今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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初の番外編。
時系列完全無視なので頭空っぽにして読んでください。


【番外編】クリスマスとはハロウィンである

 ——クリスマス

 

 年に一度、この世界で広く知られている冬の祭事である。

 細部は国によって異なるが、大筋は変わらない。

 クリスマスの夜、雪の国からサンタクロースがやってきて子供達にプレゼントが届けられる。大人達もまた家族や恋人といった大切な者達と特別な夜を過ごすのだという。

 

「……それを私に話してどうするつもりだ」

 

「単刀直入に言うと、お前にそのサンタクロースをやってもらおうと思っている」

 

 いつものように依頼があると言われ王城の執務室に向かってみれば、王子から唐突にそのような事を言われる。

 兜の奥で訝しげに見る褪せ人に、王子が苦笑いを浮かべて肩をすくめる。

 

「別に揶揄おうってわけじゃない。魔王が倒され、王国もすっかり復興している。今年は少し、民達の為にも王国主導で催しを始めようと思ってな」

 

 未だ天界の動きは不穏であり、世界の危機が去った訳ではない。しかし、事態は間違いなく好転していた。今までは復興優先で国庫に余裕がなく、細々と祝うしかなかったが、今年は大々的に王都でクリスマスイベントを考えているのだという。

 世界は平和に近付いているのだと、王国の民達を安心させる狙いもあった。

 

「戦いばかりでは息が詰まるし、民達も不安になる。偶には、こうして息抜きをしないとな」

 

「……それを否定するつもりはない」

 

 褪せ人としてもその方針に異論を挟むつもりはない。戦いが続く中、民の不安を解消しようというのは為政者として正しい行いだろう。解せないのは、態々そのサンタクロース役に己が抜擢されるという事。

 

「安心しろ。お前一人ではないし、あくまでもサンタクロースの真似事だ。一日だけ王都で子供達にお菓子を配って周ってくれれば良い」

 

「衣装は此方に」

 

 いつの間にか背後に控えていたセーラが徐に衣装を机の上に置く。赤い帽子と、これまた赤い服。準備が良すぎる。わざわざ己の為にあつらえたというのか。

 

「鎧の上から羽織れるようにサイズは大きめにしております」

 

「鎧を脱ぐと誰か分からないからな。お前としても、その方が良いだろう?」

 

 全く要らない気遣いだった。仕事の出来過ぎるというのも考えものである。

 

「報酬は色を付けるぞ。まぁ、いつもが正直安過ぎる気はしてるんだが」

 

「……菓子を配るだけで良いのだな」

 

「勿論だ。笑顔を振り撒けとかそういう事は求めん。お前からプレゼントを欲しがる子供はカッコいい鎧のお前から貰いたいだろうからな」

 

 必要以上に愛想良く振る舞えと言われれば辞退するところだが、単に手渡しするだけならば出来なくはない。

 褪せ人は机の上の衣装を手に取り懐に仕舞うと了承の意を示す。

 その様子に、王子は満足そうに頷いた。

 

「助かるよ。それと——例のものは持ってきてくれたか?」

 

「無論だ」

 

 頼み事を終え、王子は褪せ人を呼び付けたもう一つの目的について切り出す。褪せ人としては、そちらの方が本題であった。

 褪せ人は懐から小さな壺を取り出すと、机の上に置く。王子はその壺を己の方に引き寄せると、蓋を開けた。何とも言い難い臭いが部屋の中を漂う。

 

「あの……これは一体?」

 

「亀首の古漬けだ」

 

 臭いに顔を顰めながら覗き込むセーラに、褪せ人が端的に答える。中に入っているのは、薬液に漬け込まれた亀の首肉であった。サソリの肝と、この地には自生していない植物をすり潰した薬液に立派に育った亀の首肉を漬け込み、発酵させたものである。

 狭間の地の南方で滋味に富んだ食事であり、褪せ人が王子から頼まれ、丹精込めて作った逸品であった。

 

「前に酒の肴として食べたんだが……中々癖になる味でな。何より、精がつく」

 

 王国の錬金術師に見せれば、その効果の程は太鼓判を押すほどだった。一口齧れば即座にスタミナの回復を早めるそれは、多くの者達が欲しがるだろう。残念ながら素材がこの地で手に入らないものであるため、量産は現在見込めていないが、その効能に目を付けた王国ではひっそりと成分の研究が進められている。

 

「貴重品だ。あまりくだらぬ事に使うなよ」

 

「くだらなくなんかないさ。クリスマスは……戦争だからな」

 

 戦場に赴くような表情で呟く王子に、褪せ人は小さく溜息を吐く。クリスマスは大切な人と過ごす一日だという。ならば、大切な者の多いこの男にとってはまさしく戦場なのだろう。

 英雄色を好むというが、好み過ぎるのも考えものだと思いながら王城を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「——それで、サンタクロースをやる事になったと」

 

「やる事が他になかったのでな」

 

 事のあらましを聞き、僅かに呆れた様子のフーロンに褪せ人が答える。朝早くから何をやっているのかと褪せ人に尋ねてみれば、安請け合いにも程があった。

 

 今の褪せ人は鎧の上に赤い服を羽織り、兜の上に帽子を被っている。果たしてこれをサンタクロースだと言って、どれだけの者が納得するだろうか。

 

「トレントも良く似合ってるわね」

 

 アブグルントがトレントを撫でながら笑みを浮かべる。

 褪せ人がサンタなら、トレントはトナカイなのだろう。クリスマスらしく角や首周りを飾り立てられていた。

 このように装飾を施される事など今まで無かったが、トレントは嬉しそうだ。

 一通りの準備を終えた褪せ人が白い袋を担ぎ、トレントに跨る。

 

「うーん……サンタクロースというよりは……」

 

「人攫いみたいね」

 

 白い大きな袋を担いだ鎧の大男。帽子と上着のおかげで辛うじてサンタクロースの体裁を整えているが、略奪帰りの山賊だと言われた方がまだ納得がいった。

 

「……なるべく早く終わらせよう」

 

 言いたい放題の二人に思うところはあれど、依頼として請けたからには完遂しなければならない。

 トレントに跨ると、面白がってついてくる二人と共に、王都へと繰り出していった。

 

 

 

 

 

 結果としては、思いの外人攫いサンタクロースは人気であった。

 既に何人かのサンタ役の者達が王都でプレゼントを配り始める中、現れた褪せ人に最初こそどよめいた。

 彼をよく知る王国民の幾人かは空気を読まずに誰かを血に染めて来たのかと子供達の目を手で覆うような事もあったが、それがちゃんとしたサンタ役の一人なのだと分かれば、直ぐに人だかりが出来た。

 

「まぁ、普段近寄りがたいのがそんな格好してたらね」

 

 子供達を列に並ばせながらフーロンが笑う。

 本人が中々王都に帰って来ず、帰ってきてもどうにも近寄りがたい雰囲気を出している為に普段はそうと知れないが、何だかんだで王国民は彼に感謝しているのだ。

 

 クッキーの入った袋を子供達に無言で手渡していく。余りにも無愛想だが、子供達はあまり気にしていないようだ。

 

「あれ? 褪せ人様もサンタクロースをされてるんですか?」

 

 袋の中身も随分と軽くなってきたところで不意に背後から声を掛けられる。

 振り向けば、褪せ人と同様にサンタ衣装に身を包んだイリス、タラニア、カゴメ達の姿があった。

 

「……お前達もか」

 

「はい、今しがた配り終えたところです」

 

「アタシも手伝いましたよ! すっぱい木の実とか配りました!」

 

「あはは、まぁ子供の方が大分気を遣ってくれてたね」

 

 サンタクロース役は随分と手広く声を掛けたらしい。王都の子供達全員に配って回る事を考えれば、それも当然かも知れないが。

 

「サンタ衣装似合ってますか!? あったかいんですよねー!」

 

「……だろうな」

 

 その場でくるりと一回転してみせるカゴメに、褪せ人がそう返す。

 暖かい寒いの概念があるのが驚きだった。ならば普段の格好を見直すべきだと思ったが、それは言わぬが華だろう。

 

「ずっとそのままで良いんじゃないか」

 

「そ、そんなに!? えへへー」

 

 褪せ人の言葉にだらしなく笑みを浮かべるカゴメ。実際の意味は少し違うが、それでも似合っているのは間違いなかった。

 

「おや、皆さんお揃いでサンタクロースをやってたんですね」

 

 そうこうしているうちにまたも声を掛けられる。

 声の方へと振り向けば、そこに居たのはアスバールとヘリューズ達であった。亜神が揃って、どこかへ出歩いていたらしい。

 

「ええ、今日は人と会う約束があったので。ついでにクリスマスなので買い出しもしてきました」

 

「七面鳥ですよー。ケーキも買ってきましたからね」

 

「おー!」

 

「ふふ、褪せ人に良いお酒を買ってきたのでお酌してあげますね♪」

 

 今晩の食事は豪勢なものになるらしい。やはり、この地での食事は楽しみだ。実を言うと亀首漬けが余っているのでそれも折角なので食卓に並べてしまおうか。

 

「いや、あれはちょっと……珍味ではあるけどクリスマスに食べたいものではないかな」

 

 褪せ人の提案にタラニアがやんわりと断りを入れる。独特の味は、あれはあれで癖になるものだが、クリスマスに食べたいかと聞かれれば否であった。

 

「それで、人と会う約束って?」

 

「ああ、それはですね……」

 

 話題を逸らそうと問い掛けたタラニアに、アスバールは自身の背後にいる少女へと視線を移す。

 

「えっと、お久しぶりです。コレットです」

 

 おずおずと前に出てきた少女とは、以前からの顔見知りであった。

 叡智の園から派遣されてきた彼女はこの世界の神話を専門に取り扱っている学士であり、彼女の役割は神話や伝説、御伽噺といったものを採録し、後世へと伝える事が使命なのだという。

 

 それ故に、アスバールやへリューズ、アルコゥ達に話を聞くと言う事で何度か褪せ人の邸宅を訪れており、その関係で多少の縁はあった。

 

「アスバール様との予定が中々合わず、本日ならとの事だったので少しお話させて頂いていたんです」

 

「私達としても後世に神としての伝承が残るのはありがたい事ですからね。クリスマスなのであまり時間は取れませんでしたが」

 

「とんでもない! こうして亜神様ご本人とお話出来る機会があるだけで十分ですよ!」

 

 アスバールの言葉にコレットが恐縮したように返す。神話の本人から直接話を聞けるなどまずあり得ないだろう。彼女にとって、王国は天国のような場所であった。だが、それ故に彼女の中のイメージが崩れる事も多々あるのだが。

 

 アルコゥは少し酷かった。彼女が話を聞きにきた事に気をよくしたのか最初こそ英傑らしいエピソードであったが、途中からは『最近の若い竜人達は……』だの『龍よりも竜の方が強くて偉い!』などと雲行きが怪しくなり始めた。

 このまま適当に流せれば良いのだが、気付かれれば『おい、聞いているのか!? これだから最近の若い人族は……』などとくどくど説教が入るのである。

 憔悴したコレットが去り際に『何か面倒臭いお爺ちゃんみたいでした……』と呟いていたのは記憶に新しい。

 

「そういえば、明日は王都でクリスマスパーティーがあるんですよね」

 

「オーガスタとデルフィーナが直々に料理を振る舞うらしいよ。楽しみだなぁ」

 

「さっき会場も設営準備されてましたね」

 

 祝祭は今日で終わりではない。明日は明日で、王国主催のクリスマスパーティーが大々的に開かれるのだ。

 当然、褪せ人達も招かれている。あまり参加する気は無かったが、堅苦しいものではないからと周囲に押し切られる形で出席する事になっている。

 あまり乗り気ではないのを察したのか、イリスが褪せ人に微笑みかける。

 

「褪せ人様もクリスマスくらいは楽しんで良いんですよ?」

 

「そうだよ。今日みたいに平和な一日を楽しんだって——」

 

「——大変だー!! パーティー会場で暴徒化した村人が暴れてるぞー!!」

 

 タラニアが言い終わるよりも先に、その平和な一日は崩れ落ちた。叫び声と共に、何かが壊れるような音が響き渡る。

 声が聞こえたのは明日クリスマスパーティーが行われる予定の王都の広場。フーロンがそちらの方を見遣る。混乱が徐々に広がっているのか、あちこちでどよめきが聞こえてくる。

 

「……何かあったみたいですね」

 

「行きましょう! 皆が頑張ってるクリスマスパーティーを無茶苦茶になんてさせませんよ!」

 

 そう言って飛び出すカゴメを目で追いながら、褪せ人達も会場の方へと走り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 褪せ人達が向かったパーティー会場。そこでは混沌とした光景が広がっていた。

 

「な、何ですかこれ!? マスクを被った王国の人達が練り歩いてますよ!?」

 

 コレットが叫ぶ。広場では、怪しげなマスクを被った王国民達が会場で大暴れしていた。

 

「ヒャッハー! トリック・オア・右フック! トリック・オア・右フックゥ!」

 

 パーティー会場の一角でマスクを被った王国民が別の王国民へと殴りかかる。

 

「キエェェー! トリック・オア・ローキック! トリック・オア・ローキックゥ!」

 

 また別の場所では、執拗にローキックをかますマスクの王国民の姿。

 

「な、何ですかこれは……パーティー会場が無茶苦茶に!」

 

 アスバールが悲鳴を上げる。

 赤と白に彩られていたクリスマスの飾り付けが破壊され、代わりにあちこちに目と口をくり抜かれたカボチャ達が置かれていた。白と赤を基調としていたクリスマスパーティー会場は、黒とオレンジの、おどろおどろしくもコミカルな飾り付けへと変貌していた。

 それを見たコレットがまたも叫ぶ。

 

「何でクリスマス会場がハロウィン会場になってるんですか!?」

 

「あぁ! 皆さん丁度良いところに!」

 

 コレットの叫びに気が付いたのか、政務官のアンナが駆け寄ってきた。

 確か、彼女は今回のパーティーの準備を担当していたはず。褪せ人がアンナへと問い掛ける。

 

「何があった」

 

「それが……突然チェーンソーを振り回す魔物が現れて洗脳した王国民と共にクリスマス会場をハロウィン会場に……!」

 

「何があった……」

 

 言っている意味がまるで分からない。さしもの褪せ人も困惑する他なかった。

 

「とにかく、街の人達を落ち着かせて会場を片付けるしかありませんね……」

 

 へリューズがそう言いながら杖を取り出す。何が起きているのかは分からないが、暴れている民衆達を鎮静化させる必要がある事は分かった。

 褪せ人も暴れる村人を取り押さえるべく会場の中心へ歩みを進める。

 

「痛、ちょっやめ……上等だコラァァァァ!! 今日はクリスマスなんだよ!! テメェらの服を血で染めてサンタと同じにしてやるぜぇぇぇ!!」

 

 執拗にローキックを喰らっていた王国民が突如として叫び始める。そして、猛然と反撃を開始した。そんな王国民の一人を褪せ人が指差した。

 

「あれは」

 

「あれは洗脳されてません。ごく一般的な模範的王国民です」

 

「そうか……」

 

 どうやら、褪せ人は王国民の逞しさを舐めていたらしい。とてつもないバイタリティである。恐らく彼らなら、狭間の地でも元気にやっていけるだろう。

 

 他の洗脳されている王国民のもとへと向かう褪せ人。だが、そんな褪せ人の前に立ち塞がるように巨大な影が差す。

 

「メリークリスマス!! ハロウィンの時間だああああ!!!!」

 

 マスクを被り、チェーンソーを振り回すつぎはぎの大男。アンナの言っていた魔物とは間違いなくこれだった。

 

「俺はハロウィンの力でパワーアップしたアンデッド! チェインソン男とでも呼んでくれよなぁ!!」

 

「何だこいつ!?」

 

 コレットの叫びはその場の全員の言葉を代弁していた。だが、チェインソン男はそんなコレットの突っ込みを無視して続ける。

 

「悪いが祝祭は暴力の祭典にさせて貰うぜぇぇぇ!!」

 

「そんな事させませんよ! ていうか今日はクリスマスなんですけど!? 来るのが一月以上遅いんですよぉ!!」

 

 コレットの指摘は尤もだった。ハロウィンの力でパワーアップしたらしいが、そもそも今日はハロウィンではなくクリスマスである。

 そんなコレットの指摘に、チェインソン男はエンジンをふかしながら言葉を返す。

 

「分かってねぇなぁ!! いいか、俺が衝撃の真実を教えてやるぜっ!!」

 

 そう言うと、チェインソン男は至って真面目なトーンで真実を言い放った。

 

 ——クリスマスとは、ハロウィンである。

 

「……!」

 

「いや、褪せ人くん? 違うからね? そんな衝撃の真実を知ったみたいな反応してるけどまるっきり嘘だからね?」

 

 まるで世界の根幹を揺るがすような事実を耳にしたとばかりに驚愕する褪せ人にタラニアが訂正を入れる。異界の住人故に、大真面目なトーンで言われると騙されてしまうのだ。

 

「このままの勢いで正月からサマーまで全部ハロウィンにしてやるからなぁぁぁ!!」

 

 チェーンソーをふかしながら訳の分からない事を叫ぶチェインソン男の前にカゴメが割って入る。

 

「そんな事させませんよ! 折角頑張って飾り付けをしてるのに水を差して……ぶっ飛ばしますよ!!」

 

「チェーンソッソッソォ!! いや……それに関してはごめんて……騒動が終わったらちゃんと片付けるからさ……」

 

「意外と物分かり良いですねコイツ」

 

 今までに居ないタイプの魔物に周囲の者達は困惑する。それはそれとしてこれ以上暴れるというのならば討伐はしないといけないのだが。

 

「——かかったな! 喰らえデスハロウィン洗脳ビィィィム!!」

 

「うぇ!? あばばばばばば!!」

 

「カゴメさん!?」

 

 微妙に緩んだ空気の隙を突いたチェインソン男が額から光線を放つ。その光線は完全に油断していたカゴメに直撃した。

 心配そうに駆け寄る者達の前で、光線を受けたカゴメはどこからかマスクを取り出し、それを被ると両手をあげて叫び始める。

 

「ヒャッハー! トリック・オア・ガンバルゾー! トリック・オア・ガンバルゾー!」

 

「うわー!? 一番洗脳しちゃいけないのを洗脳したー!?」

 

 タラニアの叫びに褪せ人も心から同意した。よりにもよって頑張り妖怪を洗脳するとは、命知らずにも程がある。

 

「チェーンソッソッソォ!! ……これ俺も巻き込まれる感じ?」

 

「ガンバルゾー! ガンバルゾー!」

 

 頑張り妖怪に敵も味方も区別はない。ただ頑張りの意思のもとに全ての者へ頑張りを強制させるのだ。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

「ああもうめちゃくちゃだよ! とんだクリスマスですよチクショウ!!」

 

 主犯のはずなのに逃げ回るチェインソン男。あまりの混沌具合にヤケになったコレットがまたしても叫ぶ。何が何やら分からないままに褪せ人達は季節外れのハロウィンカーニバルに参加する事となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、うわぁぁぁぁ!! 死んだぜっ!!!!」

 

「しゃあっ! チェインソン男、爆散!!」

 

 爆発四散したチェインソン男の前でコレットがガッツポーズ。ふざけた相手だったが、思いの外手強かった。

 洗脳された村人も思いの外アグレッシブで、傷付けるわけにもいかず苦戦したのも大きい。

 途中で乱入してきたゴーストダブルヘッドメカゾンビシャークも恐ろしい強さであった。

 

 最終的に頑張りパワーとハロウィンの力に飲まれ暴走し始めたチェインソン男のチェーンソーと、褪せ人のギーザの車輪による回転力バトルによって見事褪せ人が勝利をもぎ取ったのだ。

 

「何か……凄く疲れました。喉が痛い」

 

「……だろうな」

 

 常軌を逸したチェインソン男の行動にいちいち突っ込みを入れていたコレットが呟く。あれだけ叫んでいればそうもなろう。ある意味で今回のMVPであった。

 

「ガンバルゾー! ガンバ……あれ? アタシは一体……?」

 

「ヒャッハー! トリック・オア・アッパー……ん? 何やってたんだ俺達は……?」

 

「ハロウィンなんてダッセーよな! 帰ってクリスマスやろうぜ!」

 

 どうやらチェインソン男を倒した事で街の者達も正気を取り戻したらしい。カゴメもマスクを外してキョトンとした表情を浮かべている。

 

「うーん、何か迷惑かけたみたいなので片付け頑張りますね!」

 

「折角のクリスマスパーティーなんだ。頑張って間に合わせないと」

 

「キエェェー! トリック・オア・お片付け!」

 

「この人本当に洗脳解けてます?」

 

 何はともあれ暴動は鎮圧された。その場にいた全員がいそいそと破壊された会場を片付け始める。

 

「俺も直すの手伝うぜっ!!」

 

 当然チェインソン男も一緒だ。

 

「え? 何で?」

 

 疑問符を浮かべるコレットに答える者は居ない。その後、他の駆け付けた者達と共に会場はすっかり元通りになり、クリスマスパーティーは無事楽しむ事が出来た。

 

「クリスマスというのは、存外に疲れるのだな」

 

「ふふ、まあ賑やかなのは良い事ですよ♪」

 

 褪せ人の呟きにアスバールが微笑みかける。

 こうして、王国のクリスマスは守られた。静かに降り積もる雪の中、賑やかな笑い声が響き渡る。

 

「来年も、こうして一緒に過ごせたら良いですね」

 

「……そうだな」

 

 隣に寄り添ったアスバールの言葉に、褪せ人も頷く。

 未だ戦いの影が消えぬ中、少なくともこの夜はどこまでも穏やかであった。

 

 




最初はヒロインとイチャコラさせるために書いてたんですが……何なんでしょうねこれ。
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