今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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何かしっくりこなくて丸々一話書き直してたら遅くなりました。お許しを。


日常への帰還

 遠く、邪仙郷に勝利の雄叫びがこだまする。

 互いに健闘を称える者、己の武勇を誇る者、仇を討ち、ただ茫然と涙する者。その感情は様々であるが、この戦いに参加した多くの者にとって、得られた勝利は大きな意味を持っていた。

 

「……」

 

 そんな戦士達を遠く見下ろす一人の武人。彼女もまた、この戦いを聞きつけ、過保護な邪仙の反対を押し切って馳せ参じた一人。

 しかし、彼女の目に喜びはない。彼女にとっても、この勝利は軽いものではなかった。しかし純粋に喜びを示すには、彼女の中であまりに多くのものが渦巻いていた。

 

「──あの場に加わらなくて良かったのですか?」

 

「……あそこに余が加わって碌なことにならないことくらい、流石に分かっている」

 

 そうしてしばらく無言で見下ろしていると、不意に声を掛けられる。

 それが誰なのか、聞き間違えようはずはない。己の側近であり、友であり、最も愛する者の声だ。

 背後に彼女の気配を感じながら、しかし邪仙郷から目を離そうとはしない。

 

「……これから余達がやろうとしていることは、この光景をなかった事にしてしまうのだな」

 

 未だ聞こえる喜びの声。それを耳にしながら呟く。それこそが、彼女がこの光景を素直に喜べない理由の一つであった。

 計画が成されれば彼らの勇名も、喜びも、仇も、その全てが消えてなくなる。彼女達がやろうとしている事は、つまりはそういうことであった。

 

「ええ、ですが無駄にはなりません。彼らの戦いは間違いなく華の国を甦らせる礎になりますよ」

 

 そんな呟きに、背後の声が返す。全ては華の国の為。何より計画を果たす上で、この戦いは大きな一歩であった。決して無駄にはならない。

 そこに感情は無かった。全ては華の国の利益の為。彼女の父の代も、そしてさらにその前から、彼女はただそうあり続けた。

 彼女の言葉を聞き入れながら、静かに問いかける。

 

「……討ち取れた十天君は」

 

「妖天君、皇天君、そして貴方が討った狛天君……既に死んでいた尊天君で四人ですね」

 

 残すは六人。邪仙郷が押さえられた今、残された邪仙達の動きは読みづらくなる。総大将が討たれたのだ。彼らとて慎重にならざるを得ないだろう。

 通天教主という強大な力の下にまとめあげられた彼らは、総じて我が強く、その目的もバラバラである。闇雲に探してどうにかなるとは思えなかった。

 

「ええ、ですので……王都に戻る必要があります」

 

 そんな考えを読んでいたのだろう。背後の彼女はそう言葉を投げかけた。

 王都に戻る。それが意味することはただ一つ。

 そこで漸く、武人は背後の彼女へと向き直った。

 

「もう一度、余に玉座へと戻れと?」

 

「当然でしょう。貴方は依然として王であり、その玉座は未だ健在、そうでしょう? ──華王、誅子」

 

 武人──誅子に向けて女は言う。

 行方を晦ませたとはいえ、王は未だ存命。邪仙によって荒らされたとはいえ、国が滅んだわけでもない。

 

「既に根回しは終えております。華の国を復興するにあたっても、王という存在は必要ですから」

 

「たとえそれが、国の危機を前に逃げ出した愚王であっても、か……」

 

「誅子……」

 

 誅子の呟きに、痛ましいものを見るように女は見つめる。

 

「今はどうか、耐えてください。王たる貴方の道は私が整えましょう。転がる小石は私が取り除きましょう。貴方はただ、大華に咲き誇る花であれば良いのです」

 

 心底からの忠義の言葉を告げると、女は背を向ける。

 

「私は、一足先に王都へ戻ります。貴族達に、色々と説明が必要でしょうから」

 

 仙術によって女は誅子の前から姿を消す。残されたのは誅子ただ一人。背後では依然として勝利の声が響いていた。

 

「お前にとって、余はどこまでも愛でるだけの花なのだな、聞忠……」

 

 居なくなった女──聞忠の言葉を反芻しながら、誅子もまた王都へ向けて歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 褪せ人がトレントに跨り、街道を駆けていく。

 行先は王国。とんだ寄り道になってしまったが、それでも得られたものはあった。

 そんな褪せ人を追うように空を駆けるのは、霊獣を駆る太公望。

 

「本当に報酬はいらないのですか?」

 

 邪仙郷の戦いから間を置くことなく、早々に旅立った褪せ人へと太公望は問いかける。

 無理を言って頼み込んだ手前、相応の報酬は用意するつもりであった。しかし、この男が手にしたのは戦利品のみ。それも、戦いの中で壊れ、十全な力を発揮することがかなわなくなったものである。

 

「十分だ」

 

「無欲……というわけでもないのでしょうね、これは」

 

 彼の反応は実に端的なものであったが、それは不満あっての事ではないというのは窺い知れた。

 事実として、武具一本を手に入れたことで褪せ人は今回の寄り道における対価としては満足している。

 この地に来てそれなりの月日を過ごしてきたが、それでも財貨や地位というものを低く見てしまうのは、元いた世界での経験故だろう。

 

 幾度かそのような会話を繰り返しながら褪せ人達は駆けていく。何事もなければ、王国へはそう日を置かずにつくだろう。

 

「……ついてくるつもりか」

 

「はい。神仙郷の奪還が成された今、私としても良い機会ですので」

 

 褪せ人の問いに太公望が答える。

 通天教主を討った今、華の国の大きな危機は去った。これよりは急速に復興が進む事になるだろう。太公望としても、その事について気にならない訳ではない。しかしそれ以上に世界を救うべく動き、実際にそれを成し遂げている王国に以前から興味があったのだ。

 神仙郷はナタク達が居るので問題はない。となれば、元始天尊より与えられた使命を果たし、束の間の自由を得た今こそ王国に向かう良い機会であったのだ。

 

「それに……気になることがないわけではありませんから」

 

 そう言って、褪せ人から視線を外す。褪せ人と並び、空を飛ぶのは一人の邪仙。

 視線に気付いた金光聖菩が太公望へと振り向く。

 

「ふふ、何か言いたげではないか、仙人」

 

「何も言いたいことがないと思いますか? 邪仙」

 

 とぼけたように笑みを浮かべる金光聖菩を一層鋭く睨む。仙人と邪仙。二人は水と油であった。

 

「……貴方がどういう立場なのか、分かっているのでしょうね」

 

「さて、どうかな? 精々私がやったことと言えば強い武芸者をつまみ食いした程度だが」

 

「よくもぬけぬけと……!」

 

 悪びれる様子のない金光聖菩に、太公望がいきり立つ。金光聖菩、彼女の立場としてはかなり難しいものがあった。

 元十天君である彼女が華の国の侵攻に参加したのは事実。彼女自身は己の目的の為に十天君を利用し、強者との戦いに臨んでいたが故に、直接手にかけた者達の数は少ない。加えて、今回の戦いの助力と、武王からの口添えがあったことも大きい。

 しかし、だからといって彼女の行った事が帳消しになるわけではなく、唐突な心変わりの理由も分からない。

 

「理由ならば話したであろう。焦がれた男がいる。それについていくと決めた以上の理由が必要か?」

 

「貴方の悪行を鑑みればまったくもって信用できませんが……」

 

 本人に尋ねてみればこれである。太公望は胡乱な目を金光聖菩へと向けた。

 彼女は熱に浮かされたように褪せ人を見つめるも、当の褪せ人はまったく意に介していない。その態度が一層邪仙を焚きつけていることには恐らく気づいてはいないだろう。

 そんな邪仙の姿に嘘はない。しかし、もとより十天君においても特に我が強く気まぐれな彼女である。目を離すには危険過ぎた。

 

「なんとも真面目なことだ。神仙郷の仙人というのはやはり窮屈だな」

 

「いったい誰のせいだと……!」

 

 頭上で繰り広げられる仙人と邪仙の口論。或いは王国に着くまで続くのだろうか。褪せ人は兜の奥の目を僅かに細めると、静かにトレントにスピードを上げるように指示を出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒がしい帰路も数日の事。褪せ人は無事王国へと帰還した。例の如く王城へと向かえば、さして驚かれることもなく出迎えられる。

 褪せ人が王国から離れる事はいつものこと。亜神ディアスの思惑は不明だが、あの状況で褪せ人に危害を加える可能性は低く、その内戻ってくるだろうというのが王国の見解であった。実に慣れたものである。

 

 しかし、『華の国へ行って邪仙の総大将を討ち取ってきた』という何気なくぶち込まれた報告には突拍子のない褪せ人の行動に慣れた王国の面々をして驚かざるを得ないものであったが。

 

「何があったら邪仙と仙人を同時に連れて帰ることになるんだ……?」

 

「王子とは別方向に奇縁に恵まれていますね……」

 

 呆れたように向けられる王子とアンナの視線は、褪せ人としては不本意なものであった。とはいえ、今までの自身の周りを取り巻く状況がどうにも反論し辛い状況故に何も言うことはない。

 話題を変えるべく、褪せ人は王子たちへと口を開いた。

 

「……そちらの状況は」

 

「そうだな……どこから話すべきか」

 

 ディアスとの邂逅後、王子たちは王国の近郊に強制転移させられてのだという。

 褪せ人が居ないことは気がかりではあったが、すぐさま手に入れた神の楔を世界樹に使用するべく調査に取り掛かった。

 途中、世界樹に封じられていた神獣との戦いなどがあったものの、調査自体は無事に完了。結論としては、神の楔を用いて世界樹の魔物化を阻止できる可能性は極めて高いという結論が出た。

 

「ただし、世界樹を浄化する過程で大規模な戦闘になる可能性が叡智の園の賢者たちから示唆されています」

 

「今はその準備期間ということか」

 

 巨大な世界樹を変化させるほどの魔力である。浄化しようとすれば必ず大きな抵抗があることは想像に難くなかった。

 故に、王国は帝国に援軍を要請。世界樹の住人達を含めた総力戦にて世界樹の浄化作戦を成功させるべく準備を進めている最中であった。

 

「流石は魔王を討った英雄たちの王国。来て早々に、まさか世界樹を救う作戦に加われるとは」

 

「仙人と同意見なのは癪だが、そうだな。しばらくは退屈しないで済みそうだ」

 

 横で報告を聞いていた太公望、金光聖菩が口を開く。どうやら、彼女達も今回の作戦に参加するつもりらしい。

 

「非常にありがたい話なのですが……よろしいのですか?」

 

「勿論です。世界を救うたために邁進する王国の、その一助となれるのであればこの太公望の知恵を授けるのに否やはありませんとも」

 

「神々との闘争とは心が躍るではないか。王国の傘下に加わるつもりはないが、手を貸してやろう」

 

 仙人と邪仙、共に目的は違えど王国に力を貸すことに否やはない。

 王国は常に戦力は足りていないのだ。この申し出を王子達が断ることはないだろう。

 

 ある程度の話がまとまった事を悟り、褪せ人は立ち上がる。

 

「もう出ていくつもりか?」

 

「話は済んだ。もう用はないだろう」

 

 相変わらずの褪せ人の様子に王子は軽く笑みを浮かべる。

 

「どうせ今日は他に何もないだろう? 少し付き合え」

 

 外はもう日が沈みかかっていた。政務を終えるには少しばかり早いが、別に構わないだろう。アンナも小さくため息をつくだけでそれ以上何も言わない。

 

「おや、それは私達もご一緒しても?」

 

「勿論だ。ささやかだが、新たな仲間達との歓迎会といこう」

 

 太公望の問いに王子は快く頷いた。

 アンナが準備すべく執務室から外に出るのを見送り、褪せ人は小さく息をつく。

 

「……いいだろう」

 

「誘えば断らないのはお前の良いところだよ」

 

 王子の明るい声に、褪せ人は曖昧に肩をすくめる。

 依然として世界の危機が迫っているのは変わらない。それでも、未だ壊れていないこの世界では束の間の平穏というのは必要なのだろう。

 兜の奥の目を細め、褪せ人は王子の背を追うように歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王国近郊の平野。時折、王国の兵達が模擬戦に用いることのあるその場所に、褪せ人は居た。

 自身を呼び出した者の姿を認識すると、トレントから降りて歩み寄る。視線の先に居たのは、銀腕の亜神、トラム。アトナテスやソラス、アルコゥといった英傑達の姿もあった。

 

「突然呼び出してごめんなさいね」

 

 王国に戻ってきて早々に呼び出されたことは特に気にしていない。どの道しばらくは手が空いていたのだ。特に何もなければ、鍛冶屋を覗くか魔物を狩りに出かける程度でしかない。

 

「何の用だ」

 

 極めて端的な言葉に、話に聞いていた通りだとくすりと笑うと、すぐさま表情を引き締めて頭を下げる。

 

「まずは感謝を。貴方達のおかげで、私は最後に決定的な間違いを犯さずに済みました」

 

 それは、天界において亜神ゴルゴーンの手駒として人類に刃を向けたこと。その決定的な間違いを最後の最後で正してくれた事への謝意であった。

 頭を下げるトラムの姿に、褪せ人は僅かな沈黙の後、口を開く。

 

「……お前の手を取ったのは王子に他ならない。私は単に立ちふさがる敵を討っただけのこと」

 

「まぁ、その単なる敵とやらが亜神なんだがな」

 

 アトナテスが苦笑い気味に口を挟む。王子もそうだが、この男は輪をかけて自身の功績を誇らない。

 謙遜ではなく、本気でそう思っているのだから質が悪かった。戦士たるもの、討った敵の強大さは喧伝して構わないだろうに。

 いずれにせよ、褪せ人にしてみれば感謝される謂れなどないということである。仮に、王子がトラムの相手をしていなければ、彼女の目論見通りに銀腕の亜神は人類に刃を向けた悪神として討たれる結末となったであろう。

 

「それでも、感謝を告げなければ気が済まなかったの」

 

「……好きにすればいい」

 

 頑ななトラムに、褪せ人はそれ以上何も言わなかった。そして、改めてトラムへと向き直る。わざわざ感謝を告げるためだけにこんなところに呼び出したわけではあるまい。

 

「貴方の実力を知りたいの。要するに、模擬戦のお誘いね」

 

 トラムがわざわざ褪せ人を王都のはずれに呼び出した理由としてはこちらが本題であった。女神アイギスが呼び出した異界の強者。既に亜神ゴルゴーンとの戦いでその力は垣間見ているが、それでもなお底は知れていない。かつて女神とも肩を並べて戦った英傑としては、その力に興味は尽きなかった。

 

「王子がことあるごとに語るのよ、貴方の武勇伝を。戦神としては、その実力を見極める必要があるでしょう?」

 

「……とかなんとか言ってるが、要するにこいつは妬いてるんだよ。自分を差し置いて強い強いと絶賛されてるもんだからな」

 

「ちょ、ちょっとアトナテス!」

 

 アトナテスの茶々入れにトラムが慌てたように口を挟む。図星であった。自身が惚れ込んだ英雄は、何かにつけてこの男の名を挙げるのだ。仮にも戦神として崇められる彼女としては、多少思うところがあった。

 

「付き合ってあげてください。『私、戦神なんだけどな……』とかなんとかぼやいてるのを何回か見てますから」

 

「ソラスまで! ああ、これじゃ亜神としての威厳が……!」

 

「んなもんねぇよ」

 

 顔を朱に染めながら頭を抱えるトラム。以前天界で出会った時とは随分と印象が違った。どうやら、此方が元々の素であるらしい。

 

「模擬戦そのものは構わん」

 

「うぅ……ほ、本当?」

 

 褪せ人の言葉に、トラムがおずおずと問いかける。

 他にやることもない。戦神の力を見れるというのであれば、此方としても望むところであった。

 

「ありがとう……じゃあ早速始めましょう。武器は何を使っても構わないわ」

 

 そう言って、彼女は自身の右腕を掲げる。自身の代名詞でもある銀腕、それこそが彼女の武器であった。かつては剣を手に戦場を駆けたのだが、千年戦争の折に失われ手元には残されていない。

 

「癒術士も呼んでいる。遠慮せずにやり合うといい」

 

「……」

 

 アルコゥの言葉を聞きながら、褪せ人はトラムへと向き直る。武具は何を使っても構わないという。ならば、戦神から学びを得られるものが良いだろう。

 そう考えて、褪せ人もまた武器を呼び出した。否、変じさせたというのが正しいか。

 

 己の右腕に力を注ぐ。それは、正確には武具ではない。貪欲に強者を接ぎ続けた黄金の君主、その力の名残である。

 己の右腕に意思が宿る。雄々しく響く咆哮は、接がれた事への怒りか、或いは更なる接ぎ木への渇望か。

 その右腕を見て、さしものトラムも目を見開く。褪せ人の右腕に小さな竜が接がれていた。

 

「……何でも良いとは言ってましたけど」

 

「我の前でそんなものを使うとは良い度胸をしている」

 

 それを見た者の反応は様々であった。

 またぞろ妙な武器を持ち出したものだと興味を持つもの。或いはそれを武器であると言い張ることに若干引いているもの。或いは竜の尊厳を辱めるそれに僅かに不快感を示すもの。

 しかし、それら全てが褪せ人にとってはどうでもよいものである。これもまた、己が勝ち取った力の一つであるからだ。

 

「……始めよう」

 

「なるほど……私の銀腕に挑むつもりなのね」

 

 竜に変じた右腕を構えた姿に、トラムがその意図を察した。相手は、此方の土俵で勝負するつもりなのだと。

 

「良いでしょう! この銀腕にどこまで通じるのか試してみなさい!」

 

 その言葉と共にトラムと褪せ人が共に駆け出す。互いに同じ構え、右腕を引き絞り、渾身の一撃を相手に放たんとする。

 燃え盛る竜と輝く銀腕がぶつかり合う。互いの腕越しに激突の衝撃が伝わる。

 

「くっ……!」

 

「……!」

 

 そして、両者が吹き飛ばされる。

 褪せ人が着地し、顔を上げると同時に相手もまた此方を鋭く睨む。

 

 力では相手が僅かに上。だが——

 

「……!」

 

 この竜の真価は力に非ず。己の力を注ぎ、竜に束の間の生命を吹き込んでいく。そして、大地を抉りながら竜の炎を撒き散らした。

 

「はぁっ……!」

 

 降り注ぐ炎を前にして、トラムが選んだのは前進。目の前に落ちる竜炎を銀腕で弾きながら、ただ褪せ人へと駆けていく。

 再びぶつかり合う両者。力で勝るトラムを褪せ人が受け流し、間隙に反撃を狙っていく。

 

「はは、見てるだけのつもりだったが……!」

 

 互いに譲らぬ攻防に、見守っていたアトナテスが斧槍を握り締める。こうも滾る戦いを見せられては、血が騒ぐというもの。その隣のアルコゥもまた同様に、斧を手に今にも飛び出さんとする勢いであった。

 

「もう辛抱ならん、我は混ざるぞ」

 

「あっ、ずりぃ!」

 

「はぁ……こうなっちゃうんですねぇ」

 

 飛び出していった二人を背にソラスが嘆息する。これも王国の性か、模擬戦を前にこの二人が我慢出来るはずもなかった。

 世界樹の決戦を前にして、気付けば平原はいつもの王国らしい喧騒に包まれていた。

 

 




12周年もいっぱい割りましょうね王子……。
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