ヤマト夫妻がメンデルでとても頑張った結果   作:スカウトマニア

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カナードはスーパーコーディネイターの失敗作としてモルモットにされ、脱走したところをクルーゼと接触、その後、ヤマト家に預けられたルートだったのですが、メンデルで一緒に助けられた、でもいい気がして悩ましいです。


カナード・パルス

 ヴェサリウスに拉致まがいの保護をされたカリダはクルーゼとの関係こそ濁されたものの、アスランが月の幼年学校時代に世話になった人物だったと正直に伝え、他のメンバーにもある程度の理解は得られた。

 少なくともクルーゼやアスランの見ていないところで、カリダが暴行を加えられる心配は無くなったと安心していい。

 

 アスランの同期であるイザークやニコルを含め、若い隊員たちにとってはちょうど親の世代であった事も理由の一つであったろうし、カリダ夫妻が第一世代コーディネイターの親なのが最たる理由だろう。

 コーディネイターしか住んでいないと思われがちなプラントだが、我が子をコーディネイターとして生んだナチュラルの親達も少数だが住んでいる。

 第二世代のアスランやディアッカ達からすると、祖父母がナチュラルになるわけだ。

 地球でのコーディネイターに対する迫害が増した時期に、プラントへ子供達と移住したケースが多く、親世代のナチュラルも年齢層は幅広い。

 

 カリダは第一世代コーディネイターの親という、プラントで最も受け入れられるナチュラルだったわけだ。

 またアスランから語られた、ヤマト夫妻が実子のキラばかりでなく、オルフェ達複数のコーディネイターを養子にしている、という非常に珍しい事情の主だったのもクルーゼ隊の面々の態度を軟化させる一因となった。

 

 コーディネイターは世代を重ねるごとに出生率が大きく減少する為、第一世代はまだしも第二世代以降になると、兄弟の居る者は希少だ。

 そんな彼らにとって複数のコーディネイターが兄弟として暮らしている、というのはそれなりに興味をそそられる話題に違いない。

 

 クルーゼ隊メンバーの態度軟化のきっかけは、カリダが暇を持て余すだけでなく、ヘリオポリスを襲撃した相手の母艦に捕らわれている状況に、大きなストレスを受けているのを慮ったアスランが、何かできることはないかと尋ね、それならとカリダがキッチンに立つことを希望したことだ。

 流石に他国の民間人に軍艦の中で好きに行動させるわけにはいかないが、罪悪感が山よりも高く海よりも深くなっていたアスランは、同じ心理状態だったクルーゼに相談の上、条件付きの許可を得ることに成功する。

 

 必ずアスランないしはクルーゼの監視付きで、移動中は目隠しをするなど、複数の条件を付けてそれでようやくだ。それですら異例の処置だろう。

 通常の軍隊ならそれでも問題になるような処置なのだが、ザフトが民兵、義勇軍としての性質が強いことと、トップガンとして信頼と尊敬の念を集めるクルーゼが許可を出したのだから、とアデスを始め他の者達は渋々と認めたのである。

 

 厨房ではもちろん本来の担当者の監視付きで、予め確認を取った上で使用する食材は制限されている。

 プラントに帰港するまで食材に十分な余裕があること、帰路に補給基地がいくつか存在するなどの条件が重ならなければ、コック長はクルーゼ相手だろうと断固拒否の姿勢を取ったろう。

 そうしてかえってストレスが増えそうな環境に置かれたカリダだったが、アスラン同席の上で作ったのは、彼の好物ロールキャベツだった。

 

「やっぱりレノアさんのキャベツが無いと、あの味にはならないわね。ごめんね、無理を言って作らせてもらったのに」

 

 月のコペルニクス市でアスラン達に振舞ったのは、アスランの母レノアが研究の一環で栽培したキャベツを使用したものだった。

 もうレノアも研究成果も、研究をしていたユニウスセブンごと宇宙の藻屑となってしまったから、二度とは再現できない。

 それがカリダにはたまらなく悲しかった。レノアの死後、ナチュラル軽視の強かった彼女の夫、そしてアスランの父パトリックが、ユニウスセブンを核ミサイルで破壊したナチュラルに対し、きっと怒りと憎しみを募らせているのだろう。

 

「いえ、そんな、謝らないでください。また、カリダさんのロールキャベツを食べられるなんて、思っていませんでした。いつか食べられたらいいとは思っていましたけど。

 それにキャベツ以外は昔、食べさせてもらった時とほとんど変わりませんよ。うん、相変わらず美味しい」

 

 数年ぶりに食べるカリダのロールキャベツに舌鼓を打って、顔をほころばせるアスランの姿にカリダは柔らかく微笑んだ。キラやシュラ達と共に面倒を見てもらっていたコペルニクスの日々の中、何度も見た微笑だ。

 

「そう? それならよかった。アスラン君がずっと思い詰めた顔をしていたから、少しでも元気づけられたらと思って」

 

「俺の為に。そんなこと、俺は、いえ、むしろ俺の方こそカリダさんを一刻も早くオーブに帰さなければいけないのに、それなのになんの力にもなれないで」

 

 そうだ。イザーク達の話では少なくともカリダとキラ以外にオルフェ、イングリット、シュラがヘリオポリスに居たのだ。

 ハルマやグリフィン達はオーブ本土に居るとのことだから、幸いヘリオポリスに居たヤマト家は全員が無事だ。それでもアスランがかつて家族同然に思っていた人々の住んでいたコロニーを襲い、戦火で焼こうとしたことに変わりはない。

 

(何を浮かれているんだ、俺は)

 

 カリダに心配をかけまいとアスランは務めて表情には出さなかったが、内心ではカリダの手料理に浮かれた自分への罵倒が次から次へと溢れ出る。

 なまじ責任感が強く生真面目なアスランだからこそ、自分の不誠実さと罪悪感に気付けばもう目を離せない。きっとそんなアスランの内心をカリダは見透かしていたろうけど。

 

 そうして、監視付きのカリダの姿がヴェサリウスの中で散見されるようになると、ヘリオポリス襲撃に罪悪感の欠片も抱いていない隊員などは、悪意のある揶揄い混じりにカリダにちょっかいをかける場面もあった。

 そんな態度にアスランは分かりやすく激高し、クルーゼも内心では怒りの火山が大噴火していたが、カリダの対応は手慣れたものだった。

 

 コーディネイターを受け入れているオーブでさえ、コーディネイターとナチュラルの確執は確かに存在し、コーディネイターであることを隠して暮らしている者は少なからずいる。

 そんな中でおそらく世界的に見ても稀なコーディネイターの大家族であるヤマト家は、ナチュラルのオーブ国民から奇異の目で見られることは多く、それなりに苦労をした経験がある。

 

 差別をするのはコーディネイターもナチュラルも一緒ね、とカリダは他意なく思い、年若い者の多いクルーゼ隊の隊員達にそつなく対応するだけだった。

 そうなると面白いもので、カリダの料理をクルーゼかアスランが食べていると、そこに相席する隊員もいつの間にか増えて、カリダと他愛のない話をする機会も増えるもので、態度の柔らかくなる者も増えて行く。

 一例としては──

 

「そう、ニコル君は本当はピアニストなの。凄いわね、もうその歳でリサイタルを開いているなんて」

 

「ありがとうございます。本国に戻ったらリサイタルの予定があるから、任務中なんですが、ついピアノの事を考えてしまって」

 

「それだけピアノに夢中なのね。うちにもレイっていうピアノの好きな子が居てね……」

 

「ディアッカ君は日舞を? オーブも日本の文化が大きく根ざしているから、私も教室に通っていてね……」

 

「あら、イザーク君はオーブの風習や文化に興味があるのね。私も移住してから数年しか経っていないけれど、地元の人に色々と教えて貰ったから、それくらいでよければ……」

 

 このような具合に少しずつ……いや、かなりの速さでクルーゼ隊の面々を篭絡してゆき、クルーゼの副官アデスもつい気を許してたまに愚痴を零してしまうなど、クルーゼとアスランが流石はカリダさんと心の中で賞賛の嵐を送るのだった。

 

 

 カリダがクルーゼ隊の攻略を着々と進めている一方、キラとオルフェらアークエンジェル一行はというと、最寄りの友軍基地である軍事要塞アルテミスを目指していた。

 ユーラシア連邦に所属するアルテミスは、要塞を丸ごと覆う全方位光波防御帯「アルテミスの傘」による鉄壁の守りと、宇宙の辺境に位置することから戦火を免れている場所だ。

 その状況と指揮官の問題もあって、アルテミス内部の士気は低く、近くを通る民間の輸送船から通行料をせしめる無法がまかり通る始末と、ユーラシア連邦宇宙軍の恥に近い。

 

 そんなアルテミスの司令ジェラード・ガルシアは、大西洋連邦が極秘に開発したアークエンジェルとMSを捕獲するチャンスだと、舌なめずりしそうな欲望塗れの顔で入港する白亜の大天使をモニター越しに見ていた。

 月での戦いで命からがら生き延びたものの、さしたる戦果を上げられずアルテミスに左遷されたと思っているガルシアは、今日までアルテミスの鉄壁の守りに胡坐をかいていたが、これで軍内部での栄達に繋がるとほくそ笑む。

 だが、ガルシアの都合の良い計画を制する声があった。

 

「アークエンジェルの捕縛を考えているようだが、それは止めておくことだな、ガルシア司令」

 

 黒い長髪と端正な顔立ち、鍛え抜かれ引き締まった肉体を持つ若い男だ。地球連合軍内で統一された軍服の襟には大尉の階級章が輝いている。

 本来、将官であるガルシアを相手に、大尉に過ぎない彼がしてよい言葉づかいではなかったが、彼の立場の特異性がソレを許していた。彼の隣には副官である眼鏡をかけた知的な女性士官が控えている。

 

「ほう、それはなぜだね、パルス大尉。あれはIFFもない不審艦だ。ザフトのスパイの疑いがあり、拘束する。どこに問題がある?」

 

 青年士官つまりはヤマト家の一員だったカナード・パルスだ。ある時期、オーブを離れた彼は自らの出自を知っており、クルーゼの伝手と合わせてユーラシア連邦に軍籍を置いていた。

 

「アレが大西洋連邦の極秘開発した代物であるのは、分かっているのだろう。デュエイン・ハルバートン准将が主導する計画の産物だ。大西洋連邦の上層部を相手に、その言い分は通じないだろう」

 

「我々はユーラシア連邦軍だ。あれらの齎す恩恵を考えれば、大西洋連邦との関係悪化も許容範囲だろう。プラントを片付けた後は、また敵同士なのだ」

 

 そも地球連合を構成する大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国は、今次大戦前からお互いを仮想敵国とする間柄だ。

 今でこそお互いに協力しているが、いつでも相手を出し抜き、足を引っ張る策謀を巡らせているのは変わりない。もちろん、そんな場合ではないと危機感を覚えている政府高官や将官も多いが、一枚岩とはとても呼べない。

 ソレを踏まえればガルシアの言い分にも一理はある。それでもカナードは反論を止めなかった。彼にオルフェ達のような精神感応力はないが、今もクルーゼとのつながりのあるカナードはアークエンジェルにキラ達兄弟が居ると知っていた。

 

「アークエンジェルとMSの開発には、国防産業理事のムルタ・アズラエルも認めている。アルテミスで捕縛するのを奴が認めているのならともかく、アズラエルの認めていないところでことを成せば、奴に、ひいてはブルーコスモスに目を付けられるのではないか?」

 

 これはカナードの出まかせの要素が大きいが、ガルシアが決して無視できない可能性であるのを、カナードは理解していた。

 コーディネイター排斥に対するテロ行為も辞さないブルーコスモスは、内部に多くの派閥を抱えつつも各国の上層部や軍高官にもメンバーが多く、今となっては軍の作戦に大きな影響が出ているほどだ。

 そんなブルーコスモスの盟主であるアズラエルの不興を買うのは、自身の栄達を望むガルシアにとっては避けたいところではある。

 

「ふん、ハルバートンはブルーコスモスとは反発している。アズラエル氏とて奴の計画を頓挫させてもそう問題視は……」

 

「ならこう言おう。ブルーコスモスの盟主だが、アズラエルは大西洋連邦の人間だ。自身の影響力を強める為にも大西洋連邦軍を重視するのが当たり前だろう。

 アークエンジェルを捕縛して、その成果をユーラシア連邦が独占するのを果たしてよしとするか? ユーラシアの上層部もガルシア司令を擁護するだろうが、唆されたブルーコスモスのシンパが、司令を相手に自爆テロを仕掛けてきても俺は驚かんぞ」

 

「ぬ、ううむ」

 

 実際、ブルーコスモスの末端は自爆テロも辞さないのは数多くの例があり、アルテミスに篭る限りはその心配はない。ないが、アークエンジェルを手土産に昇進し、軍部中枢に返り咲いた後となると、安全とは限らない。

 実際、本来の世界ではユーラシア連邦は囮にされて、大多数の兵士を失う羽目に陥る。アークエンジェルとストライクらを得たとして、最低でも大西洋連邦とユーラシア連邦の関係悪化は確実だ。

 

 我が身可愛さと栄達への欲求の狭間で揺れるガルシアを他所に、カナードは心中で溜息を零す。

 ヤマト家を離れ、ユーラシア連邦軍に籍を置いたカナードは、コロニー・メンデルで製造されたスーパーコーディネイターの失敗作という出自さえ利用して、軍内で特殊な立場にある。

 

 プラントとの戦争が勃発してからは、ユーラシア連邦内のコーディネイターやハーフコーディネイターを集めた監視付きの使い捨てを前提とした部隊の隊長に任じられた。

 鹵獲されたジンやジャンク屋が市場に流したプロトタイプのジンを駆り、物資の補給も意図的に滞らされる中、各地の戦場を転戦して大いに味方を助け、大いに敵を討ってきた。

 

 そうして国家と軍部に対して従順な姿勢を見せ、戦火を積み上げる中で評価は上がって行き、今ではカナード達に助けられた将兵の数が膨れ上がった影響もあり、境遇は改善されている。

 ユーラシア連邦内でのMS開発の為の試験部隊として再編制され、今ではコーディネイター並みの身体能力を持つナチュラルも配属されるなど、紛れもないエリート部隊へと変化していた。

 特務部隊『X』隊長。それが今のカナードの身分である。

 

(戦争が始まればいずれオーブが戦火に見舞われる。そうなった時、俺は地球連合側で、クルーゼはザフトに籍を置くことで、最悪、ヤマトの皆を保護できるように備えたが、それも無駄に終わってしまったか。

 だが、せめてキラ達を無事にオーブ本国にまで届けなければならん。国防委員長のパトリック・ザラに近い地位にまで上り詰めたクルーゼはまだしも、俺はもっともっと軍内での立場を高める必要がある)

 

 いずれ勃発するだろうプラントとプラント理事国との戦いの中で、カナードとクルーゼは彼らなりに家族を守ろうと必死だった。

 キラ達がMSに搭乗し、強制的に徴兵された現状は、その願いが破られたにも等しい。それでも、まだ出来ることはあるはずだとカナードは鉄面皮の下で必死に考えを巡らせていた。

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