約と恐怖の大公の仕事は早い……貴方も知っている筈です」

 

 

アポロ店長は肩を竦めて『確かに』と呟く。契約と恐怖のたいこう?が何かは分からないけども、ソレが動いていないからアイツの中では問題は無いという判定らしい。

それでもアイツが背後にある、真っ白な卵のような物に近づこうとするのを黙って見ていられなかった。

 

 

「おりゃっ!!」

 

「っ!うわっ!!?」

 

 

俺の身長じゃあ、アイツの腰くらいにまでしか届かないけれど……力いっぱい駆け出して、しがみついてやれば体勢を崩したアイツともみくちゃになるように何度も地面を転がる。

アイツは地面に寝転び、俺はその上にのしかかるようにマウントポジションを取れた。抜け出そうと動くアイツの力は、小学生の俺でも抑え込めるくらいに……不自然な程に弱かった。

 

 

「離してください」

 

「嫌だ、お前にこれ以上悪さはさせねぇ」

 

()()?」

 

 

真っ直ぐに真赤な目が俺を見つめる。

ぞわぞわと背筋を寒気が走るけども……真正面から睨み返す。

 

 

「悪いことしてるのを見て見ぬふりなんて出来ねぇし……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「友達……?」

 

「お前は友達じゃないって言ったけどな、そう簡単に友達って辞められねぇからな……気持ち悪いとか言ったのは悪いと思うけどそっちも悪いからな!!主人公(えいゆう)とかそういう役回りじゃなくて、俺自身を見ろ!!」

 

「………………」

 

 

言いたい事を一気に言ってやれば、アイツは何も言わなくなってしまった。

抵抗の力も完全に無くなって、困ったように視線をウロウロとさせている……そんな俺たちにアポロ店長がのんびりと歩いてきた。

 

 

「ほら、やっぱり言った通り……キミ、無理して悪者演じてるでしょ。キミは確かに邪神かもしれないけど、邪悪では無い。無邪気で遊ぶのが大好きな神様だからねぇ」

 

「……………」

 

「困ったら黙る癖、中々治んないねぇ?」

 

 

くすくすと笑うアポロ店長が言う通りならば……コイツは悪者じゃない?でも、あの【ルシフェリオン】の目的はどう考えても良くない事だ……あれ?

世界中の人間に自分を崇めさせるっていう野望は【ルシフェリオン】が言っていたけども……コイツ自身はそれに対して何も言っていない。寧ろ、自分が負ける事を望んでいた節もある……負けたら、野望を止められるのに。

 

 

「なぁ……お前の本当の目的は何なんだ?」

 

「…………私の目的は」

 

『決まっているだろう?私の願いを叶える事だ!!!』

 

 

アイツのデッキから傲慢な声が響く。

一枚のカード──【ルシフェリオン】が飛び出して実体化した。いつも付けている仮面を被っていない……歓喜にも似た凶相を浮かべているその様子は天使というよりも人間に近い。

そのまま、【ルシフェリオン】は白い卵へと手を伸ばすが……空を切り裂く音ともに銃撃がその手を撃ち抜く。

 

 

「やらせん!!!」

 

『邪魔をするな、美禍(ミカ)(つがい)ぃ!!!』

 

 

ユギトの父ちゃんが心臓の辺りを抑えながら、戦闘機のようなモンスターを操って【ルシフェリオン】に襲い掛かる。

対する【ルシフェリオン】も撃ち抜かれた腕を庇いながらも、光の槍を何本も生み出してはモンスターに向けて何度も放つ。

その余波で、ただでさえ"ギアスファイト"の影響でヒビだらけな牢獄のあちらこちらから嫌な音が聞こえてくる。

 

 

「このままだとやべぇ……!」

 

「そうだねぇ……水兎(ミト)ちゃんと翠子(ミドリコ)ちゃんは私が逃がすから、キミ達も二人早く逃げよう」

 

 

そう言うとあっという間に二人を牢屋から担ぎ出してくるアポロ店長……割とあの人細いのによくやるぜ。

俺の方もこの状況だともう何も出来ない……"ギアスファイト"で体力を使い過ぎて、モンスターを出せそうにない。

 

 

「ほら、行くぞ。お前も消耗してるんだし逃げねぇと……」

 

「それは……まだ、無理ですね」

 

 

さっきまでの抵抗が嘘のような力で俺の体を押し退けて、アイツが駆け出す。

尻もちを着いた俺に小さく『ごめんなさい』という言葉が聞こえた。

 

 

『来たか同志!!さあ、共に我が願いを叶えよう!!』

 

「【メタトロン】奴を止めろ!!!全て焼き払えぇぇぇぇ!!!!」

 

 

血を吐くような叫びと共に巨大な機械の天使が、上半身だけ実体化する。

その指先から放たれた炎が、白い卵へと襲い掛かる。

見るからに衝撃に脆そうなソレに炎が触れる寸前、アイツの体が壁となった。

影が伸びて、火に触れて燃え始める肉を削り落とす度に、押し殺した声が聞こえる。地面に落ちる肉片からは嫌な臭いが漂い、傷口から血の代わりに黒い液体……いや、黒い小さな虫の塊を垂れ流す姿は"ギアスファイト"の時の姿を思い出す。

 

 

「だめ、ですよ……()()()を、貴方が傷つけちゃあ……」

 

 

悲しそうに、そう言うアイツの仮面がついに熱に耐えきれなくなって崩れ落ちた。

苦しそうに青ざめた顔を歪めながらも、口元はいつもみたいに笑っていた。

そして……白い卵の表面が、糸がほどけるように少しづつ消えていく。

卵の中で赤ん坊のように、体を丸めて眠っているのはアイツが着ている服によく似た服を着た……多分、俺より少し歳上の子供。ピンク色の髪と、少しだけ見える顔の面影が……アイツにそっくりだ。

 

 

「ゆ……ぎ、と?」

 

『待て、なんだソレは……私の肉体を造っていたのではないのか……!!?』

 

「何故、私が貴方の言う通りにしなければいけないのですか【ルシフェリオン】…………私の遊び相手でもない癖に」

 

 

宝物に触れるように、そっと眠っている少年を抱き抱えてアイツがユギトの父ちゃんの所へと歩いていく。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()が……この子を、優義徒(ユギト)を返させて下さい」

 

「理解出来ん……そうまでして優義徒(ユギト)を返しに来たお前は……何なんだ」

 

「この子の、最初の遊び相手です」

 

 

ユギトの父ちゃんに、少年──ユギトを預けたアイツが指を鳴らすと二人の姿が消える。

安心したように息を吐いたアイツの身体を、何本もの光の槍が貫く。

 

 

『許さない……この私をよくもコケにしてくれたな……!!第六の神!私が力を貸してやらなければとっくに壊れていたのに!!この私を裏切るとは恥を知れ!!!』

 

()()()()?それはこちらのセリフですよ【ルシフェリオン】……あの子の人生を弄んだお前たちを()()は許さない」

 

 

そうは言うけども、見るからにアイツは弱っている。

再度投げられる光の槍によって、アイツの右腕が切り飛ばされて……もう見ていられない。

自分の中の何かがガリガリと削れる感覚があるけども、俺はデッキの一番上のカードを引き抜いた。

 

 

「【ゴウエン】アイツを助けてくれ!!」

 

『本当に無茶すんなお前は!!終わったら、説教だからな!!!』

 

 

実体化した【ゴウエン】が三度目の投槍をその大剣で逸らしながら、【ルシフェリオン】へと肉薄する。

後ろに跳び、斬撃を避け続ける【ルシフェリオン】の表情がさらに醜く歪む。

 

 

『また邪魔をするか、下等種族が!!!』

 

『本性見えてんぜ、クソ野郎!!()()()で散々暴れやがって……そろそろ往生しやがれ!!!!』

 

 

大剣と光の槍がぶつかる度に、ビリビリと空気が震える。

片腕をだらんと垂れさせたままでも、【ルシフェリオン】は【ゴウエン】と互角だった。地力が違うのは明らかで……段々と無傷な筈の【ゴウエン】が押されていく。

 

 

「【ゴウエン】!!くそ、もう一人……誰か呼ばないと……っう」

 

 

世界がグラりと揺れて、鼻の奥がツンと傷んで何かが垂れて来るのが分かる……力が抜けていって、視界が黒く染っていく。

倒れそうな体を誰かが優しく受け止めて……耳触りのいい、アイツの声が最後に聞こえた。

 

 

「後は、任せて下さい……全て、キレイに終わらせます」

 

 

 

 

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