ヤマト夫妻がメンデルでとても頑張った結果 作:スカウトマニア
カリダをヴェサリウスの一室に案内した後、クルーゼとアスランは残り、お互いの情報の確認を行っていた。まさか二人そろってカリダ、更にはハルマ、キラ達ヤマト家と知り合いだとは思いもよらなかった。
「隊長は、いつごろ、カリダさん達とお知り合いに? 俺は月の幼年学校時代にお世話に……」
「それなら、私がヤマト家を出た後の話だな。カリダさん、ハルマさん、キラ君、オルフェ君、イングリット君、シュラ君、ダニエル君、リュー君、グリフィン君、リデラード君、実に賑やかで心安らぐご家族だった」
「はい。俺も本当に実の子供のように優しくしてくださいました。その後、オーブに移住したことまでは聞いていたのですが、まさかこんなことになるなんて」
今も心の中にある優しく綺麗な思い出だからこそ、寄りにもよって戦場で出くわし、危うく危害を加えてしまいそうになった現実に、アスランは端正な顔を大きく歪める。
仮面に隠されたクルーゼの顔にも、似たような感情が薄皮一枚の下で蠢いていた。あるいはアスラン以上にクルーゼにとって、ヤマト家は聖域なのだ。
「私にとっても青天の霹靂というものだよ。よもやとは思ったが、カリダさんやキラ君を巻き込んでしまうとはな。
それにイザーク達からの報告ではオルフェ君、イングリット君、シュラ君もヘリオポリスに居たようだ。ハルマさん達もヘリオポリスに居たのかまでは、分からないが」
「っ、オルフェ達まで。確かに全員、コーディネイターとしても非常に優れた能力の持ち主でしたが、まさか揃いも揃ってGに乗り込んで、俺達の任務の障害になるなんて!」
「うむ。オーブが地球連合と協力している関係で、秘かにオーブ政府から協力を支持されていた、という線はほぼ妄想か。本当に単なる偶然で居合わせてしまったとしたなら、皮肉以外の何物でもない」
「隊長、任務はこれからどうなりますか? それにカリダさんのことも……」
G奪還に際してクルーゼ隊のメンバーは少なくない死傷者を出している。中立を標榜するオーブが地球連合と手を結んでいた事実に加えて、軍人とはいえ仲間達の死に残った隊員達は怒りを募らせている。
「任務については残念ながら達成は困難を極めている。Gの性能がこちらの想定を超えていたのもあるし、手持ちの戦力も私のシグーと君の強奪した機体、ジンも残り一機。
対してあちらは最低でもG四機にエンデュミオンの鷹に新造戦艦。オーブも自国のコロニーでこの騒ぎとなれば、すぐに軍を動かす。不幸中の幸いだが、君の強奪した機体をまずは確実に本国へ送り届けることを優先する。カリダさんは……申し訳ないが、同行していただこう」
「……はい。他国の艦内にお一人です。万が一のことはないとは思いますが、どうかご配慮を」
「分かっている。私としても到底、無碍に出来る方ではないからな。しかし、どうしてこうなるものかね。運命とやらがあるのなら、それを恨みたい気分だよ」
「隊長でもそんなことを思うことがあるのですね」
「あるさ。所詮、私も神ならぬ人間なのだから」
クルーゼ隊がヘリオポリスからの撤退を決めたころ、被害を受けたヘリオポリスでは出港しようとするアークエンジェルの中で、緊急事態故に艦長になってしまったマリュー・ラミアスと副長となったナタル・バジルール、エースパイロットのムウ・ラ・フラガ達が、キラとオルフェ、イングリットを相手に脅迫混じりの説得を行っていた。
シュラはデュエルの調整名目でコックピットに残っている。万が一、襲撃があった場合、一機だけでもすぐに対応できるように、とも主張して、それをマリューらが認めたためだ。
「無茶ですよ、僕達はオーブの人間です! 軍人でもなければ地球連合の人間でもない!!」
当たり前の主張をするのはキラだった。彼の左右をオルフェとイングリットが挟む形で、ブリーフィングルームの一室に居る。対面に座るマリューは拳銃を突き付けたこともあるが、今はキラの主張にもっともだと内心では感じるところもあり、圧が弱い。
その代わりというわけではないが、規律正しい軍人然としたナタルは、はっきりと険しい表情を浮かべて、キラの主張を受け入れる様子はない。
「そんなことが通じる状況だと思っているのか? オーブが地球連合と協力し、アークエンジェルやストライクを開発していたのは否定しようのない事実だ。である以上、ザフトがそれを見過ごす理由はない。
今は退けられたがアークエンジェルと他のGを狙い、戦力を整えて再び攻撃を仕掛ける可能性は十分にある。その時、戦火に飲まれてただ死ぬのを待つつもりか?」
「それは貴方達の都合でしょう! 他国の人間なら民間人を戦わせても、なにも問題はないっていうつもりなんですか!? あなた達は」
キラの反論に続き、これまでじっと話に耳を傾けていたオルフェが口を開く。キラが感情のままに話す間、冷徹に状況を観察していたとムウだけが気付いている。本当に民間人なのか、疑わしい胆力だ、とも。
「地球連合の、より正確に言えば大西洋連邦のあなた達にとっては、この戦艦と機体が戦況を覆す重要なピースなのは、考えるまでもない。オーブも生き残る為にMSのノウハウを手に入れようと、地球連合と手を組んだのも簡単に想像が着く。
このままザフトの攻撃が続けばヘリオポリスが再び焼かれるのは事実、そしてアークエンジェルもほぼ間違いなく沈む。だから我々の力がどうしても欲しいのだ。ナチュラルにはまだ扱えないMSを操縦できる我々の力が。例え他国の民間人だとしても」
痛いところを容赦なく突いてくるオルフェに、ナタルが苦虫を噛み潰した顔になった時、色々と諦めた様子のマリューが口を挟んだ。一分一秒が惜しい状況なのだ。このまま水掛け論を続けても仕方がない。
たとえ恨まれようともキラ達の力は、この状況を生き残る為には必要なのだから。
「三人ともそこまでよ。今は話し合っている時間が惜しいわ。キラ君、オルフェ君、イングリットさん、あなた達にとって極めて不本意な状況であるのは分かります。私達が貴方達に無理を強いているのも。
それでも私達はアークエンジェルとGをなんとしても届けなければならない。恨んでくれて構わないし、いくらでも罵ってちょうだい。言いたくはないけれどシュラ君も含めて、四人が他国の軍事機密に触れたのも事実よ。罪に問われるのを防ぐ為には……」
マリューが本気で心苦しく思っているのは、頭に血の昇っているキラにも分かるが、納得となるとまた話は違う。キラが椅子を蹴って立ち上がり、抗弁しようとして今度はイングリットが動いた。イングリットもこの状況を延々と続けるつもりはない。
「遡って私達が地球連合に志願していたことにするしかない、というわけですね。それにヘリオポリスや、この艦に避難している学生達を守る為には私達が戦うしかないのでしょう?」
そうだ、現在、アークエンジェルにはキラの友人であるトールや、その恋人のミリアリア、カズイやサイらが乗り込んでいる。彼らもまたストライクの起動にあたって、軍事機密に触れてしまっており、今は避難民兼人質として拘束された状態だ。
イングリットの言葉で友人達の身もまた危ういのだと悟り、キラの顔に明確な怒りが浮かび上がり、今にも噛みつかんばかりに目の前の軍人達を睨む。
「貴方達は!!」
激昂するキラを同じく立ち上がったオルフェが肩に手を置いて、制止した。彼もまた不愉快さと怒りを噛み締めているのは、雰囲気の変化だけで分かる。
「キラ、残念だがここで私達があの機体を降りるのは難しい。例えアークエンジェルを降りられても、またザフトの襲撃があれば巻き込まれる可能性が高いのも事実だ」
オーブ政府が果たしてどう動くのか。被災民の救出をどこまで迅速に行うのか、正直、あまり期待できないとオルフェは判断している。少なくとも自分達に関しては、機密漏洩を防ぐ為に、口封じを企む氏族も少なからずいるだろう。
「オルフェ、でも!」
「分かっている。我々もただ貴方達に言われるがままに戦うつもりはない。我々が軍事機密に触れたとして、他国の民間人を脅迫して戦わせたという事実は変わらないのだから。
今はこれくらいで良いでしょう。我々も初めての実戦で、命懸けの戦いをして神経が高ぶっている。少し息を入れる程度の時間はあるはずだ」
オルフェが促し、キラとイングリットが退室しようとするのを、ナタルが止めようとしたがそれを更にムウが制止して、三人は部屋を後にした。トールたちの無事を確認しに行くか、格納庫でシュラと話をするのだろう。
「待て、まだ話は……」
「おっと、そこまでだ。悪いな、坊主たち。情けない話だが、俺達にも余裕がなくってな。除隊許可証は必ず発行されるよう尽力する。それだけは信じてくれ」
そんな権限は持たないムウだが、そうされるよう『エンデュミオンの鷹』のネームバリューだろうとなんだろうと、利用してやろうとは本気で考えていた。それが読めたから、オルフェとイングリットは何も言わなかった。
「フラガ大尉、よろしいのですか?」
「いいんだよ。今はこれ以上なにも出来ないし、させられない。それに忘れてないか? もう一人の坊主、シュラは今もデュエルのコックピットに居るんだぜ?」
「……? ……あ、まさか、いざとなったら中からアークエンジェルを?」
「沈めるかは分からんが、一番の暴力装置を握っているのはあっちだって話さ。彼らがその気になればいつだってアークエンジェルを沈められる。なんならザフトに寝返ったっていい。そういう立場だって、肝に銘じて接しないと手を噛まれるどころじゃすまないぜ」
キラは腹芸の出来ないタイプだがオルフェとイングリットは別だ。下手な大人などよりもよほど世慣れしていて、腹の内では怒りを渦巻かせながら、考えを巡らせているのが分かる。
「まいったね。青い鳥を手元に呼び寄せたつもりが、こっちの対応次第じゃいつ寝首を掻かれるか分からない猛禽とはね」
フラガの嘆息から数時間後、アークエンジェルはヘリオポリスを後にした。クルーゼ隊による二度目の襲撃が発生しなかったため、大火力のエネルギー砲アグニや対要塞攻略などに用いられるキャニスが使用されなかった。
これによりヘリオポリスの本格的な崩壊は免れて、避難民の乗ったシェルターが放出されることも無かった為、フレイ・アルスターを始めとした避難民がアークエンジェルに収容されることも無かった。彼らは後にやって来るオーブ政府の救援部隊によって無事に回収される。
ヘリオポリスを発ったアークエンジェルは一路、地球連合構成国ユーラシア連邦の保有する軍事要塞アルテミスを目指したが、その道中、クルーゼ隊からの報告を受けたザフトから指示を受けた、別の部隊と遭遇戦を演じていた。
実弾に対してほとんど無敵の防御性能を持つPS装甲と、一撃でMSを仕留めるビーム兵器を持つデュエル、バスター、ブリッツ、ストライク、それにムウのメビウス・ゼロを含む五機の機動兵器を相手に襲い掛かって来たのは、ローラシア級三隻、MSジン十五機、シグー三機からなるジャガンナート隊だ。
鷲鼻が目を引く少壮のハリ・ジャガンナートは、ザフトの中においても人望のある優秀な隊長だった。精鋭たるクルーゼ隊を退けたという、地球連合の新型戦艦とGを侮っては居なかった。
各艦の艦長やクルー達は気心の知れた面々で、MS隊のパイロットも開戦初期から戦い続け、地球連合のメビウスや艦隊を数多く血祭りにあげてきた歴戦の猛者なのだ。
だからジャガンナートに落ち度と言えない落ち度があるとしたなら、Gのパイロット達が万能の才能を与えられたスーパーコーディネイターと、コーディネイターを超える種族として作り出されたアコードだったこと。
実戦経験はないに等しい四人だったが、キラのエールストライクはその機動力とビームの威力で、三倍以上の敵機を翻弄している。
そこへオルフェの操るバスターからの正確無比な支援砲撃とミサイルが降り注いで、ベテランの操るジンを宇宙の藻屑に変える。
ジャガンナート隊のパイロットは確かにベテランではあったが、対MSの実戦経験となると話は変わる。ましてや基礎スペックでは自分達を大きく上回るパイロットと、機体性能でも大きく溝を開けられた相手とあっては。
エールストライクとバスターに連携をかき乱されたところに、シュラの操るデュエルが果敢に突撃し、実戦への恐怖を知らないような戦いぶりは次々とシグーとジンを撃墜スコアに加えている。
いざという時のフォローを考えていたムウなどは、自分の出番がまるでないことに気が抜けたというか、安堵したというか、複雑な心中だった。
そしてミラージュコロイドを使ったステルス機能を活かし、ローラシア級の懐に飛び込んだイングリットのブリッツによって、砲座や格納庫、推進機関に攻撃を受け、早々に一隻が戦闘不能に追いやられる。
「何と言う事だ。クルーゼの報告以上ではないか。ナチュラルに与する裏切り者が乗っているとはいえ、なんという性能の機体を作ったのだ!」
ジャガンナートが戦慄している間にMS隊は半数を失い、ローラシア級一隻が戦闘不能だ。特に狡猾なのがローラシア級は迅速に救出活動を行えば、多くの兵を助けられる。ただでさえ人口の少ないプラントに於いて、基本的に義勇兵である軍人は極めて希少だ。
仮にこの戦争に勝利したとして、あまりに戦死者が多ければプラント社会に甚大なダメージが及ぶのだから。
「敵MS後退してゆきます。足つきが戦闘を離脱する動きを見せています」
まだ助かる味方を残しておくことで、救出活動に従事しなければならなくさせる、古くからの常套手段だ。ましてやプラントの国内事情を考えれば、効果は覿面だ。
ジャガンナートがそうすると分かっているように、アークエンジェルはそそくさと反転して、離脱を始めている。血の気の多いパイロットが追撃を具申する中、ジャガンナートは溜息を飲み込んで制止した。
「今回は相手が一枚上手だった。それを認めなければなるまい。この戦訓を決して忘れるな。それにしてもこれからの戦いは厳しくなるな……」
ジャガンナートは険しい表情のまま、モニターの向こうに消えて行くアークエンジェルを睨み続けた。
キラのアークエンジェル組に対する好感度は、原作よりも低めとなっております。