今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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禁書庫の守護者

 ゴーレムを全滅させた後、再び褪せ人達は北へ向けて歩みを進めていた。

 散発的に現れる魔物や叡智の園の防衛装置と思われるクリスタルを退けながら、前へと進む。

 

「どうにも妙な感じだね」

 

 褪せ人が砕け散ったクリスタルの破片を拾い上げ、観察していると、ふとタラニアが呟いた。

 その呟きにオーシェンが反応する。

 

「妙というのは?」

 

「最初の遭遇戦以降、相手のやる気を感じない。こっちを排除するというよりは観察しているような気さえするね」

 

 タラニアにそう言われ、ここまでの道中での戦闘を思い出す。

 不意打ち、魔法、或いは魔物の使役。多様な手段で此方を襲撃してくるものの、その悉くが容易く撃退出来る程度のもの。

 叡智の園の賢者達が此方の実力を見誤るような事もないだろう。此方を試している、そう考えるのも自然であった。半ば襲撃にかこつけて何処かへと誘導しているようにも感じさせた。

 

「……だとすればまだ話し合いの余地はあるかも知れませんね」

 

 此方を本気で排除するつもりが無いというのなら、少なくとも叡智の園にまで辿り着ければ話を聞いてもらえるかも知れない。

 

「褪せ人ー! こっちに何かありますよ!」

 

 少し離れたところで叫ぶカゴメに、一行がその先を見る。

 雪原の先、舗装された道と石造りの建物が見えた。その奥には雪空の下、聳え立つ塔の姿。

 

「間違いないわね。あれが叡智の園よ」

 

 未踏領域に人知れず隠された秘境。歴史から抹消されたその地は確かにあったのだ。

 

「行くぞ」

 

 目的地を見つけた褪せ人の行動は早い。クリスタルの欠片とゴーレムの手斧を懐に仕舞い、褪せ人は躊躇う事なく叡智の園へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 叡智の園への道のりは、先程とは打って変わって静かなものだった。

 襲撃はない。防衛設備と思しきゴーレム達は微動にせず、ただ此方を迎え入れていた。

 

「少なくとも話は聞いてくれる……と思って良いのでしょうか?」

 

「どうかしらね。会ってみないことにはまだ何も言えないわ」

 

 油断なく槍を構え、歩みを進めるオーシェンの言葉にシビラが周囲を観察しながら答える。

 少なくとも此方を排除するつもりは無いらしい。

 

「ひとまず、あの塔へ向かえば良いかな? ——って褪せ人くんは何をしてるんだい?」

 

 タラニアが一先ずは叡智の園の中心部であろう塔へと向かう事を確認しようとして、動かないゴーレムから手斧を抜き取る褪せ人の姿に待ったをかけた。

 呼び止められた褪せ人が手斧を片手にタラニアへと向き直る。

 

「それをどうするつもりだい?」

 

「手斧は二本欲しい」

 

 至極当然とばかりに返ってきた答えにタラニアが深い溜息をついた。

 戦利品ならともかく、これでは盗人だ。これから話し合いをするというのに、泥棒の話を聞いてくれるだろうか。時々彼は人が居ない場所のものは拾って持ち去っても構わないと考えている節がある。

 異界の常識はこの世界の非常識——最近は少なくなっていたのだが。

 

「……戻しておこうか」

 

「……」

 

 釈然としない様子ではあったが、褪せ人は手斧をゴーレムの手へと戻し、そのまま塔へと歩き出した。

 

「オーシェン、あれは見習っちゃダメなところよ」

 

「は、はぁ……」

 

 シビラにそう言われ、オーシェンも生返事を返す。

 時々突拍子のない事をするが、基本的には限りなく理性的な人間ではあるのだ。

 微妙に気まずい空気の中、一行は褪せ人の背を追いかけて塔の方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それ程の時間をかける事なく、一行は叡智の園の塔へと辿り着く。

 塔の前に居たのは、角帽を被った白髪の少女であった。

 

「やあ、待っていたよ。ぼくはアナベラ、ここ叡智の園の管理者の一人さ」

 

 そう自己紹介を始めた女の声は、ゴーレム越しに聞こえたそれと同じものであった。

 

「出迎えてくれたという事は、話を聞いてくれるという事で良いのかしら?」

 

「そういう事になるね。このまま追い返そうにも、貴重なゴーレムをこうも景気良く破壊されるのは辛いものがあるし」

 

 シビラの問いに、肩をすくめながら答える。その際に褪せ人の方へチラと視線を移すも、褪せ人が動じる様子はない。そもそもけしかけた側が悪いのだと、そう言いたげであった。

 

「まぁとにかく、里長からの許可も下りたから君達を招く事にしたんだ」

 

 アナベラの言葉と共に、背後の塔の扉が開かれる。

 

「——ようこそ、知識の保管庫。叡智の園へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 塔の内部は北の辺境とは思えない程に広大な場所であった。曰く、叡智の園を創設した賢者が魔法によって空間を拡張したのだという。

 見渡す限りの本棚と何かの動物の剥製や骨格標本が立ち並ぶそれは、褪せ人の知る中では影の地にある種の保管庫と呼ばれる場所に近いだろう。

 叡智の園に住まう者は皆知識の探究者であり、基本的には各々の研究室に閉じ籠り、日夜己の研究に励んでいるのだという。

 

「それで里全体が静かなんですね」

 

「ははは、外に出るのはもっぱら仲間内での発表会か食べ物が尽きた時くらいだからね」

 

 オーシェンの言葉にアナベラが笑う。此処に住む者は誰も彼もが出不精なのだ。それこそ見知らぬ侵入者が入ってきたところで、余程のことが無い限り外に出てこないだろう。無論、それはこの里の防衛兵器が一筋縄ではいかない事を知っているが故でもあるのだが。

 

 雑談に華を咲かせていたところで、アナベラが扉の前で立ち止まる。扉をノックすると、声を張り上げた。

 

「里長、居るかい?」

 

 しばらく待つも、応答は返ってこない。アナベラが溜息をつき、一層力強く扉を叩いた。

 

「里長! お客様を連れてきたんだけど!」

 

「分かった分かった! 開けるからちょっと待って!」

 

 アナベラの大声に漸く慌てたような声が返ってくる。ドタドタと騒がしい音を立てて扉が開かれると、眼鏡をかけ、アナベラと同じように角帽を被った女が出迎える。

 

「いやぁ、お待たせしちゃったね。さぁさ、入って入って♪」

 

 里長というには若々しいその女に促されるように褪せ人達が部屋へと入っていく。

 応接間と思しきその部屋は乱雑に本が積まれており、机の上に開かれた様子から、先程までここで本を読み漁っていた事が伺えた。

 アナベラが溜息混じりに里長の女に苦言を呈す。

 

「来客がある事は伝えたと思ったんだけどなぁ……」

 

「勿論聞いてるよ? それはそうと時間は有限だからさぁ、待っている間に本読んどかないと損でしょー?」

 

 悪びれた様子もなくアナベラにそう返しながら、里長は本を脇にどけると此方へ向き直る。

 

「さてさて、よく来たね。北の国の姫殿下に光槍ビルガの継承者、さらには深潭の魔将にぬりかべの妖怪、雷光の魔剣士に異界の英雄とは錚々たる面子だ」

 

 その言葉にタラニア達が僅かに目を見開く。

 シビラやオーシェンは北の大国における主要な人物故にまだ分かる。しかし、魔界のデーモンから東の国の妖怪、果ては少し傭兵である自分達まで言い当てられるとは思いもしなかったのだ。

 

「仮にも大賢者なんて呼ばれてるからねぇ。今の情勢の主要人物を知りませんじゃ格好つかないでしょ」

 

 肩を竦めて里長は言う。今この場に居るのは曲がりなりにも魔王討伐に参加していた英雄達。いくら隠遁した者達の集まりだろうと、そう言った世界の流れを知る事もまた賢者たる者の有り様だろう。

 

「さて、改めて私が大賢者だとか里長だとか呼ばれてる叡智の園のえらい人ことプリニースだ。よろしくね」

 

 里長——プリニースの自己紹介を皮切りに、シビラ達は叡智の園へと訪れた理由について語り始めた。

 

「ふむふむ、世界樹の魔物化については私達でも観測してる。それをどうにかしたいわけだ」

 

「……何か方法があるの?」

 

 一通り話を聞き終え、頷くプリニースにシビラが尋ねる。その方法の為にここまで来たのだ。もし、彼女達でも分からないとなれば別の方法を考えなくてはならない。

 

「幾つか思い浮かんではいるけど……実際に調べてみないと何とも言えないかな」

 

「それなら、世界樹まで一緒に——」

 

「——その前に、聞いておかないといけないことがあるんだよね」

 

 シビラの言葉をプリニースが遮った。先程までの飄々とした雰囲気は鳴りをひそめ、此方の覚悟を問うように言葉を紡ぐ。

 

「僕達賢者がここに隠れて探究を続けていたのには相応に理由がある。君達はその秘匿を露わにしようとしている訳だ。それがどういう事か分かっているのかな?」

 

 叡智の園、それは民達に知識を授けたが故に引き起こした過ちを戒める為の箱庭。今ここで暮らす賢者達も、己の知識が世に明かされる事なくその生涯を終える事を覚悟して今日まで生きてきた。富や名誉を捨ててでも知を追い求めたのは彼女達の生まれ持っての資質でもあるが、当然それだけではない。

 

「君達も知っているはずだ。人の身に余る知識を得る事が、自らの身を滅ぼす結果へと繋がる事は」

 

 思い浮かぶのは黒鉄の巨人。人々に理想を求められ、しかしその結果人類を滅ぼし尽くした一つの終わり。あれはまさしく、プリニースの言う人の身に余る叡智の結晶が齎した結果なのだろう。

 

「賢者の智慧は世界を救う薬であり、世界を侵す毒でもある。君達はそれを正しく使う覚悟はあるかい?」

 

 プリニースは問う。世界を救う為の智慧は、同時に世界を滅びへと進ませる。かつて、賢者達に智慧を授かった者達とて、元々は争いを起こすつもりは無かっただろう。しかし、授かった智慧とはこれから先、必ずしも正しく使われるとは限らないのだ。

 

 僅かな沈黙の後、静かにシビラが口を開いた。

 

「……私達は貴方達の力を無闇に振るうつもりはないわ。貴方達のご先祖のような、悲しい結果には絶対にさせない」

 

 言葉ではどうとも言い尽くせる。結果で示すのだと彼女は言葉なくプリニースの方を見つめ返した。

 

「成程、じゃあ——君はどうかな?」

 

 プリニースは満足そうに頷きながら、シビラから褪せ人へと視線を移した。

 

「異界の英雄、君は果たしてどう答えるのかな?」

 

「……」

 

 プリニースの覚悟を問う言葉に、褪せ人は僅かに思いを巡らせる。

 人が知識を求める事を止める事など出来はしないだろう。決定的な破滅を迎えるまで、人はその深淵を覗き見ようとする。

 そんな賢くも愚かな魔術師達の末路を、褪せ人はかつて狭間の地で目にしてきた。

 

 この世界とて本質は変わらない。叡智の園の賢者達が齎した知識、その深淵を垣間見た者達は止まらないだろう。その身が、果ては世界が滅んでからようやく、人はその過ちに気付くのだ。

 

「……私に出来るのはその芽を摘むことだけだ。滅びに繋がる可能性、それを潰す。たとえどれ程に時間がかかろうとも」

 

 止まらないのならば、刈り取るまでの事。ただひたすらに、可能性を潰していく。

 王子やシビラのような人を導く者達とは違う。ただ戦う事しか出来ない褪せ人に出来る事はこれだけだった。

 

「ふむふむ、物騒な考えだねぇ。だけど覚悟は伝わったかな」

 

 プリニースが頷くと再びシビラの方を向き直る。

 

「決まりだね。叡智の園は、君達に力を貸す事を約束しよう」

 

 叡智の園の賢者は彼女達の覚悟を認めた。智慧を薬に、知識を封じるのではなく、正しく用いて役に立てたいと思っているのは、ここにいる者達とて同じであった。

 

「さて、それじゃあ早速——」

 

「里長ー! 大変です、叡智の園に天使達が!」

 

 話がまとまり、プリニースが立ち上がったところで、慌てたように叡智の園の学者が入ってくる。

 叡智の園へと押し寄せる侵入者。それが凶報である事は誰の目にも明らかであった。

 

「状況は?」

 

「此方の警告を聞かず、そのまま塔内に侵入! このままだと禁書庫に辿り着きます!」

 

「だろうね。元々此処への侵入者は禁書庫の前まで誘導されるように設計されてるから」

 

 プリニースがその報告に頷くと、アナベラへと視線を移す。

 

「さて、例の『スーパー』なやつはどうなってるのかな?」

 

「まだ整備途中だけど、いけるよ」

 

「よし」

 

 アナベラの答えと共にプリニースが扉へと歩き出す。

 

「私達は来客の相手をするよ。詳しい話はその後で……」

 

「待って」

 

 扉に手をかけるプリニースに対し、シビラがその背に声をかける。

 振り向き、視線だけを肩越しに寄越すプリニースにシビラが言葉を紡ぐ。

 

「私達も手伝うわ。同盟相手だもの」

 

「……うん、そうだね。じゃあ手伝ってもらっちゃおうかな。ついてきて」

 

 プリニースの言葉に一行は立ち上がると、応接室を後にする。

 

 足早に廊下を歩きながら、プリニースが口を開く。

 

「さっき聞いたと思うけど、私達の案内無しで此処を歩くと自然と禁書庫の前に誘導されるような構造になっててね。侵入者はそこで防衛兵器によって処理されるってわけ」

 

「一歩間違えれば私達もそうなっていたという事ですね……」

 

「まぁね〜」

 

 オーシェンの言葉にプリニースが軽い調子で返す。

 話を聞く価値もないと判断すれば、彼女達の案内はなく、天使達と同じように罠に出迎えられる事になったのだろう。

 

 複雑に入り組んだ廊下を曲がり、禁書庫を目指す。しばらくすると、遠くから地響きと共に強烈な破砕音が轟いた。

 戸惑うシビラ達を他所にプリニースとアナベラはどこか浮き足立った様子で話し始めた。

 

「あれが起動したみたいだ」

 

「貴重なデータ取りの機会だね。侵入者には悪いけど協力してもらおっか」

 

 彼女達は侵入者排除以上に、起動する機会が無かった防衛兵器の試運転が行える事を期待しているようであった。

 叡智の園の賢者、貪欲に知を追い求める者達の姿がそこにはあった。

 

「貴方達の言う『スーパー』なやつって何なのかしら?」

 

 揺れる廊下をさらに進みながら、アブグルントがふと尋ねる。

 侵入されているというのに何処か余裕を感じる。何より、元々は自分達だけで対処しようとしていたのだから余程その防衛兵器に自信があるのだろう。

 

「ふふん、よくぞ聞いてくれたね。君達が相手をしたゴーレムは言ってしまえば量産型。禁書庫に配備されたそれは特別製でね……」

 

 アブグルントの問いにアナベラが語り出す。

 自身の成果について身内以外と話す機会が無かったからか、その語り口は何処か上機嫌だった。

 

「ゴーレム達の戦闘経験を統合し、作り上げたオペレーション。叡智の園の知識を総動員した魔導回路。それが、この機体……」

 

 長い廊下を抜け、広間へと出る。

 既に多くの天使達が倒れ伏している中、それは悠然と侵入者達を見下ろしていた。

 

 浮遊する巨大な鉄塊。独立して宙に浮かぶ両手には知の象徴として鋼鉄の本と杖が握られている。

 今も天使達が魔法の弓を射かけているが、まるで効いた様子はない。魔法への耐性と元々の防御性能を両立した、これまでのゴーレムとは一線を画した存在。

 

「これこそが叡智の園の誇る最強防衛兵器、『スーパーゴーレム』さ!」

 

「……名前は随時募集してるからねー」

 

 アナベラが胸を張る傍らでプリニースがボソっと呟く。名前に関しては少なくとも里長は納得していないようだった。

 

 自信作であると胸を張るだけあってスーパーゴーレムは圧倒的であった。

 天使達の攻撃をものともせずそれぞれの両腕を飛ばし、杖から魔法を放ち、本で殴る。

 

「……ん? 今本で殴りませんでしたか?」

 

「魔法は杖担当だからね。本は物理担当だよ」

 

「……?」

 

 珍しく釈然としない顔のカゴメを他所にスーパーゴーレムは天使達を薙ぎ払っていく。

 

「大丈夫そうだけど、私達も手伝いましょうか」

 

「そうですね。此処にきて何もしないというわけにもいきません」

 

 シビラとオーシェンがそれぞれ武器を構えて広間へと駆けていく。

 スーパーゴーレムの暴威によって、侵入者達の鎮圧はそれ程時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

「天使達が来たって事は此処も亜神に目をつけられたという事でしょうか」

 

「十中八九そうだろうね。目的は、叡智の園の破壊かな。僕達に知識を与えたくないらしい」

 

 オーシェンの呟きにタラニアが答える。

 どうにもタイミングが合いすぎる。此方の動きが捕捉されている可能性があった。

 この様子だと、ピラミッドへ向かった王子達の方にも刺客が差し向けられているかも知れない。

 

「……うん、やはり安定性に問題がありそうだ。魔導回路をもう少し……」

 

 侵入者を排除し、動きを止めたスーパーゴーレムを前にアナベラが一心不乱にノートに何事かを書き込んでいた。その顔は真剣そのものであり、一行が部屋に戻るには今少し時間がかかりそうだった。

 

「……ん? 褪せ人、どうかしましたか?」

 

 手持ち無沙汰な中、カゴメは褪せ人の様子が何処かおかしい事に気付く。禁書庫の入り口をじっと見据え、微動だにしない。

 カゴメもまた禁書庫の入り口を見るが、その先は暗く、中の様子は伺う事は出来ない。

 

 訝しむカゴメを他所に、褪せ人はゆっくりと武器へと手を添えると、口を開いた。

 

「……構えろ。何かがくる」

 

「何かって……?」

 

 褪せ人がそう発した直後、禁書庫の入り口、暗い闇の向こう側から眩い光が放たれた。

 突然のそれに反応出来たのは褪せ人だけであった。カゴメを抱え、その場を飛び退く。先程まで褪せ人の立っていた場所を巨大な火球が通り過ぎた。直後、響き渡る爆発音。突如放たれた火球をもろに受け、スーパーゴーレムが火に包まれた。

 

「うわぁー! スーパーゴーレムがぁー!?」

 

「何が起きたんです!?」

 

 悲鳴を上げるアナベラ。シビラとオーシェンがそれぞれの武器を抜き放つ。

 禁書庫の入り口へと警戒を募らせる中、暗闇の奥からゆっくりと此方へと迫る足音が響き渡った。

 石床を叩くその音が近付くにつれ、言い知れぬ圧力が強まっているのをその場に居る者達が感じていた。

 

「——命知らずが来たようだ」

 

 闇を裂き、姿を現したのは竜人の女だった。白銀の髪、それと対をなすように広がる黒い翼と尾。巨大な斧を握り締め、威風堂々とした様子で歩いてくる。

 絶対的な強者の姿。ただその姿を露わにしただけで周囲の空気が張り詰め、自ずと武器を構えずにはいられなかった。

 

「ああ! あれ、もしかして!」

 

「里長、あれが誰か知っているのですか?」

 

 彼女の姿を見て声を上げるプリニースに、オーシェンが反応する。

 

「うーん、多分……おばあちゃんから聞いた事があるんだ。禁書庫のさらに奥、真に危険な知識を守る為の守護者。でもどうしてこんな所に……」

 

 竜人の女は広間の面々を見渡し、やがて褪せ人の姿を認めると、その口角を吊り上げた。

 

「不躾な侵入者よ、貴様が竜狩りか」

 

「ちょーっと待った! 私里長! 里長なんだけど!?」

 

 竜人の女の前に慌てたようにプリニースが手を振りながら前に出る。恐らく、致命的な誤解が生じている。

 聡明な彼女は誤解をすぐにでも解かなければ絶対に面倒な事が起きると理解していた。

 

 そんなプリニースの姿に、しかし竜人の女は首を傾げ、冷然と言葉を返す。

 

「……? 知らん顔だ。我を前にして里長の名を騙るとは大した度胸だな」

 

「だよね! 会った事無いもんね! 竜人が守護者なんて聞いてないぞおばあちゃん!!」

 

 大事な情報を伝えずに隠居した己の祖母に恨み言を言いながらも、プリニースがこの場をどう切り抜けようかと考えを巡らせる。

 しかし、そんな中でも竜人が彼女を待つような事はなかった。斧を構え、その闘気を解放する。吹き荒れる魔力が広間を満たし、震わせる。

 

「我が盟友の築き上げた知識の園を荒らした罪、その身で贖ってもらおうか」

 

「駄目だこれ! 言語は通じるけど話が通じない! 総員迎撃用意ー!!」

 

 プリニースが慌てて竜人から距離を取る。

 竜人はそんな中でも、何かを期待するように褪せ人の方をじっと見つめたままであった。

 

 まるで必要のない戦い、しかしそれが避けられない事を悟ると、褪せ人は静かに武器を抜き放った。




とにかく話を聞いてくれないアイギス勢、よくある事です。
さらばスーパーゴーレム…。
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