今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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お久しぶりです。
何とか深度5に上がれました。


大蛇狩り

 ——王国の練兵場。

 褪せ人は槍を構え、相手の出方を伺う。

 周囲で訓練していた兵士達が手を止め、固唾を飲んで見守る。僅かな沈黙の後、動き出したのは褪せ人の方だった。

 一足飛びに相手へ近付くと、鉄刃の槍を相手へと突き出す。鋭い突きの一撃に対して、相手は冷静にその突きを躱す。

 

「……!」

 

 隙を晒した褪せ人に対し、槍の一撃を回避した相手もまた、手に持つ槍で褪せ人へと踏み込みざまに突く。

 その槍の一撃を、褪せ人は大盾にて受け止める。

 

「……っ!」

 

 甲高い金属音と共に、相手の槍が弾かれる。刺突の一撃に対して、褪せ人の大盾はどこまでも堅牢であった。

 致命的な隙を晒した相手に、褪せ人が槍を大きく引き戻すと、渾身の一撃を相手に放った。盾で防ぎ、カウンターによる後の先を狙うのは、褪せ人の得意とするところである。

 

「クソッ!」

 

 回避は困難。相手は毒づくと手に持つ槍で褪せ人の反撃を受け止める。

 強烈な一撃に、身体は宙を浮き、吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた先で着地し、相手は体勢を整える。そして、再び顔を上げた相手の喉元には褪せ人の槍の穂先が突きつけられていた。

 

 僅かに悔しげな表情を浮かべる相手に対し、褪せ人は淡々と口を開く。

 

「続けるぞ」

 

「……ああ」

 

 互いに距離を置き槍を構え直す。

 鉄と鉄が再びぶつかり合う。激しさを増すその金属音が、練兵場に絶え間なく響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「付き合わせて悪かったな」

 

 一頻りの訓練を終え、練兵場の壁にもたれ掛かる褪せ人へと先程まで相対していた相手——王子が声を掛ける。

 

「構わん。他にやる事もない」

 

 そんな王子の言葉に、褪せ人もまた端的に返した。

 視線の先では兵士達が訓練に励んでいる。いつもよりも気合が入っているように見えるのは、王子が見ているからか。或いは先程までの鍛錬に触発されたのだろうか。

 

 褪せ人はそんな兵士達から王子の方へ視線を向け、口を開く。

 

「使えそうか」

 

「大丈夫だ。これは、皆が俺に力を貸してくれた結果だ」

 

 そう答えながら、王子は自身の握り締める槍を見つめた。

 聖槍グングニル。かつてケラウノスを滅ぼした神殺しの槍は打ち直され、新たな担い手が持つに相応しい姿へと生まれ変わっていた。

 

「——それが、新たに生まれ変わった神殺しの槍ですか」

 

「アランか」

 

 不意に投げかけられた言葉に、王子が顔を上げる。そこに居たのは、銀月の亜神。

 

「貴方達の訓練を見させて貰いました」

 

「槍はあまり握った事がなかったからな。付け焼き刃でも、無いよりはマシだ」

 

 槍の扱いを全く知らない訳ではない。かつてはミレイユに、槍の手ほどきは受けていた。しかし、あくまで彼が得意とするのは剣術であり、槍の練度は剣に比べれば些か劣る。故にこうして、グングニルの慣らしを兼ねて、褪せ人を訓練に付き合わせていた。

 

「槍の使い手なら他にも居た筈だが」

 

 褪せ人は槍こそ使えはするものの、秀でた才能を持つ訳ではない。ミレイユを始め、王国の槍使い達の方が余程扱いは上手い筈だった。

 

「勿論彼女達にも協力して貰うつもりだが、お前からはお前からで学ぶ事はあると思ってな」

 

 褪せ人の言葉に、王子が言葉を返す。槍の扱いも当然学ぶつもりだが、この男からは別のものを学び取るつもりでいた。実際、今回の訓練は王子にとって有意義なものであったのは間違いない。

 

「確かに、彼は槍の使い手としてはそこまで秀でてはいません。ともすれば、貴方とそれ程に差はないでしょう」

 

 アランが訓練を見て感じた所見を語り始める。軍神たる彼女の、褪せ人の戦い方に対する評価である。王子としても、気になるところであった。

 

「やはり、差が出たのは正確に後隙を突く力。カウンターを始め、後の先を取るのが異常なまでに卓越している」

 

 派手な祈祷、戦技に目を奪われがちであるが、アランはその戦い方にこそ強さを見出した。相手の攻撃に対する対応の速さ、それこそが彼を強者たらしめている。

 

「相手の隙に対し、正確に攻撃を加える。聞こえはいいですが、それがどれ程に難しいかは自明でしょう。何より、彼の戦い方は他の戦士達よりも考える事が多い」

 

 今回は褪せ人も王子に合わせ、槍と盾による戦いを選択したが、そこにこの男の本領はない。

 幾多の武器、祈祷を使いこなすと言えば聞こえは良いが、選択肢の広さとは、戦いにおいて必ずしも有利になるとは限らないのが戦場である。なまじやれる事が多いという事は、常に適切な選択を迫られるという事でもあるからだ。

 迷えば敗れる。それは戦場における常であった。常人ならば、その膨大な選択肢に思考は割かれ、その隙を相手に突かれてしまうだろう。

 故に剣一本、魔術一つを極めた方が強いということは往々にしてある。思考を絞り、ただ一つを貫くのもまた強さである。

 

 しかし、それでもこの男が強いのは、数多の選択肢を持ちながら、迷わず最適解を選び抜く思考が速い事にある。

 

「此方の攻めに対して有効な武器や術を正確に選ぶ観察眼の戦士……正直、戦いたくはありませんね」

 

「軍神にここまで言われるのは、ある意味で名誉な事なんじゃないか?」

 

 王子にそう言われ、しかし褪せ人は特段反応を示さなかった。他者の評価に左右される域はとうに過ぎている。所詮は我流。今更何を言われようとも己の戦い方を曲げるつもりはなかった。

 

「話したいのはそんな事ではないだろう」

 

 あまり自身の話をされたくはない。そんな意図を含めつつもアランへと視線を向ける。

 

「……これで神殺しの準備は整いました。私は姉さまを救う事が出来、貴方達は新たな神の楔を手に入れる」

 

「漸く世界樹を救う為の手筈が整うわけだ」

 

 アナベラより、世界樹の魔物化についての解決策について幾つかの方法が掲示されていた。いずれも実行に移さなければ確証の得られないものではあるが、やはり最終的に鍵を握るのは神の楔らしい。

 

「無論、それで終わりではありません。ゴルゴーンを手駒に裏で糸を引いている者がいます」

 

「……心当たりがあるんだな?」

 

「ええ、ゴルゴーンを討てばそれは明らかになるでしょう」

 

 あの傲慢な女神が心酔する存在。そんなものは一握りしか居ない。

 世界樹の魔物化、天使の軍勢。それら妨害とも試練とも受け取れる迂遠なやり方には心当たりがあった。

 

「ならば俺達が真実を引き摺り出すまでだ」

 

 王子が静かに槍を握り直す。今回の戦いで陰謀屋気取りの神を引き摺り出す。そんな決意と共に静かに顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——天界

 

 変わり果てた都を前に、トラムはただ俯き佇んでいた。

 荒れ果てた地。あちこちに破壊の跡が残るそこに立ち並ぶのは無数の石像。皆一様に恐怖と苦痛に満ちた表情を浮かべている。

 

「ごめんなさい……私が弱かったばかりに……」

 

 目の前の光景は、己の弱さが齎した結末。石に変えられ、人質として囚われた彼女が守る筈だった者達。

 今やそれは己を縛り付ける枷となり、かつての仲間に刃を向ける事になった。

 

 昔からそうだった。一人で行動して背負い込む悪癖。千年戦争の頃は、良く仲間達に説教されながら支えてもらっていた。

 それが分かっていながらこの始末である。仲間はもう、ここには居ない。

 

「でも、安心して。契約を果たし、不始末の責任は私が取る。だから——」

 

「——トラム」

 

 決意を固めるトラムの背後、光より現れたそれが影を落とす。それが何者なのかを悟り、トラムはゆっくりと振り向いた。

 

「……ゴルゴーン」

 

「フシュシュ……また愚カナ地上の人間共が天界に向かってきてイるらしイ」

 

 嘲りを隠す事なくゴルゴーンが言う。神を前にして、なす術もなく退散した王国の者達が再び天界に戻ってくる。それが意味するのは、神を殺す算段がついたからに他ならない。

 

「不甲斐ナイ貴様が奴等を取り逃がシタ事、寛大な御方は見逃したが次ハ無イ。分カッてイルナ?」

 

 僅かに怒りの混じったゴルゴーンの言葉。それだけ『あの御方』は彼女にとって敬愛すべき存在らしい。

 

「ええ、分かっているわ……次は、ない」

 

 トラムが答える。決着の時は思いの外早く来た。後は己が死ねば民達は救われる。

 自身の滑稽な幕引きに英雄王の子孫達を巻き込んでしまうのは心苦しいが、それでも彼女にはこの方法しか残されていなかった。

 

「そして喜べ、ヒュープが殺シ損ネタあの男は妾ガ相手シテおいてやる。貴様ハただ、嘗てノ仲間達と英雄王の子孫を縊り殺セバ良い」

 

「……! それは……」

 

 ゴルゴーンの言葉にトラムが僅かに焦りを覚える。ゴルゴーンを相手に戦える人間など居るはずもない。ましてや相手は不死の神。本来ならば自身を前座に、仲間達に後事を託すつもりであった。

 

「あの御方ノ言葉に逆らうノカ? ここで何体か貴様の民達ヲ砕イテも良いノだぞ?」

 

「……」

 

 不愉快だとばかりにトラムを睨みつける。敬愛する主人の意見に逆らう事が、何よりも気に入らないとばかりのその態度に、トラムは今度こそ口を噤むより他なかった。

 

「フシュシュ……分かレバ良い。妾は先に行く、間違っテモ妙な真似は考エルのではないぞ」

 

 そう言い残すと、ゴルゴーンは光の中へと消えていった。残されたトラムがゆっくりと空を見上げる。その瞳に映るのは、輝きを失った都の残骸であった。

 ここにきて、彼女は未だ迷いの中にある。

 

「私は……どうすれば……」

 

 人を愛し、守ると誓いながらこの体たらく。

 それでも彼女は己の弱さと不甲斐無さの責任を取るべく、静かに歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二度目の天界への遠征。天界の門は依然変わらなく此方を迎え入れていた。

 

「……閉じられている事も考えていたが」

 

「試すつもりでしょうか。一体、何を考えているのか」

 

 王子の言葉に、アランが不快さを露わに呟く。ゴルゴーン達を倒せる筈がないと踏んでいるのか、或いは此方を試しているのか。いずれにせよ、どこまでも此方を見下しているのが隠し切れてはいない。端的に言えば、相手は此方を舐めているのだ。

 

「姉さまのところへ行きましょう。恐らく、自身の守る都に居るはず」

 

 アランが門を潜る。同じ亜神を相手にここまで下に見られている事が気に入らないのだろう、僅かな怒気を感じさせた。

 その怒りは尤もである。しかし、それは相手にとって此方の亜神がその程度の認識でしかないという事の現れでもあった。

 

 ただの愚かな傲慢さであればそれで良い。だが——

 

「——行くぞ」

 

 王子の思考が逸れかかったところに、褪せ人が門へと歩き出す。この男には、思惑など関係ないのだろう。危ういと感じながらも、それを頼もしいと思う自分がいるのを王子は自覚した。そんな陰謀を、この男は正面から斬り捨ててきたのだろう。

 

「今更考えても仕方ない、か」

 

 王子もまた歩みを進める。もう、負けないと誓ったのだ。どのような陰謀があろうとも、退くという選択肢はありはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アランの案内のもとトラムがかつて治めていた都へと一行は向かう。

 そこに天界の住人達の姿はない。神々の争いに恐れをなして、皆閉じこもってしまっているのだ。

 

 やがて王子達の視線の先に、街が見えてくる。否、街だったものというのが正しいのだろう。まるで色を失ったかのようにその街はあらゆるものが灰色の石像と化している。建物も、街路樹も、そして遠目に見える人影でさえも。

 

 石と化した都を背に、一人の神が立っていた。剣を突き立て、ただ静かに瞳を閉じる銀腕の女神。

 

「——来たわね」

 

 トラムは待ち望んだ者達の到来に目を見開く。その瞳に宿るは覚悟と諦観。己の過ちの責任を取る覚悟と、最早なす術もない事への諦観が入り混じっているのが分かった。

 トラムが剣をゆっくりと持ち上げるのと共に、王子もまた槍を抜き放つ。

 

「——トラム、貴方を救いにきた」

 

 きっと、彼の先祖である英雄王もまた、己の醜態に対して同じように手を差し伸べるのだろう。千年経ったなお受け継がれる高潔な魂に、思わず笑みが溢れる。

 だが、そうはいかない。

 

「——いいえ、貴方は私を終わらせに来たのよ」

 

 物質界を見捨て、己の民を守る為に人々に刃を向けるような者に救われる権利などありはしない。

 救いがあるとすれば、それはきっと無能な己に死を与える事だけだ。

 

「フシュシュ……諦めの悪イ。大人シク物質界で虫ケラらしく地を這っテいれバ良いモノを」

 

 トラムの背後、光より現れたのは蛇髪の女神。どこまでも此方を見下した様子のゴルゴーンに対し、アランもまた鋭い目を向ける。

 

「虎の威を借る狐風情が、随分な口を利きますね。それ程に姉さまを顎で使えるのは嬉しいですか?」

 

「貴様……」

 

 ゴルゴーンがアランに対して怒りを露わにする。

 一触即発の気配の中、トラムはアランの姿に目を見開いた。

 

「アラン……!? どうして……!」

 

「どうもこうもありませんよ。わざわざ神の座を捨ててまで人に味方した癖に、何ですかその有様は」

 

 戸惑いを隠せないトラムに対し、アランは静かに剣を鞘から引き抜いた。

 

「——今の姉さまは見るに堪えません。助けて差し上げますので無駄な意地を張らないでください」

 

「貴方まで……」

 

 トラムの瞳が揺れる。ここにきて、自身の決意が揺らぎそうになる事ばかりである。だが、それでもとトラムはかぶりを振る。

 迷いは許されない。民を救う為に悪神となる事を誓ったのだから。

 

「愚カ! 心弱キ者を救う為にわざわざ死ににクルとは!」

 

 ゴルゴーンの声に呼応するように無数の天使達と魔物が現れる。

 

「ラミアですか……」

 

 蛇の下半身に女の上半身。毒液に濡れた剣を携えた彼女達はゴルゴーンの眷属であった。

 

「気になってたんだが……ケラウノス亡き今、何故天使達はお前達の味方をする?」

 

 天使とラミアの軍勢を前に、アトナテスが疑問を口にする。

 

「知れタこと。創造主亡キ天使達は全てあの御方のモノでアル」

 

 真なる神であるケラウノスに従っていた天使達、或いは他の亜神に従っていた天使達もまた軍勢に加わっているのが見受けられた。

 如何なる手段を用いたのかは分からないが、天使達の制御権を丸ごと手中に収めているのは明らかであった。

 

「恐レ、首を垂れよ! あの御方こソが、世界を統べるに相応シイ——」

 

「——もう、良いな」

 

 勝利を確信し、朗々と声を上げるゴルゴーンを遮るようにして声が響く。

 決して大きくないその声は、しかし瞬く間に場を塗り変えた。

 

 声の主——アルコゥが静かに前に出る。

 

「御託はもう十分だ。お前達を討ち、トラムを連れ戻す。ただそれだけの事」

 

 静かに戦意を滾らせるアルコゥに天使達が弓を構える。機械的に戦闘に入る天使達に対し、ゴルゴーンの眷属たるラミア達の表情には僅かな恐怖が浮かんでいた。

 相手が何者かは分からずとも、本能が語り掛けてくる。目の前のあれは、恐ろしいものであると。

 

「感情のない天使に比べれば利口だな。だが——」

 

 咆哮と共にアルコゥの姿が変わる。大翼を広げ、その威容を目の当たりにして漸く動き出すも、最早遅い。

 

「——竜の息吹、とくと味わえ」

 

 灼熱の火球が天使達目掛けて放たれる。その圧倒的な破壊を前に、弓を杖を振り上げるもまるで意に介さない。やがて火球が天使達を飲み込むと、特大の爆発を引き起こした。

 

「し、真ナル竜だト!? 何故そんなものがここに……!?」

 

「ハッ、運が悪かったな」

 

 狼狽えるゴルゴーン。アルコゥの介入は彼女にとって完全に予想外の展開である。

 しかしそれも無理からぬ事である。一体誰が予想出来ようか、勘違いで襲撃をかけ、その責任を取る為になし崩し的に真なる竜が仲間になるなどと。

 

「クッ、まだダ! 天使はまだまだ居ル。老いた竜と亜神ナド物量で押し潰してしマエ!!」

 

 ゴルゴーンの合図と共に天使達が舞い降りる。幸いにして、あの御方より預かっている天使達はまだ余裕がある。一度に呼べる数こそ限られているが、そこは問題にはならない。

 無尽蔵の天使と不死の神。消耗戦に持ち込んでしまえばゴルゴーンの勝ちは揺らぐことはない。

 

「……露払いは私達が務めましょう。後は貴方達に任せます」

 

 新たに現れた天使達の軍勢を前にアランと王国の戦士達が武器を構える。

 トラムとゴルゴーン。二柱の神々を相手取るのは己ではない。今この場で、新たな英雄譚の主役が誰なのかは火を見るより明らかであった。

 

 ゴルゴーンの前に、褪せ人が一歩踏み出す。

 ただそれだけ。取るに足らない人間の一挙手一投足にゴルゴーンが視線を向ける。

 

「フシュシュ……! 手間が省けたトハいえ愚かナものダ。ただの人間に妾をあてがうとは」

 

 百歩譲ってグングニルの担い手をぶつけるのなら理解出来た。だが、不死の神を前にただ一人に相手させるとは、軍神といえど見誤ったという他ない。

 

 嘲笑混じりに此方を見下すゴルゴーンに対し、褪せ人が静かに顔を上げる。

 

「……お前は、ガリウスより強いのか」

 

「何……?」

 

 その言葉に僅かな戸惑いを見せるゴルゴーンを見て、くだらない事を聞いたと褪せ人は内心で嘆息する。

 そして、徐に一本の槍を取り出した。

 

 特筆すべき点のない凡庸な武器——その槍を見て、ティニーはそう評した。

 

 大剣にして槍でもあるそれは、その見た目に違わぬ重量故に褪せ人のような膂力の持ち主が振るえば極めて強力なものだろう。

 だが、それだけだ。優秀な武器の一つではあるが、褪せ人の持つ他の特異な武器達と比べてしまえば一段劣ると、そう言わざるを得なかった。

 

 その評価は正しい。この大槍は決して弱くはないが、他に優れた武具がある以上、あえてこれを持ち出す理由は本来乏しい。

 だが、一見して特異な能力のないただの大槍をここで持ち出す筈もなかった。

 

「何……だ!?」

 

 無骨な鉄の槍。それを見た時、ゴルゴーンは言い知れぬ何かを感じた。

 それは恐怖。不死の身で、久しく忘れていたそれを本能が呼び起こしていた。

 

 褪せ人が静かに槍を構える。思えばこの武器は己と同じだ。自らの使命を果たし、役目を終え、ただ朽ちるのを待つだけの武器。

 

「……今一度、お前に使命の火を灯そう」

 

 だが、異界の地にて再び討つべき相手が現れた。不死の蛇、それと相対した事で槍は本来の役目を取り戻す。

 槍の穂先、刃の周りを螺旋の光が包み込む。生じるのは光の刃。巨大な、世界を喰らう大蛇を斬り裂く力である。

 

「あリ得……ナい! 何だそレは……知ラぬぞ!?」

 

 最早先程までの余裕など露と消える。あれが己を殺し得るものである事を魂で理解したからである。

 焦燥を露わに此方へと猛然と駆けるゴルゴーンに、褪せ人は槍を振り下ろした。

 

 ——其の名は大蛇狩り。古きは不死の大蛇を斬り裂き、世界を喰らわんとした冒涜の君主を打ち滅ぼすべく、忠義の騎士達が見出した武器である。

 

 光が迸り、空間が歪む。幾重にも折り重なった光の刃が、不死の蛇たるゴルゴーンへと突き刺さった。




アランがゲ島に出荷!
寝室は頭ゲ島に染まってましたね……いや、いつも通りかな?
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