仮面ライダー・ビロウ・ザ・ウェイブ   作:さわたり

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OPイメージは米津玄師の「あめふり婦人」です。


第一話「雨、ザナメ、変身。」

少女が、ぼんやりと立ち尽くす。

 

やさしい音で降り続ける細い雨の中、ぼんやりと。

 

薄い灰色のくねった髪と、いささか鋭く白眼がちな目。一見何を考えているかわからない、その身に。

傘が、差し出される。

 

「お嬢さんもしかしてザナメ初心者?」

 

傘を持っていたくせに男は合羽を着ており、雨に濡れる心配はなさそうだ。訝しげながらも、少女は傘を手に取り。

ザナメ……「雨の大暖流ザナメ」、この地域の名前である。

 

「むしろ……いきなりザナメで、混乱していたところです」

 

「知識はあると。んじゃあ何? 記憶喪失?」

 

男の問いに、少女は少し考えて。一瞬また、空を見上げて。それで、今度は呆れ気味に微笑んで、告げる。

 

「どうやら。」

 

「どうすんの? 泊まる場所とか」

 

少女は、少し首をひねり。そしてかぶりを振る。その様を見て、男は軽い調子で、こう言う。「ついてくるか」、と。

 

「……いいのですか」

 

「13、4?の子を放置はできねーよ、サスガに」

 

「……そうですか」

 

また、少し笑んで少女は男のもとに寄る。

 

「ついでに合羽を買っていただければ嬉しいのですが」

 

「意外と厚かましいなあんた」

 

「すみません、しかしお金もないもので」

 

眉を下げて困り顔の少女を見て、男は仕方ねえなと笑った。

 

「ま、ザナメいる間ずっと片手埋まるってのもな」

 

「ありがとうございます。すみません」

 

「いーよ。……つか、名前は?覚えてる?」

 

「……ミナミと、呼んでください。持ち物に書いてありました」

 

「あそう。俺はフカガミ。ま、さすがにこれから一緒に旅するんだ、覚えといてくれよ」

 

「ええ、当然です」

 

 

 

 

 

 

第一話「雨、ザナメ、変身。」

 

 

 

 

 

裂歴(れつれき)247年……。それが、今年。日本列島に巨大な裂け目「マリアナ」ができてから、247年。

人々も、すっかり慣れている。当然のことで、マリアナが生まれる前の人物など生きちゃいないのだから。

 

棚田のように、平面的な地面もある崖、それがマリアナ壁面のほぼ全域を占めている。……人々が住むには十分な環境なのだ。ミナミとフカガミが今いるザナメもその地域の一つ。

最上層に位置するそこは、地上との行き来の地点であり、人々の行きかう地域。海から流れ込む水が散り、舞い上がり、雨となり……。

 

ともあれ、「雨の大暖流」と呼ばれるだけの理由がある。そういう場所なのだ。

 

「そういえば、フカガミさん。聞いたことありますか」

 

「何よ藪から棒に」

 

「いえ……その、都市伝説です。ほら、怪人の」

 

「……ああ。それねえ」

 

屋根の下でも、テラス席には雨が少し吹き込む。しっとりした新聞をいささか不愉快そうにフカガミはめくる。指に唾をつける必要がないと言えば、そうではあるが……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ああ……くっそ、スマホで見れねえもんかねえ!」

 

「仕方ないでしょう、マリアナでインターネットは使えません」

 

「ザナメだったらどうにか通じたりしねえ?」

 

「すでにこの辺は『Tマロウ』が充満していますから。」

 

「水と反応してなんか、回る?粒子だっけ。」

 

「その影響でマリアナ中心部は海のような低重力空間です」

 

「マロウが沈むとか雨に流されるってのは期待できねえか……」

 

新聞をたたみ、かったるそうに背をもたれるフカガミ。すこしくねった髪が、若干目にかかり始めている……言ってみればどこかチャラいというか、品のよさそうではない男である。

……しかし。

 

「……あなた、海洋生物学者と言ってましたよね」

 

「そうだけど?」

 

「ここに来たのも、生体模倣の技術開発に関わるためでは。……海に似ているなら、海の生き物を模した輸送設備が適切、とか、そういった話を聞きます」

 

「おっ、鋭いじゃん」

 

「でしたら、ここの環境の事は知ってるはずでしょう」

 

「いや知ってっけどさ。それはそうと、ね? 今までマリアナ外でやってきてるから……」

 

「まあ、慣れてください。通信機器は使えませんので。小銭かテレカは持っていますか?」

 

「一応な……。てか、ミナミこそテレカとかないんじゃねえの?」

 

「……あ」

 

「おいおいおい?」

 

フカガミのツッコミに、「すみません、あとで買ってください」と少し目線を逸らして呟くミナミ。2、3日ほどこの少女と暮らしているが、賢い割に変なところが抜けているなとそんなことを考えて。

 

「さァーて……まだかな」

 

「ところで、聞き損ねていたのですが……何を待っているのです」

 

「あー、それなんだけど、」

 

と、そんな雑談を、突如裂く悲鳴。

その場にいる誰よりも早く、フカガミは行動開始。ミナミの手を引いてかがませると、壁を背にして構え。悲鳴の主の方へ視線を向ける。

 

「随分、手際g」

 

「しっ、静かにしてろ」

 

覗き見るミナミは、逃げ惑う人々で何が起きているか分かっていないようであった。……だが、何か背筋が立つような違和感。ひっそり、「まさか」とひとりごちる。

対照的にフカガミは一瞬で、視界と理性でもってその状況を把握した。人込みの動きを瞬時に見抜き……その根源を発見する。

 

「おいおいおい……アレもしかして俺がどうにかしなきゃダメ?」

 

「……何が、あったんですか」

 

「怪物。」

 

「は?」

 

「クモの怪物だよ。ちゃんと隠れてろよ」

 

「え?」

 

それだけ言うと、テラスの柵を飛び越え、フカガミはゆっくり怪物の姿を見る。

 

「ギグ、ぐぐぐぐぐ…………」

 

「マジでフザけんなよ……ええ? あれと戦うのか俺」

 

「何を言ってるんです……逃げましょう」

 

「そしたらあいつは野放しか? 通報は……ああ、公衆電話ねえなこの辺。コッソリ行けるか?」

 

「だから、何を言ってるんですか。あなたが戦う義務はないでしょう」

 

少し焦った様子のミナミに、フカガミは振り返って語る。

 

「おう、ないけど?」

 

金属のゴミ箱のふた、それとレンガ。盾と投擲だ。

 

「オラッ!」

 

「ギ、ご……?」

 

「っしゃ、食いついた。」

 

駆け出す、フカガミ。怪物は少し怒った様子で、彼を追い始めた。

 

「っぶねェ!」

 

「ゴギギ……」

 

近くの電柱で惑わせた後、パルクールで、怪物を飛び越え、また距離を取り。

 

「さァ~て、さすがに捨て身する気はねえぜ俺は……。仕事あるし」

 

首をこきこき鳴らしながら、彼は怪物の出方をうかがう。

 

「ガガガギゴ!!!!」

 

「うおぉ急にめっちゃ来るじゃん」

 

盾こと、ぺらっぺらのふたで防ぐ攻撃。さすがにずっこけ、雨の地面もあり派手に滑り。

 

「っでぇな……」

 

「……レビアス、なぜここに」

 

小さな声で、ミナミがそうつぶやいて。

 

……と、そんな時。こつこつと、足音。

 

「おい、危ないだろう。何をしてるんだ」

 

「あァ? 危ないのはあんたも一緒でしょうが」

 

「それはどうだろうな」

 

フカガミと怪物の間に割り込んできたのは細身のすらっとした、女性。凛々しい顔立ちと、赤茶の髪が目立つその姿は、やはり怪物を前にするにはいささか頼りないが。

 

「ぐぎぎぎ!!」

 

業を煮やしたか、怪物が拳を放つ! それをかわすと、女の眉間には深くしわが寄り……。

 

「オレの顔傷つけようとしたな……お前ェッ!」

 

思いっきり、蹴り込む!

驚いてみているフカガミと同様に、怪物もダメージというより、驚きでおののくようにあとずさる。深呼吸、のちに女はフカガミに一言。

 

「下がってろ」

 

様子をうかがう怪物をにらむと、女はポケットから、赤い棒状のものを取り出す。

ちょうど握れるサイズ感のそいつは、赤くクリアーで、銀のパーツにはまた赤く差し色がされて。安物のライターを大きくしたような形、と言えるか。

 

『ズワイガニ』

 

「……ズワイ、ガニ?」

 

上部のボタンを押せば、グリップから一瞬、ぼうっと火が上がる。

 

『アクアリウムバックル!』

 

同時に、女の腰に、大きなバックルの伴うベルトが出現する。牙のような意匠と、画面が存在するバックル、名乗った通りの、「アクアリウムバックル」が。

 

「そうだ……アンタ、フカガミ博士だな?」

 

「え、ああ、そうだけど。……あ、もしかしてあんたか!?」

 

「写真も手紙につけておけばよかったな。オレがワタリだ。……アンタを呼んだ技術者だよ。まあ、そう言うことだから下がってろ」

 

『Catch』

 

「そういうことって何よ……」

 

言いつつ、フカガミはゆっくり後ずさり。女ことワタリがそのベルト右側面にグリップを装填するのを見守り、一瞬、ミナミに気を向ける。……無事そうだ。

 

『booooooooooooooom!』

 

そんなフカガミを背に、ワタリはベルトのグリップを深く捻る。……バイクにそうするように。

響くエンジンの音。チェンソー……いや、モーターボートの、スターターを引いたときの音のような、そんな音。

 

「変身。」

 

手刀の形にした手を、中指と薬指の間を広げるように……要は、ハサミをかたどり。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ばき、ばきばきばき。

 

ワタリの皮膚の上に、赤茶けた甲殻が形成される。

 

すこし刺々しい……そう、言ってみればカニの甲殻。

 

瞬間、彼女の身に粒子がまとわりつき、そして、水が舞い散る!

 

「うおおお!?」

 

……よく見れば分かるが、そしてフカガミは分かったようだが。

 

ワタリの身に「スーツ」が纏われ、同時に服がすべて水に置換された……そういう、構図のようだ。

 

そう、ワタリの装備……黒いスーツとガンメタの装甲、そして、頭部、下半身、乗っかる、赤い装甲。赤い差し色が銀の装甲にも入っていき……。ハサミを模した飾りが、否が応でもそのモチーフを主張する。

 

『Riders No.003(zero zero three). Chionoecetes opilio(カイオノエセテス・オピリオ).……リッパーズクリムゾン!』

 

仮面ライダーソリッド……のちに知る、その戦士の名前。

 

「……あの怪物は、レビアス。人間が変異させられていて、マロウを集めて攻撃すると、元に戻る。」

 

「お、おう……良かった死なないのな」

 

「で……」

 

怪物の放った、複数の腕での連続攻撃を捌き、蹴りで反撃をかましつつ……振り返り。

 

「ぎごご……」

 

「この怪物は、海洋生物の遺伝子を模倣して生み出されている。分かるか?」

 

「ああ、じゃあウミグモだろうな。クモっつ~には、体の節?が多い。いや人型だからどの程度反映されるか分かんねえけど」

 

「そうか。じゃあ、例えば弱点は分かるか」

 

「えェ……? いや、まあ、大体脚が細くて脆いかな」

 

「なるほど、参考になるよ」

 

人間の腕が元になっているらしき腕、それとは別の細い背中から生えている腕。後者を狙ってソリッドが蹴りを放てば、確かに簡単に押し返されている。

 

「ぎごががが!!」

 

「……厄介ではあるな」

 

腕の攻撃を防ぐと、別の腕での追撃。それを押しのけると、距離が空いて……攻め手がない。

 

「……なら」

 

『Coming』

 

黒いグリップのようなものを取り出し、トリガーを引く。そして、腰に添え……。

粒子が集まるように、その左腰に、装備が出現する。グリップを中心に、構成されたと言ってもいいだろう。装甲に接続されているのは、長いアームとその先についた、ハサミ。

 

「ぎ、が?」

 

「少なくとも一本は押さえた、ってことでいいよな」

 

アームをまげて腕に添わせれば、左腕から直接つながる装備として使える。レビアスの腕を挟んでおさえ込むと今度は伸ばし……別の腕として機能する。

 

「が、ごご」

 

「ま、せっかく掴んだはいいが……別にこのまま殴り合いを続ける気はさらさらないんだ」

 

空いた手で突きを繰り出すレビアスの腕を、両腕で払いのけ、今度は距離はとらない。拳で強烈な反撃をかます。

 

さらに手刀でサブの腕を叩き折りそのまま蹴り込み。蹴り、蹴り、蹴り!

 

「がごご……!」

 

無理矢理振り払ったレビアスを追い、今度はシンプルにハサミを叩きつける一撃。ウミグモを模した甲殻だからこそ、打撃は響いて苦しい。

逃げの姿勢を取ったレビアスを、最大限に伸びたソリッドのアームがとらえる。

 

「無駄だ」

 

「わーお」

 

『booooooooooooooooooom!』

 

『Single Attack!……ライダーストリーム!ズワイガニ!』

 

「だァッ!!」

 

アームをその手でつかみ、振り上げ、そして叩きつける!! アームの力、腕の力、重力。全てを込めた叩きつけで、耐えられるはずもなく……。

 

大きな水しぶき、爆散。そこには、気を失った男性が倒れていた。

 

「……無関係の人間に埋め込んだものか」

 

男の横に転がる、グリップを拾い上げる。赤い差し色と薄赤のクリア素材……ベニオオウミグモのグリップである。

 

「……お疲れさん。なんか、すげえな」

 

「どうも」

 

「これで『噂』とか『都市伝説』で済んでんの?」

 

「ここじゃSNSが使えないからな。国が隠そうとすれば隠せる程度の騒ぎさ」

 

ワタリが一瞥すると、すでに男は救急搬送の最中だった。

 

「安心しろ。あの男も何事もなく日常に戻る」

 

「ならいいけどさ」

 

「……君も安心していいよ。もう終わったから」

 

ワタリは変身を解きつつ、喫茶のテラスの方を見てそんなことを言う。ひょっこり顔を出したミナミに、少し不器用に微笑みかけ。

 

「ありがとうございます。その……聞いていたのですが、フカガミさん、あなたが待っていたのって」

 

「ああ、オレのはずだ。改めて言うと、ワタリ。技術者だよ。……あの装備を開発した、ね」

 

ワタリは自身の肩のあたりをこつこつ叩いて、そういう。

あの装備を……仮面ライダーを作った者だと、そう名乗っているつもりのようだ。

 

「……なる、ほど。」

 

「どうした?」

 

「いえ、別に……。」

 

どこか訝しげなミナミをよそに、フカガミとワタリの話……すなわち、仕事の話が始まる。

 

「俺を呼んだのは、やっぱり俺が生体模倣の技術に関わってたから?」

 

「ああ。名目上は、運送機器や発掘機器の開発だが……その実、オレはレビアスや仮面ライダーの研究をしたいと考えている。」

 

「……なら、そのグリップとかレビアスとか、仮面ライダー?とかについても教えてもらわにゃならんな」

 

「そうだな。まあ、目立たないところで」

 

ワタリは話題をそう区切ると、今度は一瞥する。

 

「……ところで、彼女は?」

 

「え? ああ……ミナミね。記憶喪失とか、なんとか」

 

「そうか。……いや、知人と似ていてな。ほんとうに、少しな。目つきが……。」

 

「あそう?」

 

「だが年齢が全く違う。親戚かもしれない。……まあ、覚えていないなら仕方がない」

 

「……。」

 

考え込む様子のミナミを二人が一瞥して、また、会話に戻る。

 

「オレの拠点に来てほしい」

 

彼女の案内で、移動が始まる。

ザナメはもともと広いエリアだったから入り口となったわけだが、それでも人口が多くパンク寸前。故に、妙に縦に詰めこまれ、奇妙な階段だらけの街並みとなっている。

地上ではあまり許されない建築である。……もっと狭い地域を想定した、マリアナ内の法を利用しているわけだ。

 

「ううおっとと、」

 

「気をつけろ。いくら素材に気を付けていても、雨は雨だ。滑りやすい」

 

「ご忠告どうも……ミナミチャン大丈夫?」

 

「ええ。気を付けています」

 

「手すりはちゃんとつかめよ。手をするためのアイテムだから手すりなんだ」

 

「え? あ、はい」

 

「……。」

 

くねった階段を行き、そしてさらに何度か曲がり。傘を使わない住民が多いのがわかる、面倒な地形だ。結局ミナミもそこらの店で合羽を購入することに。

 

「……ここが、オレの家。で、そっちのガレージで開発作業してる」

 

「ガレージったって、マリアナじゃ車出せなくね?」

 

「バイクだよ。マリアナ中央部は浮遊して移動できる、遊泳バイクだ。まあ、オレは格納庫としては使ってないけど」

 

「あ、そういやいたね、飛んでるバイク。あれか」

 

「ああ」

 

「……俺らも泳げたりすんの?」

 

「一応、防護服は着た方が良い。なくても死にはしないが」

 

「じゃあ、あんたがさっきしてた装備なら……」

 

「『仮面ライダーソリッド』だ。……そうだな、泳げるよ」

 

少し興味深そうな顔のフカガミも、ワタリの案内で、ガレージへ。

 

「あの装備、ベルトに入ってんの? っていうかベルトも出てきてたよな、あれ何?」

 

「異次元から転移させてる」

 

「は?」

 

眉間にしわを寄せるフカガミを前に、ワタリは淡々とグリップを機器にセット。輪郭をなぞる光が現れた後、先ほど装備していた「アクアリウムバックル」が出現する。

 

「これ、重なってたらどうなんの?」

 

「えぐれる」

 

「エェそんなもん腰に出してんの!?」

 

「嘘だよ。押しのけられるだけだ」

 

「なんで今無駄に冷や汗かかせたんですか」

 

「面白いだろ」

 

「冗談に聞こえないよォ」

 

座りながらベルトに触れるワタリの後ろで、フカガミは冷や汗。真顔で冗談を言うのも、分かってのことのようだが……いまいち読めない人物だ。

 

「ンで、俺はその仮面ライダーの機能を考える、とか?」

 

「ああ。……レビアスも、より遺伝情報を直球に使っているが根本的には同じだ。さっきと同じで、弱点の理解なんかもできるだろう」

 

「それはいいけどさ、結局あのレビアスってのはなんなの?」

 

「……オレや、友人の作った装備を悪用したものだ」

 

「そのへんセーフティはないの?」

 

「ある。が、突破された」

 

「……ご友人の悪行ってことは?」

 

「死んでるはずだ」

 

「そりゃ、失礼……」

 

「…………いや、仕方ない」

 

少しうつむいた様子のワタリを、気まずそうにフカガミが見下ろす。

何とも言い難い空気の中、ミナミが眉をヒクつかせた。

 

「なにか……違和感が」

 

「?」

 

「……これ、もしかして、さっきと同じ感じの」

 

「どうした?」

 

「さっき、ウミグモレビアスが来た時と同じ、違和感のようなものが」

 

「……出るぞ。」

 

ワタリの告げるままに、ガレージを出れば……そこに立つ。刺々しい触腕を引きずるレビアス。

 

「……フカガミ。もともと各地を回る予定だったのは言ったな?」

 

「予定より出発が縮まるって話?」

 

「ああ。オレの所在地がバレた」

 

「大丈夫? 研究設備とかは」

 

「全部手元に保存してるよ」

 

そういうと、胸元から取り出したスイッチを、起動。

瞬間、爆炎が上がる! 驚いて跳ねるフカガミと肩をびくつかせるミナミ。まあ、おおかたの予想通り、それはガレージから上がったもの。

 

「ウゲェ……マジかよ」

 

「まあそう言うことだ、下がってろ」

 

「ぽくろろろろろ……」

 

『ズワイガニ』『アクアリウムバックル!』

 

「……っ、」

 

「大丈夫か? 疲れてそうだけど」

 

「大丈夫だ。……ちなみにあのレビアスは分かるか?」

 

「多分クモヒトデ。生体模倣ならお粗末だぜ、アイツ深海生物だぞ」

 

「ならまあ、いい。ここじゃ十全じゃないってわけだ」

 

そうして、構えたところでレビアス、触腕を地面にたたきつけての急接近。とっさに身を守るが、むしろ触腕を正面から喰らい、思いっきりフッ飛ばされる形に。

「っぐぁ!!」

 

「おい大丈夫かよ!!」

 

「……っ、ああ、ゴミとかドラム缶のおかげで。衝撃は逃げた。……近くが燃えてて暑いが」

 

立ち上がるワタリ。……火は、雨のおかげか広がる様子はない。……と、そこに、レビアスの横なぎ。フカガミがワタリをかがませつつ、蹴って距離を取り。

 

「ぽろこここ!」

 

「っぶねェ!! ミナミ逃げろ!!」

 

「隠れています」

 

「ンン~~まあウロチョロするよりかは守りやすいわ!」

 

そういうとフカガミ、駆け抜けレビアスの懐を抜ける。口笛と投石で気を引き、ワタリから離れて……。

 

「おい、危険だ!」

 

「お前もね! 変身はした方が防御力上がるんだろ? それならしといてもいいが、戦うのはやめとけ」

 

「なんだと?」

 

「疲れてんだろ! 見るからにそうだぜ」

 

「……だが、そんなこと言ってる場合じゃ」

 

「他にもできれば戦いたくない理由がある。違うか?」

 

何か言い返そうとして、一瞬言いよどみ。

 

その隙を突くように、「戦わなきゃいけないっつー、正義感は尊重するが」とフカガミは言う。

 

「俺ァ守られるのはそんな好きじゃなくてね。自分の身ぐらい守るっつープライドがあんだわ」

 

「……おい、それ取ったのか?」

 

「手癖が悪くてね。慰謝料欲しいならあとで払ってやる。法廷に出るならそれもいいぜ」

 

「そういう話じゃ……!」

 

ワタリからスったらしき、青いグリップ。銀の部分には、白く差し色が入っている。その、グリップを起動し……。

 

『ホホジロザメ』

 

「……仮面ライダーは、誰でも変身できるわけじゃない、一定の条件が」

 

『アクアリウムバックル!』

 

「ある、が……お前は満たしてたようだな」

 

「じゃ、なおさら戦う理由が出来ちまったな」

 

『Catch』

 

「……。」

 

『booom!boom!booooooooom!booboom!boboboooom!boom!』

 

思いっきり吹き鳴らしながらも、レビアスの攻撃は回避、しかし挑発をしながら気は引く。

 

「変身、って掛け声だっけ?」

 

「……まあ、そうだな」

 

「ほんじゃあ、変身!」

 

にやりと笑んだ彼の歯は鋭い牙……肌も灰色く染まって、そして、首元にはばきりとエラのような裂け目が現れる。

 

『Riders No.018(zero one eight). Carcharodon(カルカロドン・ ) carcharia(カルカリア).……ホワイトファング!』

 

瞬間、フカガミのダウンジャケットが水しぶきとして飛び散る。

 

現れたのは、黒いスーツと、ガンメタの装甲。……ソリッドと同じだ、仮面ライダーの装備。

そして、上半身に重点的に装備される、灰と白の装甲。ホホジロザメらしく、それを模した頭部。マフラーのように首元をおおう造形。

 

水たまりの自分を見て、フカガミは「かっけえじゃん?」などと態度を崩さず。迫るレビアスに一撃。……かましたのは、その手での『ひっかき』であった。

 

仮面ライダービロウ。意味合いとしては……『水面下』が近いか。

 

「で……これはサメの歯がモチーフってわけ?」

 

「ぽかここ……」

 

怯むレビアスを前に、確かめるように広げた手。グレーの腕から際立つ真っ白なその手、指の背側に棘のような突起が並んでいる。

 

「折れたら生え変わるってわけだ……サメの歯みてェに!」

 

「ああ、そうだ。武器だ、ビロウのな……」

 

そのまま続けるクロー、1、2、3撃。蹴りなんかも挟み、ベアハッグのような姿勢でさらに激しい引っ掻きの一撃!

激しく乱暴ながら、しかし的確にすべて攻撃をのけて反撃を挟む。

 

「これいいねェ、説明が仮面内に出てくるのな」

 

さらに、続けて、黒いグリップをベルトから取り出す。ソリッドがアームを召喚するそれと同じく……そしてホホジロザメに対応するのは、拳銃。

直接装備する物ではなく、手に持つ武器のようだ。

 

拳銃こと「ショッティース」を向け、二発。

 

仮面の中でニヤリ。

 

「いいねぇ、撃ちやすい。反動は軽いけど、ちゃんと撃ってるっつ~フィードバックが感じられる程度」

 

そのまま、かがんで横なぎをかわし蹴り、振り上げをいなし撃ち、振り下ろしを防いで引っ掻く。

 

すべて、的確。

 

「……オレの、手助けは」

 

「大丈夫っぽい。休ん……いや、」

 

首を鳴らし、構えなおし。

 

「ミナミを守ってくれ」

 

「……ッフ、人をその気にさせるのが上手いヤツだ。大丈夫か?ミナミ。怖くないか」

 

「ええ、まあ……。」

 

「……そうか。」

 

さて、ビロウとの戦いの中で、レビアスもさすがに距離を取り始めた。知能は低いようだが、本能的に「マズい」という思いはあるのか。

であれば銃撃をメインにするだけだが……ショッティースは拳銃だけで終わる武器ではないようだ。

 

「なァ、あんたのズワイに比べて攻撃手段多くない?」

 

「その分防御力は低めだぞ」

 

「なるほどね」

 

ショッティースを簡単に言えば、ひっくり返ったサメにグリップをつけたような雰囲気のデザインである。尻尾を引っ張って引き出せばそれはストック(肩当て)に変わり、銃身が伸びながら回転し、背びれのパーツが上側を向く。

銃身側を掴みやすくなったわけだ。……元をハンドガンモードとするなら、これはアサルトライフルモード。

 

「いいねぇ、撃ちやすいじゃん!」

 

適当に攻撃に挟む使い方はできないが、銃撃メインなら威力も範囲も連射性も見事。

 

「ぽがごがががぎぎああ」

 

「なんかさァ!必殺技みたいなやつやってたよね、あれどうやんだっけ?」

 

「それなら、」

 

「ごめん仮面ン中出てたわ」

 

粒子に戻る銃身と、しまい直す黒いグリップ。弱り切ったレビアスを前に、仮面ライダービロウは低く構え、グリップをひねりけたたましく唸らせる。

 

『boom!boom!boom!booom!bobobobboom!』

 

『Single Attack!……ライダーストリーム!ホホジロザメ!』

 

「ぽ、ごご……」

 

「おらァ!!!」

 

その拳の爪……いや、『牙』。指の背に乗るその予備全てを逆立たせ、拳の一撃に乗せる!

 

「ぽぎごぽ!!!!」

 

「だああァァ!!」

 

さらに、こすりつけるように殴りこむ!

 

噛み痕のような乱雑な光の痕が残り……その全てが火花を上げて炸裂する!

 

続けて、爆散。水しぶきを上げ、怪物が散る。

 

「……撃破、でいいのかな?」

 

拾い上げたグリップはやはりクモヒトデ。「色的にオオクモヒトデかなあ」とか呟き。

 

「意外ですね、はっきりわからないんですか」

 

「クモヒトデって1000種ぐらいいんのよ」

 

「なるほど」

 

「……さて。そろそろ動かなきゃかな?」

 

「まあ、そうだな。動き回る必要がありそうだ」

 

「てか、あんた狙われてんのな」

 

「どうやらな。……オレには関わらない方が良いかもな」

 

「乗り掛かった舟てやつだし。……ああ、でもどうするミナミ? さすがにあぶねえよなァ」

 

ふたりの視線を受け、しかしミナミの視線は鋭い。

 

「ついていきますよ」

 

「いや、だけどよ」

 

「じゃあ何処に行けと言うんですか」

 

「警察とか……」

 

「どうでしょう。頼りになるのであれば、私は家族と再会できているはずです。……それか最初から家族がいないか」

 

「……危険だぞ」

 

「承知の上です。それにどうも、私はレビアスの接近を感じ取れます。……有用では?」

 

頑固だ。ワタリとフカガミは目を見合わせ、ため息をつく。

 

「しゃーねえな。だが、はっきり言うと、俺はお前が利用できるから手元に置いてるって形になるぜ」

 

「オレもそうなるな」

 

「構いませんよ。逃げる時や隠れる時の判断はできるつもりです。聞き分けもいいつもりですので」

 

なかなか、内面の分からない少女だ。

 

 

 

……さて。

 

フカガミは、ワタリをこう捉える。

 

「戦いたくない理由、微妙にボカされるライダーやレビアスの情報。何か、隠している」

 

ワタリは、ミナミをこう捉える。

 

「レビアスへの物怖じの無さや、『彼女』の血縁らしき顔立ち。……少なくとも、記憶喪失は嘘だ。」

 

ミナミは、フカガミをこう捉える。

 

「あの動きや的確さ……戦闘の素人では絶対にない。ましてやただの生物学者などでは」

 

……噓つきか、噓つきっぽい、正直者か。

 

彼らが、水面下(below the wave)にらみ合う。そんな旅がひそかに始まった。




次回、仮面ライダービロウ・ザ・ウェイブ

「光、旅立ち、雨、指先。」
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