今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

116 / 138
2週間程大空洞で迷子になってました。


世界樹の核へ

 褪せ人が火の騎士の大剣を構え、茨の女王へと駆け出していく。

 

「何かと思えば……ただ有象無象が増えただけ……まとめて枯らしてくれようぞ!」

 

 突然の乱入からの混乱から立ち直り、茨の女王達は王国軍を迎え撃つ。

 

「くふふ……!」

 

 茨の女王が自身を支える根を蠢かせ、体を揺らす。世界樹に張った根が幹の中を伝い、褪せ人へと向けて飛び出していく。

 

「……!」

 

 槍の如き鋭さのそれを、褪せ人は前へ向かってローリングすることで回避。そこで終わらず再び体を揺らし始めた茨の女王へ向けて、祈祷を放つ。

 放つは蛇の炎。のたうつひも状のそれが褪せ人の手から浮かび上がると、茨の女王へと飛来する。

 茨の女王が放たれた炎を避けるべく動くも、まるで意思を持つかのような炎は逃げる女王へ追い縋る。世界樹に根を張る女王は、その身体故に逃げ切ることは困難であった。火蛇が茨の女王へと着弾する。

 

「キャアアアアアア!!」

 

 炎上する身体に悶える茨の女王。やはり、見た目通りに炎が弱点らしい。牽制目的の火蛇ですら効果覿面であった。

 攻撃の手が止まった茨の女王へと褪せ人は肉薄すると、その身を屈める。十分に力の溜まった両足をばねに一足飛びに踏み込むと、炎を纏った大剣を茨の女王へと突き入れた。

 

「アアアアア!!」

 

 放たれた突きは一切の抵抗なく茨の女王を刺し貫く。灼熱の刃が、今度は身の内から茨の女王を焼き焦がす。

『火の串刺し』、それはかつて聖戦にその身命を賭した火の騎士の戦技である。

 

「おあぁ……あァ……!」

 

 立て続けに放たれた炎の一撃は、間違いなく茨の女王を燃やし尽くした。最早虫の息の女王だが、この戦技はここで終わらない。

 褪せ人は剣を持たぬ左手に再び炎を握りしめる。そして、大剣を引き抜くと同時に至近距離から燃え盛る炎を放った。

 

「ああ……あぁぁ……」

 

 串刺しにされ、さらに追撃の炎を浴びせられた茨の女王はそれ以上声を上げることなく力尽きる。黒く焼け焦げた屍を一瞥して、直ぐに褪せ人は興味を失くしたように視線を外すと、次の相手を求めてその顔を上げる。

 

「無駄な足搔きを……!」

 

 仲間がやられた事に苛立ち、茨の女王達が褪せ人を睨みつけると、茨の鞭を振るう。四方から横薙ぎに放たれたそれを、褪せ人が無感動に眺める。

 

「マス……褪せ人をやらせはしません」

 

 女王達の振るう茨の鞭は、しかし褪せ人へと叩きつけられるより先に、アルタの振るう黒い銃剣に斬り払われた。

 唖然とする女王達に、アルタは赤い瞳を静かに向ける。

 

「植物型の魔物と推定……データベース照合」

 

 アルタは茨の女王達を見据え、自身の内部にあるデータベースと照合する。

 旧き文明より継承された技術と、彼女の生みの親である亜神より授けられた知識が目前の魔物を殲滅する為に必要な武装を選択させる。

 

そうして虚空より取り出したのは、彼女の身の丈程の大砲。かつてはグレネードランチャーと呼ばれた兵器であった。

 

「プログラム『滅獣のアスィバル』を起動します』

 

 まるで重さを感じさせない動きで砲を構えると、その引き金を引く。

 轟音と共に放たれる榴弾。華奢な身体はその反動を真正面から受けて揺らぐことはない。目標へ向けて放物線を描くそれが、茨の女王へと炸裂した。光と炎が、世界樹の上空を赤く照らす。

 

「ガアアアアアア!」

 

 全身を激しく燃え上がらせて悶える茨の女王。放たれたのは単なる砲弾ではない。内部に込められた魔力が炸裂するとともに炎上。茨の女王へまとわりつくようにして包み込む。焼夷弾、それがアルタの選択した兵器の正体であった。

 

「良い火力だ」

 

「ありがとうございます」

 

 褪せ人は目の前で炎上する茨の女王を見て、素直に賞賛の言葉を贈る。

 彼女の持つ武器は、この世界の技術水準を大きく外れている。当然、狭間の地など比べるべくもない。

 威力だけならば、大壺を使えば迫ることも可能だろう。しかし、人の膂力に依存する以上、飛距離はどうしても限界がある上に連射も効かない。バリスタも同様だ。アルタの用いた兵器は、褪せ人からすれば非常に魅力的な武器であった。

 無言で武器を眺める褪せ人に、アルタが不思議そうに首を傾げる。

 

「どうかされましたか?」

 

「気にするな」

 

 まさか欲しいなどとは口が裂けても言えない。褪せ人は少なくとも生きている味方から武具を奪う程に無法者のつもりはないからだ。アルタに短く返すと、褪せ人は別の茨の女王へと駆け出していく。

 炎の大剣と砲撃は、着実に茨の女王の数を減らしていく。

 

「私達も続くぞ! ラタトスク様は目前だ!」

 

 圧倒的な火力を以て茨の女王を駆逐していく褪せ人達にマリレーヌ達も続く。

 茨の女王が殲滅されるまでに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 茨の女王を下し、褪せ人達は世界樹の核へと急ぐ。

 道中、先行した王子達によるものと思われる魔物達の死体を越えていく。どうやら、既に彼らは到着しているらしい。

 

「あそこだ!」

 

 マリレーヌが指し示したのは世界樹に大きく空いたうろ。元々はラタトスクが世界樹の核と共に隠れ潜む為の場所である。そこに殺到する夥しい魔物の遺骸が、王子達がその中へ向かった事を物語る。

 

「くっ……!」

 

 居ても立っても居られないと先んじて走り出したマリレーヌを追って褪せ人達達もうろの中へと入る。

 

「ラタトスク様! ご無事ですか!?」

 

 うろの中でマリレーヌ達が見たのは、助け出され、横たえられたラタトスクと世界樹の核と相対する王子達の姿であった。

 

「ラタトスク様!」

 

「マリ、レーヌか……? 安心せい、少し疲れただけじゃ。それよりも……ユグドラシルを……」

 

 心配そうに駆け寄るマリレーヌに対し、ラタトスクが世界樹の核を指し示す。

 うろの中心、絡み付く根の中で妖しく脈動する光が見える。

 

「酷い魔力の歪みです……一刻も早く取り除かなければ」

 

 険しい顔を浮かべるヘリューズ。門外漢の褪せ人には理解出来ないが、状態は良くないらしい。

 王子が隣で真剣に核を観察するアナベラへと口を開いた。

 

「アナベラ、どうだ?」

 

「……うん、計算が正しければまだ間に合う。早速準備に取り掛かろう」

 

 王子の問いにアナベラが頷く。現状ならば、まだ取り返しがつく。

 そんなアナベラの言葉に頷くと、王子が懐から光り輝く欠片を二つ取り出す。そして、そのうちの一つをラタトスクへとそっと手渡した。

 二人が神の楔を手に取ったのを見て、アナベラが口を開く。

 

「手順を確認しよう。王子は世界樹を侵す神の楔の破壊を、ラタトスク様は世界樹の再生をそれぞれ願い、同時に神の楔を打ち込む。ただそれだけだ」

 

「ああ」

 

「う、うむ……」

 

 王子とラタトスクがそれぞれ核の前へと並ぶと、静かに神の楔へと願いを込める。神の楔の光が強まったのを見て王子とラタトスクがアナベラへと視線を送る。

 

「よし、タイミングを合わせるぞ。3……2……1……今だ!」

 

「……っ!」

 

 アナベラの合図とともに王子とラタトスクが同時に神の楔を世界樹の核へと押し当てる。

 一方は破壊を、一方は再生を願って打ち込まれたそれは、核を伝って世界樹を駆け巡る。そして、世界樹の奥深くに打ち込まれた神の楔、それを破壊した。

 

「……!」

 

「うわっ!」

 

 うろの中を強烈な光が照らす。やがて、視界を埋め尽くす光が収まると、その場にいた全員が周囲を見渡した。

 

「どうだ……?」

 

「……うまくいったようじゃ」

 

 王子の言葉に、ラタトスクは世界樹の核を指さす。先ほどまで禍々しく脈動していた世界樹の核から光が消えていた。その身の内に集まっていた魔力も感じられない。

 ほっと誰かが息を吐くのを聞きながら、ラタトスクが再び口を開く。

 

「世界樹の魔物化は止まった。じきに、世界樹の再生も始まるじゃろう……じゃが──」

 

 彼女の言葉を聞き終えるより先に、世界樹全体が軋みを上げ、揺れ始めた。徐々に激しさを増すそれは、まるで世界樹そのものが悲鳴を上げているかのようであった。

 戸惑う面々を前に、アナベラが真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 

「ここからだ。世界樹を侵す神の楔を砕き、その歪みを弾き出した。後はその歪みを正すのみ」

 

「つまり……ここからが頑張りどころということですか!?」

 

「まぁ……そういうことかな」

 

「やったぁ! 聞きましたね褪せ人っ!」

 

「……」

 

 アナベラは突然騒ぎ出した妖怪を無視して世界樹の核を睨む。

 ここから先は完全に未知の領域であった。それも当然だ。世界樹の膨大な魔力を費やして生じた歪みを取り除いたのだ。行き場を失くしたそれがどのような結果を齎すかなど、叡智の園の賢者でも予想の立てようがない。

 

「……来ます」

 

 へリューズの言葉に、褪せ人が静かに武器を引き抜く。魔力を感じ取る事は出来ずとも、膨れ上がる異様な威圧感が場を満たす。

 そして、世界樹の核の上に立つようにしてそれは現れた。

 

「アレが……『歪み』か」

 

 枝を織り合わせて形作った異様な人型。頭部にあたる部分には不気味な仮面のようなものがあてがわれている。

 その姿を見て、ラタトスクが目を見開いた。

 

「あれは……ユグドラシルの化身じゃ!」

 

 ラタトスクが叫ぶ。あれこそが世界樹ユグドラシルの化身。世界樹の精そのものと言える存在であった。ラタトスクが焦りの籠った声を張り上げる。

 

「いかん! この魔力量ならばじきに成体に変化するぞ!」

 

 今はまだ幼体、人間と然程変わらない程度の大きさのそれからは何の脅威も感じない。しかし、その内に渦巻く魔力は尋常なそれではなかった。ひとたび成体になれば、その被害は尋常なものではない。

 

「……」

 

 ユグドラシルは王国の面々の見向きもせず、世界樹の外へと顔を向ける。

 

「外に出る気だ……! ここで仕留めないと大変な事になる!」

 

 アナベラの言葉に、その場に居た全員が誰ともなくユグドラシルへ向けて攻撃を開始した。

 

「シィッ!」

 

 王子が両手に持った曲刀を振り下ろし、風の刃を放つ。神獣ガルダの加護を受けたその刃がユグドラシルを斬り裂くも、意に介した様子はない。

 

「はぁ……!」

 

 ヘリューズの放つ魔法がユグドラシルを覆う。亜神の膨大な魔力を出し惜しむ事なく放たれたそれがユグドラシルを燃やし尽くす。

 だが、火に焼かれたユグドラシルはその表面を再び枝で覆い隠し、すぐさま再生を始める。

 

「……!」

 

 褪せ人もまた、戦技を放った。火の騎士の大剣を構え、ユグドラシル目掛けて突き入れる。刀身を纏う炎が先端から槍となり、ユグドラシルを穿つ。

 

「まだじゃ! ありったけの攻撃を叩き込め!!」

 

 矢が、魔法が、或いは斬撃がユグドラシルへと殺到する。文字通りの総攻撃。轟音が鳴り響き、土煙が舞い上がる。

 

「やったか……!」

 

 土煙が晴れ、世界樹の一部が削り取られたそこにユグドラシルの姿はない。

 

「消し飛んだのか……?」

 

「違う……! これは——」

 

 アナベラが何事かを言う前に、世界樹全体が大きく揺れる。先程の揺れの比ではない。まるで物質界が悲鳴を上げているかのようであった。

 立つのが精一杯と言った状況の中、うろの中に慌てふためいた声が響き渡る。

 

「た、大変です! 王子殿下! 外に巨大な何かが……!」

 

 未だ揺れる世界樹を警戒する王子達に、グリフォンに跨ったクゥイルが叫ぶ。

 その声に弾かれたように外に出て、一行は絶句した。

 

「何だ……これは……」

 

 王子達が見たのは巨大な魔物の姿であった。まるで木そのものが意思を持ち、竜の姿を成した怪物。それが世界樹と相対するようにして屹立する。

 驚くべきはその巨体だろう。世界樹とまるで変わらない大きさのそれは、これまでの神獣や魔神などとは一線を画す。その巨体が動くだけで、周辺地域に多大な被害を及ぼす事は想像に難くなかった。

 

「ユグドラシルの成体じゃ……間に合わなかった。まさか人には討ち倒す事が出来ないとでも言うのか……?」

 

 あれ程の攻撃を加えてなお、逃がしてしまった。立ちはだかるはおよそ人が太刀打ち出来るとは思えない巨大な魔物と化した世界樹の精。

 

「無理だ……あんなもの一体どうすれば……」

 

 アナベラが思わず膝を突く。あまりにもスケールが違い過ぎる。その大きさも、放たれる魔力の量も尋常ではなかった。賢者として、なまじその戦力差を理解出来るだけに彼女の絶望は計り知れない。

 

「済まない……まさかユグドラシルの成体がこれ程のものになるなんて……もっと早くに予想出来ていれば——」

 

 告解を続けるアナベラ。その表情は悔しげで、絶望の色は濃い。だが、そんな彼女を気にした様子もなく褪せ人は前に出た。

 ただ存在するだけで圧を放ち続けるユグドラシルを見据えながら、褪せ人が口を開く。

 

「アレが元凶で良いのだな」

 

「ああ、だけどもうどうしようも……」

 

 褪せ人はアナベラの続ける言葉を聞き流しながら目前の相手を見上げる。これ程巨大な相手は褪せ人をして初めてであった。焼炉のゴーレムや古竜などまるで比較にならない。手持ちの武器では質量がまるで足りないのだ。

 だが、それは褪せ人が諦める理由にはならない。

 

「本気か……? 本気であの魔物に立ち向かうつもりなのか!?」

 

「そうだ」

 

 有効な手立ては思い付かないが、最悪足元に火を放ってみようか。魔物ではないが、アレくらいの大きさの樹を燃やした経験はある。

 

「何か恐ろしい事考えておる!! 王子! ここら一体が灰になる前にあやつをどうにかせい!!」

 

 褪せ人の不穏な考えを察したラタトスクが王子へと振り向く。出来る出来ないに関わらず目の前の男は実行に移す。そんな確信があった。

 

「……まぁ実際、ここで足を止めるわけにもいかないからな」

 

 王子もまた諦めるつもりなど毛頭なかった。ユグドラシルを放置すればディアスの思惑通り世界が滅ぶ。折角魔王を倒して勝ち取った平和を手放すつもりなどありはしなかった。

 

 王国の戦士達も、世界樹の面々も同様である。巨大な魔物が相手だからと、今更退くような者達は居ない。

 戸惑うアナベラに、カゴメが近寄ると口を開く。

 

「さぁ、貴方が言ったんですよ! ここからが頑張りどころだと!! 休むなんて許しませんからね!!」

 

「えっ、そんな事言ってな——」

 

「頑張れっ! 頑張れっ!! 頑張れっ!!!」

 

「うわー!!」

 

 背後でアナベラの悲鳴を聞きながら、褪せ人は静かに嘆息する。

 あの妖怪の前で諦めるような事を言うからそうなるのだ。とはいえ、打ちひしがれて後ろ向きな呟きを聞くよりは余程マシだった。

 

 ユグドラシルと相対する褪せ人達の頭上に影が差す。見上げれば、帝国の飛空船が世界樹の周りを旋回していた。

 

「アレが何なのかは後で聞く! 今は一旦態勢を立て直せ!」

 

 飛空船の上から軍師であるレオナの怒鳴り声が聞こえてくる。王子と褪せ人は互いに目配せすると、飛空船の中へと乗り込み、世界樹から一度離れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 飛空船に乗り、世界樹を離れた褪せ人達が巨大な竜と化したユグドラシルを見据える。

 世界樹から離れ、その全容が露わになるとその巨大さに圧倒される。

 

「アレが世界樹の災厄か。成程な、予言に謳われるのも頷ける」

 

 レオナが険しい表情で呟く。

 今はまだ動きを見せないユグドラシルだが、一度動き出せば人類に太刀打ちする事は困難だろう。

 

「だからこそ、今叩く必要がある」

 

「だが……どうやってだ? 帝国の支援砲撃にも限界はあるぞ」

 

 王子の言葉に、レオナの尤もな指摘が入る。動く前に叩くのは大いに賛成するところだが、いかんせんその大きさが規格外に過ぎた。生半可な攻撃では焼け石に水も良いところである。

 

「……恐らく、アレにも核になるものがあると思う。あの巨体に内部から魔力を循環させる心臓部分、それを叩けばユグドラシルは停止する……はずだ」

 

 王子とレオナの問答に、アナベラが口を挟む。彼女の語る言葉が事実ならば、希望として十分なものであった。

 レオナがアナベラへと視線を向ける。

 

「確証はあるのか?」

 

「無い。世界樹の精が魔物化するなんて前代未聞なんだ。可能性としては極めて高いが、結局のところ賭けになる」

 

 叡智の園の賢者であっても確証はない。彼女の持つ膨大な知識をもってしても、可能性として最も高いものを類推する事が限界であった。

 

「本当なら確たる証拠もないのにこんな事を言いたくはなかった。それで命を賭けられて、責任を取れるなんて思えないからね。だけど——」

 

 アナベラが視線を一瞬カゴメへと向け、すぐさま王子達の方へと戻す。

 

「——君達が諦めないのなら、僕も諦める訳にはいかない。僕は僕に出来る事を、最後までやり通してみせるよ」

 

「素晴らしいっ!! アタシは今感動しています!! 無限に頑張りましょうね!!」

 

「ちょ、いちいち興奮しないでくれ! 彼女はどうしたら解放してくれ、うわー!?」

 

 騒ぐアナベラに王子は微笑ましい視線を向け、やがてレオナへと向き直る。レオナもまた、静かに頷いた。

 

「今は時間がなさ過ぎる。核があると仮定し、候補地を抽出。ユグドラシルへと接近する」

 

「帝国は艦隊砲撃による支援。世界樹のグリフォンライダーを護衛に、王国が突撃する」

 

 方向性が定まり、急速に作戦が構築されていく。自ずと、己のやるべき事を見出した褪せ人も出撃に備えるべく立ち上がる。

 

「——おっ、やってるやってる。何とか最終決戦には間に合ったみたいだ」

 

 不意に響いた馴染みのない声に、褪せ人と、そして王子達が視線を向ける。視線を向けた先に、アルタとトラムが見知らぬ少女を連れて立っていた。

 

「何者だ」

 

「よくぞ聞いてくれましたー! 僕の名はラーワル、正義の味方だよ!」

 

 褪せ人の誰何に、少女が元気よく名乗りを上げる。要領を得ない返答に、褪せ人はアルタへと視線を向けた。

 

「ラーワルお姉様は私と同じく『お父様』に造られ、過去に千年戦争で人類に味方をした英傑です」

 

「事実よ。正義の化身ラーワル。王子なら聞いた事はあるんじゃないかしら?」

 

 アルタとトラムの補足に、一先ずは警戒を解く。少なくとも、彼女達の言葉から敵ではないらしい。ラーワルが褪せ人へと近寄ると、興味深げに覗き込んでくる。ところどころ人形の面影の残るアルタと違い、ラーワルはより人間に近い印象を受けた。

 

「ふーん、君が褪せ人かー。アルタの言う通りゴッツイね! それでそっちが王子?」

 

 褪せ人を見て何やら頷いた後、すぐさま王子の方へと視線を移す。そして、どこか懐かしむように目を細めると、無邪気に笑った。

 

「戦力、足りてないんでしょ? 正義の味方である僕が力を貸してあげよう!」

 

 自信満々に胸を張る少女。王子は一瞬戸惑いを示すも、やがて笑みを浮かべて口を開いた。

 

「心強いな。よろしく頼むよ」

 

「お前達はそれで……いや、今更だったな」

 

 レオナが何かを言いたげに口を開き、やがて溜息をつく。王国の良く言えば良い柔軟な、悪く言えば行き当たりばったりな対応に諦めがついたらしい。気を取り直したようにレオナが口を開く。

 

「大筋は固まった。後はユグドラシルに接近する方法だが……」

 

「その事なんだけどさ、心強い味方を連れてきてあげたよ!」

 

 レオナの言葉にラーワルが割って入る。訝しげな顔を浮かべるレオナ達の頭上に影が差した。

 漆黒の巨人。その姿は、褪せ人達の良く知るものであった。

 

「久しいな——ディアボロス」

 

 無機質なカメラが褪せ人に向けられる。その視線に、褪せ人は僅かに目を細めた。

 英雄騎ディアボロス。それこそが、ラーワルの連れてきた心強い味方であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。