ヤマト夫妻がメンデルでとても頑張った結果 作:スカウトマニア
アコードのテレパシーの有効射程距離が分からなかったので、オーブ・ヘリオポリス間は無理としています。
キラ達がアークエンジェルに乗り込み、カリダがアスランに保護されたころ、残るヤマト家の面々はというとオーブの家に居た。
キラ、オルフェ、イングリッドは留学の為に本土の家を離れてヘリオポリスに居て、カリダは子供達の様子を見に来ていたのだが、そこをクルーゼ隊が折悪しく襲撃してしまったのである。
シュラがヘリオポリスに居たのは、留学とはまた別の理由による。
いずれにせよヘリオポリスが戦火に巻き込まれ、住人達が救助を待っているという知らせはオーブ本国にも届いており、愛する妻と子供達の安否を確認できない事実に、ハルマは正直、打ちのめされていた。
それでもまだこちらに残っている五人の子供達の為に、表向きは冷静を装っている。
リビングのソファで報じられるヘリオポリス襲撃のニュースを見るハルマの表情は、かつてないほどに険しい。
コーディネイターである子供達の将来を思い、ナチュラルとコーディネイターの共存するオーブを移住先に選んだのが、まさかこうして戦火に巻き込まれてしまうとは。
はたして自分の選択肢は間違いだったのだろうか? あの時、カリダの言う通りプラントに行っていれば、こんなことにはならなかったのではないか?
例え心が読めなくても、ハルマがそう考えて自分を責めているのが見て取れたから、リデラードは大いに心を痛めていた。
「パパ、大丈夫? ヘリオポリスのニュースが流れてきてから、ずっと眠れていないんでしょう? お仕事だって大変なのに」
同じソファに腰かけていたリデラードが、心から心配してハルマに尋ねると、ハルマは焦燥の色がにじむ顔を一つ撫でて、微笑みを浮かべた。
リデラードがカリダの笑顔と同じで世界一好きな笑顔だったが、ハルマが無理をして浮かべているのは言うまでも無かった。
「ああ、大丈夫だよ、リデラード。こんな時にパパがへこたれてはいられないだろう? それにママとキラ達の事が心配なのは、お前も同じだろう? みんなが無事に帰って来るまで、この家を守るのがパパの仕事さ」
「うん。あたし、ちょっと飲み物取ってくる。パパは?」
「大丈夫だよ」
居た堪れなくなって席を外したリデラードは、一つ上の兄であるダニエルの部屋を訪ねた。飲み物を取ってくる、というのは席を離れる方便だった。
部屋に入るとダニエルは愛用のゲーミングチェアに腰かけて、もう一人の兄弟と話をしているところだった。
「ダニエル、またゲーム? 大会が近いんだっけ?」
気だるげな顔にマスクをしたダニエルは、勝手にベッドの上に座るリデラードに文句も言わず、やっぱり気だるげに答える。
「ん。世界大会は無理だけど、近場の連中で集まってちょっとしたレクのつもりでやんの」
「ふ~ん、世界ランキング一位の座を奪還、とはいかないわけだ」
「ニュートロンジャマーの所為でしっちゃかめっちゃかだし、しょーがないでしょ」
ダニエルは世界規模で開催されている、とあるeスポーツゲームの世界トップランカーの一人で、大会で得た賞金を家に入れている。現在のランキングは世界第三位。第二位はコーディネイターで第一位はナチュラルである。
世界規模の大会ともなれば上位陣はナチュラルとコーディネイターといった括りを超えた、人類の上澄み、努力する天才が占めるものだ。eスポーツゲームに限らず、多くの分野の本当のトップ層にはまま見られる状況である。
ダニエルがマスクを下げてエナジードリンクをちびちび飲む傍ら、先にベッドに腰かけていたもう一人、綺麗な金髪に青い瞳の兄弟、レイ・ヤマトが口を開く。
ピアノを弾くのが好きな物静かな家族だが、家族への愛情は他の兄弟に勝るとも劣らない。ある日、突然家を出た長兄のクルーゼが、数年前に手紙とわずかな手荷物を持たせて、ヤマト家に預けてきた訳ありである。まあ、子供達は全員訳ありなのだが。
子供達の中では唯一のナチュラルだが、彼の生まれ持った才覚は天才のレベルで、間違いなく人類の上澄みの一人だ。
「リデラード、お父さんはやはり無理をしていたか?」
「うん。あたし達の前では大丈夫な振りをしているけど、振りってだけだよ。あたしもママのことがすごく心配だし。まあ、キラとかシュラは全然大丈夫でしょ」
肩を竦めるリデラードにエナジードリンクから口を離したダニエルが、マスクを付け直しながら言った。
「なんか死にそーにないよね、キラ達って。イングリットとオルフェはうまく立ち回るだろうし、マミーがキラ達を庇って無茶しそうなのが怖いよ」
「ちょっとやめてよ、本当にそうなっちゃいそうで怖いじゃん。ママならそうしちゃうって、分かっちゃうんだもん」
「ごめん。自分で言っといてなんだけど、すげえ怖くなってきたし……。言うんじゃなかった」
自分で言って自分で落ち込むダニエルを案じながら、レイはどうしても尋ねずにはいられなかった。
「やはりオーブからヘリオポリスまでは、声は届かないか?」
キラとレイを除く兄弟達には一種のテレパシー能力があった。言葉を使わずに意思疎通可能な超能力そのものであったが、距離の制約は存在しており、レイの言うほどの距離があれば流石に交信は無理であった。
ダニエルがやるせなさそうに首を横に振る。前回の世界大会で、三つ巴の激戦の果てに負けた時でもしなかった表情だ。
「ちょっと無理ゲー。オーブの近くにまで来てくれれば何とかなるけど、それならオーブ政府に救助されてるっしょ。それなら報せが届いているだろーし」
「そうか。すまない。しかし、どうしても気になるな。ヘリオポリスがザフトに襲われるとは。襲われるような代物があったというわけだが……」
「あー、ウチもちょっと関わってるしなぁ」
ダニエルが背もたれに体重を預けて、天を仰いで重い溜息を吐く。ダニエル達の会話をテレパシーで聞いていたリューもまた、職場で鉛のように重い溜息を飲み込む羽目になった。
養子ばかりとはいえ多くのコーディネイターの子供達を養うヤマト家は、国からの援助を受けつつも財政はなかなか大変なのだが、それを見過ごせなかったオルフェ、イングリットがある企業を立ち上げていた。
未成年でも条件付きで起業できるのは、何世紀もの昔から珍しいことではない。ヤマトをもじったビッグハーモニーコーポレーション(以下BHC)は、キラとレイを除く兄弟達で経営されている。
リューは現在、オーブ唯一の国策軍事企業モルゲンレーテ社に出向し、オーブが独自開発しているMSのOSを始めとしたソフト面などで協力していた。
「まったく頭の痛いことです。父上の心を痛め、母上の安否が不明とは……」
同じモニター室にいるモルゲンレーテの技術者達には聞こえないよう、声量を抑えながらも、リューは声に苛立ちが含まれるのを抑えきれなかった。
オーブが大西洋連邦と秘密裏に協力してMS開発を進める中、ヘリオポリスだけでなくオーブ本国でもMSの開発は行われている。
ヘリオポリスで開発されたオーブ製のプロトタイプMSとは違い、正式採用を見越した量産機の開発に、リュー達BHCは参加しているのだ。
モニターの向こうではモルゲンレーテのテストパイロット達が乗り込んだ量産機──M1三機を相手に、プログラマー兼パイロットを務めるグリフィンのM1が立ち回り、大人と赤ん坊ほどの力の差を見せている。
グリフィンだけでなくリューとシュラもテストパイロットを務めていて、シュラがヘリオポリスに居たのはあちらで開発されている機体のテストパイロットとして、要望された為である。
リュー達の協力によって、本来の歴史よりもナチュラル用OSの開発は大きく進歩しているが、コーディネイターを超える種族として製造されたグリフィンを相手にするにはまだまだ不足している点が多い。
同じナチュラル用OSを使っていても、三対一では余裕をもって指導が成り立つほどだ。
グリフィンは三方から大きな足音を立てて襲い掛かってくるM1を片手間にあしらいながら、ダニエル達との会話に参加する余裕があった。
『まったくだぜ。どこの連中か知らねえが、ママに手を出したらただじゃおかねえ。シュラ達は無事だろうが、全員、一緒に居てくれると良いんだけどよ』
グリフィンの思念にモニター室のリューも、ヤマト邸のダニエルとリデラードも心から同意する。もしカリダやハルマが悪意をもって命を奪われたなら、彼らはその後の人生の全てを捧げて、復讐を果たすだろう。
そのヘリオポリスを襲ったのが離れた家族であるクルーゼと、親しい時間を過ごしたアスランであったのは、なんとも皮肉なことであった。
アコードは年齢が結構離れているのですが、本作ではメンデルでまとめて救助される為に、年齢差をぐっと縮めています。
子供達の年齢順
クルーゼ > オルフェ、イングリッド > キラ、シュラ、グリフィン、カナード >
リュー、レイ、ダニエル > リデラード
こんな感じです。
子供達の両親に対する呼び方
クルーゼ カリダさん・ハルマさん
キラ、カナード 父さん・母さん
オルフェ、シュラ、リュー 父上・母上
グリフィン、リデラード パパ・ママ
イングリッド お父様・お母様
ダニエル ダディ・マミー
レイ お父さん・お母さん