今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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蹂躙するは竜にあり

「来ないのか? では此方から行かせてもらおうか」

 

 無限書庫の番人、竜人が身の丈を越える大斧を構え、駆け出す。その視線は褪せ人を捉えて離さない。

 飛ぶような速さで迫る竜人に対し、褪せ人は大盾を構えて応戦する。

 

「フッ……!」

 

 大きく振りかぶった大斧をそのまま大上段に振り下ろす。大斧と大盾がぶつかり合い、凄まじい衝撃音が辺りに響き渡った。

 

「……っ!」

 

 攻撃を受け止めた褪せ人の顔が僅かに歪む。想像以上の威力。これまでも見た目以上の力を持つものと相対してきたが、今回はその中でも特に顕著であった。

 まるで巨大な竜の爪を受け止めたかの如く腕が痺れ、痛みが走る。

 

「ゼィッ!」

 

 再度振るわれる大斧、今の状態で受けるのは無謀、瞬時にそう判断し後ろへと飛び退く。直前まで褪せ人の居た場所に大斧が叩きつけられ、石畳が大きく沈む。

 

「まだだ!」

 

 されど、攻撃は終わらない。地面に突き立った大斧を軸に女は回転、身を捻るとその黒い尾を褪せ人へと叩き付ける。

 

「……!」

 

 息をつかせぬ連続攻撃。褪せ人は再び大盾で受ける事を余儀なくされる。

 おおよそ細身の女から振るわれたものとは思えない鋭く重い一撃に褪せ人はそのまま吹き飛ばされる。

 

 後方で着地、体勢を整えた先には獰猛な笑みを浮かべた竜人が立っていた。

 

「良い反応速度だ、三度我の攻撃を防ぐとはな」

 

 都合三度に渡る攻撃。様子見とはいえその全てが生半可なものではない。初撃で潰れるとは思ってはいなかったが、今の連打を防ぎ切るものなど彼女の記憶の中にもそうはいない。

 

「さぁ、次はお前の番だ。掛かってこい」

 

 手のひらを上に、此方を手招きする竜人。お前の力を見せてみろと、そう言っていた。明らかに侵入者への対応ではない。それはどこか楽しんでいるようにすら見受けられた。

 

「……」

 

 一体何を期待されているのか定かではないが、それでも相手に武器を納める気配はない。相手に応じるように褪せ人もまた武器を構える。

 

「ほう……」

 

 露わになった褪せ人の得物にアルコゥが目を細める。それは、竜の顎を模した大曲剣であった。

 その刀身は鱗に覆われ、ところどころから毛が伸びている。人の手によって造られたというよりは、竜から直接剥ぎ取ったような印象を感じさせた。

 奇妙な武器に、アルコゥが笑みを深める。

 

「面白い、やってみせろ!」

 

 その言葉に応じるように褪せ人が駆ける。猛然とアルコゥへと肉薄すると、鱗剣をアルコゥへと振り下ろした。

 アルコゥはその一撃を避ける事なく、正面から大斧で受け止める。硬質なものがぶつかり合う音と共にアルコゥの足が石畳へと沈む。

 

「むぅ……!?」

 

 今度はアルコゥの顔が歪む番であった。一撃が重い。おおよそ人の身では想像もつかない膂力で振るわれたそれはアルコゥをして僅かに押し込まれるもの。

 

「……!」

 

 当然、その一撃では終わらない。鱗剣を滑らせ、大斧へと再度斬撃を叩き込む。それに呼応するようにして、鱗剣から炎が噴き上がり、受け止めたアルコゥを熱で焼く。

 

「ぐっ!」

 

 炎を纏った剣の一撃を嫌い、アルコゥがその場を離脱する。それを追うようにして褪せ人は鱗剣を咥えるようにして持つと、飛び退いたアルコゥへ向けて跳躍した。

 

「ちぃっ!」

 

 離脱が叶わないと知り、アルコゥは再び大斧で鱗剣を受ける。燃え盛る鱗剣が衝突し、爆発を引き起こした。土竜の鱗、刀身より滲み出る溶岩が飛散し、その飛沫がアルコゥの肌を焼く。

 

 再度追撃を重ねようとした褪せ人に対し、アルコゥの尾による薙ぎ払いが迫る。

 追撃を諦め、褪せ人が背後へと飛び退く。再び開く両者の距離。

 

「くっ……ハハハハ! 良いではないか、貴様! 竜狩りよ、今までどれだけの竜を殺してきた!?」

 

 上機嫌に笑うアルコゥ。この短い攻防の中、その身体に染み付いた竜の血を感じて理解した。あれは竜狩りの中でも最上の部類だろう。

 

「数を誇る趣味はない」

 

 気炎を上げるアルコゥの問い掛けに、しかし褪せ人はすげなく返す。

 

「ほう、謙虚なものだ……だが!」

 

 褪せ人の言葉を受け、僅かに怒気を滲ませたアルコゥが飛び掛かる。

 

「竜を討つは偉業、人の誉れよ! 誇り、我こそは英雄たらんと名乗りを上げよ! それこそが竜狩りの英雄に相応しき在り方だ!」

 

 再びの猛攻。それを大盾と鱗剣でいなす褪せ人に対してアルコゥが吠える。

 竜とは頂点。人の身でそれを討ったならば、それは紛う事なき偉業である。竜としての己に絶対の矜持を持つが故に、褪せ人のその態度は気に入らなかった。謙虚さなど、英雄に求めるものではない。

 久方ぶりの竜狩りの戦士。この昂りを鎮めるのならば、相応の姿勢が望ましい。

 

「知らぬならば刻み付けてやろう、竜とはかくも恐ろしいものであると!」

 

 一層激しさを増すアルコゥの攻撃。対して褪せ人の思考はどこまでも冷静であった。攻撃を観察し、動きの隙を見計らう。一見して暴風の如き乱打。しかしその奔流の只中から、かすかな綻びを見抜き、突くのは褪せ人の得意とするところであった。

 

「凄い……」

 

 目の前で繰り広げられる戦いにオーシェンが息を呑む。彼女とて光槍ビルガに選ばれた英傑の継承者。その実力は決して低いものではない。しかし、褪せ人とアルコゥの戦いはあまりに彼女の常識から外れたものであった。

 一撃一撃の威力も、その速度も、あるいは互いの駆け引きも。その全てが彼女の知り得るものの上をいく。

 

 他の者達もまた加勢に向かおうとして、しかし手が出さないでいた。苛烈な攻防は、彼女達が入り込む余地などあるようには思えなかったのだ。

 

「——貴様らは見ているだけか?」

 

 ただただ圧倒されるオーシェン達へと不意にアルコゥが言葉を投げかける。それは、此方を試すような物言いであった。褪せ人と互角の戦いを繰り広げながら、鋭い眼光がオーシェン達を射抜く。

 

「貴様らは戦士か? それともただ見ているだけの傍観者か?」

 

 そう語り掛けながらも、両者の手は緩まない。

 褪せ人の一撃がアルコゥを捉える。辛うじてその一撃を防ぐも、その強烈な一撃にアルコゥは背後へと飛び退いた。

 褪せ人へと視線を戻し、しかし尚も言葉を紡ぐ。

 

「その槍が、剣が飾りでないなら向かってくるがいい。竜は如何なる挑戦をも受けて立つ」

 

 決して褪せ人との戦いが不足しているわけではない。寧ろ人の身でありながらアルコゥは僅かに押されつつある事を悟っていた。

 このまま彼女達が加勢すれば、さらに天秤は崩れるだろう。しかし、それでも傍観している彼女達へと言葉を投げたのは竜としての矜持故。

 竜と人は対等ではない。圧倒的な力を前に、人はその全てを賭して初めて戦いの土俵へと立つ事が出来る。

 

 かつての盟友とてそうだった。無数のマジックアイテムを駆使して、知恵と勇気を絞り出し、そして漸く己という竜に打ち勝ったのだ。

 

 一瞬、過去へと想いを馳せたアルコゥが再び褪せ人へと目を向ける。

 対して目の前の男はその盟友とは似ているようでまた違う。ただただ膨大な経験値に裏打ちされた立ち回りと圧倒的な手数。そして驚く程に冷静な観察眼。

 

 先程とは違う武器を握り、此方へと駆ける褪せ人に、数百年ぶりに胸の内に滾りを感じた。

 故に、彼女は己の枷を外す。

 

「良いぞ、竜狩り。貴様に"竜"を見せてやろう」

 

 追撃を加えんと迫る褪せ人にアルコゥは笑みを浮かべる。相手にとって不足なし、久方ぶりに全力を振るえる。

 己の魂の昂りをそのままに咆哮を上げる。吹き出す魔力と炎が彼女を中心に爆発を引き起こす。

 

「……!」

 

 突然の爆発に褪せ人が吹き飛ばされると、後方に着地。大盾を構え爆炎の先を見据えた。

 煌々と燃え盛る炎の奥に、見上げんばかりの巨大な影が揺らめいている。

 一歩、爆炎の向こうから踏み出したその影にオーシェンが驚愕の声を上げる。

 

「ドラゴン……!?」

 

 それは白き竜であった。強靭な四肢を覆う白き鱗は魔力に満ち、美しさすら感じさせる。此方を睥睨する瞳には深い知性が宿り、見る者に圧を感じさせる。黒翼黒尾のアルコゥとは対照的、しかしそれが彼女が姿を変えたものである事は自ずとその場にいる全員が悟っていた。

 今までにこの世界で出会ったドラゴンとは一線を画す。褪せ人をしてそう思わざるを得なかった。

 

「竜たる我が姿……こうして晒すのはいつ振りだったか……」

 

「竜人が竜に……? でも、それは……!」

 

 静かに呟くアルコゥに、アナベラが困惑する。何故ならばそれは、この世界の竜人の成り立ちを考えればイレギュラーな現象であるからである。

 

 竜人の始まりはこの世界の誕生、神代の時代まで遡る。

 竜神の生み出した竜、それは絶対の強者として世界に君臨していた。しかし、強過ぎる力は世界を滅ぼす。その強さ故に、ただそこに在るだけで器である世界が先に悲鳴を上げたのだ。

 このまま竜が栄えれば世界は砕け散る。行く末を案じた竜神は強大な竜の個体数を制限し、その代わりに力を抑えた、弱き者達を生み出す事にした。それこそがこの世界における真なる竜とそれ以外の始まりである。

 魔物である知性なき竜、或いは竜人達とは、世界という器に収まる為に意図的に力を制限されて生み出された種族である。

 竜人とは、竜の姿である事に耐えられなくなった弱き者達の姿であり、それ故に彼らは強き竜となるべく力を強く信奉しているのだ。

 

 ——ならば、竜人でありながらその姿を竜と化したアルコゥとは一体何であるのか。

 

 そんなアナベラの疑問を他所に、アルコゥの口より炎が漏れる。

 

「——竜の息吹、その身で受けてみよ」

 

 次の瞬間、竜炎が放たれた。石畳を焦がし、広場を放射状に広がるそれは褪せ人を飲み込まんと迫り来る。

 回避は困難、そう判断すると大盾を構え、炎の津波から身を隠す。

 

「褪せ人!!」

 

「不味いわね、これは……!」

 

 眼前に広がる炎の海にカゴメが叫び、シビラが魔剣を抜く。目の前の竜は此方の想定を遥かに上回っていた。目の前の竜の言った通りだ。心の何処かで彼に甘えていた結果、その彼を危険に晒している。

 

 濁流のような炎が収まり、すぐさま助けに行くべく駆け出そうとして、しかし彼女達は立ち止まる。残炎を吹き飛ばすようにして、赤い稲妻が吹き荒れる。

 焼け焦げた広間の中心に、圧倒的なまでの力の奔流が噴き出す。アルコゥと相対するように現れたのは岩の如き鱗を持つ竜。かつて褪せ人が討った竜王の滅び、その似姿であった。

 

「それが貴様の狩った竜の姿か!」

 

 アルコゥが吠える。目の前の男はまだまだ楽しませてくれるらしい。

 術によって姿を変えた男のそれは、一目見て尋常な存在ではない事を悟った。あの男がアレを狩ったというのであれば、それは真に竜狩りの英雄と呼ぶに相応しいだろう。アルコゥにそう思わせる程に、その存在感は圧倒的であった。

 

 竜王の口から光が漏れる。滅びゆく断末魔がアルコゥへ向けて放たれようとしていた。

 

「面白い! 我を相手にブレスで挑むか!」

 

 褪せ人の言葉なき挑戦にアルコゥがブレスによって応じる。アルコゥの中では、最早相手が侵入者かどうかなど瑣末な事であった。

 これまでの知恵と勇気を振り絞って挑んできた竜狩り達とは違う。正面から竜と相対し、あまつさえ互角に渡り合う英雄。そんなものは初めてであった。

 

 今の己は全盛期とは程遠い。かつての己を討ち倒した盟友は無二の存在であり、それはこの男との戦いが終わった後でも変わらないだろう。

 もしこの男ともっと早くに出会っていれば、或いはこの男もまた己の特別足りうる存在だったかも知れない。

 女神アイギスによる永遠の命を返上した事を僅かに後悔する程度には、目の前の男にアルコゥは魅せられていた。

 

 赤き竜炎と黄金の光線が衝突する。咆哮のように炸裂した奔流は行き場を失い、広間を暴風の炎で薙ぎ払った。

 

「うわぁー!? 叡智の園が壊れる! ちょっと侵入者の相手してただけなのに!」

 

「本当に無茶苦茶ね……!」

 

 アナベラが叫ぶ。この戦いが続けばいよいよ叡智の園が破壊される。常軌を逸した力の衝突。しかし止められる者は居ない。

 

 褪せ人とアルコゥの力比べ。拮抗していたそれは、しかし少しずつ均衡が崩れていく。押されているのは、褪せ人の方であった。

 

「……!」

 

 金色の息吹が少しずつ炎に呑まれていく。祈祷による紛いものの竜王と正真正銘生ける竜のブレス。その差は覆し難い。

 

「終わりだ、竜狩り!」

 

 アルコゥの咆哮と共にブレスがさらにその勢いを増す。全霊のブレスを前に、遂に偽りの竜王は炎の海へと呑み込まれた。

 

「終わりか……」

 

 炎が収まり、焦土と化した広間を前にアルコゥが呟く。心揺さぶる戦いであったが、終わってみれば呆気ないものだった。

 残った侵入者達はついぞ向かってくる事はなかった。随分と薄情なものだと考え、首を振る。己とあの男の戦いに割って入るなど酷な話だと思ったのだ。

 戦いの余韻に浸りながら、残る者達へと視線を移す。

 

「さて、残ったのは貴様らだけ……?」

 

 アルコゥが侵入者へと告げようとして、気付く。彼女達は此方を見ていない。その視線を追い、先程まであの男が居たであろう場所を見遣る。

 

「まさか……まだ立つというのか」

 

 そこに居たのは全身を焼かれ尚も立ち上がる男の姿。鎧は余すことなく黒く焼け焦げ、身じろぎする度に煤が足元にこぼれ落ちる。しかし、その兜の奥、闇の向こうに見える瞳は未だ戦意を失ってはいなかった。

 

「くくく……ハハハハハ!! 我も耄碌したものだ! これ程の英雄を見誤るとは!」

 

 年を取るとは嫌なものだ。この男は紛うことなく『特別』だった。つくづく惜しい。生まれる時代さえ違えば、この男は間違いなく全盛期の己を滾らせる存在だったというのに。

 

 男がおもむろに武器を握る。それは重く長い刀身を持つ刀であった。特異なのはその刀身をびっしりと覆うさざれ石の逆棘だろう。

 その奇妙な刀身を見た時、アルコゥは言い知れぬ怖気を感じた。あれは竜殺しに連なる武器であると、そう本能が警鐘を鳴らしているのである。

 

「その刀で抉ってみせよ! 我が心の臓を!」

 

 気付けばあれ程拘っていた竜と人という立場すら忘れ叫んでいた。ただ昂りのままに、ただ心の赴くままに、目の前の男との殺し合いに心を躍らせる。

 

 振り下ろされた竜の爪。鋭く重いそれは間違いなく褪せ人を殺し得るもの。だが、目の前の男はただ此方を見据え前進する。避ける気配すら見せはしない。

 

 目前に迫った致命の一撃。しかし、それが褪せ人に突き立てられるより前に、突如突き立った壁により阻まれる。轟音が広間に響き渡る。しかし、目の前の壁に傷一つついてはいない。

 壁の上に立ち、平らな胸を力いっぱい張るカゴメがアルコゥを見下ろし叫ぶ。

 

「褪せ人ばかりに頑張らせるつもりはありません! ここからはアタシも戦います! 文句はありませんね!?」

 

「吠えたな妖怪!」

 

 乱入上等。しかし、目の前の男との戦いを邪魔立てする以上、生半可な覚悟は許さない。そんな思いを乗せて爪を振り上げる。

 幾度となく繰り返される連撃。しかし、それでもなお傷つくことのない壁に流石のアルコゥも違和感を覚える。

 

 目の前の妖怪の力が凄まじいのは否定しない。しかし、あまりにも手応えが無さすぎた。まるで与えた衝撃が霧散し、壁にぶつかる頃には赤子の手のひらで叩いているかのような錯覚さえ覚える。

 

 原因を探るべく視線を巡らせる。ふとアルコゥはカゴメの壁の背後、光り輝く槍を手にする女騎士を見留めると、その目を見開いた。

 

「貴様、その槍は……」

 

「私とて英傑の身、これ以上彼だけに戦わせるつもりはありません……!」

 

 真なる竜と褪せ人の戦いに圧倒されていたのは否定できない。英雄とは、これから彼女が目指さなければならない到達点の一つがアレなのだと思うと、その背は途方もなく遠いものに思えた。

 だが、それで終わるつもりはない。彼女とて生半可な気持ちで光槍ビルガを受け継いだ訳ではないのだから。

 

「竜のブレスだって正面から受け止めてみせます!」

 

「言ってくれる!!」

 

 アルコゥが獰猛な笑みを浮かべる。一対一の決着が無くなったのは惜しいが、それでも彼女達の奮起は心地の良いものであった。

 己が不利な状況下に置かれた事を悟るも、それでもアルコゥは竜としての振る舞いを崩す事はない。

 

 壁の後ろから褪せ人が前へ出る。鎧こそ焼け焦げたままであるが、歩く姿は力強い。壁の後ろ、先程のやり取りの間に傷を癒したのだろう。

 

 肩に担いだ大刀、その刀身が赤く揺らめく。久しくなかった竜の気配に、歓喜の声を上げているかのようであった。

 

 並び立つ英雄を前に、アルコゥは再び咆哮する。盟友の居ない世に、再びこれ程の戦いと巡り会えることへの歓喜の咆哮であった。

 

「いざ死合おうか英雄! 貴様らと我、どちらかが斃れるまでここで——」

 

 そうして再びアルコゥが再び口元から炎を滾らせ、その息吹を放たんとしていた時——

 

「——ええい何をやっているのですかアルコゥ!!」

 

 ——アルコゥに向かって凄まじい速度で何かが衝突した。

 

 あまりの衝撃に不意を打たれたアルコゥがバランスを崩し、倒れ込む。

 突然の乱入に、褪せ人達もまた何事かと動きを止めた。

 

 アルコゥへと突進したそれは軽やかに翻るとアルコゥを見下ろし叫ぶ。

 

「少しは目が覚めましたかアルコゥ!!」

 

「貴様……」

 

 アルコゥは己の不意を打った何者かへと鋭い視線を向ける。

 そこに居たのは、色鮮やかな翼を持つ巨大な鳥であった。巨大な翼を羽ばたかせ、此方を見下ろすその瞳は知性が宿り、それがただの獣でない事を物語る。

 それに跨るのは槍を持った少女。

 

「ふぅぅ……何とか間に合ったー!」

 

「里長! 今まで一体どこに……」

 

 全力で走ってきたのだろう。プリニースが床に座り込みながら安堵の声を上げる。

 竜と褪せ人の戦いが始まってから姿が見えなかった里長の様子に、あの少女を連れてきたのは里長なのだろうとアナベラは推察する。

 

 槍の少女を、アルコゥが睨みつける。

 

「貴様……ミルドリスか。なんのつもりだ」

 

「なんのつもりも何もないでしょ! 貴方の暴走を止めにきたんです!」

 

「我はただ盟友との約定を果たしているだけだ」

 

 槍の少女——ミルドリスの言葉にアルコゥは鼻を鳴らす。侵入者の排除、それを何故咎められる事があるだろうか。

 

「約定ですか……私には久々に楽しそうな遊び相手がいてハッスルしてるように見えましたけど?」

 

「……気のせいだ」

 

 ミルドリスの言葉にアルコゥが目を逸らす。途中、己の使命を忘れ戦いに興じていたのは否定できない事実であったからだ。

 興を削がれ、幾らか冷えた頭で改めて褪せ人達を見遣る。

 

「まさか……本当に違うというのか?」

 

「ずっとそう言ってるじゃんか!」

 

 漸く己の勘違いに気付いたらしいアルコゥにプリニースがいきり立つ。

 ミルドリスが呆れたような視線を向けながら口を開く。

 

「いい年して若い子に夢中になってるなんて……目覚めて早々に説教する身にもなってくださいよまったく」

 

「色んなところに刺さりそうね……」

 

 ミルドリスの言葉に妖怪や悪魔が苦笑いする。この場に亜神が居ればやはり似たような笑みを浮かべたのだろう。

 

「とにかく、誤解は解けたみたいですから一度腰を落ち着けませんか? 互いに知りたい事は色々あるでしょうし」

 

「……そう、だな」

 

 オーシェンの言葉にアルコゥが頷く。僅かに煮え切らなさを感じさせるのはそれ程に彼女にとって満足のいく戦いだったからだろう。

 褪せ人もまた大刀を仕舞う。唐突に始まった死闘は、やはり唐突な終わりを見せた。炎と咆哮の残響が広間に漂う中、微妙な気まずさを感じさせながら戦いは幕を閉じた。




カゴメ頑張れマジで頑張れ(現在人気闘兵3位)
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