今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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世界樹奪還作戦

 ──世界樹

 

 古くより物質界に聳え立つそれは、かつては天界と物質界を繋げる架け橋を担っていた。

 やがてケラウノスによって天界の門が閉ざされ、その役目を終えた後も、世界樹は物質界に生ける者達に寄り添い、世界を見守り続けていた。

 そんな世界樹は、今や物質界の滅びの種をその身に宿し、ただ静かに胎動している。

 

「——諦めよ、人類。滅びの種は既に成った。もはやその実りは避けられぬ」

 

 オリュンポス最上層、世界樹を見下ろしディアスは呟く。

 視線の先の世界樹は今も変わらず美しい姿を保ったままである。しかし、神の楔を打ち込んだ今、その内では魔力が渦巻き、世界樹の身体を書き換えていた。その進行は遅い。世界樹の精霊が必死に遅らせているからである。しかし、それも最早限界に近い。彼女が取り込まれれば、堰き止めていた魔力は急速に世界樹へと広がっていくだろう。

 物質界の人類が対抗策を探しているが、それもディアスからしてみれば無駄な足掻きでしかない。

 

「──さて、それはどうでしょう。彼らはまだ諦めてはいないようです」

 

 滅びは必定である。そう確信するディアスに、真っ向から異を唱える男がいた。天空の亜神、あらゆる者を塵芥と断ずる彼に対してそのような物言いを出来る者は限られる。

 ディアスはゆっくりと世界樹から視線を外し、男へと振り返る。

 

「お前もいい加減、諦めたらどうだ。亜神トラムが、亜神クラールフが人類に手を貸そうとも滅びの運命は変わらない」

 

 世界樹が魔物として目覚めれば瞬く間に地上を蹂躙するだろう。無論、仮にそうなっても亜神達が結託すれば魔物化した世界樹を打ち倒す事は出来るかも知れない。そうして苦難を乗り越えた先に人類の生きられる場所など残されてはいないだろうが。

 

「諦めよ、人類。人に唯一許された感情とは諦めなのだから」

 

 争い、憎みあい、大地を汚す愚かな被造物。しかし、そんな塵芥とて創造神の愛した者達である。

 故に、作り直す。蒼空に相応しい調和の世界に、人は諦観と安寧を享受する。それこそが、創造神を継ぎし者の使命である。そうディアスは信じて疑わない。

 

「さて——イルドナよ、余はお前を気に入っている。物質界に別れを告げ、そのまま我が配下に加わるが良い」

 

 男——イルドナに対してディアスは告げる。千年戦争において、神の座を捨てて天界に降り立ち人類の為に戦った男。亜神ディアスが唯一友と認める、『暁光を導く者』。それこそが彼であった。

 

「いいえ、まだその時ではありません。世界も、人も、諦めてはいない。ならば私も、世界の味方として諦めるわけにはいかないでしょう」

 

 イルドナはそうディアスに返す。今こうしてディアスと会話しながらも、彼は密かに準備を進めていた。

 今の人類に足りないのは戦力である。共に戦況を打破する刃。イルドナは密かに、己の娘達を地上へと送り出した。

 

「くく、無駄なことをする」

 

 ディアスはそれを知った上でイルドナを止めることはない。目の前の男は世界の味方であり、己の敵である。あくまで足掻くというのであれば、その希望を打ち砕くのも一興であった。そうして諦めたのであれば、最後の機会をくれてやれば良い。

 敵であり、友である。天上に座すディアスにとって、イルドナは特別であった。

 

「——一つ、お聞きしても良いですか?」

 

「構わん。言ってみよ」

 

 ふと、己の役目を果たしたイルドナは以前からの疑問をぶつけることにした。ディアスもまた、鷹揚に構える。

 

「異界の英雄。貴方は何故、彼を配下に加えようと? 彼は貴方が嫌う強き意思を持つ人類に他ならないと思いますが」

 

 イルドナがディアスに対して疑問を投げかける。それはかつての天界での出来事。人類に対して複雑な感情を持つこの亜神が、何故異界とはいえ人類の戦士を手元に置こうとしたのか。ただの気まぐれか、或いは別の何かか。

 そんなイルドナの疑問に、ディアスは口角を吊り上げる。

 

「くく、お前にはあれが人に見えたか」

 

「……違うと言うのですか?」

 

 確かに、あの男は厳密に言えばこの世界における人類の定義からは外れているのだろう。だが、目の前の亜神が言いたいのは、そういうことではない気がした。

 

「さて、な。いずれにせよ、余はあれを手元に置く事に価値を感じたのだ」

 

「……そうですか」

 

 まともに答えるつもりがないことを察したイルドナは、それ以上何も言わずに身を翻した。去り行くイルドナから視線を外し、ディアスは再び世界樹へと目を向ける。

 異界の英雄。苦難の果てに男が目指したものは、己の願いに近しいものであった。故に、手元に置こうと思った理由を言葉に表すのであれば、『共感』が正しいのだろう。

 

「今ではなく、未来を選んだ。ならば、あれは余の同志足り得る」

 

 神が神であることを放棄し、緩やかに壊れ行く世界。あの男はそんな世界を生き永らえさせるべく、その全てを破壊してみせたのだ。それは、仔細は違えど己の成そうとしていることと大差ない。

 ディアスはかの世界についてその全てを知るわけではない。だが、真に神に呼ばれるべきは永遠の女王ではなく──。

 

「見せてみよ。お前は人か、それとも──」

 

 世界樹の幹が脈動する。滅びへの幕が静かに、しかし確かに上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──世界樹にて異常発生。至急援軍を求む。

 

 突然齎された世界樹の集落からの要請に、王国の動きは速かった。すぐさま精鋭部隊を編成すると、世界樹へ向けて進軍を開始する。

 駆け付けた王国が目にしたのは、禍々しいまでの魔力に満ちた世界樹の姿であった。

 

「何ですか……これは……」

 

 ソラスが絶句する。世界樹そのものの見た目に変化はない。だが、歪んだ魔力と、それに呼応して発生した大量の魔物が、世界樹のただならぬ状況を物語っていた。

 

「……計算よりも魔物化の進行が早い。何故だ……」

 

 アナベラの顔に焦燥が浮かぶ。

 彼女の計算では世界樹の魔物化の進行にはまだ猶予が残されていたはずだった。しかし、今の世界樹にはそれが感じられない。

 

「──王子! 来てくれたのだな!」

 

「その声、マリレーヌか!」

 

 世界樹の急激な変容に戸惑う王国軍のもとに、ウッドエルフの魔剣士であるマリレーヌが駆けつけてくる。先程まで魔物と戦っていたのだろう。美しい金髪は魔物の血に汚れ、彼女自身も傷ついている。疲弊した顔に、僅かな安堵が浮かんでいるようであった。

 彼女は世界樹の精霊であるラタトスクに仕える騎士のはず。しかし、彼女の近くに守るべき主君の姿はない。

 嫌な予感を感じながらも、王子はマリレーヌへと問いを投げる。

 

「ラタトスクはどうしたんだ?」

 

「……世界樹に、取り込まれてしまった。集落の者をかき集め、何とか救出を試みたのだが……すまない」

 

 王子の問いに、マリレーヌが悔しげに唸る。

 世界樹の精霊たるラタトスクが暴走する世界樹に取り込まれた事こそがこの急速な魔物化の原因であった。

 発生した魔物は多く。ウッドエルフの精鋭を率いてもなお取り込まれたラタトスクへと辿り着くことすらままならなかったのだ。

 

「主君を守れず何が騎士か……! すまない、どうか手を貸してほしい……!」

 

「顔を上げてくれマリレーヌ。俺達はその為に来たのだからな」

 

 己の不甲斐なさに顔を歪め、それでも考え得る最善の手段を取ったマリレーヌにそう言うと、王子はアナベラへと視線を向ける。

 意図を察したアナベラが今回の作戦について説明を始める。

 

「予定より早まったがやることは変わらない。世界樹の魔物化を阻止するための手順は二つ。核に打ち込まれた神の楔の破壊と、世界樹の全身に広まった魔物化の浄化だ」

 

 その為に神の楔が二つ必要であった。既に打ち込まれた神の楔を同じく神の楔で破壊する。そして、残る一つを再び世界樹へと打ち込み魔物化の影響を上書きする。

 それが、叡智の園の賢者による世界樹浄化のプランであった。

 

「恐らく、ラタトスク様が取り込まれたのも世界樹の核だろう。彼女を救出後、神の楔二つを直接打ち込む。問題は……」

 

 アナベラが世界樹へと目を向ける。そこには遠目から見ても無数の魔物たちが蠢いていた。

 世界樹の魔力によってその姿を歪められ、変異したマイコニドやボムプラント。或いは凶暴性を高められ、暴走するグリフォンやボア。それらが世界樹の上で、暴れている。恐らく、明確な目的はないのだろう。ただひたすらに、目につくものに攻撃を仕掛け、或いは共食いを始めるそれは、常の平和な世界樹を知る者達からすれば目をそむけたくなる光景だった。

 

「白の帝国、北の大国からの援軍は今しばらく時間がかかります。恐らく、世界樹の目覚めまでに間に合わないかと」

 

「……進軍ルートを分けよう。比較的魔物達との遭遇が少ない空と、世界樹を登る地上部隊の二つだ」

 

 援軍は間に合わない。王子が下した決断は、王国軍を二つに分けることであった。

 世界樹の奪還は急務。故に空を飛べる者達を中心に組んだ航空部隊を編成し、世界樹の核に向けて先行。地上部隊は魔物の数を減らしながら、ウッドエルフや獣人達の救援、合流しつつ登っていくこととなる。

 

 その作戦に異論を挟む者は居なかった。全員が覚悟を決めたことを確認すると、王子はその装いを変える。

 それは世界樹に封じられた神獣ガルダの羽をあしらった、王子の新たな力であった。嵐を纏うそのローブは身に纏う者に風の護りを授け、空を駆けることを可能とする。

 ゆっくりと地上から離れていく王子が褪せ人へと視線を向ける。

 

「俺は先行して航空部隊を指揮する。地上への道のりは頼んだぞ」

 

「……いいだろう」

 

 王子の言葉に、褪せ人が頷く。ペガサスライダーを筆頭に、王国の航空部隊が世界樹へと駆けていくのを見ながら、褪せ人達も世界樹のふもとへと急ぐのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 先行するマリレーヌを追いながら、褪せ人達が世界樹を登っていく。

 巨大な樹木の上、散発的に襲い掛かってくる魔物を退けていく。

 

「……!」

 

 手足の生えたキノコのような魔物、マイコニドを特大剣で斬り伏せる。

 炎を象った波打つ刀身がマイコニドの胴を両断すると、斬り口から炎が噴き出て炎上。そのまま力なく世界樹から落ちていった。

 

 世界樹での戦いを想定し、あらかじめ炎の祈祷を施したこの特大剣は、想定通りの効果を魔物達に齎していた。

 

 次々と現れるマイコニド達を斬り伏せていく。放出する毒の胞子が褪せ人達を蝕んでいくが、イリス達の癒しの奇跡によって癒されていく。

 

 再び上を目指し、登っていく中で徐に褪せ人が口を開いた。

 

「……カゴメ」

 

「はい! なんですか!?」

 

「アスバールとアブグルント達はどうした」

 

 王国からの緊急招集。それに応じた者達の中に魔界出身の者達がいない。

 アスバールはまだ理解できる。だが、王国預かりとなっているエスネアやハルモニアの姿もないとなれば、疑問を持つのも当然であった。

 

「褪せ人と入れ違いで魔界に向かったみたいです。何か魔界で動きがあったとか!」

 

「そうか」

 

 上位デーモン達と魔界総帥がこのタイミングで帰還しなければならない事態。その詳細は分からないが、決して穏やかなものではないだろう。

 

「アスバールは奪還作戦前に貴方に余計な心配をかけさせたくないと、そう言っていました」

 

「……」

 

 へリューズが魔界に帰る直前にそう言っていたことを伝える。

 あれもまた魔界をまとめあげた亜神である。並大抵の脅威であれば、問題なく対処できる。世界樹の奪還が差し迫った今、彼女なりの褪せ人への気遣いだったのだろう。

 

 褪せ人が火の騎士の大剣を背負うと再び駆け出す。

 

「……少し、急ぐ理由が出来た」

 

「ふふ、そうですね」

 

「休んでる暇なんてないですからね! 頑張りますよ!」

 

 褪せ人の言葉に微笑みを浮かべるへリューズ。

 世界樹の奪還はあくまで通過点に過ぎない。未だ終わらぬ戦いに、足を止めている暇などありはしなかった。

 

 

 

 

 

 世界樹を登り続けることしばらく。

 恐らくは中腹は過ぎただろうか。途中、襲われていた兎耳の一族と蜘蛛の魔物と合流し、一行は未だ収まらぬ魔物の増殖に辟易としながらも前へと進む。

 

「もう少しだ! ラタトスクが取り込まれた核はこの先に──」

 

 目的地がすぐ近くまで迫っていることを叫ぶマリレーヌ。しかし、その道を阻むようにして無数の茨が壁のように立ちはだかった。

 

「……ッ!? これは一体……!」

 

「くふふ、くふ……ここから先は通さないわ」

 

 一行の前に現れたのは、女の上半身と、無数の茨が絡み合った下半身を持つ魔物。

 どこか、アルラウネと呼ばれる魔物達に酷似しているが、その身に纏う魔力は比べ物にならない。

 

「茨の女王……!」

 

「くふ……くふふ……世界樹の再誕は近い……魔力が溢れる……抑えられない……!」

 

 険しい表情のマリレーヌに対し、しかし茨の女王は恍惚とした笑みで、うわごとのようにつぶやくばかり。

 抑えられぬとばかりに身をくねらせると、世界樹の幹を突き破るようにして新たな茨が生えてくる。そうして現れたのは、またしても茨の女王。

 

「くそ……!」

 

「くふ……世界樹の再誕に抗おうなどと哀れな……せめて、肥料として我が身の内で飼ってやろうぞ」

 

 茨の女王。世界樹の魔物化に際して、新たに誕生した魔物である。それらは世界樹の一部であり、顕在化した意思でもある。

 進行した魔物化の影響だろう。一体でも脅威なそれが、世界樹の魔力によって数を増やしていた。

 

「この茨……あくまで倒さなければ先へと進ませてはくれないみたいですね」

 

「時間がないというのに……!」

 

 主君のもとまで目前に迫っているという事実が、マリレーヌを歯噛みさせる。褪せ人が静かに火の騎士の大剣を引き抜いた。

 

「焦るな」

 

「……っ! すまない、少し気が逸っていた」

 

 褪せ人の言葉少なな叱咤にマリレーヌが気を取り直す。倒さなければ前へ進めないというのであれば、打ち倒すまで。マリレーヌもまた、剣を引き抜いた。

 

「くふ……無駄な足掻きを……まぁ良い。お前達には新たな世界樹の養分となる栄誉を与えようぞ……!」

 

 茨の女王達がその茨を広げていく。

 褪せ人がその内の一体に駆け寄ろうとして──それに気づいた。

 

「どうした、褪せ人殿──いや、あれは何だ?」

 

 突如足を止めた褪せ人を訝し気に見つめるマリレーヌが、その視線の先を追って気づいた。上空から何かが凄まじい勢いで落ちてくる。それが真っすぐに此方に向かっていることに気づいた。

 

「くふふ……どうしたというのだ……? 今さら恐れをなしたとでも──」

 

 上空から空気を裂いて落ちてくる鉄塊が、茨の女王の内一体を粉砕した。轟音と共に世界樹の幹に突き刺さり、世界樹を大きく揺らす。当然、直撃した茨の女王など見る影もない。

 

「な、なんだ……!? 一体何が……!」

 

 さしもの茨の女王達も動揺を隠せない。敵の不意打ちか、或いは新たな邪魔者か。誰一人として状況がつかめないままに、その落下地点を見つめる。

 

 それはまるで鉄の棺であった。人一人分の大きさのそれが世界樹に突き刺さっている。

 茨の女王も、そしてマリレーヌたちも、誰一人として状況がつかめていなかった。

 

「棺桶……? 一体何故……」

 

 マリレーヌの戸惑いは尤もであった。空から鉄の棺桶が降ってくるなどと、そんなことを想定出来る者など居はしない。

 

「誰かが乗ってきたのだろう」

 

「褪せ人殿、今は冗談を言っている場合では──」

 

 淡々と訳の分からないことを言い始めた褪せ人に、周囲が呆れを滲ませる中、鉄の棺が音を立てて開きだした。

 蒸気を噴出しながら、重厚な扉が開かれる。

 

「人間……?」

 

 その中に居たのは、黒髪の少女であった。白いドレスを身に纏い、黒く、無機質な剣を携えた少女。

 茨の女王も、王国軍も動けない。敵なのか、味方なのか、それすらも不明瞭な中、少女がゆっくりと目を開く。

 

「……ラーワル、おねえさま?」

 

 未だ夢心地のように呟かれたその名は、この場に居た誰にも理解できなかった。

 数秒ほど焦点の合わない視線を彷徨わせ、やがて少女は無機質で凛々しい表情を浮かべる。そして、褪せ人の方へとその宝石のように赤い瞳を向けた。

 

「貴方が……『褪せ人』、ですね?」

 

「……」

 

 まさか己の名が出てくると思わなかった褪せ人は僅かに面を食らうも、静かに頷いた。

 その様子にほっとしたようにその目尻を下げ、少女はゆっくりと褪せ人の方へと歩き出した。

 

「お父様より、貴方の力になるよう仰せつかっております。これよりは貴方の剣、貴方の盾としてこの身をどうかお使いください」

 

 真っ直ぐにその瞳を向けたままそう告げる少女。褪せ人は少女を見つめ返す。

 

「傀儡か」

 

「傀儡……? はい、私はオートマタ。お父様より『いつかの日』の為に造られた決戦兵器です」

 

 少女は、人ならざる者であった。関節には人形のような機構が見受けられる。限りなく人を模した、人ならざる者。ある意味で、馴染みがあった。

 

「味方……ということで良いのでしょうか……?」

 

 未だ状況を飲み込めないへリューズが戸惑い混じりにそう褪せ人へと尋ねる。

 残念ながら、褪せ人も状況は飲み込めてはいない。彼女の言う『お父様』など知らないし、突然降って湧いた彼女を信頼する理由などありはしない。

 だが──

 

「──名は」

 

「アルタ、と申します」

 

 少女が己の名を告げる。いつかの日。誰に求められるわけでもなく、ただ『世界を守る』という漠然とした目的で造られた人形。

 

「……良いだろう。ついてこい」

 

 褪せ人が火の騎士の大剣を引き抜く。兵器だというのであれば、その価値は戦場で示してみせろ。言外にそう告げて、未だ混乱する茨の女王達へと駆け出して行く。

 

「はい、よろしくお願いします、マスター」

 

「……マスターはやめろ」

 

 どうにも、自分を上に見る呼び名には慣れない。王子ならば、素直に受け入れるのだろうが。

 ほんの僅かに肩が落ちた褪せ人の後ろ姿を、アルタは不思議そうに見つめるのであった。




ラーワルは次回で。
人形だし褪せ人と絡ませるか!くらいの安易なノリでアルタを優先しました。
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