今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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深き夜に囚われてしまいました。どうか許してほしい。


束の間の日常

 大幅なアクシデントこそあれど、目的は達成された。

 叡智の園という幻の秘境は実在し、協力まで取り付けた。結果としてはこれ以上ないものだろう。

 

「お疲れ様でした。王子もこの報告にお喜びになるでしょう」

 

 叡智の園から帰還したシビラ達からの報告をまとめ終えたアンナが顔を上げる。

 

「王子はまだ帰ってきていないの?」

 

「はい、グングニルを求めて砂漠の国へ遠征に向かわれたままです」

 

 シビラの問いに、アンナが答える。

 どうやらピラミッドへ行ってからまだ戻ってきていないらしい。もとより砂漠の国は遠方の地。それ程おかしな事ではないだろう。

 しかし、叡智の園に天使の襲撃があった事を考えれば、あちらにも妨害の手が伸びている可能性は大いにあった。

 

「そうですね……とはいえ、私達には待つしか出来ませんから。王子が戻り次第褪せ人様達にもご報告します。アナベラさんもそれでよろしいですか?」

 

「構わないよ。叡智の園から外に出るのは久しぶりだからね。ゆっくり観光でもさせてもらうさ」

 

 アンナの言葉に叡智の園の外交官として同行していたアナベラが頷く。里長であるプリニースは叡智の園を離れる事は出来ず、世界樹の調査等へ実際に赴く人員として彼女が派遣されたのであった。

 

「まぁ、里長の場合本を読むのに忙しいとかそんな理由だろうね」

 

 アナベラが肩をすくめる。叡智の園の長といっても、結局は外から秘匿された里である。里の管理という意味でのプリニースの仕事はさして多くはない。

 それよりは彼女自身が本を読みたいが為に外へ出るのを嫌ったと考える方が余程納得がいった。

 

「では、この場は解散にしましょう。褪せ人様もお疲れでしょうから、ゆっくり羽を伸ばされてはどうですか?」

 

「何か依頼は来ていないのか」

 

「……何もないわけではありませんが」

 

 案の定と言うべきか、休む気などさらさらない褪せ人の言葉に、困ったようにアンナは眉根を下げる。

 

「褪せ人様に相応しい依頼はありません。今更ゴブリン退治や薬草集めなんて貴方に頼めませんから」

 

 実際、ゴブリン退治だろうが何だろうが一向に構わないところであったが、アンナの表情を見て引き下がる。あまり受けては欲しくないらしい。

 

「後進に道を譲るのも大事よ」

 

「まだ立ち止まるつもりはない」

 

 シビラの揶揄い混じりの言葉に端的に返す。とはいえ、依頼を受けられないのであれば仕方がない。

 褪せ人は立ち上がると、執務室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都にある自身の邸宅に戻ると、いつものようにヘリューズ達が出迎える。

 一応は褪せ人の持ち物とされているこの邸宅だが、半ば彼女達の集会所と化していた。褪せ人もまた咎める事はない。広すぎる屋敷は褪せ人には持て余すものであるからだ。火山館を自分の家のように使えと言われているようなものである。

 救いなのは、人間関係が遥かにマシで2階に上がっても殺される心配がない事か。

 

「随分と災難だったみたいですね?」

 

「いつも通りだ」

 

 ソファに腰掛け、ヘリューズに淹れられた茶を飲みながら、彼女の言葉に端的に答える。昔も今も、行く先々でトラブルに巻き込まれるなど日常茶飯事であった。今更それを災難だったと嘆くような事はない。

 

「では、其方もいつも通りですか?」

 

 そんなやり取りを横で見ていたフーロンが胡乱な目で褪せ人の隣を指し示した。

 そこに居たのは、同じように茶を飲みながら寛ぐ竜人の姿。

 

「良い茶葉だ。悪くない」

 

 その竜人は久方ぶりに飲む茶の味を堪能すると、菓子へと手を伸ばす。ヘリューズは微笑んでいたが、フーロンが彼女へ向ける視線は厳しい。

 

「あの、一応確認ですけど貴方を黒焦げにしたのこの竜人ですよね? 何で当然のように受け入れてるんですか?」

 

 フーロンからしてみれば勘違いだったとはいえ殺し合いを繰り広げた相手が当然の如く居座っているのが気に入らないらしい。

 仮にも竜である事を知った上で尚睨み付けるフーロンに対しアルコゥが笑みを浮かべる。

 

「気骨のある娘だ。それ程にこの男が傷付けられたのが気に入らないか」

 

「……別にそんなんじゃありませんよ。この人が色々おかしいのは知っているつもりですし」

 

 アルコゥに言われ、フーロンは目を逸らして言う。

 黒焦げにされた本人が許している以上、フーロンがこれ以上何かを言うつもりはないが、やはり内心では納得はいかない。

 この男はどうしてこうも極端なのだろうか。刃を向ければそれが誰であろうとも躊躇いなく殺しに掛かる癖に、刃を収めれば先程までのやり取りなど無かったかの如く応じる。

 極端に過ぎるのだ。異界の倫理観がそうさせているのかも知れないが、受け身にも程があるだろう。

 

「まぁ、我も今回の件については済まないと思っている。それ故にこうして叡智の園より外に出てきたのだからな」

 

 曰く、流石に勘違いで襲った事の責任は感じているらしい。里長からの後押しもあり、こうして王国に戦力として加わる事にしたのであった。

 

「叡智の園の守りはよろしいのですか?」

 

「あちらはミルドリスが受け持つそうだ。もとより、叡智の園の防衛に関して我は過剰らしい」

 

 ヘリューズの尤もな問いに、アルコゥが答える。

 天使の襲撃こそあったものの、基本は叡智の園はゴーレム達で十分なのだ。スーパーゴーレムに関しても、一応は予備のパーツがあるらしく、防衛面は盤石といって良い。実際、アルコゥ自身数百年侵入者に会う事など無かったというのだから戦力としては完全に彼女を持て余していた。

 

「そういう訳だ。よろしく頼む」

 

「またこの屋敷の戦力が凄い事になりましたね」

 

 ヘリューズの呟きに、フーロンが無言で頷く。

 冥界の亜神と真なる竜に妖怪が住む屋敷である。泥棒もまず盗みを働こうなどとは思わないだろう。

 

「……ここに住むつもりですか?」

 

「そうだ。宿代も無いし、あくまでこの男の下につくだけだからな」

 

 褪せ人としては頼んだ覚えはないが、ついてくるというのなら拒む事はない。ヘリューズやカゴメが居ても部屋を持て余しているのだから、使ってやるのがこの屋敷も本望というものだろう。

 

「家主の許可も貰っている。問題はない」

 

「……私は兵舎住まいなのに」

 

 拗ねたように呟いたその言葉を褪せ人は聞かなかった事にした。この娘が難儀な性格をしているのはそれなりの付き合いでよく分かっているからだ。

 ヘリューズは微笑ましげにフーロンを見つめ、やがて褪せ人の方へと視線を移す。

 

「明日はどこに行かれるおつもりで?」

 

「鍛冶屋だ」

 

 ヘリューズの問いに、褪せ人が答える。

 褪せ人自身、それなりに武器は手入れしているがやはり本職には劣る。こうして時間が出来た時は鍛冶屋に顔を出すようにしていた。

 何より、どこかの竜人に黒焦げにされた鎧の件もある。

 

「お夕飯前には帰ってきてくださいね?」

 

 ヘリューズの言葉に応じると、フーロンから呆れた視線を向けられる。

 

「休みなんだかどうだか分かりませんね」

 

 そんなフーロンの言葉に、しかし褪せ人は小さく肩をすくめるだけだった。

 こればかりは仕方がないのだ。茶の香りと焔の残り香が同居する邸宅の空気の中、褪せ人はただ明日の鍛冶場を思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 翌日、褪せ人は城下の石畳を歩いていた。

 まだ朝靄の残る街は人通りもまばらで、商人達が店を開く支度を始めている。

 物々しい鎧の大男が歩く姿に幾人かが視線を向けるが、声を掛けられるような事はない。

 そんな褪せ人と並ぶようにして歩く竜人に、褪せ人は兜のスリット越しに視線を向ける。

 

「……何故ついてくる」

 

「暇だからだ」

 

 褪せ人の問いにアルコゥが答える。

 今まで無限書庫に引き篭もっていた身。いざ王国まで来たが、さりとてやりたいことは思い付かなかった。

 今を生きる竜人達の様子は見に行きたいところだが、そんな彼女達も遠征中である。

 

「それに、貴様の振るう武器には興味がある」

 

 アルコゥが褪せ人が背負う武具へと視線を向ける。

 思い出すのは叡智の園での戦い。竜鱗の曲刀に始まり、多種多様な武器を使いこなしてみせたこの男は、未だ底を見せてはいない。

 特に最後に見せた大刀。竜殺しの武具などこれまでも数多見てきたが、あれほど奇怪なものは見た事が無かった。

 聞けばこの男は異界よりこの地に来た戦士。悠久の時を生きたアルコゥをして、未知の武器を扱うこの男への興味は尽きなかった。

 

「……」

 

 そこまで聞いて、褪せ人はアルコゥから視線を外すと城下を進む。もとより然程興味が無かったのか、或いは言っても無駄だと思ったのかは定かでは無いが、少なくともついてくることに何も言うつもりは無いらしい。

 そんな褪せ人に、アルコゥもまたついていくのであった。

 

 

 

 

 城下の喧騒を抜け、鉄と煤の匂いが漂い始める。褪せ人は最早慣れ親しんだそこを迷う事なく進む。

 やがて、金槌の規則正しい音が響き渡る。通りにまで漏れ出す熱気が褪せ人の肌を撫でる。

 

 その一角で褪せ人は足を止めると、煤に黒く染まった木扉を開ける。

 鉄と油の匂いが立ち込める中、職人達の掛け声が飛び交う。そこはある意味で一つの戦場であった。

 

「……ここが貴様の馴染みか」

 

 アルコゥは低く呟くと、立てかけられた無数の武具へと視線を向ける。

 いずれも数打ちのものであれど、決して手を抜かれたものではない。戦場の兵士達にはさぞ評判が良かろうとアルコゥは内心で感心の声を上げる。

 

 そんなアルコゥを他所に褪せ人は目的の男を探し求める。

 視線を彷徨わせ、しかしすぐに目的の男は見つかった。力自慢の職人達の中でも、その男は特に抜きん出ている。筋骨隆々のその男を見落とすのは難しい。

 

 鍛冶職人ゴルドー。褪せ人が武器を預けても構わないと判断したその男は、どうやら誰かと話し込んでいるようだった。

 ゴルドーと並べばまるで子供のような体躯の少女は工房には似つかわしくないドレスを身に纏っている。ゴルドーに対しても一歩も引かず対等に話すその少女は、褪せ人も一度会話した事のある者であった。

 

 そんな二人の下に褪せ人は真っ直ぐに歩み寄る。

 

「ゴルドー」

 

「……あぁ、あんたか。一体どんな無理難題を持ってきた?」

 

 褪せ人に声を掛けられたゴルドーが視線を向ける。憎まれ口こそ叩いているが、笑みを浮かべている辺り本気ではないのだろう。事実、この男に任せた武器の仕上がりは褪せ人をして見事と言わしめるものであった。

 

 そんなゴルドーの様子に、少女の方——ドワーフの姫であるティニーもまた褪せ人の方を見て大きく目を見開くと褪せ人を指差した。

 

「あー! アンタ、この私に気持ち悪い剣を聖剣だって言い張って見せつけた変態じゃない!!」

 

 開口一番に放たれたその言葉は工房に響き渡った。あれだけ騒がしかった工房に一瞬の静寂が訪れ、やがてすぐに作業が再開される。しかし、その視線は褪せ人とティニーの方へと注がれていた。

 

 恐らくは以前、聖剣を見せろと乗り込んで来た時の事を言っているのだろう。

 要望通りのものを見せただけだと言うのに随分な言い草である。

 

「あんなウネウネしたのが聖剣なわけ無いでしょ!? 三日くらい夢に出てうなされたんだから!」

 

「ああ……あれか」

 

 ティニーの言葉に、ゴルドーは彼女が何を見せられたのかを察したらしく、同情の視線を送る。どうやら分が悪いのは此方の方らしい。

 

「……幾つか修理を頼みたい」

 

 これ以上この話を続けるつもりはない褪せ人が近くの机の上に黒焦げの鎧を並べる。

 無造作に置かれたそれらに、ティニーが眉根を顰めた。

 

「……誰かの遺品? 何をどうしたらこんな事になるのよ」

 

「紛れもなくこの男のものだ。我がやった」

 

「何でちょっと得意気なのよ。どういう関係?」

 

 隣で胸を張るアルコゥに対し、ティニーが胡乱な視線を向ける。何故この男は自分を黒焦げにした女を連れ回しているのか。

 そんなティニーとアルコゥを無視して褪せ人はゴルドーへ視線を向ける。

 

「直せるか?」

 

「……見た目程状態は悪くねぇ。煤を落として革の留め具を替える程度で何とかなるだろう」

 

 ゴルドーが兜を掴み、検める。凄まじい激闘を思わせるものではあるが、致命的な損壊は起きていない。防具としては破格の代物であることが見て取れた。

 そんなゴルドーの言葉に褪せ人は軽く頷くと再び口を開いた。

 

「後は幾つか武器も頼む」

 

「……ちゃんと直せるやつだろうな?」

 

 ゴルドーが疑わしげな視線を向ける。この男の持ってくる武器は鍛冶屋泣かせのものが多い。

 装飾がやたらとゴテゴテしてメンテナンスの事を考えていない程度なら序の口、そもそも素材が不明だったり、武器そのものが生きているかのように脈動していたりととにかくこの男は鍛治職人を何か勘違いしているとしか思えないのだ。

 

「あの変なの以外にも武器を持ってるのね? ちょっと見せなさいよ」

 

 ゴルドーとの会話にティニーが割って入る。彼女の夢はドワーフの王族として相応しい伝説級の武具を己の手で作る事。故に、褪せ人の持つ特異な武器には並々ならぬ興味があった。だからこそ、初手で聖剣を要求して酷い目に遭ったのだが。

 

 そんなティニーの注文に、褪せ人は僅かに考えて、応じる事にした。

 どの道今日は他に予定はない。この世界の者達に己の武器について意見を聞くのも良いだろう。

 

 幾つか己の武器を取り出すと、机の上に置いていく。途中、置き切れないものは机の淵に立てかけていく。

 その余りの量にティニーは目を剥いていたが、やがてそれらの武器一つ一つを食い入るように見つめていく。一言も発さずに、ひたすらに武器を検めていく様は、まさに一流の鍛治職人に相応しいものであった。

 

「こんな数打ちの武器なのにどうしてここまで鍛えたのかしら……」

 

 何の変哲もない飾り気のない大剣を見ながら、しかしティニーは戦慄した。恐らくこの武器は何ら特別なものではない。彼女の見立てに間違いはないだろう。だというのに、この武器からは異常なまでの執念を感じた。武器越しに、これを鍛えた何者かの狂的な殺意を幻視し、身震いしたのだ。一体この武器で何を殺そうとしたというのか。

 そんな彼女達の様子を見ながら、アルコゥは褪せ人へと口を開く。

 

「丁度良い、我も興味があったのだ。我を殺そうとした時に持ち出したあの大刀、あれを見せてみろ」

 

「……本当にアンタ達どういう関係なのよ」

 

 ティニーが呆れたように呟く。殺し合いをした仲の癖に何故こうもお互いに含みを感じさせないのか。

 アルコゥに言われ、褪せ人が竜狩りの大刀を机に置いた。

 さざれ石の刀身を持つその大刀に、その場に居た三人の視線が注がれる。

 ティニーが刀身を撫で、その指先のざらつきに眉を寄せる。

 

「これ……なんの素材よ。岩みたいだけど、ちょっと違うわよね?」

 

「刃からして普通に斬るもんじゃねぇな。竜狩りというからにはこれで竜を斬るのだろうが……」

 

 口々に感想を言う二人。分からないのも無理はない。普通に考えれば明らかに非合理な武器であるからだ。実際、単に斬る事を目的とするのであれば普通の大刀の方が余程使い勝手が良いのだから。

 

「成程な、これが竜殺したる故か」

 

 そんな中で、ただ一人竜たるアルコゥがその武器の本質を理解した。

 獰猛な笑みを浮かべながら、褪せ人へと視線を向ける。

 

「これに使われているのは古き竜の鱗なのだろう」

 

「如何にも」

 

「へぇ、これが……」

 

 ティニーが刀身を指で撫でる。ざらざらとしたさざれ石の刀身は竜の鱗から作られたのだという。

 この世界においても竜の鱗は武器の素材として珍しいものではないが、それでもこの岩のようなものが鱗であるなどとは彼女達の常識では考えられなかった。

 見事に言い当てたアルコゥが再び言葉を紡ぐ。

 

「これが竜殺したる所以はそこにあるのだろう。我が竜であるからこそ、分かる感覚だろうがな」

 

 アルコゥが刀身を撫でれば、まるで漏れ出すようにして、永遠たる古竜の意思が彼女の胸へと触れる。

 

 ——永遠なき者、汝ら竜を名乗るに能わず。

 

 例えそれが異界の竜であったとしても、古竜達の意思は揺るがない。卑小なる竜の末裔を贄とせんとその殺意を露わにする。

 

「殺されて武器になっておいて、永遠だなどと滑稽なものだ」

 

 アルコゥは古竜の傲慢を笑い飛ばすように、刀身を撫でた。

 竜を贄とするために刃にされるその所業は、皮肉にも刃に取り憑いた者の傲りを晒すにすぎない。

 果たしてどちらが贄なのか——これでは分かったものではない。

 

 一頻り武器を眺め、気付けばかなりの時間が経っていた。

 このままだといつまでも終わらない事に気付いた褪せ人が一つずつ片付けていく。

 名残惜しさを感じながら、ティニーが机の上を眺めていると、ある物を見つけてギョッと目を剥いた。

 

「ちょっ、何よそれ!?」

 

 それは彼女の勘違いでなければ指であった。指輪をした巨大な指を引きちぎり、骨をそのまま持ち手にしたもの。

 彼女の大声に、褪せ人が気付くと言葉少なに答える。

 

「指輪指、武器だ」

 

「嘘つきなさいよ!? これを武器扱いするのは鍛冶職人の一人として許さないわよ!?」

 

 吠えるティニーに、褪せ人は眉を寄せる。

 どう言われようとも、これは武器なのだ。それも優秀な方である。力任せに振るっても良いし、何よりもこれの持つ特異な戦技は他にないものである。

 

 ティニーの声か、或いは褪せ人の視線に反応してか、机の上に置かれた指輪指がびくりと痙攣する。

 

「ヒッ! 今動いたわよね!? 何なのよこれ!!」

 

 ティニーが怯えたように後ずさる。これが何なのかと聞かれれば中々困るところである。武器として有用だが、そもそもユビムシについて褪せ人の知る事は少ない。

 

 指輪指が大きく膨れ上がり、その指を動かし始める。

 流石にここまで来るとゴルドーも僅かに距離を取り、アルコゥが興味深げにそれを眺め始める。あまりに冒涜的な光景にティニーの顔色はみるみるうちに悪くなり始めた。

 褪せ人が静かに嘆息する。こんなところでサービス精神を発揮するものではない。

 

「アンタの武器は一体何なのよー!?」

 

 ティニーの悲鳴が工房にこだまする。

 結局、褪せ人へのティニーのイメージが変態から格上げる事は終ぞ無かったのであった。




かっこいい武器スゲーするはずだったんですけどね。
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